忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。110話です








110話 聖と魔〝決着〟 魔王ルミナス・バレンタイン

 

 

 

 魔王ルミナス・バレンタイン。

 

 ルミナスの登場に続いて、もう一人扉から出て来た者がいた。

 

(魔王バレンタインの影武者をやっていた、男?)

 

 リムルは、魔王達の宴(ワルプルギス)で見た影武者とそっくりな男を見て、そう思った。

 

 〝七曜〟の三人達の顔は青褪(あおざ)めて、ルミナスの前に(ひざまず)いていた。

 そこには先程までの威厳(いげん)もなく、戦う意志など消え失せて、後は審判を待つ子羊のように震え怯えていた。

 

 

(さてと、魔王バレンタインはどう出る?)

 

 リムルがそんな事を考えていると、ルミナスの後に出て来た男が口を開き。

 

「控えよ。余は、法皇ルイである。そして、こちらにおわす御方こそ、我等が神――ルミナス様で()らせられるぞ!」

 

 力強く良く通る声で、そう宣言した。

 

 それを聞いた聖騎士達が一斉に(ひざまず)いていく。

 

 そしてリムル達は戸惑いつつも、成り行きを見守る事にした。

 ただ一人コハクだけはヒナタの胸に手を当てたまま、どこかフフッという感じで、薄っすらと笑みを浮かべていた。

 

(しかし……魔王が神って、何の冗談だよ。で、その影武者役? が法皇? はあ!? あぁー、これ、プロパガンダが酷すぎて、俺ですらドン引きだわ。でもまあ、考えてみれば、それは非常に効率的なんだろうけど――)

《是。〝人〟という種族を支配するのに、効率的な環境を用意出来るでしょう》

『あ、うん。真似をしようという提案じゃないからね? そこは間違えないように、いいね?』

『了』

 

 智慧之王(ラファエル)が暴走しないように、はっきりと釘を刺すリムル。

 

 リムルがそんな事をしていると、ルミナスがヒナタの傍まで来て、しゃがみ込む。

 

 キッと一瞬だけコハクを睨むと、『思考加速』をかけた『思念伝達』でコハクに話しかける。

 

『コハク、貴様――』

『とりあえずの応急処置や。うちが手を離した瞬間に、死ぬで』

『だが貴様、何故これを――』

『野暮なこと言わんとき。あんさんが来るまでの時間を稼いでやったんや。貸し一つやで』

『……わかっておる』

 

 どこか納得のいかない返事を返し、ルミナスは『思念伝達』を切る。

 

 そして、コハクがヒナタに掛けていた応急処置の術を解いた瞬間、ヒナタの胸の傷口から勢い良く鮮血が吹き出し、ヒナタの命がそこで――

 

 消えた。

 

 それを見た聖騎士達が動揺するが、誰も口を開く事が出来なかった。

 

 誰もがヒナタの命が尽きたと思った。

 だがしかし、今ここに神ルミナス本人がいる――

 

 聖騎士達は静かに黙ったまま、神の奇跡を、待つ。

 

 

 いつの間にかヒナタの傍に来て、溢れる血で真っ赤に濡れる胸の傷を見ているリムル。

 コハクがヒナタの胸から手を離すと、今度はルミナスがヒナタの傷に手を(かざ)す。

 

「ヒナタ。自重せよと申し付けたであろうに、勝手な真似をしおって……」

 

 そう言いながらルミナスが、告げる。 

 

損傷せし傷と部位を再生し、蘇生せよ(リザレクション)!」

 

 ヒナタの内部で肺動脈が修復されて失われた血液が補充されると、止まっていた心臓が再び鼓動を打ち始める。

 

 胸の傷も瞬く間に(ふさ)がり、真っ白だったヒナタの顔に血の気が戻っていった。

 

 すると、胸を真っ赤に染めていた血液が、小さく渦巻く水流に洗い流され綺麗になっていく。

 サービスとばかりにコハクが〝水遁(すいとん)〟で胸を染めていた血を洗い流し、〝風遁(ふうとん)〟で濡れた服まで乾かしていたのだ。

 

 この時コハクの口端が一瞬上がって笑みを漏らしたのを、誰も気付きはしなかった。

 

(俺の回復薬より凄くね? だがなぁ……何で魔王が神の奇跡を使ってるんだよ!? 後、何気にコハクも使ってたよな!?)

《解。神の奇跡とは、〝霊子〟を効率的に運用する魔法を指すようです。通常の手段では〝霊子〟に干渉出来ませんが、それを行う手段は判明しました。後は解析して――》

 

(うんうん、何だか良くわからないけど、智慧之王(ラファエル)先生がやる気になったようで安心安心。ここは、先生に任せるという事で、放置しよう)

 

 そう放置決定したリムルは、ヒナタの意識が戻りつつある気配を察し、ヒナタの顔を覗き込むと同時に、ある一点に目が行ってしまう。

 

 

「う、うーん……。せ、先生――?」

 

(ん? 俺をシズさんと勘違いしたのか?)

 

「なに寝ぼけてるんだよ。誰が先生? だ――」

 

 ヒナタの言葉が面白かったのか、少しからかうリムル。

 普段の険しさもなく、どこかあどけない感じのヒナタである。

 

(確か、コイツって女子高生の時にこっちに来て、もう十年くらい経ってるんだっけか? という事はだ、年齢は――)

 

 と、リムルがそこまで考えた時、ヒナタの目付きが鋭くなった。

 冷たい眼光が、リムルを見る。

 

「――おい」

「え、はい」

「君は今、とても失礼な事を考えていなかったか?」

「いいえ、滅相もない」

「そう。まあ、それはいい。それで、いつまで私を覗き込んでいるつもりだ?」

 

(覗き込むとか、人聞きの悪い。でもなぁ、何か言い訳出来る雰囲気でもないし。ここは、素直に謝罪しよう。じゃないと俺が超ヤバイと、いう事で)

 

「失礼しました! 大変眼福でした!」

 

 リムルはそう言って、ヒナタから飛び退()いた。

 

 その言葉にヒナタは、自分の胸元を見る。

 胸元が大きく引き裂かれていて、白い胸と谷間がくっきり見えていた。

 

「――ほう?」

 

(コハクさんグッジョブ! って、そうじゃねえ! ヤバイ……ヒナタの殺気が尋常じゃないわ。コハクさん? 何ニヤニヤした目で俺を見る? アナタ、ワザと穴を大きくしましたよね? よね? 確信犯かお前――ッ!!)

 

 リムル、盛大に地雷を踏み抜く。

 

 

「君さ、デリカシーがないって、人から言われなかった?」

 

 睨むようにリムルを見て、ヒナタは言う。

 

「お、お前こそ、そんな鋭い目付きで睨みやがってだな。頑固な性格で、人の話をまったく聞かねえじゃねーか!」

 

 思わず言い返すリムルだが、これが火に油を注ぐ形になってしまう。

 

 ヒナタの美貌が怒りに染め上げられ、「チッ」と舌打ちしたのがリムルの耳に入る。

 

(あ……俺、終わったかも?) 

 

 だがヒナタは怒りを吞み込むように抑えると、一度深呼吸をする。

 

 そして、リムルにこれでもかというくらいの笑顔を、向けた。

 

(それ、めっちゃ怖いんですけど……)

 

「――あのねえ、私は近眼なだけなんですけど。君ってやっぱり、デリカシーがないでしょう? そんなんじゃあ、女の子からモテなかったんじゃないかな?」

 

(ハウァッ!……)

 

 ヒナタの言葉(コウゲキ)がリムルの心を刺し貫く。

 

(クソッ、うっさいわ! 忘れていた過去を思い出させやがってよ!)

 

 かなりのダメージを喰らった模様のリムル。 

 

「そ、そんな事ないし? き、気配り出来て頼れる人って、感じだったし?」

 

 ついツキハみたいに、自分の事なのに首を傾げながら言ってしまうリムル。

 

「ふーん、そう。ならいいけど」

 

 憐れむようにリムルを見て、ヒナタはフッと笑う。

 

(何か悔しい。負けた気がするのは気のせい? 戦いに勝利したのは俺なのに、何だか敗北感で胸一杯なんだけど。あ、そういや、勝利宣言もまだだったわ……)

 

 そんな風にショックを受けているリムルを放置して、ヒナタは怪我を負った団員を回復魔法で癒して回っていた。

 

(おおう。これまた、見事なお手前ですこと)

 

 リムルがヒナタの手際にリムルが感心していると、レナード達がヒナタの周りに集まり、ヒナタの無事を喜んでいた。

 

(神、ルミナスね……)

 

 ルミナスがヒナタを癒した事で聖騎士達もルミナスを信じ、法皇ルイに至っては知ってる者もいるようで、疑う理由もなかったという事なのだろうと、そんなレナード達を見て、リムルはそう思った。

 

(あ、ヒナタの胸を見たヤツが殴られた。あ、別のヤツも殴られたわ。コハクさん、アンタ何で腹を抱えて笑ってんだよ。ぜってーこれ、狙ってただろうがあ――ッ!)

 

 笑い転げるコハクを見て、リムルはここでようやく、コハクのエロトラップを見抜く。

 

(というか、これ近眼とか関係なくね? 普段から『魔力感知』発動してるみたいだし。それにだ、ツキハがコハクの事をいつも、超ド変態のエロ猫と言ってたのが、少しわかった気がするわ。ヒナタに対する嫌がらせかとも思ったけど、あれ絶対自分も見て楽しんでるよな? まあ、なんだ、男のチラ見はほぼ百パーセント女にバレているというし、俺も気を付けねばなるまい。って、今更だけどね。それよりもだ、コハクさん、あの絶妙な穴の空けかたは神技です! 異論は認めんよ?)

 

 などと、お馬鹿な事を考えているリムルであった。

 

 

 そうして、皆が落ち着いたのを見計らって、ルミナスが重々しく口を開く。

 

「――さて〝七曜〟よ、此度(こたび)の件、どう言い訳するつもりだ?」

 

 ルミナスがどう始末をつけるのか、リムル達はその動向を見守る。

 

 その時リムルに、ディアブロから報告が届く。

 

『――リムル様、終わりました』

『おう。それで、首尾はどうだ?』

『クフフフ。全て、予定通りです』

『よし、ひと段落したら一度戻って来い』

『承知致しました。その時を楽しみにしております』

 

 そう言ってディアブロは『思念伝達』を終えて、任務に戻った。

 

(ご機嫌だな、ディアブロのヤツ。という事は、冤罪だったディアブロの殺人容疑も、無事に晴れたんだろう。ならば、俺がここにいる〝七曜〟達の処遇に口を出す必要はないな。散々迷惑を掛けられたが、謝罪も受けたばかりだし、これ以上ややこしくなるのは御免だ。後は、今後の付き合い方を有利に進める事だけを考えよう)

 

 リムルがそう考えていた時、コハクの方にもイチコから報告が入っていた。

 

『――という事で、こちらの方はディアブロ殿の計画通りに事が運びました。フフッ』

『さよか。ならアンタは引き続きディアブロの補佐を続けなはれ。まあ、ディアブロが、もうええと言うなら直ぐに帰って来てええで』

『承知致しました、コハク様』

『しかし、えらく楽しそうやな。ふふっ』

『そうですか? ウフフ』

 

 そこでイチコからの『思念伝達』は終わる。

 

 

 そして、判決が下る――

 

 即決、即断。

 

「死罪じゃ。せめて(わらわ)の手で、そなた達へ死を手向(たむ)けよう――」

『お、お慈悲を。お願いで御座います。お慈悲を!』

『違います、誤解なのです。私共はルミナス様の御為(おんため)に――』

『我等の、どうか我等の長き忠誠に免じて、何卒、何卒』

 

 みっともなく(すが)る〝七曜〟達。

 

 だが、その願いも空しく、叶う事はなかった。

 

 

「――死せる者への祝福(デスブレッシング)!!」

 

 

 ルミナスが両腕を広げるなり、見えざる神の手が〝七曜〟達を優しく包み込んでいく。

 死にゆく〝七曜〟達の顔は、何故か喜びに溢れ涙を流していた。

 

 それはルミナスなりの、配下への慈悲だったのだろう……。

 

 慈愛に満ちた抱擁。

 

 そうとしか見えない力だったが、生者を死者へと変える残酷な権能を有するものだった。

 

 リムルはこの時思う、魔王ルミナス・バレンタインの力の一端を垣間見た、と。

 

 

 あわや神聖法皇国ルベリオスとの全面戦争まで覚悟していたリムルだったが――

 

 終わりはあっけないものだった……。

 

 

 

 ここに聖と魔の戦いは終わりを告げ。

 

 

 今後の舞台は、双方の付き合い方を探る交渉の場へと移る。

 

 

 

 

 とりあえずリムルは場所を変えようとルミナスに言い。

 ルミナスはそれを了承した。

 

 

 そしてリムルは、街までルミナスやルイ、ヒナタ一行を案内しつつ凱旋である。

 

 

 するとリムル達を出迎えたのはヴェルドラとツキハだった。

 ツキハはルミナスの妖気(オーラ)を察知した瞬間に、ここテンペストに直帰していたのだ。

 

 リムルは出迎えたヴェルドラを見て、ある事を思い出す。

 

「あ、スマン。最終防衛さんの出番はなかったわ」

「うむ。既にツキハに聞いたので、知っておるよ。だがな、せっかく気合を入れて待っておったというのに……」

「まあまあ、いいじゃん。次があるって、ヴェルドラ」

 

 落ち込むヴェルドラの背中をポンポンと叩き、慰めるツキハ。

 

「う、うむ。そうであるな……ん?……んんん!?」 

 

 これで事件は円満解決と、リムルは思ったのだが、そうは問屋が(おろ)さなかった。 

 

 

 何と、ヴェルドラがルミナスを見て、爆弾発言を落とし、更にツキハが陽気に地雷を踏み抜いたのだ。

 

「――ッ!! おおおお、お前は! 思い出した、思い出したぞ! お前、ルミナス。魔王ルミナスではないか! 我とツキハとコハクで城を吹き飛ばしてやった、女吸血鬼(ヴァンパイア)ではないか。いやあ、思い出せてスッキリ、スッキリ――」

「だーかーらー。あたしが言ってたじゃん、知ってるヤツだって。うひゃひゃひゃひゃ。でも、思い出せて良かったねヴェルドラ! コイツ今はさ、神ごっこして人間相手に遊んでるんだぞぉ。笑えるよね、魔王が神様ですーって。何の冗談かっーつーの!」

「そうなのか?」

「そだよー」

「中々に面白い事をしておるのだな、魔王ルミナスは」

「だろ?」

 

 ここでツキハとヴェルドラは顔を突き合わせると。

 

「「プッ、ウハ、ウハッ、ウワハハハハハハハ!」」

 

 大きな声を上げて笑い出す。

 

(あぁー……ツキハさん。アナタは空気を読むべき時には読むのに、こういう時は何で嬉々として空気を読むのを放棄するんですかね? ほら、コハクさんが半目で「バカ二人」と吐き捨ててますよ? ってか、お前らなぁ――ッ!)

 

「「ワハハハハハ、ハッ――」」

 

 まだ笑ってるヴェルドラとツキハを、ルミナスがどこからともなく取り出した剣を突き付けて黙らせる。

 

「ま、もう既に手遅れだよ。ほら、完全にバレたよね、これ」

 

 リムルが、あーあといった顔で小さく呟く。

 

 

 完全に、神ルミナスが魔王ルミナス・バレンタインであるとバレてしまったのだ。

 

 その事実に、沈黙をする聖騎士達。

 状況が理解出来たのか出来てないのか、よくわからないといった顔をしていた。

 

 ヒナタは当然知っていたので、頭に手を当てて溜息を付いていた。

 ルイはルイで、我関せずを貫く。

 

 コハクはいつの間にかリムルの横に移動して来ていて、明らかに〝うちは知らんで?〟という態度を取っていた。

 

(いや、コハクさん。アンタもアイツらと一緒に城を吹き飛ばしたんですよね? あああそうか、その為の応急処置だったんかい! 魔王バレンタインに恩を売っておいて、こういう時のとばっちりを回避すると。なるほど、中々に(さと)くていらっしゃる。はあー、なんだろうね番外魔王ってさ。それに、ヴェルドラって、何だかんだ言ってトラブルメイカーだよね。ツキハを合わせれば、そのトラブルメイカー率が倍に跳ね上がるというね。ほんと、どうすりゃいいんだよ、アイツら……)

 

 どこか疲れたように心の内で呟き、ヴェルドラはトラブルメイカーだなーと再確認をし、それにツキハを掛け合わせたらどうにも出来ないと、これも再確認をしたのであった。

 

 

 その後――

 

「このクソトカゲとクソネコが、毎回毎回、(わらわ)の邪魔をしおって――ッ!!」

 

 と、ルミナスが激怒して暴れるのを皆で必死に(なだ)めたり、それを更に(あお)るツキハを、コハクにシバキ倒してもらったりと、大変だったのだが……。

 

 

 それはまた、別のお話なのだった。

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 次のお話しで、〝聖魔対立ヒナタ編〟は終わりです。

 それでは、次回の更新もよろしくお願いします!

 





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