時空を超える猫になったと思ったら時層が違った 作:猫or人間
オーガベインを味方にし、フィーネの愛が重いことを知った日から数ヶ月。
フィーネを劇的に強くさせたじいちゃんの師事に興味を持って稽古を頼んだ結果、フィーネと一緒に旅に出る前の修行をつけてもらうことが日常になっていた。
ある程度強くなったことが実感出来た俺は、本格的に旅を始める準備として幼馴染である鍛冶屋の娘……メイに武器と防具を新調してもらうことにした。
「アルド、ホントにアタシでいいの?」
「ああ、お願いするよ、メイ。俺とフィーネの武器と防具を造ってくれ」
オーガベインはアナザーフォースという切り札。
オーガベイン的には普段使いも出来ないわけではないらしいが、流石に禍々しい大剣を毎回抜いて使用するのは遠慮したかった。
かといって、現在は魔物が活発化する時期であり、親父さんは警備隊用の武具の整備に忙しい。
消去法でメイに造ってもらう事にしたわけだが、乗り気なようで何よりだ。
……この内心を知られたらメイは落胆することになるだろうが、知らぬが仏である。
「オッケー、任せて!材料もあるし、一週間で仕上げるよ!」
「ありがとな、メイ!」
今回持ってきた材料は、修行の過程で手に入れたカレク湿原の素材である。
ゲームにおいては最初の村であるバルオキーと王都ユニガンを結ぶ道程だが、未来・過去を一度経てから行けるようになる場所であり、魔物のレベルは反対側のヌアル平原とは比べ物にならないくらいは高い。
当然そんな湿原の素材で鍛造する武器防具のレベルもそれ相応に高く、片手剣・スパタの装備レベルは21である。
装備レベルを満たしていなければ装備することは不可能だ、それはこの世界でも変わらない。
普通の世界であれば余程重くなければどんな道具だろうと誰だって持てる代物でも、この世界では持てない。
否、"持てない"ではなく、"持っても意味が無い"、だ。
この世界では装備レベルが足りない状態で該当武器を装備することは出来ても、その装備の能力値がゼロになってしまって攻撃力ゼロ・防御力ゼロのクソ雑魚装備に成り果てるのである。
では何故カレク湿原素材製武器を造るのかといえば、修行でそれぐらいには強くなったからである。
じいちゃんに師事した結果がそれほど劇的だったのだ。
今までやって来たことはなんだったのかと自問するくらいには。
そんなこんなで、カレク湿原の素材で鍛造する武器防具……俺用のスパタと銀の腕輪、フィーネ用のクリスタルスタッフとシルバーリングは一週間後に仕上がることとなった。
*
アルドが、武器制作を依頼してくれた。
フィーネのものと一緒にではあるが、今まではお父さんに頼んでたことをアタシに一任してくれたのだ。
武器は自分の命を預ける相棒。
アタシたち鍛冶師は、依頼者のレベルに合った武器防具を全力をもって鍛え上げる。
戦闘中に折れたなんてことが起こればそのまま死に直結するために、熟練した鍛冶師であるお父さんへの依頼ばかりであり、まだ未熟なアタシへの依頼は全く無かった。
私が鍛えた武具は、汎用武器として店頭に並べられるだけ。
お父さんのものと比べれば一目瞭然で、わざわざアタシのものを買うお客さんは少なかった。
そんな中、アルドはアタシに依頼した。
鍛冶師として未だに未熟なアタシの愚痴を定期的に聞いてくれる幼馴染が……お父さんと比べたら拙い剣しか造れないと分かっているはずの彼が、それでもアタシに一任してくれた。
「絶対、最高のものを鍛え上げてみせる」
アルドが持ってきた材料はカレク湿原のもの。
ならば、アルドにはスパタと銀の腕輪、フィーネにはクリスタルスタッフとシルバーリングを造るのが正解か。
────いや。
常識的に考えればそうなのだろう。
現在のアルドとフィーネの実力的にも合う武器防具だ。
だが……。
「問題は、アタシの鍛冶の腕」
未熟なアタシでは、お父さんのような熟練の鍛冶師と同じ物を鍛造しても、適正レベル・攻撃力・防御力全てワンランク下がる。
であるならば、もうワンランク上の素材で鍛造するのがベスト……なのだが。
「アルドと約束した期限までに、全ての材料を揃えてから作業に取り掛かっても間に合わない」
アルドからの指名が、鍛冶師としてのアタシを認めてくれた気がして嬉しくて、気が付いたら納期が決まっていた。
アルドは優しいし、正直に言えば期限を延ばしてくれるだろうが、任せてくれたアルドの期待を裏切りたくなくて、言い出せる気がしない。
では、どうするか。
「……カレク湿原の材料と、在庫がある別の素材を掛け合わせて、まったく新しいものを創り出す」
少なくともアタシが造れるレベルのカレク湿原の素材武器よりも上のランクのものを鍛造しなければならないため、掛け合わせる素材も上のランクでなければならない。
幸い、アルドが持ってきた素材は状態もよく高品質だ。
ある程度ランクが上の素材と掛け合わせても問題はない。
実際、掛け合わせた武器の鍛造に成功してそれを愛用する剣士も存在はする。
では、なぜ異なる場所の素材を掛け合わせた武器が造られていないのかといえば……。
素材同士の組み合わせが嚙み合わず、品質が安定しないからだ。
成功例は非常に稀で、大体は素材に見合わないくらい低品質のものにグレードダウンする。
しかも、今回はアルドとフィーネ二人分の武器防具……四回成功させなければならない。
普通に考えれば博打に等しい。
でも、それでも。
「やるしか、ない!!」
一週間に及ぶアタシの闘いが、幕を開けた。
*
素材をメイに預けて一週間。
毎日のように続くじいちゃんの地獄のしごきを乗り越えた後、武器制作の進捗を聞きに鍛冶屋にやってきた。
もう出来ていれば受け取るし、出来ていなくても急かさずゆっくりでいいと伝えるために軽い気持ちで室内に入る。
すると、メイの親父さんが何か不安そうな表情をして立っていた。
「あれ、親父さん、どうかしたんですか?」
「ああ、アルドか。ここ一週間、メイが鍛造室から一向に出てこなくてな……。扉の前に飯を置いておけばいつの間にかなくなってるから、餓死はしてないだろうが……心配でな」
「ええ!?」
依頼したのは俺だが、そこまで全力で打ち込んでいるだなんて想像していなかった。
俺は親父さんにメイにカレク湿原製の武器防具の政策を依頼したことを話した。
親父さんは少し考えるそぶりを見せた後、一息ついて少し安心したかのように胸をなでおろす。
「なるほどな。あの子にも春が来たってぇ事か」
「春……?」
「何でもねぇよ!だが、納得はいった。ンで、今日はそれを受け取りに来たのか?」
「そうですけど……この様子だと、まだ出来てないようですね。あまり急がなくてもいいって伝えておいてくれますか?また出直しますから」
そうして鍛冶屋を出ようとすると、「待った」と親父さんが呼び止めてきた。
「あの子も頑張ってんだ。おそらく、納期が今日なら必ず今日中に仕上げてくるだろうよ。待ってやってくれないか、アルド」
「親父さん……。わかりました。しばらくここで待ちます」
「ありがとな、アルド」
それから2時間程度待って、鍛造室の扉が開いた。
目にクマを作り、体中ボロボロで汗まみれの満身創痍な状態で出てきたメイの手には、二本の武器と二つの防具が握られていた。
「……おまたせ、あるど。ぜんぶ、できたよ」
依頼達成の言葉を告げた後、意識を失って倒れこむメイを、全身で受け止める。
メイの後ろ……鍛造室の中は、失敗したのであろう出来損ないのものが大量に積み重なっていた。
一週間でこれほど大量に失敗した上で完成品を作り上げた苦労は計り知れないものだっただろう。
「すごい……頑張ったんだな。お疲れ、メイ」
鍛造に成功した四つの装備に圧倒されながらも、俺は労いの言葉を掛けるのだった。
鍛冶屋の鍛造室は一つの部屋に鍛造できる場所が複数ある集団的なものではなく、鍛造室自体が複数ある個室式になっている設定です。