テセウスの魔法少女~あの娘のため世界のため、あの手この手で死を受け入れたがままならない~(旧:魔法少女『海蝕』) 作:描代れな
莉緒の目が見開く。
声のした方へ向くと──走ればすぐ、歩けば遠い距離に──いた。
「莉緒っ……莉緒!! 」
最初に目に付く、山桜の膝まである長い髪。しかしそれは荒んでおり、手入れを怠ってい
るのが遠目にもわかる。くるりと愛くるしさを残す目付きは、今は鋭い印象の方が強く、桜茶の煌めく瞳の目元には、隈が僅かに浮かんでいた。
身長は私と同じ170センチ程。トップスは私と同じであるが、胸を潰している私と違い、制服を下から盛り上げる胸は、男好きのするものであろう。その胸には莉緒と同じバッジが5つ付いている。パンツではなく、黒い下地に、幾本かの赤い稜線が彩られたテールスカートが海風に靡いている。
────お前が、星薙愛惟か。
会いたかった存在──星薙愛惟が、手を伸ばしてすぐに抱き着けるように立っていた。
ぱんっぱんっぱん。
「感動の再会じゃないか、さぁお目当ての彼女だよ」
両手を叩きながら深愛は勧める。背中を軽く叩くように押され、1歩、前のめりに踏み出す。
目だけ、荒峰深愛へと向ける。
「莉緒っ!!」
莉緒はゆっくり目を閉じ、返す。
「──ああ」
「っ────!!!!」
愛惟が感極まった表情をしながら莉緒へと駆けだした。──駆けだそうとした。
──こちらへ一歩踏み出した瞬間。
──右手を前に出し水の弾丸──ウォーターバレットを愛惟に放ち。
──左手を深愛へと向け水の球体──フロディオンを発動し閉じ込める。
「──え」「おや?」
困惑の声が2方向から響く。
──なるほど、そういうことか。
──ならば好都合だ。
閉じていた目を開く莉緒。
────最後に伝えたかったよ、愛惟。
止まっていた時が動き出す。
愛惟の顔すれすれに水の弾丸が通り過ぎ、背後の木へと着弾。倒れ、衝撃音が響く。
「勘違いするな、星薙愛惟。確かに私はお前に会うためにこの学園へ来た。だがな、感動の再会がしたいんじゃないんだ」
──お前を殺すためだよ。
呆然とした、驚愕の表情の愛惟。
「なん……え?」
「お前さえ消えてくれれば、この身体は私の物になるからな」
「何を……言って……」
「──あぁ?」
さきほどと豹変した、馬鹿にしたような声が莉緒から発せられる。
手を顎に当て、悩んだそぶりを僅かに行いながら。
「これの情報だと察しが良いはずなんだけどなぁ、言わなきゃわかんねぇか?
──加賀美莉緒は死んだんだよ。
お前、目の前で見たんだろ?もしかして」
────どうでも良くて忘れちゃったかぁあ?
不快な、間延びした語尾で告げる。
愛惟の驚愕した表情に、怒りの感情が交わる。
心底おかしく、まるで子供のように笑いながら、しかし過分に邪悪が混じりながら莉緒は続ける。
「ほんっっっと馬鹿だよなぁ。私をどうかするつもりだったんだろうが、木っ端女一人で何ができるってんだ」
──待ち続けた少女は拳を固め。
「結果どうだ? ──無駄死にだ。一人で逃げれば良いのにたかが小娘共逃がすために女として死に」
──再度一歩、力強く踏み出すが。
「愛したものの記憶を矮小な魔力に換えて再度立ち向かい──」
────次の一歩を止めた。
「え?」
驚愕の再浮上。
「──ああそうか、これは……お前には答えだったな」
「子宮、だけじゃ……」
「疑問に思わなかったのか? 魔力が底尽いてたやつが、私の身体の一部を破壊できるわけないだろ。あれはな────お前との記憶を犠牲にしたんだよ。」
私の身体の一部。当事者しかわかりえない情報であり、愛惟にとっては死刑宣告に等しい。
──それが誰か、目の前の愛しい存在が、憎悪する存在だと想起するには、愛惟にとって簡単なことだった。
莉緒の姿をしたそれは、指を銃の形にして頭を指し、舌を突き出し、けして加賀美莉緒がしないような人を貶す表情で──
「もしこれがお前の前に現れたとしても──お前について何一つ、覚えてることなんてねぇんだよ」
驚愕、怒り、悲しみ、それらが混ざった、絶望の表情へと変わった愛惟。
その顔を見て莉緒の姿をした何かは続ける。
「なぁあ? 馬鹿だろこいつ。一度離脱したとき逃げれば良かったんだ。それを馬鹿な女どものために、わざわざ愛する人の記憶を捨て去ってまでして再度現れ──私に喰われた。悪足?きとはこのことだよな」
心底おかしいように、腹を抱え、手を大きくたたく莉緒。
「──じゃあ、じゃあ……っっっ!!!!」
「学習しろよ、見た目で判断するのはさぁ。ここまで言えば私が誰かわかるだろ?」
手を広げ、とびっきりの笑顔で、名を告げる。
「──『尽閼』ナ=ウィザ。お前ら風に言うならば、な。今目の前にいるのは、加賀美莉緒じゃない、君の愛する人が消えた原因だ」
再度、愛惟の表情に怒りが灯ったようだ。
──止まった足は再々度進め、駆けた。
「この身体、魂は馬鹿だったが見てくれは悪くない。加えて面白い能力と相性のいい魔法も持っている。だが面倒なことにあれの魂の残滓がやっかいでな。失ったはずの星薙愛惟への記憶、執着が残っているのか私の力を十全に振るえ──」
──刹那、莉緒へ肉薄し、精製した人1人分程度の大きさの、光輝く大鎌を頭上から振り下ろした。
水でできたリング状の結界魔法──ヴェンダルでそれを尽閼は受ける。
「──最後まで聞けよ」
「だまれぇええ!!!!」
少女の身体をした魔獣と、少女を愛した少女がぶつかった。