忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。十話です








10話 (うごめく)く悪意

 

 

 ツキハとコハクが魔国へ潜入した日から、少し時を遡る。

 

 ラプラスが諸々の報告に、依頼主の所へ現れた日。

 

 

「し、シャレに、ならへん。死にかけたで、ホンマ……」

 

 その言葉通り、全身ボロボロで大怪我を負っていた。

 

 依頼主――

 この部屋の主である黒髪の少年。

 

 その少年は、他人事のように軽く返した。

 

「大変だったみたいだね?」

「ちょっと待ってーや! そんな簡単な言葉じゃ、表せられへんで! なんど死にかけたか……酷い。相変わらず、酷いお人や」

 

 その言葉に憤ったラプラスは、盛大に愚痴を言い募り。

 しばしラプラスの愚痴が、機関銃のように放たれていた。

 

 それでもその少年は、そ知らぬ顔で言葉を続けていく。

 

「それで、西方聖教会の正体は掴めたのかい?」

「無理やったわ……」

「ふーん。君は、相変わらず嘘吐きだよね。正体の影位は掴んで来たんじゃないの?」

「……敵わんなぁ。苦労して手に入れた情報や。高く売りつけたろ、思ったのに。なんでもお見通しなんやな」

「ふふ。褒めてくれてありがとう。でもね、依頼料のつり上げはナシだぜ?」

 

 それを聞いたラプラスは、「あの姐さんらじゃあるまいし! ホンマ、敵わんわ」と返し嘆いた。

 

「まあそう言うなって、あの姐さんらは別格だしね。約束の報酬は支払うさ。もう意識の定着は完了して。僕の中にいた〝魔王〟は、完全に人造人間(ホムンクルス)に乗り移ったよ」

 

 そう言い、少年は楽しそうに笑い、呼び鈴を手に取りチリンと鳴らした。

 

 部屋の外で待機していた秘書を呼び寄せた。

 カチャリとドアを開け、一人の美しい女性が入って来る。

 

 整った顔に、肌は白く肌理細(きめこまや)やかで、シニョンに纏めた金髪がとても似合っていた。

 

 そしてその瞳は――

 藍色。

 

 その瞳は魅惑的でありながら、邪悪な光を隠そうともしていなかった。

 

「えっ? はぁ ま、さか……?」

 

 ラプラスは、一瞬戸惑いつつも、その瞳に懐かしい輝きを見出していた。

 それは、やがて確信へと変わり、戸惑いが、爆笑へと変わった。

 

「なんですのん? その恰好は? 似合ってる()うたら、あれやけど――趣味変わったんでっか?」

「うるさいぞ! ようやく十年かけて自由に動ける体を、手に入れたんだ。多少の不便は、目を瞑るさ」

 

 その女性は気安くラプラスに、言い返す。

 

「俺をコイツに引き合わせたってことは、もう演技はいらないんだな?」

「うーん、表向きはそのままでいて欲しいかな。身内だけなら、その必要はないさ」

「ふむ。ボスがそう言うなら、従うまでさ。理由を聞いてもいいかい?」

「それは、君はまだ完全じゃないだろう? 〝呪術王〟カザリーム。まだ弱いんだから、しばらくは――クレイマンを見守ってあげるといいよ」

 

 秘書の外見をしていたのは――

 古き魔王だったカザリーム。

 

 かって魔王を名乗ったレオンと言う人間に、敗れた魔王。

 

 敗れ、滅ぶ寸前だったカザリームは、数奇な運命を辿り、少年の肉体に憑依した。

 そうして先日、ようやく代替となる人造人間に、星幽体(アストラル・ボディ)を移植する事に成功したのだ。

 そして、十年に渡る少年との付き合いで、彼を主と認めるに至った。

 

 その経緯を聞いたラプラスは。

 

「そうでっか……そういう事情やったんでっか。会長がボスと言うなら、ワイにとってもボスや。これからは、ある程度本音で語らせてもらいまっせ」

「はぁ、君もぶれないねぇ。これだけ長い付き合いで、会長の復活にも協力したって言うのに。まだ、信用してくれないなんて……」

「ハハハッ それはそれ、これはこれですやん。しかし、会長の姿は笑えますな。めっちゃ美人ですやん!」

「――そうか? どうでもいいだろうが」

「いやいや、もう口調との違和感がキツすぎて、爆笑もんですわ」

「はあぁ……わかったよ――いや、わかったわよ。演技を続けるなら、仕方ありませんね。当分はワタクシも女性らしく、語るとしましょう」

「いや、いやいや、そっちいきますかいな。まぁ、それはそれで、お似合いですが……なんと言いますか……ブハッ! ブハハハハハ」

 

 そこまで言うとラプラスは、再び大爆笑をした。

 それからひとしきり笑い終えたラプラスは、西方聖教会潜入の報告を二人にしていった。

 

 西方聖教会の奥の院になぜか魔人がいて、それも上位種族のヴァンパイアがいたとラプラスは「まじで、ヤバイ奴だったで」と言い放ち。

 それにカザリームが、そいつは多分〝魔王〟ヴァレンタインだと言い。

 何故西方聖教会に魔王がいるのか、一体どう言う関係なのか少年は思案を巡らせ。

 「この情報は使えるよ」と満足げに頷いていた。

 

 西方聖教会の切り崩しの、切り札を手に入れたと少年はほくそ笑む。

 

「ところで、〝番外魔王〟の方は、どうだったんだい?」

「依頼は取り付けたで。しかし、あの姐さんら――ホンマ、何もんなんやろな」

「さあね。古い文献を探しても、〝暴風竜〟ヴェルドラと暴れていた記実とかしかないんだよね。ほんとにつるんでいたのかい、〝番外魔王〟たちは?」

 

 少年の問いに、カザリームが答える。

 

「ワタクシが魔王やっていた頃には、よくヴェルドラと暴れてはいたわね。ミリムとも遊んでたみたいだし。しかも、魔王では無いのに魔王とやりあえる、頭のおかしい魔物なのよ……あいつらは。もし、魔王に進化してたら、始末に負えないでしょうね」

「――あー 会長。姐さんら既に、魔王に進化してますで」

「な……もう、依頼以外はあまり深入りはよした方がいいわね。本当に、厄介な奴らなのよ」

「うん、それには僕も同感だね。一度挑んでみたんだけど、見事にやられたよ。あれは、冗談みたいな魔物だよ」

「せやな、ワイもそう思いますわ」

 

 三人は〝番外魔王〟に関しては依頼はするにしても、なるべく距離を置き、警戒しようとなった。

 少年の自室の窓の近くで一匹の魔猫が伸びをして、欠伸をしながらカシカシと後ろ足で耳元を搔き、その場から立ち去っていた。

 

 

 時を戻して――

 

 ファルムス王国では。

 

 ある報告書を受け取り、国王が顔を顰めながら読んでいた。

 

 今、ファルムス王国を取り巻く環境に大きな変化が、訪れていたからだ。

 

 それは、ジュラの大森林に封印されていた〝暴風竜〟ヴェルドラの消失であった。

 

 森に隣接する辺境領の領主達多数から、支援要請や騎士団の派遣要請が山の様に寄せられ始めていのだ。

 

 当然国としては放置できず、直ぐに対策を取るよう指示が出た。

 ただし、それは各領主達が望む物ではなく、王の権能をより強固にする為の物であった。

 

 だが――

 

 辺境領土は、本国を守る盾。

 失っても代えの利く、便利な道具に過ぎないのである。

 道具を、命を懸けて守る必要などない。

 

 しかし――

 

 魔物の進攻に備えていた中央政府は、肩透かしを喰らう事になった。

 

 一人の英雄、ヨウムによって、オークロードの軍勢が破られたと。

 

 それに賛否両論あったが、魔物の脅威が失われたとしてこの論議は終わった。

 

 次にエドマリス王がもっとも懸念する案件が、ここにあった。

 

 税収の減少である。

 

 ファルムス王国はその立地とドワーフとの取引で、莫大な利益を得ていた。

 西側諸国の玄関口と呼ばれるほどに。

 

 しかし、ある日を境に冒険者の流入が減少していった。

 ドワーフとの武器や防具、果ては回復薬を求めて冒険者で賑わっていたのだが……。

 

 日を追うごとに、冒険者だけではなく、行商人の数も減少し始めていた。

 特に、ジュラの大森林周辺国家からの商人は、目に見えてその数を減らして行っていた。

 

 ここでもっとも重要な事は。

 ジュラの大森林周辺国家の商人の方が、より収益性の高い取引相手だったのは言うまでもない。

 

 この事態をエドマリス王は重く見て、密偵に探らせていて。

 密偵が持ち帰った報告書を見て「あり得ん!」と声を荒げた。

 

「あり得ん! あり得ぬぞ! なんだこれは……信じるしかあるまいな。これを、どう我が国の利益に結び付けるじゃが……最重要事項じゃな」

 

 エドマリス王の発令によって、諸侯が呼び寄せられ、急ぎ緊急会議の運びとなった。

 

 大臣や貴族達が情報を交換し合い意見を交わし、魔物が――ジュラ・テンペスト連邦国を建国したと話が出て、皆が驚愕した。

 

 そんな中エドマリス王は魔国に攻め入る事を宣言し。それを後押しする、西方聖教会から派遣された大司教であり、エドマリス王の懐刀レイヒム。

 

「はい。ニコラウス・シュペルタス枢機卿から連絡が入りました。神に対する明確な敵対国として討伐する予定だ、と」

「おお! なんと教会は、彼の国を神の敵対国と認定しよったか!」

「はい。しかしながら……未だ被害は皆無。人類国家の中に、裏切り者が出る始末故。本部も評議会を敵に回すのは得策ではないと。そうですな、どこかの国から助けが求められれば、あるいは……と」

「ふむ……もしもじゃ、が。彼の国で我が国の民が、被害を受ければ――どうであろうな?」

「それであれば――西方聖教会は信徒を守るべく、救援を差し向けるでしょう」

「ほほう。それはそれは――我らは敬虔なる信徒であるからな!」

「はい、左様で御座います。エドマリス王」

 

 お互いに顔を見合わせ、笑い合うエドマリス王とレイヒム大司教。

 エドマリス王は、王宮魔術師長ラーゼンに、召喚者を引きつれ、先兵として魔国へ出立せよと命じる。

 

 人間兵器とされる。〝異世界人〟ショウゴ・タグチ、キョウヤ・タチバナ、キララ・ミズタニ、この三人が選ばれた。

 

 この三人の召喚者は召喚時に、組み込まれた魔法で縛られていた。

 絶対なる支配の魔法により〝呪言〟を刻まれし者。

 これにより三人は、召喚主には絶対に逆らえないのである。

 

 魔国へ向かう先遣隊が編成される。

 騎士の騎馬隊百名に、七台の馬車からなる強行部隊。

 そして、〟異世界人〟の三人。  

 

 次の日の朝早くにこの強行部隊は、ファルムス王国を出立する。

 

 同時刻。

 

『ツキハ様、コハク様。ファルムス王国が動き出して御座います』

 

 ファルムス王国にいる眷属、ナナコ(七十七子)から、ツキハとコハクに魂の回廊を通じた『念話』が入る。

 

『おっ! とうとうたまらずにあの強欲王、動き出したか~』

『意外に早かったおすな。ほんま、欲深き王どすなぁ』

『で、本隊か?』

『いえ、先遣隊でございます』

『ほぉー 先遣隊ねぇ――西方聖教会は動いたか?』

『はい。レイヒムが本部から連絡をもらっています』

『――なら、間違いなく西方聖教会は、動きますなぁ。イチオ、聞いてますな? ルベリオス周辺にいる魔猫達に、神聖騎士団の動きがあったら、すぐに知らせるようにいいなはれ』

『はい、聞いてますぞ! コハク様。了解であります!』

 

 ナナコの報告を聞き、イングラシア王国にいるイチオに、隣国神聖法皇国ルベリオスの動向に注視するように言い付ける。

 

 『念話』を終えるとツキハとコハクは、宿のベッドの上で嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「いや~ おもしろい事になってきたね~。クレイマン、ファルムス王国に西方聖教会。戦争だね~ (いくさ)だよ~ ほんと、世界が動くよ――これは! うくくく」

「せやなぁ。これは……世界の変革が始まろうとしてはるかも、どすな~。うふふふふ」

 

 嬉しそうに笑い言うツキハとコハク。

 

 新たなる世界の変革が、ここジュラ・テンペスト連邦国から始まろうとしていた。

 

 

 そして。

 

 その中心にいる――

 

 スライムの魔物、リムル・テンペスト。

 

 動き出した変革の流れに、リムルと魔国は否応が無く巻き込まれていく。

 

 

 それを未だ闇から覗いている、〝番外魔王〟ツキハとコハク。

 

 

 我が野望の為に暗躍する、クレイマン。

 自国と己の欲望のために生きる、エドマリス王。

 魔物を人類の敵とみなす、西方聖教会。

 

 蠢く悪意が、魔国に近づきつつあった。

 

 

 最初の悪意が牙を剥く。

 

 フレイの所に、上機嫌なミリムが遊びに来ていた。

 ミリムの両手には見慣れない物を嵌めていて。

 すかさずフレイは、それを見せびらかしに来たのだと察す。

 

「ねえ、ミリム」

「なんなのだ、フレイ」

「その両手のは、何かしら?」

 

 フレイの問いにミリムは、にこやかに両手に嵌めたドラゴンナックルを自慢げに見せた。

 

「いいだろう~ 〝友達〟にもらったのだ!」

「まあ! よく似合ってるじゃない」

「いいだろう~」

「そうそうミリム。私からも、〝友達〟としてプレゼントがあるのだけれど。受け取ってくれるかしら?」

 

 そう言うと侍女に、それを運ばせてきた。

 とても美しい宝珠がはめ込まれたそのペンダントは、素人目に見ても凄まじく価値が高い物に見えた。

 

「むむ。ペンダントではないか。貰っても良いのか?」

「ええ、〝友達〟としての友情の証よ。貰ってくれると嬉しいわ」

「まかせるのだ!」

 

 満面の笑みでそれを、身に付けるミリム。

 

 すると――

 

《禁呪法:操魔王支配が発動……成功しました》

 

 ゴトン!

 

 両手に嵌めたドラゴンナックルが、床に落ちて鈍い音を立てる。

 

 同時に、ミリムの表情が抜け落ちていき、目から光が失われ、虚構の光が宿る。

 

 フレイはそれを眺め、軽く一つ息を吐く。

 

 そこには無表情のミリムが、静かに佇んでいた。

 

 

 




 十話を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!




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