冴えないヒロイン達が幸せになり冴えたヒロイン達になるハナシ 作:ゆーーーー
1週間に1回の投稿を心掛けてはいますが遅れてしまう場合もあるかもしれません。
ゆっくりな更新になりますが読んで頂けると幸いです。
爽やかな朝。休みの日から秋晴れの清々しい空気の中駅に向かった俺。
普段は金曜夜から寝ずに今期のアニメランニングや昨シーズン見切れなかったアニメの復習などをする時間に充てるのだが珍しく早めに寝た。
それは今日のイベントの為だ。オタクの鑑である俺が俺が2次元でなく3次元を優先したのには理由がある。最近ハマっているサイトに関して編集部から呼び出しを受けたのだ。
これは呼び出しに応じサイトの維持を交渉しなければいけない。
俺は先週の霞ヶ丘先輩との通話を振り返りながら駅へと向かう足を進める。
金曜日の夜アニメランニングをしていると通話を知らせる着信音が鳴る。今期密かに人気があるアニソンのオープニングのイントロが流れる。
俺はイントロが終わり歌い出しに入る前に発信元が霞ヶ丘先輩である事を確認して電話に出る。
「こんばんは。霞ヶ丘先輩。こんな時間にいきなりどうしたんですか?」
「ごめんなさい。こんな夜中に。編集部と連絡できたから。」
こんな時間に編集部と連絡できたんだ。バ〇マン見た時に思ったけどやっぱり編集部ってハードなんだな。漫画とラノベの違いがあっても編集部は編集部なんだな、と思う。
「こんな時間に。お疲れ様です。霞ヶ丘先輩。執筆活動もあるのに。」
「構わないわ。執筆の方は順調に進んでいるから。読者のあなたも私の書いた本を手に取る姿を思い浮かべれば筆も進むわ。」
不意な俺の為に書いている、というような言葉を聞けて頬がほころんでしまう。一読者として嬉しい気持ちになってしまう。
「それはそうと、来週の土曜の朝9時よ。編集部に呼び出されたわ。」
具体的な日付が決まった、と拳に力が入る。
「そうですか。分かりました。土曜日の朝9時ですね。」
再度確認を取ると更に確認を、と話があった。
「後は服装。制服で、と言われたわ。後は筆記用具を持っていくことと、待ち合わせは不死川書房前に10分前には集合ね。」
「分かりました。形式ばってますね。普段の打ち合わせもそんな感じなんですか?」
「普段の打ち合わせは喫茶店でやってるわ。編集部にわざわざ行くなんて事。滅多に…」
しばらく間が空く。霞ヶ丘先輩も思う事があるようだ。
「それじゃ、安芸倫也君のサイトが存続するといいわね。それじゃ、執筆活動があるからまたね。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。次巻も期待しています。」
純粋な応援の気持ちを口にして通話を切る。
☆
こうして1週間前の会話を思い出しながら歩いていると不死川書店に辿り着いた。
霞ヶ丘先輩を探していると後ろから声を掛けられる。
「あら、早いのね。まだ30分前よ?」
霞ヶ丘先輩には本当に意外そうな顔で驚かれた。
「昨日はアニメを見ずにちゃんと早寝早起きしましたから。待ち合わせが集合時間前だったので緊張で早く来ましたよ。」
「偉いわね。それじゃ、早めに来たんだし早めに行きましょうか。」
「え?早めにですか!?ちょっと心の準備が…」
俺は慌てて深呼吸する。
1回深呼吸すると霞ヶ丘先輩が自動ドアの扉を開けてしまった。
え!?まだ心の準備が…。
今度はそう言う暇さえ許されなかった。
☆
不死川書店のビルに入るとまず霞ヶ丘先輩が担当編集に気付いたようだった。
「町田さん。今日は宜しくお願いします。」
「あら、丁寧ね。今日はどうしたの?しーちゃん。急に改まっちゃって。」
「ちょっと。安芸倫也君の前であだ名で呼ばないでよ。町田さん。」
急にこっちの様子を伺いながら霞ヶ丘先輩が町田さんと声を掛けられた女性に訴えていた。
この人が例の編集部の担当の人かな?
苦労してそうだな。
心無しか疲れてるように見える。
俺は心配になって声を掛ける。
「大丈夫ですか?編集部ってこの時間に出社するなんて無理してないですか?」
俺の声に町田さんは笑顔で応える。
「大丈夫よ。確かに編集部はこの時間に出社しない事もあるけど。会議ある時とかはこの時間だし。他部署との交流でこの時間に出社する事もあるからね。」
と、町田さんはこちらに近付いてきてジャケットの胸の内ポケットの中に手を入れながら俺の前に来た町田さんは名刺入れを出し自分の名刺を取り出した。
そして名刺入れの上に名刺を置きこちらに差し出しながら、
「改めまして町田苑子と申します。宜しくお願いします。」
「ご丁寧にありがとうございます。一学生の俺に丁寧な対応をして頂きありがとうございます。改めまして安芸倫也と申します。宜しくお願いします。」
社会人のマナーとか名刺差し出された時の挨拶が分からないが先に挨拶してくれた町田さんの挨拶を真似て挨拶をしてみた。
それからお辞儀をしてみた。
見様見真似だったけど大丈夫だろうか?
お辞儀を終えるとチラッと町田さんの顔色を伺う。
「あら、学生なのにキッチリしてるのね。これなら大丈夫そうかな?」
ん?大丈夫そう?って言った?
試された?でも合格なのかな?よく分からないけど幸先良さそう。これならブログ存続に向けた交渉も上手く行きそうだ。
そう思った時だった。
「それじゃ、こちらへどうぞ。」と町田さんにエレベーター前へ案内された。
フロアボタンを2つ押した町田さんに気付き霞ヶ丘先輩が町田さんに声を掛ける。
「あら?今日は編集部では?」
「しーちゃんは編集部で打ち合わせ。先に編集部行って待ってて頂戴。」
町田さんが相変わらず霞ヶ丘先輩をあだ名呼びし編集部へ通される。俺はと言うと会議室の一室に案内された。
☆☆☆
編集部に通されて待っていると町田さんが戻ってきて打ち合わせが始まる。
町田さんがその口火を切った。
「恋するメトロノームは売れ行きが順調だから予定通り5巻で完結できそうよ。思い通りの話にできそう?」
前回の打ち合わせで第3巻のプロットを練り2週間かけて作った実際のプロットを送ったばかりだった。
もう完結の話になる?と疑問に思って町田さんに問いかける。
「えぇ。その場合は昨日送ったプロットでそのまま話を展開させられそう。最初思い描いてた通りの展開で終われそうよ。けど、まだ第3巻の執筆段階でもう完結のお話を?」
「えぇ。しーちゃんはまだ若いでしょ?もう次回作をどうするのか、という話になってきてるわ。期待の新人を第1作で眠らせておくのは勿体ないという事で。」
成程。編集部には色々と思惑はあるらしい。
私は溜息をついて町田さんへどう返すか考える。
しかし、今執筆している恋するメトロノームの事以外に今は考えられない。
それに……安芸倫也君の方はどうなっているのか。
てっきり一緒に話すのかと思いきや…。別々の場所になっちゃったし。その心配があるので今は作品の話を出来そうにない。
「次回作に関しては恋するメトロノームを無事終えてからじっくり考えたいわ。でもできればまた恋愛を書きたいと思っています。それより…」
安芸倫也君の事を聞きたい。それを聞こうとしたのに町田さんはそれを遮るように話してくる。
「恋愛物でも問題ないと思うわ。だけど工夫は必要かも。第1作目がヒットしてからの第2作目は大事よ。しーちゃんの持ち味は消したくないけど恋するメトロノームのような設定だと二番煎じ、と飽きられちゃう。ファンを離さないようにしつつも新たなファンを付けれる作品を作り上げていきましょう。」
今日の町田さんは次に拘っているようだった。私はその言葉を聞いてそれもそうね、と頷きはしたけど。心の中では安芸倫也君の様子がどうなっているか気になり視線を町田さんではなく宙へ泳がせてしまう。その視線に町田さんが気付いたのか話を変える。
「安芸君が気になる?しーちゃん。」
「え?えぇ、てっきり私と一緒に話すものと思っていたから。」
町田さんへ自分の心情を伝えると打ち合わせと同様真剣な眼差しのまま現状について話してくれる。
「実はね。今日次回作の話をしたのは彼を連れてきた事と関係してるの。」
「どういう事ですか?」
「今日彼を呼んだのはね。彼のサイトで恋するメトロノームの売り上げを上昇させた能力を上が目を付けたからよ。」
上、というワードが出てきて私には緊張が走る。
変わらず緊張の面持ちで話を続ける。
「彼の能力を借りれば更なる売り上げを見込める。それを見込まれてプロジェクトをスタートさせたいらしいわ。今日はそれを実現させる為の面接と言ったところね。ただまだ彼は学生だしそんなに重責を担わせられないからまずはアルバイトとして彼を雇いたいみたいよ。」
唐突に次回作の話になった理由を町田さんは話し出す。その話に私は驚きを隠せなかったが嬉しさも込み上げてきた。
1ファンだった彼と名実共に一緒に作品を作り上げることができる。その期待に胸を膨らませた。
そこへ町田さんは水を差す。
「勿論入社したらバイトと言えど彼は社員になる。しーちゃんの作品だけに集中できなくはなるし。彼は編集部じゃないと思うけれどね。」
「編集部じゃない!?私のサポートや町田さんのサポートと言う事じゃないんですか?」
町田さんに咄嗟に反論してしまったが町田さんは真っ直ぐこっちを見て反論をいなす。
「彼はしーちゃんに優しすぎると思うの。しーちゃんの1番のファンだしね。編集はそれに時にダメ出しをしなきゃいけない仕事だし。それに、上が目を付けたのがあのサイトだったから。広報部辺りが狙ってるんじゃないかしら。」
話の口ぶりが恐らく町田さんの推測だと思うけど間違っては無さそうだ。納得の一言である。
「あのサイトを公式のファンサイトにするという事でしょうか?」
「さすがにあれはファンサイトだし、しーちゃんの事を話してるからあれは個人的に続ける事になりそうよ。私はまだまだ下の方だから上の方の考えは分からないけど。」
最後に自嘲気味に答えた町田さんはこの話を終わらせて打ち合わせは恋するメトロノームの次巻の話をしていった。
次回作を成功させる為にもしっかり恋するメトロノームを終わらせなければ。安芸倫也君の話を聞いて尚更その気持ちが強まっていた。
☆☆☆
町田さんに通されて会議室に入ると重々しい空気だった。学校の視聴覚室にあるような長机を挟み向こうにはスーツを着込んだ2人の社員であろう人が座り待ち構えていた。
先程のロビーでの町田さんとのやり取りや社会人が主役の今期の社会派のアニメを思い出しながら挨拶をする。
「この度はお忙しい中お時間を頂きありがとうございます。」
主人公が面接へ言った第1話を思い出しながら挨拶をした後にお辞儀をする。するとアニメ通りにどうぞおすわり下さいと着席を許される。
「失礼します。」と更に言いお辞儀をしてから背筋をなるべく伸ばし着席すると今度は社員が挨拶をする。
「この度は不死川書店にお越し頂きありがとうございます。私は不死川書店編集部の岩垣と申します。」
編集部と名乗った。俺のサイトを問題視している中心の人だろうか、と考えていると隣の社員が今度は挨拶をした。
「同じく不死川書店の広報部の右隣と申します。今日は来てくれてありがとう。」
編集部の人の右隣にいるから右隣だろうか。
あれ?俺からすれば右隣だが本人達からすれば左隣では?あれ?緊張で 上手く考えられない。するとその右隣から話があった。
「霞詩子のファンサイトを見たよ。あれは自作で?」
早速ファンサイトに関して触れられた。遂にサイト閉鎖に関して言及された。なんとか閉鎖を避けなければ。どう返答したらいいだろうか?
正直に答えるべきだろうか。
「はい。霞詩子先生の作品に中学生の頃出会いまして感動しまして。当時は中学生でアルバイトを出来ずに布教用に本を買う余裕も無いので、それならブログを作って布教しようと思いまして。」
正直に答えると社員の2人は頷いてくれる。頷きながらも岩垣と名乗った社員が何かをメモを取っている。
それを右隣と名乗った社員が更に質問してくる。
「ホームページを作る技術は独学で?」
サイトの話に関して更に聞かれる。ここで質問の回答を間違えればサイト閉鎖の勧告だろうか。そう思いながら正直に応える。
「はい。独学で。今はグ〇ッたら色々な作り方も載ってますから。それを見ながら試行錯誤して作りました。」
それを聞いた社員が感心した様子をしながら頷く。
特に右隣の頷きが大きい事から関心が大きいと思われる。
「ではサイトを作る際に心掛けたことは?」
更にサイトの事に関して細かく聞かれた。
これは遂に細かい内容を聞かれるに違いない。
いよいよ話が核心に迫って来たな。サイトを閉鎖させる話になっていくに違いない。
「それではあなたを動物に例えると?」
「はい!?動物ですか?動物。動物に例えると…」
急な話の展開に戸惑い言い澱んでしまう。不味い。何とか間を繋がないと。あのアニメでも面接の時無言の時間があるのはダメだと言ってた気がする。
「少し考える時間を頂けますか?」
「いいでしょう。その理由も含めて考えてみてください。」
メモを取りながら俺の話を聞く社員と受け入れる社員。これは…本当に面接なのか!?と疑ってしまう。
それよりも動物に例えると何なのか考えないと。
好きな事となると一所懸命。脇目も振らず…となると猪とかだろうか。
マイナスの要素が無いか?悪い印象にならないだろうか?
「はい。自分を動物に例えると猪です。何故なら好きな事には脇目も振らず一所懸命になるからです。」
「成程。その情熱が布教用のサイト作成にも繋がったんですね。」
頷きながらそう言ってくれる社員。その言葉には好印象な雰囲気があった気がする。
気の所為じゃ無きゃいいけど。
その後2〜3の質問に答えていく。質問の内容は不死川書店にどんな印象があるか、や不死川書店に関連するホームページ等を見たことあるかという質問だった。それに対しても正直に答える。
何故なら俺のホームページを作るにあたり参考に不死川書店さんのホームページを参考に作った部分があったからだ。
☆☆☆
「以上かしらね。今日の打ち合わせはこんな所でしょ。」
そう言い町田さんはそそくさと席を立ち上がる。
向こうの結果も気になるし私も安芸倫也君の所へ向かいたい。
「分かりました。それでは。」
私も続けて立ち上がろうとした時にエレベーターホールから安芸倫也君が来たみたい。
エレベーターホールに向かった町田さんが先に安芸倫也君と話している。
多少の距離があったから会話の内容があまり聞き取れない。
足早にエレベーターホールに向かった私は合流に加わろうとする。
すると町田さんは「それじゃ、私はこれから外出るからまたね。」
と言い残しエレベーターへ乗って移動してしまった。ほんの数秒だったと思うが町田さんとの会話に気になって聞いてみる。
「ねぇ。町田さんと何の話してたの?」
「え、今日どうだったかを聞かれました。それで。」
それを聞いた私は安芸倫也君の話をさえぎって思わず質問してしまう。
「会議室での結果はどうだったの!?サイトは存続!?」
私が危惧していたサイトの存続を反射的に聞いていた。
すると安芸倫也君は安心した表情を見せ話し出す。
「それが、今日は全然俺が運営してるサイトの話じゃなかったんですよ。全くの無関係では無かったんですが。」
勿体付けた言い方だったがサイトの閉鎖勧告では無かったようで私は安心して思考を一旦放棄してしまった。
「良かった。」
そう呟くとふっ、と安心して一息したので安芸倫也君の声を耳に聞いていなかった。
「実は今日面接だったみたいで。異例ではあるんですけど。俺が運営してるサイトの集客力を見込まれての入社試験を兼ねた面談だったんです。ヘッドハンティング的なのみたいで待遇?とかの提案の話なんかもあって。」
その話を聞き入れていなかった私は後にいい意味で衝撃を受けるのだった。