忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。101話です

※作中使用の特殊フォントは、〝キャベツの中から出てきた青虫様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。


※作中で使用している魔法陣の挿絵は、pixivでイラスト製作活動をされている、ゴリラの素材屋さん様の作品です。






101話 聖と魔 ⑫ 虚構の神 // 〝三巨頭〟 // 愚者

 

 常世(とこよ)の国

 

 

 そこにある、誰も知らない奥深い玄室の中。

 

 

 氷の(ひつぎ)に封じられた、一糸纏わぬ美しい黒髪の少女。

 

 

 その前に、同じく全裸となって氷の棺に(すが)りつく者が、一人。

 

 うっとりとした表情を浮かべながら、棺に()わせた手をゆっくりと()でるように動かす。

 

 

 少女は、どこまでも透き通るような白い肌をほんのりと朱色に染めて、感動の溜息を(こぼ)していく。

 

(ああ、何と美しい。あぁ、いつか……)

 

 棺の中の少女を愛でて眺める事が、この者の密かな(たの)しみ。

 

 銀髪の可憐なる少女。

 

 瞳は金銀妖瞳(ヘテロクロミア)

 その瞳は、青と赤に揺らめくような、妖しい輝きを放っていた。

 

 甘美な声を零す愛らしい少女の口から小さく除く、二本の真っ白い犬歯。

 

 この、妖しくも愛らしい整った容貌を持つ者は。

 

 

 夜の支配者、〝夜魔の女王(クィーン・オブ・ナイトメア)〟――

 

 魔王ルミナス・バレンタイン。

 

 

 氷の棺に触れる度に、ルミナスの白い肌に火傷(やけど)のような(あざ)が浮かび上がる。 

 

 この氷の棺は、聖櫃(せいひつ)

 純然たる聖霊力の塊である。

 

 だから、吸血鬼族(ヴァンパイア)の魔王たる彼女であっても、傷を負うのは何ら不思議ではなかった。

 

 ルミナスにとってその棺は、毒そのもの。

 だがしかし、そんな事は意に介しない。

 

 その傷も、傷を通して伝わる感覚すらも至福なのである。

 

 魔王であり、絶大な力を持つルミナスであっても。その氷の棺の破壊は不可能であった。

 

 故に、いつしかその棺の中で眠る少女を解放する事を夢見て、今日もまた棺と(たわむ)れていく……。

 

 

 棺を撫でながら恍惚の表情を浮かべるルミナスに、腹心からの知らせが届く。

 

「ルミナス様。お(たの)しみのところ申し訳御座いません。急を要すること故、お耳に入れておきたき儀がございます」

 

 そう告げて来たのはルイ。

 

 ルミナスが支配する神聖法皇国ルベリオス。

 ルイはそこの法皇の役目を与えられし、ルミナスの部下。

 

 ルイの方は見もせずに不愉快な気分になったルミナスだが、一度棺をそっと撫で、気分を落ち着かせた。

 

 ルイが自分から声を掛けるなど滅多になく、余程の緊急事態が起きたのだと察した。

 

「何じゃ、ルイか。何が起きた?」

 

 ルミナスの問いに、ルイが手短に答える。

 

「ヒナタがリムルとの禍根を断つべく動きました。私はそれを黙認していたのですが、どうやら事態が複雑に動き出したようです。そこに、番外魔王の二人もいます」

「――どういうこと?」

「実は――」

 

 そう言ったルイは、自身で調査した内容の説明をする。

 

「そう……。あの邪猫二匹も加担していたか。ゆっくりもしていられなくなったわね」

 

 静かに棺から身を離し、ルミナスは物憂(ものう)げに言い、玄室から出ていくルミナス。

 

 そして、従者を呼ぶ。

 

「ギュンター!」

「ハッ、ここに」

 

 闇の名からスーッと音も無く、老齢の執事が現れる。

 ルミナスに仕える古きヴァンパイアの一人。

 

 その格はルイと同等であり、ルミナス配下の〝三公〟の一人でもある。

 

 法皇庁はルイ。

 

 夜想宮廷(ナイトガーデン)はギュンター。

 

 そして、魔王の代役を務めていたのが、今は亡きロイ。

 

 〝三公〟、ルミナスの護衛の持ち回りも務めていた。

 

 

 ギュンターの手を借り、衣装を身に着けていくルミナス。

 魔法を使い一瞬で着替えぬのは、ルミナスの様式美への(こだわ)りが(うかが)えるところである。

 

 ルミナスの着替えを手伝いながらギュンターは、忌々(いまいま)しそうにルイをなじる。

 

「下らぬ雑事でルミナス様を(わずら)わせるなど――」

「すまないね。しかしだね、このまま放置していれば、ルミナス様が寵愛(ちょうあい)するヒナタを失うと思ったのでな」

「それこそ下らぬ。が、あの魔王リムルと事を構えるならば、慎重な行動が必要であろう。しかも、あの邪猫どもが表に出て来たのならば、尚更だ。ヤツらが我等に何をしたか、忘れた訳ではあるまい?」

「もちろん忘れてはいない。あの日の事は、昨日の事のように思い出されるよ。だからこそ進言に来たのだがね。番外魔王二人にヒナタを殺されてしまっては――」

 

 そんな二人のやり取りを、うんざりした様子のルミナスが止める。

 

「ルイよ、黙るが良い。ギュンターよ、その方もだ。(わらわ)が出れば済む話なのであろう? 邪猫どもの事もしかり。アヤツ等はさておき、禍根が残らぬようにな」

「申し訳御座いません」

「ハッ、恐れ入ります」

 

 ルミナスの一喝により頭を下げる二人。

 

 フンッと不機嫌そうに鼻を鳴らすルミナス。

 そして、二人に命じる。

 

「ロイ()き今、役割分担も決め直す必要がありそうじゃな。だがそれは、後じゃ。二人とも、(わらわ)に付いてくるが良い」

 

 威厳を込めて言い放つルミナス。

 

「御意」

御伴(おとも)致します」

 

 歩き始めたルミナスの後ろに付きながら嬉しそうに承服する、ギュンターとルイ。

 

 そこへ、ふと立ち止まるルミナス。

 

 そして、愛する者が眠る氷の棺へ振り向くと。

 

(待っていてね――)

 

 ルミナスは棺で眠る少女の名を小さく呟き、(いつく)しむように玄室の扉を撫でると。

 

 ポウッと魔法陣が扉の真ん中に現れ、古代語にも似た文字が淡く光り浮かび上がる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 shyaminiha ndjazo dqpgdsuikam

 (我が闇には 何人(なんびと)も 触れること(かな)わん)

 

 ルミナスの膨大な魔力結界に閉ざされた玄室は、真の暗闇へと沈みゆく……。

 

 

 虚構の神ルミナス――

 

 その実態は、魔王ルミナス・バレンタイン。

 

 

 ヒナタの危機に、真の魔王が動きだす。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 秘密結社〝三巨頭(ケルベロス)〟の頭領(ボス)が一人、〝金〟のダムラダ。

 

 五大老との会談を終え、ファルムス王国の辺境にあるニドル領にやって来ていた。

 

 そこの領主、ニドル・マイガム伯爵と懇意にしており、贈り物を欠かさなかった。

 ニドル伯爵はすこぶる金に汚い男であり、そのお陰でダムラダは伯爵から絶大な信頼を得ていたのだ。

 

 今回もまた、賄賂を少し送っただけで、子飼いの者をファルムス王国都市に導き入れてくれた。

 そして現在、その都市に、エドマリスが(かくま)われているとの情報も掴んだ。

 

 新王エドワルドは二万の軍勢を引き連れて、隣接したエドマリス領に陣を張っているのも、確認済みである。

 

 

 英雄ヨウム。

 

 この者がエドマリス王を匿った――

 その事実を全面的に広報する事で、新王エドワルドは英雄ヨウムとエドマリスの結託を訴え、エドマリスが勝手に結んだ終戦協定は、新体制となったエドワルドが履行(りこう)する必要はないとも訴えた。

 

 更にエドワルドは、誠意を見せエドマリス側と交渉したのに、あろうことかエドマリスとヨウムは、魔国連邦に支払うべき賠償金を着服したと――

 

 国民に説明したのだ。

 

 辺境ではなく、都市部に住む国民などは常に守られており、防衛力の必要性に(うと)い。

 

 そんな中で、英雄ヨウムと旧王エドマリスが賠償金を着服したなどと知れば――

 国民だけではなく、上流階級の者達まで激怒したのである。

 

 

 結果――  

 次々と新王への協力を申し出る者が現れ事になる。

 

 これで、エドワルドの正当性を誰もが認める事となったのだ。

 

 英雄ヨウムとエドマリスは、無実の罪で処刑される事になるだろう。

 

 この地で起こる(いくさ)によって。

 

 

 これが、ダムラダの描いた策であった。

 

 

 ヨウムの率いる軍勢は、五千。

 ニドル領に陣を張っていた。

 

 だがしかし、三日前から続々と援軍がヨウムの下に到着していた。

 

 

(ふむ……。やはり魔王リムルは英雄ヨウムを見捨てなかったと、いう事か。甘い、甘すぎる。これで、聖人ヒナタの勝率が上がったしまったかも知れんな。さて、そろそろここらが潮時か……)

 

 ダムラダとしては、これも想定内。

 

 ヒナタを始末しておきたいというには、あくまでも個人的な希望。

 ヒナタを利用する為に嘘の情報を掴ませたのが、バレた可能性が高い。

 

 だからこそ、邪魔になる前に始末したかったのだが……。

 

 とはいえ、ヒナタに関しては五大老に任せるしかない。

 ダムラダが直接手を出すには、危険すぎる相手なのだ。

 

(まあいいだろう。任務に失敗した訳ではないしな……)

 

 〝三巨頭(ケルベロス)〟の総帥からは、この地で戦乱を起こせとしか命令されていない。 

 

 そう、既に任務は達成されているのだ。

 

 ならば、ヒナタが戻る前に、この地を離れるというのが賢い選択になる。

 

 だがダムラダには、一つだけやらねばならない事があった。

 

 今後の利益に向けての、五大老との約束。

 これは、果たさなければならない。

 

 それは悪魔の討伐なのだが……。

 ここに来て、雲行きが怪しくなって来ていたのだ。

 

 新王の思惑と、悪魔の動きが、完全に食い違っていた。

 

 新王側は、魔王リムルに敵対するつもりは全くなかった。

 それも当然、戦力差は歴然で、一国でどうにかなるレベルではないのだから。

 

 それなのに、魔王リムルは英雄ヨウム側に援軍を送って来た。

 つまり、戦争も辞さないという意思表示の表れだと、いう事になる。

 

 エドワルドが叫んでいる大義名分も、魔王が旧王側に加担した事で(くつが)される。

 これで潮目が変わったと、ダムラダは読んだ。

 

 しかしダムラダには、いささか気になる点があった。

 

 悪魔討伐を請け負い入念な調査を進めるうちに、魔人ラーゼンが旧王にではなく、討伐対象の悪魔に従っていると事実を突き止めたのだが――

 

 更に、その悪魔が一人ではなく、一人の亜人の女を引き連れている事が判明したのだ。

 

(――まさか、魔人ラーゼンは魔王リムルではなく、その部下の悪魔に倒されたとでも? だとすれば、現代種や近代種程度の上位魔将が受肉したという事ではあるまい。もっと古き悪魔が蘇ったか……。それに、悪魔に付き従う亜人の女だ、と? 恐らく傭兵商会ルヴナンの眷属だな。悪魔に番外魔王の眷属。魔王リムルが傭兵商会ルヴナンと契約を結んだというのは、やはり本当だったか、厄介な事だ……)

 

 ラーゼンの事も(しかり)りだが、番外魔王の眷属達の危険性を、ダムラダは良く知っている。

 傭兵商会ルヴナン、この未だに実態を掴ませない組織の中心を担う、眷属の集団。

 

 ダムラダはあらゆる情報網を使いこのルヴナンを調べたが、連絡場所、各地に点在するであろう拠点どころか、本拠地がどこにあるのかさえ、一切の情報がなかったのだ……。 

 

 そのルヴナンが裏で動いていたのなら、悪魔と合わさって予想以上に悪い方向に動いてる事になると、ダムラダはそう思い至る。

 

(ふむ……どうにも情報が足りない。総帥から聞かされた話には、あの悪魔の事はなかった。少なくとも、数百年以上は生きた悪魔と見做(みな)すべきか――) 

 

 悪魔族の強さは、生まれた年代によって違う。

 

 二、三百年生きた近世種でも、災厄級(カラミティ)に匹敵する。

 千年近く生きた中世種ともなれば、それこそ魔王の副官ともなれる実力があると見て間違いないのである。

 

 ちなみに、世間で行われる人間の召喚に応じて従うのは、中世種までしか記録にない。

 

 それ以上の悪魔を呼び出してしまったら、それは死、つまり召喚した者も含め、全ての破滅を意味する事になる。

 

 東の帝国の研究では、召喚する際に制限を用いる事が常識となっていた。

 もっとも、上位魔将を召喚出来る者など、数少ない英雄級の実力者しかいないのが実状なのだ。

 

「だがしかし、魔人ラーゼンならば……」

 

 思わず口にして呟いてしまうダムラダ。

 

 魔人ラーゼンの名は、帝国にも知れ渡っていた。

 

 その実力があれば、中世種にも劣らない魔人。

 

 

 そんな魔人ラーゼンを倒せるほどの悪魔がいるとすれば――

 

(あちこちキナ臭い匂いがする。巻き込まれる前に脱出した方が良さそうだな――)

 

 これ以上の深入りは危険だと、ダムラダの本能が告げていた。

 

 

「ダムラダ様、いかがされましたか?」

 

 そんなダムラダの呟きを聞き、部下の一人である女性が問うてきた。

 

 部下の女性を一瞥(いちべつ)し、ダムラダは薄く笑う。

 

「フ、フフフ。危険だな。これ以上は、駄目だ。今はまだ、大人しくするようにとの、通達も出ている。本当に自粛(じしゅく)した方が良さそうだ」

「――?」

「現時点をもって、撤収する。観測者を二人ほど残して、後は全員、(すみ)やかにこの国を出よ」

「ハッ、承知しました。それで、ダムラダ様は、どうされるおつもりで?」

「そうだな、私は新王にだけ挨拶をして、それから魔国連邦(テンペスト)へ行ってみるとしよう。もっとも、番外魔王とその眷属達が住み着いているから、どこまで近づけるかはわからないが」

「自粛されるのではないですか?」

「ん? フフッ、自粛はするとも。当面は裏の仕事ではなく、表の商人として魔王リムル様に拝謁(はいえつ)を願うまで。それに、魔国連邦(テンペスト)にあるルヴナン支店の動向を探っておきたいのさ。幽霊がやっと、日の当たる場所に出て来たんだ。このチャンスを逃す手はないだろう?」

「なるほど、了解ですわ。それで、本国より呼び寄せた請負連合会(コントラクター)の六名は如何(いかが)致しますか?」

「その為の、新王への挨拶だ。彼等を新王への土産とするのさ」

「なるほど、後の事は新王エドワルドに全て押し付けるのですね?」

「おいおい、人聞きが悪いぞ。五大老との約束を果たすついでに新王にも恩を売るだけだ」

 

 

 請負連合会(コントラクター)――

 それは、西側諸国でいう、自由組合のような組織である。

 

 請け負った依頼により、その専門職(スペシャリスト)を派遣する組織。

 その中に、悪魔討伐者と呼ばれる悪魔討伐を生業(なりわい)にする者もいた。

 

 魔物と戦う者の中でも、最高の実力者にしか免許が与えらない、対悪魔のスペシャリストである。

 

 ダムラダはこの対悪魔のスペシャリストを高い金で雇い、本国から呼び寄せていた。

 そしてこの地で彼らの強さを宣伝するつもりだったのだ。 

 

 だが、ダムラダは良からぬ予感を感じ、予定を変更する事にしたのである。

 

「しかしダムラダ様、そこまで警戒が必要ですか? 投資額を回収し切れてはいませんが?」

「さて、な。考えすぎかも知れん。しかし、私は自分の勘を信じるよ。それに、シルトロッゾに来ていた〝行商隊ガットエランテ〟が魔国連邦(テンペスト)に向かってるらしい」

「あの古くから続く、各国を旅して回る行商隊の事ですよね?」

「そうだ。表向きは真っ当な行商隊だがね」

「と、申しますと?」

「表の顔を持ちながら、裏の商いもやっているとの噂がチラホラあってね」

「……!? ルヴナンと繋がりが、あるとか?」

「うむ。証拠は何一つないんだが、裏の仕事をやっているとわかるんだよ。匂いでね。フフッ」

「匂い、ですか……」

「まあ君もその内わかるようになるさ。とにかく、色々とキナ臭くなっているこの地は、危険だ。損切を恐れて命を失うような愚は犯せぬわ」

「出すぎた事を申して、申し訳ありません。それでは、私は撤収の準備に入ります」

「ああ、急げよ。私はもう一つ、新王へのプレゼントを用意しておくとしよう」

 

 会話はそれで終わり、部下は足早(あしばや)に部屋を出ていった。

 撤収の準備は迅速(じんそく)に整えられ、ダムラダはニドル領を後にする。

 

 このダムラダの行動は正解だった。

 

(魔王リムルもさる事ながら、傭兵商会ルヴナンは、何故今更になって闇から這い出て来たんだ? もう実態がバレても何ら構わないという事……? 益々(ますます)もってわからなくなるな。番外魔王ツキハと番外魔王コハク……。あの忍びの女も何故、番外魔王の二人を狙う? 目的は何だ? どうにも事態は複雑化を増しているようだ。まあいい。今は……)

 

 

 こうしてダムラダは間一髪で、怒れる悪魔とそれに付き従う亜人の脅威が渦巻く危地から脱したのである。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 新王エドワルド。 

 

 

 各地の貴族からの支援はひっきりなしで、戦力はどんどんと増強され、興奮の絶頂の中にいる新王エドワルドであった。

 

 

 英雄ヨウムが、兄エドマリスの肩を持ったのは予定外だった。 

 更に、魔王リムルが英雄ヨウムへと肩入れをした時には、計画の失敗を覚悟したエドワルドであったが――

 

 大司教レイヒムが暗殺され、状況が動いたのだ。

 

 なんと、あの聖人ヒナタが魔王リムル討伐に乗り出したのである

 そして、神聖法皇国ルベリオスの英雄達までもが、エドワルドに協力を申し出てくれたのであった。

 

 法皇直属近衛師団――

 

 その中でもヒナタに次いで最強と噂される〝三武仙〟が、神殿騎士団(テンプルナイツ)を率いて参戦していた。

 

 いまだに〝神敵〟認定はされてはいないにも関わらず、この布陣はそれも時間の問題だともいえるものだった。

 

 彼等の目的は大司教レイヒムを殺した悪魔の討伐。

 

 しかし、それは建前にすぎない。

 

 西側諸国連合軍とも呼べる一大勢力を纏め上げ、魔王リムルに対抗する勢力とするのが本当の目的だと、エドワルドは考える。

 

 だからこそエドワルドは、ファルムス王国内での彼等の行動全てを認め、更に軍事行動までにも許可を出していたのであった。

 

 

 魔王リムルと正面切って事を構える気など、さらさらなかったエドワルドであったが、こうなればそれはもう関係のない事。

 

 ヒナタが魔王リムルに敗れるなど、万に一つも無い。

 これだけの強力な軍勢であれば魔王軍に打ち勝てる――

 

 それが、新王エドワルドが下した決断である。

 

 

 問題はヴェルドラと、それに付き従う番外魔王の二人。

 

 あの気紛れな邪竜と邪猫ならば、西方聖教会がその総力を挙げて再びヴェルドラを封印し、番外魔王の二人を討伐してくれるはずだと。

 

 

 後必要なのは、大義名分であるが、その問題も解決済みである。

 有力な〝東〟の大商人が挨拶に訪れ、その時にニドル伯爵からの手紙を渡されていたのだ。

 

 それは、救援の依頼が記された手紙。

 

 これによってエドワルドは、大義名分をも得た。

 

 

 そして、エドワルドは調子に乗り――

 

(ふむふむ。国境沿いに各国の援軍が到着しつつある今、ニドルへの救援という建前で部隊を差し向けるのも良いかも知れぬ。事は急を要する、故な)

 

 早計にもそう決断してしまう。

 

 

 本格的な戦闘は行うつもりはないが、街壁の外に軍を展開させれば、それだけでも十分な威嚇となるだろうと、エドワルドは考える。

 

 

 この愚行を(いさ)める者がいなかったのが、エドワルドの不幸である。

 

 

 軍に、出撃命令を下すエドワルド。

 

 

 エドワルドはこの世界の人間なのに、この世界の理不尽を正しく理解してはいなかった。

 

 

 伝承や史実を紐解けば、その恐ろしさを理解出来たであろうに……。

 

 仮にそれらを読み、聞いたとしても、大昔の事だと笑っていたのかも知れない。

 

 

 数の暴力。

 

 人知を超える能力(スキル)を持つ者には――

 

 それは、無力。

 

 

 人類が、総力を挙げて初めて、その暴力と向き合えるのだ、と。

 

 

 愚者の進軍は、始まった。

 

 

 

 




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