「結局タンホイザが一番可愛くて尊いんだよね」 作:アメざいく
(―――さっすがサービスエリア。あそこは魔境だわほんとに・・・)
瞬く間に溶けていった私の4千円弱に想いを馳せつつ、私は車を走らせる。
『あれ?そういえば今何時だっけ?』と思う頃には、すでに時計の針は12時を回っていた。あれ~?おっかしーなー、サービスエリアに着いたのって8時半くらいじゃなかったっけ?
・・・私の4時間(と4千円)はどこに?
――――まぁいいか、どうせSA以外にどこかへ行く予定もないし・・・とかいう言い訳をぼやきながら、特に変わり映えのしない高速道路を走る。・・・もしこの旅行の企画者がタンホイザではなくてエイシンフラッシュだったら、文句や小言なんてレベルでは済まないだろう。時間にうるさいフラッシュのことだ、きっとこってりしぼられてしまうに違いない。
・・・企画者がタンホイザでよかったと、不謹慎ながら思った。
その肝心のマチカネタンホイザはというと、朝早かったからなのかSAではしゃぎ過ぎたのか、助手席ですやすやと眠っていた。規則正しい吐息が耳の奥をくすぐる。
(―――今回の交通手段が私の運転する車でさえなければ、タンホイザの寝顔を堪能できてたかもしれないのに・・・)
・・・まぁ、ただの結果論だが。
インターチェンジを通って、高速から一般車線へ乗り換える。強風にあおられて車体が一瞬大きく揺れる。
「・・・ん」
肩にこつんとなにかがぶつかった気がした。視界の端にタンホイザの淡い髪色が映る。
―――タンホイザが私の肩に寄りかかっている・・・のか?相も変わらず、彼女の寝息が耳をくすぐる。
(・・・ま、こういうのもいっか・・・)
・・・結果論だが。
「んっ・・・あれ?
・・・今何時?」
「4時。午後のね。・・・旅館ここで合ってたっけ?」
「うん、合ってる・・・はず。」
寝ぼけ眼をこすりながら、タンホイザがそう答える。・・・今さっき目が覚めたばかりの彼女はまだものすごく眠そうだった。大きな欠伸が一回。
「だいじょうぶ?・・・疲れてるの?」
「んっ・・・大丈夫だいじょうぶ・・・
さ、温泉でぱーっとするぞー!!」
「いやそれニュアンス的にもマナー的にもおかしい・・・」
とっととチェックインを済ませ、荷物を部屋の中に運び込む。・・・ここが今夜過ごすことになる部屋か。なかなかいい所じゃないか。・・・床の間に置いてある壺と掛け軸(しかもなんか高そう)をタンホイザが不注意で破壊しないかだけが心配だが。
(―――なーんか違和感するんだよね~・・・。)
基本的にどこにでもありそうな温泉旅館の客室テンプレートみたいな内装の部屋なのでそうとも言い切れないのだが、・・・どうにも前にここに来た気がする。・・・気のせいだろうか?
・・・食事は結構美味しかった方だろうか。ついカロリーという概念を忘れて食べ過ぎてしまった、なんてくだらないことをタンホイザと喋り、部屋へと向かう。
「あっそだ、トレーナーさん!!お風呂一緒に入らない?」
さも当然の流れのごとく、タンホイザがそういった。
「ん?あぁ別にいいけ・・・―――は?」
――――あぁ、私はいったい何をしてるんだろう?
(夕ご飯を食べすぎちゃったから、私はタンホイザとふたりで露天風呂につかっているのか・・・?)
頭の中にそんな怪文書が浮かぶ。・・・いやそうはならんやろ。
「トレーナーさ~ん!!えっへへ~♪」
「ん?なに?タンホイザどした・・・ってうわっ!?」
そんな間抜けな声を残し、私はタンホイザに抱き寄せられてしまう。
―――なにも遮るものがないまま、肌が密着する。
「えっへへ~、トレーナーさんの肌、ひんやりしてる~」
私の頬にそっと手を添えて、タンホイザがそういう。―――不覚にもどきっとしてしまった。
「―――あんたってほんと魔性だよね・・・」
「え~?そう?」
―――この天然め。これでいて本人も無自覚なのだから余計恐ろしい。
「・・・なにか勘違いしてるかもだけど、私はトレーナーさん以外には、こんなスキンシップとらないからね?」
「―――っ!?」
体が熱を帯びていくのが分かる。―――人間がウマ娘に勝てるわけがない、とはよく言ったものだ。
私は、――――彼女に勝てない。
「旅行、・・・誘ってくれて、ありがと。」
「うん!!
―――ほら、私がまだデビューしたばかりの時、トレーナーさんがここに連れてきてくれたじゃないですか」
(―――あ)
そうだ。まだ彼女の担当になってから日が浅かったあの日、私はデビューのお疲れ様会と親睦会を兼ねて、タンホイザとふたりでここに来ていたのだ。
あの時も私が車を運転してて、ふたりでいっぱいはしゃいで、笑って。こんな大切な思い出、どうして今まで忘れていたんだろう。
・・・もしかすると、タンホイザが引退して担当を解約されたあの日を境に売り払ってしまった当時の愛車と一緒に、置いていったのかもしれない。
「だから、またトレーナーさんとふたりで、ここに来たいなって思ってたんです」
―――置いていく必要なんて、これっぽっちもなかったのだ。
「―――来年も来ようよ。再来年も、その次の年も・・・」
まだ右も左も分からなかった、あの頃の私たちとは違う。―――もう、考えるのはやめた。
「―――うん!!」
相も変わらず、月が綺麗だった。
注:2日目どこ行った問題が浮上している可能性がありますが()この作品はこれで完結となります。2日目は皆さんの想像にお任せという事で(