「結局タンホイザが一番可愛くて尊いんだよね」   作:アメざいく

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1日目(前編)

【一緒に旅行に行かない?】というメッセージがタンホイザから唐突に送られてきたのは、今から1週間ほど前の事だった。

 

―――マチカネタンホイザ。私の担当・・・いや、担当『だった』ウマ娘である。

連絡先を交換していたので、彼女が引退して学園を去った後もぼちぼちと連絡を取り合っていた・・・が、毎日の連絡はやがて1週間に一回になり、いつ頃からか完全に交流が途切れてしまった。かれこれもう2年半は連絡を取っていない。

 

そんな彼女が数年ぶりに連絡をよこしたと思ったら(まぁ私が忙しくてメッセージに返信する時間がなかったのが大きな原因だけども)唐突に旅行に誘ってくるとは・・・あのタンホイザはそんなことしないとは思いつつも・・・怪しい。

 

【行く】という短文を送ると、彼女から即座に大量のスクショと日程確認他の質問が送られてきた。・・・やたらテンションが上がっていることが文面で見て取れる。

 

旅行先は有名な温泉地のようだった。1泊2日、旅館には各部屋に露天風呂つき。

 

魅力的な文面が画面内で踊る中、私はどこかその文章に何とも言えない違和感を感じていた。・・・どこかで見た気がする。デジャヴ?っていうか?そんな感じの。

 

(・・・ま、いっか・・・。重要そうなことは行ってから考えよう・・・)

 

現担当の子とのトレーニングも、アオハル杯後という事も相成って休みにしていたし、気分転換にもちょうどいいだろう。

 

――――もう考えるのはやめた。

 

 

 

 

早朝6時30分。トレセン学園前。

 

「・・・ねむっ・・・」

 

先月調子に乗って買い換えた新車の運転席で、私はふとそんなことをつぶやく。居眠り運転はマズいと思い缶コーヒーを一気に流し込むが、眠気が覚める気配はこれっぽっちもなかった。

 

「・・・ふぁ・・・っ」

 

車で行くと言い出したのは私だ。全部の計画をタンホイザに丸投げするのは気が引けたし、なにより私のちっぽけなプライドが許さなかった。・・・というかそもそもタンホイザが運営してタンホイザがリードする旅行という言葉がいかんせん不穏すぎる。

 

「あっ!!いたいた!!トレーナーさーん!!」

 

なにやら窓の外からそんな楽しげな声が聞こえる。・・・いつの間にか近くに来ていたタンホイザが、車の中の私に手を振っている。

 

ネイチャあたりに教わったのか私服のコーデや雰囲気も、最後に会った3年前よりも全体的に大人っぽくなっている。でもキャスケットの頭頂部に穴をあけて右耳を通してかぶっているファッションは相変わらずで少しほっとした。・・・ちなみに相変わらず雑に穴をあけている。

 

「おー久しぶり。ほら、助手席座って。」

「相変わらずクールだね~。感動の再会!!とか、そういうのないの~?」

 

そんなことを言って茶化しつつも、彼女は誘導の通り助手席に座る。・・・相変わらずうっきうっきだ。

 

(―――クール、ね・・・)

 

―――別に私はクールなんじゃない。これはただのかっこつけだ。タンホイザの前では冷静なキャラでいたい私の。

 

「―――あ。そうそう、これから・・・っていっても1時間くらい後だけど・・・サービスエリア寄るけど、なんか買いたいものとかある?」

「あっ!!だったらあれ欲しい!!」

 

―――『あれ』?

 

「あれだよあれ!!名物メロンパン!!」

 

 

 

「ふわっふわだぁ~っ♪」

 

名物メロンパンを前に、瞳をキラキラさせるタンホイザ。メロンパンもそれを美味しそうに食べるタンホイザもひっくるめて、ものすごく・・・あぁ、ダメだてぇてぇ・・・。

 

(―――旅行来てよかった!!)

 

・・・本来の目的地はまだまだ遠いし、そもそも旅行を計画したのもタンホイザなんですけどね。

 

「・・・トレーナーさんも、ひとくち食べる?美味しいよ?これ。」

「ん・・・じゃぁお言葉に甘えて・・・」

 

差し出されたメロンパンをひとくちぱくっと食べる。・・・外は普通にクッキー生地でさくさくしてるけど、中はすっごいふわふわ・・・ついでにメロンの香りがする・・・さすが名物と歌われるだけはある。

 

 

「これやっぱ美味しいね―――・・・ん?」

(―――待てよ?このメロンパン、タンホイザの食べかけじゃなかったっけ?)

 

ワンテンポ遅れて、重要そうな情報が頭の中に飛び込んでくる。のんきにメロンパンの食レポしてる場合じゃない。

 

・・・ってことは、これって実は間接キスだったり―――

 

「?・・・トレーナーさん大丈夫?なんか顔赤いけど・・・」

「だっ・・・だいじょうぶ大丈夫!!」

 

冷静になれ。いつもの(表面上だけの)クールさを取り戻せ自分。

・・・そうだ、きっとタンホイザのこの行為には恋愛的な他意はない・・・ただ『メロンパンが美味しかった』という感情に基づいた純粋な行動なはず・・・。

そうだ、そうだと分かれば後の行動はほぼ決まったようなもの・・・

 

(―――とにかく、何も気づかなかったことにする!!)

 

逃げた。

 

スルーだ。スルーしろこの百合っぽい事実に。タンホイザはそんなことこれぽっちも思ってないし、気づいてもいないのだ―――

 

「あれ?もしかしてこれって間接キスだったりする?」

(――――っ!?)

 

気付いてんじゃん!!

 

「ファーストキスはメロンパンの味でした~!!

な~んちゃって☆

 

 

 

・・・って、トレーナーさん顔赤いけど大丈夫?」

「だっ・・・だいじょうぶ大丈夫!!」

 

―――あぁ、もう。こんなの全然クールキャラじゃない。

 

自分自身に悪態をつきつつ、私はメロンパンを口に放り込んだ。

 

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