イディアと共に第六階層の
格子戸に接近すると勢い良く上に持ち上がり、円形闘技場の奥にモモンガさんとアルベドを含めた階層守護者の姿が見えた。
階層守護者とは、簡単に言えばこのナザリック地下大墳墓のエリアボスだ。玉座の間にいたアルベドはその纏め役であり、守護者統括という立場にある。また、階層守護者の部下として、階層の中にある領域を守護する領域守護者がいる。ミュ-ズが創造し第二階層を守護しているイディア・ディーヴァが領域守護者の一例だ。
「む。守護者達よ、ミューズさんが来たようだ」
モモンガの声に反応し守護者たちが振り向いた瞬間、アルベド以外から驚愕と歓喜の念が飛んできた。
「あ、あのお姿は…!」
第一階層から第三階層【墳墓】の階層守護者でイディア・ディーヴァの上司。吸血鬼の階層守護者シャルティア・ブラッドフォールンは目が見開き驚愕の顔をしていた。
「ォオオ、マサカアノ御方ガオ戻リニナラレルトハ…!」
第五階層守護者【氷河】の階層守護者。昆虫種の階層守護者コキュートスはミュ-ズの姿に感動のあまり白い冷気の息を吐いている。
「お、おお、お姉ちゃん…!」
「そ、そんな…! 本当に…!」
今いる第六階層【大森林】の階層守護者。双子の
「なんと…!」
第七階層【溶岩】の階層守護者。悪魔種のデミウルゴスは人差し指で眼鏡の位置を直していた、眼鏡の奥の目は見開き無数にカットされた宝石がキラキラと輝く、まるで彼の喜びの度合いを表しているようだ。
第十階層【玉座】にて守護者達の纏め役をしている。守護者統括アルベドはそんな守護者達を女神のごとく微笑を浮かべながら見つめていたが、心境は真逆の様だ。
(「…アルベド以外から、敵意の念は感じられないか、やはり彼女は特殊なようだ。それにしても守護者達からの喜びの念がすごいな!!」)
アルベト以外から敵意の念は感じなく。みな歓喜と敬愛の念が強く感じる。
「ミュ-ズさん、こちらに」
「分かりました。イディアは守護者達の下に行きなさい」
「かしこまりました」
モモンガの様子を見ると、警戒心があまりなく、肩の力を抜いているようだ。ここにいる階層守護者たちが敵でないと判断したか。あるいは、ミュ-ズが来たからだろうか、それとも両方か。
モモンガの隣に向かって歩くが、守護者達からは心理を読まなくても視線に込められた感情の濃度が濃い。崇拝、敬愛、忠誠などまるで神を崇めるように向けて来る。一般人だったらドン引きするレベルの感情を向けられるが、不思議と興奮し喜んでいた。
ミュ-ズがモモンガの隣に立ち、イディアは自身の上司であるシャルティアの斜め後ろに着いた時、それを待っていたかのようアルベドが口を開く。
「では、皆、至高の御方々に忠誠を」
アルベドを前に、階層守護者たちがその一歩後ろで並び立つ。
その列の端。シャルティアが一歩前に進み、胸に手を当てて跪き、深く頭を垂れた。
「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
それに続くように、シャルティアの斜め後ろにいたイディアが一歩前に進み出た。
「第二階層領域守護者、イディア・ディーヴァ。御身の前に」
シャルティアと同じように、美しく品位がある臣下の礼を取り、モモンガ達に跪き頭を垂れた。次にコキュ-トスが前に出る。
「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」
シャルティア達と同じように頭を下げるコキュートスの次に、今度は褐色肌の双子が前に出た。
「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」
「お、同じく、第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に」
対極的な双子もやはり跪いて頭を垂れ、二人の次にデミウルゴスが優雅に踏み出した。
「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」
涼しげな声色と共に、優雅な姿勢を崩さず、そして非常に敬意のこもった所作で礼をみせた。そして最後にモモンガに微かに笑みを向けながらアルベドが一歩前に出る。
「守護者統括、アルベド。御身の前に」
モモンガとミュ-ズの前に跪いて頭を下げると、アルベドはそのまま透き通るような声で最後の報告を行う。
「第二階層廃墟の音楽堂領域守護者以外の領域守護者及び第四階層守護者ガルガンチュア同じく八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者及び領域守護者、御方々の前に平伏し奉る…ご命令を、至高なる御方々。我らの忠義全てを捧げます」
美しい…まるで一枚の絵画ように臣下の礼を取る僕たち。彼らの敬愛と崇拝の感情を受け、ミュ-ズは歓喜した。
(素晴らしい、彼らの私達に対する忠誠心は本物だろう。あぁぁ、彼らの心理を感じ新しい歌が湯水の如く流れて来る」)
ミュ-ズの歌は人の心理や人生をテーマにした物で、現実世界では様々な手段を使い手に入れていたが、最近では監視も付き、テーマにならない醜い豚の富裕層を相手をしていたせいで、新曲が浮かばなかった。
「(久しく感じた事のない、高揚感、今すぐに歌詞を書きたい、…しかし今は我慢だ)」
本当は、今すぐに駆け出して思いのまま頭の中の歌を表したいが、モモンガから混乱を感じギリギリの所で思いとどまった。
実際にモモンガは混乱しスキル<絶望のオ-ラ>と後光を出していた。
『モモンガさん、なんで<絶望のオーラ>を発動してるんですか?』
ミュ-ズは<伝言>を発動して、守護者達にばれないように尋ねる。
『…どうすればいいのかわからなくてつい』
<絶望のオーラ>はオーラに触れたら精神・即死の効果がある、種族的に耐性があるから問題ないが、もしなかったら大惨事になっていた。モモンガは相当混乱しているようだ。
『モモンガさん、落ち着いてください。』
『ふぅ、ありがとうございます。それでこの後どうしたらいいんでしょう!?』
『そうですね…取り合えずスキルは切らないで、そのまま魔王ロ-ルで対応してください』
オ-ラを出してた方が威厳のある魔王に見えるのでこのまま対応してもらおう。
『えぇ!!俺が対応するんですか!!…ミュ-ズさんがやった方が的確に出来ると思うんですが?』
『変わってあげたいですが、久しくナザリックに居なかった私が、ギルド長のモモンガさんを差し置いて話すのは筋違いですから』
『…分かりました。ミュ-ズさんの紹介と守護者達の対応は俺の方でやります』
『私も出来るだけ、フォローするんでお願いします』
モモンガは覚悟を決め臣下の礼を取る、守護者達に声を掛けた。
「面を上げよ」
モモンガの言葉に従い、守護者たちが一糸乱れぬ動きで顔を上げる。
「では…まず良く集まってくれたこと、感謝しよう」
「感謝などおやめください。我らは至高の御方々忠義のみならずこの身全てを捧げた者たち。至極当然のことでございます」
モモンガは自分の決定でナザリックを崩壊させてしまうかもしれないという迷いが襲い、不安で言葉を失ってしまった。ミュ-ズはモモンガをフォローしようとするが、その前にアルベドが口を開いた。
「……モモンガ様はお迷いのご様子。当然でございます。モモンガ様からすれば私たちの力など取るに足らないものでしょう」
アルベドは微笑みを消して、確固たる決意を込めた凛々しい顔で告げる。
「モモンガ様からご下命をいただければ、私たち階層守護者各員、いかな難行といえども全身全霊を以って遂行いたします。造物主たる至高の四十二人の御方々アインズ・ウール・ゴウンの方々に恥じない働きを誓います」
「「「誓います」」」
アルベドの宣誓に合わせて、それを守護者達が唱和する。その声には力強さと忠誠心に溢れていた。
モモンガは感動していた。アインズ・ウール・ゴウンのNPCが、これほど素晴らしいと知って。
皆の想いの結晶、あの黄金の輝きはいまなおここにある。
しかし、モモンガと違いミュ-ズは何処か冷めた感覚だった。モモンガが喜んでる事は嬉しいが、あくまで大切な仲間たちが残した道具にしか感じてなったのだ。
(「モモンガさんの喜び様は凄いな、まぁ、仕方ないか」)
モモンガのユグドラシル…否アインズ・ウール・ゴウンに対する執着は狂気レベルだ。だからモモンガはこれほどまでにNPCに感激してるのだと理解し、モモンガを傷つけたくないので取り合えずNPCを大事にしようと決めた。
「素晴らしいぞ。お前達ならば、私達の目的を理解し、失敗なくことを運べると強く確信した」
モモンガの言葉に守護者たちは表情は引き締めながらも、心が高揚するのを感じる。
「さて、守護者達よ、気になっていたと思うが、我が友であるミュ-ズ・ノウスさんが帰還された」
ミュ-ズはモモンガに紹介され一歩前に出て静かに話し出した。
「久しぶりだね、ナザリック地下大墳墓を守りし守護者達」
守護者たちの耳に、長らく聞いていなかった美しく尊い声に歓喜した。
「まずは長き間ナザリックを留守にしたことを詫びよう。そして私が不在の間、見事にその務めを果たし、ナザリック大墳墓を守り続けてきた君たちの忠誠心に心から感謝しよう」
忠誠を捧げるべき主君の一人から感謝の言葉を受けた守護者達は歓喜に身を震わせた。
「不肖ミュ-ズ・ノウスはナザリック大墳墓に戻ってきた。再び共に歩んでいこう」
謝罪と感謝の後に述べた正真正銘の帰還宣言に共にいる事を宣言した言葉に一人以外の僕達は歓喜した。
「お帰りなさいませ…ミュ-ズ・ノウス様。守護者一同、あなた様のご帰還を心よりお喜び申し上げます」
守護者を代表してアルベドが述べた言葉は、間違いなく守護者たちの真意であり総意だった。
『ミュ-ズさん、改めてお帰りなさい』
『モモンガさん…ありがとうございます』
モモンガからも<伝言>で言葉を受け、ミュ-ズは元の位置に戻った。
◇◇◇◇◇◇◇
忠誠の儀とミュ-ズの紹介後、セバスが帰還し偵察の内容を報告した。
「草原だと?」
「沼地じゃなくて?」
「はい。ナザリックの周囲は草原になっており、知的生物の存在は確認できませんでした」
「ふ~ん、知的生物は居るってことは、生物がいるにはいたんだよね。その生物の戦闘力はどの位?」
「どれも取るに足らない、レベル一にも満たないような小動物ばかりでした。また、空にはこの第六階層と同じように夜空でした」
「夜空…? 空に天空城などの姿もなかったか?」
「はい、ございません。空にも地上にも人工的な明かりのようなものは一切ございませんでした」
「そうか、夜空か……」
セバスから報告を受け二人は<伝言>にて会話を始める。
『あまり情報は得られませんでしたね…』
『…そうですね、今ある情報で考えるとナザリック大墳墓ごとユグドラシルを元にした別の世界に転移した線でしょうか」
『そうなりますね…』
ゲームの世界に入り込んだという線もあるが、まずないと考えられる。
『やはり情報が色々と足りないですね。…モモンガさんこれからどうしますか?
『とりあえず、ナザリックの警備レベルを上げておこうと思うんですけど、どうでしょう?』
『それでいいと思います。何が起こるか分からないですし、ナザリックの存在に気付いた何者かが攻め込んでくる可能性もありますから。用心するに越したことはないですね』
ナザリックが転移した場所が誰かの所有地という可能性も完全には否定できない。仮に誰かの領地だとすれば、自分たちは突如現れて土足で踏み込んだ侵入者だ。下手すると襲撃される可能性だってある。
モモンガ達は今後の予定が決まり、守護者たちへと命じる。
「守護者たちよ。まず各階層の警備レベルを一段階上げろ。何が起こるか不明な点が多いので、油断はするな。侵入者がいた場合は殺さず捕らえろ。できれば怪我もさせずにというのが一番ありがたい。言うまでもなく何もわからない状況下で厄介事はゴメンだからな」
モモンガは次々と指示を出していく中、ミュ-ズもこれからの事を考えてた。
(「情報が少ないのは痛手だな、危険だが知的生物を捕らえて情報を聞き出した方がいいかもしれない、そうすると情報収集の能力が長けているNPCで調べさせたいが…NPCがどんな能力を持っているか分からない」)
制作に関わったプレアデスなら分かるが、他のNPCだと一部の者しか分からないし久しくログインしてなかったせいで記憶が曖昧だ。
「以上だ、ミュ-ズさん、他になにかありますか?」
モモンガは自分で考えられる指示が終わり、話を振ってきた。
「そうですね…アルベド、先程のモモンガさんの命令と並行して、外部の偵察を行うための人員の選抜は可能かな? セバスたちに一キロ四方の探索は行ってもらいましたが、それより先は未知の領域なため、広範囲の探索と隠密行動が取れる部隊を編成して、調査を行ってもらいたい」
「はっ、調査と偵察に優れた部隊を至急考案、編成し調査に向かわせます」
不快感はあるが、取り合えず命令に従ってくれるようだ。
「お願いね。言うまでもないけど命じるのは調査と偵察までで、それ以上はモモンガさんに最初に報告し指示を仰いでから行うように。それと、もし調査中に生命体を発見し、その生命体がこちらに気付いて警戒、もしくは敵対行動を見せた場合は即座に撤退して、決して戦闘は行わないようにね」
最初はモモンガと自分に報告するようにと思ったが、トップはモモンガで自分は相談やフォローに回った方がいい、頭が二人いるのは内部分裂の可能性がある上に、アルベドも自分よりモモンガに報告するなら素直に従うとと判断したからだ。
そして敵対行為は相手を刺激するだけだ。そのせいで不要な敵を作る様な愚は避けたい。この世界の住人の強さも分からないのだから。
「畏まりました」
「私からは、以上です」
モモンガは決して行動には出さず心のうちで腕を組んでうんうんと頷いて同意した。
方針が決まりモモンガ達は守護者たちへと言葉をかける。
「さて、今日はこれで解散だ。各員休息に入り、それから行動を開始せよ。どの程度で一段落つくか不明である以上、決して無理はするな」
「モモンガさんの言う通り、万全の状態で挑み、無事にこの状況を乗り切ろう」
「「「はっ!」」」
守護者一同が頭を下げて了解の意を示すのを確認すると、モモンガは最後の確認のために守護者たちへと問う。
「最後に各階層守護者に聞きたいことがある。お前たちにとって、私やミュ-ズさんはどのような人物なのか――まずはシャルティア」
「モモンガ様は美の結晶。その白きお体と比べれば、宝石すらも見劣りしてしまいます。そしてミュ-ズ様は美の象徴。そのお美しいお声に並ぶ物などないでしょう」
「――イディア」
「モモンガ様は、全てを失った私を救って頂いた慈悲と愛に溢れた御方々の総括です。ミューズ様は例えこの身が滅びようとも永遠に歌を捧げる事を誓った御方です」
「――コキュートス」
「オ二方共守護者各員ヨリ強者デアリ、モモンガ様ハマサニナザリック地下大墳墓ノ支配者ニ相応シク、ミュ-ズ様ハアラユル状況デモ的確ニ対応シ敵ヲ打チ倒ス事ガ出来ル御方カト」
「――アウラ」
「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れた御方です。ミュ-ズ様は優しく、愛に溢れた御方です」
「――マーレ」
「お、お二人とも、す、凄く優しい方だと思います」
「――デミウルゴス」
「モモンガ様は賢明な判断力と瞬時に実行する行動力も有される、まさに端倪すべからざる御方です。ミュ-ズ様は冷静沈着に全ての真偽を見抜く御方です」
「――セバス」
「モモンガ様は至高の方々の総括であり、最後まで私たちを見放さず残っていただけた慈悲深き方です。ミュ-ズ様は私たちの許に再びご帰還くださった慈愛に満ちた方です」
「最後になったが、アルベド」
「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして私の愛しい御方です。
ミュ-ズ様は至高の御方で…再びご帰還くださった、私の愛しい御方の友でございます」
愛しい御方という言葉に、存在しないはずの頬を引きつらせながら、モモンガは言う。
「……各員の考えは十分に理解した。私の仲間達が担当していた執務の一部もお前達に委ねる。今後とも忠義に励め」
「成程ね。さっきも言ったけど、無理はしないように、君たちになにかあったらモモンガさんが悲しむんだから」
大きく頭を下げた守護者達が拝謁の姿勢を取るのを見ながら、モモンガとミュ-ズは指輪の力を使い転移する。
◇◇◇◇◇◇◇
転移先の円卓で、モモンガとミュ-ズは顔を見合わせた。
「疲れましたね…」
「そうですね」
モモンガの骨の顔からは疲労感が見えるのは気のせいではないだろう。
「凄い高評価でしたね」
「あの目、本気でしたね。予想以上の忠誠心でした」
「そうですね…それにしてもモモンガさんモテモテですね」
「えっ!?」
「アルベドとシャルティアが私とモモンガさんを見る目は全く別物でしたから」
2人からモモンガに対する強い情愛と色情の念が感じ取れていた。
「まぁそれはそうですけど…」
「アルべドからは愛してるなんて言われてましたしね」
「うっ…」
からかい半分で言った言葉だが、予想に反してモモンガから強い罪悪感と後悔の念が感じ取れた。
(「モモンガさん、何でアルベドに対して罪悪感と後悔してるんだろう?」)
アルべドに関する事に歯切れが悪い上に、向ける感情も妙だ。自身に対する殺意もあるのでアルベド関しての情報は少しでも欲しいで、モモンガに聞こうと口を開いた。
「モモンガさん、アルベドと何かありました?」
「そっ…その、えっと…」
やはり歯切れが悪い。
「私に言えない事なんですね…無理に聞こうとしてすみません」
そう言うと切ない声を出しながら顔を俯いた。それを見たモモンガは大変焦った。
「ミュ…ミュ-ズさん顔を上げて下さい。お話しますから」
「そうですか、じゃあお願いします」
さっきの悲しみが噓のように明るい口調で、顔を向けた。それを見たモモンガは一緒呆気に取られるが、直ぐに嵌められた気づいた。
「はぁ…やられましたよ」
「ふふっ、どんな内容でも嫌ったりしないですから大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。実はですね…」
モモンガはアルベドに対してやってしまった事を静かに語りだした。