今回はリアです。
アクセルハーツの個別撮影会とやらが行われることになり、一応コーチ役としても護衛役としても呼ばれた俺は何が起きてもいいように近くで待機していた。
「もう少し自然な感じでお願いしまーす」
「し、自然な感じ……?こ、こうかな……」
「表情もポーズもなんだか硬いなぁ」
「う、うぅ……すまない……」
魔導カメラとかいう高額アイテムを持つアイドルオタク集団に囲まれたリアはいつも以上の緊張を見せて、四苦八苦していた。
「リア、どうしたんだ。しっかりしてくれよ」
「こ、こういうのは慣れないんだ。一体どうすれば……」
プロデューサーであるカズマも見兼ねたのかリアに注意をするが、あまり変わる様子は無い。
そんなやり取りを眺めていると、
「おや、リーダーどうされましたか?もしやリーダーはリアさん推しですか?」
「綺麗な黒髪はたしかにいいと思うが、俺的にはもう少し胸が欲しいな」
同じく護衛に来たトリスターノが話しかけてきた。
「リーダーはいつも通りですね。では、どうしたんです?リアさんばかり眺めて」
「いや、なんだかさ」
「はい?」
最初に見た時からずっと思っていたのだが、結局今まで答えは出て来なかったので言わずにいたのだが、こうして途中まで言いかけてしまった以上口に出さざるを得なかった。
「見たことある気がするんだよな、リアのこと」
「アクセルハーツは何度も見てますが?」
「いや、それよりも前だよ」
「それは、いつです?」
「それが分からないから、ずっと考えてるんだよ」
リアのことを一目見た時から既視感を感じていた。
アクセルハーツはアクセルの街を中心に活動しているので、見たことがあってもおかしくないのだが、それにしては引っかかる。
喉元まで出かかってるような、そんな感覚がなんとも気持ち悪い。
「ああくそ、思い出せねえ。なんだっけなぁ」
「そういえば、似てますよね」
「あ?なんの話だ?」
「いえ、リアさんとリーダーの──」
『オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ……!!!』
そんな雄叫びが辺りに響き渡り、俺達の会話も自然と止まった。
「なんですかね、今の」
「大方エーリカのやつが過剰なサービスでもしたんだろ。あれだけの歓声になるってアイツ何したんだよ」
「それは簡単に想像出来ますけど、流石に違うような……」
『オオオオオオオオオオオオオオ……!!!』
そんな雄叫びがまた聞こえて、新たに姿を現した集団がいた。
「トロールです!それも大勢!」
「ったく面倒くせえな。トロールってことはアレか。あの、ほら、ラドクリフだっけ?」
「いえ、全然違います。確かダニエルだったかと」
「ああはいはい、それね」
トリスターノとそんなやり取りをしているが、周りは突然現れたモンスターに驚きパニック状態であった。
今回の個別撮影会はアクセル近くの草原で行われている。
街の外なんかで何をやってるんだ、と思うかもしれないが、これには理由がある。
第一の理由としては、アクセルハーツの人気が高くて、街中で安易に行えるような規模では無かったこと。
あとは、まあカズマが会場を借りたりする費用をケチったせいでもある。
いろいろ理由をつけていたが、借金や手間とか諸々の理由なのは間違いない。
そんなこんなで、だったら費用も手間もかからない外でやればいいじゃないってなったわけだ。
まあ、結果こうして招かねざる客も来たわけだが。
「トリスターノ」
「援護はお任せください」
「ああ、頼む。……出来ればあっちを」
「……なるほど、了解です」
ダクネスが興奮した様子でトロールへと突っ込んで行ったり、何故だか優先的に狙われて涙目になって逃げてるアクア、爆裂魔法を催促するめぐみんに対応に追われてるカズマといったいつもの困ったちゃん達を指さすとトリスターノはすぐに察して、弓を構えた。
そんな中トロール達へ、いの一番に武器を持ち勇猛果敢に立ち向かう少女がいた。
「みんな、ここは私に任せて!はあっ!!」
ある時は記憶喪失の汚部屋少女、またある時はアクセルハーツの歌唱力抜群の踊り子、そしてまたある時はランサーの冒険者。
槍を携えたリアがトロールの集団へ一人切り込んで行く。
無謀にも見える動きだが、実力が伴っていれば一つの戦い方になる。
槍捌きは華麗にして苛烈、舞う黒髪と体捌きは見るものを惹きつける。
それは敵であるトロール達も、そして──
「おおっ、また一人で倒して……かっこいい……!!」
「リアがこんなに強かったとは!まるで戦場に降り立った女神のようだ!」
「ああ、こんなに凛々しいリアが見れるだけでなく写真に納めることが出来るなんて……!」
先程までパニック状態であったファン達もリアに釘付けであった。
混乱状態は解消されたものの、今ではリアの姿を魔導カメラで撮ろうと前線近くへとファンが着いていってしまっていた。
リアがトロール達を圧倒しているが、冒険者でもない奴が前に出るのは危険すぎる。
だから、俺も動かなくてはいけない、のだが。
「さあ、次かかってきなさい!」
『グオオオオオオオオ……ッ!!』
あの動きは──槍のスキルが発動しているが、時折何かが混ざっている。
槍、というより、あれは────
「リーダー!リーダー!?どうされましたか!?」
「あ、ああ、悪い!すぐに向かう!」
考え事は後だ。
最前線にいるリアの元へと駆け出すと同時にトリスターノの援護で追い回されることがなくなったアクアから支援魔法が掛けられる。
これで問題なく戦えそうだ。
リアの後ろへと回り込もうとしていたトロールを斬り伏せ、リアの隣へと並んだ。
「リア、手貸すぜ」
「コーチ、ありがとう」
「リーチが短い俺が先に出る。うまく合わせられるか?」
「狂戦士の動きがどこまでか分からないが、やってみせるよ」
「はっ、大会優勝者のリアさんは頼りになるね」
「ふふ、任せてくれ」
不敵に笑いあう俺達に気圧されたのかトロール達が尻込みをしているが、そんなことは関係なく俺は地を蹴り、トロールへと攻め込んだ。
「『エクスプロージョン』────ッッ!!」
ある程度までトロールの数を減らした後、いつもの爆裂魔法で一掃してトロールの襲撃は幕を閉じた。
リアが爆裂魔法の余波である爆風から身を守るように背を向けた後に言った。
「す、すごい威力だね……」
「ああ、なんでも吹き飛ばすとんでも魔法だからな」
「落ち着いてるね……」
「もう見慣れたもんだ。というかアクセルを拠点にするなら、アレに慣れておいた方がいいぞ。いちいち反応してたら身がもたないからな」
「う、うん。努力するよ……」
引き攣った笑みを浮かべるリアを見てると、これが普通の反応なんだな、と思い出す。
今じゃアクセルの住人は近くで爆発が起きたぐらいじゃ動じないからな。
とはいえこんな街に近いところでドカンとしたら流石に驚いてるかもしれない。
街に近い草原での爆裂魔法。
草原に出来たクレーターを埋めるための土木作業。
その土木作業の請求は誰に行くのか。
そんなことが頭を浮かんだが、まあ俺には関係のないことだろう。
俺は刀を振ってこびり付いた血を払った後、トロールが着ていた布切れで拭き取り納刀した。
そのタイミングを見計らったようにトリスターノが駆け寄ってきた。
「リーダーご無事でしたか?」
「ああ、お前は?」
「私は無傷です、後方にいたので。……少し援護が大変だったぐらいですね」
「トロールの奴らもバラバラに散ってたからな。あれが戦術なのか、協調性が無いのかで今後の対処が変わってくるな。……なんだよ、その顔は。分かってるよ、そういう意味じゃねえってのは」
「ええ、まあ……そうですね」
なんとも言えない顔をしてくるトリスターノ。
相当苦労したらしい。
「何はともあれお疲れ。撮影会は流石にこれで終わりだろう。あとは、このトロールが少しは金になればいいんだけどな」
「ですね。私は先にギルドに確認に行ってきます」
「ああ、頼んだ」
トリスターノが街へと歩いて行くのを見ていると、トロールが来る前にトリスターノと何か話していたなと思い出す。
俺がリアに見覚えがあって、それがいつのことか分からないって話だったか。
結局それも分からず終いだったが、リアのあの戦いの中の動きは、なんというか──
「コーチ?コーチってば!」
「……ん、ああ、悪い。どうした?」
リアに話しかけられていることに気付かないほど、考えに耽っていたらしい。
「その、さ。コーチから見てどうだったかな。今日の……」
「聞くまでもないだろ」
「え、そ、そうだよね……ファンのみんなの要望に……」
「大勢のトロールに引かないどころか大活躍だっただろ。あんな戦果なかなか上げられないぞ」
「い、いや、そうじゃなくて!」
「あ?」
「撮影会の方だよ。コーチから見て、どうだった?」
自信の無さがありありと表情に浮かんだリアが尋ねてくる。
俺は何も答えずに魔導カメラを持って喜んでいる連中を指差した。
「あ、あれ……?」
「お前は戦闘に集中して気付いてなかったけど、槍を持って戦ってるリアの姿はかなり好評だったぞ。カメラで撮るのに夢中で一緒に前線に出ちまうぐらいにな」
「……」
「硬くなってるより良かったんじゃないの。コーチとか呼ばれてる奴が雑な返しで悪いけどな」
「……いや、ありがとう。まだ慣れないことは多いけど、私らしくやってみることにするよ」
リアが吹っ切れた顔で礼を言った後、シエロやエーリカの元へ向かって行く。
何も出来ていないのにお礼を言われて気まずい気持ちになっていると、
「ああああああああああああああああッッ!!!かじゅまさあああああああん!!」
そんな悲鳴が聞こえてきて、げんなりした。
悲鳴の方向を向くまでもないが、一応振り向くと予想通りアクアがカエルに飲み込まれていた。
恐らく爆裂魔法で地中に眠っていたジャイアントトードが起きて、ああなったのだろう。
そして今、爆裂魔法を撃って動けなくなっためぐみんもカエルの口に吸い込まれるように飲み込まれ、ダクネスがカエルの群れへと飛び込んでいき、カズマが悲痛な叫びを上げていた。
「ああ、はいはい。こういうオチね」
俺は疲れた体を無理矢理動かそうとして、
ドシン!
後ろからそんな地響きが聞こえた。
「…………いや、そんなオチはいらな──」
俺が言葉を発しきる前に目の前が真っ暗になって、身体が持ち上がる感覚がした。
ヒカルくんは武道の知識があって、ほんの少しだけリアの正体に迫れているのですが、結局至れてはいません。