とある日の羽沢珈琲店に、1人卓に着いた雷輝の姿があった。彼以外の客の姿がない店内で、雷輝が卓上に開いたノートへ文字を書き綴る音が木霊する。
ある程度文字を綴った所で、彼はペンを置きノートの傍らにあるコーヒーカップを手に取ると、カップの中身を呷り大きく息を吐く。
「お疲れ様!」
店舗の奥から顔を出してきたつぐみが、雷輝へ労いの言葉を笑顔と共に掛ける。
「ありがとう。あ、珈琲のおかわり貰える?」
「はい! ちょっと待っててね」
空になったコーヒーカップをお盆に載せたつぐみは、再び店の奥へと入って行く。それと入れ替わるようにして、店舗の入り口が開かれる。
「おー、これはこれは、ライライではないですか〜」
「……モカ」
羽沢珈琲店にやってきたのはモカ。予想外の人物との接触に唖然とした様子で彼女を見据える。
「なんでここにいるんだ?」
「なんとなく来たらライライがいたー」
普段同様に間伸びした口調で返答したモカは、そのまま雷輝の対面へと腰を下ろす。
「しれっと腰下ろすなし」
「良いではないかー、良いではないかー」
「なんも良くねぇよ」
大きく溜息を吐いた彼は、左手で額を抑え重心を背もたれに預ける。対するモカはそんなことなどお構いなしにメニューに目を通していた。
「今日は何にしようかなー」
「先に断っておくが、俺は奢ってやらないぞ」
「え〜……?」
「最初から集る気だったのかよ……」
呆れた様子でモカを見つめていると、卓上に置かれた雷輝の携帯が着信を知らせる。
「電話……蘭からだ」
「およよ?」
珍しい人物からの着信に顔を見合わせ首を傾げる雷輝とモカ。そんな雷輝は4コール目で通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『雷輝? モカの事見てない?』
「え、目の前に居るけど」
彼が嘘偽りなく答えると、電話越しに蘭の呆れたような溜息が聴こえてきた。それを聴いた雷輝は、向かい側に座るモカへと視線を移す。
「ん、どーかしたのー?」
「お前、今日蘭と予定があるんじゃないのか?」
それを聞いたモカは暫く考え込んだ後、顔を青ざめさせていった。それを対面で眺めていた雷輝は大きなため息を吐く。
「もしもし……完全に忘れてたらしいわ」
『だよね……全く』
「まあ俺が無理に誘ったところもあるから、こう言うのもアレだが少し多めに見てやってくれないか……」
『……今度あたしの用事に付き合ってくれるなら』
「了解」
蘭の言葉に応じつつ、外を示す雷輝。その意図を汲んだらしいモカも、申し訳なさそうな顔をした後に席を立つとそのまま店外へと去っていく。
「数分後にそっち着くと思うからよろしく」
『ん』
そう言って電話を切った彼は、卓上に力なく伏せる。側から見てもわかる程疲れ切った様子で。
「お待たせー」
そんな彼の元に、店の奥から出てきたつぐみが珈琲を渡す。にこやかな表情と共に。
「ありがとう」
つぐみに礼を述べた雷輝は、熱々のコーヒーを軽く冷ますと軽く口に含む。そしてカップを置き、ペンを握り直すと作業を再開した。
それから数十分程経ち、カップの中身が殆ど空になった頃。雷輝は強烈な眠気に襲われる。
「あ……れ……?」
体に力が入らず、そのまま彼の意識は暗転してしまう。その間際、彼が見たのは己の元へと駆け寄ってくるつぐみの姿であった——
雷輝が目を覚ますと、そこは暗い部屋の中であった。不思議そうに思いながらも辺りを見渡していると彼の元へと近付いてくる足音が部屋の中に木霊する。
「……?」
暗がりの中で目を凝らしていると、薄らと見覚えのある人影を捉える。同時に彼は驚愕した。
慄きながらも、事に至った経緯を必死に考えている彼の手前つぐみがそっと口を開く。
「大丈夫だよ雷輝君……悪いようにはしないから」
吸い込まれそうになる程暗い眼差しで雷輝を見据えるつぐみ。その手には何故かコーヒーカップが握られていた。
「——ちょっと、これを飲んでもらうだけだから」
直感的に身の危険を感じた雷輝はこの場を立ち去ろうとするも、両手足は手錠で椅子に縛り付けられており身動きが取れない。それどころか口元も布で覆われ叫ぶことすらできなかった。
そんな彼の向かい合う形で膝に座ったつぐみは、彼の口元を覆っていた布を下ろす。
「つぐみ……なんの真似だ」
「——雷輝君が悪いんだよ」
ただ一言答えたつぐみは、問答無用でコーヒーカップの縁を彼の口に当てその中に入っていた何かを流し込む。
強引に流し込まれた雷輝はというと、中身が気管へと入り激しく咳き込む。
「何を……ゲホッゲホッ……飲ませたんだ」
「直ぐにわかるよ」
雷輝の問いかけに答えたつぐみは、普段と同様の笑顔を彼に向ける。その様子に唖然としていた雷輝であったが、直後に彼女の言葉の意味を理解する。激しく体が熱を帯び始めたことにより。
「これって……ッ」
「うん。そうだよ」
怪しく微笑んだつぐみは自身の口元をなめずり、躊躇うことなく雷輝の唇を奪う。
「ムグッ……!」
雷輝の口内に滑り込んできたつぐみの舌が、彼の
「プハッ……いいね雷輝君……そう言う顔大好き。もっと見せて」
「ハァ……ハァ……?」
荒い呼吸の彼が見上げた先には、普段からは想像できないほど妖美で怪しげな笑みを浮かべるつぐみの顔があった。
「本番は——これからだよ」
上唇を舐めずったつぐみは、身に纏っていた衣類を脱ぎ捨てて行く。それを見ていた雷輝は、この先何をされるのかを理解してしまった。無抵抗のまま、嬲られるという現実を。
「それじゃあ、始めよっか」
下着のホックを外した彼女は、雷輝の首元に手を添えるとネクタイを外す。そして、その下から露わになったワイシャツのボタンに手を掛け1つずつ外していくのであった——