次の日
生徒の明るい声で賑わう教室
皆、今日の授業のことや部活動、放課後の事で楽しそうに談笑している
ほとんどのクラスメイトが登校する時間になっても、一つだけ空いている机があった
夢島光莉の机だ
今日も風邪なのだろうか
しかし、彼女は身体が丈夫で、体調を崩すことは少ない方だ
朝礼を知らせるチャイムが鳴る
生徒達は急いで自分の席に戻り、担任が入室してくるのを待つ
教室に入ってきた担任の先生は、「おはよう」という声のトーンはいつもと変わらないものの、どこか暗い表情が垣間見えた
千歌「夢島さん、今日も休みなのかな?」
隣の席の月に話しかける
月「そうみたい…だね、、珍しいな」
僕の心の中では、嫌な胸騒ぎが止まらない
なにか、良くないことが起こる前兆のような
先生「それでは、朝礼を始める前に、皆さんに報告しなければならないことがあります」
担任教師の思いがけない言葉に、生徒達は騒ぎ始める
それを咳払いで収めると、続けて口を開いた
月は息を飲む
次に発せられる言葉が怖くて堪らなかった
先生「夢島光莉さんが、転校することになりました」
私は、時が止まったような感覚に襲われる
目の前の景色がぐるぐると周り、呼吸が荒くなる
自分の体が、自分のものでは無いように思われた
次の瞬間、ガタン、と耳につく音が鳴り響いた
曜「月ちゃん、月ちゃん!!」
気が付くと、私はベットに横になっていた
消毒液の匂いで保健室だと気付く
月「あれ?なんで僕はここに…」
千歌「月ちゃん、急に倒れて…みんなで慌ててここに運んだんだよ」
梨子「でも、大丈夫そうでよかった…」
周囲から安堵の息が漏れる
そうか、僕は確か急に目の前が真っ暗になって、、
ふっとため息をつき、笑顔で向き直る
月「心配かけてごめんね!もう大丈夫だから」
曜「でも、一応大事をとって休んだ方がいいんじゃない?」
月「え?ほんとに大丈夫だよ?」
梨子「月ちゃんここんところ、生徒会の活動でずっと忙しかったもんね、疲れが溜まっても仕方ないかな〜」
わざとらしく声のトーンを高める
真面目な梨子ちゃんがこんな事言うの、初めてかも
千歌「そうそう!今日の所は早退して、家でゆっくり休んだら?」
今度はこちらにウインクをしてくる
月(これは……どゆこと?)
タイミングよく、担任の先生が保健室に入ってきた
先生「渡辺さん大丈夫?まだ寝てた方がいい?」
月「いや、僕はもう大じょ……」
言いかけたところで千歌ちゃんが割って入る
千歌「せんせー!月ちゃんは疲れが溜まってほんとにしんどいんです、今日の所は早退した方がいいんじゃないでしょうか?」
曜「私もそう思うであります!」
ビシッと敬礼を決める
梨子「たまには休むことも大切ですよね?」
先生は少し考え込み、月の方へ向き直る
先生「そうね、最近も生徒会で忙しそうだったから…疲れが溜まってるのかもね、よし、今日のところは早退したら?」
月「あ、わかり…ました」
なんだか勢いで納得してしまった
ほんとに大丈夫なんだろうか
その時、千歌が月の肩をがっしりと掴んで言った
千歌「月ちゃん、早く帰れるからって寄り道とかしちゃダメだからね?」
梨子「生徒会長なんだもん、そんないけないこと、しないよね?」
月(寄り道…早退……つまりは、、そういうこと?)
この3人は、僕に光莉のところへ行かせてくれようとしているのかな
その考えは、目の前の少し悪そうな顔をしている3人を見ることによって確信に変わる
月「わかった、じゃあ、お言葉に甘えて!」
ありがとう、千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃん
私にチャンスをくれた
友達を取り戻すチャンスを
夢島光莉は1人、海岸線をただ歩いていた
平日だといいこともあってか、いつもは賑わう砂浜もほとんど人気がない
光莉(これでよかった、これで)
私は悩み、葛藤した結果、友達から離れる決心をした
自分が近くにいれば、過去のことで月を傷つけてしまう
そればかりか、ダンス部の部員達まで…
私はここにいるべきじゃない
そう悟ったんだ
昨日、転学届けを提出してきた
私の心が変わる前に終わらせたいと思った
先に出してしまえば、後には引けなくなるから
両親には反対されなかった
私が色々なことで悩んでいるのを知っていたから
その時、ふと砂浜にいる親子に目が止まった
小さな子どもが、母親の元に駆け寄る
母親は子どもを力いっぱい抱きしめる
何気ない光景、何気ない日常
私とは無関係な日常
それでもいいと思った
そう考えようとする自分がいる
?「光莉!」
ふいに後ろから名前を呼ばれ、私は身構えた
そこにいたのは、私が最も会うべき資格のない人物
渡辺月がそこにはいた
月は真っ直ぐな目を向け、唇を真一文字に結んでいる
綺麗な黒髪が潮風に揺れる
光莉「月……どうしてここに…学校はどうしたの?」
月「早退してきたよ」
私は彼女の言葉に度肝を抜かれた
なにせ、小学校から高校までほとんど学校を休まなかった人が、恐らく生まれて初めての早退をしてまでここに来たのだ
光莉「なんで?なんのために…?」
月「そんなの、光莉のために決まってるよ」
彼女の制服は少し汗で湿っている
光莉「私のことは忘れて欲しい、こんな最低な人の事なんて」
月「どうしてなの…どうしていつも自分を傷つけるの?」
その時、私は自分の顔が紅潮するのを感じた
光莉「私は自分が嫌いなんだ!あなたみたいにいつも笑顔でいられない、みんなを引っ張ることも出来ない、いつも自分のことで精一杯なんだよ…!」
瞳から涙が溢れる
頬を伝い、太陽光で熱せられた砂に溶け込む
月「それはちがうよ、光莉にもいい所は沢山あるじゃないか!」
光莉「私は!私は…私は、、」
瞳から溢れる涙が大粒になる
自分の心が締め付けられるように痛い
そう、私はいつも心が痛い、痛くてたまらないんだ
光莉「私は…月、あなたになりたかった………」
月は大きく黒い目をぱちぱちと見開き、驚きの表情を見せている
光莉「いつも堂々としていて、みんなから信頼されるあなたになりたい、なろうと努力した……でもそれは叶わない願い…あなたを見ていると、私は自分自身が嫌いになって仕方がない…!」
光莉はその場に膝をつき、声を上げながら泣く
まるで母親に置き去りにされてしまった子どものように
月「光莉……」
月はゆっくりと歩を進め、光莉の元へ辿り着く
一緒に座り込むと、優しく光莉を抱きしめた
月「いいんだよ、光莉は光莉で、だって、あなたは世界にただ1人だけの存在なんだから」
光莉「私は…私なんか誰も……!」
言いかけた時、パァンと大きな音が砂浜に鳴り響いた
光莉の頬は更に更に赤く紅潮している
月は肩で息をしている
彼女は光莉の頬に平手打ちをした
しかし、彼女の瞳の中に怒りの感情はない
あるのは、真っ直ぐと光莉を見つめる目だけだ
光莉は暫く平手打ちをされた方向へ顔を向けたままでいた
何が起こったのかわからなかった
この痛み
この感覚
どこかで…
そうだ、小学生の時だ
その時、私はダンスの大会で大きな失敗をしてしまい、自分を許すことができないでいた
私は逃げた
また失敗して、みんなから笑われるのが怖かった
だから私は挑戦することを拒んでいた
その時も、月は同じように平手打ちをした
月「逃げてばかりじゃダメだよ!光莉ちゃんなら絶対できる、挑戦せずに逃げたら、一生後悔するんだから!」
なんで忘れていたんだろう
こんな大事なこと
私は、彼女と自分を比べていたんじゃない
ただ、弱い自分から逃げ続けてきただけ
最もらしい理由をつけていつも逃げていた
私には無理、彼女と私は違う、、と
でも、それは間違いだった
だって、私も月も、同じ人間なんだ
失敗もするし、落ち込んだりもする
そこから何を学ぶかが大切なんだ
月は光莉をしっかりと抱きしめる
目にはうっすらと涙を浮かべている
月「逃げてもいい、失敗してもいい…でも、その分前に進まないと行けない、それが人間なんだ」
光莉は子どものように月に泣きつく
それを月は母親のように優しく包み込む
光莉「ごめん、ごめんごめん…!、私、私…」
この感覚、なんだか懐かしいな
小さい頃はずっと一緒にいたから、一緒にいるのが当たり前だったから、この感覚が懐かしい感じがするんだ
月の匂い 私が好きだった匂い
今、私は何とも言えない安心感に包まれていた
?「こんなところでイチャイチャしちゃって、いいの?」
不意に後ろから声をかけられ、私は心臓が飛び上がる思いだ
月「千歌ちゃん?曜ちゃん、梨子ちゃんも…それと……」
月の言葉がつまり、不意に私を見る
まさか
私が振り向くと、そこにはクラスメイトの他にダンス部員の姿もあった
部員10人、全員が揃っている
私は顔から火が出そうだった
というか、それくらい頬が紅潮するのを感じた
光莉「いや!これは…その、なんでもないから!」
ダンス部員「部長、誤魔化さなくても大丈夫ですよ、頬が赤いですから」
ニヤついた顔でこちらを見つめてくる
私と月は立ち上がる
それと同時に、高海さんが私の方に歩み寄ってきた
勢いよく右手を差し出してくる
千歌「夢島さん、いや、光莉ちゃん!スクールアイドル、やりませんか?」
満面の笑顔だ
彼女の純粋無垢な顔に、私はしばらくの間見とれてしまった
やりたい
スクールアイドル、やってみたい
私も、輝きたい……でも、、
ダンス部員「高海さん…実は……」
曜「実は?」
to be continued…
回覧ありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
また、私用により少しの間投稿をお休みいたします