冴えないヒロイン達が幸せになり冴えたヒロイン達になるハナシ 作:ゆーーーー
俺の名は安芸倫也。私立豊ヶ崎学園に通う高校生だ。
普通の学園生活を送っていると言いたいところだか普通では無いのかもしれない。
俺は恋をしているのだ。勿論高校生になってリア充ライフを満喫しているという訳では無い。
俺の彼女はいつだって2次元なのだから。
今ハマっているのは恋するメトロノームというラノベ。
俺が開設ブログではハンドルネームTAKIとして恋するメトロノームの布教に1役買っているだとか。
だから尊敬する恋するメトロノームの作者霞詩子先生の握手会では豊ヶ崎学園の2大ヒロインである霞ヶ丘詩羽先輩が作者だったと知った時は驚いた。
しかもラノベ作家本人に認知されてたのだから更に驚きだ。
「その節はありがとうございます。」
とお礼まで言われたのだから驚きだ。
そうして握手会が終わったのだから驚きだ。列の最前列に並んでいて握手をしたのが最初だったのが幸いしたのか握手をした際に1枚のメモを渡されたのが今尚胸が高まる原因だろう。
そのメモにはラインIDが書かれていたのだから。
☆☆☆
気分を落ち着けようと散歩に出た。
尊敬する霞詩子先生から。1もなく飛びつきたい。
でも俺はあくまで1ファンに過ぎない。そんな俺が個人的に連絡を取っていい物か。非常に悩んでいる。
落ち着けよ。俺。俺はオタクの鑑であるはずだ。
発売してすぐに買った恋するメトロノームに感動して何周もした後ブログを開設。
ハンドルネームTAKIの名で恋するメトロノームを解説・宣伝。
学校の図書室にも担当の先生の所に何度も通い特別に恋するメトロノームを置かせてもらうこともできた。
そうした消費型オタクの鏡なのである。決して下心があってお近づきになりたいと思った訳では無い。
でも連絡先をくれたのは事実なのだ。果たしてオタクとしてはどう立ち回るのが正解なのだろう。
そう物思いに耽りながら探偵坂と呼んでいる探偵社を起点に登り坂になっているその坂の上から帽子が転がってきた。
白いベレー帽?それを拾い上げると坂の上から帽子を追いかけてきたらしい女の子がやってきたので拾った帽子を返すと礼を言い立ち去って行った。
☆☆☆
その後も物思いに耽りながら少し遠回りをして家へ帰ってきた俺は意を決してラインを開きIDを打ち込んだ。
筆とペンのアイコンだ。如何にも作家らしいアイコンだが見慣れた物だ。
それは恋するメトロノームにいつも描かれている霞詩子先生のアイコンだった。
俺は勢いそのままにラインに送る文章を打ち込んで行った。
☆
初めまして。
握手会の際はラインIDを教えて頂きありがとうございます。
尊敬する霞詩子先生と個人的にやり取りをさせて頂けるようになるのは嬉しい限りです。
ところで、話は握手会の話になりますが。
お礼をされたと思うのですが何に対してのお礼だったのでしょうか?
その事だけが引っかかっています。
教えて頂ければ幸いです。
これからも霞詩子先生の執筆活動が上手く行く事を心より願っております。
☆
書けた。送信。
オタクとして、ファンとして、間違いのないよう文章を書けたハズだ。
俺は満足して今期のアニメをチェックしながら本日のブログ更新を行った。
☆☆☆
「どうしよう。町田さん。ラインの返信が返ってきた。」
私は霞ヶ丘詩羽。私立豊ヶ崎学園に通う一方作者として恋するメトロノームの執筆をしている。
今はその担当編集の町田苑子さんと打ち合わせ中である。
「その前にしーちゃん。スマホはマナーモードにしてしまおうか。打ち合わせに集中して。」
「はいすいません。町田さん。打ち合わせの続きをしましょう。」
棒読みだったが素早く謝り打ち合わせに戻った。心はここに在らず。
握手会で連絡先を交換したTAKIこと後輩の安芸倫也君にあった訳だが。
「それじゃ次巻のプロット書けたら送ってね。それを元にまた次の打ち合わせをしましょう。」
「分かりました。できたら送ります。」
と、打ち合わせ終わりの事務的なやり取りを終えると飲みかけの冷めた紅茶を一口し再び安芸倫也君から返ってきた最初のメッセージになんと返そうか考える。
「例のTAKI君?握手会の時ファンに連絡先を渡したいって相談された時は驚いたわ〜。」
と、ニヤニヤしながら町田さんは話しかけてくる。
じっと町田さんを見ると、
「TAKI君、って実在するのね。最初はあのサイトを見つけた時“霞詩子がステマしてる”と編集部が騒ぎになったもの。」
とニヤニヤしながらまた安芸倫也君のブログの話をしてくる。もう何度もその話は聞いたというのに。
「でもそれは解決したんでしょう?何度も聞いたわ。」
ニヤニヤしながら相変わらず私を見ていた町田さんは悪戯っ子のような表情に変えた。
「そうだ、今度TAKI君を編集部に連れていらっしゃい。」
「なんで!?突然安芸倫也君を編集部に!? 」
私は突然の町田さんの提案に驚きを隠せず飲もうとした紅茶を吹き出しそうになった。
「だって〜。TAKI君のブログ、有耶無耶になっただけで本当の意味での解決は編集部ではしてないのよ?彼が編集部に来ていち熱心なファンのブログと分かれば解決よね?」
「そんな、突然…」
私は安芸倫也君の危機かと慌てて反論しようとするとそれを遮り席を立つ町田さん。
「それじゃ、彼へのアポが取れたら連絡頂戴、しーちゃん。宜しくね。」
と去り際に言うと町田さんは伝票を持って打ち合わせを行ってレジへ。
会計を終えると意味ありげな笑顔を浮かべ手を振り打ち合わせを行った喫茶店から立ち去ってしまった。
☆
私が安芸倫也君のオタ活を邪魔する訳にはいかない。
きっと編集部はあのサイトの閉鎖を勧告する為に彼を編集部に呼び出しているに違いない。
ラノベ作家としての私を見出してくれた町田さんは編集部において私の恩人ではあるが。
最初に個人的にブログを開設してくれて私の作品を広めてくれた安芸倫也君は私にとって1番の恩人だった。
発売当初は売れ行きが良くなかったが彼のブログのお陰で私の本は売れ行きが良くなり続刊も決まった。
お陰様で今も恋するメトロノームは連載する事が出来ている。
今は更なる続刊を出す為に執筆中だ。
そんな私の作品の執筆の原動力になっている彼のオタ活を私が原因で止めていいはずはない。
だから編集部とのアポを取るか迷っていた。
今は昼休み、私は1年A組の前で立ち往生していた。
事が事だけにラインでは聞けない、と思い勢いそのまま彼の教室の前に来たはいいが何と話していいのか、話していいのか迷っていた。
☆☆☆
「なぁ、今教室の前に二大女神の1人、霞ヶ丘先輩がいるぞ!お前も見に行かないか!?」
クラスメイトの上郷 喜彦が興奮気味に話しかけてくる。
4月にたまたま隣の席だった上郷に話しかけ恋するメトロノームを布教して以来俺のオタクトークを薦めるオタクとしての直弟子である。
「どうした?上郷。やけに興奮気味じゃないか。」
実はオタクとしては育てているが最初に薦めた恋するメトロノームの作者が霞詩子がこの学校の二大女神の1人、霞ヶ丘詩羽であるという事は上郷には伝えていない。
俺自身もこの前の握手会で初めて認知されているのを知ったばかりだったし霞ヶ丘詩羽先輩が霞詩子だと知ったばかりだ。
「二大女神という噂は本当だな。近くで見るとより一層美しい事が伝わったよ。」
今尚興奮気味の上郷は言葉を繋げる。
その時だ。扉をノックしながら恐る恐る霞ヶ丘先輩が教室に入ってきた。
「安芸君はいらっしゃいますか?」
聞こえるか、聞こえないかの声で霞ヶ丘先輩は言いながら教室を見回すと俺を見つけて急いで駆け寄ってきた。
「安芸君、話があるから放課後に校門前で待っててくれる?」
咄嗟の事に動揺した俺は理解に遅れたがすぐに返事をする。
「分かりました。」
なんとか返事を返すと直ぐに霞ヶ丘先輩は踵を返しながら、
「それじゃ。」
と言い教室を去っていった。
しばらく呆然としていた上郷が俺へ詰め寄る。
「おい!オタクなお前が何故二大女神が1人と放課後の約束をしている!?」
至極当然の反応である。俺は学校生活始まってすぐにオタ活資金の為、校則で禁止されているアルバイトをする為に担任の元へ通ったり、学園祭でアニメ上映する為視聴覚室を借りるために職員室に通った為学校では悪目立ちしてはいるが典型的なオタクな俺に浮いた話などあるはずが無い。
それが今日突然学校の二大女神と噂される1人の霞ヶ丘詩羽先輩と放課後の約束。
入学して以来の友達の上郷と言えど驚きを隠せなかったのだろう。
彼女が実はラノベ作家で実は俺達と同じ穴の狢である事を伝えれば簡単だったが俺の原因で霞ヶ丘先輩の余計な噂を立てられるのは避けたい。
さて、どうするか。
「まぁ、アレだ。真面目にバイトを頑張る俺にも春が来た、ってとこかな?」
「なんだよそれ。言い逃れしたつもりか?抜け駆けしやがって。」
冗談めかして答えると上郷がしっかり落ち込んでいる。
「霞ヶ丘先輩がお前に振り向くというなら二大女神のもう1人、柏木エリを俺に紹介してくれ。」
二大女神の柏木エリは俺の幼馴染だ。昔色々とあって小学3年の時に仲違いして以来話してはいなかった。
上郷にオタ活を推し薦める上でこのことを話したのだった。だから無闇にオタクだと公言すると傷になることもあると。
「お前なぁ。前に話したろ。俺とえりりは…」
「それだよ倫也。」
ビシッと指さしてきた上郷。
「どれだよ上郷。」
それに対して何がどれか分からず質問する俺。
得意気に話す上郷。
「仲違いしたと言う割にお前は柏木エリの事をニックネームで呼んでいる。それに小学の時の話だろ?案外もう忘れてるかも。」
「どうかな?仲違いは決定的だった。周りはそう言うかもしれないが俺達はもう…」
昔の仲違いを思い出し気が滅入るが上郷はお構い無し。
「まぁ、そう言わずに。俺を助けると思って。」
「…考えとくよ。」
俺は上郷の熱意に仕方なく答えるのだった。
☆
そして放課後。俺はそわそわしながら約束通り校門に向かう。
すると校門前で待っている霞ヶ丘先輩を見つけた。
もう待ってる。俺が待ってる、って約束だったのに。
多少の緊張をしながらも話しかける。
「あの、お待たせしてすいません。」
目を閉じ立ったままの霞ヶ丘先輩はそのまま目を開けずに俺へと話しかける。
「えぇ、待ったわ。私が待ってて、と言ったのにまさか私が待たされることになるとは。」
そう言われ俺は慌てて謝る。
「すいません。今日は帰り前の担任の話が長くて。お待たせしてしまいました。」
「あら、言い訳から入るのは良くないわね。でも素直に謝ったのは褒めてあげる。」
そう言われて重ねて謝ると、
「着いてきて。」
と、言われ霞ヶ丘先輩について行くと近くのファミレスに入った。
俺は適当にサイドメニューを頼むと霞ヶ丘先輩はケーキセットを頼んだ。
「それで…えっと…なにか御用でしたか?」
俺は遠慮がちに黙る霞ヶ丘先輩に聞いてみた。
「えぇ、用が無くこうしてお茶できる関係性だとでも?」
その台詞を聞いて少し安心した。
だって、異性とこうしてお茶してるなんて俺の思い描くリア充そのものだったからだ。
危なく勘違いする所だった。落ち着け。
「えっと、用事とは?」
「町田さん…うちの担当編集が会いたいと言っていたので…」
用事を話した霞ヶ丘先輩は苦虫を潰したような、と言えるかは分からないが少なくとも嬉しそうな申し出ではなさそうだ。
「えっと、呼び出しという事ですか?俺がやってるファンサイトに問題でも?という事でしょうか?」
「察しがいいのね、安芸倫也君。そういう事よ。」
霞ヶ丘先輩は冷静に戻ったみたいだ。
どうやら、俺が作成した霞詩子先生のファンサイトが問題になっているらしい。
誰かに何を言われた訳でもないが俺のファンサイトで少しでも霞詩子先生のラノベを少しでも応援出来れば、と思って作ったサイトだったのだが…。
「分かりました。そういう事であれば仕方ないですね。いつ行けば宜しいですか?」
「こっちで日程を決めて連絡が欲しいと言われたわ。候補日をいくつか教えてくれたらこちらで町田さん…担当編集と決めておくけれど。」
「事前に言って頂ければ放課後のこの時間なら大丈夫です。」
日程に関する会話を終えたと思ったがおずおずと霞ヶ丘先輩は更に聞いてきた。
「あの、アルバイトをしてる、って聞いたけど。そちらは大丈夫?」
霞ヶ丘先輩にそこまで気を使ってもらってる。そう思ったら頬が緩んでしまいそうになる。緩みそうなのを我慢しながら、
「バイトは朝に新聞配達をしてるので、問題ないです。お気遣いありがとうございます。」
チラッと霞ヶ丘先輩がどういう表情をしているのか表情を見ようとしたがティーカップに目を落としながらなので表情が分からなかった。でも確かに「それなら良かった。」と小さな声で言った。
☆
霞ヶ丘先輩と約束をしてしまった。
しかも、今日ってまるでデートみたいだった。
☆☆☆
俺達は始めてこの時の選択を喜んだ。
きっといつかこの日が運命の日だったとお互いに振り返って言うに違いない。