忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
ツキハとコハクが魔国へ潜入した日から、少し時を遡る。
ラプラスが諸々の報告に、依頼主の所へ現れた日。
「し、シャレに、ならへん。死にかけたで、ホンマ……」
その言葉通り、全身ボロボロで大怪我を負っていた。
依頼主――
この部屋の主である黒髪の少年。
その少年は、他人事のように軽く返した。
「大変だったみたいだね?」
「ちょっと待ってーや! そんな簡単な言葉じゃ、表せられへんで! なんど死にかけたか……酷い。相変わらず、酷いお人や」
その言葉に憤ったラプラスは、盛大に愚痴を言い募り。
しばしラプラスの愚痴が、機関銃のように放たれていた。
それでもその少年は、そ知らぬ顔で言葉を続けていく。
「それで、西方聖教会の正体は掴めたのかい?」
「無理やったわ……」
「ふーん。君は、相変わらず嘘吐きだよね。正体の影位は掴んで来たんじゃないの?」
「……敵わんなぁ。苦労して手に入れた情報や。高く売りつけたろ、思ったのに。なんでもお見通しなんやな」
「ふふ。褒めてくれてありがとう。でもね、依頼料のつり上げはナシだぜ?」
それを聞いたラプラスは、「あの姐さんらじゃあるまいし! ホンマ、敵わんわ」と返し嘆いた。
「まあそう言うなって、あの姐さんらは別格だしね。約束の報酬は支払うさ。もう意識の定着は完了して。僕の中にいた〝魔王〟は、完全に
そう言い、少年は楽しそうに笑い、呼び鈴を手に取りチリンと鳴らした。
部屋の外で待機していた秘書を呼び寄せた。
カチャリとドアを開け、一人の美しい女性が入って来る。
整った顔に、肌は白く
そしてその瞳は――
藍色。
その瞳は魅惑的でありながら、邪悪な光を隠そうともしていなかった。
「えっ? はぁ ま、さか……?」
ラプラスは、一瞬戸惑いつつも、その瞳に懐かしい輝きを見出していた。
それは、やがて確信へと変わり、戸惑いが、爆笑へと変わった。
「なんですのん? その恰好は? 似合ってる
「うるさいぞ! ようやく十年かけて自由に動ける体を、手に入れたんだ。多少の不便は、目を瞑るさ」
その女性は気安くラプラスに、言い返す。
「俺をコイツに引き合わせたってことは、もう演技はいらないんだな?」
「うーん、表向きはそのままでいて欲しいかな。身内だけなら、その必要はないさ」
「ふむ。ボスがそう言うなら、従うまでさ。理由を聞いてもいいかい?」
「それは、君はまだ完全じゃないだろう? 〝呪術王〟カザリーム。まだ弱いんだから、しばらくは――クレイマンを見守ってあげるといいよ」
秘書の外見をしていたのは――
古き魔王だったカザリーム。
かって魔王を名乗ったレオンと言う人間に、敗れた魔王。
敗れ、滅ぶ寸前だったカザリームは、数奇な運命を辿り、少年の肉体に憑依した。
そうして先日、ようやく代替となる人造人間に、
そして、十年に渡る少年との付き合いで、彼を主と認めるに至った。
その経緯を聞いたラプラスは。
「そうでっか……そういう事情やったんでっか。会長がボスと言うなら、ワイにとってもボスや。これからは、ある程度本音で語らせてもらいまっせ」
「はぁ、君もぶれないねぇ。これだけ長い付き合いで、会長の復活にも協力したって言うのに。まだ、信用してくれないなんて……」
「ハハハッ それはそれ、これはこれですやん。しかし、会長の姿は笑えますな。めっちゃ美人ですやん!」
「――そうか? どうでもいいだろうが」
「いやいや、もう口調との違和感がキツすぎて、爆笑もんですわ」
「はあぁ……わかったよ――いや、わかったわよ。演技を続けるなら、仕方ありませんね。当分はワタクシも女性らしく、語るとしましょう」
「いや、いやいや、そっちいきますかいな。まぁ、それはそれで、お似合いですが……なんと言いますか……ブハッ! ブハハハハハ」
そこまで言うとラプラスは、再び大爆笑をした。
それからひとしきり笑い終えたラプラスは、西方聖教会潜入の報告を二人にしていった。
西方聖教会の奥の院になぜか魔人がいて、それも上位種族のヴァンパイアがいたとラプラスは「まじで、ヤバイ奴だったで」と言い放ち。
それにカザリームが、そいつは多分〝魔王〟ヴァレンタインだと言い。
何故西方聖教会に魔王がいるのか、一体どう言う関係なのか少年は思案を巡らせ。
「この情報は使えるよ」と満足げに頷いていた。
西方聖教会の切り崩しの、切り札を手に入れたと少年はほくそ笑む。
「ところで、〝番外魔王〟の方は、どうだったんだい?」
「依頼は取り付けたで。しかし、あの姐さんら――ホンマ、何もんなんやろな」
「さあね。古い文献を探しても、〝暴風竜〟ヴェルドラと暴れていた記実とかしかないんだよね。ほんとにつるんでいたのかい、〝番外魔王〟たちは?」
少年の問いに、カザリームが答える。
「ワタクシが魔王やっていた頃には、よくヴェルドラと暴れてはいたわね。ミリムとも遊んでたみたいだし。しかも、魔王では無いのに魔王とやりあえる、頭のおかしい魔物なのよ……あいつらは。もし、魔王に進化してたら、始末に負えないでしょうね」
「――あー 会長。姐さんら既に、魔王に進化してますで」
「な……もう、依頼以外はあまり深入りはよした方がいいわね。本当に、厄介な奴らなのよ」
「うん、それには僕も同感だね。一度挑んでみたんだけど、見事にやられたよ。あれは、冗談みたいな魔物だよ」
「せやな、ワイもそう思いますわ」
三人は〝番外魔王〟に関しては依頼はするにしても、なるべく距離を置き、警戒しようとなった。
少年の自室の窓の近くで一匹の魔猫が伸びをして、欠伸をしながらカシカシと後ろ足で耳元を搔き、その場から立ち去っていた。
時を戻して――
ファルムス王国では。
ある報告書を受け取り、国王が顔を顰めながら読んでいた。
今、ファルムス王国を取り巻く環境に大きな変化が、訪れていたからだ。
それは、ジュラの大森林に封印されていた〝暴風竜〟ヴェルドラの消失であった。
森に隣接する辺境領の領主達多数から、支援要請や騎士団の派遣要請が山の様に寄せられ始めていのだ。
当然国としては放置できず、直ぐに対策を取るよう指示が出た。
ただし、それは各領主達が望む物ではなく、王の権能をより強固にする為の物であった。
だが――
辺境領土は、本国を守る盾。
失っても代えの利く、便利な道具に過ぎないのである。
道具を、命を懸けて守る必要などない。
しかし――
魔物の進攻に備えていた中央政府は、肩透かしを喰らう事になった。
一人の英雄、ヨウムによって、オークロードの軍勢が破られたと。
それに賛否両論あったが、魔物の脅威が失われたとしてこの論議は終わった。
次にエドマリス王がもっとも懸念する案件が、ここにあった。
税収の減少である。
ファルムス王国はその立地とドワーフとの取引で、莫大な利益を得ていた。
西側諸国の玄関口と呼ばれるほどに。
しかし、ある日を境に冒険者の流入が減少していった。
ドワーフとの武器や防具、果ては回復薬を求めて冒険者で賑わっていたのだが……。
日を追うごとに、冒険者だけではなく、行商人の数も減少し始めていた。
特に、ジュラの大森林周辺国家からの商人は、目に見えてその数を減らして行っていた。
ここでもっとも重要な事は。
ジュラの大森林周辺国家の商人の方が、より収益性の高い取引相手だったのは言うまでもない。
この事態をエドマリス王は重く見て、密偵に探らせていて。
密偵が持ち帰った報告書を見て「あり得ん!」と声を荒げた。
「あり得ん! あり得ぬぞ! なんだこれは……信じるしかあるまいな。これを、どう我が国の利益に結び付けるじゃが……最重要事項じゃな」
エドマリス王の発令によって、諸侯が呼び寄せられ、急ぎ緊急会議の運びとなった。
大臣や貴族達が情報を交換し合い意見を交わし、魔物が――ジュラ・テンペスト連邦国を建国したと話が出て、皆が驚愕した。
そんな中エドマリス王は魔国に攻め入る事を宣言し。それを後押しする、西方聖教会から派遣された大司教であり、エドマリス王の懐刀レイヒム。
「はい。ニコラウス・シュペルタス枢機卿から連絡が入りました。神に対する明確な敵対国として討伐する予定だ、と」
「おお! なんと教会は、彼の国を神の敵対国と認定しよったか!」
「はい。しかしながら……未だ被害は皆無。人類国家の中に、裏切り者が出る始末故。本部も評議会を敵に回すのは得策ではないと。そうですな、どこかの国から助けが求められれば、あるいは……と」
「ふむ……もしもじゃ、が。彼の国で我が国の民が、被害を受ければ――どうであろうな?」
「それであれば――西方聖教会は信徒を守るべく、救援を差し向けるでしょう」
「ほほう。それはそれは――我らは敬虔なる信徒であるからな!」
「はい、左様で御座います。エドマリス王」
お互いに顔を見合わせ、笑い合うエドマリス王とレイヒム大司教。
エドマリス王は、王宮魔術師長ラーゼンに、召喚者を引きつれ、先兵として魔国へ出立せよと命じる。
人間兵器とされる。〝異世界人〟ショウゴ・タグチ、キョウヤ・タチバナ、キララ・ミズタニ、この三人が選ばれた。
この三人の召喚者は召喚時に、組み込まれた魔法で縛られていた。
絶対なる支配の魔法により〝呪言〟を刻まれし者。
これにより三人は、召喚主には絶対に逆らえないのである。
魔国へ向かう先遣隊が編成される。
騎士の騎馬隊百名に、七台の馬車からなる強行部隊。
そして、〟異世界人〟の三人。
次の日の朝早くにこの強行部隊は、ファルムス王国を出立する。
同時刻。
『ツキハ様、コハク様。ファルムス王国が動き出して御座います』
ファルムス王国にいる眷属、
『おっ! とうとうたまらずにあの強欲王、動き出したか~』
『意外に早かったおすな。ほんま、欲深き王どすなぁ』
『で、本隊か?』
『いえ、先遣隊でございます』
『ほぉー 先遣隊ねぇ――西方聖教会は動いたか?』
『はい。レイヒムが本部から連絡をもらっています』
『――なら、間違いなく西方聖教会は、動きますなぁ。イチオ、聞いてますな? ルベリオス周辺にいる魔猫達に、神聖騎士団の動きがあったら、すぐに知らせるようにいいなはれ』
『はい、聞いてますぞ! コハク様。了解であります!』
ナナコの報告を聞き、イングラシア王国にいるイチオに、隣国神聖法皇国ルベリオスの動向に注視するように言い付ける。
『念話』を終えるとツキハとコハクは、宿のベッドの上で嬉しそうに顔を綻ばせる。
「いや~ おもしろい事になってきたね~。クレイマン、ファルムス王国に西方聖教会。戦争だね~
「せやなぁ。これは……世界の変革が始まろうとしてはるかも、どすな~。うふふふふ」
嬉しそうに笑い言うツキハとコハク。
新たなる世界の変革が、ここジュラ・テンペスト連邦国から始まろうとしていた。
そして。
その中心にいる――
スライムの魔物、リムル・テンペスト。
動き出した変革の流れに、リムルと魔国は否応が無く巻き込まれていく。
それを未だ闇から覗いている、〝番外魔王〟ツキハとコハク。
我が野望の為に暗躍する、クレイマン。
自国と己の欲望のために生きる、エドマリス王。
魔物を人類の敵とみなす、西方聖教会。
蠢く悪意が、魔国に近づきつつあった。
最初の悪意が牙を剥く。
フレイの所に、上機嫌なミリムが遊びに来ていた。
ミリムの両手には見慣れない物を嵌めていて。
すかさずフレイは、それを見せびらかしに来たのだと察す。
「ねえ、ミリム」
「なんなのだ、フレイ」
「その両手のは、何かしら?」
フレイの問いにミリムは、にこやかに両手に嵌めたドラゴンナックルを自慢げに見せた。
「いいだろう~ 〝友達〟にもらったのだ!」
「まあ! よく似合ってるじゃない」
「いいだろう~」
「そうそうミリム。私からも、〝友達〟としてプレゼントがあるのだけれど。受け取ってくれるかしら?」
そう言うと侍女に、それを運ばせてきた。
とても美しい宝珠がはめ込まれたそのペンダントは、素人目に見ても凄まじく価値が高い物に見えた。
「むむ。ペンダントではないか。貰っても良いのか?」
「ええ、〝友達〟としての友情の証よ。貰ってくれると嬉しいわ」
「まかせるのだ!」
満面の笑みでそれを、身に付けるミリム。
すると――
《禁呪法:操魔王支配が発動……成功しました》
ゴトン!
両手に嵌めたドラゴンナックルが、床に落ちて鈍い音を立てる。
同時に、ミリムの表情が抜け落ちていき、目から光が失われ、虚構の光が宿る。
フレイはそれを眺め、軽く一つ息を吐く。
そこには無表情のミリムが、静かに佇んでいた。
十話を読んで頂き、ありがとうございます!
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