忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。106話です


 ※ 作中で表現している〝総髪(そうはつ)〟ですが、これは室町時代までの男性の一般的な髪型だったそうです。現代で言うポニーテールと同じみたいな髪型です。

 因みに、一般的にいわれている頭のてっぺんを剃る丁髷(ちょんまげ)は、戦国時代末期からだそうです。
 これは、兜を被った時に頭が蒸れないようにする為です。
 そして江戸時代の頃は、頻繫に頭の手入れが出来ない浪人などがこの総髪にしていたそうです。
 後、学者や医者なども総髪だったらしいです。
 官職に付いている学者などは丁髷(ちょんまげ)にしていたそうです。

 
 ※ 作中に出てくる術名〝鬼灯(ほおずき)〟は花言葉で、偽りや誤魔化し等を意味します。

 ※〝打刀〟
【挿絵表示】







106話 聖と魔 ⑰ 〝幕末の刺客〟

 

 

「なっ!? 風下で匂いを隠し、更に気配を隠していたか――ッ!!」

 

 ツキハが叫び、時雨(しぐれ)鯉口(こいくち)を切りながらヒナタの背中側に瞬歩で飛ぶ。

 

 

 刃を上にした突き――

 確実にヒナタの心臓を狙った一撃。

 

 

 その一撃をツキハは、鞘から刃を三分の一程出した形で受け止めたが――

 

 突き出された刃の勢いは止められなくて、それはほんの僅か心臓を()れ、肺動脈を切り貫き胸へと白刃の刃を伸ばす。

 

(クソッ、あたしらが使う隠形法と同系統か。これ、心臓は()れたけど、肺動脈はいったな)

 

 日の光を浴びた白刃がヒナタの胸から切っ先三寸(九センチ)伸びた形で止まり、刃先から真っ赤な血が糸を引くように(したた)らせる。

 

 ヒナタの即死は避けられたが、確実に致命傷である事にツキハが内で声を上げる。

 

 更に致命傷から、トドメを刺すべく突き刺した刃が(ひね)られようとした瞬間――

 

「させるか! 斬り走れ、魔刃鍔鳴(まじんつばな)り・空閃斬(くうせんざん) 砕牙(さいが)!」

 

 鍔鳴りの音と共に全方位に不可視の斬撃を飛ばす剣技の派生技、砕牙。

 一点方向にだけその不可視の斬撃を飛ばし、ヒナタを刺し貫いた刃を折るのが目的の技である。

 

 三分の一抜いていた刃を、瞬時に鞘に納めるツキハ。

 

 チンッ! 軽やかな金属音が鳴り響く。

 

 と、同時にヒナタを刺し貫いていた刃が一気に真っ直ぐ引き抜かれ。

 ツキハの放った砕牙は、その刃があった真下の地面を大きく(えぐ)った。

 

 そう、どの道ヒナタの胸から刃が抜かれれば、出血多量でヒナタの死は早まる。

 ならば、ヒナタの体に刃だけを残し、抜かせなければ助ける時間は確保出来ると判断したツキハであったのだ、が。

 

 ヒナタを襲った者はそれをいち早く察知して、刃を抜いたのである。

 

 刃が抜かれた為、ヒナタの胸の傷口からバッと噴水のように勢いよく鮮血が吹き出し。

 口からも吐血して、ヒナタはゆっくりとスローモーションのように地面に倒れ伏す。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

 慌ててリムルが胸の傷口を押さえ、抱き起す。

 

「グッ、かはっ――ッ」

 

 喉から湧き上がる血にむせるヒナタ。

 

 リムルが押さえる手の隙間から溢れる血はヒナタの胸から流れ落ち、リムルの服を赤く染めていく。

 

 もう既に意識を失いつつあるヒナタは、傷口を押さえるリムルの手に自分の手を重ね、回復魔法を発動させようとするも、声も出せなくなったヒナタに魔法の発動は――

 

 (かな)わなかった……。

 

「リムルごめん! あたしのミスだ。ギリギリまで気付けなかった」

「いや、(むし)ろ、よくトドメを防いでくれた。ツキハ、ソイツを何とか出来るか?」

「ああ、任せて。ここからはあたしが、ヤツを()る」

 

 そう言うとツキハは、ヒナタを襲った者を、細く鋭い目で見る。

 

(長い黒髪を総髪(そうはつ)()った、男。それに装束(しょうぞく)は、灰色の小袖に紺色の(はかま)白足袋(しろたび)に足首を止める(ひも)付きの草鞋(わらじ)みたいなものを履いてるのか。あれ、材質は魔獣の皮だな。元日ノ本の人間か? 召喚者か転移者のどちらかだけど、多分召喚者だアイツ。切れ長の目で、優男風に見えるけど……ありゃあ、かなりヤバイ。間違いない。アイツは、ガチの刺客(しかく)だわ)

 

 ツキハが刺客と断定したところに、いきなり攻撃を仕掛けた者がいた。

 

「覚悟っ!」

 

 掛け声と同時にヒナタを襲った刺客の左側から腰目掛け、凄まじい速さで大太刀を片手で横薙(よこな)ぎにするシオン――

 

「駄目だシオン!」

 

 シオンを止めるべくツキハが叫ぶが、瞬動法で飛び込んだシオンの耳には届かなかった。

 

 刺客の胴を真っ二つにするかに見えたシオンの横薙ぎの一撃は――

 

「なんと!?」

 

 刺客の鞘で大太刀の一撃を受け止められ、そこから抜刀しての片手降り下ろし斬りを見舞われた。

 

 斬られた左腕が宙に舞う。

 

 バッと鮮血を散らしながら地面に落ちる腕をシオンは足で蹴り上げ、切られた袖ごと口に(くわ)え刺客を睨みつける。

 

 刺客の取った攻防とは。

 

 左側から放たれたシオンの横薙ぎを、前を向いたまま鞘を帯から刃側を外側に向けて鞘ごと半分ほど抜き。

 

 そのまま瞬速で横移動して、シオンが大太刀を振り抜く前に鞘で受け、その振り抜く力を殺し。

 そこから抜刀して、片手で斬り付けたのである。 

 

 これを一瞬で行った刺客の技量の高さが(うかが)える瞬間であった。

 

 左腕を口に咥えたままシオンは大太刀を掴んだ右腕を振り上げると――

 

「シオン」

 

 背筋が凍りつくような覇気がシオンを襲う。

 ツキハが、地の底から唸りが響くような低い声でシオンを止めた。

 

「腹が立つだろうけど、ここは引きな。今のアンタじゃ、まだ無理だ」

 

 『魔王覇気』を『気動操作』でシオンにだけ飛ばしながら言う。

 

 シオンは腕を咥えたままコクリと(うなづ)くと、大太刀を地面に突き刺して、右手で左腕を掴み、切り口に合わせて即座に修復と傷の回復を計る。

 

「頼みます」

 

 そう一言だけ言い。

 左腕が修復されると大太刀を地面から引き抜き、リムルの(そば)まで下がっていくシオン。

 

 

 そして――

 

「アンタ、何もんだ?」

 

 〝残心〟を解かずにツキハが、おどろおどろしい殺気と妖気(オーラ)を放ちながら、刺客に問う。

 その余波に触れたアルノー達は、身体が固まったように動けなくなってしまう。 

 

拙者(せっしゃ)はヤスケ・テラウチと申す。この世界に召喚される前は、〝幕末の刺客〟寺内八助であり。京の都では、人斬り八助と呼ばれ申した」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ヤスケも〝残心〟を解かず、敢えてツキハの間合いに入ったままやや右肩を前にし、左手は鞘を掴み、親指は(つば)に掛けたまま左腰を少し外に捻った構えを取り、右手は脱力したようにだらりと下げていた。

 

「幕末? いつの時代だ?」

 

 ツキハが(いぶか)()に問うと。

 

「徳川の天下が終わりを告げる、末期の時代だ」

「へえ~、そうなんだ(あの家康が天下を取った世界か? 確かリムルのいた日本もそうだったな)」

 

 淡々と答えたヤスケに、どこか理解出来てない風を(よそお)い答えるツキハ。

 

「で、アンタは、ヒナタが狙いなのか? それとも、リムルか?」

「違う。拙者の斬るべき者はお(ぬし)のみ、番外魔王ツキハ。そこの聖騎士は、ついでだ」

「くくっ。言うねぇ、ヒナタをついでと言うかよ、ヤスケ」

「フフフフ、番外魔王ツキハよ。さあ、存分に斬り合おうではないか!」

「ああ、いいぜぇ。でもな、場所を変えないか? ここは邪魔が多すぎる」

「よかろう。お(ぬし)が納得出来る場所まで行くがよい」

「あたしの間合いに入ったままで、その口か。アンタ、おもしろいな。うくくくっ」

 

 ヤスケと対峙したままツキハは、どこか楽し気に笑いを漏らしながら右人差し指でチョンチョンと行く方向を指すと、一気に駆け出していく。

 

 ツキハが駆けだした瞬間、ヤスケもツキハの後を追うように駈け出して行った。 

 

 後に残された空間には、緊迫した空気が一気に弾け、ツキハの殺気に気圧(けお)されていたアルノー達も我に返り、ヒナタの傍まで駆け寄って行く。

 

 

 リムルは『胃袋』から回復薬を取り出すと、ヒナタの胸の傷に振りかけていった。

 

「よし、これで……!?」

 

 しかし、回復薬を振りかけたのならば直ぐに刺し傷の再生が始まるのに、一向に傷が(ふさ)がる(きざ)しも見えなかった。

 

「何故だ? 何故回復薬が効かないん……だ?」

 

 傷口を押さえたままリムルが疑問の声を上げると。

 

《解。個体名:ヒナタ・サカグチは、魔法への高い抵抗力を有しています。自動で魔素を分解し、その影響を無効化しているのです》

 

「魔法無効化だと?」

「ひ、ヒナタ様には魔法が通用しません。回復魔法も、神聖魔法の系統でなければ無効化してしまわれるのです……」

 

 駆け寄って来たアルノーが首を横に振りながら、そう言った。

 

(そうか、魔素を介在しない<神聖魔法>なら効果があるのか。急げばまだ間に合う!)

 

 ならばとリムルは――

 

「だったら、ぼさっとしてないで、さっさと神聖魔法をかけろ!」

 

 リムルに一喝され、慌ててアルノー達が動こうとした、その時――

 

 何者かの妨害によって、アルノー達は光の輪に縛れる。

 

 強大な力を持つ者達が、上級転移魔法で空間を跳躍して来たのだ。

 そして、アルノー達を拘束したのである。

 

 (なん)やしょうもなといった顔したコハクが、ヒナタを抱き抱えるリムルの傍まで来ると、『思念伝達』と『思考加速』をかけ、リムルに話しかけた。

 

『リムル、あのジジイどもは、恐らく〝七曜〟や。適当に相手してもらえるか?』

『アイツ等がか? ああ、わかった。でも、ヒナタをはや――』

『うちに任せなはれ。応急処置だけなら、うちが出来ますえ』

『マジか!? でも、どうやって?――』

『あくまでも応急処置や。直ぐに死ぬことはあらへん。このままやったら、もうもたへんで。だから、心配せんでよろし』

『わ、わかったコハク。ヒナタを頼む』

 

 コハクの静かながらも有無を言わせない言葉に、リムルはそう返すとヒナタをコハクに託す。

 コハクは地面に正座をした形でヒナタを抱きかかえ、胸の傷口に右手を当て、尻尾を隠すように背中へと回し、尻尾の先を背中の傷口へと当てる。

 

 胸の傷口を確認する為コハクは、胸に当たる服の生地を少し破り広げた。

 

(……肺動脈損傷、背中から胸までの貫通した刺し傷。刃を(ひね)られたら即死してましたな。ツキハ、よく防ぎましたで。しかし、うちらと同じ気配の隠し方をする者がいたんやな。手練れも手練れや、あの男は。それより、とりあえず幻遁をヒナタにかけ……んん?)

 

 そこへ、コハクの権能『追跡神(ゴッドストーカー)』が遠方に感じる、とある妖気(オーラ)を探知する。

 

 コハクがヒナタの胸の傷を見てると、突如として現れた〝七曜〟の二名がリムルの前にまで来て(ひざまず)き。

 

 更に――

 

『魔王リムル、番外魔王コハクよ、お初にお目にかかります。我等は〝七曜の老師〟と申す者。此度(こたび)は、命令違反を行ったヒナタ・サカグチを始末しに参りました――』

 

 と、いけしゃあしゃあと言い放ったのだ。

 

 出血多量で意識混濁なヒナタ。

 拘束されたアルノー達。

 

(マジに胡散臭いなコイツら)

 

 リムルは顔には出さないけども、心の内で吐き捨てるように言う。

 

 そんなやり取りを我関せずとコハクは、『思考加速』をかけたまま傷の応急処置を進めていた。

 

(さっきのあれは……。やっと重い腰を上げよりましたか、老獪(ろうかい)吸血鬼女。ほなここは、恩を売っときましょかぁ。偽りなはれ、幻遁・鬼灯(ほおずき)

 

 印結び、言霊(ことだま)省略の幻遁を発動させ、ヒナタの胸の傷を偽装する。

 

 これで、コハクとリムル以外の者には、ヒナタの傷から今だに血が溢れ流れ出ているように見えるのだ。

 

(まあ、直ぐにここへやって来るやろうから、背中の傷だけは塞いでおいたろか。で、『気動操作』の応用で血流をちょちょいと……。よし、血の流れを一時的に緩やかに……これで肺動脈を避けて、心臓に負担を掛けないようにして血流操作や……ん~、ちょいと血が足りまへんけど、まあかまへんやろ。とりあえずこれで、直ぐに死にはしまへんな。恩の押し売りいっちょ上がりや、ふふっ)

 

 とりあえずの応急処置を済ませ、加速された時間の中コハクは、リムルに『思念伝達』を送る。

 

 何故コハクが<神聖魔法>を使えるのか?

 コハクは千年以上前、ミザリーと再戦した時に〝霊子崩壊(ディスインテグレ―ション)〟を使用した。つまりは、そういう事である。

 

『リムル、とりあえずの応急処置は済ませたで』

『お! 済まないコハク』

『かましまへん。ふふっ』

『ん? 何だその含み笑いは? まさか、西方聖教会から金を取るとか――』

『――なに()うてますのん。そんなんやらへんわ。怒るで、リムル?』

『ああ、すまんすまん。ほう、血がほぼ止まってるじゃないか、凄いなコハク』

『ああ、せや。今見てる傷は本当の事やけど、あんさんとうち以外には、まだ血が流れてる状態に見えてるんや。間違っても血が止まったとか()うたらあきまへんで?』

『お? ああ、幻術をかけているのか。わかったよコハク。ところで――』

『――質問は無しや、リムル。ほな、『思考加速』解除するで』

 

 そう言いコハクは『思考加速』を解除し、二人は現実時間の流れに帰還する。

 リムルの体幹時間は一秒にも満たなかった。

 

 そこでリムルは七曜の老師達を見て。

 

「お前達の事情は知らんが、ヒナタを助ける邪魔をするな。俺達の決着はもうついたんだ。だから、ヒナタを死なせるつもりはないんだよ」

 

 リムルが少しイラッとした感じで言う。

 

 すると、〝七曜〟は大袈裟な身振り手振りでリムルの要求を拒否する。

 

『残念ながら、そうはいきません。その者――ヒナタは、独断専行により貴殿との争いを故意に起こした。これは許さるざる暴挙であり、神ルミナスに背くものとして、神罰を与えねばならぬのです』

 

(偉そうに……なに人の庭で好き勝手に言いやがるんだ)

 

 言葉遣いは丁寧だが、明らかに上から目線の〝七曜〟にリムルは、段々とイライラを募らせていく。

 

「し、しかし、そんな……」

「ヒナタ様にも、きっとお考えあったのです!」

「そうです! どうか、どうかヒナタ様をお許し下さい!」

 

 聖騎士達がヒナタの窮地を救うべく懇願するも、〝七曜〟は聞く耳を持たなかった。

 

 だがそこへ、聖騎士の一人が激昂して叫んだ。

 

「ふ、ふざけるな! 貴様ら、よくも、よくも私を(あざむ)いたな!? 最初からヒナタ様を抹殺するつもりで――」

 

 その者はシオンが相手した、百名の聖騎士を率いていた隊長レナードだった。

 

 更にここで、事態が急変する。

 

 レナードの隣に立っていた同僚が剣を抜き、迷わずレナードを突き刺した――

 

「――なにっ!?」 

 

 レナードに刺さるはずだった剣は、何もない虚空から現れた小さい手で刃ごと掴まれ、レナードの腹部皮一枚で切っ先が止まっていた。

 

 レナードを刺そうした者が驚きの声を上げる。

 

 バキンッ! 同時に剣を掴んでいた手が刃を砕き、甲高い音と砕けた刃の破片の落ちる音が響く。

 

「聖騎士と名乗りながらぁ、仲間を刺すなんてぇ。とんだおバカちゃんだわよねぇ~」

 

 腕を起点に身体が空間に徐々に具現化し、そこに狂乱猫ニコの姿が現れる。

 

「ギャルド、お、お前……」

「フンッ。こそこそ隠れておったか、邪悪なる存在め。それにしてもレナード、無礼(きわ)まるぞ。〝七曜〟の御方々への暴言、目に余る。貴様こそ逆賊ヒナタと共謀し、あまつさえそこの番外魔王共とも結託し、俺達を欺いた張本人だろうが!」

 

 ギャルドが後ろに飛び退(すさ)りながら叫んだ事で、連行されて来た聖騎士達に動揺が走る。

 誰の言葉が真実なのか分からなくなり、一時的に軽いパニック状態を引き起こしたのだろう。

 

(どうやら、〝七曜〟とやらは、絶大な権力を持っているようだな。それにギャルドと言ったか。アイツ、ヒナタを襲った光線が発射された方向にいたよな? つまりアレか? 〝七曜〟がヒナタの抹殺を計り、それに利用されたのがレナードというヤツで。それじゃあ、レイヒムを()ったのは、〝七曜〟じゃないのか? 俺達は、内部抗争に巻き込まれ利用された、と……いう事か?)

 

 リムルの中で次々と答え合わせが進んでいき、それに連なり怒りを通り越した何かの感情が沸き起こり、抑えていた妖気(オーラ)が僅かに漏れ出していった。

 

(どうやら〝七曜〟達は、俺と敵対する意思はないみたいだが……。しかしだ、シズさんにヒナタの事も頼まれていたからなぁ。ヒナタとの誤解ももう少しで解けそうだし。長い目で見れば、神聖法皇国ルベリオスとも、友好関係を築きたい……。うん、ないな――)

 

 リムルは、ヒナタを見捨てる選択肢などないと、今一度決断する。

 

 そこでリムルは、『思考加速』をかけた『思念伝達』をレナードに送った。

 

『おい。レナードといったか? ヒナタの応急処置は密かにコハクが施した。今は下手に動くな』

『え!? はい。しかし、どうやってヒナタ様の応急処置を番外魔王が出来たのですか?』

『さあな。とりあえず、今はヤツラをどうするかだ。いいな?』

『り、了解です。魔王リムル』

 

 そこでリムルは、さっさと『思念伝達』と『思考加速』を切ると。

 

「〝七曜〟、お前達の言い分は後で聞く。ここは俺の国だし、お前達も我が国の〝法〟に従ってもらうぞ」

 

 魔国連邦(テンペスト)にはまだ、明確な法律がある訳でもないのにリムルは敢えて強権を発動しようとした。

 

 だが、〝七曜〟達はあくまでもヒナタを抹殺しようとする。

 

『それは出来ません。我がルミナス教に背く者、逆賊ヒナタを放置など出来ませぬ。これは西方聖教会、ひいては神ルミナスの意志なのです。そして、我等がルミナス教の信徒は、神ルミナスに忠誠を誓う捧げる者ばかり。魔王リムルの申し出てとあっても、これに従う者などおりますまい』

 

 自分達の正当性を主張しながら、他の聖騎士達が動くのを牽制する〝七曜〟。

 

 これを聞いたリムルのイライラが頂点に達しようとした、その時。

 

「ふふっ、ほんまあんさんら、いちびってますなぁ。神に忠誠? 信仰を捧げるの間違いやおまへんのか? それに、あの〝女〟が神やと? けったくそ悪い冗談やで。ええか、ジジイども? しょーもないこと()うのもたいがいにせんと、〝どたま()〟カチ割って、〝ゆわす(コテンパンにする)〟で?」

 

 コハクのその言葉は、妖気(オーラ)や覇気を込めてなくても、聞く者全てに背筋をゾクリとさせる重圧があった。 

 

(あっ。コハクが先にキレた……これ、ヤバくね?)

 

 リムルがそう思った矢先――

 

 ディアブロから『思念伝達』が届く。

 

『リムル様。緊急でご報告が――』

『どうした? こっちも取り込み中だから、手短に言え』

『それは失礼を。大司教レイヒムを殺した真犯人が判明しました。七曜の老師とか言う者共が、裏で絵を描いていたようです』

『ほう、やはりか……』

『やはりと!? 流石はリムル様、もう既に真相に辿り着いていたのですね。感服致しました。それで、目の前に三匹ほどいるのですが、生かしておくのは害悪であると判断します――』

『そいつらが犯人だという証拠は用意出来るのか?』

『はい。目撃証人として、各国の記者が多数――』

『――許す。イチコ殿にも伝えろ、ディアブロ。そして、(すみ)やかに駆逐しろ』

御意(ぎょい)!!』

 

 リムルはこの時気付かなかった。

 自分の言葉に静かなれど、凄まじい殺気と怒りが混じっていた事に……。

 

 既に、魔王たる片鱗(へんりん)を見せ始めたリムルであった。

 

 

(クククッ。何だ、この絶妙なタイミングは。ここに現れた時点で、ほぼヤツラの策謀だとわかったけど、余程自分達の策に自信があったんだろうな。だがしかしだ、その傲慢(ごうまん)さが故に、馬脚(ばきゃく)(あらわ)す事になったな〝七曜〟。お前達だけは、絶対に許さねえ!) 

 

 流石に傲慢過ぎる〝七曜〟達にリムルもキレた。

 

 神聖法皇国ルベリオスを気にして遠慮する必要などない――

 そう、〝ここは俺の国〟だと。

 

(生かしておこうかもと考えたが、駄目だわ。万が一アイツ等が逃げでもしたら、またこれ以上の迷惑をかける事は間違いない。うん、その必要は全くねえな。こんな(やから)は始末しておくに限る。コハクとツキハもそう言うだろうしな。それでは、今ままでの鬱憤(うっぷん)を晴らさせてもらうとしよう)

 

 魔王の片鱗から、魔王全開になるリムル。

 

「ベニマル、ソウエイ!」

「「ハッ!」」

「その二人を捕らえろ。抵抗するならば、あらゆる手段を許可する」

「待ってたぜその命令をよ、リムル様!」

「お任せを。リムル様のお望みのままに」

 

 リムルと同様今までの鬱憤が溜まっていたのかベニマルとソウエイは、殺気を隠さずに〝七曜〟へと向かっていく。

 

 それを待たずして〝七曜〟は、リムルへ憎悪に満ちた目を向ける。

 

 リムルはそんな事はお構いなしに、次の命令を出す。

 

「シオン!」

「はい!」

「そこのギャルドという野郎を任せる」

「フフッ!」

「いいか? 油断はするなよ、〝七曜〟が化けている可能性があるからな」

「なるほど! 死んだ方がマシという地獄を見せて、化けの皮を剝いでやれば良いのですね!」

 

 嬉しそうにシオンは、鞘に納めていた大太刀を抜き構える。

 

『ク、クククッ。これはこれは……』

『良いのですかな? 我々と全面戦争になりますぞ?』

 

 この期に及んで、まだ寝言を抜かす〝七曜〟の二人。

 

「お前らは、やり過ぎたんだよ。大司教レイヒム殺しの罪までなすりつけようとした事も、全てお見通しだ。俺に喧嘩を売ったんだから、覚悟は出来てるんだろう?」

 

 リムルが言った事に、聖騎士達が混乱したように顏を見合わせ、中には()に落ちたという表情を見せる者もいた。 

 

 アルノーなどは、顔を怒りで真っ赤に染め上げ、〝七曜〟に剣を向けていた

 

 

 そこへ――

 

「リムル、傭兵契約は一時破棄や。今からうちら傭兵商会ルヴナンは、神聖法皇国ルベリオスに全面戦争を仕掛けるで」

「ああ、わかった。一時破棄を認める。だが、この件が済んでからだ」

「へぇ、了解どす」

 

 これはブラフである。

 しかし、コハクは本気であるのはリムルにはわかっていた。

 

 だからこその、駆け引きである。

 ルヴナンとルベリオスが全面戦争になれば、間違いなくヴェルドラが参戦するのは避けられない。

 

 ツキハが出るならヴェルドラも出る。

 そうなった時に、リムルにヴェルドラを止める術がないのだ。

 

 ならばここで〝七曜〟に、最大限の重圧(プレッシャー)を掛けておく。

 そう判断したリムルだった。

 

 

 だがしかし、〝七曜〟達は一瞬だけ顔色を変えたものの、動揺まではしなかった。

 

 それどころか、高笑いを始める始末。

 

『クックックックッ、バレているとは思わなんだわ。ルヴナンと全面戦争? 笑わせよるわ!』

『ワハハハハッ、〝聖人〟は虫の息、既に死んだも同然!! 魔王リムルよ、貴様もヒナタとの戦いで力を使い果たしておるのだろう? 傭兵商会ルヴナンと全面戦争だと? たかが魔物とゴロツキ傭兵共の集まり、返り討ちにしてくれようぞ!!』

『そう、この好機、利用せぬ手はないわ!!』

『ついでだ、真実を知ってしまった貴様達も、魔王リムルと番外魔王コハクともども始末しておくとしよう!』

 

 もう、誤魔化しも何もなく、アッサリと本性を現した〝七曜〟達。

 

 その場に、悪意に満ちた哄笑(こうしょう)が響き渡る。

 

 

 リムルはあまりの怒りに『思念伝達』でコハクに、今の気持ちを吐露する。

 

『反吐が出るような、下種(げす)の極みだな』

『せやでリムル。こんなんがうようよしてるんが、この世界や』

『そうだな、コハク。こんなヤツら、生かしておく価値もないな』

『せやな。あんなんは、チリも残さず消したらええ。己を知らずして敵を知らず、こんな愚を犯す者に、慈悲などいらん――』

『ああ、慈悲の欠片すら与えねえよ』

『ふふふ。随分魔王らしくなったやおまへんか、リムル。でな、うちらはいつでもルベリオスに戦争仕掛けますでぇ。その時は、迷う事なく言いなはれ』

『そうだな。どうしようもなくなったら、その時は頼む。でもな、その時は俺達も一緒だ。お前達にだけ泥は被らせないからな』

『ふふっ。本当にあんさんは、おもしろいお人どすなぁ』

『そうか? 誉め言葉として受け取っておくよ』

『リムルの本当に望んでる事はわかってますえ。だから、今のところは無茶はしまへんから安心しておきなはれ』

『今のところと言うのは引っかかるけども。でもな、それでも信頼してるさ、お前達の事を』

 

 そこでリムルは『思念伝達』を切る。

 

 同時にベニマル、ソウエイ、シオンが、獲物を見定めるように動き出す。 

 

 

 そして、老獪な七曜達は奥の手を隠していた。

 

『馬鹿め! 既に準備は万端なのだ』

『最初から、貴様等を皆殺しにするつもりだったのだよ!!』

『フフフ、それでは始めよう――』

 

 〝七曜〟の二人はそう宣言すると、すかさず距離を取り宙に高く浮かぶ。

 

 シオンが向かっていったギャルドも、正体を現し宙に浮かび上がっていく。

 

 

 そして、三人を頂点にして大規模な魔法陣が浮かび上がった。

 これは、最初から準備しておかなければ発動できないような、危険な殲滅魔法。

 

 この大規模殲滅魔法の範囲内には、リムル達は当然として、三獣士の二人に聖騎士達も含まれている。

 

 完全に皆殺しにして、証拠隠滅を図るつもりだった〝七曜〟達。

 

 

 

 

 同時刻――

 

 魔国連邦(テンペスト)(そば)を流れるシス湖に繋がる支流の一つである河原近くに、ツキハとヤスケの姿があった。

 

 

 




 
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