希死念慮   作:オコゲ

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桃源郷

パチ、パチと炎が燃える音が聞こえる。

炎の上には陽炎が浮かび、そこだけ世界が歪んでいるような錯覚を覚える。

もしかしたら本当に歪んでいるのかもしれない。

・・・

俺は昔から陽炎の事を鏡の様だと感じていた。みんなも一度は経験したことがあるであろう。真夏の暑い日にふと前を見ると、かなり先の景色の空間が揺れ動く様を。

俺は長年お世話になっている激安スーパーへの行き道の中に、長い登り坂があるんだが、真夏の気温が高い日にその道を通るといつも少し先の空間がボヤけている。俺はそれを見る度、そういや前もこのような景気を見たなぁと思ってしまう。そしてそれと同時に、その時の俺はどんな気分で、何を買いに、そして何を作ろうとしていたのかを考えてしまう。無駄な事とはわかっていても、どうしても気になってしまう。そのように、見る度に俺自身の事を考えてしまう様が、鏡を見て昨日の俺の方がカッコイイなとか、だけど一昨日の俺よりはカッコイイからこれで良いかとか、若い頃はもっと皺が無かったのになどと考えるのとまるで同じ様に感じてしまうのだ。そんな事考えるだけ無駄なのだ。今は今、昔は昔。だがこれは勿論個人差にもよるが、俺は少なくともそう感じてしまう。

今もそうだ。炎の上の鏡を見て、こうなる(転生する)前の俺を思い出してしまう。思い出しても無駄だ。ただ悲しいだけだ。だが、考えてしまう。あぁ、本当にソックリだ。

 

 

(アカンアカン、こんな考えは忘れとけ!)

 

 

そうだ、これからお楽しみ(・・・・)が待っているのだ。こんな考えを忘れるために陽炎の下を見る。

そこには、桃源郷()が聳え立っていた。昔培った動物の血抜きの経験が味方し、先程とった鹿を上手く捌くことが出来た。肉汁がポタポタと炎の中に零れ落ちる度、炎の勢いが増していく。圧倒的な視覚の暴力によって脳を掻き回されるが、まだ終わらない。

次の刺客は桃源郷()から漂う黄金(肉汁)気配(匂い)

 

(嗚呼、こらアカン・・・。)

 

限界まで精神をすり減らし、リスのようにずっと木の実や果物を食べていた今の俺からしたらこれは救いの手ではなくて、もはや悪魔の手だ。

この身体(アンリマユ)になってから五感が増したのか、それとも極限状態なのか分からないが、何時もより何倍も嗅覚が鋭い。なので分かってしまう。この桃源郷()素晴らしさ(美味しさ)を!!

視覚と嗅覚からの余りの情報量の多さに、遂に頭の中が爆発した。

 

 

 

「ア、ア、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」

 

 

 

─ウッセェ・・・。

 

 

頭がクラクラする。やはり俺にはまだ桃源郷()は早かったのか・・・・・・?

 

・・・

 

 

いや!そんな事は無い!!もしそうだとしても、俺はこんなにも頑張って来たんだ!だったらご褒美くらい欲しくなるのは人間として当たり前だろう!!何が悪い!!

 

 

タチの悪い妄想を否定するために勇気を振り絞り、丁度レアっぽい感じになって来た肉を手に取ると、そのまま齧り付く。

案の定、頭の中が爆発した。しかもそれはただの爆発ではない。そう、例えるなら無限に広がる宇宙で起こるビックバンの様な・・・。

 

 

 

 

 

「アアアアィィィィイイイイェェェェエエエ!!!!!」

 

 

 

─オレなんでこんなヤツを相棒と言ったんだ・・・。

 

 

 

 

アッハッハッハッハッ!!!ウメェ!!

これなら元気百倍やな!!

そう俺自身に言い聞かす。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛い。

 

 

 

 

_________________________

 

 

暫くの間、騒いでいると、

 

 

─オイ、もう大丈夫なのか?

 

 

俺の心情に気付かれ、驚くが直ぐに納得した。

 

 

「・・・!おう、えぇで!!」

 

 

流石に()には気付かれていた様だ。それはそうだ。(三川香月)(アンリマユ)で、(アンリマユ)(三川香月)だ。

誰だって自分自身が何を考えているのか分からないなんて人は居ない。

 

 

─幾らオマエがイカれてる精神力を持っていたとしてもだ、オマエは化け物(呪霊)じゃねぇ。人間(三川香月)なんだ。そこんとこあんま自惚れんなよ?

 

と真っ直ぐコチラを見て話しているような、まるで出来の悪い子供に優しく諭す様に言われる。

 

(そうや、俺は人間や。呪霊(化け物)なんかやない。)

 

彼の発言にそう自覚し直し、気合いを入れるために頬を叩く。

すると、

 

 

呪霊(化け物)の側はオレが担う。オマエはただただ人間(三川香月)であり続けることだけを考えろ。・・・もし、オマエが道を過ちそうになったら、仕方ねーから例え半殺し(・・・)にしてでも正しい道へと導いてやる。

 

 

─感謝してもいいぜ?ケッケッケ!!

 

 

と笑う彼に、ただひたすらに感謝した。そして思う。

 

 

(あぁ、彼が相棒(俺自身)で本当に良かった・・・。)と

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

─さぁて、そろそろ今後の方針を決めますかね。

 

 

彼はそう切り出した。・・・そうだ、現代まで生き抜く事に目がいっていたが、これから俺達はどうするのか、どう生活していくのか。まずそれを話し合わないと話にならない。

 

 

─オマエが遊んでいる(強がっている)間、オレは別のオレ(・・)の視界を借り、探索していたがその時、あるものが視えた。

 

 

「何を見つけたんか?・・・もしかして町が!?」

 

 

─半分正解だ。正しく言うとそこは町ではなく集落だ。当然だが、人間も数百人ほど住んでいる。

 

 

さァ、どうする?

 

 

「・・・俺は、彼らと接触したい。」

 

 

─危ねぇぞ?もしかしたら死ぬかもしれねぇ。

 

 

「それでもずっとここにいる訳には行かない。」

 

 

─・・・死ぬかもしれねぇぞ?

 

 

「あぁ、それに関しては大丈夫や!」

 

 

─・・・はぁ?

 

 

「だって俺、1600年間死ぬつもりはないし!!」

 

 

─・・・クッ、クックック・・・、

 

 

 

ヒャーハッハッハッハ!!!

 

 

馬鹿だコイツ!!なんも確証も無いのにもう生き残った気でいやがる!!オマエ最高だなぁ!!

 

 

「なんかバカにされてる気分やわ・・・。」

 

 

─馬鹿にしているさ!生存願望の塊みてぇなオマエが危険な場所に自ら行くだと!?しかもどれだけ危険なのかまだ分からねぇのに当の本人は生き残る気満々だ!!矛盾にも程があるぜ!!ヒャッハッハー!!

 

 

「そこまで言わなくてええやん・・・。」

 

 

─・・・ふぅ〜、あァ〜面白かったわ。だが今のオマエ、

 

すごく人間(・・)らしいぜ?

 

 

「・・・!やろ!なんたって人間(・・)やからな!!」

 

 

─じゃ〜決まりだな!いっちょ行きますか相棒(人間)!!

 

 

「道案内は頼むで相棒(化け物)!!」

 

 

そうして森を抜ける為、その方角へと走り出した。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「そーいや、ここは何処なん?俺の記憶と照らし合わせたら分かるんちゃうん?」

 

 

─あ〜、一応分かったがな、オレはよく分からんからオマエに伝えとくな。

 

 

岐阜県の高山市(・・・・・・・)って場所なんだが。

 

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