忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
お待たせしました。109話です
時を同じくして、ディアブロとイチコは――
リムルから〝許す、速やかに駆逐しろ〟と言葉を受けて、ディアブロは歓喜に打ち震え、邪悪に嗤っていた。
これで、全ての実力行使が可能になった、と。
既に〝七曜〟の放った火球は、イチコの張った『結界』に阻まれて、報道陣達に犠牲者は一人おらず、その『結界』に身を寄せていた悪魔討伐者の面々やエドワルド王とその護衛騎士達も、誰一人怪我一つも負ってはいなかった。
魔素を介在する<元素魔法>や<精霊魔法>では、イチコの張った『結界』は破れない。
更にイチコは『魔力操作』で火球の根源となる魔力を操作し、放たれた火球の威力を半減させていたのだ。
「さて、皆さん。ご無事でしょうか?」
にこやかに報道陣に問いかけるディアブロ。
それを見た〝七曜〟達が声を荒げる。
『チィ、忌々しい悪魔と魔物め。これほどと、な』
『恐ろしいヤツらめ。ならばこちらも、聖なる力を見せ付けるとしよう――』
『うむ、やるぞ、準備せよ!』
全員を簡単に始末出来ると考えていた〝七曜〟達にこれは、想定外であった。
しかし、どんな強力な
魔体を維持できなくなった瞬間、精神世界に戻されるからだ。
そしてイチコに関しては、自己生成憑依体を完膚なきまでに滅ぼせば、暫くの間は復活出来なくなる。
それを前提として〝七曜〟達は、出現と同時に究極を発動させた。
極大火球――核撃魔法:
一人では制御すら出来ない、三人がかりで行使する元素系究極魔法である。
あらゆるものを焼き尽くす地獄の業火の、はずだった。
それなのに、ディアブロとイチコの前では無力だったのだ。
ならばと、そんな危険なディアブロとイチコを滅ぼすには、聖なる力を利用するしかない。
そう考えた〝七曜〟達は、奥の手である――
これはリムル達の所にいた七曜達が使用した術式と同じであり、彼等の奥義であった。
発動までは時間がかかるもの、術中は『結界』に守られるので、他者の妨害を防ぐ。
その上、この術式が放つ
どんな巨大な魔物や魔人、たとえ魔王であろうとも、これには耐えられない。
この絶対的な自信を以て、〝七曜〟達は術式を起動させる。
それを確認したディアブロは交渉を開始する。
〝七曜〟達の事など眼中になく、視線は報道陣に向けたままで。
「さて、今の攻撃を見たでしょう? 彼等があなた方を殺すつもりだったのは明白。そうは、思いませんか?」
殺気を消した声で優しく問いかけるディアブロ。
今まで戦っていたサーレでさえ、ディアブロの言葉を否定出来なかった。
当然、報道陣からも否定の声は出ていない。
皆が頷き、既に自分達の身に何が起こったのか理解していた。
人類の守護者である偉大なる英雄、〝七曜の老師〟達を知らぬ記者達はいない。
ディアブロの言葉は真実であり、 七曜達が思い描く陰謀の為に自分達は生贄にされたのだと悟っていたのだ。
「クフッ。ですが、安心するがいい。私とイチコがお前達を守ってやろう」
記者達の目にはディアブロの優しく微笑む姿が、慈愛に満ちた神の如く見えていた。
そして、その言葉を皆が信じる。
「お、俺達は何をすれば?」
「金? 金ですか?」
「何を差し出せば、良いのでしょうか?」
そう、悪魔はタダでは動かない。
必ず、要求に対する対価が必要になるのだ。
それはディアブロも同じであり、リムル以外の者に対しては、理由なしには動かないのである。
「クフフフ、理解が早くて助かります。私が求めるものはただ一つ――私の無実を証明する事です」
笑顔のままにディアブロは、そう要求した。
記者達はそれを聞き安堵し、また納得もした。
極悪な悪魔と聞かされていたが、真実は異なるのだと。
神聖法皇国の大幹部であるサーレまでも巻き添えになっているのだから。
ならば、自分達も利用されただけであり、ディアブロの要求を拒否する理由などないのだ。
「ああ、ああ、勿論だとも!」
「そうさ、何でも記事にするさ! アンタ等の華々しい活躍をな!」
「おうとも。だから、頼むよ。俺達を助けてくれ!」
「そうだ、そうだとも。アンタは
百名近い報道陣が、ディアブロへの支持を約束する。
その時、イチコが右
袂に隠された口元は、妖しく
ディアブロを支持する、
ユニークスキル『
裏切りは許されない、絶対に。
ここに、契約は完了したのだ。
「クフフ、いいでしょう。皆様をお助けすると、この私が約束します」
ここでディアブロが一旦言葉を、止めた。
そして一瞬だけ
「ただし、お前だけは駄目だ」
ディアブロが指差し告げたのは、気絶から目覚めたエドワルド王であった。
「な、何故だ!? 余が何をしたと――」
「黙れ! 貴様は偉大なるリムル様を
「な、なに、を――」
「聞け! 貴様など、助ける価値もないと知れ」
ディアブロは冷酷な目をエドワルドに向けたまま、吐き捨てるように告げる。
(何故だ? 何故だ何故だ何故だ何故だ――ッ!! 余は、余は、何を間違ったのだ……? わからぬ、何故このような事に……)
エドワルドは回らぬ頭で必死に考えた。
だがしかし、悲しい事に何一つ良い考えは浮かばなかった。
ただ、その回らぬ頭でも確かな事が、一つだけわかっていた。
このままでは自分が確実に死ぬという事、だけを。
エドワルドは騎士達に
それもそのはず、あの悪魔や魔物に逆らったところで勝てる道理など、どこにもないのだから。
切羽詰まったエドワルドは、恥も外聞も投げ捨てて――
「お願いします、どうかお願いします。何卒、何卒余も、いや、私も、お救い下さい。どうか、どうかこの私の今ままでの非礼を、お許し下さい」
涙ながらに訴えるエドワルド。
しかし、そんなものではディアブロの心には全く届かない、
「クフフッ、そこで自らの愚かさを
誰もエドワルドを助けようとする者はいない、冷ややかにエドワルドを見てるだけ。
そんな事をして、とばっちりが自分達に向かうのが問題なのだ。
そもそも、この原因を作り出したのはエドワルド本人であり、仲裁をする理由もないのだから、当然なのである。
誰も助けてはくれない、味方は誰一人いない、それを理解したエドワルドは泣き崩れ……。
懇願する。
「やる、全てやる。金も、地位も、王の地位も譲ります。わ、私は退位し、一切合切を放棄して、全てをお譲り致しますから――」
その言葉を聞いて、ディアブロは暫し熟考する。
…………
……
「ふむ。そう言えば、英雄ヨウムがエドマリス殿の後見人になっていましたね。私はね、彼こそがこのファルムスの地を導くに
ディアブロは少しだけ口調を柔らかくして、エドワルドに問いかける。
エドワルドはディアブロの言葉の意味を、悟った。
今までの人生の中で、最大限に頭の回転を速くして、それを理解したのだ。
「ええ、ええ、私もそう考えます! 彼には見所がある。是非とも私の後継者として、公に発表したく思います」
エドワルドの出した答えは、ディアブロを実に満足させるものだった。
そのエドワルドの言葉を察した記者達は――
「はは、はははは。英雄王の誕生ですかな?」
「これは大々的に宣伝をしないとですな!」
「いやあめでたい。これは大きな出来事にる。早く帰って記事を書かねば!」
空気を読んだ記者達は、ディアブロの意図を正しく理解し、口々にそう述べていく。
それを見ながらディアブロは嬉しそうに頷き、イチコも笑みを深めていった。
こうして、ディアブロのお膳立ては完璧なものとなった。
途中計画が頓挫しかけたが、結果は良好である。
ディアブロの策謀は、ここに完成したのだ。
残すは、ゴミの始末をするだけ――
ディアブロの脅威が牙を
『ふん、覚悟は良いか?』
『もう間もなくだ。邪悪を滅ぼす光をくれてやる』
『それまでの命を、せいぜい楽しんでおくがよい――』
絶対的な自信。
〝七曜〟達は余裕のある顔で、術の成り行きを見守っていた。
だがそこに、予期もせぬ絶望が訪れる。
「覚悟? 笑わせるなよ、ゴミ共が。私の計画の邪魔をして、リムル様の前で私に恥をかかせた事――その罪は、余りにも重い。私が味わった恐怖と絶望を、お前達に何倍にもして返してやろう」
〝七曜〟達を見るディアブロの目は、少しも笑ってはいなかった。
その
『な、何だと?』
『き、貴様は何を言っておる?』
『気でも触れたのか? この術の前には何者も――』
騒ぐ〝七曜〟達の声を
周囲の空間にエコーがかかったように、鳴らした音が響き渡る。
そして、世界は恐怖に包まれた。
「緩やかに滅びゆく世界の中で、何も出来ぬ己を嘆き絶望を知れ! 発動――〝
ディアブロのユニークスキル『
本来は対象者の意識に直接作用して、相手の精神に影響を与える効果であった。
だがしかし、ディアブロはそれを更に発展させる事に成功していた。
仮想世界を具現化させて、その世界の中で絶対権力を発動させるに至っていたのだ。
その世界では、対象者の生死すら意のままに出来る。
更に、その世界で起きた出来事は『虚実変転』により、仮想と現実を入れ替える事が可能となる。
ディアブロによって与えられた幻覚が、物質世界での現実となる――
そんな理不尽なまでに凶悪な技。
この能力を破るには、単純に
しかしだ、精神生命体であるディアブロに勝る者などほとんど存在しない。
身近で言えば、番外魔王ツキハとコハクぐらい
それで、〝七曜〟達が打ち破れるか? というなら、否である。
そう、〝真なる魔王〟でもなければそれは、到底不可能な話なのだ
『な、なんじゃこれは!?』
『信じられん、魔法が、魔法が消えた――ッ!?』
『あり得ぬ。そんな馬鹿な……』
驚愕し、何が起きてるかもわからず騒ぐが、何が出来る訳でもない。
訪れるのは、ただ絶望の時間のみ。
やがて、仮想の世界は、崩壊する。
「その愚かさを、深淵の底で悔いるがいい――」
ディアブロがそう告げると、それは、発動した。
〝
『誘惑世界』の崩壊は、内に取り込んだ者をも巻き込んで、絶望は容赦なく進行する。
『暗い、光が、消えてい、く……音が、消え、る……』
『落ちる、落ちる、どこまでも、たす、助け……』
『感覚が、消える……何も、感じぬ、これ、は、何、なの、だ……』
そこには 何も残らない 己の意志も 尊厳も
…………………………
希望も 何もない 虚無の世界
……………………
ただ 静かに 哀れな老人達は
………………
死と 絶望の 穴底へと
…………
滑り落ちて ゆく
どこまでも
……
そして、この場で行われた約束は、無事に履行されるのであった。
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