忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。107話です。

 今回、傭兵商会ルヴナンの〝真の紋章〟が出て来ます。
 作中の〝挿絵〟で見てください!


 ※作中に表現される〝刃文〟とは――
  焼き入れによって付けられた焼刃の形状のことで、刀身に見られる白い波のような模様です

  刃文の種類は、直刃(すぐは)乱れ刃(みだれば)の2種類が存在します。
  また、この二種類の刃文から派生する刃文もあります。

 ※〝峰〟とは――
   刃が付いていない側の事を言います。

 ※〝丹田(たんでん)〟とは――
  お腹のへそより少し下あたりの場所です。



 〝打刀〟の構造
 
【挿絵表示】



 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。








107話 聖と魔 ⑱ 刺客 と 忍び

 

 

 今目の前に対峙するは、五千年も生きている魔物、番外魔王ツキハ。

 

 ヤスケは長年の願いが叶い、心(おど)(たぎ)る凶気を抑えつつツキハを見詰める。

 

 

(いにしえ)から生きる魔物。奴はどこで日本古来の剣術を学んだのか……。打刀を振るい、この世界の脅威と見なされる魔物。こうして対峙してみれば、奴の凄まじさが良くわかる。一瞬たりとも気を抜けば、そこで終わる……)

 

 ツキハの間合いギリギリまで自分の間合いを近づけるヤスケ。

 

 二人共左手は鞘を握り、鯉口(こいくち)を切っていた。

 

 

 河原近くの平原に立つ二人は、気負いもなく、極自然にその場にいるかのようだった。

 不意に風が吹き、木々のざわめきが辺りを包んでいく。

 

 ツキハの髪が風に揺れ、小袖の(すそ)がパタパタと太腿(ふともも)を打つ。

 

 

 ヤスケは(はかま)に隠れた足を、古式歩法で動かしながらツキハに気付かれずに距離感を騙し。

 

 予兆もなしにツキハの懐に飛び込み、右足を軸にして抜刀し、真横に刃を振り抜いた。

 ヤスケのそれに対してツキハも、同じように抜刀し、真横に振り抜く。

 

 二人の刃の切っ先が交差する。

 

 ギャギィンッ! バッと飛び散る火花と耳を(つんざ)く音が鳴り響く。

 

 ヤスケは刃を振り抜いたまま、間合いを外すように右足を後ろに引き、左を足を前にした形で右手に握った刀を真横にして切っ先をツキハに向けたまま、腰をほんの少し落とし身体に(ため)を作る。

 

 ツキハはヤスケを追わず、左足を前にして刀を両手持ちのまま上段に構え、柄は中心から外さない。

 

 ヤスケはツキハが追い打ちを仕掛けた時に、即座に動けるよう身体に溜を作っていた。

 一方ツキハは、それを見越して逆にヤスケが来た時に迎撃する為に、上段の構えで待ち受けていたのだ。

 

 〝残心〟。

 

 お互いの凄まじい殺気が大気を震わせていった。

 

 

 そして、まるで申し合わせたように二人は刃を鞘に納め、鯉口は切ったままで右足を前にした自然体の構えを取った。

 

 〝残心〟は解かず。

 

 そこへ、ヤスケがツキハに唐突に問うて来た。

 

「番外魔王ツキハ。お主、刀の真髄(しんずい)とは、何と解釈をする?」

「振り抜く速さだ」

 

 躊躇なく答えるツキハ。

 

 そして、今度はツキハがヤスケに問う。

 

「ヤスケ。刀の真髄、速さとは、なんと解く?」

「刃を抜き、切っ先を飛ばす速さ」

 

 ヤスケは即答する。

 

 更にヤスケが問う。

 

「打刀における、真の恐ろしは、どこにある?」

「鞭のように振り抜かれた、刃の抜き付けによる〝切っ先三寸(九センチ)〟」

左様(さよう)。人体に切っ先が三寸入れば致命傷となる。まだ息があればトドメを刺すのみ」

「そう、神速の抜き付けによる抜刀で、切っ先を入れるだけでいい。人体を切断する意味はないし、切っ先が入るだけで十分よ。人間を殺すならね」

「左様。使うべき刃先は、切っ先三寸で十分」

 

 二人はそう言うと、口端に薄く、凶気ともいえる笑みを浮かべた。

 

「番外魔王ツキハ。拙者は、たかが魔物が見よう見まねで日本の古流剣術を使っていると思い込んでいた。しかし、それは違い申した。ここに謝罪をする。すまぬ」

「別にいいよ。でも、まっいっか。その謝罪を受けよう。許す」

「かたじけない、番外魔王ツキハ」

「で、ここからどうする?」

 

 ヤスケは目の前の亜人の少女にしか見えないツキハに、幕末の頃自分と戦って来た者達と同じ殺気を感じた。

 

 そう、人斬りの殺意を。

 

「改めて番外魔王ツキハに死合いを、所望する」

「ああ、いいぜぇ。ここからは、魔物と人間の斬り合いだ」

 

 ヤスケとツキハの殺意の波動が渦を巻き、互いにぶつかり合い、周辺にいる魔獣や魔虫は一目散にそのばから逃げていく。 

 

真元(しんげん)一刀流、免許皆伝。寺内八助(ヤスケ・テラウチ)、参る」

「天牙影千流、免許皆伝。十六夜月巴(ツキハ・イザヨイ)。参られい」

 

 ヤスケは一手だけ剣術のみでツキハと戦い、その実力を知った。

 付け焼刃ではない真の人を斬る事に特化した、古流剣術を体得していると。

 

十六夜(いざよい)、この日本名はいつから名乗ったのだろうか? 謎が多過ぎるな。それに、天牙影千流など、拙者のいた日本にはそのような流派はなかった。まあどうでもよかろう、そんなことは。何せ、ようやく心置きなく斬り殺せるのだからな、強き者を! ククククッ、クハハハハッ、ウワハハハハハ――ッ!)

 

 

 刺客(しかく)、ヤスケ・テラウチ。

 

 ようやく巡り会えた強者(つわもの)との斬り合いに、心の内で歓喜の声を上げる。

 

 幕末の頃に刺客となったのは、己が剣術の技を極める為。

 人斬りの技を、更なる高みに到らせる為。

 

 しかし……ヤスケは強すぎた。

 

 (ほとんど)どの者が一刀のもとに切り伏せられていったのだ。

 

 名のある剣士とも何人も斬り合った。

 だが、初手、または二手目で勝負はついてしまう。

 

 つまらぬ 何故拙者より強き者は おらぬのだ!

 

 

 ヤスケの心の中は空虚(くうきょ)なるものに、徐々に染め上げられていった。

 

 

 召喚前、最後に戦った新選組の隊士達と土方歳三。 

 土方歳三と剣を交えていてもすら、ヤスケの心は既に、死んでいた。

 

 

 こんなものか? もっと殺意を 凶気をぶつけて来い

 

 拙者を 楽しませろ  狂え (たぎ)らせろ(おの)が血を 人斬りの技を もっと もっと もっと

 

 狂おしいほどに 斬り結ぼうぞ! 

 

 どうした土方 もっと 殺意をぶつけて来い 拙者を 殺して見せよ! 

 

 

 だがしかし、新選組最強の一人と(うた)われた土方歳三でさえ……。

 

 ヤスケの空虚な心を埋める事は出来なかった。

 

 

 そんな思いの中、不意に半ば諦めたように、剣を下ろし 呟いた――

 

 つまらぬ…… もう良い 殺せ

 

 その言葉を呟いた同時にヤスケは眩い光に包まれ、土方歳三らの目の前で姿を消した。

 

 

 光が収まり視界が開けた時、ヤスケは見慣れぬ場所にいた。

 

 目の前にいる初老の男と、見慣れぬ剣を持った男達が数人。

 

 どこだ ここは……? 

 

 そう声に出した時、いきなり体の内側から締め付けられるような感覚に(おちい)り、胸を押さえるヤスケ。

 

 何だ 毒? 

 

 その時、世界の言葉がヤスケの頭の中に響く。

 

《精神攻撃耐性を獲得……成功しました》

 

 ここでヤスケは、日本とは違う、いや自分が存在した世界とは異なる世界へ来たと悟ったのである。

 

 ヤスケの目の前にいた初老の男は、グランベル翁だった。

 

 この獲得した精神攻撃耐性により、魂を完全に縛られるのを逃れたヤスケ。

 

 そして、その場にいたグランベルを護衛していた〝血影狂乱(ブラッドシャドウ)〟を全て切り伏せ、グランベルに挑むも――

 

 ヤスケは完膚なきまでに叩き伏せられた。

 

 

 自身の知識の及ばぬ技と、魔法と呼ばれる不可思議な術。

 

 ヤスケは――

 歓喜した、狂喜した、この時ヤスケの空虚なる心が、ほんの少しだけ満たされた。

 

 魂の制約が半分は機能していた為、ヤスケはグランベルに膝をついた。

 忠誠は誓わぬが、グランベルの為に尽くすと言ったヤスケ。

 

 そして、グランベルはヤスケの比類なき剣技を自分の野望の為に使おうとこの時決めた。

 グランベルはヤスケを、〝血影狂乱(ブラッドシャドウ)〟のメンバーの一人に加えたのだ。

 

 この世界の人間は強かった、そして人間とは異なる魔物と呼ばれる存在。 

 ヤスケにとってこの世界は、天国であった。

 

 この世界でも刺客として働き、数多の強者(つわもの)や魔物を斬って来た。

 

 やがて召喚された時に獲得していたユニークスキル『斬リ伏ス者(キリフスモノ)』が――

 

 究極能力(アルティメットスキル)斬伏之王(リッパーキング)』へと進化し、自身も聖人へと進化を果たす。

 

 この時、召喚されて八十年が過ぎた頃だった。

 

 この世界に来て時折噂に上がる、剣術を使い猛威を振るう魔物。

 

 番外魔王ツキハの事が気になっていたヤスケは、グランベルに番外魔王ツキハとの勝負を切望するが――

 

 今はまだその時ではないと、押しとどめられていた。

 魂を縛る術式の半分が効いている為、グランベルの(めい)を拒否しきれないヤスケは、グランベルの言葉を信じる事にした。

 

 ならばと、更なる技量(レベル)を上げる為、刺客として人を魔物を斬っていった。

 

 そうして、百五十年が過ぎようとした時、グランベルから番外魔王ツキハと戦う許しが出たのだ。

 

 

「クハハハハッ。良い、良いぞ! 番外魔王ツキハ。お主こそが、拙者の空虚なる心を埋める事が出来よう。魔物剣術使い、その技量(レベル)は、拙者と同等、いやそれ以上であるやも知れん。が、しかし、今この戦いを、殺し合いを、斬り合いを、存分に楽しむとしようぞ、番外魔王ツキハ!」

 

 そう言うとヤスケは鞘から刃を抜き、左手の平を軽く切り付けると、グッと拳を握り刀身に流れ出る血を滴らせる。 

 

 それを『魔隻眼』で見るツキハ。

 

(ん? 血? ほう、半精神生命体なのね。う~ん……あの血の正体が今一(いまいち)わからん。ほ? 究極能力(アルティメットスキル)かぁ、なら全容の解析は無理だわ。くくっ、久しぶりに面白くなりそう)

 

  究極能力(アルティメットスキル)持ちは、同じ 究極能力(アルティメットスキル)持ちに自分の能力(スキル)を悟らせないように出来る。

 

 ギィもそうであったように、リムルも隠蔽出来、ツキハとコハクも出来る。

 

 ならば、ヤスケも同様であると言えるのだ。

 

 

 粘り付く様に刀身に流れ落ちる血を、左手指の先で刀身をなぞりながら、切っ先まで血を塗り広げると、呟くように技名を言うヤスケ。

 

「我が血を刃と化せ、〝血装刃(けっそうじん)〟」

 

 その瞬間、刀身にある波打つような乱れ刃の刃文(はもん)が真っ赤に染まり、淡く光を発す。

 

 ヤスケは一度刃を鞘に納め、鯉口を切ったままツキハの間合いに一気に飛び込む。

 ブレた残像を残しヤスケは、常人の知覚速度を遥かに超えた速度で抜刀した。

 

 ツキハの眼前に十文字の形に剣閃が走る。

 

 甲高い金属音が二回響き渡り、その場に赤く光る十字型の剣閃を残す。

 

 それを受け流したツキハは瞬時に後方に飛ぶ

 

「貫け、〝十字滅閃〟」

 

 ヤスケが技名を言い放つと同時に、十字型の剣閃がツキハに向かって飛んだ。

 

「チッ、斬撃飛ばしか」

 

 上段に構えたツキハが飛んできた十字型の斬撃を、一刀両断にする。

 

 バッと真ん中から左右に断ち切られた十字滅閃は、その場で液状に飛び散ったが――

 地面には落ちず、無数の血玉が極小の針と化しツキハを襲う。

 

 空気を裂くような音を立ててツキハを覆っている『多重結界』を貫き、ツキハの左肩から左腹部をぐずぐずに崩し貫いた。

 

「なっ!? 『多重結界』を貫通した?」

 

 左肩から左腹部まで崩れ、派手に赤い魔素粒子を巻き散らしながら再生をかけるツキハ。

 

「飛べ、飛空牙(ひくうが)」 

 

 ツキハが片手で空を三回斬り、空間斬撃をヤスケに飛ばす。

 

 ガキュンッ! その空間斬撃は、ヤスケの周りを半球状に覆った薄赤い被膜に弾かれてしまう。

 

(結界? いや、あれは、血界なのか? 血を操る能力(スキル)かぁ。こりゃあ、楽しめそうだわ)

 

 完全再生した左手で鞘を握りながら左足を前にして右足は後ろに引き、右手に持つ時雨の切っ先をヤスケに向けるツキハ。

 

 そしてヤスケも同じ構えを取る。

 

 

(簡単には死なぬか。流石は番外魔王といったところか。悪魔族(デーモン)と似た性質を持ち、殺しても復活をしてくるといわれる魔物。ならば、魔核と心核を斬ればどうなるであろうな。死か? 再生か? どちらであろうか? クックックッ、楽しいなぁ、嬉しいなぁ、拙者の人生は今この時にあるのだろうなぁ)

 

「フッフッフッ、ハッハッハッ、アッハハハハハハ」 

 

 心の内で歓喜極まり、不意に笑い声を上げるヤスケ。

 

「そんなに嬉しいのか、あたしと殺し合うの?」 

「ああ、嬉しい。こんなにも楽しいと感じた事は、拙者の百五十年の人生の中で、初めてぞ!」

「そうかい。百五十年ねぇ、長きもあり、短くもありだな」

「左様。人の生などたかが知れておる。寿命という(かせ)から解き放たれた拙者には、もはや人の概念など、当てはまりはせぬ」

「まあ確かにねぇ。アンタもようやくこっち側に来たという訳だ」

「こっち側、か。言い得て妙だが、確かに一理あろうな。人外を持って魔物を倒す。魔物を倒す為に人が編み出し技は多い。しかし、そんな事は拙者にはどうでもいい事。()るか()られるか、それだけだ!」

「そう。行きつく先は、()るか()られるかしか、ないしね。わかってるじゃんヤスケ」

「フフ。この世界最強である〝竜種〟と同じ、天災級(カタストロフ)である番外魔王ツキハ。お主に出会えて拙者は、実に幸運であった」

「くくっ。それ、不運でもあったりしてな」

「フッ。お主こそな」

 

 ツキハとヤスケは、お互い殺気を含んだ冷えた笑いを交わすと、フッとそな場から搔き消えるように姿を消した。

 

 二人のいた場所には、ふわりと舞う砂塵(さじん)だけが舞い上がっていた。

 

 キンッ キキンッ ギャインッ 刃の弾き合う音だけが周辺に木霊(こだま)する。 

 

 ヤスケは『思考加速』で知覚速度を十万倍にまで加速させ、時を置き去りにしていく。

 

 二人はパシャパシャと河原の浅瀬を駆け抜け、水飛沫(しぶき)を上げる。

 

 

 そして、二人は動きを止め抜刀し、剣閃が斬り走る。

 

 水飛沫で上がった数多(あまた)の小さな水滴が、まるで止まっているかの様にそこに浮いていた。

 

 そこへ刃が走り、水滴を斬り裂きながらツキハの右胸を真横に()いでいった。

 

 ツキハは刃の切っ先を上に向け、刀身を立ててて峰に左手を当て、それを受ける。

 すかさずヤスケが斬り返して来て左胸を薙ぐが、ツキハは右から左に瞬時に切り替え、今度は柄を上にした形でそれを受けた。

 

 ヤスケが左右の斬撃を幾度か繰り返した時、スッとツキハがヤスケの右横薙ぎを左に体を入れ替えながら、上からヤスケの刃を押さえるように弾き。

 

 そのまま自身の刃を横に走らせ、左真横に振り抜いた。

 

 咄嗟にヤスケは後ろに飛びのくが、間に合わず右腕を浅く斬られ、鮮血がパァッと吹き散った。

 

「ククッ。刀身に闘気を(まと)わせたのか。いいぞ番外魔王、そうでなくてはな! 受けて見よ、奥義・血風刃(けっぷうじん)!」

 

 抜いた刀を鞘に納め、グッと身体に力を溜め、一気に弾かれたようにツキハの間合いへと飛び込んでいった。

 

「チッ、早い!」

 

 ツキハが迎撃しようと時雨を右横に振り抜いた時には既に――

 

 ヤスケはツキハを通り過ぎ、十メートル後方で、左膝を地面に付く様に落として、右足は前に出して、刀は斜め上に振り抜かれていた。

 

 そして、ツキハを中心にして幅四メートル、長さ百メートルに及ぶ長さで地面が抉れ、川岸の水と石を派手に巻き上げていた。

 

 ドンッ! 重く響く音が遅れてやって来て、斬撃の衝撃波がツキハを襲う。

 

 ザザアっと巻き上げられた川の水と石が豪雨のように降り注ぐ。

 

「グハッ。あたしと似た技を使いやがった!?」

 

 胸を左斜めに斬り裂かれ、口から鮮血に似た赤い魔素粒子を吐く。

 

 ガクッと片膝を付いたツキハ、何か体内に異変を感じていた。

 

「ん……何だこれ? 体内で何か、暴れている?」

「フフ。それは拙者の血だ。斬撃と同時に刀身に塗られた拙者の血が、お主の体内に侵入したのだ。さらばだ、番外魔王ツキハ。血装刃・殺ノ太刀 血針山(けっしんざん)

「え? アギャ!」

 

 ジキンッ、金属の塊が(こす)り合わせるような音が鳴り響く。

 

 ヤスケが技名を告げるとツキハの体の内側から無数の極細の血針が、外に向けて貫き生える。

 ウニのように体内から全身に血針を生やしたツキハは、幻魔核をも貫かれていた。

 

 血針が原型を崩し液体に戻ると、ツキハの身体をまるで血が噴き出たように流れ落ちていった。 

 

 そして、ツキハの身体がゆらりと揺れると、ドサッと前のめりに倒れ伏す。

 

 刃を鞘に納めヤスケは、ツキハにまだ命があるか確かめる為に、〝残心〟を解かず近づいて行った。

 

 

「生命活動は、完全に停止しているな。ん?」

 

 ヤスケが『解析鑑定』でツキハの生命活動停止を確認しようとしたら、ツキハの身体が装束(しょうぞく)と時雨を残し、霧のように霧散していった。

 

(ふむ。死んで魔素に還元された、か? 残るは、装束と、打刀だけだが……) 

 

 ヤスケは、風にパタパタと音立てる小袖を見ながら、地面に投げ出された時雨と鞘を見詰めていた。

 何故か本能的に時雨から離れて、三メートル程距離を空ける。

 

(あの打刀……異様な妖気(オーラ)を放っているな。魔剣の(たぐい)であろうか? 面妖な……)

 

 時雨を拾うべきか、そのままにするべきか迷うヤスケであったが、危機回避本能がそれを許さなかった。 

 

(あの魔剣、触れれば何が起きるかわからぬ。惜しいが、このままにしておくがよかろうな)

 

 ヤスケがそう判断した時、どこからかツキハの声が耳に飛び込んでくる

 

「チッ、中々に用心深いなアンタ。もう少し近づいたら、斬ってやろうと思ったのに。くっくっくっ」

「なに!? 生きていたのか番外魔王ツキハ!」

 

 ヤスケが声を上げた瞬間、装束がまるで人が立ってるように空中に浮かび上がり、真下から渦巻く魔素粒子が立ち昇っていく。

 

 それはやがて、人の形を取り猫耳と尻尾があるツキハの姿となり、地面に落ちていた時雨がツキハの右手の中に飛び戻って行った。

 

「拙者を(たばか)ったか、番外魔王ツキハ」

「いやいや、確かに死んでたよ。まあ、あの位の攻撃ならほんの暫く死んでる? みたいな感じかな」

「ふむ。悪魔族(デーモン)の復活と似てるというのは、本当だったのだな」

「まあ、似てると言えばそうだけど。色々と違うんだよ?」

「何故にそこで首を(かし)げるのだ? 馬鹿にしておるのか?」

「違う違う。癖だよ、気にすんな! それよりさ、その打刀、どこで手に入れたんだ?」

「これか? 拙者が魔鉱を使い、自分で打ち鍛えたもの」

「へえー。自分で打ったのかそれ?」

「左様。我が流派は、免許皆伝と共に、自分の刀を一振り打つのだ。だから、剣術とは別に刀を打つ(すべ)も伝授される」

「なるほどねぇ。それ、伝説級(レジェンド)じゃないか、いい刀だ」

「……」

 

 ツキハがヤスケの刀を褒めるも、ヤスケはフッと僅かに口端を上げただけだった。

 

「でさ、ヤスケ。さっきの待ち伏せを、卑怯と言うかい?」

「ふんっ。そのような事、殺し合いにおいては些末(さまつ)な事。拙者は剣士ありながら、刺客。相手を仕留める為なら、あらゆる(すべ)を尽くすのみ」

「ははっ、いいねぇ。ヤスケ、アンタはこの世界に恐ろしい程馴染(なじ)んでるよ。あたしもな、剣術を使うが、忍びだ――」

 

 そう言ったツキハは身体を右へゆらりと傾けると、懐に右手を入れヤスケに向かって腕を振り、同時に姿を消した。

 

 ギィーン 凄まじ唸りを上げ、〝飛び苦無(クナイ)〟が五本、ヤスケを襲う。

 

 ヤスケは正面に飛んで来た〝飛び苦無(クナイ)〟を素早い抜刀からの連続斬り返しで、五本全てを弾き返した。

 

 弾かれた〝飛び苦無(クナイ)〟は爆裂術式が組み込まれていて、地面に落ちた瞬間に爆発する。

 

 連続した爆発音が(とどろ)き爆炎が巻き起こり、直径五メートル程のクレーターを五つ地面に残す。

 

 濛々(もうもう)と立ち込める粉塵の中、ツキハがヤスケの前に瞬歩により一瞬で移動して来ていた。

 

「〝瞬動〟か!?」

 

 目の前に現れたツキハに向かって言った瞬間――

 

「いや、あたしの流派では、〝瞬歩〟と言う」

 

 そう言い横一閃。

 

 剣閃が(きら)めき、ヤスケの胴を薙ぎ払う。

 

 ガギュンッ ヤスケは帯から半分抜いた鞘でそれを受けて、後方に飛び一旦間合いを外すも。

 更に、不可視の斬撃が大地を抉りながら八本、ヤスケに襲いかかる。

 

「ぬおおお――ッ!」

 

 ヤスケはその地を走る不可視の斬撃を全て弾き、後方に()らした。

 

 そして、それを弾き返すと同時にヤスケもまた、ツキハに向かって不可視の斬撃を飛ばしていた。

 

 ツキハはその飛んで来た斬撃を難なく(かわ)し、後方にある川が八本の大きい水柱を立てる。

 またヤスケに弾かれた不可視の斬撃は、樹々を斬り裂きながら八方向に斬り走った。

 

 そこからは、激しい斬り合いの始まりだった。

 二人が剣を振るう(たび)に、その衝撃波が周囲の樹々を斬り裂き、川の岸辺の地面を抉り地形を変えてゆく。

 

 人ならざる者達の戦いは、苛烈を極めていった。

 

「全てを溶かす雨を喰らうがいい。血装刃・血雨(ちさめ)!」

 

 ツキハがヤスケの刃を受けた瞬間、ヤスケの刃を纏う血がツキハに向かって降り注ぐ。 

 

「うにゃ!? あぢっあぢ、なんじゃこれ、強酸性の血か――ッ!」

 

 血の飛沫(ひまつ)を被ったツキハの装束が溶け始め、幾つもの穴を作り、肌を溶かしていく。

 

 ツキハは魔闘気を丹田に溜め、一気にそれを解放した。 

 

「ハッ!」

 

 掛け声とともに、身体に付着していた強酸性の血を全て吹き飛ばす。

 

 ツキハは、露出した皮膚が溶け(ただ)れているところを超速再生して、ふと、自分の小袖に目をやる。

 

 あちこち穴が開いていて、胸元などは大きな穴が開いた為に中に着ている黒のランニングタイプのスポーツブラが丸見えになっていて、とこどころに空いた穴からは健康的な肌が(のそ)いていた。

 

 このランニングタイプのスポーツブラは、最近シュナが新しく作ったインナーで、今ではサラシの替わりに身に着けていて、ツキハお気に入りの一品であり、コハクも愛用している。

 

 また、眷属達の女性陣にも愛用者が増えていた。

 

(あらぁ、中々にエロい格好になってるじゃん。コハクがいなくて良かったわぁ。絶対に〝瞬間抱きつきハグハググリグリ攻撃〟してくるよね、これ……)

 

 そんな事を考えていると、いきなりツキハの左腕に当たる空間が斜めにズレた。

 

 チンッ、軽やかな金属音が鳴り――

 

「あら? 『空間操作』系の斬撃?」

 

 どこか気の抜けた声で言うと、左腕が肘から断たれて、ぼとりと地面に落ちた。

 

「血装刃・空ノ太刀 次元血刀断(じげんけっとうだん)

 

 ヤスケが技名を告げると共に、一太刀何もない空を斬り、納刀した瞬間だった。

 更なる空間斬撃をヤスケが放とうとした時――

 

 ツキハが瞬時に断ち落された左腕を再生し、技名を告げる。

 

「鳴れ、魔刃鍔鳴(まじんつばなり)空閃斬(くうせんざん)

 

 チンッ。

 

 不可視の空間斬撃がツキハを中心に円形状に放たれる。

 

「ぬ!? これは――」

 

 ヤスケは即座にそれに反応して、自分の正面に空間斬撃を放つが。

 

 ツキハの放った空間斬撃は、ヤスケのそれを遥かに凌駕(りょうが)していた。

 

 ヤスケの空間斬撃を砕き、ツキハの空間斬撃はヤスケの『多重血界』を斬り裂き、胸を真一文字に斬り抜けていった。

 

 ザアーッという風鳴(かざなり)の音が響き渡り、ツキハの周囲三百六十度の障害物である樹々や岩石などが斬り裂かれていった。

 

「カハッ……。拙者の次元血刀断より、空間制御の精度が上なの、か?」 

 

 真一文字に斬られた胸からは鮮血が吹き出し、口からも吐血するヤスケ。

 

 地面に片膝を付きながらも懐から回復薬を取り出し、栓を飛ばすと、一気にそれを飲み干す。

 空になった回復薬の小瓶を投げ捨て、立ち上がると――

 

『あたしもさ、アンタと似たような飛び込み抜刀術の技があるんだ。見せてやるよ』

 

 いつの間にかヤスケから前方百メートルに移動していたツキハが、『思念伝達』でヤスケに告げて来た。

 

「な、なんだと……」

 

 ツキハの言葉には、どこか楽し気でいて、底知れぬ殺気が込められているような感覚をヤスケに抱かせた。

 

 そして――

 

 〝天牙影千流・抜刀術 刃魔(じんま)紅蓮閃(ぐれんせん)〟が、放たれた。

 

 ヤスケの『万能感知』には、不可視の巨大なトンネルに、まるで炎の嵐が渦巻き、空間斬撃と化して襲い来るように見えていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 刀身を真横にして眼前に構え、ヤスケは刃の峰に左手を当て、右足を前にして左足を後ろに引き踏ん張りながら、『多重血界』を全開にしてツキハの技に備える。

 

「うぉおおおおおお――ッ!!」

 

 幅五十メートル、長さ数百メートルに及ぶすり鉢状の巨大な線が一瞬にして大地を削り作られた。

 

 そして、轟音と共に凶悪な空間斬撃の嵐が、ヤスケを吞み込み通り過ぎていった。

 大森林の樹々が巻き上げられ粉砕され、数百メートルもの傷跡を大地に残す。

 

 ツキハの技を耐え切ったヤスケの全身には、鎌鼬(かまいたち)にでもやられたような無数の斬り傷が刻まれ、そこから流れ出る血が全身を染め上げていく。

 

 更に空間斬撃の衝撃波は、ヤスケの精神体(スピリチュアル・ボディー)にまでダメージを与えていた。 

 

 ツキハはヤスケの後方数メートルのところで、左膝を地面に付け、右足は前に出し、右手に持った時雨を右斜めに振り抜いていた。

 

 ヤスケの技の終わりと全く同じだったが、その威力はヤスケの想像を遥かに超えていたのだ。

 

 震える手で最後の回復薬を取り出したヤスケは、何とか口に液体を放り込もうとするが、血で濡れた手から回復薬の小瓶はするりと抜け落ち、地面に落ちた衝撃でカシャ―ンと音を立て割れてしまう。

 

「フ、フッフッフッ。拙者の血風刃など、比べ物にならない程の威力。同じ究極能力(アルティメットスキル)でも、これ程の差がある、とはな。所詮(しょせん)、元人間と魔物の違い……か」

 

 そう言うとヤスケは、背中からゆっくりと倒れ伏す。 

 右手に持っていた打刀が、ガシャリと地面で跳ね音立てる。

 

 

 そして、刃を鞘に納めたツキハが、ヤスケの近くに歩き寄って来て言う。

 

「人とか魔物とか関係ないよ。技量(レベル)を磨いた月日の差だろうね。あたしは、五千年掛けて自分の技を磨き続けて来た。アンタは百五十年だ。でもな――」

「それ、は、埋められぬ、差、だな。ゴホッゴホッ」

「……トドメが、欲しいか?」

 

 ツキハはヤスケの横に立ち、時雨(しぐれ)を抜くと、胸の真ん中辺りに切っ先を突き立てる。

 

 口から血を流しながら、どうにか口を動かすヤスケ。

 

「や、()れ……。拙者の、空虚な、る、心はもう、み、満たされ、た。未練、は、ない」

「未練はない、か。それさ、百五十年しか生きてないのに、それ言う?」

 

 一瞬どこか寂しげな眼でヤスケを見下ろし、刃を鞘に納め、下緒(さげお)をパシッと叩き、空間収納に時雨を仕舞う。

 

 ツキハは〝残心〟も解いて、完全に戦闘態勢を解除し、両膝を(そろ)えてヤスケの顔の横にしゃがみ込む。

 

 それから、ヤスケの顔を覗き込み、右手でパシリとヤスケの額を(はた)き、(たもと)から回復薬を取り出しヤスケに振りかけた。

 

 無数に付いた斬り傷が瞬く間に(ふさ)がり、回復していく。

 

 ヤスケは何をされたのか一瞬わからなくなり、目だけをグリグリと動かしツキハを見る。

 

「なあ。せっかく、半精神生命体まで進化したんだし、そこはもう少し生き足掻(あが)こうよ。アンタさあ、人間の頃に多分だけど、自分より強いヤツがいなかったんだろう?」

 

 ツキハの言葉に、倒れたままゆっくりと(うなづ)くヤスケ。

 

「アンタの元いた世界など興味はないけど、この世界は嫌いか?」

「いや、寧ろ、この世界は拙者の望んだ世界でもある」

「なら、もう少し技量を磨いてさ、またあたしに挑んできなよ。アンタの血装刃という能力(スキル)、あれもっと鍛えれば、かなりえげつない能力(スキル)になると思うな。まあ、本当に未練がないなら、今ここで殺してあげるけど、どうする?」

「……何故、拙者を助けるのだ?」

「いんや、助けてはいないと思うよ? ただ、あたしがアンタを面白いと思ったから、もう少し生きてみないかと尋ねただけ、かな」

「何故、面白いと思ったのだ?」

「最初さ、あたしを出し抜いてヒナタを刺したから。あそこまで気配を隠し偽れる者など、この世界には中々いないんだぞ? だから、面白いヤツと思ったんだ」

「フッ……魔物の感性は、よくわからぬな」

「だろ? よく言われる。くくっ」

「フフッ、ハハハッ」

 

 ヤスケはツキハの笑いに釣られるように笑いだし、二人揃って暫く笑い合う。

 

(こんなにも笑う事が出来たのは、いつ以来なのだろうな……)

 

 幕末の頃にいた仲間達とは、こんなに笑った事があっただろうかなど考えていると。

 

 ツキハが笑いを止めて、もう一度ヤスケに問うてくる。 

 

 

「どうするヤスケ。本当に未練はない?」

「拙者の目的は、番外魔王ツキハと戦う事。その望みは叶い申した、が……。この永き時を生きられる身体で、拙者の剣の技を磨きたい。刺客でも何でもいい、拙者は生か死の境界線に身を置きたい。そして、もう一度、お主と死合いたい」

「うん。自分で決めたなら、そう生きるといい。でさ、またあたしを殺しに来な。それじゃあ、ほんの少しだけ、死んでみようか」

「え?」 

 

 ツキハはニカッと笑い言うと、右手刀をヤスケの胸の真ん中に突き刺す。

 そこからツキハはグリグリと胸の内側を探るように、刺し込んだ右手を動かしていく。

 

 ヤスケは声も出せずに、その様を見ているだけだった。

 

(う~ん……ここらあたりか? お! 魂みーつけた。おうおう、ガッチリ魂を縛られてるじゃんって……うや? へえー、半分だけか、縛られてるのは。よし、『猫騙し』の効力をヤスケの魂に掛けてっと……。で、この魂を縛る術式を解体すると同時に、偽の魂消滅の信号を術者に送るっ、と)

 

 ツキハが言霊(ことだま)を呟くように(つむ)ぐ。

 

「騙せ、疑信の(ことわり)。〝幻遁・鬼灯(ほおずき)〟」

 

 ほおずき 

 

 ぽわっと言霊がヤスケの胸の上に現れ、スーッと霧散していったその瞬間――

 

 ツキハがヤスケの魂に掛けられた術式を握り潰すように解体する。

 

「う、うぐっ……」

 

 ヤスケはほんの一瞬だけ、体の内側、精神体(スピリチュアル・ボディー)のもっとも奥深いところで、何かを握り潰された感覚に声を上げ、数秒程、疑似的に死んだ……。

 

「はい、終わり~」

 

 ツキハの声を合図にヤスケの意識が戻った。

 

「……何を、したのだ?」

「アンタの魂を縛っていた術式を解体して、その術式を掛けたヤツに、あんたが魂ごと消滅して死んだと認識させただけだよ」

「そ、そんな事が可能なのか?」

「うん。だからアンタは、もう本当の意味で自由だよ」

「自由、か……」

「あ、それとな、あっちこっちで戦って暴れるのはいいけど、もし国家の権力者とかと()めて追われる事になったら、これを魔国連邦(テンペスト)のルヴナン支店に来て、これを見せな」

 

 一枚の真っ白な呪符に猫が横を向いてる顔が描かれているものを、ヤスケの胸の上に置く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そうしたら、ルヴナンがアンタを安全な地域まで案内するから。そのルヴナンの〝真の紋章〟は、信頼出来る者しか知らないからね」

「あの人を喰ったような紋章は、偽物なのか?」

「まあ、偽物と言ったらそうなんだけどぉ。たまーにいるんだわ、ルヴナンの名を(かた)るバカがさ。そんなバカを見分ける紋章かな、あっかんべーしてる猫の紋章は。うくくくっ」

「囮か……。良いのか、そんな秘密にされている物を拙者に渡しても?」

「それな、もうあんたの魂の波長を登録してあるから。関係ない者に渡そうとしたり、その秘密を売ろうとしたら、即座にその呪符は消滅して、その呪符を見た記憶だけを喰らう。そして、その時点で――ルヴナンから追われる事になる。生きている限りね」

「……噂に聞く、ルヴナンの裏部隊か?」

「そう。コハク直属の暗殺部隊がアンタを追い詰め、魂すら残さずに、滅殺する」

「な……」

 

 ヤスケは淡々と言うツキハの言葉に、番外魔王の底知れぬ怖さを見た。

 乾いた喉にごくりと唾を吞み込み、喉を鳴らす。

 

「あ、それと。〝血影狂乱(ブラッドシャドウ)〟に生きてるのがバレて追われたら、自分で処理してね。そこまでは面倒は見ないよ?」

「フッ……拙者の素性はお見通しであったか」

「まあねぇ。とりあえずさ、ブルムンド王国にある酒場通りに行きな。そこに、爪痕(つめあと)亭って小さな店があるから、そこに行ってその呪符を見せるといい。当面の潜伏先を手配してくれるから、暫くは大人しくしてな。刺客をやるならやっていいけど、あたしらに関係する者の暗殺は受けるんじゃねぇぞぉ? じゃないと、そこでアンタの命は終わるからな。なるべく長生きして腕を上げたら、また挑んでおいで。 この世界はさ、アンタの空虚な心を満たすほどに、面白さに溢れている。もっと、世界を旅して回るといい。そうそう、言っておくけど、アンタを見逃したからって、あたしは善じゃないぞ。過去に、小国を二つも滅ぼした番外魔王だ」

「知っている」

「そう。じゃあいくわ、ヤスケ。またな」

 

 そこまで言いツキハは腰を上げると、ヤスケに背を向けコハク達のいる所に戻って行った。

 

 ツキハが去った後もヤスケは、倒れたまま空に流れる雲を眺めていた。

 

(面白いから、もう少し生きてみないか? だと……。フフッ、何という傲慢で理不尽なもの言いなんだ……魔王ならずの魔王。そうか、魔王に準ずる魔物は強さの頂点に君臨する者達。そして、更にその上にいるのが、この世界に現存する三体の〝竜種〟。ククククッ、拙者など小物中の小物にしか値せぬな……。善ではないか、そんな事は百も承知だ。お主みたいな者が善であったら、この世の神は全て悪だ。クックックッ。魔王、か……それを目指してみるのも、良いかも知れぬな)

 

 一頻(ひとしき)り考えて笑いを漏らすと、やおら体をお越し立ち上がる。

 

 ヤスケはツキハが去った方向を一瞬見て(きびす)を返すと、ブルムンド王国へと足を向ける。

 

 ブルムンド王国へと入ったヤスケの足取りは、そこで痕跡の欠片も残さず消えた。

 

 

 そして、月日が経つと、一人の刺客の字名(あざな)が闇社会に噂される事になる。

 

 

 アインツェルゲンガー(一匹狼)という、刺客の名が……。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ヤスケ・テラウチ

 

 

種族:元人間・聖人(半精神生命体)

 

 

加護:人斬りの矜持(きょうじ)(渡した呪符により、疑似的にツキハの加護を受けている)

 

 

称号: アインツェルゲンガー(一匹狼)

 

 

 

固有スキル:万能感知 思念伝達 思考加速 解析鑑定  

 

技術:気闘法

 

 

アルティメットスキル:斬伏之王(リッパーキング)

 

 血装刃(けっそうじん)(自身の血を刃に纏い、血刀(けっとう)と化す。その血の刃は、生体魔鋼(アダマンタイト)で出来た装甲さえ紙のように断ち切り、空間を断裂し、強酸性の血となり相手を溶かす)

 

 空間操作 森羅万象 多重血界   

 先読ミ(予測演算及び危機回避能力上昇)  

 

 

 

耐性: 物理攻撃無効 状態異常耐性 精神攻撃耐性 自然影響耐性         

 

    聖魔攻撃耐性 痛覚無効

 

 

 

 





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