かなり短めですが、前日譚的なものです。
ヒナギク。
本名、桜井 雛菊。
父は日本から来た勇者候補兼元魔王軍幹部、母は『炎帝』と呼ばれる高名なエリス教の魔法使い、そして女神エリスに溺愛されている。
ヒナギクは父の都合で良く言えば箱入り娘、悪く言えば閉鎖的な空間で生まれ育ってきた。
ヒナギクにとって苗字というものは必要の無いものだった。
家族、時々女神しかいない環境で名前しか呼ばれないのだから、苗字なんて意味のないものだとヒナギクは思っていた。
だから何度か両親に自身の苗字を教えてもらっても、すぐに忘れた。
決してこの作品を書いている人物が、苗字考えるのめんどくせえし出さなくてよくね?とか思っていたわけではない。
ヒナギクが忘れていたのである、いいね?
内で育ったヒナギクは外に憧れた。
憧れを強くしたのは父と母の冒険話だ。
何度も何度も聞いては、自身の頭の中で自分なりに考え出したものが映像のように再生される。
その冒険に自身がいたら何をするのか、どんな活躍をするのか夢想した。
そしてヒナギクは酔っ払った父から聞いた話で憧れはトップスピードをぶっちぎった。
父が生まれ育った場所には魔法が無いという。
それではどうやって生活をするのか、どうやって敵と戦うのか、どうやってどうやって、とヒナギクの頭は疑問で溢れて父に聞き倒した。
娘に構われて、更に酔っ払って機嫌の良い父はヒナギクの疑問に一つ一つしっかりと答えを返した。
それは数年間しか無いヒナギクの人生の常識を覆した。
数時間で国々すら飛び越える空飛ぶ鉄の鳥、違う街にいても会話出来るアイテム、数分で食べられるご飯等々、いろんな話を聞いた。
ああ、外の世界はなんて素晴らしいんだろう。
ヒナギクは恋焦がれるように憧れた。
故に願った。
母がエリス教徒であったのが影響して、ヒナギクは毎晩毎晩エリス様に願ったのだ。
早く大きくなれますように。
ヒナギクは父や母のような冒険者になりたかった。
父と母の話から浮かべる想像ではなく、本で得た知識でもなく、自分の足で、自分の目で外の世界を確かめたかった。
そんな冒険をするには子供のままでは父と母は許してくれないだろうと、子供ながらに思ったヒナギクは、早く大きくなりたいと強く願った。
そんな純粋で強い想いは女神エリスに届き、一目会いたいとまで思わせるに至った。
そしてある日の夜、日課のお祈りが終わると、出会ったのだ。
突然現れた絶世の美女。
あまりの美しさに、数年しか生きていないヒナギクでも神様だと直感した。
突然知らない存在が自身の近くに現れたことよりも、その美しさに驚いたのだ。
美しすぎる姿に口をポカンと開けて呆然としていると、女神はこんばんはと挨拶をしてきた。
ヒナギクは女神の声に聞き入っていたが、慌てて挨拶を返した。
女神は柔らかく微笑み、挨拶が出来たことを褒めると、何を祈っているかを聞いてきた。
ヒナギクは当然『早く大きくなりたい』ことを伝えた。
それが女神とヒナギクの初めての出会いだった。
そして女神は思うのだ。
『こんなに可愛いのに、大きくなるなんてとんでもない!』
この想いが女神からヒナギクへの
女神から祝福を受けたヒナギクは立派………り、立派に育ち、歳は十三になった。
旅に出て冒険者になります、両親にそう告げると両親はあまり良い顔はしなかった。
ヒナギクにとって旅は憧れでもあり夢である、どうしても行きたいことを二人に伝えると、父は強くなったら行ってもいいと言い出した。
それからヒナギクは父からボクシングを習い始めた。
ボクシングを習い始めた二週間後、父をスパーリングで殴り倒した。
KOである。
ヒナギクの父親が油断していた事もあるが、ヒナギクの小さな体からは考えられないほどの力が出ていた。
ヒナギクの両親の遺伝子、女神の祝福、神聖の芽生え、それからヒナギクの今までの生活が原因であった。
ヒナギクの好きなことはヒノヤマを駆け回ることである。
モンスターがいても怖がったりしないどころか、モンスターと鬼ごっこをしていた。
もっぱら追いかけられる役であるが、モンスターをひょいひょいと躱し、木々を利用し、草むらを使って、モンスターから逃げ回っていた。
ヒナギクは足場の悪いところでも縦横無尽に駆け回る足腰が出来上がっていた。
諦めの悪いモンスターから逃げ切る体力が出来上がっていた。
モンスターの動きを見て学ぶ、学習能力に優れていた。
不意打ちを避ける野生の勘が備わっていた。
ヒナギクの得意なことは木登りである。
カサカサ登り、ぴょんぴょん飛び移り、あっという間に上まで着いてしまう。
諦めの悪いモンスター相手によく使う手段であった。
まだ諦めないモンスター相手には木々の間を飛び移り、更に諦めないのであれば石を投げるか、父に渡された護身用のナイフでブスリと刺して怯んだところを逃げるのだ。
とにかく物怖じしなかった。
そして本能で感じ取ったのか執拗に急所を狙う。
純粋無垢であるが故に残酷であった。
そんなヒナギクはすでにそこら辺の冒険者なんかより強くなっていた。
育ってきた環境も、内に眠る才能も、何もかもが違った。
二回もKOされたのに旅に出る事を認めない父と喧嘩もしたが、最終的にヒナギクは一年間修行と外の勉強をした後、旅に出る事を認められた。
一年後、両親に見送られながら旅に出た。
まずは王都まで送ってもらい、そこからアクセルへと向かった。
馬車に揺られて数日、馬車にいるだけであったが、ヒナギクにとっては感動の日々だった。
外の景色、見たことのないもの、人、モンスター、どこまでも広がる地平線、馬車を狙うモンスターから馬車を守る冒険者。
何もかもがヒノヤマでは見られないものだ。
ずっと外を眺めては、アクセルの街に着いてから起こることに期待を膨らませるのであった。
これの続きは多分ありません(書いてないから)