バンドリ短編(書き溜め置き場)   作:希望光

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本来ならば7月7日に投げたかった大遅刻作品。
小説版のポピパが七夕に結成したことを記念した作品です。


星の約束

 その日の昼下がり、江戸川公園の滑り台の上に赤い星形のギターを抱えて座る1人の少女の姿があった。

 その少女——『戸山香澄』は、特段何かするわけでもなく、ギターを抱えたままどこか遠くを眺めていた。

 そんな彼女はかれこれ数時間、その場に同じような状態で留まっているのだが、その間も今と同様に何もせずただひたすらに遠くを眺めていた。

 漠然と遠くを眺め続けている彼女の傍ら、いつの間にやら小学生位であろう子供達の姿が公園内に見え始めた。それに伴い現れた喧騒で、漸く香澄は動きを見せた。

 

「……っしょ」

 

 徐に抱えていた星型のギター、『ランダムスター』を構えた彼女は、小さなアンプを繋ぐとギターの弦に指を掛ける。

 

「……『Yes! BanG_Dream!』」

 

 小さく溢した香澄は、脳裏にあるコードに沿って指を走らせ始めた。目の前の子供達を観客に見立てて。

 

「——さあ、飛び出そう! 明日のドアノックして 解き放つ無敵で最強のうた!」

 

 突如鳴り始めた音楽に、各々遊んでいた子供達は一斉に手を止め香澄の方へと向き始める。

 

「In the name of BanG_Dream! Yes! BanG_Dream!」

 

 かつて、世界と言う舞台へ挑戦した者たちが残した言葉。BanG Dream(夢を撃ち抜く)の名の下に(ために)。その意味に応えるかの様な力強い歌声は、公園内の喧騒を掻き消し、興味と言う視線を集めた。

 

「下を向いて歩いていても 星のかけら見つけたら きっと いつか キミに会いにいけるね」

 

 ギターをかき鳴らしながら、手にした愛器『ランダムスター』と出会った日のことを脳裏に思い浮かべる。

 地面に貼られた星のシールを追って辿り着いた蔵。その蔵にあったショーウィンドウの前に立てられた赤い星。それを手にした日から始まった、彼女の新しい日常。

 

「いつか出会える夢を信じて ときどきドキドキときめいてる ただ胸に秘めている あふれる思いを」

 

 声を失ったカナリアは蔵の主人(あるじ)と出会い、後押しを受け、声を取り戻した。そして、一度捨ててしまった歌を抱き、『BanG Dream!』に導かれた者達と出会った彼女は、一歩一歩と前に進み続けてきた。そして出来上がったのがこの楽曲、『Yes! BanG Dream!』。

 

「さあ、飛び出そう 明日のドアノックして 解き放つ無敵で最強のうたを! キミだけの ホントの声 きかせて 夢とキミが出会うメロディ♪」

 

 仲間達と作り上げた“音楽(キズナ)”は、その音を公園の外まで響かせていった。その影響か、子供だけでなくいつの間にか他の通行人達の視線までも釘付けにしていた彼女は、ギターをかき鳴らしたまま立ち上がり、そこがステージ上であるかのように振る舞う。それにより観衆達もより一層の盛り上がりを見せる。

 

「In the name of BanG_Dream! Yes! BanG_Dream!」

 

 彼女の強く透き通った歌声は、江戸川公園を一瞬の内にライブ会場へと変化させたのであった——

 

 

 

 

 

 その後、『じゃんぴん'しゃっふる(ぽっぴん'しゃふる)』、『りみりん夏の三三七拍子(夏空SUN! SUN! SEVEN!)』、『ルイテキ革命(ティアドロップス)』、『走り始めたばかりのキミに』を合わせた計5楽曲を歌った香澄。人気も無くなり、静けさを取り戻した江戸川公園の滑り台の上で、香澄は1人ランダムスターでとある曲を奏でていた。

 

「Lalalala Lalalala……いくつもの夢を数えても 聞こえないふり続けてきた」

 

 優しく髪を撫ぜる夕暮れの風に向かって彼女が口ずさんでいたのは『STAR BEAT 〜ホシノコドウ〜』。彼女が、とある少女と共に作り上げた彼女のバンドの初のオリジナル曲。そして、香澄と少女との大切な“キズナ”。

 

「星のコドウを そっとつかまえたなら その手でだきしめて ねぇ もう離さない ずっと離したくない 私たちの“STAR BEAT!”」

 

 件の少女と出会い、友達となって、今のバンド『Poppin'Party』を結成した香澄。それ故か、香澄は人一倍この曲に思い入れがあった。だから今も、感情を乗せて歌詞を風の中へと放っていた。

 

「いま歌って いま奏でて 昨日までの日々に——サヨナラする」

 

 両眼を閉じ、静かにギターをかき鳴らしていた手を止める香澄。すると風のざわめきの中、小さな拍手が彼女の耳へ届く。

 不思議に思いながら、閉じていた瞼を開き音の方を確かめる。するとそこには、艶やかな茶髪をポニーテールに結った少女が香澄の方へ微笑みながら拍手を送っていた。

 

「……沙綾ちゃん!」

 

 その少女の姿をハッキリと捉えた香澄は、両目を見開き少女の名を呼んだ。

 

「上手だったよ、香澄ちゃん」

 

 拍手を送っていた少女——『山吹沙綾』は、賞賛の言葉を贈った沙綾は、手を後ろで組むと香澄の方へと歩み寄っていく。

 

「えっと、その……ありがとう」

 

 気恥ずかしそうに謝意を述べた香澄。そんな彼女の姿をみて微笑んだ沙綾は、そのまま滑り台の上に登ると彼女の隣に腰を下ろした。

 

「ところで香澄ちゃん、こんなところで何してたの?」

「あ、えっとね……たえちゃんみたいに、人前で演奏する練習してたんだ」

「そうだったんだね」

「うん……そうだ、沙綾ちゃん」

 

 納得するように頷く沙綾。その傍らで、不意に香澄が背後にあった鞄へと手を伸ばし、中から一冊のノートを取り出した。

 

「ここにね、新しい曲を作ってみたんだけどね……聴いてくれる?」

「勿論だよ」

 

 沙綾の返答を聞いた香澄は、ノートを開くとコードの記されたページを開く。そのページを沙綾は覗き込んだ。

 

「星の約束?」

「うん。それがこの曲の、名前」

 

 沙綾の問い掛けに返答した香澄は、再びギターを構えるとノートに記されたコードへと視線を落とす。

 

「——耳を澄ましてみた 夜空の声は今でもきっと呼んでる」

 

 ——ねぇ、聞こえる? ノートに記されたコーラスを読んで、卓上で行った会話の際姿を知らない誰か(香澄)から投げられたその言葉が、不意に沙綾の脳裏を過ぎった。

 

「辿り追いかけてた 夢の物語はまだ終わりそうもないね」

 

 ——わたし、サアヤちゃんに会いたい。ある時机の上に書かれたその一言が、2人の関係を大きく変えた。そして2人の——否、5人の夢に向かう物語が幕を開けた。

 

「いつもキミを——感じていた 今もキミに——ときめいて 胸焦がしたあの頃のままで——」

 

 5人で初めて夢の蔵に揃ったあの日、全員で語り合ったこの先の話。各々が、小さな頃からの夢や壮大な夢の話などをして各々夢に、そしてまだ見ぬ未来に想いを馳せていた。その瞬間(とき)のことを、沙綾は未だ鮮明に覚えていた。

 

「星の約束煌めいてわたしたちに降り注いだ 夢見ながら走っていた繋いだ指と指を その先に繋ごう」

 

 手を取り合うことによって、未来を切り開いてきた。そんな沙綾だったから自ずとその歌詞に共感していた。

 

「星の約束瞬いた 手を伸ばせば届きそうだね まだ見えない——未来へ ずっとずっと——声あわせて」

 

 歌詞に共感しつつその意を汲んでいる最中、沙綾は徐に香澄の方へと視線を向けた。そこにあったのは優しく穏やかな少女ではなく、凛々しく勇ましい『Poppin'Party』のリーダーの姿があった。

 そんな彼女の姿に驚いた様子を見せる沙綾であったが、香澄は気付くことなく歌を続けた。

 

「続くよ星の鼓動(スタービート) 永遠を感じた夜に——」

 

 歌い切った彼女はそこで漸く沙綾の方へと顔を向け、沙綾へと気恥ずかしそうな笑みを向けた。

 

「どう、だったかな……?」

 

 首を傾げる香澄の手前、沙綾は両の瞳から涙を溢れさせた。それを見た香澄は慌てふためく。

 

「さ、沙綾ちゃん……どうしたの? 私何か悪いことしちゃった……?」

「ううん……香澄ちゃんの作った曲の歌詞が……良くて、感動しちゃっただけだよ」

 

 涙を拭った沙綾は、香澄に笑顔を向ける。対する香澄も、沙綾につられて笑った。

 

「そっか。ありがとう」

「どういたしまして。はやく、みんなで演奏したいね」

「実はまだ……この曲、みんなに教えてないんだ」

「そうだったの?!」

「うん……ちょうどさっき、できたところだから」

 

 後ろ髪をかきながら苦く笑う香澄。今度は沙綾が、それにつられて笑った。

 

「そっか。じゃあまだ、私と香澄ちゃんしか知らない曲なんだね」

「うん。なんだか、2人だけの秘密みたいだね」

「そうだね」

 

 机の上のメッセージの様に、2人だけの秘密の会話。それが2人にとっては懐かしく、とても心地よく感じられた。そんな感傷に浸っていると、2人の耳にこちらへと近づいてくる足音が聞こえてきた。不思議に思いながらも、2人揃ってそちらへと顔を向ける。

 

「かすみん……やっと見つけた……」

 

 2人の前に現れたのは薄い金髪をツインテールに結った少女こと、『市ヶ谷有咲』であった。

 

「有咲?」

「かすみんあんたねぇ……今日蔵でパーティーするって言ったじゃ無い」

「あ……!」

 

 有咲の言葉を聞いた香澄は顔を青ざめさせていく。そんな2人のやりとりを、沙綾は不思議そうに見ていた。

 

「何かあったの?」

「何かって……アンタ、伝えてくれるっていってたわよね?」

「わ、忘れてた……」

「全く……」

 

 溜息を吐いた有咲は額を抑え項垂れ、香澄は両手で口元を抑え慌てた様子になる。

 

「どういうこと?」

「えっと、沙綾ちゃん。今日が何月何日か覚えてる?」

「え? 今日は7月7日……あ!」

 

 そこで沙綾は有咲の言葉の意を理解する。今日、7月7日に込められた意を。

 

「そっか、今日、だったもんね」

「そう言うことよ。わかったらさっさと行きましょう。2人を待たせてるんだから」

 

 有咲の言葉に頷いた2人は滑り台から降りると、有咲を含めた3人で並んで歩き始める。すると、公園の入り口付近で、一同に手を振る2人の少女の姿が映る。

 

「香澄センパイ! 有咲センパイ! 沙綾センパイ!」

「たえちゃん! それにりみりんも!」

「あまりにも遅いから迎えに来たぞ」

 

 2人の元へと駆け寄った3人。画してPoppin'Partyの5人は、思い出の地で5人揃った。夢と夢とが惹かれあったかのように。

 

「2人ともわざわざありがとう!」

「どういたしましてっス!」

「このぐらいのこと、朝飯前だ」

「それじゃ、蔵に戻ってお祝いしましょう。Poppin'Party結成1周年を!」

 

 頷いた一同は蔵へ向かって歩き始めようとした。すると香澄が、一同を呼び止める。

 

「ねぇみんな、折角だし円陣やらない?」

「賛成っス!」

「御意!」

「アンタねぇ、なんでこんなところで」

「いいじゃん、やろうよ」

「じゃあ決まりだね!」

 

 そう言った香澄が手を伸ばす。そこに有咲、りみ、たえ、沙綾が自身らの手を重ねた。

 

「「「「「——ポピパ! ピポパ! ポピパパ! ピポパ!」」」」」

 

 彼女達の掛け声は、夕闇の空へと響き吸い込まれていった。そしてその後に、宇宙(ソラ)を駆ける天の川へと姿を変えた。まだ知らぬ、誰かに届かせようと言う、思いと共に。




ポピパ、おめでとう。
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