忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。112話です

 新章、〝お祭り準備編〟の始まりです!

 ※作中に出て来る〝ガットエランテ〟とは、イタリア語で〝野良猫〟を意味します。


 ツキハ

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 コハク

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お祭り準備編
112話 尽きぬ悪意


 

 

 グランベルの屋敷に思わぬ者が来訪していた。

 

 

 その者は――

 

「いやはや、貴方も御人が悪いですな、グランベル(おう)。危うく、私まで死ぬところでしたよ」

「フッ、笑止。巻き込まれる前に、さっさと逃げ出したそうではないか」

「仕方ありますまい。子飼いの者より報告は受けておられるのでしょう?」

「う、うむ。まあ、な――」

「あの悪魔は想像以上でした。帝国正規兵でも論外。私の知る限りでは最強たる帝国皇帝近衛騎士(インペリアルガーディアン)級の者達が出向かねば倒せないでしょうね。それに、番外魔王の眷属イチコに関しては、幾度なく下位の帝国皇帝近衛騎士(インペリアルガーディアン)と戦って生き延びてますから、ね。それよりも――」

 

 

 〝三巨頭〟のボスの一人、〝金〟のダムラダ。

 

 

 グランベルと向き合うように椅子に腰かけ、穏やかな調子で腹を探り合う。

 

 

 作戦が失敗すると踏んだダムラダは、ほとぼりが冷めるまでロッゾ一族と距離を置こうと考えていた。

 

 

 そう、状況が変わったのだ。

 

 ヒナタが死んでいれば、交渉は有利に進められるが……。

 

 そのヒナタは生きていた、敗北したにも関わらず生きていたのだ。

 しかも、魔王リムルと和解までして。

 

 ダムラダにとって、予想していたものより最悪の結果を招いていた。

 

 ヒナタが生存している事で、西方聖教会の影響下にある西側諸国での商売が難しくなる事は明白。

 そして、魔王リムルと和解したのならば、再びヒナタを扇動して魔王リムルを襲わせる事は、ほぼ無理だろうと考える。

 

 ダムラダとグランベルの利害が一致して発動した計画であったが、これは完全に失敗したと断定出来た。

 

(まあ、いいだろう。考えようによっては、かえって都合がいいのかも知れん)

 

 計画は失敗したがダムラダにとってそれは、大した痛手ではなかった。

 

 西側諸国での地盤を一つ失う事になったが、商売ルートは一つではない。

 秘密結社〝三巨頭(ケルベロス)〟という組織は巨大で、幾つもの商会を隠れ(みの)にしているのだ。

 

 更に言えば、ダムラダはヒナタの生死には、大して興味はなかった。

 

 だからグランベルが失敗した事に対しては、そこまで腹立たしく思っている訳ではない。

 

 そう、今後の付き合い方を有利に運べればそれでいいのだ。

 

 漁夫の利狙い、相手の足元を突き、こちらの思惑通りに事を運ぶ。

 これがダムラダの、真の狙いである。

 

 そう考えたダムラダは、急遽予定を変更して再びグランベルの所へ、挨拶と称して戻って来たのだ。

 

 ダムラダは会話の中でグランベルの失敗を責めるも、グランベルはそれは想定済みで、ダムラダの言葉を肯定し、そして持論を展開しつつ、ダムラダに現状を突き付けて来た。

 

 それはダムラダも想定済みで、あった。

 

「それでどうする?」

「どう、とは?」

「魔王リムルの狙いだ。歴史ある大国、ファルムス王国は地に堕ちた。時を置かずして、新たなる国家が誕生するであろうよ」

「確かに」

「ヤツは、ジュラの大森林を経済の中心地として、成長させる事が真の目的だ。我等ロッゾ一族としては、それを断じて認める訳にはいかぬのだよ」

「ふむ……」

 

 そう問われたダムラダは、話の内容を計算高く検討する。

 

 ダムラダは、ロッゾ一族と事を構える気はない。

 今後の商売を円滑に進める為に、今回の件は互いに水を流せれば良いと考えていた。

 

 そしてそれは、グランベルも同じだった。

 

 グランベルは言った、「ここで我々がいがみ合っても益はなかろう?」と。

 それは、ダムラダの考えを見抜いたような言葉だった。

 

 ダムラダはしばしの沈黙を守る。

 

(確かに、ここで互いの責任を(なす)り付け合っても意味はないな。だが……グランベル(おう)の目論見は恐らく……)

 

 沈黙するダムラダに対してグランベルが、とある提案にも似た発言を言ってくる。

 

「ダムラダ殿。これまで通り、互いに協力し合っていこうではないか。かの地に新たな経済圏が生まれるのを共に阻止しようぞ!」

 

 グランベルの目的、それは西側諸国に対する利権を守り抜く事である。

 

 ジュラの大森林を中心とした経済圏の誕生は、何があっても潰さねばならない。

 千数百年もの時をかけて築き上げた支配体制に(ほころ)びが生じるなど、グランベルにとって断じて許せる話ではなかった。

 

 だが、万全な策を講じたにも関わらず、グランベルの計画は失敗した。

 

 だからこそ今、ダムラダの組織――〝三巨頭(ケルベロス)〟の協力を欲したのだ。

 グランベルの末裔(まつえい)にして同士たる五大老も、その案を支持している。

 

 そしてそれぞれが西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)に働きかけ、裏から手を回し目立つ事なく、ファルムス王国内乱の後始末を長引かせるように仕向けていた。

 

 ファルムスの地に、新たなる王が誕生する流れはもう止められない。

 ならばと、少しでも時間を稼ぐべく手を打っていたのだ。

 

 ロッゾ一族の隠し持つ〝切り札〟はまだあるが、それを見せるのはまだ時期早々。

 

 そこで、〝三巨頭(ケルベロス)〟を上手く利用するのが得策であるというのが、グランベルの思惑であったのだ。

 

 

 しかし――

 

「なるほど。だが、お待ちください」

 

 ダムラダは、グランベルの思惑などに乗るつもりはない。

 

 ロッゾ一族と、それを支配する五大老は極上の取引相手であり、今後も付き合いを()めるつもりはないが、思惑に乗り言いなりになるというのは間違いである。

 

 ダムラダも商人。

 金勘定で動く人間であり、柔軟な思考の持ち主であった。

 

 

 東と西の経済圏があり、その貿易を一手に握る事で、〝三巨頭(ケルベロス)〟は巨万の富を得ていた。

 

 だがしかし、ここ西側諸国に至ってはロッゾ一族が西側諸国経済圏を握ってはいるが、全てではない。

 

 あの古くからある行商隊ガットエランテもまた、西側諸国経済圏の表と裏に根を張っていたのだ。

 

 ロッゾ一族ですら全貌が掴めない、行商隊ガットエランテ(野良猫)

 

 ダムラダとしては、今はまだガットエランテを敵に回したくはなかったのも事実。

 確実に勝負が出来るまでは、ロッゾ一族とも、行商隊ガットエランテとも争うつもりはないのである。

 

 今は虎視眈々と、その機会を(うかが)うのみ。

 

 〝三巨頭(ケルベロス)〟にとって、どちらが潰れようとも関係ないのだ。

 

 残った方と、取引をすればいいのだから。

 

「――今後とも良き関係でいたいというのは本当です。ですが、今のグランベル翁のお話には賛同致しかねますね。何せ我等には、魔王リムルと敵対する理由など御座いませんからね」

 

 グランベルを前にダムラダは、そう言い放った。

 

「貴様……」

「フフフ、(せん)無きことです。 それに、ヒナタが私の存在を警戒してる事は間違いないでしょうからね。これ以上西側での活動は困難でしょうから。なので、私は本国に戻り、代わりの者を寄越すとしましょう。まあ、約束通りヒナタを始末出来ていれば、私が動けたのですが、ね」

 

 ヒナタを始末出来なかったからと、嫌味を乗せた言葉でグランベルの要求を断ったダムラダ。

 

「……」

「では、取引はこれまで通りに。今回の件は、互いに水に流すという事で」

 

 そう言いダムラダは席を立つ。

 

 思惑が外れたグランベルとしては、流石にそれ以上は何も言えなかった。

 

 〝三巨頭(ケルベロス)〟という組織は東の帝国の闇を牛耳っていて、ダムラダはそこの頭領(ボス)の一人。 

 

 そのダムラダを怒らせて敵対するのは、ロッゾ一族にとって損失があまりにも大きすぎるというものだった。

 

 行商隊ガットエランテ、この大馬車十二台からなる隊商はリーダーの率いる隊商を含み、噂ではあるが常に世界を二十から五十もの隊商が小国から始まり、小さな村までを網羅するほどにフッワークが軽く。ロッゾ一族では手が回らない、あるいは手が出せない地域すら、このガットエランテが深く入り込んでいると言われていた。

 

 だからこそグランベルは、ダムラダの、〝三巨頭(ケルベロス)〟の力を欲していたのだ。

 

 

「……仕方あるまい。その件は我等で動く。せめて、貴殿達には我等の邪魔だけはしないでもらいたい」

「それは当然ですとも。今までの行動を(かんが)みて、私共を信用して下って結構ですよ」

 

 ダムラダはにこやかにそう返すと、丁寧に礼をするとその場を後にした。

 その態度は誠実そのもの、一見すると、ダムラダは商人として噓偽りがないように見える。

 

 そう、ヒナタが始末されていれば、とっくに魔王リムルに取り入っていたと思われる。

 〝傭兵商会ルヴナン〟支店が魔国連邦(テンペスト)にあろうとも、用意周到に取り入るのだろう。

 

 そう、魔王リムルとロッゾ一族を天秤にかけて、漁夫の利を狙っていたハズ。

 

 だがしかし、それは〝傭兵商会ルヴナン〟が、〝三巨頭(ケルベロス)〟の情報を一切持たないといった前提が必要になる。

 

 そしてダムラダは、〝三巨頭(ケルベロス)〟総帥から〝傭兵商会ルヴナン〟がこの情報を持っている事を聞かされている。

 

 だからこそ()えて魔国連邦(テンペスト)(おもむ)き、〝傭兵商会ルヴナン〟の動向を探りつつ、魔王リムルに謁見を申し込むつもりだったのだ。

 

 この一件だけは、グランベルに一切話はしていない。

 

 それを微塵も感じさせぬ辺り、〝金〟のダムラダの名は伊達ではなかったのだ。 

 

 

 だがグランベルもまた、海千山千の老獪(ろうかい)なる人物であった。

 ダムラダの思惑を、半ば正確に読み取っていたのだ。

 

 そう、ダムラダは魔王リムル相手に取引はしないと、一言も言ってはなかったのである。

 

 噓は言ってはいない、商人としては正しい姿ではあるのだが……。

 

 

 しかしだ、支配者であるロッゾ一族の(おさ)であるグランベルにとって、そんなダムラダの態度は到底許容出来るものではなかった。

 

「――忌々しいヤツ。ワシの足元を見るとは、事が終われば、次は貴様等だ」

 

 

 ダムラダが去った部屋に、グランベルの呟きが小さく響き、その瞳は屈辱と怒りでドス黒く濁っていった……。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 それから暫く日にちが経った後、とある部屋で――

 

 

「――というふうに、五大老との話は纏まりました」

 

 ゆったりと寛いで椅子に座る少年を前に、そう告げるダムラダ。

 

「そうか。ロッゾ一族との関係が、君の狙い通りに落ち着いて良かったよ。これで今後も、彼等との交渉窓口を利用できる。ついでに、ガットエランテの情報も頂きたいところなんだけど、どうせ大した情報は持ってはいないだろうね」

 

 ロッゾ一族との交渉の際にも傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度だったダムラダが、その少年の前では(へりくだ)って見せていた。

 

 何故ならば。

 

 その少年こそ、ダムラダの(あるじ)にして、秘密結社〝三巨頭(ケルベロス)〟の総帥なのだから。

 

 ダムラダの報告に鷹揚(おうよう)(うなづ)く少年。

 

「確かに。皆無と言ったところが正しいかと。それにしても、ヤツ等め。あのような化け物二体を、情報も寄越さず押し付けようとするとは……」

「あははは、それは災難だったね。でもまあ、いいタイミングで撤退出来て良かったじゃないか」

「フフフ、全くその通りです。幸運でしたよ。ディアブロ、と言いましたか? 帝国で猛威を振るった原初の白(ブラン)に匹敵するやも知れぬ、恐ろしき悪魔です。そして、あの滅多に人前に姿を表さない、番外魔王眷属の(おさ)イチコ。脅威は魔王リムルだけではない、という事でしょうな」

「そうなんだよね……。こっちが態勢を立て直すよりも、魔王リムルが力を付ける方が早い気がするんだけど。何しろ、番外魔王と傭兵商会ルヴナンがバックに付いてしまったからねえ……」

「そうですな。あの魔王は、妙な運を持っているのでしょう。強力な魔人が集まっているようですし、かの〝暴風竜〟まで従えておる様子――」

「そう、それ。あの〝暴風竜〟と千年以上も前から共に暴れて来た番外魔王の二人が一緒にいるなんて、何の冗談なのかい? と言いたいね。あんな勢力と正面からぶつかるのは愚策としか言いようがないよね」

「勝てないと――申しませんが、確実に〝三巨頭(ケルベロス)〟は壊滅するでしょうな」

「まあ、何だかんだ言って焦っても仕方ない。どうせ時間はあるんだし、ゆっくり考えるさ」

「それが賢明でしょう。今暫くは混乱が続くでしょうし、この状況で手を出すと、こちらが火傷(やけど)をしかねません」

「だよね。ちょっとした仕返しに、ヒナタを利用したんだけど……それも失敗しちゃったしねえ。これ以上動くとこっちが危険だし、せっかくあの二人が猶予をくれたのだから、暫くは大人しくしておくとしよう」

 

 飄々(ひょうひょう)と気にした様子もなく笑って告げる少年に、思案しつつ(うなづ)くダムラダ。

 

 そこへ、思い出したようにダムラダが口を開く。

 

「それにしても、番外魔王は信用出来るのですか? 裏で私達の情報を流したり――」

「――それはないよ。あの二人は口に出した事は絶対に曲げない。それはクレイマンから聞いていたから、間違いないよ。その代わり、怒らせたらその限りではないだろうから、気を付けないといけない。それと、これは僕の予想なんだけど、魔王リムルが僕達の事に気が付いたら、恐らく情報を流すだろうね。あくまでも、自分達からは言わない。そう取ったんだよ、あの時僕は。だから、大丈夫だよ、今のところは、ね。ククッ」

「なるほど。千年以上も前から、拠点も無しに傭兵商会ルヴナンを率いる、二体の魔物。いったい何なのでしょうね、番外魔王という二体の魔物は……」

「さあ、ね。そこは、本当に見当も付かないよ」

 

 何気に聞かれた事に、苦笑いしつつ答える少年。

 

 それからは二人は、これからの対応などの話を進めていく。

 

 とにかく、〝暴風竜〟は刺激しない、番外魔王の二人も同じ。

 傭兵商会ルヴナンに関しては、現状維持。

 ガットエランテは、引き続き徹底調査。

 魔王リムルのこれからの動向の監視継続に加え、魔国連邦(テンペスト)に密偵を派遣。

 

 五大老に関しては、あちらの計画の邪魔はしない。

 されど、水面下では慎重に監視を続ける。

 

 とりあえず、こちらの力を蓄えつつ静かに事の成り行きを楽しもうと、少年は笑いながらダムラダに話す。

 

 秘密結社〝三巨頭(ケルベロス)〟を率いる少年の目的は――

 

 この世界の完全制覇、(すなわ)ち世界征服である。

 そして、総帥である少年の命令は、全てに優先されるのだ。

 

 ダムラダはその野望に共感し、そして少年に心酔していた。

 普通ならば夢物語にすぎないと一笑に伏すところだが、その少年ならば成し遂げるのではないかと、そう感じたのだ。

 

 だからこそダムラダは、少年の言葉に疑念を抱かない。

 自分も共に、その野望を成し遂げた先を見たいのだから。

 

 そんなダムラダに、少年は気さくに声をかけて来る。

 

「君まで失っていたら、僕の計画が修正不可能なくらいに狂うところだったな」

「まあ、そうなっていたところで、逃げるくらいはして見せましたよ」

 

 ダムラダは、自分を心配する少年に不敵な笑みを返し言う。

 

 〝三巨頭(ケルベロス)〟の頭領(ボス)とは、力や金勘定だけで成れるものではない。

 徹底した危機管理能力と、その確かな実力に裏付けられてこそ、裏社会の強者達を従える事が出来るのだ。

 

 そして少年もまた、それを理解している。

 

 だから人の悪そうな笑みを浮かべて、言い放つ。

 

「あははは。でも、本気を出すのはナシだぜ? それはあくまでも最後の手段だ。今はまだ、力を使わない駆け引きを楽しもうよ」

 

 本気を出す。

 

 つまりそれは、〝三巨頭(ケルベロス)〟が総力を上げる事となる。

 そして、残る二人の頭領(ボス)を呼び寄せる事になるのだ。

 

 こうなればそれはもう、暗躍などと生易しいものではなくなり、西側諸国を巻き込んだ大戦が勃発しかねない。

 

 だが少年は、そんな事態は望んではいなかった。

 

 それをダムラダは十分に理解しているので、迷う事無く首肯(しゅこう)した。

 

「ならば私は、本国に戻った方が良さそうですね」

「そうだね、その方がいいだろうね。顔を見られてはいないと言っても、相手はヒナタだ。君の存在はマークされているだろうし、何より、番外魔王達に顔が割れてる可能性も(ぬぐ)えない。表立っての行動は難しくなるだろう。誰かに代わってもらった方がいいか。と言っても――」

 

 〝三巨頭(ケルベロス)〟には後二人の頭領(ボス)がいるのだが、その内の一人が問題であった。

 

「ヴェガを呼び寄せるのは、()めておいた方がいいだろうね」

 

 だからこそ、少年がそう言ったのも納得が言った。

 

「承知しました。では、私の代わりにミーシャを、呼び寄せる事にしましょう」

「うん、そうだね。そうしてくれ」

 

 〝金〟、〝女〟、〝力〟という男の欲望を象徴する頭領(ボス)達。

 

 〝女〟のミーシャは油断ならない性格をしているが、話は通じる。

 しかし、〝力〟のヴェガは厄介であり、ダムラダの言葉など聞かない、暴力の化身。

 少年からの直接命令しか聞かないし従わない。

 

 それがわかっている少年は、ダムラダに無理を言うつもりはなかった。

 

「では、そのように。それで、私がこちらで進めていた奴隷売買の件ですが、どのように後始末をしましょう?」

「ああ……それもあったね。面倒だし、君に任せていた〝奴隷商会(オルトロス)〟は潰すとするか。もともと、奴隷制度って嫌いだったんだよね。ああそうだ、君の要請に答えなかった、古くからある〝奴隷商会(バステト)〟の行動は把握してるかい?」

「はい、把握はしています、が。最近は、あまり奴隷売買をしていない様子ですね」

「ふーん……」

「そこもついでに、潰しますか?」

 

 ダムラダの問いに少年は、膝に置いた手の指で膝を軽くトントンと叩きながら、しばし思案に(ふけ)る……。

 

 そして。

 

「そこは、()めておこう。藪をつついて蛇が出そうだしね」

「蛇、とは?」

「根拠はないんだけど、僕の勘かな」

「では、潰すのは任されていた〝奴隷商会(オルトロス)〟のみという事で。後、ミーシャの〝娼婦の館(エキドナ)〟に流す希少な魔物も放流ですか?」

「いや、特定機密商品だけは、今まで通りに。せっかくロッゾ一族との窓口も残っているんだし、これを利用しない手はないさ。最悪、再度もう一つの〝奴隷商会(バステト)〟に声を掛けてもいいしね」

「了解です。それでは、後の手筈はお任せください」

 

 ダムラダはそう言って、、足早にその場を去って行った。

 

 

 後に残された少年は深く椅子に身を沈め目を閉じ、楽しそうに脳内の盤上に駒を並べていく。

 

 そこへ、コツコツという足音が、少年の耳に聞こえて来る。

 

 口元に笑みを浮かべ、背後まで来た秘書風の女性に声をかける少年。

 

「聞いていたんだろう、カザリーム」

「ええ、ボス。それで、〝奴隷商会(オルトロス)〟をどうして潰す気になった? そして、何故もう一つの〝奴隷商会(バステト)〟には、手を出さないの?」

 

 やって来たのはカザリームだった。

 少年の信用する仲間であり、相談相手だ。

 

「簡単さ、ここらで〝彼〟に手柄を立てさせようと思ってね。それに、もう一つの方は、流石に〝彼〟には荷が重すぎるかと思ってね」

「荷が重すぎると、は?」

 

 少年の言葉にカザリームは少し困惑したように、問い返す。

 

「あの〝奴隷商会(バステト)〟はさ、特定機密商品の在庫があるにも関わらず、その商品をどこにも卸した形跡がない時があるんだ、これが。そして、どこで商品(奴隷)を仕入れて来るのか、その仕入れ先もわからないんだよねえ。多分何処かで狩っては来てるんだろうけども。それに、子供の奴隷も扱ってるはずなのに、その卸先が、全く掴めない時があるんだよ。これってさ、何かと似てないかい?」

 

 そう言うと少年はカザリームに向かって、ニヤリと笑ってみせた。

 

「何かと、似てる……!?」

 

 カザリームは少年の言葉に腑に落ちるところがあり、同じように薄く口元に笑みを浮かべる。

 

「それが理由か?」

「言わなくても、何となくわかるだろ? フフッ。それに、あのジュラの大森林の全域が、あのスライムの支配領域になったんだ。そこで魔物狩りなんてやったら、間違いなく潰されるよ。だったら先に、僕達の役に立つように片方だけ消す方がいいだろう?」

「なるほど確かに。トカゲが尻尾を切るように、重要な商品だけを守ればいいだけね。保険を一つ残して」

「だろ? そっちの手筈(てはず)は任せてもいいかな?」

「〝彼〟に手柄というと……ああ、ヤツか。相変わらず面白い事を思いつくな、ボスは。わかったわ、そっちは、ワタクシに任せてもらいましょう」

「うん、頼んだよ。カザリーム」

「ええ。それと、話は変わるけど。ワタクシの事は、〝カガリ〟と呼んで欲しいわね」

 

 カザリームからそう言われて少年は、目を見開く。

 

「へえ……、とうとう決心がついたのかい?」

「ああ。クレイマンが死んで、俺も決心がついた。魔王カザリームという〝名〟は、レオンへの復讐が終わるまでは封印とするさ」

「そうかい、わかったよ。それじゃカガリ、改めてだけど、宜しく頼むよ」

「お任せを、ボス」

 

 二人は視線を交わし、お互いにニヤリと笑い合う。

 

 

 

 ――ここに、新たなる騒乱の幕が上がる――

 

 

 





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