忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。113話です

 ツキハ

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 コハク

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113話 離せ! なに尻尾掴んでるのよ、ヴェルドラ!

 

 

 聖と魔の戦いもここに終わり、平穏を取り戻した魔国連邦(テンペスト)

 

 

 神ルミナスの正体は、魔王バレンタインその人であった。

 

 本当の名は、ルミナス・バレンタイン。

 

 今までは腹心を影武者に仕立て上げ、眷属名を与えて魔王ヴァレンタインを名乗らせていたのだ、が。

 

 もっとも、魔王達の宴(ワルプルギス)でヴェルドラがルミナスの正体をバラしてしまった為、それも出来なくなってしまった。

 

 

 そして、ヒナタ率いる聖騎士団は、その魔王ヴァレンタインと敵対していた。

 こうして聖騎士団は、民衆からの支持を得ていたのだ。

 

 完全にマッチポンプなのだが、ヒナタはそれを知っていた。

 的確に民衆の支持を得るには、合理的であり、この世界ならではの手法なのだろう。

 

 ツキハとコハクに至っては、西方聖教会が出来て神ルミナスの声が聞かれ始めた時に、直ぐに気が付いたらしい。

 

 その事に付いて何で今までバラさなかったんだと、リムルが二人に聞いてみたら。

 

 返ってきた答えは、「「面白いから」」だった。

 とりあえず放置してみて、何かあった時に盛大にバラして、西方聖教会ごと潰すつもりだったとツキハが笑いながら言った。

 

 これには流石のリムルもジト目になりながら、「それ、絶対にやるんじゃねえぞ」と釘を刺すも、当のツキハはケラケラ笑い「西方聖教会があたしらを〝神敵認定〟とかしない限り、やらないよ。ほんとだよ? でも、〝神敵認定〟って、なんか響きよくない? くくくっ」と、あっけらかんとして言う。

 

(あー、本当に大丈夫なんかね、ツキハのヤツ。まあ、そこまでバカじゃないだろうから、大丈夫だとは……思わねえ俺がいるわ。アイツ、絶対〝神敵認定〟されたがってるだろ!)

《是。過去の番外魔王の行動を分析する限り、西方聖教会を挑発するようにちょっかいを出してる形跡が見受けられます》

(やっぱりか! あぁー、ツキハをビシッと抑えれるヤツ、どこかにいないかねぇ。はあぁ……)

 

 リムルは智慧之王(ラファエル)からの言葉を受けて、今ままでの疲れがドッと出たかのように、大きく溜息を吐く。

 

 そして、そのままヒナタに視線を移すと、それに気付いたヒナタがリムルに言葉を投げて来る。

 

「なに? 言いたい事はわかるけど、仕方ないでしょう。私はそれを止めようとして、ルミナス様に敗北したのだから。でも、ルミナス様としては、民衆の支持何てご興味ない御様子だったけれどね」

 

 リムルの思わんとした事に対してヒナタは、やれやれといった感じで説明をした。

 

 ヒナタ自身納得がいかなかったようだが、敗北をした身では従う他なかったとの事。

 しかしヒナタは、民衆は犠牲にしないという約束をルミナスから取り付けたとも言った。

 

 そこにルイが口を挟んできて、その計画を発案したのは自分で、それに弟のロイも乗ったのだと説明して、そんなヒナタは、最初はそんな事は一切知らず、自分達を滅ぼしに来たと言う。

 

「だから、この件で文句があるのならば、私が聞こう」

 

 そう言いながらルイは、リムルの前に立つ。

 

「あ、えと、法皇ルイ、殿、さん? だっけ?」

 

 リムルの返答にルイは苦笑いして返す。

 

「呼び捨てでも構わないとも、魔王リムル」

 

 聖騎士達がいる前なのに、無頓着みたいにリムルに返すルイ。

 

 そんなルイは、聞き耳を立てている聖騎士達にも聞こえるように、これまでの経緯(いきさつ)を軽く説明し始める。 

 

「――え? という事は、魔王達の宴(ワルプルギス)で会った魔王ヴァレンタインは、お前の弟だったのか?」

「その通りだよ、魔王リムル。双子の弟みたいなものだったのだがね。けれど残念ながら、あの宴の後で何者かに殺害されてしまったのだよ」

 

 どこか残念そうではない口調で、ルイが言う。

 

「えっ、殺された?」

 

 リムルにとってそれは、少し驚きであった。

 あの時見た魔王ヴァレンタインは、影武者とは思えない実力者だったからだ。

 

「ああ。ロイは少し自信過剰気味だったので、そこを突かれたのかも知れないね。ロイの油断だろう。それに西方聖教会を敵視する勢力も多い。表向きはそうでもないが、裏では神聖法皇国ルベリオスを目障りだと感じてる国家もあるだろう。そういった敵対勢力からの刺客に、不覚を取ったのだと思うがね……。それにしても、不甲斐ない話さ」

 

 と、ルイは言った。

 

 その言葉に悲しんでいる風ではないが、何もそこに感情がない訳ではないといった感じをリムルは受けていた。

 

(このルイという男からも、かなりの力を感じる。恐らく、ロイ以上の力を秘めているようだな。しかし、魔王級の実力者である弟が殺された、と……刺客? まさかなぁ、いやいや、それは……)

 

 ルイの言葉を聞き、刺客という単語が出て来て、まさかと、ある事を思い浮かべるリムル。

 すると、それを察したルイが直ぐに言葉を付け加えて来た。

 

「魔王リムル。刺客といっても、番外魔王ではありませんよ」

「えっ?」

「私達を殺すつもりならば、番外魔王ツキハなど、何も考えずに表門から殴り込んで来ますよ」

「あぁ、そうなの?」

「ええ。良くも悪くも、そういうヤツ等ですね」

 

 少し苦笑いを浮かべつつ、淡々とリムルの疑問に答えるルイ。

 

 その顏を見てリムルは、あれは(みやこ)を破壊された時の事を思い出しているなと思った。

 しかし、不意に頭の中に表れた疑念が払拭されホッとするも、チラッとでもツキハ達を疑ったリムルは、(ツキハさん、コハクさん。疑ってごめんなさい!)心の内で二人に謝るのであった。

 

 だがしかし、日頃の行いが行いなだけに、リムルが思った疑念も仕方のないところなのだ。

 

「そうね。番外魔王ツキハなら、本当に表門から殴り込んで来そうだわ」

 

 そこにツキハと手合わせしたヒナタが割り込んできて、そう言った。

 ツキハと剣を合わせたヒナタには、そう感じる部分があったのだろう。

 

 そして、言葉を続けていくヒナタ。

 

「それに、最近では新兵の実地訓練代わりに、ロイを利用させてもらっていたわ。サーレに不覚を取ったりもしたようだし、ロイが(たる)んでいたのは事実でしょう。でも、ロイを殺した相手を警戒する必要はあるわね。まあ、貴方には関係のない話だけどね」

 

 ヒナタはそう言って、話を締めくくった。

 

 リムルがヒナタの話に納得を示した後、ヒナタは仲間達へと視線を向ける。

 

 そんな中、時折ズズンと響く低く重い音が、地面を揺らしていた。

 だが、誰もその地響きを気にする者は、何故かいなかった。

 

「さて、聞いていたでしょう。こういう事なの。騙すつもりはなかったのだけれど、結果的には貴方達を騙した事になるわね――」

「で、でも、ヒナタ様……」

 

 何かを言いかけた聖騎士を手で制し、ヒナタは話を続けていく。

 

「すまないとは思ってるけど、本当に貴方達には話せなかったの。計画を知る者が少ない方が都合がいいし、もし、この事を他言するというのなら、殺すしかなかったでしょうから」

 

 そう冷たく言い放つヒナタ。

 

(なるほどなぁ。ほんと不器用なんだな、ヒナタは)

 

 リムルが顔には出さないよう、心の内でそんな事を思っていると。

 

「フ、フフッ。このアルノー、騙されませんよ。神ルミナス、いや、魔王ルミナス・バレンタインに脅されていたのでしょう?」

 

 アルノーが自信満々にヒナタに言うも、ヒナタはそれをアッサリと否定した。

 

「違うわよ。だから言ったでしょう、民衆はルミナス様の加護の下にいるのよ。これは、噓偽りなく本当。私はね、あの方が人類に敵対しない限り、その意志に従うと決めただけ。だからねアルノー、ルミナス様の事を悪く言うのは許さないわよ」

 

 ヒナタは眼力鋭くアルノーを睨みつけて黙らせる。

 

(あーこれだ。これで誤解されるんだ。シズさんが心配する訳だよ)

 

 ヒナタに言われてアルノーが肩を落としてるかと思えば、意外にそうではない事に、リムルは、あれ? と思う。

 

 そして――

 

「まあまあ。ヒナタもさ、もっと優しく言ってやれよ。それじゃあ、全然説明が足りてないだろう? 言葉足らずにも程があると思うぞ?」

「貴方には関係ない事でしょう?」

 

(うっ、睨まれた。だから、それを()めろっての)

 

「関係ない、って事はないだろう? 大体、お前達にここで仲間割れでもされたら、こっちが迷惑なんだし」

「余計なお世話よ。大体貴方ねえ――」

 

 リムルの言葉に反発してヒナタが言い返そうとした時――

 

「その心配は、ないです。俺達はヒナタ様を信じていますから!」

「ええ、アルノー言う通りです。魔王リムルよ、我々は神ルミナスではなく、ヒナタ様にのみ従う集団なのです。なので、仲間割れなどといった事は、あり得ませんので心配は御無用です」

 

 リムルの言葉を、アルノーとレナードが息ピッタリに否定した。

 

「そうか。ならいいけど」

 

 リムルが頷くと、アルノーが上を指示して言葉を重ねて来る。

 

「それにですね、アレを見ちゃうとですね。何と言うか……」

 

(あぁ、アレね)

 

 リムルの頭上では、先程から、ルミナスとヴェルドラ、それにツキハが加わり、壮絶な戦いが行われていたのだ。

 

(はぁ~……。正直、非常に迷惑なので()めて欲しい。地上に影響が出ないように、俺の『誓約之王』の『絶対防御』で守ってるんだけど、流石に範囲が広すぎて被害が出かねないんだよねぇ。さっきから、ツキハが口から吐く光線の威力が段々と上がって来てるんだよなぁ……)

 

 黒猫に〝変幻(ヘンゲ)〟したツキハがヴェルドラの頭の上に乗って、口から惜しげもなく光線を吐き出していたのだ。

 

「ツキハよ、薙ぎ払うのだ!」

「ガッテン承知よ、ヴェルドラ! うにゃあああああああ!」

「死ぬが良い、クソトカゲとクソネコが――ッ!!」

 

 

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 ジャウッ、魔力光線が超高温の光の飛沫を巻き散らす。

 

 ツキハの口から放った魔力光線はルミナスの『多重結界』に弾かれ、更にリムルの『絶対防御』に当たり弾かれ、そのまま地面に当たり、蛇のようにうねりながら大地を抉り削る。

 

 先程からの地響きの正体は、これである。

 

(何かアイツら、あの戦い方が妙に慣れてねえか? うっ……嬉々として魔王バレンタインの都を焼き払う二人の姿が目に浮かんでくるわ。あ、そういえばツキハが言っていたけど、コハクは核撃魔法ってものを、ポンポン撃ってたと言ってたな。何かさ、あの二人と契約した過去の俺を、殴りたくなってきたわ……()めろって、な。はは、ははははは、はぁ~)

 

 頭上で繰り広げられる超絶的なルミナスの猛攻に、猫化したツキハを頭に乗せて大暴れするヴェルドラ。

 

 そんな戦いを見れば、アルノーが言葉を濁した理由も察しが付くというもの。

 リムルは、そんな戦うツキハとヴェルドラを見て、心の内で乾いた笑いを漏らしていく。

 

「あれを見れば、ヒナタ様が敗北をしたというのも納得です」

「確かに。神を名乗るだけありますわ。もしもあの方が人類の敵に回ったら、私達では打つ手はありませんわね……」

 

 聖騎士団の面々には、言葉で説明するよりも、今見ている光景の方が説得力が大きかった。  

 

 そんな聖騎士達に、ルイが静かに口を開き告げる。

 

「安心するがいい。ルミナス様は寛大な御方だ。庇護下にある者を虐げるような趣味などお持ちではない。故に、敵対せぬならば人類とも友好な関係を築けるであろう。ただし、その正体を口にする事は許さぬがね」

 

 ルイは、ここにいる聖騎士達全員に、神ルミナスが魔王である事を口外するなと、キッチリ釘を刺す。

 

(まあ、ヴェルドラとツキハのせいでルミナスの正体がバレたのだから、俺としても協力するのに否はない。もっとも、それにトドメを刺したのはミリムなんだけどな。それにしても、聖騎士達が納得したのは意外だったな。いや、違うか。ヒナタがそれを望んでいるから、それが理由か。なんだかんだ言って、ヒナタも部下に慕われているんだな。俺から見るとヒナタは、不愛想で頑固で言葉足らずで、誤解されそうな性悪という印象なんだよなぁ……)

 

 リムルが、心配する必要はなかったなと考えていると――

 

「君、またも何か失礼な事を考えていなかった?」

「!? い、いいえ、何も――」

 

(ほああぁ? こいつ、エスパーか何かか!? 俺の心を的確に読んでいるんじゃ……)

《否。そのような影響は、確認されておりません》

(あ、そうですか)

 

 智慧之王(ラファエル)の解答にリムルは、恐らく勘が鋭いのだろうと納得をした。

 

 その時――

 

 もの凄い勢いで落ちて来て、地面に激突したヤツがいた。

 ズドーンと、轟音を立て大地を抉り、直系十メートル程のクレーターが出来ていた。

 

 なのに、そのまま平然として立ち上がり、リムルを見て駆け寄ろうとしたら――

 上から遅れて、黒い物体が立ち上がった者目掛け、落ちて来たのである。

 

 

「うおー、ヴェルドラ―! そこどいて、どいてどいてどいて――ッ!」

「ん? ツキハか?」

 

 その声に、上を向いたヴェルドラ。

 

 

 そして……

 

 

 ズゴォンッ!

 

 

 何かが激しく激突した音が周辺に響き渡る。

 

 それは、上を向いたヴェルドラのおでこに、黒猫ツキハの頭が激突した音だった。

 

「おわぎゃぁあ! いてえーーーー! ヴェルドラどいてって、言ったじゃんかぁ――ッ!」

 

 黒猫ツキハが頭を押さえて、もの凄い勢いで地面を転げまわる。 

 その光景に、聖騎士達の目が点になっていった。

 

 そして、ヴェルドラは。

 

「ぬぅおおお。いきなり我目掛けて落ちて来るなど、ちょっと酷いぞツキハよ」

 

 ヴェルドラはヴェルドラで、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

 

 リムルはそれを見て、「痛覚無効あるのに、痛いんだ」と、ポソリと呟く。

 

 そんなヴェルドラがいきなり立ち上がると、リムルの後ろに回り込む。

 

 続いてツキハもスクッと後ろ足だけで立ち上がり、何故かそのまま猛ダッシュでヴェルドラの所まで駆けていき、そのままジャンプして前足後ろ足を大きく広げ、ヴェルドラの背中に張り付いた。

 その駆ける姿を見た聖騎士達の目が、更に点になっていく。

 

 ヴェルドラはリムルを盾にして、上空を(にら)む。

 

 そしてヴェルドラの視線の先には、銀髪の髪を風に揺らす少女が一人。

 

 怒りの形相で眼下にいるヴェルドラとツキハを睨みつけ、ゆっくりと空を旋回しながら、リムルの前にふわりと降り立ち、手に持った剣が日の光を浴びて、ギラリと光を放つ。

 

「り、リムルよ、あの頑固者を説得してくれ! 我とツキハが寛大にも謝ってやったというに、ヤツは聞く耳を持たぬのだ!」

「そうよそうよ! あたしが普段下げない頭を下げたんだから、許せよそんくらい、吸血ババア!」

 

 リムルの後ろで(わめ)く二人にリムルは、次第にジト目になっていく

 

(ああ、はいはい。そこで俺を巻き込むのは()めて欲しい。本当に、()めろ。それにツキハさん、アナタ全然頭下げてなかったよね? むしろ、ヴェルドラと一緒になって(あお)ってたよね? 噓は良くないです。今回はどう見てもヴェルドラとツキハが悪い。はあー……。ヴェルドラが復活したのは最近なのに、かなり迷惑をかけられてる気がするんだが。ツキハとコハクが合流してからは、更に酷くなった気がするのは、気のせい、か?)

《告。気のせいではありません》

(うんうん。先生も太鼓判押してくれたよ。ツキハさん、胸を張って「スマン!」は謝罪にはなってないんだぞ。ヴェルドラもあの謝罪の仕方では、逆に魔王バレンタインを怒らせるようなものだったしな。よって二人とも今回は、盛大に怒られるといいと思う、本当に)

 

 リムルがそんな事を思っていると。

 

 何とか落ち着きを取り戻そうと剣を納めようとしたルミナスに向かって――

 

「クアハハハハ。あの時は我も悪気はなかったのだ。若さ故の過ちというヤツだからして、お前も寛大な心で我を許すが良いぞ!」

「そうそう。あたしも幼気(いたいけ)な子ニャンコちゃんだったから、許すニャン。寛大な御心で、許せばいいニャン!」

 

 などと言い放つ、ヴェルドラとツキハである。。

 

 

 これにルミナスは。

 

 …………

 

 完全にブチ切れて。

 

 ……

 

 激怒した!

 

 

「そのトカゲとネコをこちらに渡せ」

 

 身の毛もよだつような声でリムルに迫り、リムルの後ろで踏ん反り返るヴェルドラを睨み付けるルミナス。

 

 黒猫のツキハは、ヴェルドラの背に隠れているので見えない。

 

(うーむ。正直こんな事で、魔王バレンタインと敵対したくない。彼女の気持ちも理解出来る。あれは断じて謝罪じゃないわ。ヴェルドラとツキハも、少しは痛い目にあって反省すべきだな)

 

 そう思ったリムルは――

 

「はい、どうぞ」

 

 と、迷う事無くヴェルドラの首根っこを掴みルミナスに差し出す。

 

「げえぇ!? 裏切ったなリムル!!」

「マジか――ッ!? 脱出!!」

「ふわぁ!? させぬぞツキハ!!――」

「――ミギャッ!」

 

 ヴェルドラが捕まってる隙に、黒猫ツキハが背中から飛び降りた瞬間――

 電光石火の如く、ヴェルドラの右手がツキハの尻尾を掴んだ

 

 尻尾を掴まれたまま、逆さまになってぷらーんと揺れ動く黒猫ツキハ。

 

 

 そこへリムルが。

 

「いや、裏切るも何も、間違いなくお前達が悪いよね?」

 

 こういう事はハッキリさせるべきと、いうように言い放つ。

 

 

(魔王バレンタインとの間に恨みを残さぬ為にも、ここでしっかりクッキリ白黒付けておいた方が良いだろうしね。という事で、しっかり怒られて反省してくれたまえ、二人とも)

 

 うんうんと頷きながらヴェルドラといツキハを見るリムルの目が、いきなり点になる。

 

 そう、今そこでは既に醜い争いが勃発していた。

 

「離せ! なに尻尾掴んでるのよ、ヴェルドラ!」

「いや、離さぬぞ。我とお前は一蓮托生なのだぞ!」

「はあ!? そんな一蓮托生なんかいらないわよ! 離せ、スケベ、エッチ、ヴェルドラのアホ――ッ!」

 

 ズババババァ―ッと、もの凄い勢いで後ろ足猫キックを、ヴェルドラの右手に蹴り込む黒猫ツキハ。

 

 だが、本気の防御結界を張ったヴェルドラの右手はビクともしなかった。

 

 そして、素直にヴェルドラとツキハを差し出したリムルを、驚いたように見るルミナス。

 だが、それもつかの間、ギャアギャアと喚き立てているヴェルドラとツキハを見て、ルミナスは凄惨な笑みを浮かべる。

 

「うむ。お主はなかなかに物分かりが良いようじゃな、魔王リムルよ。そこのトカゲとネコとは大違いじゃ」

「いや、それほどでもないよ。でも今回は、コイツらがかなりの迷惑をかけていたみたいだしね。気が済むまでお(きゅう)()えていいから、それで許してやって欲しい」

「ふむ、考慮しよう」

 

 ここに、リムルとルミナスの間で和解が成立したのである。 

 

 ルミナスに、連れ去られていくヴェルドラとツキハ。

 

「ちょっと待て! 我の、我等の意見も聞くべきであろうが!?」

「そうだそうだ! ってか、聞けよ吸血女!!」

 

 叫ぶ二人の声は、リムルとルミナスには届かなかった。

 

 そんな中、もう一人の加担者の気配が無いのにリムルが気付く。

 

(ん? そういえば、さっきからえらく静かだなコハクのヤツ。逃げたか?……)

 

 そう思い、辺りを見渡すと――

 

「うお!?」

 

 リムルの右斜め後ろに、コハクはいた。

 連行されていくヴェルドラとツキハを見ながら、口に手を当てクスクス笑っていたのだ。

 

(いつの間に、そこにいたんだ? 気配を消すとかいうレベルじゃなくない? 魔王バレンタインも、気付いてはいなかったよな……)

 

《解。個体名:コハクは、何らかの方法で自分の存在を極限まで消して、周囲の気配に同化しています》

『ほおぉ。それって、能力(スキル)か何かの力なのかな?』

《告。不明。仮に個体の存在を数値で表せば。存在値を百として、個体名:コハクの存在値は十以下と推測します。そして、その極限にまで下げた存在値をもって、周囲の気配と同化していると推測します。恐らく、隠蔽した究極能力(アルティメットスキル)の権能の一つではないかと判断します》

『なるほどな。俺と同じく究極能力(アルティメットスキル)を隠蔽して誤魔化してる訳か。それにしても、かなり厄介な〝隠形術〟だよなぁ』

 

 コハク達が使う、〝気配同化の隠形術〟。

 

 これを間近で見たリムルは、ソウエイ達がこの術を身に付けたがるのも納得だと考える。

 

 

 そして、連行されたヴェルドラとツキハに、ルミナスから刑執行が告げられる。

 

「では今までの恨み、晴らさせてもらうぞ――生と死の抱擁(エンプレイスドレイン)!!」

「ギャバババババ――ッ!!」

「おい、何ヴェルドラに抱きついてんだ、バ――!? アギャアアアアア――ッ!!」

 

 ヴェルドラの前に来たルミナスが、ヴェルドラの腰に両手を回し抱きつく。

 しかし、そこに甘い雰囲気などはあるはずもない。

 

 体格差はあるがそれはどう見ても、一種のベアハッグであった。 

 

(あれヴェルドラにダメージ入ってるのか? ましてや尻尾を掴まれてる黒猫ツキハにまでダメージが入るはずもないのだが……)

 

 悲鳴を上げる二人を見てリムルは、その光景を疑問に思った。

 

 そこへ。

 

《解。対象から生気(エナジー)――つまり、魔素(エネルギー)を吸収すると同時に、『激痛』と『不快感』を情報として逆流させている模様。これは情報を遮断しない限り、『痛覚無効』とは関係なく、〝魂〟に刻まれてしまいます。個体名:ツキハの場合は握られた尻尾を介して、〝暴風竜〟ヴェルドラの右手から吸収されています》

 

『えっとつまり、こういう事? 精神生命体であるヴェルドラさんとツキハさんでも、この攻撃は〝痛い〟と感じるという、訳だ。ある意味、二人を消滅させるよりも余程(こた)えそうだよな?』

《是》

『まあ、ヴェルドラのように無尽蔵の魔素量(エネルギー)があれば、どれだけ生気吸収(エナジードレイン)されても死にはしないだろうけども。それより、ツキハは大丈夫なのか?』

《解。個体名:ツキハに関しても、かなりの魔素量(エネルギー)を有しているので問題ないかと》

『そっか。しかしあれ、『疲労感』や『倦怠感』も感じてるよな。それに『激痛』と『不快感』が加わるなら、お仕置きとしては申し分ないだろうよ』

 

 ルミナスのお仕置きの有効性に気付く、リムルであった。

 それから、ルミナスのお仕置きという攻撃は、暫くの間容赦なく続けられた。

 

 ヴェルドラが泣き叫び、黒猫ツキハは絶叫しながらヴェルドラの右手を後ろ足で蹴り続けていた。

 

 悲しそうな瞳でリムルを見るヴェルドラ。

 だがリムルは……それを黙殺した。

 

(これもヴェルドラとツキハの為――というよりも、二人を生贄にするだけで魔王バレンタインの機嫌が直るのなら安いものだしね。これが、政治的取引というヤツなんだ。許せよ、ヴェルドラとツキハ)

 

 満面の笑みを浮かべ、ヴェルドラとツキハを見るリムル。

 

 それを見たヴェルドラは声にならない声で口をパクパクと動かし、ツキハに至っては半狂乱の如くヴェルドラの右手を蹴りまくっていた。

 

 

「――まあ、ルミナス様も楽しそうだし、ここ最近の鬱憤も晴れるだろう。私としても嬉しいよ」

 

 無表情のままルイが言う。

 

「そうね。ロイを殺した勢力が不明な今、貴方達とまで敵対したくなかったもの。ところで、気になっていたのだけど、まさか()って、あの……」

 

 ルイの言葉に頷いたヒナタだったが、ヴェルドラに視線を向けると、戸惑うように口ごもってしまう。

 

 それにリムルは――

 

「そう、あれはヴェルドラだ。竜の姿じゃなくてわかりにくいだろうけど、本人で間違いないよ。今は取り込み中みたいだし、また後でゆっくり紹介するよ」

「ま゛、ま゛、待でリムル! い、今、紹介を――」

「う゛ぉえ゛ぇ!? なに余計な事言ってんのヴェルドラ! そんな余裕かました事言ってると――」

「ほう? まだまだ余裕がありそうじゃな」

 

 ルミナスの目がギラリと光る。

 

「ヲボボボボボ――ッ!!」

「ほらみろ言わんこっちゃ!? ワギャギャギャ――ッ!!」

 

 あわよくば逃げようとしたヴェルドラだったが、ツキハに突っ込まれて、更に二人ともまだ余裕があると見做(みな)され、ルミナスの攻撃がより苛烈になってしまった。

 

「憐れ、お馬鹿二人。〝キジも鳴かずば撃たれまい〟というのに……」

 

 そんなヴェルドラとツキハにリムルは合掌して、自業自得というように呟き、言葉を贈る。

 

「――あれが、ルミナス様が警戒していた〝暴風竜〟と〝番外魔王〟だというの? 確かに、彼からは凄まじい力を感じるけど。それに、私が戦った番外魔王ツキハって……」

 

 ジト目になりながら、呆れたように言うヒナタ。

 

 ルミナスにお仕置きされる二人はどう見ても威厳も何もなく、二人がとても恐ろしい天災級(カタストロフ)モンスターには見えなかった。

 

 むしろ、ルミナスの攻撃に絶叫する二人が滑稽にも見えていた聖騎士達である。

 誰もが戸惑いの表情を浮かべ、口を開いていた。

 

「し、信じられん。本当にあれなのか……?」

「え? え? あれが? 我等の恐れていた〝暴風竜〟と〝番外魔王〟――」

「嘘でしょう……? ちょっと可哀想(かわいそう)に思えるんですけど?」

「黒猫さん……泣き叫んでる。何か、こっちが悪いんじゃないかと思ってきた……」

 

 中には、ヴェルドラとツキハの見た目に騙されている者もいた模様。

 

(まあ、そうなる気持ちもわからなくもない。俺の『分身体』、つまりだ、若き日のシズさんを基本(ベース)にしているだけあって、ヴェルドラも黙っていれば美男子なんだよ。ツキハは黒猫に〝変幻(ヘンゲ)〟しているけど、結構これが可愛い。それが悲しい瞳で救いを求めていたりしたら、女性の中には(ほだ)される者もいるだろうな)

 

 女性の聖騎士達が言う言葉に、しみじみとそう思うリムルであった。

 

 だが、とリムルは――

 

(皆さん、騙されてはいけない。そいつらは、甘やかしたら付け上がる生き物なのだ。特にヴェルドは、今の内に厳しく(しつ)けておかないと、今後困るのは――俺達、というか、俺――なのだ)

 

 ここで、本音が駄々洩れになるリムル。

 

 そこへ――

 

《告。暴発しそうになっていた〝暴風竜〟ヴェルドラの妖気(オーラ)が、安定値まで低下しました》

『――え!? まさか、この魔王バレンタインの行動までも、智慧之王(ラファエル)先生の計算通りなの!?』

 

 リムルは智慧之王(ラファエル)の告げた事に対して驚くも、智慧之王(ラファエル)からは、何も返ってはこなかった。

 

(いや、ほんと、まさかね……)

 

 流石にそれはないだろうと、そこまで先を読み通せるハズはない、でも、本当に読み通したのかと思った、が……。

 

(……うん、やっぱりないわ)

 

 リムルは気を取り直して(かぶり)を振り、その考えを完全に振り払う。

 

 そしてリムルは、周囲を見回して口を開いた。

 

「さて、取り()えず場所を移そう。色々と誤解もあったけど、()ずは落ち着いてから、ゆっくりと今後の事について話し合おうじゃないか」

 

 こうしてリムルは、聖騎士達を街の中心まで案内する事にしたのだった。

 

 

 





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