テセウスの魔法少女~あの娘のため世界のため、あの手この手で死を受け入れたがままならない~(旧:魔法少女『海蝕』)   作:描代れな

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一時の安堵

 ────これでもいい、だが足りない、これではまだ。

 

 尽閼をが痛みに狼狽えていると、今度は上段から再び見えない鎌を振り下ろそうとしている愛惟がいた。

「戻ってきて莉緒!!!!」

 涙を溜め、叫ぶ。

 

 ────尽閼に為すすべなく敗れたあのとき、愛惟の世界は一変した。

 

 ──隣にいつも一緒にいてくれた存在は、死んだと教えられた。

 ふざけるなと、どうして莉緒が死ななければならないと、思わずにはいられなかった。

 本来の魔法少女ならば死ぬことはまずあり得ない。魔法少女は主に支援が主な業務だからだ。しかし愛惟達には通常より優れた魔力を持っていた。だからS級の魔法少女部隊であった。そのため魔獣などと直接戦闘を行うことも多々あった。でも、いつも全員無事であった。

 あの時もそうだ。いつもと同じだと思っていた。違った。

 突如現れた規格外の化け物。それに奪われた愛しい人。

 

 ──自分の無力さを嘆いた。

 莉緒はいつも愛惟達アルカディアのことを思って行動してくれた。愛惟が無茶したときはいつも助けてくれた。だからこそあの時、今度は自分の番だと、卑怯ながら莉緒に想いを告げて、尽閼に挑んだ。

 何もできなかった。魔法は効かず、とっておきも意味をなさず、ただ蹂躙された。

 

 何がエースだ。何が魔法少女最強だ。

 好きな人1人すら助けられないじゃないか。

 

 ──憎んだ。 

 有害な魔獣は処置しなければ多くの人が悲しむことになる。だからこそ、魔獣で困っている人を助けることができたときは嬉しかった。尽閼と会うまでは。

 莉緒を失って初めての任務で魔獣と出会ったとき、愛惟は我を忘れて魔獣を滅ぼし尽くした。初めて湧き上がった感情、憎悪。

 自分に力が無かったから莉緒を助けられなかった。魔獣がいたから莉緒が死んだ。

 アルカディアのメンバーが止めても止まらなかった。最後の魔獣を滅ぼしたときにやっと、我に返った。魔獣を殲滅して、新しい目標が芽生えた。

 魔獣を全て滅ぼす。尽閼をこの手で滅ぼす。

 

 それ以後我武者羅に目標を突き詰めた。魔法を覚えては魔獣を滅ぼし、また魔法を覚えては魔獣を滅ぼす。

 その一つの魔法がこれ。──光の魔喰らい。

 これは魔力を持つもの全てに絶対干渉する魔法であり、禁忌の1つだ。

 魔力の塊である魔獣に対して必殺と言っても過言ではない。これと愛惟はとっておきを組み合わせて、万を超える魔獣を1人で滅ぼした。

 いつか尽閼を滅ぼし、莉緒の仇を取るために。

 

 ────そして予期せず現れた。愛しい人の姿で。

 

 ──今の莉緒は尽閼に乗っ取られているだけ。

 最初見たとき、莉緒が帰ってきたと思った。あの光は間違いなく莉緒だったから。中に別の光というよりは、闇のような何かがあったが、そんなものはどうでもいい。

 莉緒が帰ってきてくれた──それだけでよかった、そうではなかった。

 莉緒の口から自分は尽閼だと告げられ、あの闇が尽閼だとわかった。

 そこから行動に移すのは早かった。

 最初に自分の魔法が異能込みでも当たるか試すために幾つか魔法を放った。当たりさえすれば光の魔喰らいであの闇を取り除くことができるからだ。

 とっておきと組み合わせようとも考えたた。だがそれでは、莉緒も一緒に死んでしまう危険があった。だから光の魔喰らいのみを使用した。

 その一撃を、莉緒の中の闇──尽閼へ向けて放った。

 手応えがあった、闇が先ほどよりかなり弱まっていた。──後一撃でも入れれば完全に排除できる。

瞬時にそう考えると再度構えを取り──二撃目の振り下ろしが尽閼を切り裂いた。

「く……そがっ」

 苦悶の表情を浮かべ、膝をつく尽閼。

 そのまま肩を押さえ尽閼の上に馬乗りになる愛惟。 

 愛惟は涙を流しながら肩を押さえつけて叫ぶ。

「莉緒目を覚まして!!!!」

 2回の光の魔喰らいを受け、尽閼の闇は弱くなっている。今なら莉緒が戻ってくる──そう信じて。

 

「だから無駄っ……ぐっ!!!!」

 尽閼の苦悶の表情に驚愕が再度加わる。

「────んなことありえるか!!!!死んだだろうがお前は!!!!」

その困惑を聞き、愛惟は続ける。

「まさか……!!莉緒戻ってきて!!!!そんなやつに支配されないで!!!!きゃっ……」

 力任せに愛惟を振り払い、のたうち回る尽閼。

 頭を両手で押さえつけ、苦しむ叫ぶ声が響き渡る。

「が”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁあああああ」

 ひとしきり叫び終えると急に大人しくなる尽閼。

「莉緒っ!!──莉緒!!!!」

 涙をとめどなく流し呼び続ける愛惟。

 ──ゆっくりと立ちが上がり顏を上げる尽閼。

 そこには穏やかな表情を浮かべている──莉緒がいた。

「────愛惟」

「────莉緒っ!!!!」

 ハスキーで落ち着いた声音は、いつも愛惟を安心させてくれた莉緒のものであった。

 ──また、会えた。

 二度と会うことはできないとわかっていた。しかしいつかまた会えると、そう願って仕方がなかった。

 今度こそ莉緒を抱きしめることができると、駆け出す。

 ──話したいことはいっぱいある。

 ──聞きたいこともいっぱい、いや1つだけある。

 あとわずかで抱きしめることができる──寸前で。

 愛惟を迎え入れようとして、こちらに肩幅ぐらいに腕を下方から広げ、莉緒は──

 

 ────顔をゆがめた。

 

「なーんてな」

「!?!?──」

 水の一撃が愛惟に直撃し、吹き飛ぶ。

 地面を二転三転し、うつ伏せのまま地に伏す。光の魔喰らいの煌めきが消え去る。

「あー痛った、バカスカ斬りやがって。」

 その顔は何も変わっていない。心底面倒くさそうな──尽閼の表情であった。

「自分の声が最後には想い人に届く。──んな都合の良いこと、ある訳ねぇだろ」

 地べたに伏せる愛惟に心底馬鹿にしたような声で──。

「何度でも現実を突き付けてやるよ。──加賀美莉緒は死んだんだよ」

 落ちていた大鎌を拾い、肩にかけながら歩を、吹き飛んだ愛惟に進める。

 

「ちょっとあれの声を真似してやったら、まんまと引っかかりやがる」

 

 ──愛惟は土を掴みながら拳を握る。

 

「もう十分この身体で遊んでやったろ?」

 

 ──ゆっくりと、だが確かに自分の力で立ち上がる。

 

「楽しませてやったろ?」

 

 ──前のめりに、足を肩幅に広げ、顔は俯いており、尽閼は窺えない。

 

「いい加減あれと同じところに送ってやるから、大人しく──」

 ──死ねよ星薙愛惟。

 愛惟から魔力が淡く光り輝きながら立ち上り、周囲に突風を吹き荒らす。高濃度の魔力の高ぶりは刻一刻と高まっていく。

 

 ────それを前に、莉緒は、悲しそうな微笑みを浮かべる。

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