その日、ロドス内はいつも通りの様相を呈していた。
ハイビスカス「ジャーン!、料理が出来たよー。」
アドナキエル「どうぞ、頼まれていた資材です。」
オーキッド「はぁ、今日も疲れた。・・」
いつも通りの料理、いつも通りの労働、いつも通りの愚痴、いつも通りであった。
それが突然訪れるまでは
スピーカー『ーーーピーザザ、ザザーーー』
ヤトウ「なんだ?何処かのマイクが故障したのか?」
12F「確か、ドクターの部屋の予備のマイクが古かった覚えが・・」
ドゥリン「うーるーさーいー!」
『ーーーピーー、ブツン!ーーー』
アーミヤ『ーーー複数のオペレーターが気にしていたので・・』
カタパルト「アッ、直ってきた。」
クルース「良かった良かった 。 」
ビークル「でも会話が丸聞こえだよぉ!」
アーミヤ『ドクター何をするつもりだったのですか!?その手に持っている注射器は何ですか!?答えて下さい!ーーーピーガガ』
全オペレーター「「「!?」」」
エクシア「注射器?」
テキサス「理性回復剤か?」
バイソン「どうしたんでしょう?」
ドクター『ーーーー私をクビにする気ならさっさと言って'欲しい'。喜んで出て行くよ。』
全オペレーター「「「!?」」」
ミッドナイト「それはダメだ!」
プリュム「ダメです!ダメ!」
レンジャー「はやまりすぎだ!!」
ドクター『ーーー、私'に仲間などいない!君達は'過去の私'を求めているんだ!』
ノイルホーン「クソが!」 バァン!!!
スチュワード「とにかくドクターのところへ!」 バァン!!!
ドーベルマン「あのバカが!」 バァン!!!
オペレーター達が一斉にドアを開けて走る。ドクターの狂行を止める為に・・・
ーーーーーーーーーーーーーーー
30分前
アーミヤ「ドクター、コーヒーを入れました。」
ドクター「ありがとう。」
私がロドスに来てからしばらく経つ。私はアーミヤの言う通りにロドスの作戦指揮者として働いている。正直に言ってこの仕事はかなり辛い。いや、仕事というよりこの現状が辛い。
「ドクター?どうしたんですか?ボーッとして?」
「ああいや、大丈夫だよ。」
最初に目覚めた時にいきなり戦闘に巻き込まれて、助かったと思ったら今度は天災に巻き込まれたり、レユニオンに殺されかけたり・・・そして何より、かつての友人が時間稼ぎの為に殺された。・・その友人との思い出すらも思い出せないでいる。
「ドクター本当に大丈夫ですか?、顔色があまりよくないようですが・・・」
アーミヤやケルシー、ロドスのみんなが必要としているのは私じゃない。'過去の私'だ。みんな私が全てを思い出すのを待っている。でも、思い出せない。それが辛い。みんな'過去の私'を待っているのに、無能な私がこうして図々しく生き残っている。
「ドクター?」
「!、ごめんごめん、考え事をしてて、」
急いでコーヒーを飲む。
頭の中がゴチャゴチャしているからなのか、味が分からない。最近頻繁に起こるようになってきている。このペースでいけば半年後には舌が機能しなくなるのではないか?
「ドクター、美味しいですか?」
「!?」
びっくりして顔を上げるとアーミヤと目が合った。・・私を目覚めさせた女性、私の過去を知る女性、私を1人の男として接する女性、過去に見た色々なアーミヤが唐突に浮かんだ。
「大丈夫だよ。ありがとう。」
「?、大丈夫?・・美味しかったなら良かったです。」
危うくボロが出そうになってしまったが大丈夫だ。まだ泣き叫んだり、縋り付いたり、発狂したりはしていない。大丈夫、まだ理性は残っている。
「では、私は仕事があるので行きますね。」
「ああ、ありがとう。」
アーミヤが出て行く、1人きりになれる。
バタン。
ドアが閉まる。1人きり。訪れる静寂、自分らしくなれる貴重な空間、でもまだ足りない。まだ見られてる。
「・・!、急いで操作しなきゃ!」
私は急いでパソコンを操作する。理由はこの部屋の監視カメラや録音装置を誤魔化すためだ。味や臭いが感じなくなったりする様になったころからも何度もやってきた事だ。今更やめられない。
「・・ハハハ、これで何をやってもバレない・・」
私は操作を終えると、部屋の隅に隠してあったダンボールから注射器を取り出した。
「これに加工芥子と源石を加えて・・」
理性回復剤に加工芥子と源石を少量加えて血管に直接流し込む。この方法で使うと一気に気分が良くなって作業に集中出来る。しかし、今の私は作業よりも休息が欲しかったので加工芥子を大量に入れた。
「はぁ、はぁ、や、やるぞ。やるぞぉ。」
芥子は加工するとアヘンという麻薬になるが、この特殊加工芥子と源石の組み合わせは快楽性をかなり上げることが出来ることが最近の実験で判明した。
『記憶のない私が仕事の合間の貴重な休みを麻薬と源石の実験に使って現実逃避をしているようでは、今の私より'過去の私'の方が優秀だったのだろう。とても優秀だと評判の'過去の私'なら、こんな馬鹿な実験はしなかっただろうに。』
「・・!?、違う違う、これからいい気持ちになるのに、何で嫌な事を考えてるんだ!」
いったん射すのを中止して、机の引き出しに隠しておいたポットから芥子入りのお茶をコップ一杯分直飲みする。即効性は無いがコレを飲むと落ち着く・・・
しかし、一度出てきたソレは簡単には引っ込まない。瞬く間に侵食していく。
『本当は自分でも分かっているんだ。早く記憶を取り戻して、'過去の私'を蘇らせなきゃいけないのに、・・怖い、きっと今の自分は消える。せっかく新しく生まれ変わったと思えたのに、新しい人生が待ってると思ってたのに。
私は死ななきゃいけない、だって、みんながそれを望んでいるから。』
「チガウッチガウッ!!ワタシは悪くナイ!ナニモシテナイ!だから私は生きていても良いんだ!」
『何もしていない?お前の指揮で敵を何人殺した?何人の仲間が無駄に苦しんだ?何人の無実な人を死に追いやった?'過去のお前'は強かった。罪を背負う覚悟があった。今のお前は生まれたばかりの赤ん坊。体が大人だから大人扱い、逃げたくても逃げられない。お前はいつかこの苦しみに耐えられなくなり消える。何故なら、お前を求める真の仲間はいないからだ。』
「ヤメロヤメロヤメロ!!キキタクナイ!」
『ロドスのみんなは'過去のお前'を求めているんだ!お前じゃない!』
「ヤメロッ!、ハァ、ハァ、・・な、何もしてないのに幻聴が聞こえる、こんなんじゃ注射しても気持ちよくなれるか分かったもんじゃない!芥子の量をもっと増やさなきゃ・・」
注射器の中の芥子をさらに増やす。当然源石の量も増やす。
(この量じゃ注射器の中に入りきらない。・・仕方ない、面倒だが2本打てばいいか。)
そして準備が完了する。
「ふふふ、こんな量を打つのは初めてだ。・・
よくよく考えたらこの芥子の量、多分これ致死量・・」
ここで私は最悪な事を思いついてしまう。
「このまま打てば死んでしまうかも知れないけど、・・・・・!いや。'私'のまま死ねるんだ。これ以上の死に方は無い!そうに違いない!」
もう生きることに耐えられない。・・いや、'ロドス'で'ドクター'として生きることに耐えられない。だから死んで逃げたっていいんだ!・・そんな言い訳ばかり思いつく自分が嫌で嫌でしょうがない。そんな時にふと思ってしまった。
「・・私が死んだら、アーミヤは、ロドスのみんなは泣いてくれるのだろうか?」
『・・は?』
「え?」
『・・構って欲しいの?』
その瞬間、全身に鳥肌が立つ。余りの事実に両肩を両手で鷲掴みにする。
「ウワッ!ウワアアッ!気持ち悪い気持ち悪い!!結局私は何がしたいんだ!私がこの世界に馴染めない理由をアーミヤやみんなのせいにして、いざ死のうとしたらみんなが悲しむか気にするなんて、・・気持ち悪い気持ち悪い!!」
自分の汚い部分がどんどん浮き彫りになる!自分の存在がどんどん小さくなっていく感じがする!
「早く死ななきゃ!、私は生きていてはいけない人間なんだ!!」
私は机の上の注射器を利き手に持って・・思い切り振りかぶる。恐怖を払う為に眼を瞑る。
「・・さよなら、みんな・・」
そして私は腕を振り下ろ
バァン!!
「やめて下さい!」
「!?」 ガシャン!!
びっくりして振り向くと、アーミヤがドアの前に立っていた。・・振り向いた時に腕が机の上の機材箱に当たり、中身が床に飛び散ってしまった・・
「アーミヤ!?、いつからそこに!?」
「部屋から出てずっとです・・、最近ドクターの部屋の源石と理性回復剤の消費量がおかしいと、複数のオペレーターが気にしていたので・・」
アーミヤはゆっくりと説明してくれた。まるで爆弾処理でもしているかのように・・、とにかく、私に余裕があるように見せなくては
「ハハハハ(苦笑)、感が良いなぁ。」
「ドクター何をするつもりだったのですか!?その手に持っている注射器は何ですか!?答えて下さい!」
「コレ?、コレはね、私だけに幸せを与えてくれるお薬だよ。この薬のおかげで、私は今日まで生きてこれたんだ。この世界で、ね!」
にっこりとした笑顔で誤魔化す。大丈夫・・まだ騙せてる。
「薬で現実逃避することが貴方にとっての幸せですか!」
「ただの理性回復剤だよ。普通より濃いだけだってば。使っても理性が回復するだけだよ。」
「誤魔化さないで下さい!扉の前で最初から聞いていたんです!・・私は貴方を責めている訳ではありません。」
「なら何が言いたい?私をクビにする気ならさっさと言って'欲しい'。喜んで出て行くよ。」
それを聞いたアーミヤが泣きそうな顔をする。・・これでいい・・そのまま私を嫌いになってくれ。今の醜い私を嫌いになってくれ!
「・・どうして貴方は、いつも一人で抱え込むんですか。どうして私達を頼らないんですか。どうして・・・」
・・それを聞いて、・・どこか落胆した自分がいる。やはり分かっていなかったのか、と・・、そんな事を思う私自身がやっぱり嫌いだ
「・・'私'に仲間などいない!君達は'過去の私'を求めているんだ!」
「そんな事・・」
まだ反論しようとしてくるアーミヤに苛立ちを覚えてしまう。
「君が私の話をする時で一番嫌な時が'今の私'と'過去の私'を明確に比較して話をする時だアーミヤ!、いいかい、これだけは言っておくよ!今の私と過去の私がどれだけ似ているか知らないが、"自分"だから分かる事がある!それは今の私と過去の私は全くの別人だという事だ!」
「なっ!、それは言い過ぎです!ドクターの性格や態度は以前と比べても大きな差異はありません!」
以前と比べて・・、アーミヤの言葉に私は確信した。やはり私は昔とは違うのだと・・
「やっぱりか・・、君はいつも私の性格を比較する。でも技量や知識については比べたがらない。・・それは何故か?」
「そっ、それは・・」
「違うから、だよね?・・今の私は昔の私よりも遥かに劣っているんだよ。・・そうでしょ、アーミヤ。」
「ド、ドクター・・」
「だから'私'は、私を救う。'過去の私'が私を殺す前に'私'が私を死へと導いてみせる。」
「・・・・・・・・・」
それっきり黙ってしまったアーミヤ。・・今しかない。今なら2本とも気づかれずに射すことが出来る!
・・・ごめんアーミヤ、最後に君を傷つけてしまって、君の望むドクターに慣れなくて
(まず1本・・・)
後ろ手にして注射する。見えない状態で射す場合、神経が傷つく危険性がある為普通はやらないが・・自殺する時には関係ない・・
(よし、このまま2本目を
ドア「バァン!!」
ドアがいきなり開く!
シルバーアッシュ「そこまでにしろ盟友!!」
アーミヤ「!!!」
「うおっ!!、シ、シルバーアッシュ!?、・・と後ろに居るのはカランド貿易のみんな!?」
突然の来訪にビックリして注射器を落としそうになる。
プラマニクス「身共だけではありません。」
クリフハート「すぐにロドス中のオペレーターがココに集まってくるよ。(にっこり)」
「ロドス中の!?、どういう事!?」
ドア「バァン!!」
ドーベルマン「おいドクター!アーミヤ!、貴様らの会話がスピーカーから丸聞こえだぞ!」
「なっ!?」
慌てて机の上の放送用マイクを確認するが、電源が入っていない・・じゃあ何故?、いったいどういう事だ?
・・ドタバタドタバタ!バァン!!
12F「ドクター!、おそらく予備のマイクが原因です!」
「えっ!?、予備のマイク!?」
反射的に床に散らばった機材を見れば、その中に予備の古いマイクが混じっていた。・・・よく見るとスイッチがオンになっている・・
「・・まさか、アーミヤが入ってきた時からずっと・・?」
ドア「ガチャ」
エクシア「そういう事だよ、ドクター。」
テキサス「ドクター、どうして黙っていた!」
ソラ「まぁ、ドクターはそういうタイプだよねー。」
いつの間にかドア付近が大量のオペレーターでごった返していた。・・もう自動ドアが開けっぱなしになっている。
バイソン「ドクター!、おちっ、落ち着いて!、冷静に!冷静に!一から話し合いましょう!わた私も相談に乗りますから!」
モスティマ「落ち着くのは私達の方さ、ねぇ、バイソン?」
クロワッサン「いったいどういうことやドクター、いきなり出て行く言ぅなんて、最初から説明しぃや。」
(ん?、出て行く?・・私が自殺しようとした事は知らないのか?・・あれ、みんなはどこまで知っているんだ?)
チェン「過去の君がどうしたというんだ?、説明してくれ。」
ホシグマ「それより注射器の没収です。ドクターは致死性のある液体が入った注射器をいまだ所持している可能性があります。」
ブレイズ「そうなのドクター!?」
(!・・よし、みんなまだ事態を完全に把握出来てない。今しかチャンスはない!)
「・・分かったよ・・降参だ。コレがその注射器だよ。コレを使って何をしようとしたかはアーミヤが全部説明してくれるよ。」
そう言って使っていない方の注射器をみんなに見せる。そしてそれをホシグマに渡し、ついでに散らばってしまった機材を拾い集める。
アーミヤ「では、皆さんのために最初からご説明いたします。」
そしてアーミヤが説明を始めた。
(よし、この隙に・・)
機材を机に置いた後、機材を箱に移す作業をする。この時、箱とドクターの体が邪魔となり、腕がみんなから見えなくなる。
(はは、計画に支障なし・・)
私は今、自分の腕に注射器を射している。中身はオリジナルの理性回復剤、当然芥子や源石が含まれており、今のドクターでは致死量に達してしまうだろう。
(ふふ、常日頃から注射器を机の上に出しっぱなしにしておいて良かった・・おかげでこうして、みんなを出し抜く事ができる!・・でも)
みんなの顔をチラッと見る。みんなアーミヤの言葉に聞き入っている。あのシルバーアッシュでさえ、私の行動に気づいていない。
(申し訳ないシルバーアッシュ、私との対決を楽しみにしていただろうに、自分勝手な理由で逃げ出してしまって・・)
アーミヤの説明が終わり皆が私の方を見る。どれもこれも驚きや悲しみに満ちた目をしている。
シャイニング「ドクター何故ですか、どうして私たちに相談してくれなかったのですか?」
・・・出来るわけがない、私の言い分は詰まるところ、『私は以前のドクターの真似事をしながら生きていくのが嫌だから自殺します。』という事である。こんな内容を誰に相談しろと言うのか?
「・・相談してどうなる?こんな事を相談したって相手が困るだけだと思っていた。ドクターとしての立場を捨てて自由になる事をロドスは許さない。'ドクター'はどこまでも私をロドスに縛り付ける。・・だから、私が殺して救う。私を自由にして、ロドスから解放する。それが私の願い・・」
ケルシー「ふざけるな!!」
「!!?、ケルシー?」
いつの間にかケルシーがアーミヤの横にいた。その目からは怒りや憎悪が感じられる。
ケルシー「お前はドクターだ!お前が認めなくても世界はドクターだと決めつける!」
凄い勢いでまくし立てながら近づいてくるその姿は普段からは想像もつかない姿だった。
ケルシー「お前は世界中から期待されている存在なんだ!良い意味でも悪い意味でも!何よりお前はロドスのドクターだろ!」
私の前に来た彼女が今度は胸ぐらを掴む。
ケルシー「お前はもうロドスのドクターとして多くの決断を下してきただろ!それを全部放棄して逃げるつもりなのか!お前が救った人達の期待も、お前が切り捨てた者達の悲哀も、お前が殺した者達の憎悪も、全部捨てる気なのかと言っているんだ!」
言い終わるやいなや彼女は私の体を思いっきり床に叩きつけるように押し倒した。腰からイッて次に背中、最後に頭がぶつかった。・・すごく痛い。
「・・フ、フフフ、アハハハハ!、貴女ならそういうと思いましたよ。」
床に転がったまま話し続ける。立つのも億劫だ。
「・・そうですね。それは全て私がドクターのフリをして選んだものです。『ロドスのドクターならこうするだろう、ああするだろう』と予想して、みんなの、いやロドスの理想を私なりに体現し続けてきました。」
まだロドスにきて間もない頃、私はアーミヤやサベージなどの'ドクター'をよく知る者達から基本の情報を集め、過去のログや戦闘記録から'ドクター'の思考や技術を100%再現しようとした。
「私は努力したんですよ。何も分からないなりに・・それでも、ドクターには及ばなかった。技術も知識も足りなかった。・・自覚してからはただただ辛いだけでしたよ。何で生きているのかもよく分からないまま、敵を倒して殺してを繰り返して、いつ終わるかも分からない研究に追われて・・もう疲れたんですよ。'ドクター'の責任を私が背負わされる事に。」
床「ドォン!!」
言い終わったとたんケルシーが床を思いっきり踏む!部屋全体がゆれる・・
ケルシー「そんなふざけた理由で死ぬ気だったのか!?お前が死んだらロドスのみんなはどうなる?お前を信じてついて来た人の想いはどうなる?・・またアーミヤを置いて行くのか?」
ああやっぱりか、と思った。この人は個より全を優先する。私の個人的な意見より、ロドスの円滑な機能の維持を優先する。まさに[上に立つべき人間]、といったような人だ。
「貴女には分かりませんよ・・、籠の中の自由に満足出来ず、自分の意思に関係なく大義のために使いつぶされる雑魚の気持ちなんて・・・」
ケルシー「っ!?、お前は、・・お前は・・」
ケルシーが苦い顔をしながら絶句している。・・これでいい、このまま私の情けない姿に諦念して海にでも投げ捨ててくれ。・・情けなさ過ぎて今すぐ死にたい。
ヤトウ「・・・ドクター、一つ聞いてもいいですか。」
「ヤトウ?、・・いいよ、どうせ最後だし何でも聞いて。」
ヤトウ「貴方は私達オペレーターの事をどのように思っていましたか?、以前のドクターは、貴方ほどオペレーターに気を遣ってはいませんでした。それはドクターの真似をしていた貴方だって分かっていたはずです。そしてドクターの真似を諦めた後も貴方は自分なりに頑張り続けた・・何故!?、貴方はもっと早くに潰れていてもおかしくなかったんです!!、どうして、そんなになってまで私達を、ロドスを助けてくださったのですか!?。」
そう言ったヤトウは泣いていた。普段から仮面で表情を隠していたあのヤトウがハッキリと涙を流している。
「・・嫌だったからだよ。」
ノイルホーン「嫌だった?」
「嫌だったんだよ。みんなが私みたいに死に急ぐのが、・・私はいいよ、元々死んだようなものだったから。でもみんなは違う。鉱石病に侵されても、身体の一部が無くなっても、社会に拒絶されても、みんな願いを持っていた!、意思も欲望も、希薄だった者もいたけどちゃんと持っていた!。だから生きる価値がある!私と違って生き物としての矜持を捨てていなかった!・・・私が君達を生かす事で世界にどう影響するのか知りたかった。そうする事で、奪ってばかりだった'ドクター'を越えられると思った。・・はっ、(苦笑) ホント馬鹿だよ私は、超えるとか倒すとか、そういう風に比較してる時点で、心の中で負けを認めてるって事なのになぁ。・・・ホント馬鹿だよ・・」
ここまで全部ぶちまけると、私は情けなさすぎて、もうみんなの顔を見れなくなっていた。・・よくよく考えると、寝転がって天井を見ながら何をやっているのだ私は。
グム「そんな事無い!!」
「!?、グム?」
グム「ドクターは、貴方は馬鹿じゃない!!」
グムの宣言と同時にウルサスの皆が前に出る。
イースチナ「その通りです。貴方は逃げなかった。過去の自分が犯した過ちから逃げずに向き合い、自分らしく生きようと努力した!自分の事で精一杯なのに私達の事情に向き合ってくれた!、貴方こそ本当に生きるべき人間なんです!」
ロサ「貴方は私達の重荷を一緒に背負ってくれた。だから今度は私達の番よ。貴方が抱えているものを私達が背負う番。」
ズィマー「だからさっさと起きやがれ!組織のトップが床に寝転がりながらいじける様なんて見てらんねぇんだよ。(笑顔)」
・・・・・ハハハ、みんな本当に良い子ばかりだ。こんなどうしようもなくダメな奴に手を差し出してくれて・・ハハ、こうなる前にもっと早く相談すれば良かったなぁ。
ズィマーの手を借り立ち上がる。
「・・みんな、ありがとう。でもね、もう遅いんだ・・何もかも」
最後に・・今自分が出来る最高の笑顔でみんなを一瞥する。
レイズ「もう遅い?」
ブリーズ「何もかも?」
ブローカ「どういう意味だ?」
「ぐっ!」
アーミヤ「ドクター?」
「うっ!、ぐふぉっ!ぐえぇっ!(吐血)」
吐血と同時にうずくまる。多量の芥子を脳がウイルスと認識して攻撃している。しかし芥子は身体中に広がっている為、全身で様々な炎症や中毒が発症。それを体内の源石が加速させ症状は急激に進行している。もう少し耐えられると思っていたけど、ここが限界か。
エステル「ドクター!?、ドクター!」
ムース「えっ!?、えっ!?」
プリュム「えっ!?あっ!?うわっ!?いやっ!?」
「ゲホッ、ゴホッ、はぁはぁ、ハハ、情けない、もう立ってられないとは・・」
そう言いながら前のめりに倒れそうになる。それをアーミヤが抱き止める。その衝撃でまた咳き込む。・・持っていた空の注射器が2本とも転がり落ちる。
アーミヤ「ドクター!?、まさか、いつの間に!?どうして!?」
「ゴホッ、カハッ、・・ハハッ、ごめんねアーミヤ、昔のドクターになれなく、グゥッ!?、カッ!?、はぁはぁ、はぁはぁ。」
言い終わる前に肺が痛くなり、息を吸う事も難しくなってくる。
アーミヤ「ドクター!お願いです!死なないで!お願い・・・」
ケルシー「どけお前ら!早く医療器具を!早く!」
クロージャ「手術室の準備を!さっさとして!」
ああ、もう意識が遠のく。最後に何か言わなきゃ。
「ごめ、ゴホッ、ゴホッ、み、な、はぁはぁ、じゆぅに、はぁゴホッ、いき、て。」
言い切った途端、周りが一気に暗くなる。ああ、いよいよかぁ。結局私は何のために生まれてきたのだろぅ。
アンジェリーナ「ドクター!嫌!死んじゃ嫌!」
シージ「ドクター!貴様!こんな所で終わる気か!」
ケオべ「やだやだやだ、ドクター死なないで!」
ああ、最後にこんなに沢山の人に看取られるとは・・
ああ、うれしいなぁ!・・・
その後、ロドスのオペレーター達が全力を持って治療にあたったが、努力も虚しく、・・・'ドクター'の心臓は止まった。
約二週間後
*何処かの艦内*
そこはロドスの医療用の部屋を小さくしたような内装になっていた。複数のベットが用意されており、どれも清潔感が漂っていた。
その部屋のベットの1つに一人、横たわっている者がいた。
「・・・?、えっ・・生きてる。」
おかしい、私は確かに、血反吐を吐いて無様に死んだはず。
ランセット2「ドクター!、ドクターが目覚めました!」
キャッスル3「大丈夫ですかドクター!?、何処か痛い所はございますか?」
「ランセット!キャッスル!・・えっと、此処は・・?、いやっ、今何日!?、あれから何日経った!?私の体はどうなった!?」
ススーロ「そういう事は私が全部教えるよ、ドクター。」
そう言ってススーロが自動ドアから部屋に入ってきた。目には酷い隈がある。
「ススーロ!?、・・他のみんなは!?、アレからどうなった!?」
ススーロ「落ち着いてドクター。全部話すから。」
ランセット2「ススーロ様、貴方様もずっと働き詰めです。少し睡眠を取られた方が・・」
「大丈夫だよ。すぐに終わる。」
そう言って彼女は話し始めた。
ススーロ「2週間前のあの後、私達はドクターを全力で治療した。まず輸血して血管内の源石を取り出したんだ。幸い摂取した量が少なかったから鉱石病にはならなかったけど、後少し量が多かったら死んでたから、次はないからね。(ニッコリ)」
ススーロが冗談めかしに言っているが、目が怒っていた。もう二度と源石には近づけさせないという意気が伝わってくる。・・善処しなきゃ(使命感)
ススーロ「今度は臓器の損傷をアーツで治して、最後に脳の炎症や中毒症状をアーツで弱めていったんだけど、ドクターの摂取した芥子の量が多すぎてケルシーやミルラ、パフューマー達が一生目覚めないかもしれないって・・」
「そんな事が・・」
「そこからのロドスはもう悲惨の一言に尽きるね。アーミヤはずっと部屋に引きこもって泣いてるし、イフリータやケオべは泣きながら訓練施設で暴れ回って壊し回るし、テキサスとラップランドが顔を合わせるたびに殺し合いに発展するし、ウルサスの子達は自己嫌悪で吐きまくるわ食いまくるわ自傷するわでめちゃくちゃだったよ。」
「それは・・そんな(絶句)」
「ヤトウやノイルホーンなんて『私の弱さが招いたんだ。』『俺がもっと強ければこんな事にはならなかった。』って、ほら、行動隊A4のみんなって他の隊に比べて撃たれ弱かったでしょ。それで思い詰めちゃって、ずっと訓練所で訓練し続けだからいつも血塗れで、いつも側に医療オペレーターがついてたよ。・・他の行動隊のみんなはいつも通り、いや、ドクターが来る前のいつも通りの状態に戻ったよ。みんなを指揮してくれる人がいなくなって、勝つ事より逃げる事を優先してる。みんないつも死にそうな顔で帰って来るんだよ。」
「分かった!、もう分かったから、みんなに合わせてくれ!」
「会ってどうするの?」
「え?」
「会ってどうするの?・・こんな事言う資格なんて無いけど、自殺しようとしたドクターが今更みんなに会って何する気?またみんなの前で自殺するようなら全力で止めるよ。」
「違う!みんなに会って謝るんだよ!私の所為で傷つけてしまったなら、その分の傷は治さなきゃいけない!」
「そうやって治した後にまた自殺する気なんでしょ!絶対にロドスには行かせないからね!」
その言葉に疑問を覚える。
「?、ロドスに行かせない?・・えっ!?、此処はロドスじゃないの?」
それを聞いたススーロはハッ!として、やがて泣きそうな表情になっていき、頭を掻きむしる。
「!!、ああ、そうだった!ドクターが一番苦しんでたのに、せっかくドクターの為にここまで来たのに、私は病人に、ドクターになんて事を!」
そのままススーロは床に崩れる。そして察する。ススーロの傷だってまだ癒ていない事に。・・慌てて近寄り抱きしめる。
「ごめんね。ススーロ。私の所為でロドスをおかしくしてしまって。きっとススーロも、みんなのメンタルケアの為に駆けずり回ってくれたんだよね?、最初に謝らなきゃいけなかったのは私なのに、偉そうに質問なんかしてごめんね。」
「グスッグスッ、悪いのは私なんだ。ドクターの事をなんでも分かったつもりでいて、何にも分かっていなくて、気付いた時には手遅れで、手術の時ですらアーツも技術も低い私が手伝える事は何も無くて、結局出来たのは誰でもできる雑用だけで・・」
「ごめんね、ごめんね。もう大丈夫だから。」
「ドクター、ドクター、お願い、生きて、幸せになって、お願い、死ぬなら、私も、一緒に・・」
「ススーロ・・」
しばらくして・・
シルバーアッシュ「あー、ゴホンッ、もう大丈夫か、盟友?」
そう言って入って来たのはシルバーアッシュだった。ここの自動ドアはロドスのと違ってロックが顔認証になっているっぽかった。
「シルバーアッシュ、もう少しだけこのままでいいかな。」
シルバーアッシュは笑顔で頷き
シルバーアッシュ「・・キャッスル3、終わったらまた連絡を・・」
キャッスル3「かしこまりました。」
そう言って部屋を出て行った。
(あの二人{シルバーアッシュとキャッスル3}、仲良さそうだっなぁ。・・ちょっと意外)
十五分後
「もう大丈夫?」
「うん、大丈夫・・だよ。ありがとう、・・・よし、行こうか。外に。」
「えっ?、でもまだシルバーアッシュから説明を・・」
「私が歩きながらするよ。シルバーアッシュには連絡しておく。まあ、実際に見てもらった方が分かりやすいし、みんなも待ってるし。」
「みんなが、待ってる・・・」
「大丈夫だよドクター。私がついてる。」
そう言ってドアの方へ向かうススーロ、そのドアを開けるランセットとキャッスル、
「「行ってらっしゃいませ。」」
二人に見送られながら、私は一歩先へ踏み出した。
ススーロ「ドクター、この階段の先が屋上だよ。」
「割とすぐに出られるんだね。」
「ロドスより少し小さいからね。」
「へぇ・・!、じゃあ此処も、ロドスと同じ移動都市?」
「そうだよ。元々は天災の研究目的で作られた試作型の一つなんだって。」
「研究目的?、かなり前にライン生命が独自に作ったっていうあの?」
「そっ。天災が発生したら真っ先に駆けつけられるようにスピード重視で設計されてる。今はゆっくり動いてるけど。」
「?、でも大丈夫なの?都市を速く移動させられるなら、その分軽いよね。簡単に壊れたりしそうで怖いな。(冗談めかし)」
「その通りだよ。というか、そのせいで一回捨てられたからね。この都市。」
「え?」
「天災の観測をしていた研究者のリーダーが、『中心地にもっと近づけ!』って命令したらしくてさ。そしたら急に天災の勢いが激しくなって、スピード重視の軽い外壁は崩壊。研究員達は、雇っていた天災トランスポーターに抱えられて逃走。置き去りにされて汚染された移動都市だけが残ったよ。・・それをいち早く買い取ったのがシルバーアッシュって事。」
「なんか、意外だな。天災の中を走って逃げ出すくらい壊れてしまったのなら、直すのは大変だったろうに。」
「ふふ、それがそうでもなくてね。壊れたのは居住区や外壁とか、壊れても直しやすい所ばっかりだったらしくてね、当時の最先端の技術が結集した研究設備だけは無事だったらしいよ。」
「へぇ、じゃあ安上がりで済んだんだ。」(関心)
「そうらしいよ。・・それから改良を施して、速さは変わらずに、より硬く堅固な壁に改修したんだって。」
「流石シルバーアッシュ、色々やってるなぁ。」
そうこう話しているうちに屋上への扉の前に辿り着く。
「・・さあ、ドクター。久しぶりの外だよ。」
そう言ってススーロは扉を開ける。扉の隙間から漏れ出る光に目が眩む。
扉「ガコン!」
「うっ、くぅ・・!、・・おぉ!(感嘆)」
扉の先は見渡す限りの青空と白いタイルの床が広がっており、その境界をフェンスが区切っている。他にも椅子やテーブルが置かれており、オシャレであった。
「ドクター、久しぶりの外はどう?」
「・・・凄く良いよ!、感動した!」
最近は仕事に追われて夜にしか屋上に行かなかったため、昼の景色が新鮮であった。
「それは良かった。他のみんなも気に入っているから、待っていれば誰か来るんじゃない?」
・・?、今のススーロの言葉に疑問を覚える。思い返してみると、さっき目覚めた時から違和感はあった。
「・・他のみんな?、みんな此処にいるの?、ん?あれ?、・・そういえば、なんで私は此処で治療を受けてたの?、ロドスじゃダメな理由があったの?」
私はてっきり、みんなが治療用の特殊な施設を用意してくれて、そこでひっそりと治療されていたと思っていた。しかし、それにしては設備が足りない。歩きながら見た感じでは、研究用の設備しかなく、医療用の設備も有るにはあるが、明らかに足りない。学校の保健室に救急車の機材を付け加えたぐらいしかない。
何より、此処はロドスからかなり離れている。・・今いるこの地点は、2週間前にちょうどロドスがあった場所だ。あれからロドスが予定通りに移動したのなら、200kmは離れている計算になる。これでは、お互いの都市に異常が発生してもすぐに助けられない。こんな事をケルシーやアーミヤが許すだろうか?
「・・ドクター、今から話す事は、ここ2週間で起きた本当の出来事だから。嘘じゃないからね。」
「う、うん。」
そう言ってススーロは椅子に座る。私も対面席に座る。
「まず最初に、2週間前にドクターの手術が終わって体調が安定した。切開した切り口はアーツで消えて、もし激しく身体を動かしても傷口が開く心配はなくなった。」
「うん。」
「そしてその日の夜、シルバーアッシュがシージ、ホシグマ、ズィマー、モスティマ、サイレンス、リスカム、スカジの7人を集めて、ある作戦を立てたんだ。」
「?、・・あ!?、ロドスでリーダーシップがありそうな人を集めたのか!?・・何のために?」
「・・・ドクターを解放するため。」
「えっ?」
「ロドスに飼い殺しにされているドクターを解放して自由にする。シルバーアッシュは、以前から息苦しそうにしていたドクターを自由にしてあげたいと、考えたり思ったりしていた人たちを見定めて、その中で司令塔として動ける人達を集めたの。そしてドクターをロドスから連れ出す作戦を練った。」
「え?、・・ロドスにいた私はそんなに辛そうだった?」
それを聞いたススーロは顔を下に向けて黙ってしまった。
「ススーロ?」
「・・'私'はドクターの顔をなかなか見せてもらえなかったから分からなかったけど、一部の人達は気づいていたみたいだね!(半ギレ)」
「え!?、あ、うん、ごめん?」
「と、とにかく!、計画は成功した。監視カメラとかの防犯設備はクロージャが誤魔化してくれて、無事にドクターを運び出す事が出来た。ドクターの身代わりは、他の協力者達が合作したドクターそっくりの'人形'を置いたから当分バレないよ。」
そう言ってニコニコ笑う彼女からは、心の底から今の状況を楽しんでいるのが伝わる。
「嬉しそうだね。」
「そりゃそうだよ!、これでもうドクターはロドスの使命に追われる事はない!ドクターは自分のペースで仕事を続けられる。」
「仕事・・?」
「うん、この移動都市だって維持するだけで数百万かかってる。ドクターはこれからも研究はする事になるだろうけど、ロドスにいた時程忙しくなくていいし、もう前線に出なくていいんだよ。ドクターが望むならずっと研究室に篭りっぱなしでも良いし、雑務は他人に任せて研究に集中していい。少なくともロドスにいた時よりはずっとマシなはずだよ。」
「・・そう・・だね・・」
「えへへ(ニッコリ)」
ここまでの話を聞いて、正直私はとても嬉しかった。私の為にここまでしてくれるなんて思いもしなかったから、だけど・・
「・・あのさ、私の為に沢山の人達が頑張ってくれたのは伝わるし、嬉しいよ。・・だけどさ。」
「・・・ドクター?」
「みんなは'私'が生きていないと困るから助けたんだよね?、私がこれからも鉱石病の研究を続けることを期待してさ。」
結局のところ、みんなは私が研究を続ける為に必要な新しい環境を提供しただけ、私を利用したいだけなのではないか?その疑念がずっと晴れないでいた。
「・・ドクターそれは違うよ。私達はドクターを利用したいんじゃない。」
「じゃあ何で・・」
シルバーアッシュ「そこから先は私が話そう、盟友。」
「シルバーアッシュ!?」
いつの間にかシルバーアッシュが後ろに立っていた。流石猫科?足音を消すのが上手い。
「構わないか?ススーロ。」
「・・構わないよ。私はみんなを集めに行ってくる。みんなドクターの顔を見たいだろうから。」
そう言って駆け足で行ってしまった。
「さて、利用したいのかそうじゃないのか、という話だったか?」
そう言いながらススーロの座っていた椅子に腰掛けるシルバーアッシュ。
「そうだよ。みんな'私'が今まで通りに研究する事を望んでいるんじゃないの?'私'が鉱石病の治療法を開発することを期待してさ。(不貞腐れ)」
「・・ふーむ、どう言ったものか・・そうだな、彼女・・ススーロが何故盟友、お前に付き従っているか分かるか?。」
「・・身近な人間の中で一番利用しやすかったからじゃないかな・・」
違う、そんな事は全く思っていない。先程私は彼女の慟哭を聞いた。彼女は本気で私と共に歩いて行く覚悟があると知っている。それでも、だからこそ、そんな彼女に自分は及ばない、釣り合わない能無しの役立たずだと思ってしまうから、彼女の決意さえ否定して汚してしまう。嗚呼、どこまでいっても汚い自分に嫌気がしてくる。
「卑屈も行き過ぎると相手に対する侮辱に聴こえるぞ盟友。この際だからハッキリ言おう。・・私がお前と出会ってすぐの頃、私はお前の事を軽んじていた。ロドスのトップ3の内の一人がこのような甘い者で良いのか?と、記憶喪失の人間に務まるのか?と、このドクターを名乗る者は影武者なのではないか、本物が裏で糸で遊んでいるのではないか、とさえ思った。」
内心爆笑してしまった。思わず笑みが溢れる。裏で本物のドクターが糸を引いてる・・今の私はただの道化・・本当にそうだったらどれほど良かっただろうか。
「だがその認識はすぐに覆された。お前は戦場でも仲間の命を守りながら目的を果たすための指示を出し、勝ち続けてきた。戦場から戻れば報告書を作成、オペレーター達のメンタルケア、鉱石病の研究、次の作戦のための会議・・私は記憶喪失という精神障害の人間が、これ程の業務をこなしている事に恐れすら感じた。せっかく手に入れた休日もロドスのために全て返上し、何日も不眠のまま働き続けるために、理性回復剤を過剰摂取し中毒と依存症になってしまった狂人。それが私の第2印象だった。」
・・意外だった。まさかシルバーアッシュが私にそのような・・恐れを抱いたとは思わなかった。
そして、客観的な意見を言われて初めて気づく・・・私の仕事多すぎるよ。
「だからこそ!私は知りたかった! この狂人は何を糧にしているのか。この奴隷を奮い立たせる魂の慟哭を聞きたかった!」
シルバーアッシュが凄く興奮してる。まるで子供が初めて鯨を見た時のように。
「・・それで?、どうだった?、薬物中毒者の泣き言は?」
そう言うとシルバーアッシュはしばらく沈黙した。きっと色々な事を思い出し、それを順序立てて説明するつもりなのだろう。
「・・すまなかった・・」
その発言にびっくりして顔を上げる。シルバーアッシュは悲しそうに目を伏せていた。
「お前にエンシアやプラマニクスを押し付けて、私はお前の抱えている問題を何一つ解決できていなかった。表面上の仕事ばかり捌いてばかりで、お前の過去への恐怖に対して何もしてやれなかった。」
そう話すシルバーアッシュの顔は悲しそうではあるが、どこか悔しがっているようにも見える。まるで競争で1位を逃した子供のような・・
「お前の問題を解決できるのは私以外にいないなどと断言しておきながら、気づいた時には終わっていた・・ただただ情けない・・」
・・俯いて黙ってしまった。尻尾もしょげている。いやそんな事より・・
(ん?・・私は結局、みんなからどう思われてるんだ?)
気になって声をかけようとして、思いがけず止まる。急に視界が暗くなった。・・誰かが後ろに立ち、私の顔を小さな手で塞いでしまったようだ。
??「だーれーだ!?」
「・・・・クオーラ?」
クオーラ「だーいせーいかーい!」
振り返るとクオーラが立っていた。解けた両手は私の両肩へ向かう。
「えへへぇ、ドクターが元気になって良かった。もうどこにも行かないでね、ドクター。(にんまり)」
「ふふ、わざわざ釘を刺さなくても大丈夫だよ。・・私はどこにも行けないよ。」
「ならよかった。」
顔は笑っている。しかし、目が・・据わっている?とでも言えばいいのか?、よく分からない複雑な感情が瞳に表れていた。私の両肩が痛い。何があっても離さないという不屈の意思を感じる。・・とても怖い。
(シルバーアッシュ!!、シルバーアッシュに助け舟を!)
「そうだシルバーアッシュ!、さっきの話の続きを・・」
そう言ってシルバーアッシュの方を向くと、彼は険しい顔でタブレットを見ていた。
「すまない盟友、得意先の企業から緊急の連絡が入った。少し外す、後の事は彼女(クオーラ)に聞いてくれ。」
そう言って駆け足で行ってしまった。
「ん?どうしたのドクター?ボクに聞きたい事って何?」
そう言って私の隣の席に着くクオーラ。
「いや、その・・ここに居る皆は何で私を選んだんだろうって。」
「うーん、それはボクにも分からないなぁ。みんな怖い顔して悩んでいたから真剣に考えた結果だとは思うけどね。」
「クオーラはどうして?」
「ボク?、ボクはドクターと一緒にいたいから!」
「何で私と一緒にいたいの?」
そう言うとクオーラは満面の笑みで「ドクターが一番の家族だから!」と言って話し出した。
「ドクターと出会った時、ボクには記憶が無かった。何にも分からない無力な子供だったんだ。」
そうだ、彼女を初めて発見したのはクルビアの小さな町、そこで停泊していた時ロドスの甲板で昼寝をしている彼女を発見したのが始まりだった。
「そんなボクに住む場所をくれて、病気も診てくれて、本当の兄弟みたいに接してくれて、ボクはうれしかったんだ。」
「それでも、他にも仲の良い友達は沢山いただろう?どうして私なんかに・・」
「ドクターは家族だから!ボクと同じ記憶喪失で苦しんでいるのに、他の人たちを優先して、自分ばっかり傷ついて、ボクは家族なのにドクターの仕事を手伝う事さえ出来なくて・・」
そこまで聞いて私は少し分かった。ススーロもシルバーアッシュも言っていた ”手伝う事、助ける事ができなかった。” という後悔があった、彼らは私に助けられてばかりで何もしてあげられなかった、と感じているようだ。・・そんな事、いちいち気にしなくてもいいと、こうなる前に言っておけば良かったな・・
「だからせめて、ボクだけでも傍にいるんだ!何の役に立たなくても、一人ぼっちになんかさせない!・・だからドクター、安心して?たとえ世界が敵に回っても、ボクだけはずーっと傍にいるから・・ね?」
ススーロ「そういう事だよ、ドクター。」
その声にびっくりして振り返るとススーロが立っていた。・・なぜ私の背後は簡単にとられてしまうのだろう。
「みんなドクターに幸せになってほしいだけなんだ。このままずっと遠くに逃げる事だってできるし、今はまだ無理だけど、ほとぼりが冷めて、ドクターが望むならロドスに帰ったっていいんだ。」
「そう・・なんだ・・」
「今度はアーミヤやケルシーじゃない、ドクターが決めるんだよ!この先の人生をどうするか!・・今はそれまでの猶予期間、ドクターは今は休んで、好きに楽しんで、生きたいって思えるようになるまで回復する事!いいね!」
「あ・・ふふ、はい!」
「ふふ、じゃあ行こう・・みんなが待ってるよ。」
ススーロに手を引かれて、私は皆の元へ向かう。・・正直、まだ頭の中はごちゃごちゃしているし、不安も薄っすらあるけど、少なくとも私は・・怖くない。たとえこのまま過去の私に乗っ取られることになろうとも、’私’はもう、やりたいことをやり終えていたようだ。
(まあ、生きたいとは思えないけど、それでも、みんなと一緒にいたいって気づけたから・・いいか)
私は、私の存在を誰かに覚えていて欲しかったんだ。たとえ私が死にそうになっても、傍で看取ってくれる存在を、涙を流してくれる存在を・・
(ありがとう、シルバーアッシュ、クオーラ、ススーロ・・そしてみんな。私は幸せだ。)
もう不安はない。’私’は、’私’を残せたのだから・・・
END