よわよわ狂姫伝 カブラヤオー! 作:ギルドパクト
波乱の入寮日から一夜が過ぎ、生まれてから数えるほども経験していない、家族以外のウマ娘との一夜を明かしたカブラヤオーは、いよいよトレセン学園のカリキュラム一日目を迎えていた。が、
(む、無理いいいいいいいいいいいいい!!!)
当然のことながら、周囲にはウマ娘ウマ娘ウマ娘。四方八方を見渡しても、どこもかしこもウマ娘。たまに見る人間も、皆漏れなく忙しそうに歩き回る学校の先生で、その人数はウマ娘の人数に比して圧倒的に少数派。
そんな、カブラヤオー基準での激動の一日目を、運良く引いた教室の端の席でぷるぷる震えながら、必死の思いでやり過ごしたカブラヤオーは、放課後を告げるチャイムの音を聞くやいなや、涙目になりながら「かぶらやおー」と書かれた教科書類を、愛用の大きなリュックサックに詰め込んでいたのだった。
「はあ~い♪」
そんな、カブラヤオーの逃走準備は唐突に打ち切られる。半泣きになりながらドバドバと教科書を詰め込んでいた先から、やけに陽気な声と共にひょこっと二本の長い耳が姿を見せたのだった。
「ぴっ!?」
当然ながら、後ろに飛び退ろうとするカブラヤオー。が、今カブラヤオーが居るのは学校の教室で、更に自分の机の椅子に深く腰を掛けていたのがいけなかった。
「はへっ?」
「あっ」
天井の光景がやけにゆっくりと通り過ぎる。
目の前に突如ウマ娘の顔が現れた瞬間、思わず仰け反ったカブラヤオーの脚力に、学校の備え付けの椅子が耐えきれる訳もなく、後ろの足を支点にたっぷり時間を掛けてカブラヤオーの小さな体を投げだしたのだった。
「きゃふんっ!?」
ガッシャーン!!と、強かに後ろにすっころび、犬神家の体勢になるカブラヤオー。その、あまりの音に、クラス全員の視線がカブラヤオーとそのウマ娘に集まった。
「あー……もしかして、やっちゃった?」
そんなカブラヤオーを見て、突然現れたウマ娘が困惑したように頬を掻いた。遠巻きにしていたクラスのウマ娘達は一斉にウンウンと頷いた。
「ぴふっ!?」
「ごめんごめん」という謝罪混じりに差し出された、そのウマ娘の右手に、カブラヤオーは再度悲鳴を上げた。
「おー、その性格、マジなんだ」
そんな、カブラヤオーの反応に、そのウマ娘は何処か感心した様にそう言って、目を丸くした。
「あ、あぅ……」
「んー?」
「あ、あなた……は、ドナタデスカ……」
か細い声で、それでも何とか絞り出したカブラヤオーの声に、一瞬「ん?」と首を傾げた、そのウマ娘だったが、直ぐに意味が伝わったのか、「ああ」と頷いてニッと笑みを浮かべる。
「さっきも自己紹介したけど……あたしはレイクスプリンター。貴女とは席が丁度一つ前よ。よろしくね? スーパールーキーさん?」
「びふぇ!? あ、あう、ご、ごめんなさい」
そう言って、パチッとウィンクする彼女、レイクスプリンターの言葉に、カブラヤオーは思わず頭を下げる。そんな、明らかに混乱しているカブラヤオーの様子を見下ろしてレイクスプリンターと名乗ったウマ娘の方は「あ~……」と少し困った様に頭を掻いたのだった。
「もしかして、何で声を掛けられたのか分からないって感じかしら?」
「……」
戸惑いがちに問い掛けられたカブラヤオーが無言のまま頭をぶんぶんと縦に振る。
「う〜ん、こりゃ筋金入りね……」
少し苦笑を交えながら、レイクスプリンターは「あなた、結構有名よ?」と小首を傾げる。
「え、な、何で……」
レイクスプリンターのその言葉に、カブラヤオーの方は涙目になる。周囲がウマ娘だらけのこの環境で、何故自分なんかが有名になっちゃっているのか。そもそも、周囲のウマ娘達は一人の例外もなくエリート中のエリートばかり。地元のスクールのウマ娘達ですら、彼女達の中に居れば野暮ったく見える程なのに、地元ですら野暮ったい自分が誰かの口に昇るなど、青天の霹靂もいいところだった。
「ほら、昨日新入生総代で挨拶したテスコガビーさんって居たじゃない? 彼女が今朝から貴女とはライバルだって公言してるから」
カブラヤオーはゴッチンと音を立てて机に突っ伏した。
犯人は直ぐに見付かった。何のことはない、原因は隠すまでもなく、ルームメイトのウマ娘だった。
「う、うぅ……」
「だ、大丈夫?」
とうとう、ぐずぐずと泣き出したカブラヤオーを見て、レイクスプリンターが慌ててハンカチを取り出す。
「準備は出来たか、カブラヤオー?」
と、そんな、わちゃわちゃとした教室に、不意に凛と通る、透き通った声が割って入った。
「「「「「……」」」」」
その特徴的な声に、教室内の視線が一斉に集まる。果たして、そこに居たのは、今の今話題となっていた
「? どうかしたのか?」
教室内の視線を一斉に向けられ、不思議そうに耳を揺らすテスコガビー。そんなテスコガビーと、テスコガビーに名前を呼ばれて震えているカブラヤオーを見比べて、レイクスプリンターが「あ」と手を打った。
「二人って同室だったっけ」
「ああ」
レイクスプリンターの確認に、テスコガビーが事も無げに首肯する。
「じゃあ、カブラヤオーちゃんのチーム選びに行くんだ?」
その答えにレイクスプリンターだけでなく、他のクラスメイト達も納得した表情になる。
新入生の挨拶で、初手全校に喧嘩を売った彼女だが、本人の気っ風の良さも噂には上っており、そんな姉御肌なテスコガビーが、いかにも小動物といった雰囲気のカブラヤオーの面倒を見るという構図は、端から見てても如何にも絵になる様に思われた。が、
「いや?」
そんな、周囲の認識とは裏腹に、テスコガビーはレイクスプリンターの言葉に、あっさりと首を横に振った。
「違ったかしら?」
そんなテスコガビーの反応に「あれ?」と首を傾げるカブラヤオーのクラスメイト達。
そんな周囲に「ああ」と頷いたテスコガビーは、
「私もこいつも、所属はもう決まっているからな」
と、事も無げに言ったのだった。
「うん……うん?」
そのテスコガビーの言葉に、周囲のウマ娘達が硬直した。
「?????」
不意に訪れた沈黙に、疑問符をポコポコと浮かべるカブラヤオー。が、今一状況を理解できていない彼女は、いつの間にやら、先程の大転倒よりも遥かに多くの視線を一身に浴びていたのだった。
通常、トレセン学園入学と同時に、所属チームが確定する例は決して少なくはない。名の売れたウマ娘であれば、入学前から数多の注目を浴びることもざらで、中には入学と同時に所属を決めるウマ娘もざらだからだ。それ故に、多くのウマ娘はそういった同級生を多少羨めど、注目を向けるほどに興味を抱く例は少なかった。が、そのスカウトされたチームが東条ハナ率いるチームリギルとなれば、話は別だった。
何事にも例外があるように、チームリギルはトレセン学園内でも別次元の存在と言って良い。
常勝軍団。そんな、陳腐な形容詞が一切の偽りなく適用出来る、唯一のチーム。そんなリギルのメンバーはトレセン学園内でも常に注目の的で、リギルに関する情報であれば、学園内では即座に情報が行き渡る程だった。
そんな、名門も名門とされるリギルの総帥が、今年の新入生総代の部屋を訪問したという噂は、既に学園中でも知れ渡っていた。
とはいえ、テスコガビーの場合は驚きはあれども、その反応は最小限で済んでいた。
そもそもが、入学前から全国で鳴らした猛者であり、並みいる強豪を数多薙ぎ倒した才媛。入学式の大言が、決して虚言ではない事を知るものも少なくなかったからだ。
が、そのテスコガビーが事もなさげに発した言葉が問題だった。
今の今、テスコガビーが口にした「準備」という言葉。それはまるで、普通の学生が友人と連れだって、放課後の道草に誘うような気安さがあって、
「「「「「まさか、カブラヤオーもリギルなの!?」」」」」
周囲に、そう理解させるには十分だった。
「ああ、そうだが?」
あっさりと答えたのは、テスコガビーだった。ちなみにカブラヤオーの方は、今の周囲の反応に驚いたのか、「ぴっ!?」と悲鳴を上げて、蹲っている。
「そういうわけでな、こいつはもらっていくぞ」
そんな、丸くなったカブラヤオーを片手で軽々と持ち上げたテスコガビーがノッシノッシと教室を去っていくのを見送りながら、残されたウマ娘達はやや呆然とした面持ちになるのだった。
「……」
そんな、凸凹な二人を僅かに睨み付ける様に見ている目があった。それは、今日最初にカブラヤオーに声を掛けた、レイクスプリンターだった。
「面白いじゃない……」
次第に小さくなり、廊下を曲がったところで消えたカブラヤオーとテスコガビーの後ろ姿を最後まで見送ったレイクスプリンターは、ポツリと呟いた。
その両目には悔しさと、僅かな嫉妬、そして、それ以上の闘志が見てとれたのだった。なお、
「ぴっ!?」
「何で横っ飛びになるんだ?」
そんな、レイクスプリンターの闘志とは裏腹に、我に返った臆病なウマ娘は、小さな悲鳴と共に、テスコガビーの手から脱走したのだった。
◆
それから、リギルの部室をカブラヤオーとテスコガビーの二人が訪れたのは、教室を出てから三十分もしてからの事だった。
昨日の勧誘ラッシュを終え、いざチーム練習へと意気込んでいたテスコガビーだったが、トレーナーとしての習性からか、はたまたそうさせる程に彼女の能力が魅力的だったからか、学園中のトレーナーが「最後のチャンス!」とばかりに彼女の育成プランと自分達の実績を片手に突撃をかけてきたのだった。
「まさか、ここまで諦めが悪いとは……」
いささか以上に、濃い疲労を浮かべながら、流石に辟易した様子でぼやくテスコガビーに、隣をひょこひょことついてきたカブラヤオーが「あはは……」と曖昧な笑みを溢す。
「凄かったよね、あのトレーナーさん達。何か、ドラマみたいで」
テスコガビーを勧誘しようとするトレーナー達の、まるで恋い焦がれんばかりの台詞を思い出して、カブラヤオーは頬をかいた。そんな、カブラヤオーの言葉に、テスコガビーはふんっと鼻を鳴らす。
「私にフラれるやいなや、その私を口説いた口でお前に情熱を唄う様なトレーナー達だ。その言葉には手に持った紙切れ程の重みも無いさ」
バッサリと切り捨てるテスコガビーの言葉に、カブラヤオーはもう一度「あはは」と頬をかいたのだった。
「それより、私としてはお前の方が意外だったな」
「ふぇ?」
そんなカブラヤオーを見下ろし、テスコガビーが小首を傾げる。
「いや、私は元からこういう質だったが、お前の方がトレーナーあしらいが上手かっただろう?」
そう言ったテスコガビーの脳裏には、先のラスト勧誘合戦の最中、自分よりもキッパリとトレーナー達を断っていくカブラヤオーの姿があった。
「あ、え……」
そして、そんな先の態度が嘘のように、テスコガビーから視線を向けられたカブラヤオーを自身のそれをキョトキョトとさ迷わせる。
「そ、その」
「うん?」
「その、トレーナーさん達は……ウマ、娘じゃない……から」
次第に俯いて小声になるカブラヤオーの、井桁模様の帽子を見下ろしながら、テスコガビーは「ふむ……」と唸った。
竹を割ったような性格のテスコガビーとは正反対の反応に首をかしげながら、テスコガビーがリギルの部室を開くと、
「おや、来たようだね、子猫ちゃん達」
「ぴっ!?」
振り返り、誰もが目を奪われる微笑を浮かべたハイセイコーの姿に、カブラヤオーがいつも通り悲鳴を上げて、テスコガビーの巨躯の後ろに隠れたのだった。
「お前はかなり難儀な性格をしているな……」
そんな、ライバルとも目したカブラヤオーの姿に、テスコガビーは思わず天を仰いだのだった。
◆
「じゃあ改めて、僕はハイセイコー。今のチームリギルのキャプテンと、そして、今のトレセン学園の生徒会を預からせてもらっている。チームの一員としての話だけでなく、学園の一生徒としての疑問なども気軽に質問してくれたまえ」
カブラヤオーとテスコガビーへの自己紹介は、二人とも面識のある、リギルの現キャプテン、ハイセイコーの軽い調子のそれから始まった。そして、それに続く、錚々たる顔触れに、一人が名を名乗る都度に、腕を組んだテスコガビーは、獰猛な笑みを深くしていた。
(ひいいいいいいいいいん!?)
そんな、隣のテスコガビーとは対称的に、必死に身を縮みこまらせていたカブラヤオーだったが、とうとう、自分の番が訪れてしまう。
「カ、カブラヤオーでひゅ!?」
兎に角、早く終わらせて、周りからの視線を隣にパスしたい一心で、勢いよく名乗ったカブラヤオーだったが、それが不味かった。
立ち上がった勢いでしゃべった結果、その舌先を勢いのままに噛んでしまったのだった。
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
ガリッという音と共に、声にならない悲鳴を上げて身悶えるカブラヤオー。その姿と音に、皆一様に渋い顔をしながら、カブラヤオーに駆け寄る。心情的には「うわぁ……」だろうか?
「すまない、遅くなった……?」
そんな、部室内の喧騒を鎮めるように、カチャリと入り口のドアが開く。
「……何があった?」
「「「「「……」」」」」
果たして、混沌の部室に現れた総帥、東条ハナの言葉に、部室内のウマ娘達は顔を見合わせ、
「「「「「カブラヤオーが舌を噛みました」」」」」
結局、目の前の現象を答えるしかなかったのだった。
「……そうか」
自分の教え子達と、涙目のカブラヤオーを見比べて、それだけ呟いた東条ハナは、それ以上深くは追及せず、こほんと軽く咳払いをする。
「皆、聞いているだろうが、今日から新たに二人のメンバーを迎えることになった」
そうして切り出された言葉に、にわかに部室内のウマ娘達が姿勢を正す。
「二名の実力は既にお前達の耳にも届いているだろう。テスコガビーとカブラヤオーは今年のクラシック・ティアラ両戦線を走ってもらう。だが、それはあくまでも予定にすぎん。二名の実力が伴えば、今年からでも、お前達のライバルとして立ちはだかる事にもなるだろう。逆に、二名の実力が伴わなければ、たとえ連勝を記録していようとも、出走はさせん。全員、その心持ちでいることだ」
自分達の総帥の言葉に、緊張と闘志のない交ぜになった面持ちとなる、現リギルのメンバー達。気安い雰囲気のハイセイコーですら、うっすらと開けた片目に、確かな闘志を宿している。そんな、先人達から向けられる真っ向からの闘志に、テスコガビーもまた、絶え間ない歓喜と、それ以上の闘志で応えたのだった。なお、
「ひ、ひふぅ……」
そんなチームメイトを横目に、カブラヤオーは赤くなった舌を突き出して、紙コップの水で、患部を一生懸命冷やしていたのだった。
◆
そんな、ドタバタの歓迎会が終わり、軽いオリエンテーションを済ませたリギルの面々は、早速芝のトラックへと出ていたのだった。
他のメンバー同様、小豆色のジャージに袖を通したカブラヤオーは、東条トレーナーの指示を聞きながら、オドオドと辺りを伺う。
「カブラヤオー」
「えひゃいっ!?」
と、不意に背後から掛けられた声に、カブラヤオーはピョンと肩を揺らす。
そんな、カブラヤオーの反応にもいい加減慣れてきたのか、テスコガビーは「悲鳴のバリエーションが随分と豊富だな」とカラカラ笑った。
「並走に付き合ってくれないか?」
そして、トレーナーに出された最初のトレーニングへと、カブラヤオーを誘う。
「へぅ……」
全身に精力みなぎるテスコガビーの笑みに、思わずへっぴり腰になるカブラヤオー。しかし、決められた練習メニューからは逃げるわけにもいかず、うっすらと涙を浮かべながらもコクリと頷いたのだった。
◆
その日の夜のこと、
「おや?」
チームのメンバーが下校し、最後の戸締まりに部室を訪れたハイセイコーが、その窓からぼんやりと灯る光に首をかしげた。
「誰か……って、おハナさん」
「うん? ハイセイコーか」
ハイセイコーが部室に入ると、そこにはデスクの灯りだけで、仕事をする、東条ハナの姿があった。ハイセイコーの姿に顔を上げたハナは、外がすっかり暗くなっていることに気付いていなかったのか、辺りを見回して、少し驚いた様に目を見開いた。
「何か、あったのかい?」
他の生徒もいないためか、幾分砕けた口調で首をかしげるハイセイコー。ふと音がして目をやると、ハナのデスクの上のノートパソコンで、今日のリギルの練習風景が流れていた。
「
ポツリと呟くハイセイコーに、ハナが「ああ」と頷く。
「中々凄い新入生を勧誘したものだね、おハナさん。こりゃ、僕もうかうかしていられないや」
「元より、お前はうかうかなんてしないだろう」
そう言っておどけるハイセイコーに、ハナも砕けた口調で微笑を浮かべた。
「で?」
「ん? ああ」
手元の動画に視線を落としながら首をかしげるハイセイコーに、正確に意図を察してハナが頷く。
「二人の育成に関して、少々悩んでいてな」
そう言って、ハナは手元のボールペンで動画の中心を走る長身のウマ娘、テスコガビーを差す。
「テスコガビーの方は全てにおいて、言うことなしでな。テンよし、中よし、終いよし。おおよそ、ウマ娘に必要な要素を余さず持ち合わせている。体格に関してもそうだが、フォームも完璧で、非の打ち所がないくらいだ。近年希に見る完成度と言っても良いだろう。先を取りたがるのも、トレセン学園に来るまでに窮屈な思いをしてきた為だろう。並のウマ娘では、相手にもならないだろうからな。本人はトリプルティアラ狙いだが、順当に取れる逸材だろう」
「なら問題ないんじゃない?」
「むしろ、障害が無さすぎるくらいだ。トレーナーが不要という点を除けばな」
そう言って、東条ハナは少しだけ悩ましげに腕を組む。
「史上最高の逸材だからこそ、失敗は許されないからな」
「そのプレッシャーに勝利してこその、東条ハナ……じゃないかい?」
そんな、ハナにハイセイコーは悪戯っぽく笑う。ハイセイコーの言葉に、ハナは「軽く言ってくれるわね」と苦笑したのだった。
「で? もう一人の方はどうなんだい?」
「カブラヤオーか……」
ハイセイコーの問いに、ハナはまたも眉間の皺を深くする。
「こっちはこっちで、はっきり言って、全てが異質だ」
「ふーん?」
ハナの言葉に、ハイセイコーが少し興味を引かれた様子で首をかしげる。
「パッと見た特徴は、テスコガビーと真逆と言って良いだろう。体格的にはおよそ優れたところはなく、むしろ、一般的なトレセン学園のウマ娘達と比べても小柄で細い部類だろう。フォームに関しても、努力の跡は見られるが、まだまだ荒削りなところばかりだ」
「なのに、彼女と互角だから、おハナさんとしては悩ましい訳だ」
「そうだな……」
悪戯っぽく片目を瞑るハイセイコーに、ハナは小さく溜め息を吐く。
「あまりにも異質、いや、
「まあ、確かに中々見ないよねえ……」
パソコンに映されたカブラヤオーの表情、隣のテスコガビーに気圧されて、涙を撒き散らしながら、死に物狂いで逃げる姿に、ハイセイコーが苦笑を浮かべる。
「まるで、チーターから逃げる草食動物みたいだね」
「本人としては、実際命懸けなのかもしれないがな」
そう言って、ハナが動画を停止する。
「健脚だという話はあったが、それですませられない、何かを感じさせる……そんなウマ娘だ」
「おやおや、すっかり二人にお熱だね、おハナさん」
楽しげなハナに、ハイセイコーが「妬けちゃうなあ」とクスクス笑う。
「じゃあさ、おハナさん」
そして、一頻り笑ったハイセイコーが、ふと思い付いた様に身を乗り出す。
「もし、あの二人がぶつかったら、勝つのはどっちだと思う?」
「ふむ……」
ハイセイコーの悪戯っぽい問いに、ハナは少し考える。
「……テスコガビーだな」
やがて、考えが纏まったのか、ハナはそう言い切る。
「その心は?」
「ウマ娘の外見は、あまり指標にはならないからな、この際無視したとして、才能は伯仲。ならば技術に一日の長がある方を上と見るべきだろう」
「成る程、おハナさんらしいね」
信頼するトレーナーの、極力可視化された現実を見るスタンスに頷きながら、ハイセイコーは「じゃあ、僕はカブラヤオーちゃんかな」と笑う。
「ほう?」
ハナの視線に、ハイセイコーは「いやね」と肩をすくめる。
「おハナさんがテスコガビーちゃんを推すなら、先輩としてはもう一人の娘を推さないとなというのもあるんだけれど……」
「けれど?」
「あの、常軌を逸した走り。粗削りの今ですら理外の姿を見ていると、彼女の走りが洗練されたとき、どれ程のウマ娘になるのかと思わずにはいられないからね」
そう言って、大袈裟に両手を羽ばたかせるハイセイコーに、東条ハナは「お前らしい言い方だな」と微笑む。
そんな、ハナの言葉に、ハイセイコーは「当然」と胸を張る。
「日本の皆の希望。スーパースター、ハイセイコーの言葉だからね」
そう言って浮かべたハイセイコーの笑みには、新たな
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