忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。103話です

 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。







103話 聖と魔 ⑭ Diablo(原初)Laughing Cat(笑う猫)(恐怖

 

 

 後方に位置する野営地。

 

 ずらりと並ぶ軍用テントの中で、一際目立つ豪華な王専用テントに、新王エドワルドはいた。

 

 

 そのテントの前に立つ、ディアブロとイチコ。

 

 すぐにサーレとその部下に取り囲まれた二人。

 

 それでも楽しそうに笑うディアブロと、ほわほわと笑みを浮かべているイチコ。

 しかし、そのディアブロの瞳が怒りに燃えているのは、イチコ以外誰も気付きはしなかった。

 

 周囲の喧騒に何事かと驚いて出て来た報道陣に対しても、ディアブロとイチコは笑みを絶やさない。

 

「あなた方に危害を加える気はありません。そこで大人しくしていることです。イチコ」

 

 ディアブロはそう言ってイチコの名を呼ぶと。

 

 イチコが印を四つ結び、二本指を立てた右手を口前に持っていき、言霊を発し。

 右手を真横に切る。

 

 はっこうせんじん

 〝忍魔術・呪符結界 八甲仙陣(はっこうせんじん)

 

 報道陣を八枚の呪符が囲い込み、『結界』を張った。

 

 この指示は、報道陣を巻き添えにしないようにとの、ディアブロの配慮であった。

 だがしかし、その裏には、そこから出た者には対しては、容赦はしないという意志も込められていたのだが、記者達にはそこまで思い至らなかったのは幸いであったのだろう。

 

 

 サーレも来た、これで準備が整ったのか、エドワルドは余裕を取り戻していた。

 

「おっ、おほん。これはこれは、魔王リムルの使者でしたか。本日はどのようなご用件なのですかな?」

 

 威厳を出そうとして少し失敗したものの、それでも尊大な態度を取りつつ、エドワルドはディアブロに問いかけた。

 

「クフフフフ、簡単な事、用件は一つ。警告ですよ」

 

 ディアブロは穏やかに(わら)い言い、イチコに自分の隣に来るよう目配(めくば)せをする。

 イチコが後ろからディアブロの隣に来ると同時に、エドワルドが問う。

 

「警告? それはどのような?」

 

 その問いに、イチコが微笑みを絶やさずに静かに答える。

 

「エドワルド王、今直ぐ兵を退()き、ヨウム殿と和解しなさい。そうすれば、知らずに済む恐怖を味わう事もないでしょう。ふふふ」

 

 とりあえず形式として和解交渉から始めてみたディアブロだが、それは本意ではなかった。

 イチコがエドマリスの問いに答えて、その答えにエドワルドが一瞬、あからさまに嫌な顔をしたのを見逃さなかったディアブロは、内心ほくそ笑んでいたのだ。

 

 そう、逆にこの交渉に応じられると面倒だと思っていたのだから。

 

 そこからは、エドワルドがディアブロとイチコを見下したかのような言葉が続き。

 

 ディアブロがそれに応対する。

 

「はははは、これはこれは異な事を申すものよ。そもそもこれは、我が兄が貴国への賠償金を横領した事が発端なのだ。それを余が貴国に誠意を示すべく、回収しようと動いたまで。それを貴様等に、口を出される(いわ)れはない!」

「なるほど。あくまでも和議を守っていると主張されるわけですね?」

 

 涼やかな顔で穏やかに問い返すディアブロ。

 

 それを見て、調子に乗り始めるエドワルド。

 

 あろう事か、ディアブロ達がエドマリスや詐欺師連中と共謀し、我が国から二重に賠償金をせしめようとしたのであろうなどと、言い始める。

 

「フンッ、白々しい事この上ないとは、この事よ!! そんな姑息な企みなど、余は全てお見通しであるぞ!」

「……」

「言葉もないか? 下賤(げせん)(やから)ども。魔王と名乗ったところで、リムルとやらも底が知れておるようじゃな。それに、金に汚く、人類の(おん)敵番外魔王の二匹など、どうせ戦火の火種をばら撒くぐらいが関の山であろう?」

「…………」

「……」

「しかし、残念だったな。大司教レイヒムを口封じに殺したようだが、実に浅はか。彼の言葉は、ここにちゃんと記録されておる!!」

 

 ディアブロとイチコが黙ってるのをいい事に、エドワルドは饒舌(じょうぜつ)さを増す。

 

 そして取り出した水晶球を(かか)げ、報道陣によく見えるように(かざ)し見せる。

 

 ブンッと鈍い音を立て、水晶球から3D立体映像みたいな映像が浮かび上がる。

 

 その映像には、拷問されたようなレイヒムが映っていた。

 

 映し出された映像の中でレイヒムは、「裏切るつもりなどなかったのです! どうか、どうかお許しを、お許し下され!」と叫んでいた。

 

 誰が見ても、殺される直前に撮られたと(おぼ)しき映像であった。

 

「それが一体どのような証拠になると?」

 

 ディアブロが問うと、エドワルドは心底馬鹿にしたように笑い答える。

 

「フンッ、わからんか? これはな、そこのグレンダ殿が持って来てくれたのだよ。貴様がルベリオスに潜入してレイヒム殿を殺したのであろう? ははっ、レイヒム殿を脅して安心しておったのだろうが、彼の信心深さが貴様への恐怖を上回ったのだ! それを知った貴様が、(おおやけ)の場で発言されるのを恐れて事に及んだのであろうが! もはや言い逃れは出来ぬ、観念するがよい!!」

 

 自信満々に笑みを浮かべながらディアブロを見るエドワルド。

 

 だがしかし、ディアブロは笑みをたたえたままであった。

 

「それは素晴らしい。私への恐怖を、ただの〝人間〟が克服したと? 中々に面白い冗談ですね」

「確かに、笑えない冗談ですこと」

 

 話にもならないといった風にディアブロとイチコが返す。

 

「誤魔化すな! これだけの証拠がここにある。もはや貴様らの――」

「ディアブロ殿、口を挟む事をお許し下さいますか?」

 

 (まく)し立てるエドワルドを無視して、イチコがディアブロに(うかが)いを立てると、ディアブロは軽く(うなづ)いた。

 

「エドワルド王。私は、番外魔王の眷属が一人、イチコと申します。それでは、余りにも稚拙(ちせつ)で下らない王の言葉に、質問が御座います」

「何と、無礼な! 魔物の分際(ぶんざい)で余を愚弄(ぐろう)するか!!」

「その記録は、ディアブロ殿に気付かれぬよう如何様(いかよう)にして撮られたのか、お聞かせ願いますでしょうか?」

「は?」

 

 いきなりどのようにして記録されたのか問われて、エドワルドの勢いが止まった。

 そのエドワルドを放置するかのように、イチコの言葉が続いていく。

 

「その記録にはディアブロ殿の姿が映ってはいませんが。これは、明らかに不自然ではないですか? どう見てもこの映像は、ディアブロ殿の視点から撮られたもののようにしか見えませんよね? 大司教レイヒムを暗殺した者が、わざわざ証拠を残すなど、王は暗殺の何たるかをご理解していないように見えます。仮に、ディアブロ殿に気付かれないように撮ったとしても、何故大司教レイヒムが殺されるのを事前に察知出来たのでしょう? 西方聖教会に予知者がいるなど、聞いたこともありませんが? そもそも、殺された大司教レイヒムは誰に命乞いをしていたのですか? 誰の名も――」

「き、決まっておる。そこの悪魔であろうが!」

「悪魔と申しますが、ただの力なき〝人間〟にディアブロ殿の〝恐怖〟を克服するなど、到底不可能なのですよ? ディアブロ殿を〝古く〟から知る私が断言します。〝ただの人間〟には、不可能なのです」

「そこは、神ルミナスに捧げる信仰心の強さ故にレイヒム殿は――」

「――もういい。もう黙れ」

 

 イチコから次々と飛び出す質問。

 それを聞いた報道陣がざわめき始め、そんな報道陣に威厳を見せようとしたエドワルドだが――

 

 それを静かな声でディアブロが(さえぎ)る。

 

 その顔からは一瞬だけ笑みが消えていた。

 虚ろなるその容貌(ようぼう)は、見る者に底知れぬ恐ろしさを感じさせる。

 

「茶番は止めだ。知恵比べを楽しむにも、イチコの問いにすら言いつくろえぬ稚拙さ。お前ではレベルが低すぎる」

 

 ディアブロはそう断じて、エドワルドを黙らせ硬直させた。

 そのディアブロの様子を見たイチコは、一歩後ろに下がり控える。

 

「リムル様の意向に従い、真実をつまびらかにして身の潔白を証明しようと考えていましたが、どうやら無駄らしい。人は、自分の信じたい事しか信じぬ生き物でしたね。ですが、もっと簡単に証明は出来るのですよ――」

「な、何を言っておる、貴様は……?」

 

 あからさまに変わったディアブロの雰囲気に、エドワルドは怖気(おじけ)づく。

 もしかして自分達は触れてはならぬものに触れたのではないかと、今になってようやく悟ったのだ。

 

 怖気づくエドワルドを見ながら、ディアブロは告げる。

 

「証明して欲しいのだろう? この中で一人でも、私への恐怖を克服出来たのならば、今回は負けを認めてあげましょう。ですが、忠告を一つ。私は今まで、一度も敗北をした事はありません。付け加えるならば、補佐のイチコも番外魔王の眷属となってから、一度も敗北はしておりません。敵対するならば覚悟する事です」

 

 あくまでも穏やかに静かに。

 

 しかし、その金色の瞳の中では、紅い瞳孔が怒りに染まって燃え、後ろに控えるイチコの笑みが不気味に深まっていた。

 

 自分が(さげす)まれ(ののし)られる事ならば、ディアブロはまだ自制していた。

 

 しかしエドワルドは、リムルの事を()(ざま)に罵り、あまつさえ番外魔王の二人まで(さげす)んだ。

 

 イチコはディアブロの補佐兼、ディアブロが怒りに任せて自制しなくなった時に止める役目も(にな)っていたのだが、主であるツキハとコハクを蔑まれ、止める事はおろか(みずか)らの自制をディアブロと同じく捨て去っていた。

 

 この時点で、エドワルドの命運は尽きていたのである。

 

 恐怖に駆られたエドワルドが叫び、命令する。

 

「やれ、そいつ等を殺せ!! その危険な悪魔と魔人を――」

 

 その命令を待ちわびたかのように、エドワルドを護衛する者に紛れていた悪魔討伐者(デーモンハンター)達が飛び出して来た。

 

 飛び出した悪魔討伐者達が攻撃を開始する。

 

「恐怖を克服だと? 笑わせるな! 悪魔の中で最上位の上位魔将(アークデーモン)だからと調子に乗っているようだが、我が祖国では珍しくもないわ! そこの魔人共々葬り去ってくれる!」

「悪魔族なんざ、その身を砕けば存在を維持出来ん! それは上位魔将といえど同じ事! 番外魔王の眷属など、我等にとってそこいらの魔人と同じ、恐れるに足りん!」

「対悪魔の戦術は、日々研究されているんだ。そこの魔人は殺さず生け捕りだ。祖国に連れ帰り、傭兵商会ルヴナンの情報を洗いざらい吐いてもらうとしよう。我等人間を舐めるなよ!!」

 

 そんな事を口々に叫びながら悪魔討伐者達は、連携して必殺の陣を張る。

 

 だが、彼等は決して油断などはしていない。

 

 何故ならば、ディアブロとイチコは名乗っているから。

 

 〝名持ち(ネームド)〟となった上位魔将は、その脅威が一段階上昇するからだ。

 そして、魔人も同様である。

 

「フフッ、動けまい。反応すら出来んのか?」

「ハハッ、所詮は口だけという事か」

 

 魔鉱で作った特殊合金を聖なる属性に染め上げた鎖。

 ディアブロとイチコを、背中合わせ状態で雁字搦(がんじがら)めに縛り上げる悪魔討伐者達。

 

『あらあら、申し訳ありませんディアブロ殿。私みたいな者と一緒に拘束されるなんて。うふふ』

『いえ構いませんよ。このような余興もたまにはいいでしょう。クフッ』

 

 『思念伝達』でイチコがコロコロと笑いながらディアブロに謝罪するも、ディアブロはそれを(とが)める事もなく余裕の言葉で返す。

 

 初手が思いの外簡単に成功した事で、悪魔討伐者達の警戒心が少しだけ緩んでいた。

 

 西側諸国に比べて、東の帝国では悪魔被害が大きい。 

 その理由は、東の地に強大な力を秘めた悪魔の拠点があるからだと言われていた。

 

 だからこそ、対悪魔の戦術が磨かれて来たのである。

 

 西側では伝説的な脅威でしかない上位魔将でさえも、その力を段階分けして対処方法が確立されていたのだ。

 

 そして、番外魔王の眷属に関してはAランク程度の強さと、判断していた。

 

 悪魔討伐者のリーダーは、ディアブロを中世種と見做し、イチコを災害級(ハザード)と見做す。

 

 しかしディアブロに関しては、〝名〟があるという点を考慮して、古代種に匹敵する脅威と改めていた。

 

 絶大な力と知識を蓄え、悪魔界に君臨する貴族階級の悪魔。

 それは多数の眷属を従える存在も確認されていて、決して舐めてかかっていい相手ではなかった。

 

 だがリーダーは、そんなディアブロとイチコを前にして、勝てると踏んでいた。

 実際に上位魔将との戦闘も何度かこなしており、その自信から来る判断をリーダーは疑わない。

 

 イチコは、ディアブロより格下だと判断されていた。

 何故なら、イチコがディアブロに付き従っていたからである。

 

「どうです、準備は終わりましたか?」

 

 いきなりディアブロから聞き返され、リーダーは戸惑った。

 

「はっ? な、何?」

「いえ、準備が終わったのなら、開始の合図をお願い出来ますか?」

「うふふっ、ふふ、ふふふふ」

 

 ディアブロの平然とした様子と、次第に大きくなるイチコの笑い声に、リーダーは何を言われたのか理解出来なかった。

 

「……何だと? 我等が何をしても邪魔をしないととでも?」

 

 戸惑いを隠し、それでも挑発するようにリーダーがディアブロに問う。

 

「何故そのような事をする必要があるのです? せっかく努力してくれているのですから、邪魔をする理由がありませんよ。だってその方が、より恐怖が大きくなるでしょうから。そうでしょう、イチコ?」

「はい、ディアブロ殿。うふっ、うふふふふ」

「フフフ、舐めるなよ、悪魔と魔人め。その傲慢、その身を亡ぼすと知れ!!」

 

 ふざけた返答をするディアブロと、相変わらず薄ら笑いを漏らすイチコに、冷え切るような感情を抱く悪魔討伐者(デーモンハンター)達。

 

 悪魔とは元来、自信過剰で人を見下す者が多い故に、ディアブロの発言だけを見れば、別段異常という訳ではない。力ある魔人も(しか)りである。

 

 しかし今回は、二人とも体を聖なる鎖で縛られた状態での発言である。

 

 それでも尚、自信たっぷりの二人の前に、歴戦の悪魔討伐者達も不安を抱いてしまう。、

 

 

 だがしかし、彼等はプロである。

 

 その行動には一切の無駄が無く、気の遠くなるほど繰り返した訓練通りに、準備は整った。

 

 

「――ならば、その傲慢(ごうまん)を二人(そろ)ってあの世で悔いるがいい!! 滅せよ、六連雷光撃(サンダーボルト)――ッ!!」

 

 

 凄まじい雷鳴が轟き、目も(くら)むほどの雷光が、頭上から二人に降り注ぐ。

 

 

 激しく(うごめ)く雷光が、ディアブロとイチコを容赦なく焼いていく。

 

 

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 次回、〝Diablo(原初)Laughing Cat(笑う猫)(絶望〟 をよろしくお願いします!



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