異形協調曲   作:黒猫子猫

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短めです。


第四話

偉大な御方たちが姿を消すと共に、全身を上から押し潰そうとするような重圧が掻き消える。

絶対的な支配者であり崇拝すべき主人たちはその場にいないと理解しても、立ち上がろうとする者はいない。

そんな状態でしばらくの時間が経過すると、ようやく空気が少しずつ弛緩していく。誰かが安堵の息を吐いた。

 

最初にアルベドが立ち上がる。白いドレスの膝部分が少し土で汚れているが、気にする様子は一切なく、翼をはためき羽についた汚れを払う。

そんなアルベドに勢いづけられたように他の者たちも立ち上がると、誰からともなく口を開いた。

 

「す、凄く怖かったね、お姉ちゃん」

「ほんと。あたし押し潰されるかと思った」

「流石はモモンガ様。私たち守護者にすらそのお力が効果を発揮するなんて…」

「至高ノ御方デアル以上、我々ヨリ強イトハ知ッテイタガ、コレホドドハ」

 

モモンガの印象を守護者達が次々に口にする。

守護者たちを地面に押し付けるほどの重圧。その正体はモモンガは発していたオーラによるものだ。

 

絶望のオーラ。ユグドラシルの世界では恐怖効果と能力ペナルティ、場合によって対象を即死させる能力を有するその力は、レベル上は同格である守護者たちに対しては本来効果を発揮されない。

しかしモモンガが手にしていたギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによって強化されたその力は容易く守護者たちを圧倒していた。

 

「あれが支配者としての器をお見せになられたモモンガ様なのね」

「ですね。私たちが地位を名乗るまではモモンガ様は決してお持ちだった力を行使しておられませんでした。ですが、守護者としての姿を見せた瞬間から、その偉大な力の一部開放されていました」

「ツマリハ、我々ノ忠義ニ応エ、支配者トシテノオ顔ヲ見セラレタトイウコトカ」

「ええ。確実にそうでしょうね」

「あたしたちと一緒にいた時も全然、オーラを発してなかったしね。すっごくモモンガ様、優しかったんだよ。喉が渇いたかって飲み物まで出してくれて」

 

アウラの言葉に対し、守護者たちの間にピリピリとした気配が立ち込める。嫉妬から放たれるその気配は目で見えそうなほど強い。一際強く嫉妬したアルベドに関しては手が震え、爪が手袋を突き破りそうな気配すらある。

 

びくりと肩を震わせマーレは、いつもより少し大きな声を上げた。

「あ、あれがナザリック地下大墳墓の支配者として本気になったモモンガ様なんだよね。凄いよね!」

マーレの心の内には紛れもないモモンガへの敬意や畏怖はあるものの、先の発言自体はアルベドの機嫌を取るためのものだ、マーレの言葉によって、一瞬で纏う空気が変化する。

 

「全くその通り。私たちの気持ちに応えて、絶対者たる振る舞いを取っていただけるなんて……流石は我々の造物主。至高なる四十二人の頂点。そして最後までこの地に残りし、慈悲深き君」

アルベドの言葉に守護者たちが陶然とした表情を浮かべる。ただ一人、マーレの顔には安堵の色が濃く窺えた。

 

自らの創造主たる至高の四十二人。絶対的な忠誠を尽くすべき存在の真なる態度を目の当たりにすることができたという至福が、今もなお全身に守護者達に喜びを包み込んでいた。

 

至高の存在の役に立つ事こそ、彼らに生み出された僕たちにとって何にも代えがたい至福なのである。それは至極当然の理であり、守護者だけでなく他の僕たちにも当てはまる。

 

「再びご帰還なさってくださった、ミューズ様もでしょう。あの御方も我々の気持ちに応えてくださったのですから」

デミウルゴスはナザリックに帰還し、自分たちの忠義を受け取ってくれた至高の存在の一人の名を挙げる。

モモンガの隣で発せられた雄々しくも美しい声を今一度脳裏に思い浮かべ歓喜していた。

 

「ウム。モモンガ様ノ威圧ヲ間近デオ受ケニナラレテイタトイウノニ、実ニ堂々トシタ佇マイデアッタ」

コキュートスは自分達でさえ地面に頭を押し付けられるような重圧を感じたというのに、そのすぐ傍にいたにも関わらず平然と佇立していた造物主を思い出し武人として高揚した。

 

何故ミュ-ズは強化された絶望のオーラが平気だったかというと、彼の種族に秘密が有る。

彼が納めている妖精種は特殊な能力を保有し、その中に一日に3回、耐性を突破された時に、無効化し耐性を突破されなくなる<妖精の保護膜>の能力があるためモモンガの絶望のオ-ラの影響を受けなかったのである。

 

「ほんとだよね~、流石は至高の御方だよね」

「う、うん。それに僕達の事を気にかけてくれて、す、凄く優しい方だったね」

アウラとマレーはミューズの再び相まみえたお姿と優しさに感激した。

 

再び御使い出来る喜びに1人の守護者を除き、一同は喜び高揚していた。 

例外のアルベドはミューズの話になった瞬間、話に加わる事無く守護者達を女神のごとく微笑を浮かべながら見つめていた。そんなアルベドをイディアは見つめていた。

ミューズからアルベドの話を聞き彼女を観察していたが今のところは、妙なところは無いが、油断は出来ない。

自身と違い彼女はナザリック内でもトップクラスの頭脳の持ち主なのだから。

 

(「アルベドはモモンガ様に対して深く愛してるようですが、ミューズ様に対しては違うようね」)

本来なら敬称をつけるべき存在だがミューズを危険に晒す可能性がある者に心の中まで敬意を表す気はなかった。

 

モモンガは愛してるが、ミューズは愛する方の友人だと言っていた。

(「つまりミューズ様の事は愛してないと言っているようなもの」)

 

ここでイディアは違和感を覚えた。彼女はミューズの事を至高の御方と言ったが、他の守護者達と違い称える言葉を言わずに友とだけ言った。

(「異常ですね。彼女の立場と頭脳なら本来は称える言葉がないのがおかしい」)

 

イディアが頭を巡らしている中、セバスが口を開いたので一旦考えるのを止めた。

「では私は先に戻ります。モモンガ様たちがどこにいかれたかは不明ですが、お傍に仕えるべきでしょうし」

 

アルベドは微笑むのをやめ、セバスに顔を向けた。 

「分かったわ、セバス。モモンガ様達に失礼が無いように仕えなさい」

セバスはゆっくりと頷く。

 

「了解しました。アルベド。では申し訳ありませんがこれで失礼します」

最後に守護者各員にも一礼して別れの挨拶をすると、小走りで走り去る。

 

セバスが去った後、ふと自身の上司であるシャルティアが未だに跪いて静かなのが妙に思い口を開いた。

「シャルティア様、どうなさいましたか、先ほどからお静かですが?」

 

イディアの言葉に、シャルティア以外の守護者全員の視線が集まる。

 

「ドウシタ、シャルティア。何カアッタノカ?」

コキュートスが声をかけると、そこで初めてシャルティアが顔を上げる。

 

その瞳は蕩けたように濁り、夢心地のように締まりが無い。

一体どうしたのかと、守護者たちが視線で尋ねるとシャルティアはうっとりとした顔のまま答える。

 

「も、モモンガ様のあの凄い気配を受けて、ゾクゾクしてしまって……少うし下着がまずいことになってありんすの」

その瞬間あたりが静まり返った。

どうすべきか互いに顔を見合わせた後、唯一マーレのみが、その表情を曇らせることなく純粋に不思議そうにしていた、他の守護者達は打つ手無しとして一斉に匙を投げる。

 

シャルティアは守護者たちの中で最も過激で歪んだ性癖の持ち主。そんな彼女の性癖の一つに死体愛好家ネクロフィリアである。それにピッタリと当てはまるモモンガの威圧は彼女にとって素晴らしいご褒美だったのだ。

 

「このビッチ」

アルベドが軽蔑と嫉妬で歪めた表情でシャルティアを睨んでいた。

 

シャルティアは軽蔑の言葉に敵意を剥き出し、妖艶な笑みを浮かべながら睨みつけた。

「はぁ? 至高の方々の御一人であり、超美形なモモンガ様からあれほどの力の波動、ご褒美をいただけたのよ。それで濡りんせん方がおかしいわ。不感症ではないの?大口ゴリラ」

「……ヤツメウナギ」

 

シャルティアが立ち上がり、二人の距離が縮まりお互いの体もぶつかり合う中、両者とも殺さんばかり睨み合っている。

言葉を交わしていく中、内容も徐々にヒートーアップして行き、お互い戦闘態勢に入っていった。

 

二人の様子を見ていたデミウルゴスが係わるのも面倒だと思い同じ女性のアウラに押し付けようと考えた。

「アウラ、女性は女性に任せるよ。もし何かあったら教えてくれるかい?」

「ちょ!デミウルゴス!あたしに押し付ける気なの?」

ピラピラと手を振りながらデミウルゴスは離れて行く。それに追従し。コキュートスとマーレが続いた。

 

争う猛獣の中にアウラとイディアの二人は取り残されてしまった。

 

「はぁ~、もうデミウルゴスの奴、悪いけど付き合ってくれるイディー?」

「勿論ですアウラ様」

「も~、堅苦しいなぁ、あだ名で呼んでくれていいのにい」

「ふふっ、今は他の方々もいらっしゃるので、またの機会に」

イディアとアウラの創造主同士が友達で仲がいいため、それに影響され二人はあだ名で呼ぶほど非常に仲がいい。

 

殺伐とした雰囲気が嘘の様に二人の間だけぽわぽわしている間にアルベドとシャルティアの二人は喧嘩は終わり今度はどちらが第一妃か言い争っていた。

そんな二人をアウラは見詰めながら深いため息をついた。

 

しばらく言い争っているとデミウルゴスから声が掛かり、どちらが第一妃かの話は今度にして、命令をくれと、至極真っ当の事を言われたので仕方なく、話を近日中にすることにして、アルベドはこれからの計画と命令をする。

「まず――」

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