プリベット通りは、ヴォルデモートが勢力を拡大しているというのに相変わらず
だが、どの記事にもヴォルデモートのやその忠実な配下たちが何をしているかは掲載されていない。魔法省が「予言者新聞」に圧力をかけて隠蔽しているに違いないとハリーは考えていた。
ハリーは「日刊予言者新聞」をベッドの上に放り投げた。「色変わりインク」の蓋が開いていたせいで、新聞に紫と青のどろっとしたインクがかかる。ハリーは慌ててティッシュでそれを拭き取った。
ハリーの周りに相談できる人はいなかった。バーノンおじさんやペチュニアおばさんにヴォルデモートや死喰い人の脅威を相談したり騎士団の命を心配するなんて、トロールをダンスパーティーに誘うくらいに馬鹿げている。
こういうことをいつも相談してきたのは、二人の親友──ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーだ。ロンもハーマイオニーも、もしここにいたら一緒に悩んでくれただろう。そうやって、しばらく会っていない二人のことを考えると、しくしく胃が痛みはじめた。二人とも無事だろうか? 二人だけでない。騎士団のみんなやホグワーツの友達も心配だったし、ジニーのことを考えれば胸が引き裂かれるような痛みが走った。
ハリーは思いを振り払うようにして立ち上がり、食べかけの大鍋チョコレートとチカチカと光る「セドリック・ディゴリーを応援しようバッジ」を蹴飛ばして──バッジの光は反転し、「汚いぞ、ポッター」という文字を照らし出していた──ヘドヴィグの籠にふくろうナッツを投げ入れた。だが、ヘドヴィグは興味なさそうにプイッと顔を背けた。
「怒らないでくれよ、ヘドヴィグ」
ハリーはイライラとした声で言った。この夏、ハリーはヘドヴィグを外へ出していない。それが気に入らないのか、ヘドヴィグは苛立たしげに嘴を嚙み鳴らしてハリーを威嚇しているのだ。だが、ハリーのペットを知っているスネイプが闇の陣営に入った今、ヘドヴィグに手紙を持たせようものなら捕まってしまうことくらい容易に推測できた。
スネイプ──その名前を思い出すだけでハリーの胸にどす黒いものが溜まっていくのを感じる。スネイプは今、どこで何をしているのだろうか? ダンブルドアを殺したことを、ご主人様やその仲間に得意げに報告しているのだろうか? それとも、あのねっとりとした黒髪を風になびかせて、自分を捕まえるためにあちこちを回っているのだろうか?
目覚まし時計の針が十二を指した。ハリーは何気なく窓の外を覗き、飛び上がらんばかりに驚いた。ハリーは慌ててトランクを蹴って杖を取り出してカーテンに身を隠しながら構える。窓の外にはフードを被った男が二人いる。久しぶりに心臓がどきどきと鳴っていた死喰い人が何らかの手段で守りの魔法を破ってここまできたのだろうか? だが、フードから見え隠れする赤毛を見て、ハリーは体の力を抜いた。敵じゃない──味方だ。
やがて家に呼び鈴が響き渡った。最初は控えめだったその音が、だんだんと大きくなっていき、しまいにはオーケストラのように音楽を奏で始めた。
「いったいぜんたい、こんな真夜中に何の用だ!」
階下からバーノンおじさんの怒鳴り声が聞こえる。ハリーは久しぶりに浮かんできた笑いを噛み殺し、ゆっくりと階段を降りていく。この愉快な反応が見たくて、ハリーはダーズリー一家に訪問があると伝えることを、都合よく忘れておいたのだ。
やがて、つんざくようなペチュニアおばさんの悲鳴と、食器ががしゃがしゃと落ちる音が聞こえる。ハリーは足音を殺し、階段を降りてそろそろと玄関の方に向かった。開け放たれた扉の向こう側には二人の魔法使い──アーサー・ウィーズリーとキングズリー・シャックルボルトが立っていた。
ペチュニアはヒッと悲鳴を上げると、ダドリーを後ろ手でかばうようにして隠して右手に持っていた食器スポンジをお守りのようにぎゅっと握りしめる。ダドリーは巨体を無意味に小さくしようと精一杯屈み、もう怪しげなものは絶対に食べまいと、手で口をしっかりと抑えもう片方の手で尻をしっかりと抑えていた。本当はキッチンに逃げ込みたいのだが、この二人の奇妙な男に背中を向けることが恐ろしいことと思っているのだろう。そしてバーノンおじさんは、予期せぬ訪問を受けて戸口で固まっていた。
「呼び鈴を押すのは一回でいいんですよ、アーサー」
「ほう、一回だけでいい! こんなちっぽけなボタンを一回押すだけでいいのかね?」
ウィーズリー氏は呼び鈴に微笑みかけてポンポンと二度叩くと(当然呼び鈴はもう二回鳴った)扉の前に立ちつくすバーノンおじさんにもにっこり笑いかけた。
「お久しぶりです。クィディッチの国際試合の時以来ですから、およそ三年ぶりでしょうか」
ウィーズリー氏は愛想よく挨拶をしたが、バーノン叔父さんは顔の半分を真っ赤に、もう半分を真っ青にした。バーノンにとって三年前に居間を半分吹っ飛ばされた忌まわしい事件は、忘れたくても忘れられないものなのだろう。
「全く──全く、素晴らしい発明だ──てっきり、
ハリーは吹き出しそうになるのをこらえるのがやっとだった。バーノンおじさんはウィーズリー氏が言ったことを半分も理解することができなかっただろう。ウィーズリー氏は視線をハリーの方へ移した。
「ハリー! 元気だったかい?」
「おじさん、お久しぶりです」
ハリーはウィーズリー氏の手をとってガッチリ握手した。目は相変わらず少年のようにキラキラと輝いていたが、どことなくやつれて見えた。
「あの、みんなは」
みんなは無事かと聞こうとして、ハリーは言葉に詰まった。自分がいない間に誰かが死んでいたらという恐ろしい予感に胸を覆われた。
「なかなか連絡することができなくてすまない。だが、騎士団もその周りの人物もみな元気だ。誰も亡くなってはいない」
「よかった!」
ハリーは心のそこから叫んでにっこりとウィーズリーおじさんに笑いかけた。この夏に聞いたどのニュースよりもいいニュースだった。
「それじゃ、相変わらず魔法省は忙しいんですか?」
「ああ、そうだ」
ウィーズリー氏は暗い表情でため息をついた。
「連中がおおっぴらに動き始めたものでね、どの部署も今は全くと言っていいほど余裕がない──本当にだ。つい数日前もキャノン・ストリートで死喰い人が素敵な呪いを放ってくれたせいで聖マンゴにはまだくらげ足を生やしたマグルが三人は入院中だし、アーノルド・ピーズグッドの杖が逆噴射したせいで忘却呪文が自分にかかってしまい、自分が誰だってことかを忘れてしまう騒ぎが起こってね。おかげで魔法事故惨事部はてんやわんやになっている。それに、チャリティ・バーベッジも行方不明だ。……ああ、これは失礼」
ここで自分がバーノンを置き去りにしていることに気がつき、ウィーズリー氏はおじさんたちのほうに視線を戻した。
「ヘアベルが綺麗ですな」
ウィーズリー氏は愛想よく言ったが、居間の空気は冷え切っていた。ペチュニアおばさんは相変わらずガウンの袖をぎゅっと握って表情を消しているし、バーノンおじさんは顔を真っ赤にしている。ウィーズリーおじさんは埃一つなくピカピカに磨き上げられた電話を見てにっこりと笑みを浮かべた。
「私としてはぜひ話電を使ってみたかったのですが……」
「電話ですよ、アーサー」
シャックルボルトが静かにウィーズリーおじさんの言い間違いを指摘した。すでにバーノン叔父さんの赤ら顔に差す色は赤を通り越してどす黒い紫になって首にまで達していたが、握りしめた拳を振り下ろすこともできずに中途半端な姿勢で固まっていた。
「うむ──失礼、電話ですな。それで以前ロンがご迷惑をかけたそうで。私としては是非使ってみたかったものですが、直接お会いした方がいいと思いまして」
「直接だって?」
バーノンおじさんはまるで腐った食べ物を鼻先に突きつけられたかのような声を上げた。おそらく、おじさんの頭の天秤は直接会うくらいならば電話の方に傾いているはずだ。
「ええ。例のあの人とその一派のせいで、
「
ハリーは驚いて声をあげた。
「そうだ。ヴォルデモートとその手下が煙突飛行規制委員会に手を突っ込んでね。エッジコムが服従の呪文にかけられたから、魔法省の許可なしに使うことはできなくなった。今じゃ下手に使えばアズカバン行きになるのは間違いないだろう」
「それじゃ、ウィーズリーさんたちはどうやってここまで来たの?」
「地下鉄さ」
「地下鉄?」
ハリーは驚いて聞き返した。二人の魔法使いが仲良く電車の座席に腰掛けてやってくることをハリーには想像できなかった。
「マッド=アイの提案だ。隠れ穴や魔法省の近くから姿くらましをするよりも、電車を乗り継いで追っ手を撒いた方がいいってね」
「死喰い人もヴォルデモートもマグルの移動手段を馬鹿にして目をかけていないのさ。連中が見張るのはせいぜい9と4分の3番線くらいだろうね」
キングズリーは笑い声をあげた。ウィーズリーおじさんは名前に反応してぴくりと体を震わせたものの、大きく頷いて同意した。
「実に素晴らしいものだ。特にあの券売機とやらがどうやって動いているかは……」
「アーサー、その話は後にしよう」
キングズリーはウィーズリーおじさんの言葉を遮ると、改めてウィーズリーおじさんの方を見た。
「我々としましては、一度お話しさせていただく機会をいただけたらありがたいです」
キングズリーは礼儀正しく言った。そのゆったりとした口調と、だぼだぼなズボンをだらしなく履いているウィーズリー氏と違ってびしっとマグル用のシャツを着こなしている
「ペチュニアや。居間に案内してやれ」
おばさんは固い表情で渋々頷くと、付いて来いと言わんばかりに居間へと歩く。キングズリーとウィーズリー氏もその後に続いた。だが、バーノンおじさんは居間に向かおうとせずにハリーを睨みつけた。
「小僧、どうして奴らがくることをあらかじめ我々に伝えておかなかった? え?」
「ごめん」
ハリーは笑いを噛み殺しながら言った。
「忘れてた」
「忘れてた?」
バーノン叔父さんの体が怒りのあまり、一瞬膨らんだように見えた。だが、近くに魔法使いがいることを思い出すと、諦めてハリーを睨むだけにしておいた。
居間ではおばさんがきゅっと口を真一文字に結び、まるで足が縛り付けられているかのように足をきつく閉じていた。その向かいでは深く腰掛けるキングズリーと、そわそわとした様子でリビングを見渡しているウィーズリーおじさんが座っていた。誰もいなければ、ウィーズリーおじさんはテレビとリモコンをめちゃくちゃにいじっていただろう。
ハリーはどちらに座るべきか少し迷ったあとにキングズリーの隣に腰掛けると、キングズリーはさりげなく詰めてくれた。
「さて。すでにハリーからお聞きだと思いますが、ヴォルデモート卿の力はますます強大になっております」
まるでハリーがバーノンおじさんにあらかた説明しているかのようにキングズリーは話し始めた。バーノンおじさんはしかめっ面を浮かべる。
「ヴォル──なんだって?」
「ヴォルデモート卿ですよ。ハリーの両親を殺した闇の魔法使いです。そして、ヴォルデモート卿の最大の敵であったアルバス・ダンブルドアも手下の手にかかって殺されました」
説明していなかったのかとハリーに問いかけることもなく、キングズリーは話を続けた。おじさんは小さな脳みそを回転させて昨年ここに厄介者がやってきた記憶を辿り寄せて、あっと口を開こうとした。だが、先に甲高い声が上がった。
「あの人が?」
ずっと黙って聞いていたペチュニア叔母さんの目が見開いた。
「あの人が──殺された?」
「そうです、殺されました。あなたの妹を殺した人物と同じ陣営の者の手にかかって」
キングズリーが言うと、ペチュニアおばさんは口元に手を当てた。ハリーは何だか不思議な感じがした。ペチュニアおばさんと自分の母親が姉妹であるということがぴんと来ないのだ。
「ペチュニアや。何かを知っているのかね?」
恐る恐るという様子でバーノンがペチュニアに問いかける。ペチュニアおばさんははっとした表情を浮かべると、夫の困惑した表情を見て顔を真っ赤にした。
「知りません! 何も──何も」
それっきり、ペチュニアおばさんは何者の言葉も受け付けまいと固い表情を浮かべる。
「あー」
遠慮がちにウィーズリーおじさんが口を開いた。
「話を戻してよろしいですかな」
どうぞ、と言う者は誰もいなかった。だが、おじさんは気にせずにぽんぽんとリズムを取るように杖で肘掛けを叩き、杖先から火花が飛び散ってじゅっという音がした。
「それで、今回のお話としましては、あー、あなたたちを騎士団の方で保護したいと」
「保護?」
バーノンの大声で、家中のものが揺れた。
「わしらが──貴様らに──保護されると?」
バーノンおじさんは怒り心頭に達する一歩手前だった。手はわなわなと震え、今にも何かを投げつけてやりたいような表情をしていた。
「しかし、それこそが重要なのですよ。ミスター・ダーズリー」
シャックルボルトは静かな声で言った。「生意気な」とぶつくさバーノンおじさんは呟いたが、誰もその言葉を拾わなかった。
「ヴォルデモートやその手下は、あなたたちを狙っています。拷問してハリーの居場所を聞き出そうとするでしょう」
「わしらはその小僧がどこで何をしているかなんて知らん!」
バーノンおじさんの癇癪が弾け、力任せに机を叩いた。だが、キングズリーもウィーズリー氏も黙ってバーノンおじさんの方を見ていた。バーノンおじさんはぜいぜいと息を切らすと、ぐいっと前のめりになった。
「騎士団と言ったな。何だそこは?」
「闇の魔法使いに抵抗するための秘密組織です。そこでは──」
「もういい!」
おじさんは声を張り上げてキングズリーの言葉を遮った。
「百歩譲ってやって──保護されてやるとして──どうして貴様らの、その、なんとか省がわしらを守らないんだ? なぜ地下組織に守られねばならん?」
「魔法省は敵の手中に落ちているからですよ」
ウィーズリー氏が素早く答えると、バーノンおじさんは前のめりになった。
「はっはぁ!」
バーノンおじさんは勝ち誇った声をあげた。
「大変失礼ながら、わしらの組織である警察に守られるほうが信用できると思いますがな!」
「おじさん、それは無理だと思うよ」
ハリーが静かな声で発言を遮った。
「仮に警察に駆けこんだとしても、どうやって説明するの? 魔法使いに狙われているから保護してくれって?」
これはおじさんによく効いたようだ。バーノンおじさんは中途半端な姿勢で固まるとハリーを睨む。だが、ハリーはおじさんが反論できないことをよく知っていた。警察に向けて魔法の説明をするくらいなら、ハリーの誕生日を盛大に祝う方がマシだ──バーノンおじさんはそう考えるだろう。
「それに、魔法の前でマグルの武器は無力なのですよ。ほーれ」
ウィーズリーおじさんは杖を軽く振ると、テーブルの上に置いてあった磨き上げられたコップはハツカネズミに変わった。ペチュニアおばさんはまたも悲鳴を上げると、ソファーから落ちるようにして飛び退いた。
勇敢にもバーノンおじさんは腰を抜かさずにその場に佇むと、なるべく真っ白なテーブルクロスをかじっているハツカネズミに視線をやらないようにしながらウィーズリーおじさんを睨んだ。
「脅しですかな──わしらは──然るべきところに電話して──弁護士を呼ぶこともできるのですぞ!」
弁護士という言葉が切り札になるかのように、バーノンおじさんは一際大きな声で叫んだ。こんな状況にあってなお、既存の権威にすがろうとするのがおじさんらしかった。
「脅しではありません。あなたたちを狙っている連中は、武器も簡単におもちゃに変えてしまうのです」
キングズリーは静かな声で告げるが、おじさんはまだ鬱憤が溜まっているのか、小さな目に憎しみを込めてキングズリーを睨む。
「まもなく、闇の魔法使いたちがあなたたちを付け狙います」
ようやくウィーズリー氏もバーノンおじさんのねちっこさに嫌気がさしたのか、声にははっきりと苛立ちが込められていた。
「そうだよ、おじさん」
ハリーもバーノンおじさんの方を見て頷いた。こういうときは援護をした方がいいと長年の経験でわかっていた。
「間も無く奴らはやってきておじさんたちを拷問する。奴らだけじゃないさ──巨人か大蜘蛛か、はたまたドラゴンか吸魂鬼がおじさんたちを付け狙うだろうね」
吸魂鬼と強調してハリーは言った。台所からこっちの様子を伺っていたダドリーの巨大な身体がぴくりと動いた。
「本当かい? あいつらがまたやって来るって?」
ここまで一言も喋らずに縮んでいたダドリーが恐々とハリーの方を見た。
「ああ」
ハリーは頷いた。
「本当だ」
ダドリーはわっと声を上げると、その場に崩れ落ちた。ペチュニアおばさんがはまるで目を瞑っていたら現実が消え去ってくれると思ったかのように強く食器洗いスポンジを握りしめた。バーノンおじさんは息子と妻の様子の変わりっぷりに言葉を失っていた。この場で、魔法界とまるで関わりがないのはバーノンおじさんだけであるとハリーは気がついた。
「あの老いぼれが……」
ここまで言いかけてバーノンはウィーズリー氏の片眉が上がっていることを目ざとく発見した。バーノン叔父さんは気まずそうに咳払いをすると、先ほどよりも幾分か弱い調子で話し始めた。
「あー、あの校長が亡くなったとすれば、わしらはどこに避難すればいい?」
「ご心配なく。然るべき場所に隔離できるよう手配しますよ。イギリスの外ならば死喰い人もあなたたちをつけ狙わないでしょう」
キングズリーはさらりと言ったが、ついにおじさんの堪忍袋の尾が切れた。
「わかったぞ!」
バーノンおじさんの大声がついにウィーズリー氏の声を上回った。おじさんは唾が飛び散るくらいにぐいっとウィーズリーおじさんの近くに詰め寄った。
「お前たちと小僧はグルになってわしらの会社と家を乗っ取るつもりだな? え?」
「落ち着いてください。我々はそんなことをするはずがない」
唾が眼鏡についているのにもかかわらずウィーズリーおじさんは冷静に言った。
「確かに、少しばかり急な話で考える時間が必要とは思いますが……」
「考える時間だと?」
バーノンが唸るように言った。
「考えるまでもない! わしらが──貴様らのような──いかれぽんちを──」
バーノン叔父さんはありったけの語彙を用いてウィーズリー氏とキングズリーを罵ろうとしたのだが、怒りのあまり後半はぜいぜいと言葉にならない言葉が漏れ出るだけであった。
「悪いね、ハリー。どうも今日だけでは説得できないようだ」
「いいえ、おじさん」
ハリーは急いで言った。
「あの人たちは、いつもああなんです」
ハリーはちらりとバーノンたちのほうに視線をやった。おじさんは肩を上下させて息を整えているし、おばさんはバーノンおじさんに水の入ったコップを渡しながら、ときどき洗濯物についたシミを見るような目でこちらを見てきている。ダードリーはまだキッチンのテーブルの向こうから、恐々とこちらの様子を伺ってきている。
「いや──しかしだね、ハリー。私たちには彼らを守らなければならないし、守る義務があるのだよ。何せ、君の家族だ」
「ええ、わかっています」
ハリーは一応頷いてみせたが、心の奥底では納得できなかった。バーノンおじさんたちは仮に捕まらなくても、喜んでヴォルデモートにハリーを差し出すだろう。
「気が変わったらいつでも連絡してください」
キングズリーが穏やかな声で言うと、二人は立ち上がる。
「出て行け!」
バーノンおじさんは叫ぶと、興奮のままに手にした陶器の飾り物を投げつけた。危ない、とハリーは叫ぼうとした。だが、ウィーズリーおじさんの杖が動く方が早かった。
「問題は、ミスター・ダーズリー」
自在に動く紙飛行機に変わった陶器は、まるで意思を持っているかのようにすーっと滑空しておじさんの肩に降り立った。
「あなたたちを狙っている連中はこれを爆弾に変えることもできるのですよ」
そう言い残すと、ばたんとドアを閉じて、二人の魔法使いは姿を消した。