忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。105話です








105話 聖と魔 ⑯ いっぬ?〝犬嫌いの不動要塞〟

 

 

 サーレが絶望的戦いを始めたと同時刻――

 

 

 〝三武仙〟の一人であるグレゴリーもまた、絶望的な状況に(おちい)っていた。

 

 戦場を駆けるグレゴリーの前に、天より降って来た災厄。

 

 

 後門を落とすべく回り込んだ来た敵兵集団を迎撃する、ヨウムが雇った傭兵部隊。

 

 ルヴナンとは違う傭兵部隊だが、先遣部隊を相手によく持ち堪えていた。

 

 

 グレゴリーが狙う獲物。

 

 それは、大司教レイヒムを殺したという悪魔。

 

 

 街で暗躍をしているという情報を仕入れ、グレゴリー自らが討伐に出向いて来たのだ。

 

 

(エドワルド王の傍には、〝東〟から来た奴等が控えていた。抜け駆けでもしなけりゃ、オレの出番などないだろうからな) 

 

 そう考え、馬を走らせるグレゴリー。

 

 

 しかし今、悪魔どころではない恐るべき巨狼を前に、グレゴリーは馬から降りざるを得なかった。

 

 グレゴリーの前に現れた巨狼――

 

 ランガである。

 

 

 ふさふさとした尻尾を風に(なび)かせ、天空を疾走するランガ。

 

 地を蹴る脚が次第に(くう)を蹴り、空へと舞い上がる。

 一握りの獣魔にしか使いこなせない<飛翔走>の技術を、自然と習得していた。

 

 天を駆ける速度は音速を突破し、あっという間にディアブロから報告のあった一団を補足する。

 

 そして今、グレゴリーの前に降り立つランガ。

 

 

 グレゴリーに付き従うのは、近衛師団に所属する騎士数名のみ。

 残る五千の兵士は、エドワルド王が援軍として派兵した第二陣、ファルムスの騎士達。

 

「ぐ、グレゴリー殿。これは、如何(いかが)致しましょう?」

 

 騎士を引き連れる貴族上がりのガストン将軍が、グレゴリーへ(うかが)いを立てる。

 

(チッ、知るかよ)

 

 心の内で小さく舌打ちをして、グレゴリーは思った。

 

 錬度の高い騎士は前回の遠征で全滅している。

 今残っているのは、知識も技術も劣る二流以下の者だけなのだろうと。

 

 だから自分で考える頭もなく、協力関係にあるとはいえ、他国の人間である自分に恥ずかしげもなく聞けるのだろう、と。

 

「ガストン将軍、アンタは遅れてやって来る部隊を相手しな。見ろ、地上と空からこっちに迫って来てるのが見えるだろう?」

「了解した。それでグレゴリー殿は?」

「オレか? そりゃあ決まっている。ソイツの相手をするんだよ。パイソン、ガルシア、お前達はガスト――」

 

 ガストン将軍を護衛しろと命じようとした瞬間――

 

 グレゴリーの横を、黒い疾風が駆け抜けた。

 

「――ッ!?」

 

 グレゴリーだからこそ、ランガの動きに反応出来た。

 

 そう、ランガはガストン将軍率いる部隊に突撃したのだ。

 

「くそっ! この犬野郎が!!」

 

 激怒するグレゴリー。

 

 手にした戦斧槍(ハルバード)を勢いよく突き出すが、ランガはそれを軽々と(かわ)した。

 

 空中でくるりと一回転したランガはふわりと着地し、そのまま縦横無尽に暴れ出す。

 

 その姿はまるで、ドッグランでボール遊びをする犬のよう。

 大はしゃぎしてボールを追い回すかの如く、次々と犠牲者が量産されていく。

 

 グワッ、ギャウ、ランガに跳ね飛ばされた者の悲鳴が辺りに響き渡る。

 

 パイソン、ガルシアが、ランガの体当たりで吹き飛んでいった。

 そして他の仲間達も、ランガの餌食になり、一人、また一人と地に倒れ伏していく。

 

 それを呆然と眺めるグレゴリー。

 その牙は、遂にグレゴリーへと向く――

 

 

 ゴブタとガビルは、ランガが飛び出した後を追っていた。

 

「ちょ、ランガさん、速すぎるっすよ……」

「うむ。このままでは、吾輩達の出番無く終わりそうである」

「兄上、泣き言はいりませんので、さっさと追いかけて下さい」

「それじゃあ、行くっすよ、ガビルさん!」

「うむ。承知した!」

「では、私は報告に戻ります!」

 

 そう言ったゴブタは『影移動』で先行し、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)百名がそれに続く。

 

 ガビルは飛翔し、飛竜衆(ヒリュウ)百名も一斉に飛び立つ。

 

 そしてソーカは、指揮を取るハクロウの下へ報告する為に戻って行った。

 

 

 戦場に一番乗りしたゴブタ。 

 その目の前に広がる光景は、死屍累々(ししるいるい)と横たわる兵士達の姿だった。

 

 グレゴリーと戦うランガを、他の兵士達は遠巻きに見てるだけであった。

 

 ランガは、グレゴリーを援護しようと集まって来た兵士達を返り討ちにして。

 その兵士一人一人を、踏み潰さないように前足でポイッポイッと弾き飛ばして、一箇所に固めていたのだ。

 

 それを見た騎士達の顔には絶望の色が色濃く表れ、声も失っていた。

 

 

 そしてランガと戦っているグレゴリーは――

 

 既に満身創痍(まんしんそうい)である。

 

(な、なんなん、だ、この、い、いっ、ぬは……)

 

 手にした戦斧槍(ハルバード)は折れ、地面に倒れたままグッタリとなっているグレゴリー。

 〝三武仙〟の一人である誇りも、無残に砕かれていた。

 

「ちょちょっ!? まずいっすよ、ランガさん!! 」

「うむ、その通りである! 直ぐに手当をせねば――」

 

 楽し気にはしゃぐランガを慌てて止める、ゴブタとガビル。

 

 耳に飛び込んで来たゴブタとガビルの声に、ピタリと動きを止めるランガ。

 

 そして、我に返って周囲を見渡し、自分の起こした惨劇に気付きしゅんとなって尻尾を垂れ、サイズも普通の大型犬並みに小さくなる。

 

「――う、む。だが、この者ももっと遊びたいのではないだろうか?」

 

 倒れたまま(うめ)いているグレゴリーを前足でつんつんと(つつ)きながら、未練がましく言うランガ。

 

 それを聞いたゴブタとガビルは、流石に可哀そうだと思い、ランガを説得する。

 

「いやいやいやいや、ランガさん、そりゃないっすよ!」

「そ、そうですぞ! 万が一にもその者が死んでしまったら一大事! そのへんで()めないと、リムル様に怒られますぞ!!」

 

 リムルの名が出た途端、ランガは即座に折れた。

 

「それはまずい。このままでは、リムル様に怒られる――」

 

 しゅんとなり、悲しそうな目でゴブタとガビルを見て、ようやく諦めたランガ。

 

 遊びという戦いから解放された、グレゴリー。

 

 その身体は、ランガのヨダレと土に(まみ)れ、手足も少しだけ変な方向に曲がっていて見るからに重症なのは見て取れた。

 

 生きているのが不思議とはいえ、曲がりなりにも〝三武仙〟であるグレゴリーだから耐えられたのであろう。

 

 しかしその傷も、ゴブタ達が用意した回復薬によって、後遺症も残らず治癒された。

 

 

 だが、グレゴリーの心はどうなったのか――

 

 後世にてグレゴリーは、〝犬嫌いの不動要塞〟という勇名を残す事になるのだが、その由来は誰も知らない……。

 

 

 後に残されたガストン将軍とはいうと。

 

 ガビルに、このまま部隊を退くなら追撃はしない――

 そう言われ。ガストン将軍は一も二もなく(うなづ)いた。

 

 街門前で攻めあぐねていた部隊にも即伝達を送り、撤退を決意した。

 

 『くそぉーー! こんなの、勝てるわけがあるかーーーー!!』と。

 

 捨て台詞を吐き、()()うの(てい)で撤退していったのは、有名な話として後世に伝わる事になる。

 

 

 こうして、ニドル領での攻防戦は、本格化する前に終了したのであった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

(クソッ。早く、早く来てくれグレゴリー!)

 

 必死に心の内で祈るサーレ。

 

 だがしかし、そのグレゴリー現在、ランガに背負われ輸送中である。

 

 もう(しばら)くしたら到着するであろう、サーレの望んだ形ではないが――

 

 それを知らぬのは、サーレにとって幸運だったのかも知れない。

 

 

 サーレはディアブロと戦いながら、思う。

 

 この悪魔の強さは、出鱈目(でたらめ)だと。

 

 サーレという人類屈指の強者でさえも、ディアブロの強さの底を見通せないでいた。

 

 最早サーレも、ディアブロの言葉を疑いすらしていない。

 イチコの言った、『あらまあ、馬鹿ですか?』の言葉が今更ながらに耳に刺さる。

 

 あの時、察していればと。

 

 

 魔王ヴァレンタインより強い化け物が、わざわざ敵地に侵入して大司教レイヒムを殺す理由がないからだ。

 

 その言葉通りに少し脅すだけで、誰も逆らおうと考えるはずもないから。

 

(だとしたら、僕は何でこんな目にあっているんだろうな……?)

 

 今も全力でディアブロの攻撃を(しの)いでいるサーレ。

 そしてイチコは、この戦いに一切手を出してこない。

 

 サーレにとってこれは幸運だった。

 もし、イチコまで相手にしたら、サーレは数分と持っていなかっただろう。

 

 だがしかし、サーレの体力も精神力も限界に近かった。

 

「クフフフフ、どうしました? もっと頑張って面白い技を見せて下さい」

 

 楽し気に言うディアブロの言葉に、サーレは心の底から泣きたくなり、心底帰りたいと思う。

 

 サーレは耳長族(エルフ)の血を引き長命であり、天才と称されている。

 

 その上、たゆまぬ努力で自分の技量を磨き上げる為に鍛錬を続けた結果――

 サーレに顕現(けんげん)したのがユニークスキル、『万能者(デキルモノ)』だった。

 

 その能力は、相手の技術(アーツ)を見ただけで見破れる力。

 

 それどころか、習得も可能になるという優れた能力で、ヒナタのユニークスキル『簒奪者』と似た原理を持っていた。

 

 ただし、技術(アーツ)のみに特化した能力(スキル)であった。

 これを駆使して様々な技術(アーツ)を獲得し、それを使いこなす為に自分を鍛えて来た。

 

 そして最高難易度とされる、魔法と技術(アーツ)の融合技も習得している。

 自分の闘気(オーラ)に魔法効果を付与する事で、絶大な斬撃を繰り出す技。

 

 これは、身体能力を向上させる<気闘法>の基本技にして究極技である<気斬>を基礎として、敵の弱点となる魔法属性を付与する。

 

 そう、これによって全ての魔物を切り裂く一撃必殺の究極技が完成する、と――

 サーレは内心で自画自賛していたのだ。

 

 

 それなのに、ディアブロには全く通用しなかった。

 

 何故なら、既にこの技法は千年以上も前に見ていたのだから。

 ツキハとコハクが最初にディアブロと出会った時に使っていた、技術(アーツ)である。

 

 今では、この基礎を更に発展させたものをツキハが編み出しており、それをヴェルドラとの決闘で使用して、それをディアブロも見ていた。

 

 サーレが取得したこの技術(アーツ)は、ディアブロにとっては拙技(せつぎ)でしかなかったのだ。

 

 サーレが魔法を発動する前に、ディアブロはその構成を読み解いて分解してしまう。

 世界への(ことわり)へ干渉出来ない以上、法則は改変されずに奇跡は起きない。

 

 ツキハとコハクは、この法則改変の原理を妨害、または読み解かれないように、新たな攻撃手段である精神波動(サイコウェーブ)を創り出したのだ――

 

 あらゆる生命体を倒す為に。

 

 

 そんなサーレは魔法の使用を諦めて、<気闘法>と技術(アーツ)闘気剣(オーラソード)のみで戦っていた。

 

「ちくしょう、ちくしょう……」

 

 自分の積み重ねて来た技術(アーツ)が通じない。

 それがたまらなく悔しくて、そう呟くサーレ。

 

 ディアブロが本気を出していないのも、余計に腹立たしさを(つの)らせた。

 

 魔法技術には、大人と生まれたての赤子以上の格差があった。

 身体能力も同様。

 

 唯一、鍛え抜いた技量(レベル)だけが、ディアブロに並ぶアドバンテージであった……。

 

 だがそれも、古くから生きるディアブロの膨大な経験値の前には、長くは持たなかった。

 

 その気になれば、いつでもサーレを殺せるのだ――

 

(何故僕を殺さない? いつでも殺せるはずなのに。とすれば、やはり……)

 

 サーレは気付く――

 ディアブロには、自分を殺す意思がないと。

 

 そうなると、大司教レイヒムを殺した真犯人がいると、いう事になる。

 

 なら、誰が殺したと――

 

(……そうだ。筆頭(ヒナタ)は、今回は関与せずといった方針だった。そして、あの事件が起きたのも、筆頭が旅立った後という、狙ったかのようなタイミング……。という事は、やはり―)

 

 間違いなく〝七曜の老師〟が真犯人だと、サーレは確信した。

 

 

 そして、それを待ってかのように――

 

『サーレよ、応援に来てやったぞ』

『感謝せよ。共に魔人と悪魔を滅ぼそうぞ!』

『そのまま悪魔と魔人を抑えよ。我等の魔法で始末しよう』

 

 サーレの背後の空間が歪み捻じ曲がり、巨大な力を持つ者が現れる。

 

 現れたのは三名の賢人――〝七曜の老師〟。

 

 そして〝七曜〟は自分達の言葉とは裏腹に、この場で使用するにはあまりにも危険な魔法の発動に入る。

 

 目的は――証拠隠滅。

 

 それは、大司教レイヒムを殺した者がディアブロではないと、気付いた者達全て。

 

 各国の記者達も馬鹿ではない。

 サーレが気付いたように、ディアブロの言動から真実に辿り着いた者もいた。

 

 それこそがディアブロの、本当の目的だったのだから。

 

 

 ならば、〝七曜の老師〟達の真の標的はディアブロではなく――

 

 

「まずい! 皆早く、逃げろ――ッ!!」

 

 サーレが報道陣に叫ぶと同時に――

 

 

 報道陣を含むその場を、巨大な火球が吞み込んだ。

 

 

 

 それを同じ時として、ヒナタの胸に凶刃が襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 





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