「ラーイエローに昇格したい、ですか…」
教員である佐藤先生は、自分の授業に対し、真摯に取り組むオシリスレッド生を見つめる。
筆記試験では抜群の成績を修め、実技試験ではオベリスクブルーの女子でも指折りの実力者である秋津に勝利した生徒。
「はい。」
「…君の成績であれば、ラーイエローへの昇格も夢物語では無いかと。君が頑張っている事はクロノス教諭をはじめ、教職員も目をかけています。」
「あっ、ありがとうございます!」
「何を勝手なことを言っている!」
「土門教頭。」
見下すような目で現れた男に、佐藤先生は苦虫を半ダースかみつぶしたような顔になる。
「ラーイエロー寮は満員だ。オシリスレッドを受け入れる土壌は無い!」
「…では、三沢大地を昇格させてはどうです?そうすれば」
「三沢?誰だ?」
本当に知らない顔を浮かべる土門教頭。影が薄いからそういう扱いなのか、それとも本気なのか、少々判断に困る翔。
「ラーイエローの首席ですよ!はぁ、土門教頭、今私は生徒から相談を受けている最中です。」
「では、同席させて貰おう。私は教頭だからな」
「…丸藤君、居ない者として」
「何か言ったか?」
悪口は良く聞こえるらしく、文句を言う土門教頭。
「…さて、本来。君の成績であればラーイエローへの昇格させて問題はありません。むしろ昇格させなければ、オシリスレッド寮生のモチベーションが下がってしまうでしょう。ですが、ここだけの話。中等部からの進学組にやや問題がありました。」
「問題、ですか?」
「アンティルールをしていた事が発覚したり、煙草や飲酒に加えて、器物損壊に暴行事件…。とてもオベリスクブルーに入れる訳にはいかない生徒が多数出ました。そのため、ラーイエロー寮へ押し込まざるを得なくなってしまったのです」
「そんな事が…」
「君が昇格するには、ラーイエローでも下位の生徒と寮の入れ替えデュエルに勝利することです。」
「入れ替えデュエル…」
口をはさむ土門教頭。
「よしんば勝てたとしても、すぐに入れ替えデュエルで降格にしてやるがな!」
「…正直、ラーイエローの樺山寮長も匙を投げるような生徒が数名出ています。入れ替えデュエルが起きる可能性は低くは無いとだけ伝えておきます」
「そうなったとしても、こいつを昇格させることは断固反対!こんな社会の底辺にしかなりそうにない生徒に恵まれた環境など無駄だ!」
その暴言に、佐藤先生は思わず立ち上がる。
「貴方は、貴方と言う人は…教師としての自覚はあるのですか!」
「私は教頭だぞ!私を教頭に任命した、海馬瀬人の眼を疑うのか!」
騒ぎを聞きつけ、クロノス教諭が近づいてくる。
「騒ぎが起きていると思ったーラ、カルボナーラ!やっぱり土門教頭だったノーネ!シニョール丸藤!寮に戻るノーネ!」
相談しただけで、どうしてこうなるッスかぁ…。
でも、ラーイエローの生徒が起こす事件というと…たしか、大原君と小原君のアンティルールと、神楽坂君のデッキ盗難。
この限りなく近くて遠い世界で、本当に事件が起きるかどうかは不明ッス。
寮に戻った僕はオシリスレッド寮生の中でも、奮起している分派所属の揚羽と、ワイト使いの朝霧に声をかけるッス。
「相談って?」
「僕、ラーイエロー寮に上がりたいッス」
「そんなの当たり前じゃあないですか?だからこうやって頑張っている訳で」
「そうそう。まぁ、まだ頑張りが足りないみたいだけれど」
「でも、そのことを先生に相談していたら、土門教頭が話に割り込んできて…ラーイエロー寮の空きが足りないからダメだって言われて…」
「ラーイエローがブルーに上がってくれるか、それとも寮の入れ替えデュエルをするしかないって事か。」
「だから、僕はラーイエロー生を狙っていこうと思うッス。」
「そいつはいいと思うが…。でもそうすると、ラーイエロー寮で孤立するぞ。」
「いや、それは良い考えですよ」
「朝霧君?」
「ラーイエローでも、中等部からの進学組で成績が悪いとされた生徒は、ラーイエローに配属になりますが…。かなり素行も悪いのです。編入組とも不仲とか」
「あっ、佐藤先生も言っていたッス。今年の進学組は問題を起こしていて、それでブルーに配属できなかったとか…。よし、これで決まりッス。僕達はラーイエローに上がるために、チーム、脱レッドを結成するッス!」
「その考え、乗った!」
「フフフ、これで乗らないなんてありえないですよ」
僕達は手を重ね合わせるッス。
「ターゲットは3人です」
そういうと、朝霧君はメモ帳を取り出して、魅せてくれたッス。
「内村(うちむら)、安藤(あんどう)、蛭川(ひるかわ)ッスか…」
「内村は数少ない【デッキ破壊】使い。これは僕が狙わせて貰いますよ?」
ワイト使いの朝霧君には相性が良いッス。
「蛭川は分派に所属したが、そこでとても失礼なことをした。俺が」
「元分派と分派が直接対決するというのは、周りから見れば浦塞先輩がお前に指示を出したように見えるぞ」
「うっ。気にしていないという事を言っていたな…。」
「という訳だ。元分派、サイバー・ダークを投入しているであろう蛭川は丸藤に頼みたい」
「わかったッス」
「なら、俺が安藤か…」
「気をつけてくださいね。奴は三沢と同じ相手を分析して戦う策士タイプ…。仮面竜を装備したサイバー・ダークの攻撃力は2200、それを上回り、かつ君の罠カードを封殺できるサイコ・ショッカーを主軸にしてくると思われますから」
「2400打点か…。なんとか除去できればいいんだが…」
「フフフ、サイコ・ショッカー対策に良いカードがありますよ?」
…という事で始まったッス。僕達のラーイエローへの昇格作戦が。
…その夜。翔はまたしても悪夢を見ていた。
「どうして、リスペクトに反するカードを使うんスか?!」
これは、翔が地下に落とされてしばらくたった頃。
最初は勝てていたが、徐々にダメージを受けるようになり、心身ともにボロボロになりつつあった。
そして…負けるようになった。それまでの勝利で得た貯えが目減りしていく様は、翔を焦らせるには十分すぎる要素だった。
才災の残した『正しい・リスペクト・デュエル』に則っているのに、相手がリスペクトに反するカードを使うせいでダメージを受けたり、不利になった事で、翔は批判・否定をするようになった。
だが地下でそんな物は笑い飛ばされるか、無視されるかのどちらかでしかない。
そんな翔は、地下デュエルに落とされた決闘者達や関係者から相手にされなくなった。ただ、一人を除いて。
…尤も。地下デュエルに落とされた決闘者にあるのは、せいぜい知り合いの最期に自分自身を重ね合わせ、生き残れば嫉妬する程度の薄っぺらい物なのだが。
「どうして、妨害札を使わない事がリスペクトに則っている事になる?」
「決まっているッス!」
翔は、自分に話しかけて来た少女、田坂(たざか)に、才災から教わった『正しい・リスペクト・デュエル』の精神を伝えた。
「だから、僕は正しいんス!なのに!」
「丸藤。攻撃が通れば負けるという場面で、攻撃を通さないカードを使うのは卑怯か?」
「えっ?」
田坂の大きな瞳が、翔の茫然とした顔を映し出していた。
「相手の展開を妨害せねばこちらが負ける。展開を妨害する方法があるにも関わらず、傍観して負けてあげる事が、『リスペクト』なのか?」
「それ…は…」
「それを『リスペクト』というのであれば、丸藤が負けるような状況でも、甘んじて敗北するべきではないか?」
言葉に詰まる翔。
「…丸藤がその精神を大事にしているように、他の決闘者にもそれぞれ大事にしている『デュエルに対する想い』という物がある。それを『リスペクト』するべきなのではないか?」
「僕…は…」
その日から、僕は妨害札を使う事について考えるようになったッス。
田坂さんは両親が急死して、残った借金を返済する代わりに地下デュエルに来たらしいッス。
だけど、ある日。田坂さんは亡くなったッス。
残された遺言状にはこうあったッス。
借金取りには、まとまった金が入るまで返済を待ってもらおうと交渉したが、全て拒絶された事。
親戚のカードショップで働いて返そうとしても、5分毎に職場に電話をかけられて業務を妨害され困った事。
親戚のカードショップの大会に来ていた僕のデュエルを見ていて、僕の事を覚えていたという事。
親戚の人が昔、丸藤亮に助けられたことがあって、親戚の人は弟である僕を助けたいと思っていた事。
そして…もしも自分に何かあったら、この中のカードを使ってほしいという事。
中に入っていたのは…デモンズ・チェーンだったッス。
翔はこの時初めて、復讐の為にデッキを組んだ。
安くはない金を払い、田坂の最期のデュエルデータを翔は購入し、研究した。
それを地下デュエルの黒服は『無駄な努力』と内心あざ笑っていた…。
リベンジマッチを依頼したところ、翔が今までそういう申し出をしなかったこともあり成立した。
現れた男はかなりの大物らしく、地下デュエルの関係者は腰を低くしていた。
「申し訳ございません…。こんな小物が相手で」
「まぁいい。デッキのカードをチェックするためのデュエルにはなるだろう。」
言葉少なく、翔はデュエルディスクを構える。
「構えろッス」
「この前のといい、ここの連中はイキが良いのが多いな…。精々敗北という運命にあがいて見せろ!」
「「デュエルッ!!」」
翔 ライフ4000
手5 場
謎の男 ライフ4000
手5 場
「先攻はやるよ」
「僕の先攻、ドロー!永続魔法、王家の神殿を発動するッス。これにより、1ターンに1度だけ、罠カードを伏せたターンに発動出来るッス。カードを1枚伏せ、チェーン・マテリアルを発動するッス!僕はビークロイド専用魔法、ビークロイド・コネクション・ゾーンを発動!」
「何?!」
「トラックロイド、エクスプレスロイド、ドリルロイド、ステルスロイドを除外して、スーパービークロイド-ステルス・ユニオンを融合召喚!カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
「エンドフェイズに、チェーンマテリアルで特殊召喚したモンスターは」
「ビークロイド・コネクション・ゾーンで特殊召喚した融合モンスターの効果は無効にならず、カード効果では破壊されないッスよ!」
「ほぅ。先攻1ターン目から、ずいぶんと大物を出してきたな…」
翔 ライフ4000
手2 場 ステルス・ユニオン 王家の神殿 伏せ1
謎の男 ライフ4000
手5 場
「我のターン、ドロー!そいつにはちょっとばかし驚かされたが…永続魔法、D-フォース!我のデッキ・墓地から「D-HERO Bloo-D」1体を選んで手札に加える!」
「…来たッスね」
田坂さんにトドメを刺したモンスターが手札に加わった事で、翔は警戒心を強める。
「我はトーチ・ゴーレムを特殊召喚!お前の場に守備表示で特殊召喚。そして我の場にトーチ・トークンを二体特殊召喚!さらにデビルズ・サンクチュアリを発動!我の場にメタルデビルトークンを特殊召喚!」
「三体の、リリース要員…」
「我は場の三体のモンスターをリリース。現れよ!D-HERO Bloo-D!さらに永続魔法、D-フォースは我の場にD-HERO Bloo-Dが存在する限り、我の場のカードはお前のカード効果の対象にならず、D-HERO Bloo-Dは互いの墓地のモンスターの数の100倍攻撃力がアップし、カード効果では破壊されず、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃が出来る!」
攻撃力1900だが、あのモンスター効果が厄介であることを翔は知っていた。
男は、にやりと笑う。
「D-HERO Bloo-D効果発動!相手モンスターを選択、選択したモンスターを装備カードとして装備!装備モンスターの元々の攻撃力の半分、攻撃力がアップ!ステルス・ユニオンとやらをいただく!」
「ステルス・ユニオンッ!」
「これで攻撃力は3700!さらに装備魔法、白のヴェールをD-HERO Bloo-Dに装備!バトルだ!」
「待つッス!メインフェイズ終了時に罠発動!進入禁止!No Entry!!場のモンスターはすべて守備表示になるッス!」
「何だとっ!ふん…カードを一枚伏せ、ターンエンド」
翔 ライフ4000
手2 場 トーチ・ゴーレム 王家の神殿
謎の男 ライフ4000
手1 場 D-HERO Bloo-D (ステルス・ユニオン) D-フォース 白のヴェール 伏せ1
「僕のターン、ドローっス!カードを一枚伏せ、トーチ・ゴーレムを攻撃表示に変更して、バトル!」
顔をしかめていた男は、翔のプレイングを見てにやりと笑う。
「トーチ・ゴーレムでD-HERO Bloo-Dを攻撃!」
「…白のヴェールが場を離れたことで、我は3000ポイントのダメージを受ける」ライフ4000から1000
男は大ダメージを受け、紫電が迸るも平然としている。まるで痛みなど感じないように。
男から白いオーラのような物が迸る!
「さぁ、ターンエンドしろ!」
「まだッス!永続罠発動!リビングデッドの呼び声!」
「馬鹿な!それは今伏せたばかり…。王家の神殿か。」
「甦れ、ステルス・ユニオンッ!追撃ッス!」
「甘い!リバースカードオープン!スケープ・ゴート!トークンを4体守備表示で特殊召喚!これで、お前の攻撃は届かない!ハハハハハ!」
高笑いを上げる男。
「ステルス・ユニオンが攻撃するとき、攻撃力が半分になるッス」
「1800か。羊トークンが一体始末されるが、それでもライフは残る。そうなれば」
「そして、ステルス・ユニオンには貫通効果があるッス!」
「……は?どごぶふぁああああああああああ?!」ライフ0
ステルス・ユニオンの拳を受け、吹き飛んできた羊トークンが直撃し、完全に油断していた男は転倒。大量の紫電が迸る!
「あがあああああああああっ!?ぐがあっ!」
「…勝ったッスよ、田坂さん」
男から、白い靄が大量に吹き出る。ソレは、恨み言のような呪詛をまき散らす。
『グァ…こ、こんな、コンナトコロデは、死ねんッ…!』
ふらふらと、白い靄は逃げ出す。
D-HERO Bloo-Dと白のヴェールを持っていて、地下デュエル場の関係者が腰を低くする大物にとりついていた「白い靄」は何者だったのか…。
…GXの地下デュエルって運が悪かったら、コレとエンカウントする可能性が0では無いんですよね…。まぁ、滅多に起きないでしょうが。
作中でお披露目する機会はありませんでしたが、田坂さんのデッキは霞の谷のファルコンを主軸に置いた【セルフ・バウンス】でした。