桜の花びらが舞う春の空
その花びらたちは、強く優しくもある春風に乗って華麗なダンスを繰り広げている
一つ一つのハート型の花びら達は、まるであらかじめ決めたフォーメーションを組むかのように、少しの寒さを含んだ風の中で揺れていた
今日からいよいよ高校3年生
最終学年だ
慣れ親しんだ校舎に別れを告げ、新たな学び舎となる学校に、
今日から通うことになる
浦の星女学院は統廃合になった。
でも、私達の心の中
いや、この街に住むみんなの心の中にその思い出が残っている
何ひとつ、消えたりしない
新調された制服に身を包み、いざ校門をくぐる
前ここに来た時は浦の星の制服だったっけ
今でも忘れられない
新しい学校のみんなに認められたくて、
浦の星のみんなのことを認めてもらいたくて、
そんな気持ちだった
でも今は…
「ー!」
ん?今誰かに呼ばれたような?
「かー!」
誰?お母さん?
その瞬間、足元が揺らぎ、天地がひっくり返るような気分に襲われた
「千歌ー!!」
「ふにゃ、?」
私は自分のベットから落ちそうになっていた
頭が逆さまになって、お気に入りの海老のぬいぐるみがこちらを覗き込んでいる
「バカ千歌!今何時だと思ってんの!今日始業式でしょー!」
美渡姉の声
あれ、始業式?
私は今校門の前じゃ…
まどろみの中、ふと目の前にあった目指し時計を手に取る
ぼやける視界に、8時20分という数字が目に飛び込んできた
「私、今学校の前にいて…確か始業式は9時からで、梨子ちゃんと一緒に行く約束をしてて…」
その時、携帯がポーンという音を立てて、メッセージの着信を知らせた
「千歌ちゃん起きてるよね?まさか、今起きたなんて言わないよね?」
メッセージに1文字ずつ目を通していくと同時に、自分の顔からみるみる血の気が引いていくのを感じた
「やばい、やばいやばいやばあぁぁぁぁい!!」
ふと我に返る、
叫びすぎた…
後悔するより先に、携帯にメッセージが届き、同時に美渡姉が私の部屋の襖を恐ろしいくらい早く開けた
「こらあぁぁぁ!バカ千歌!あんた昨日夜遅くまで起きてたでしょ?梨子ちゃん、家の前でもう30分も待ってるよ!早く支度しな!」
言い終わると同時に、先程よりも早く強く襖が閉められた
恐る恐る携帯を手に取る
そこには怒りマークのスタンプがこれでもかというほど送られてきていた
階段から転げ落ちそうになりながら洗面台に行き、急いで歯磨きと洗顔を済ます
少し寝癖の着いた髪の毛を寝癖直しとドライヤーでなんとか誤魔化す
部屋に戻り、これまでにない早さで制服を着た
「ええええ〜と、鞄は昨日準備したからこれを持って行って、今日は部活動説明会もあるから資料を持って……よし!」
前の晩から準備をしておいて良かったと心底感じた
荷物を持って先程と同じくらいのスピードで階段をかけおりる
番台には志満姉がいて、お茶をすすっている
「あら千歌ちゃん、やっと起きた?」
いつもと変わらない優しい眼差しを向けてくれた
が、今はそれどころじゃない
ここから学校まで、バスを使っても30分以上はかかるのだ
そして今は8時半ぴったり、
あ、1分過ぎで31分
(って、そんな悠長にしてられないんだった!)
(でも急げばギリギリ間に合う!)
ローファーを履き、本当はダメだけど表玄関から外に出る
「こ〜ら〜、そっち使っちゃダメって言ってるでしょ〜」
後ろから志満姉のまったりした注意喚起が聞こえてきた
そして、
そのまったりした声とは180度違う顔をしている人が目の前にいた
「ちぃ〜かぁ〜ちゃあん!!!」
(やばい!爆発寸前だ…)
なだめ謝っている時間は無い
不幸中の幸いで、丁度目の前に沼津駅行きのバスが停車した
梨子ちゃんの手を取り、急いでバスのステップをかけ登る
プシューという気の抜けた音を立てながら扉が閉まった
千歌「な、なんとかまにあったあ…」
軽く胸を撫で下ろすが、今からお説教の時間が到来することはとうの昔に覚悟している
しかし、聞こえてきたのは怒り声ではなく、悲痛な引き声だった
梨子「ち、千歌ちゃん…?その制服…」
(へ?制服?)
ちらっと目を落として自分の服を確認する
いつもと変わらない、思い出いっぱいの浦女の制服だ
(ん?浦女の制服?確か浦女は統廃合になって、だから…)
顔から血の気が引いていくのがとてもよくわかった
千歌「やっちゃったあぁぁぁぁ!」
バス、止めて下さああああああああぁぁぁい!!!
やってしまった…
まさか初日からこんなことになるなんて、思いもしなかった
あの後、急いで家に戻りって制服を着替え、先程よりもドタバタしながらバスに乗り込んだ
幸い、バスの運転手さんが優しい人で、私が戻るのを待っていてくれた事が唯一の救いだった
学校へ到着したのは9時10分
そのまま式が始まっている体育館へ直行し、先生達に怒られながらも自分の席に着席する
式の間ずっと周りからの視線が痛く感じられたのは、多分気のせいじゃないだろう
式の後は新しい教室へ行き、新しい担任の先生、クラスメイトを確認したところで解放された
ちなみに、曜ちゃん、梨子ちゃん、むっちゃんとは同じクラスだったけど、その他のみんなとは別クラスになった
その後、Aqoursのみんなと合流し、お昼ご飯を食べた後、みんなで部活動説明会の開催される教室へ移動した
私はお弁当を忘れてしまったこともあり、みんなのお弁当を少しずつ分けてもらった
私達が春から通うこの静真高校は部活動が盛んだ
いくつかの部活は全国大会に出場する程で、そうなると当然部活の数や所属生徒も多くなるので、毎年の年度始めに説明会を開くのがお決まりのようだ
浦女の、1番大きい教室の4倍はありそうなだだっ広い所に、等間隔で生徒が座っている
座っている生徒達は周りと話をすることも無く、熱心に配布された紙に目を通している
よく見ると、みんな責任感が強そうな顔つきだ
たぶん、それぞれの部活の部長やキャプテンのみが参加しているんだろう
私達、スクールアイドル部は今年度から新設される部活なので、メンバー6人全員参加している
ルビィちゃんが教室中をまじまじと見ながら声を漏らした
ルビィ「こ、こんなに部活があるんだね、、、」
曜「全校生徒、浦女の何倍もいるからね」
その時、ガチャりと思い音がして生徒会と思われる生徒達が入ってきた
全部で5人いるが、1番最後に入ってきた子は私達もよく知る人物だ
渡辺月ちゃん
私達の仲間、渡辺曜ちゃんの従兄弟だ
月ちゃんは私達を見つけると軽くウインクを送り、ゆっくりと席に着く
生徒会の書記らしき生徒がマイクを手に取り、トントンと叩いて音量を確認する
書記「それではただ今より、部活動説明会を開会します。まずは、今年度より新設される部活動の紹介をします」
意外な話だが、私達の他にも新しい部活はいくつかあり、私達を含めて5つの部活が新設されるようだ
新部活動のリーダーが書記に促されて立ち上がり、軽い挨拶と部活の活動内容を説明する
書記「次、スクールアイドル部の高海千歌さん、挨拶を」
千歌「はい!3年A組、出席番号18番!スクールアイドル部、Aqoursのリーダー高海千歌です!よろしくお願いします!」
自信満々に答えたつもりだったが、隣に座ってる梨子ちゃんはジト目で私のことを見つめている
梨子「千歌ちゃん…クラスと出席番号はいらなかったんじゃない?」
ふと我に返り、恥ずかしさに襲われた
書記「では、紹介も終わりましたので、新部活動を含めた活動場所の割り振りを行いたいと思います」
新部活動は私達を除いて、全て文化系だったこともあり、会は滞りなく進んでいく
スクールアイドル部が指名されたのは最期だった
書記「では、高海さん、スクールアイドル部が希望する活動場所はどこですか?」
千歌「はい、屋上を希望します」
その時、広い教室が一瞬ざわついたのを私達は感じた
同時に、どこからともかく鋭い声が響いた
?「屋上は私達の活動場所なので、他の場所を提示してください」
声の発信源に目を向けると、少し見覚えのある生徒が座っていた
肩まで届いた黒髪はよく整えられており、此方を見る目はぱっちり開かれ、鋭い眼光が届いている
梨子「あの子…確か同じクラスの、」
曜「夢島…光莉、ゆめしまひかりちゃんだよ」
光莉は表情を変えることなく此方をずっと見つめている
その目は恐ろしく冷ややかで、寒気がしたほどだ
「聞こえなかった?スクールアイドル部の活動場所は屋上にはありません、他の場所を提示することを、私達"ダンス部"は求めます」
to be continued…