女王様は十五歳 お忍び世直し無双剣   作:佐倉じゅうがつ

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女王の帰還

 こうしてソモンを捕縛できた。しかし裁くべき立場のバレンノース公は病の身……となれば、女王が直々にくだすしかない。

 

 

 

「く……くそっ、貴様ら……我だけを縛りつけるとはどういうことだ! ほかの兵どもはどうなんだ、ええ!?」

 

 すっかり意気消沈した様子の兵士たちは、武器を置いて座りこんでしまっていた。

 たったひとりに制圧されるのも困りものだが……これをきっかけに精進してほしいと思う。

 

 それにはきっかけが必要だ……たとえば、病床の主君が気力をとりもどすような吉報が。

 

 

 

「ルネ、調査隊のみなさんはここへ向かっているのですね?」

「もうじき着くころかと思いますー」

「他公の手の者を介入させるのは気がすすみませんが……今回はしかたがな――」

 

「ソモン様、ソモン様ぁー!!」

 

 声をあげて中庭にはいってきたのは、あの門番だった。

 

 

 

「たいへんです! コルン公の調査隊とかいうものたちが……あ、あれ……?」

「お、到着したみたいですねー」

 

「ソモン様、どうして縄に……?」

「いいところに来た! 我を助けろ、いますぐだ!」

「えっ?」

 

 こちらをちらりと見る門番。

 

「む、無理ですよオレひとりじゃ!」

「やれといったらやるんだ! だいたいお前たちは――」

 

 

 

 

 

「……お嬢様、そろそろ言っちゃってもいいですか?」

「はい。どうぞ」

 

 

 

「ご静粛に! こちらのお方はハイナリアの女王、アンナ・ルル・ド・エルミタージュ様であらせられるぞー!!」

 

 ルネの声がひびきわたる。その場にいる全員が彼女のほうを向いた。

 

「ええ!?」

「女王様だって!?」

 

「あー! そういえば聞いたことがある!」

「門番! 知っているのか!?」

 

「お、俺は城を出入りする人間と話す機会が多いんだが……アンナ女王様がお忍びで各地を旅してまわり、悪人どもをこらしめていると何度かウワサになっていた……まさか本当だったとは……!」

 

「そこの人、よく知ってますねー。まっ、ウソだと思うなら調査隊のみなさんに聞いてみてもいいですよー」

 

 

 

「女王様」

「ああ、女王様!」

 

 兵士たちがつぎつぎとひれ伏す中で、青い顔でぼうぜんとしているのはソモンだった。

 

「そんな……まさか……我にこんなことが……なぜ……バカな……」

 

 

 

「ソモン。偽りの公女を作り上げ、権力を握ろうとした件。それに孤児院と結託しての悪行……断じて許すわけにはいきません」

 

 余罪がある可能性も考えられる。時間をかけて調べる必要があるだろう。

 立て続けになってしまうが、ルネにも働いてもらうつもりだ。

 

「さあ、彼を牢屋へ連れていきなさい」

 

「ろう……や……我、が……」

 

 今回の事件の黒幕は、放心状態のまま連行されていった。

 

 

 

 

 

 しばらくのち、女王とヒノカは扉の前にいた……この先がヒノカの祖父、バレンノース公の自室である。

 

「……ヒノカ、心の準備はできましたか?」

「どう準備しろっちゅーねん……なにも想像できん」

 

「そうですね。でも、きっと大丈夫……いきますよ?」

 

 

 

 

 

 コンコンと扉をたたいて、開けた。

 部屋の中は薄暗く、ろうそくの小さな明かりだけがゆらめいていた。

 

「誰だ……?」

 

 声の主はもちろんバレンノース公だ。

 動く気配はない。ほとんど寝たきりだと聞いていたが……どうやらその通りらしい。

 

「なにやら騒がしかったが……何かあったのか?」

 

「お休みのところ失礼します。バレンノース公……おひさしぶりですね」

「君は……いや、あなた様は……!?」

 

「どうかそのまま。お体にさわります」

「……おどろきました。まさか陛下がいらっしゃるとは……ますますお母上に似られましたな……」

 

 

 

「積もる話はありますが……今日はぜひとも、会わせたい方がおりまして。さあ、ヒノカ……」

 

 扉を開けたときから、背中にはりついていヒノカを引っぱりだした。

 おずおずとしながらも懸命に口をひらく。

 

「……ええと……ウチは、その……ヒノカと言います。生まれはこの地方で、おか……母の名前はリア・カチです」

 

「リア……まさか……! 顔をよく見せてくれるか?」

 

 ベッドにかけより、膝をつくヒノカ。バレンノースは上体をおこして、彼女の顔をじっと見つめた。

 

「ああ、間違いない。リアの面影がある……あの子が、こんなに立派な娘を……」

「自分でいうのも変やけど、ウチの顔だけで信じてええんか……? そうや、この証拠を見てからでも――」

 

「ひょっとして笛を見せるつもりかな?」

「……! そ、そうや。これ、母の形見で……」

「形見……」

 

 

 

 バレンノースの頬に涙が光る。

 

「つらい思いをしてきたのだな……わしが頑固だったばかりに……すまない。わしがあのふたりを認めてさえいれば」

「おじいちゃんっ!」

 

 泣いているのだろう。ヒノカの声は震えていた。

 

「ウチは幸せや。小さいころから、今まで……ずっと幸せやったで。おじいちゃんが謝ることなんて、なんもないで……」

「わしを祖父と呼んでくれるのか……」

 

「……当たり前や。だからウチのことも――」

「ヒノカ。わが孫娘よ」

 

「……あ」

 

 

 

 

 

 女王は退室した。ふたりの時間を過ごしてほしいから……

 今。そしてこれからも。

 

 さまざまな想いが目頭を熱くさせる。

 

 

 

「……うまくいったみたいですね。お嬢様」

「ええ。私ももらい泣きしてしまいました」

 

「……ヒノさん、ここに残るんでしょうか?」

「きっと。いえ、必ず。たったひとりの肉親なのですから」

 

「肉親ですか……ちょっとうらやましいですね」

「ふふっ、たしかに。私も肉親はいませんが……城のみんなが自分の家族だと思っています」

 

「おっと! それってわたしも入ってます?」

「もちろんですよ、ルネ」

 

「じゃあわたしにも家族がいるってことで……にししっ」

 

 笑顔のルネにひとつ、お願いをする。

 

「そんなあなただけに頼めることがあります。ヒノカを支えてあげてくれますか?」

「あーやっぱりそう来ますか。生活が変わったら大変そうですもんねー。わかりました!」

 

 女王の『家族』のひとりは、胸をトンとたたいて了承してくれた。

 

 

 

「そのかわりと言ってはなんですが、わたしからもお願いがあります」

「わかりました、聞きましょう」

 

 

 

「そろそろ『家族』に、お顔を見せてやってくださいませ」

 

 そう。こんなに女王の気持ちを知っているルネだからこそ、無二の友人を任せられるのだ。

 

 

 

「……ふふっ。もとよりそのつもりです。あのふたりを見ていたら、ちょっとだけ恋しくなってしまいました」

 

 

 

 

 

 

 

 旅立ちはヒノカと二人だった。

 途中でルネが合流して、三人になった。

 

 その旅の帰り道は、女王一人だった。




つづく
次回、最終回です。
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