忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。102話です











102話 聖と魔 ⑬ 再び問題猫さんの集団

 

 

 進軍を始めたエドワルド率いる連合軍。

 

 

 その様を眺める、逆立つ赤毛が特徴的な一人の女性がいた。

 

(チッ……。何だいあの新王は、予定が大きく狂っちまったじゃないか)

 

 その女性はグレンダ、小さく舌打ちをしながら吐き捨てる。

 

 だが戦場では、そうした事態は常に想定すべきで、起こった事態に対して臨機応変に対処し、状況を好転させればいい。 

 

 そう考えたグレンダは、今はそれほどまずい状況ではないと考えた。

 

 各国も今回の動向に関心を示し、それに伴い記者も多くつめかけていた。

 

 予定通りの環境は整っていたのである。

 

 魔王リムルがヒナタにだけ専念しなかったのは予定外ではあったが、逆にそれは戦力の分散であり悪手だとグレンダは分析する。

 

(ダムラダは早々に逃げたようだね。対悪魔専門のチームをエドワルド王に預けていったみたいだから、そのチームには存分に働いてもらおうじゃないか。しかし、亜人の女が少し気になるけど……ま、捨て石になってくれれば(おん)の字さね) 

 

 グレンダはそんな風に悠長に構えていた。

 

 どう転んでも悪魔と亜人を倒せるという自信が、グレンダを楽観視させていた。

 

 

 だがしかし、その余裕は長くは続かなかった……。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 そんなグレンダを、遠く離れた位置で見ている者がいた。

 

 

『あら~ん。割と良い女の子ねぇ。〝三武仙〟の一人、〝荒海〟のグレンダだったかしら?』

『珍しいですね、ロロロオが女性を褒めるなんて』

『あら、私だって戦う女性には敬意は払うわよ。(いくさ)に女も男もないもの』

『そうですね。(いくさ)に、性別など関係ありませんものね。戦える者が戦う、非常にシンプルです』

『うふ。その(いくさ)も、馬鹿な新王は踊らされてるとも知らずに、進軍を始めた。まるで、愚者の行進を見てるようだわ』 

『ですよねぇ。行く先に、あの御方とイチコがいるのに』 

 

 『空間迷彩』を掛け、気配を隠し偽り潜む、ロロロオとロモコ。

 

 既にこの戦場には、ルヴナン裏部隊であるロモコを含む百体の眷属達が戦場に散らばり潜み、監視していたのだ。

 

 

『そうね。あの御方の逆鱗に触れなければいいのだけど。もう、遅いかしら。うふふ』

『それよりも私は、イチコが怒らないか心配なんですけど?』

『大丈夫よ。イチコが怒る前に、あの御方に八つ裂きにされるのが関の山よ、ロモコ』

『そうであればいいんですけどねぇ』

『そうそう、話は変わるのだけど。ロモコ、気付いてるかしら?――』

『ええ。この軍勢に紛れ込んでる、戦士とは違う気配を持つ者が多数いますね』

『ニコから報告のあった、紛れ込んでいるネズミども。ふふっ、標的は――』

『ヨウム殿か、エドマリスのどちらか。或いは両方』

『でも、近づくのは無理でしょう、ね。うふっ』

『ですね。私達に見つかった時点で暗殺計画は、破綻したも同じですからね』

 

 にこやかに『思念伝達』で話していた二人の雰囲気が一変して、不気味な冷たさを感じる口調に変わる。

 

 ルヴナン裏部隊のもう一つの顔――

 

 暗殺部隊でありながら暗殺者を狩る、対暗殺部隊(アンチ・アサシンフォース)

 

 そこへ。

 

『ねえロモコ。暗殺者って軍の数の割には数十名しかいないわよね?』

 

 同じ班にいる一人の眷属が話しかけて来た。

 

『ええ、ロモロナ(六百六十七)。騎士や傭兵、民兵、魔法使いを除くものの気配からして、そのくらいですね』

『それで、今回の報酬もいつも通りなのかしら?』

『ですね。いつも通りですよ』

『そっかぁ……。あたしら百人じゃん。対して暗殺者どもは数十人しかいないなんて、万の軍勢の数にしては、なんか少なくない?』

『そうですけど。AランクからA⁺ランクの暗殺者なんて、そうホイホイいるわけないじゃないですか。魔Gじゃあるまいし』

『それもそうなんだけどぉ。これって各暗殺組織の手練れが来てるって事よね?』

『そうなりますねぇ』

『コイツら始末したら、暗殺組織間のバランスが崩れるんじゃないの?』

『手練れっていっても多分、組織の跳ねっ返りや組織で持て余してる者が派遣されてるだろうと、コハク様が言ってましたけども?』

 

 ロモロナの問いに、姿を隠したまま腕を組み答えるロモコ。

 

『なるほどなるほど。それで本題なんだけど――』

『何です?』

『そいつら狩るのって、あたしらで取り合いになるよね?』

『まあ、そうなりますね』

『そっかぁ……。うん、わかった。別に今回報酬いらないし、正直メンドくさいから、あたし辞退するよー♪ 帰って新しく出来た甘味屋にいく~♪』

『はあっ!?』

 

 唐突に始まるロモコ班お決まりの、勝手気まま行動。

 

『むむ? ワシ、持病の(しゃく)が、う、うぉ、か、帰る……』

『そんなもの私達にはないですよね?』

『スマン、俺帰るわ。サイナラ』

『ちょっと!?』

『私眠いから、後ヨロシク』

『おいっ!?』

『僕、お腹すいたからロモコに任せる。頑張れリーダー』

『ちょっ、待って!』

『じゃあ、ロモコとロロロオ、頼むわよ~』

『待ってと言ってるんだけど?』

『ぶっちゃけ、この間の報酬でお財布潤っているし。今回はロモコが報酬全部もらいなよ。バイバイ~♪』

『だから、アンタら何帰ろうとしてるんですか――ッ!?』

 

 次々と遠のいていくロモコ班眷属達の気配。

 

『アンタらねぇ、お役目放棄は個人にペナルティーが科せられるの知っててやってます?』

『『『『『それがどうした!』』』』』

『えっ?』

『『『『『リーダーが怒られれば済むこと』』』』』

『ええっ!?』

『『『『『それがリーダーの仕事』』』』』

『そんなのある訳ないじゃないですか――ッ!』

『『『『『ある!』』』』』

『ありません!!』

 

 いつものロモコ弄りが始まり、おバカな言い合いが飛び交うロモコ班。

 相変わらずの問題猫集団であり、ペナルティーなど笑い飛ばす自由猫達。

 

 それを見かねたロロロオが口を挟んでくる。 

 

『ロモコ、貴女肝心なこと言い忘れてるんじゃないの? ま、帰るという者には関係ないわねぇ。私とロモコで美味しく頂いちゃいましょうか。うふふふ』

『『『『『ちょっと待てい!!』』』』』

 

 ロロロオの言葉にロモコを除く班員全員が、声を上げる。

 

『ああそうでしたね。すっかり忘れてました』

『ねえロモコ、ワザと忘れてたわけじゃないわよね?』

 

 怒気混じりのロモロナの問いにロモコは――

 

『まさか、アナタ達じゃあるまいし』

『『『『『あ゛あ゛!?』』』』』

 

 ロモロナと班員達の威嚇の声にも意に介せず言い放つロモコ。

 

『いいですよ、帰っても。私とロロロオで〝狩った魂〟を、美味しく頂いちゃいますから。どうぞお帰りください、皆さん』

『『『『『させるかボケェ――ッ!!』』』』』

 

 その声を聞いたロモコの口端が(わずか)かに緩み、フヒッと笑いを漏らす。

 

『いいですか皆さん。獲物はファーストタッチした者が、その獲物の魂の優先権を得ます。これは厳守ですよ?』

『『『『『にゃい!!』』』』』

『くれぐれも騎士や傭兵などには手を出さないように、いいですね?』

『『『『『にゃいにゃい!!』』』』』

『返事は一回でいいです』

『『『『『にゃいにゃいにゃいにゃい、にゃいっ!!』』』』』

『ハァッ……皆さん、一回死んでみます?』

 

 ロモコの声が低さを増しながら、無機質に言葉を吐き捨てる。

 

『『『『『に゛ゃっ!? ……にゃい』』』』』

 

 今回はテンペスト軍のサポートも兼ねてるので、ロモコの長ーい堪忍袋の尾が一瞬にして切れかけたのを察知した班員は、返事を小さく一回だけする。

 

『はあっ……。今回の狩ってもいいと許可を頂いてるのは、暗殺者みたいなスカタンだけです。これはリムル様からの承認も得ていますので、遠慮なく狩っちゃってください。いいですか? 喧嘩はダメですよ? 絶対に、ダメですからね?』

『『『『『にゃい!』』』』』

 

 ロモコが溜息交じりに言うと、早速男どもがお構いなしに女達に喧嘩を売り始めるのだが……。

 

『『『『『いいか(オンナ)ども、邪魔するんじゃねえぞ!』』』』』

『『『『『それで?』』』』』

『『『『『だから、邪魔するんじゃ――』』』』』

『『『『『それで?』』』』』

『『『『『だから――』』』』』

『『『『『それで?』』』』』

『『『『『……お邪魔しました』』』』』

『『『『『(オトコ)ども、あんまり調子に乗ってると、タマ潰すよ?』』』』』

『『『『『あ、はい。ゴメンナサイ』』』』』

 

 そう、魔猫は女傑社会であった。

 子を産み育てる(メス)が、(オス)よりも立場が強いのである。

 

 眷属になってもこの習性は変わらなかったのだ。

 

 (ちな)みに、眷属の男女比率は、(メス)(オス)

 (メス)の方が多いのであった。

 

『はいはいアナタ達。おふざけはそこまで。ファーストタッチした者がその獲物を狩る。いいわね?  くれぐれも、コハク様とツキハ様に恥をかかせるような真似はしないように。わかってるわよ、ね?』

『『『『『にゃい!』』』』』

『では、テンペスト軍とエドワルドの軍がぶつかり次第、作戦開始。さあさあ皆、楽しい狩りのお時間よ』

 

 ロロロオが静かに締めると、眷属達は目を付けた獲物がいる場所に各自散って行った。

 

『それじゃ、ロモコ。私達も行きましょうか』

『ええロロロオ。行きましょう』

 

 おふざけモードが終わった問題猫さんの集団。

 

 獲物を狩る為、静かに動きだす。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 クフフフフ

 

 

 悪魔ディアブロ。

 

 蝙蝠(こうもり)のような翼を大きく広げ、邪悪に(わら)う。

 

 上空より戦況を見渡し、自分を陥れた者を探していた。

 

 その隣には、肩より長い綺麗な茶髪の髪を風に揺らし、猫耳とキジ模様の尻尾を持つ二十代後半くらいの美女がいた。

 

 着ている装束は、紺色の生地に牡丹の花が描かれた通常丈の小袖(こそで)に、幅十五センチの半幅帯を絞め、白の足袋(たび)を履き魔素で作った竹皮編み込み草履(ぞうり)を履き空中から下を見下ろし微笑むイチコ。

 

 

 そんなイチコを従え、眼下のを見渡すディアブロ。

 敬愛するリムルの前で恥をかかされた事は、決して許しはしない。

 

 今まで生まれて一度も恐怖を感じた事のないディアブロは、今の役目を奪われるのではないかと考えるだけで、身震いがしていた。

 

 またも『帰っていいよ』と言われでもしたら……。

 

 想像するだけでゾッとし、身を裂かれるよりも辛いのだ。 

 そんな恐怖を与えた者達には、必ず報いを受けてもらう。

 

 ディアブロはそう考えながら、笑みを深くしていく。

 

 

 そして、後方に陣を構える新王エドワルドを発見したディアブロ。

 

(クフッ。数名ほど目立つ者がいますか。有象無象(うぞうむぞう)に比べるとマシと、いったところですね。クフフ) 

 

 少なくとも自分の前には立てるだけの力を持つと感じたディアブロは、あの者達が〝十大聖人〟なのだろうと考える。

 

 しかし、リムルの望みは〝無関係な犠牲者は出さない〟というもの。

 

 それが関係者であったならばその限りではない――

 これはディアブロだけでなく、目付け役のハクロウも同意見であった。

 

 ディアブロはイチコから、ロモコ達がネズミ狩りに動き出したと報告を受けていた。

 

「やはり(ねずみ)は紛れ込んでいましたか。それにしても、ここまで気配と存在そのものを欺瞞(ぎまん)するなど、厄介な猫達ですよ全く。クフッ」

 

 微かに感じるロモコ達の気配を追いながら、どこか楽しそうに小さく呟く。

 

(まあ、無抵抗の者は見逃すとしましょう。向かってくる者は、仕方ありませんね。まして、一方的に攻撃を開始する愚か者など、情けをかける必要もないでしょう。クフッ、クフフフフ)

 

 そう内で思いながら、今すぐにでも挨拶に出向きたい気持ちを抑えつつ、ハクロウに『思念伝達』で知らせを飛ばす。

 

『ハクロウ殿。そちらに一人、少し目立つ者が向かっています。ランガ殿の良き退屈凌ぎになるでしょう。それと、ロモコ達が動き出しました』

『ほう、了解じゃ。やはり鼠が紛れ込んでおったか。して、その者は殺さぬ方が良いか?』

『ええ。その者は、噂の出所であるルベリオスの関係者です。生かして捕らえて、交渉の材料にしようかと』

『心得た。ランガ殿にはそう伝えよう。それでじゃ、鼠の始末はワシも出てもいいのじゃが――』

『いえ、それには及びません。ロモコ達は、暗殺者集団でありながら、暗殺者を狩る集団でもあるのです』

『ほほう。ならば、ロモコ殿達に任せても安心じゃな』

『ええ。それで、あの者ですが……五千程の兵を率いています。自由組合での強さの基準でいうと、そうですね、Aランクを超える者も数名混じっているようです』

『なるほど、それは丁度良いな。ゴブタとガビルを向かわせよう』

『ああ、それは良い考えです。万が一にも敗北はないと思いますが――』

『うむ。ワシも見てる故、安心せよ。お主はお主の好きにするが良かろう』

『それを聞いて安心しました。それでは、私はこれで』

『やりすぎぬようにな。イチコ殿、頼みましたぞ』

『ええ、ハクロウ殿』

 

 ディアブロは偵察で得た情報をハクロウに流すと――

 

 最早(もはや)、我慢の時は終わったというように、自重も遠慮もせずにイチコを伴い、そのまま一気に得物に向けて、飛翔した。

 

 

 新王エドワルドが構える後方に位置する陣営。

 

 そこに、上空から突如として現れたディアブロとイチコ。

 

 

「初めまして皆様。エドワルド王には、お久しぶりですかね。私の名は、ディアブロと申します。そして、後ろに控えるのが、私の補佐を務めているイチコでございます」

 

 舞い降りたディアブロはディアブロは、優雅に一礼してそう挨拶をした。

 それに合わせて、イチコも深く腰を折り一礼をする。

 

「散開! 皆の者、警戒態勢を取れ! エドワルド王をお守りするのだ!!」

 

 ディアブロの挨拶が終わるのも待たずに、騎士団長が大声で命令を飛ばす。

 

 護衛騎士達がその声に反応して、エドワルドを抱えて後方に引いていく。

 そして、それを守るように人の壁が出来上がる。

 

 近衛師団の騎士達は、ディアブロとイチコを目撃するなり瞬時に展開し、既に防衛体制に入っていた。

 

 その騎士達が、エドマリスの前に進み出来たのだ。

 

 

 ディアブロは悠然と構え、イチコは右袂で口元を隠し、『まあまあ』といった感じで笑みを浮かべていた。

 

 

 二人は、慌てふためく者達の準備が整うまで何もしない。

 

 既に目標を補足した今、残る仕事は多くはないのである。

 

 

 そう――

 

 

 慌てる必要など、どこにもないのだから。

 

 

 

 





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