飛ばすところは割と多め。
まあ、知ってるところばかりだしね。
「冒険者ギルドへようこそアクア様! スタッフ一同、今後の活躍を期待しております!」
ギルドの受付のお姉さんがにこやかに微笑む。
なんというか大盛り上がりだ。
アクアのステータスとやらがかなり高かったらしい。
この盛り上がった状態で俺が次ステータス確認したりするのすごい嫌なんだけど。
「それでは、えっと最後の方?」
ギルドのお姉さんもこの雰囲気の後で俺の相手をするのはなんか気まずそうだ。
さっさと終わらせよう。
確認したいこともあるしな。
「お、おおっ! 魔力と知力は平均よりかなり低めですが、他ほぼ全てのステータスが平均より高いです! これなら上級職も……」
ギルドのお姉さんの盛り上がりにギルドの施設内が再びざわめく。
が、何故か途中で止まった。
「……あっ、知力と魔力が低いから……し、失礼しました。シロガネヒカルさんがなれる上級職は一つだけみたいで、それもその『狂戦士』という物理攻撃特化の職なんですけど」
「あー……じゃあ、それで」
なんか盛り上がりそうで盛り上がらない感じで終わった。
手渡された冒険者カードを隈なく見てみたが、特に何も書いてない。
何もないのは分かりきっていた。
それでも何かあってくれないかなと思ってしまったのは────
転生の際に貰えるはずの力を何も貰えなかったからだ。
この街アクセルに着いてから、いろいろ確認してみたが、やっぱり特別な力なんてものは無かった。
冒険者カードになんか書いてないかな、なんて思ってたが、あるわけない。
文字通り身一つで異世界にきてしまった。
どうしたもんかね。
「おーし、お前ら今日はこれで上がっていいぞー! 日当受け取りに来ーい!」
「「「はーい!」」」
「お疲れさん! また頼むぞ!」
「お疲れっした!」
「どうもです!」
「あざっしたー!」
親方の仕事の終了の声で、俺達は日当を受け取り挨拶と共に頭を下げる。
「お先失礼しまーす!」
「お先でーす!」
「でーす!」
『おーう、お疲れぇい!』
先輩方に挨拶して、現場を後にする。
今日もよく働いたな。
力仕事がやたら俺に回ってくるようになっちまったが、まあ役に立ててるならいいか。
これからはいつもの流れだ。
このまま大衆浴場に行って汗を流して、飯を食って寝る。
この二週間ですっかりルーティーンが出来上がった。
「ほら、背中流してやる」
「お、いつも悪いな」
「それは言わねえ約束だろって何言わせんだよ、小っ恥ずかしい」
「ははは、そういや今日もヒカルはすごかったな。俺の何倍の量運んだんだよ」
「あぁ、何言ってんだ。あれが一番効率良いだろ?」
「筋力にもの言わしてただけなのに、何が効率だよ」
お互いに吹き出して、笑い合う。
あれからカズマともすっかり仲良くなった。
「あ〜! 生き返るわ〜!」
「ああ、風呂があることにここまで感謝する日が来るとはな」
湯船に浸かり、日々の疲れを癒やす。
この世界に来てから文化の違いに驚くことも多いが、この大衆浴場は日本の銭湯と大して変わらないものだった。
なんというか安心する。
故郷に帰ってきたような、そんな感覚だ。
「中世っぽい異世界だし、風呂なんて無くて当然、あっても贅沢なものって感じかと思ったけど、そんなことなかったな。まあ、その方が都合が良いけど」
「ちょっと高いけどな」
「でも入らないとやってけないだろ」
「ああ、必要経費だ」
カズマの長風呂を待ってから、外に出るとアクアが浴場の入り口で待っていた。
「ねえねえ、今日は何食べる? 私、スモークリザードのハンバーグがいい! あとキンッキンに冷えたクリムゾンネロイド!」
「いいなそれ! 俺もそうしよう。ヒカルは?」
「俺も肉が食いてえし、同じのにしようかな」
食事を済ませると、俺達は特にやることもないので馬小屋に。
そう、ここが俺達の寝床だ。
もう慣れたもんだ。
馬糞の付いてない藁を集めて寝床を作り、俺達は川の字になって横になる。
「じゃあ、おやすみー」
「おやすみー」
「おやすみ……ふぅ、今日もよく働いたなぁ……」
こうして俺達の一日が終わる。
そういえば街で黒髪の女の子を見かけたなぁ。
二人にもその話をしようと思ってたんだが、忘れてた。
まあ、今度でいいさ。
そう思いながら、深い眠りへと…………。
「いや、ちょっと待ってくれ」
カズマがムクリと起き上がりながら、待ったをかけた。
「どうしたの? 寝る前にトイレ行き忘れた? 暗いし、ついて行ってあげようか?」
「ったく、しょうがねえな。俺は寝床を温めといてやるから、さっさと行ってこい」
「付き添いも温めもいらんわ! いやそうじゃないだろ。俺達何で普通に労働者やってんだって思ってさ」
「何言ってんだ馬鹿野郎。金稼がねえと生きていけねえだろうが」
「そうよ、仕事しなきゃご飯も食べられないでしょ。なに、工事の仕事は嫌なの? もうこれだからヒキニートは」
「そうじゃねえ! そうじゃなくて! 俺達、働くためにこの世界に来たわけじゃないだろ? 魔王軍のせいで世界は大ピンチじゃなかったのか? 平和そのものじゃねえか」
おお、そういえばそうだった。
二週間ずっと土木工事の作業員やってたら、いろいろと忘れてた。
街の外壁の拡張工事なんかやってたが、魔王軍が列を成して襲ってくるみたいなのは全く無い。
というかこの街、超がつくほど平和だ。
子ども達が無邪気に走り回ったり、川に飛び込んで水遊びしたりなんて光景が日常的にあって、魔王軍とかそこら辺の物騒な話は俺の頭から消え失せていた。
「私にそんなこと言われても困るわ。だってここは魔王の城から一番遠く離れた街なのよ? しかも駆け出し冒険者しかいないし、わざわざ襲いに来ないわよ」
そうか、だから魔王軍が攻めて来るようなことがなかったのか。
「でも俺達は労働者やりに異世界に来たんじゃないぞ。魔王を討伐するために送られてきたんだろ?」
「………………そういえばそうだったわ! あんた達に魔王を倒してもらわないと帰れないじゃない」
この間の長さ的にアクアもすっかり忘れていたらしい。
今更だが、女神のくせに何で土木工事の作業員に馴染めてるんだよ。
「よし、じゃあ冒険者として討伐クエストに行きましょう! 大丈夫、この私がいるんだもの何とかなるわ!」
不安しかない。
二人がやる気になったところ申し訳ないが、現実の話をしないとな。
「いや待て待て。ロクな装備も無いのに、どうやって討伐するんだよ」
そもそも、そのための土木工事のバイトだったわけで。
いつの間にか冒険者としてやっていくことを忘れてたけど。
「貯めたお金で最低限どうにかなるわよ」
ほんとかよ。
嫌な予感しかしないんだよなぁ。
「俺、土木工事の方に行っていい?」
「おい、何言って……」
「もうヒカルったらビビっちゃって。いいわ、臆病なヒカルのためにも二人でパパッと終わらせて、冒険者とはなんたるかというのを教えてあげるわ」
「どうした、お前ら。パパッと終わらせて冒険者とは何なのか、教えてくれるんじゃなかったのか」
「アレ、二人じゃ無理だわ。明日はヒカルも来なさい。あと一応仲間も募集しましょう」
ジャイアントトードとかいう巨大蛙を五体討伐するクエストを受けていたカズマとアクアは二体倒したあたりで逃げ帰ってきたみたいだ。
「ヒカルもなんか仕事終わるの早くないか?」
「ああ、今日は高所作業してたらクエストに行ったお前らの姿が見えてな。アクアがカエルに丸呑みされてるところを見て親方が大爆笑。それでめちゃくちゃ機嫌が良くなって、早上がりしていいぞって言われたんだ。二人を慰めてやんなってな」
「ぐぬぬ……」
あのカエルのデカさには驚いたが、二人も初めてなのに、ちゃんと二体討伐していたのも驚きだった。
最悪、一体も討伐出来ずに泣いて帰ってくるかと思ってたのに。
「さっきは二人じゃ無理だって言ってたが、あと三体討伐だろ? 今日と同じ作戦でやれば、仲間を増やさずともすぐ達成出来るんじゃないか?」
俺は遠くから見てるだけだったが、別にあのままやればなんとかなりそうに見えた。
それなのに途中で二人は帰ってきた。
それが何故か、ずっと気になっていたのだ。
「作戦って……」
「アクアが囮でカズマが仕留めるんだろ?」
「違うわよ! なんで女神である私が囮なんかやらなきゃいけないのよ!」
「手ぶらで大声上げて、カエルを呼び寄せてたじゃねえか。アレは金属を嫌う上に飲み込んでる間は動けないんだろ? まさに囮そのものじゃねえか」
「あ、あれはたまたまそうなってしまっただけで、囮になるつもりなんて少しもなかったわよ!」
「そうか、あと三回飲み込まれればクエストは達成だ。頑張れよ」
「だから、やらないっての! 話を聞きなさいよ!」
話を聞かないのはお前の方だろうが。
打撃は効かないってクエスト前に言われてたのに、何で殴りかかりに行ったんだ。
飲み込まれに行ったの同然じゃねえか。
「適材適所ってやつだ。まあアクアの適所はカエルの口の中だったわけだが」
アクアがギャーギャー言ってくるのを聞き流しながら飯を食べる。
二人でクエスト達成出来なかった以上、不安しかないからなんて理由で逃げるわけにもいかない。
一応上級職だけど、力が強いだけの俺が加わったところでなんとかなるものかね。
「ふっ、我が奥義である爆裂魔法はその絶大な力ゆえ、消費魔力もまた絶大。要するに、限界を超える魔力を使ったので動けません。あ、近くからカエルが湧いてくるなんて予想外です。やばいです食われますすいませんたすけ──」
一発魔法を撃ったら動けなくなった魔法使い“めぐみん”はカエルに飲み込まれた。
パーティーメンバーの募集をしたら来た期待の新人めぐみんは、確か魔法使いのエキスパート集団の種族だとかいうのをアクアが言っていた。
その魔法使いが魔法を撃ち果たし、倒しきれなかったモンスターに食われる……彼女もきっと本望であろう。
「あーめん」
「いや、諦めんなよ! まだ全然助けられるから! というかチャンスだ! なんかアクアももう一匹に飲み込まれてるから今のうちにやるぞ!」
即堕ち二コマも驚きの早さでアクアもやられてたのか。
身を挺してカエルの口の中に入るのがクセになってしまったのだろうか。
俺が適所なんて言ってしまったばかりに。
「あーめん」
「諦めんなって! ほら、行くぞヒカル!」
「はいはい、わかったよ」
その後、動かなくなったカエルの頭に短剣を突き刺し、倒れたカエルの口の中から囮二人を引き摺り出した。
昨日カズマが二体を倒し、今日めぐみんが一体、俺とカズマで二体倒した。
つまり、ジャイアントトード五体の討伐が完了、クエスト達成だ。
「うっ……うぐっ……ぐすっ……」
「うへぇ……助かりました……」
二人は無事みたいだ。
カエルの粘液で生臭いし、テカテカ光ってるけど。
「ふぅ、なんとかなったな」
「ああ、あとはギルドに戻って報告だな。このまま何も無ければ」
「お、おいやめろよ。そんなフラグみたいな……」
「冗談だよ……ん?」
なんだ?
なんか音が聞こえる。
しかも、次第に近付いてきてるような。
「お、おい、あれ!」
カズマが指差した先にはジャイアントトード数体がぴょんぴょん跳ねながら近付いてきていた。
「さっきの爆発魔法で引き寄せられたか?」
「はあ!?!? 爆発!? 爆裂魔法ですよ、爆裂! 二度と間違えないでください!!」
動けないくせに噛み付かんばかりに間違えた俺に怒鳴り散らしてくる、めぐみん。
すまんが、何が違うのかわからん。
「いいから逃げるぞ! 複数を同時に倒すのは今の俺たちには無理だ! ヒカル、めぐみんを運ぶのを……」
「ああ、わかってる」
めぐみんの足を掴む。
「えっ」
そして、アクアの足も掴む。
「はい?」
「よし、行くぞ!」
全力で駆け出す。
街まで逃げれば、なんとかなるだろう。
「ちょ、ま、ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──────────ッ!!??」
「なんで私までえええええええ──────ッ!?!?」
二人は背負えないし、背負えたとしても安定感に欠ける。
カズマに一人任せても、背負った状態で逃げ切れるかは少し怪しい。
恐らくこれが最適解だ。
「いだだだだだだだだッ!?」
「いっ!? ちょっ、ねえ!? 何してんの!? ねえ、何してんの!? 私、女神なんですけど!? すっごく痛いんですけど!?」
「少しの辛抱だ。なあに、見捨てやしねえよ。仲間だろ?」
「な、なあ、ヒカル? 別にアクアは持たなくてよかったんじゃないか?」
並走しているカズマが聞きづらそうに尋ねてくる。
「こんな粘液まみれの状態で走ったら、アクアのことだから滑って転んだりしそうだろ。それに転んだ時に誰かを巻き込んだりしそうだ。アクアが飲み込まれるだけでも最悪なのに、更に一人二人と増えたら、確実に全滅する。だからこうして転ばないようにしてる」
「お、おう、そうか。そこまで考えてたんだな」
後ろから聞こえる罵詈雑言と悲鳴を無視して走り続ける。
そして街の近くまで来ると、いつの間にかカエルの姿は見えなくなっていた。
「うっ……ううっ、女神なのに……私……」
生きて帰れたのが泣くほど嬉しかったらしい。
俺も全力で走った甲斐があった。
「…………」
めぐみんの方を見ると、何故か諦め切ったような顔をしていた。
とりあえずギルドまで連れて行くか。
「ヒカル、ちょっと待った。まさかこのまま街に入る気か?」
「ん? まだめぐみんは動けないんだろ?」
「……ヒカルは疲れただろうし、俺がおぶるよ」
「そうか?」
カズマに背負われためぐみんが何故か俺をめちゃくちゃ睨み付けてくる。
まだ爆裂魔法のことを言い間違えたのを気にしてるのだろうか。
その後、めぐみんは爆裂魔法のみを愛する魔法使いだということが分かった。
だから言い間違いにあんな反応してたんだな。
まあ、俺は何が違うのかはわからないままなんだが。
……そして、めぐみんは一日一回しか魔法が使えないことが分かり、カズマもそれとなくパーティー入りを拒否しようとしたのだが失敗し、めぐみんは俺達の仲間になった。
仲間が増えたのに、何で不安も増していくんだろうね。
その日の夜。
ギルドに併設された酒場で食事をしようとしていた時。
「年端もいかない二人の少女を粘液まみれにし、引き摺り回したというのは本当だろうか!?」
カズマが女騎士みたいなのに絡まれていた。
◯ヒカルくん
武道に生きてきた彼はまあまあストイックなため。
「カエルに飲み込まれるのは大変だろうけど、目標のためなら頑張れよ」の精神である。
いきなり『狂戦士』になったせいか、少し危なっかしい部分がある。
とある誰かさんたちに比べて、アクア達の扱いが雑なのは家族ではないから。