時空を超える猫になったと思ったら時層が違った 作:猫or人間
相手は五体満足のオーガベイン(女)。
対するこちらは月影の森最深部に来るまでに何回か戦闘を経たために、少なくても体力は消耗している。
さらにいえば、武器は村の警備隊で使われているクレイモア、防具の腕輪はボーンバングル……ほぼ初期装備であり、警備隊の一員としてモンスター相手に戦ってはいたものの、最近ハヤブサ斬りができるようになったことからレベルも10程度だろう。
女の姿とは言え、本来であれば未来と過去を一回ずつ経験した後で仲間とともに戦う筈だったオーガベインと真正面からやり合うのは愚策。
かといって罠などの搦手が通用する相手でもない、受け切ったうえで蹂躙されるのがオチだ。
そんなことは、分かっている。
だから、
もちろん、全力を以て相手をする。
防具が砕けようと、剣が折れようとも足掻き続ける。
攻撃のすべてが届かなくとも、防御が全く役に立たなくとも、身体が動く限り限界を超えて戦い続ける。
エデンを救い出すという信念のもと、オーガベインに肉薄する俺の身体は――――いつしか、動かなくなった。
「もう終わりか、アルド?ならばその体、妾らの復讐のために貰い受ける」
――――来た。
オーガベインが、精魂尽き果てた俺の身体を乗っ取ろうと、精神の内側に入ってくる。
体に浮き上がる模様、赤く染まる視界……しかし、意識を封じられることがないように気を保ち続ける。
「う……ぐぅ……」
『アルド、お主……さっさと身体を明け渡せ!無駄な抵抗なぞするでないわ!』
「黙れ、オーガベイン……!身体能力での戦闘で敵わないのなら、精神の内でお前を捩じ伏せるしかないんだ……!」
1.5部の中盤、当時の時代から転移してきたオーガ戦役の戦場……オーガ砦の中腹でオーガベインはアルドの身体を乗っ取った。
だがそれは、オーガ族との共振がオーガベインの力を増幅させ、それまで鍛えてきたアルドの力を上回った上で不意打ち気味に行った結果だ。
明らかにオーガベインよりも俺の力は下であり、戦闘で弱った俺の身体を乗っ取りにかかることは容易に想像出来た。
だが、オーガベインが身体を乗っ取ることが出来ることを事前に知っている俺からすれば、勝算はここしかなかった。
原作のアルドは不意打ちで一時的に身体を奪われた。
逆にそれは、知っていれば身体の主導権を明け渡さないように抵抗し、逆に精神の内で捩じ伏せることも可能ということ。
「く、ぅ……うおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!」
『……っ!?お主、何故そこまで!』
「────誓ったんだ。この世界を存続させ、エデン……ご主人を救い出すと!たとえ、この世界が
────そして。
オーガベインは身体から吐き出され、俺は地面に仰向けで倒れ込む。
「アルド、お主……今の
どうやら、精神の内での戦闘の中で、ほんの一部ではあるが前世の記憶がオーガベインに流れ込んだらしい。
一部だったとしても、この世界がゲームという人に作られた物語の世界であることや、本来であれば自分が男であるはずだったことからこの世界に差異があることくらいは理解出来たらしい。
「……人間が滅ぶのは勝手だが、妾らはそれに巻き込まれとうない。いいだろう、アルド。妾らを精神から追い出したことも加味し、世界の滅びの未来が無くなるまでは協力してやろう」
その言葉を聞きながら、とっくに限界を越えていた俺は意識を失った。
#
「う、うぅ……?」
「お、にいちゃん?」
起きたらバルオキー村の自室のベッドの上だった。
声のするほうを見れば、涙目で俺の手を握るフィーネが居た。
「フィーネ?……っ、そういえば、オーガベインは……!」
『安心してよいぞ、妾らはここだ』
フィーネとは反対側、観葉植物がある方の壁に、オーガベインは鞘に収まった状態で立てかけてあった。
どうやら俺はオーガベインに力を示し、協力を取り付けることが出来たらしい。
「もう、お兄ちゃん!!心配したんだからね!死んじゃったらって思ったら、私……」
「あ、ああ。すまなかったよ、フィーネ。でも、どうにかオーガベインを仲間に出来たし、ようやくここからがスタートラインだ」
ここからは先の見えない物語が待っている。
何せ、本来の世界とは時層が違うのだ。
時の暗闇にたどり着くまでに一体どれだけの困難が待ち受けているのか……考えるだけで気が遠くなる。
「フィーネ、俺はやるぞ!」
「あー、この前教えてくれたエデンお兄ちゃんのこと?」
フィーネに教えたこと……この世界が別の時層であることがわかって鬱になっていた時期に口を滑らせた結果、すべてを話すことになってしまったのである。
一応、自身が本当は猫であることや世界を救う云々は伝えるのを避けたが、バルオキーを出ること、出た先の旅の最終的な目的といった大まかなことはすべて話してしまった。
「ああ、俺はエデンを時の暗闇の中から救い出したいんだ。その方法を調べながら旅をしていくつもりだ」
「……私もついてく!」
「ダメだって、本当に危ない旅になるから。さすがに連れていけない」
頼れる仲間がたくさんいるならまだしも、俺一人でフィーネを守りながら旅をするなど不可能だ。
だが、フィーネは納得してくれる気配はなく、穴が開くくらいジト目でにらんでくる。
「だってお兄ちゃん、絶対無理する。私、お兄ちゃんを失いたくないよ……」
「必ず帰ってくる。大丈夫だって、オーガベインもあるし、仲間だって作っていくつもりだし」
「……嫌!最初の仲間は私でいいじゃん、お兄ちゃんのばかぁ!」
「えぇ!?ちょ、フィーネ!?」
部屋を飛び出していくフィーネ。
原作よりも我儘な性格になっていることから、若干甘やかしすぎたかと今までの生活を振り返るが、特に思い当たることはない。
そういえば何かとスキンシップが多い気もするが、前世では兄弟姉妹がいなかったために、兄妹ならこんなものだとあまり気にしてもいなかった。
しかし、俺は思い知ることになる。
大切な家族で、実のではないが妹で、ご主人であるエデンの妹であるフィーネが、どれだけの思いをもって旅についていこうとしているのかを。
とりあえず、泣きながら部屋を出ていったフィーネを追いかけるべく、痛む体を起こして部屋を出る。
一階に降りると、じいちゃんがリビングに立っていた。
「起きて早々喧嘩か、アルド。二人は本当に仲がいいのう」
「あー、おはよう、じいちゃん。心配かけてごめん」
「気にするな、儂もお前くらいのころは何かとブイブイ言わせてたわい。それよりも、フィーネを追わなくていいのかの?」
「いや、行くよ。あんなに反対されるとは思わなかったけど、納得してもらわないといけないし」
じいちゃんとの会話を終えて、家を出る。
フィーネを探して村中を駆け回るが、なかなか見つからない。
村はずれの池にも行ってみたが、いない。
「フィーネ、いったいどこに行ったんだ?」
「フィーネちゃんかい?」
思わずつぶやくと、村人の一人の耳に入ったらしい。
「ああ、フィーネを探してるんだ。どこに行ったか知らないか?」
「フィーネちゃんだったら、ヌアル平原の方に駆けていったけど」
「……、まさか!」
フィーネが村の外に出るくらい思い詰めてるだなんて気が付かなかった。
聞いた瞬間にヌアル平原に向けて走る。
平原内を駆け、フィーネを探す。
奥地、月影の森入口付近に、フィーネは居た。
それも、ゴブリンと戦闘中だ。
「フィーネ!!」
「来ないで、お兄ちゃん!そこで、見てて!」
助けに入ろうと近づくが、拒否される。
一人で戦うつもりらしい。
だが、相手のゴブリンは三体、俺でも連携されれば苦戦する程度には数がいるというのに、フィーネ一人では無茶だ。
そんな心配も束の間、フィーネはその手に持つウィザードスタッフを掲げる。
「シャイン!!」
スタッフが輝きを放ち、光がゴブリンを灼く。
ゴブリン一体が消し炭になり、ほかの二体が動揺する。
「シャイン、シャイン!!」
その間隙を縫って、再び光が放たれた。
二つの光がゴブリン双方へと向かっていき、一体目同様に消し炭にする。
シャイン。
光で相手を攻撃する、無属性単体魔法攻撃。
ゲームではフィーネがレベル10で覚えられる魔法だ。
自警団として定期的にモンスターと戦っていた俺ですらレベル10程度なのに、フィーネはその俺と遜色ないレベルにまで到達している。
それは、それ相応にフィーネが己を鍛えていた証明であり。
「一体、どうしてフィーネがここまでの力を……」
「お兄ちゃんが旅に出るって聞いた時、私も着いていきたいって思ったの。でも、お兄ちゃんは危ないからって、私を遠ざけようとする。それが嫌だったから、おじいちゃんに頼んで稽古をつけて貰ったんだ」
今明かされる衝撃の事実。
旅に出ると宣言したのは時層が違うことからの鬱から立ち直ってすぐ。
オーガベインと戦う準備期間の前だったから、一か月前ぐらいのはずだ。
フィーネはこの一ヶ月で、俺の自警団としての数年間の経験に追いついたことになる。
いくらじいちゃんが本当は下手なレベル80のパーティーでも勝てないクソ強冒険者だったとしても、流石に理不尽すぎやしませんか……?
「お兄ちゃん、私も一緒に行ってもいいよね?」
「────どうして、そこまで。一緒に行かなくても、定期的に帰ってくるつもりだし、ちょっと会えなくなるだけなのに」
何せ、現時点では旅をするにもレベルが足りない。
最終的には別の大陸に行くつもりではあるが、最初はバルオキーを拠点として、少しずつ活動範囲を広げていって、その過程で時空を越えられればいいと思っていた。
だから旅と言っても定期的に戻っては来るし、そのことも伝えたはずだ。
だから、フィーネがそこまでこだわる理由が分からなかった。
しかし、フィーネはムッとした表情で口を開く。
「お兄ちゃんと離れたくないの!お兄ちゃんと出来るだけ一緒に居たい。────
「……え?」
「お兄ちゃん、大好き。好き。私、お兄ちゃんと結婚したい!お兄ちゃんの隣は私じゃなきゃ嫌だ!!」
「ちょ、フィーネ……?」
どこで何を間違えたのか。
フィーネは取り返しがつかないくらい、兄である俺を好いていた。
「お兄ちゃん、旅の途中で絶対女を引っ掛けてくる。タダでさえ、今もうメイちゃんっていうライバルがいるのに!だから、私も一緒に行って監視するの。お兄ちゃんと一緒に居られて、監視も出来る。一石二鳥だよ!」
「フィーネさん!?」
目にハイライトがない。
完全に手遅れである。
どうして、こうなった?
遠い目をしながら虚空に問いを投げかけるも、答える者はいなかった。
ちょいと遅くなりました。
アナデンの更新された外伝の続きとFGOのボックスガチャ周回してたら時間があっという間に過ぎていった……。
さらに周回、頑張ってきます(次の投稿が遅くなる示唆)