女王様は十五歳 お忍び世直し無双剣   作:佐倉じゅうがつ

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ルネの反撃

 話をしていくうちに自然といつもの雰囲気がもどってきた。

 この先いさかいと別れがあっても、自分たちなら乗り越えていける。そしてより強く結びつくと思えた。

 

 そして『いつも』にはもうひとり、欠かせぬ者がいる。女王は天井に向かって呼びかけた。

 

「ルネ、そろそろ入ってきていいですよ」

 

 

 

『かしこまりましたー』

 

 

 

 一枚の天井板がずらされ、ルネの頭がひょっこりと姿をあらわした。

 

「あらためまして……お嬢様、ヒノさん。おひさしぶりですー」

 

「うおっ! 姐さん、天井裏におったんか!?」

 

 数日ぶりに再会したメイドは、口元をあげてほほえみながら、ヒラリと着地した。

 

「にししっ。ソニアちゃんの追手を足止めしてからすぐここに。むしろお嬢様たちより早く着いちゃってたりしまして」

 

「ならば宿屋の前で待っていてもいいと思いますが……ルネらしいですね」

 

 ルネは幼少のころからいたずら好きだった。今は場をわきまえるようになったものの、遊び心をいつも忍ばせている。

 旅ではいつも楽しそうにふるまって周囲をなごませてきた。

 

 

 

「先ほどは一本とられましたが、これで返しましたよ」

 

「んー『孤児院』と聞いたとき、思わずガタっとやっちゃいましたからねー……おあいこってことにしましょうか」

 

 

 

 女王は、広場でルネがあらわれるまで気づかなかった。

 ルネは、『孤児院』と聞いて音をたてて気づかれた。

 

 ふたりが主従であるかぎり、このようなやりとりがこれからも続くだろう。

 

「なあソニア……物音、聞こえたか?」

「あたしは他を気にする余裕なんてなくて……」

「ウチも同じや……」

「天井からメイドさんが出てきたり、もうなにがなんだか……」

 

 

 

 ひそひそと話す声が聞こえるのはさておき、女王は尋ねた。

 

「ルネ、あなたが反応した理由……教えてもらえますか?」

 

 

 

 ルネが語った孤児院の情報は、聞き捨てならないものばかりだった。

 

 ひとつ、人身売買を行っていること。『商品』はもちろん子供たちだ。

 ふたつ、設立にかかわったのがソモンという名の男であること。

 みっつ、おそらくバレンノース公はこの事実を知らないであろうこと。

 

 そして――

 

「わたしもあそこで育ったんですよねー……子供心にあやしすぎて逃げちゃいましたけど」

 

「そうだったのですか……」

 

「で、幼いながらもたくましく生きてきた盗賊が『お城』に忍びこんだところ……耳の良いお方に見つかっちゃったわけです」

 

「ははーんなるほど。姐さんの実力のワケがやっとわかったで」

 

 

 

「ちょっと待って! あたし、子供を売ってたなんて知らないよ!?」

 

 ソニアが声をあげた。

 

「院長先生だってやさしい人だし、とても信じられないよ……それって昔の話なんじゃないの、証拠はあるの?」

 

「残念ですけど、これはわたしの記憶だけじゃありません。別件の調査で、証拠が出てきたんですよ」

 

 

 

 別件とはコルン地方でのできごと。貴族の男が欲望のために女性をさらおうとした事件だ。

 

「あの男の口ぶりは初犯のものでないと思っていましたが……まさか『買って』いたのですか?」

 

「はい。『将来有望』な子を見つくろい、屋敷で『育成』していました」

 

「なんてこと……」

 

「メイドさん、買われた子ってもしかして……三人いる? 連れていかれてから五年くらいたってる?」

 

「……はい」

 

 そう聞いたソニアはへたりこんでしまった。彼女が受けた衝撃はいかほどのものか……察するにあまりある。

 

 

 

「……許せへんな。特にソモンっちゅうやつ、やっていい商売とわるい商売があるってもんや!」

 

「ヒノカの言うとおりです。バレンノース公のためにも対処しなくては」

 

 

 

 ヒノカをバレンノース公のもとへ送る。ソモンの悪行を裁く。

 ふたつとも必ずやり遂げねばならない。さらにどこかでル・ハイドの罠が待ち受けているだろう……

 

 旅のなかで幾度となく世直しをしてきた女王だが、これがもっとも困難なものになりそうだった。

 

 

 

 

 

 夕方になり、女王とルネは孤児院へ向かった。

 ソモンの所業を知る証人として、院長を確保するためだ。

 

 この作戦はふたりだけで行うものではない。援軍のあてがあった。

 

「調査隊が来る時間にまちがいはありませんね?」

「はい。まじめなコルン公の家来らしい、しっかりした人たちですから」

 

 人身売買が明らかになり、コルン公は調査隊の派遣を決めていた。

 ルネも彼らとともにこの町へはいる予定だったが、報告のために先行してきたのである。

 

「おっ、きたきた。お嬢様、きましたよ」

 

 

 

 やってきた調査隊は、待っていたルネに礼をした。

 

「ルネ様。われら一同、到着いたしました!」

「ご苦労さまですー。さっそくですけど、やっちゃいますか」

 

「はっ!」

 

 最初は自分に任せてほしい、と願い出たルネがさっそく扉をたたいた。

 

 

 

「……なんだね君たちは?」

 

 扉を開けて出てきたのは白髪まじりの男。

 孤児院側には事前通知をしていない。相手からみれば抜き打ちという形。

 

 とつぜん訪れた者たちにおどろいているようだ。

 

 

 

「おひさしぶりですね、院長先生」

「……どこかで会ったかな?」

 

「以前ここで暮らしていたルネです。覚えてませんか?」

 

 男はしばし考えるしぐさを見せたが、すぐに首をふった。

 

「なにを言うかと思えば……どれだけの子供がいると思っているんだね。いちいち覚えているわけがないだろう」

 

「記憶にひっかかるものもありませんか?」

 

「くどいね君は。用がないなら子供たちの迷惑だ、帰ってくれ」

 

 

 

「……そうですか」

 

 ため息をついたルネは懐から書状をとりだし、院長に見せつけた。

 

「コルン地方の公爵の命により、ここの調査に来ました。おとなしく協力してください」

 

「なにっ!?」

 

「さっきの答え次第ではやさしくしてあげようかと思いましたけど。なしですね!」

 

 

 

 彼女はふっきれたように晴れやかに、そしていたずらっぽく笑った。

 

 

 

 

 

 こうして孤児院に強制調査がはいり、不相応な大金や契約書、顧客の一覧表などが見つかった。

 

 

 

 証拠はそろった。

 残る課題はすべてバレンノース城で解決するだろう。

 

 決戦のときが近づいていた。

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