忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。114話です

 ツキハ

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 コハク

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114話 ツキハ様、どこに行かれるのですか?

 

 

 今魔国(テンペスト)では、来たる開国際に向けて、町から街へと変貌したテンペストの区画整理と、様々な施設が急ピッチで建造されていた。

 

 忙しく行きかう魔物に、人間達。

 

 確かにここには、リムルの目指す魔物も人間も無い、分け隔てのない国の姿があった。

 

 リムルに案内され街中を歩く聖騎士達の目に入るもの――

 それは人間と魔物が商談をしてる姿や、建築中の建物で魔物と人間が一緒になって働く姿に、魔物が出してる出店で、人間達がその品々を買ってる姿であった。

 

 〝魔物は悪〟、その教義に従い今まで魔物と戦って来た聖騎士達の面々。

 

 この信じられない光景を目にした途端、呆気にとられた様に首を左右に振り動かし、その様を歩きながら眺めていた。

 

「この光景は、本当に人と魔物が共存しているのか?」

「何だ、あの出店で焼いている肉のいい匂いは! しかも、人が笑顔で歩いているなんて……」

「魔物と人が商談、をしているの?」

「信じられないわ。これが魔王リムルの国」

 

 驚きの声を上げる聖騎士達。

 

(うんうん。もっと俺の国を見てもらい。魔物が悪ばかりではないと、知ってもらえればいいな)

 

 声を上げる聖騎士達を見ながら、嬉しそうに笑みを浮かべるリムルであった。

 

 トンカントンカン、建築する音が響く迎賓(げいひん)地区までやって来たリムル達を、リグルドが出迎える。

 

 リムルが、先にソウエイを走らせ連絡をしておいたので、慌てて駆け付けて来ていのだ。

 

「ようこそ皆様。歓迎致しますぞ!」

 

 リグルドは(ほが)らかに笑って、聖騎士達を招き入れる。

 ここ最近の外交で学んだ接客応対は、プロ顔負けの笑顔であった。、

 

「食事を用意させますので、何か食べられぬ食材があれば申し出てください」

 

 宗教上の理由や、体質によって受け付けない物や嫌いな物など、それらを確認するのを怠らない辺り、リグルドの勤勉さが(うかが)えるところである。

 

「あ、いや。そこまでお世話になるのは――」

 

 ヒナタが困ったように断ろうとして来た。

 

 しかしリムルは、今後の関係を話し合う必要があると考えていて、日も暮れて来て夕方になっていたので、どうせ会談は明日になるからと――

 

「まあまあ、遠慮するなって。詳しい話し合いは明日にすればいいだろう? 今日はとりあえず、和解の宴と洒落(しゃれ)込もうじゃないか!」

「おお、宴か! それは良い案だな。当然、酒は出るのであろうな?」

「宴! 酒、肉、酒か――ッ! やったなヴェルドラ!」

「うむ。ツキハよ、存分に飲み明かそうぞ!」

 

 ルミナスにお仕置きされていたハズのヴェルドラとツキハが、リムルの言葉に食い付いて来た。

 

(心配はしていなかったが、やはり無事だったようだな。しかし二人とも、あれだけ生気吸収(エナジードレイン)されていて、この無駄に元気が良いのは何なんだ?)

 

 リムルがそう思っていたら。

 

「ふむ。その宴とやら、当然(わらわ)も招待してくれるのであろうな?」

「いや、アンタは帰れよ」

「フンッ。(わらし)が言いよる」

「ああ?」

「ツキハさんは黙っていてね。駄目だよ、そんな事言っちゃ。フフフッ」

「うえっ!? あ、はい」

 

 ツキハがルミナスの言葉に辛辣に返すと、それをリムルが精一杯の笑顔で(たしな)めて、その迫力におされたツキハが口を(つぐ)む。

 

「それはいいけど。ところで、ルミナス、殿?」

「気色悪い。ルミナスと呼ぶが良い」

 

(うっ……気色悪いと言われたぞ。何でだ?)

 

 リムルがどう呼びかけるか迷っていると、呼び捨てで良いとルミナスが許可を出す。

 

 そう言われたリムルは、同じ八星魔王(オクタグラム)同士だから、ここは言われた言葉に甘えようと、その通りにした。

 

「それじゃあルミナス。俺の事もリムルと呼んでくれ。それで、ヴェルドラとツキハにコハクの事なんだけど――」

「許さん。許さんがしかし、今日来た(わらわ)の目的は、配下の尻拭いじゃ。リムルよ、貴様の顔を立てて、そのトカゲとネコを制裁するのはまた後日にしよう」

 

 これを聞いたヴェルドラとツキハが、また騒ぎ出す。

 

「何ぃ!? もう十分であろうが!」

「いい加減にしろよテメエ!」

「ウルサイ、黙れ! (わらわ)としても譲歩しておるのじゃ。何なら今から、雌雄を決してやっても良いのじゃぞ!」

「クアハハハハ! 面白い。我の進化した力を見せ付けてやろうぞ!」

「上等だゴラアッ! こうなったら、全力でシバキ倒してやんよ!」

 

 一触即発で、いがみ合う三人。

 

 ここまででコハクは、この不毛ないがみ合いに参加せず。

 

(おいおい。仲が悪いというか、何というか……。どうやら喧嘩友達というのは、本当だったようだな。その証拠にツキハが、ぶっ殺すじゃなくて、シバキ倒すだもんな。やれやれだわ。しかし、何か複雑な関係に見えるのは何だろうねぇ。だが、そんな三人を好き勝手にさせたら、この街が跡形もなく消し飛んでしまいかねない)

 

 そう考えたリムルは意を決して――

 

()めろ、馬鹿二人とルミナス。ここで暴れるのは禁止です」

 

 と、強権発動で喧嘩を(いさ)めたのだった。

 

 渋々(しぶしぶ)(ほこ)を収めた三人。

 

 ルミナスの方は、ヴェルドラとツキハから大量の魔素(エネルギー)を奪った事で、とりあえずは満足の様子。

 

 ヴェルドラとツキハに至っては、既に宴会に出される酒と料理の話を始めていた。

 

 そんなリムルは、やっと収まったいがみ合いがまた勃発しないように、なるべく刺激しないようにしようと、心に決めたのだった。

 

 

「それでさ、俺達の宴会なんだけど。魔王達の宴(ワルプルギス)で出たような豪華なコース料理じゃないけど、それでもいいかな?」

「リムル。あれは豪華な料理とかいうものじゃない。究極の食事(アルティメットフード)と呼ぶべきに相応しい料理だよ! お酒もな!」

「うむ。ツキハの言う通りだな。あれは、至高の逸品なのだ! 特に酒は、美味すぎる!」

「ほう。構わぬよリムル」

 

 リムルがそう確認を取ると、ツキハがいつも食べているここの料理は最高だと褒め、ヴェルドラもその言葉に続く。

 

 ルミナスが問題ないと(うなづ)きながら、今宵の宴会料理に興味を示す。

 

「それに、前回は胸騒ぎがしたから参加せなんだが、それだけが不参加の理由ではないのじゃ。(わらわ)のお抱え料理人も、アレと同じような料理を出して来るでな。そもそも食事の必要もないのだから、飽きてしまうというものよ。じゃがな、ここには珍しい酒と料理があるのだろう? そこのトカゲとネコが楽しみにしておるようじゃし、(わらわ)としても期待するとしよう」

 

 既にルミナスは、宴に参加する気満々だった。

 

 

 しかし、そこへ。

 

 

「ルミナス様、それは無用心なのではありませぬか?」

 

 ルイとは別にルミナスに付き従っていた老齢の執事が、そう声をかけてきた。

 

 外見は老齢だが、背は真っ直ぐに伸び姿勢も良く、その気配からは只者ではないと。

 

 少なくとも、隣に立つルイに匹敵する力を、持つのは間違いないだろうと思わせた。

  

 ルミナスが不機嫌そうに、その男を一瞥(いちべつ)した。

 

「フンッ、ギュンターよ。貴様はいつも(うるさ)いのう。だから連れて来たくなかったのじゃ」

「それが私の務めで御座いますれば、姫よ……」

「まあ良いわ。そこのリムルも話のわかる者ようじゃしな。ここでヴェルドラ、ツキハと雌雄を決する訳でもなし、心配する事など何もあるまい」

「ですが――」

「くどい! 古き魔王である(わらわ)に、指図するではないわ!」

「相変わらず配下には辛辣(しんらつ)だねぇ、アンタは」

「フンッ。眷属を自由と称して、野放し三昧にしておる貴様にだけは言われたくはないわ」

「へえへえ」

 

 ルミナスのギュンターに対する言葉にツキハが茶々を入れるも、ルミナスはそれを軽く受け流し、ツキハは生返事で返した。

 

「話が()れたが、という事だ。そなたは先に戻ってるが良い」

 

 ルミナスがピシャリとそう言うと、ギュンターは困ったように溜息を付いた。

 けれど、ルミナスの言葉には逆らえない。

 

 

 ためらう事暫し……。

 

 

 ギュンターはその命令に従う。

 

「――(かしこ)まりました。それでは、私は先に戻っております」

 

 ギュンターの言葉に笑みを見せるルミナス。

 

「うむ、御苦労じゃったなギュンター。この場にはルイとヒナタもいるし、そなたは心配し過ぎなのじゃ」

「姫が心配なのは、仕方ないでしょう。くれぐれも番外魔王ツキハとは、喧嘩をなさらぬように」

「わかっておる」

 

 そう言うとギュンターはルイに視線を向ける。

 

「それでは、後の事は頼みましたよルイ」

「心得た」

 

 そして、ルイの返事を聞くなりギュンターは、『空間転移』なのか、はたまた『空間移動』なのかはわからないが、忽然(こつぜん)とその場から姿を消した。

 

 

「さて、煩いヤツはいなくなったのう。これで存分に、宴を楽しめるというものじゃ!」

「「「「「……」」」」」

 

 こうして、ルミナスの独断と勢いで、ヒナタを筆頭とした聖騎士達も強制参加が決定したのである。

 

 反対意見など言えるはずもなく、進んでルミナスの不興を買う者などいない。

 

 何しろ、ヴェルドラ、ツキハとルミナスの争いは、尋常ではなく凄まじいものだった。

 

 本人達からすれば軽い牽制(けんせい)でしかなかったのだろうが、それに巻き込まれ者はたまらないのだ。

 

 特に、ツキハが口から吐く魔力光線は、見る者からすれば悪夢もそのもの。

 

 リムルの『絶対防御』がなければ、確実に被害者が出る程の威力だった。

 

 この争いを直ぐに止めたリムルのお陰で事無きを得ているけど、放置していたら被害は甚大なものとなっていたであろう。

 

 それを理解した聖騎士などは、顔色が明らかに悪くなっていた。

 

 今日の戦いで色々あり過ぎた聖騎士達の困惑は、当然ともいえたのだ。

 

 英雄と称された〝七曜の老師〟達の策略と、粛清。

 

 聖騎士達が信仰する神が、魔王ルミナス・バレンタインであった事。

 

 そして、魔王ルミナスと〝暴風竜〟ヴェルドラ、〝番外魔王〟ツキハの争い。

 

 これらの事が(まと)めて起きたのだから、常人ならば、理解不能で思考が完全停止する事は間違いない。

 

 実際、ヒナタを信じると決めた彼等だからこそ平然としているように見えるが、この今日起きた事を受け入れるのは時間を要するだろう。

 

 リムルはそんな彼等を見ながら、(今日のところはゆっくりと(くつろ)いでもらおう)と、そう考える。

 

 すると、そんなリルムの気持ちを察したのか、リグルドがパンパンと手を叩いてから指示を出し始めた。

 

 

 それを受け、リグルドの後ろで待機していた街の住人達がテキパキと動き出す。

 

 馬を預かる者。

 

 武器と防具を預かる者。

 

 汗と(ほこり)で汚れた顔や手を拭く、適度に濡れたタオルを配る者。

 

 怪我をしている聖騎士に、回復薬を配る者。

 

 そして聖騎士達のヒナタを信じるという言葉に、偽りはなかった。

 

 ヒナタが素直に従ってみせたので、疑いもせず武器や防具を預けていく聖騎士達。

 

 リムルは、多少()めるのではないかと内心配をしていたが、スムーズに事が運んで人知れずホッと胸を撫で下ろす。

 

 

 リグルドが聖騎士達からの預かり物が全て終了したのを確認すると、良く通る声で口を開いた。

 

「それでは、食事の準備が整うまではもう暫く時間がかかるかと思われますので、先に風呂に入り、身の汚れを落としてはどうでしょう? 勿論、休憩室の用意は整って御座いますので、そちらで寛がれるのもご自由になさって下さい」

 

 しかし、言われた聖騎士達は、意味がわからないという表情を浮かべていた。

 

 それは、風呂の事である。

 

 風呂の習慣はイングラシア王国にもあった。

 だから、風呂の事を知らないはずがないのだが。

 

 ヒナタ達は街道の宿屋を利用していた。そこの風呂も使っている。

 

 だとすれば、魔物が風呂を利用するなどと、想像もしていなかったのかも知れない。

 

 

(ふふん。せいぜい驚くがいいさ! こう言っちゃ何だが、王都の風呂よりこの国の風呂の方が数段出来がいいからな。風呂というより温泉だし、大浴場から露天風呂、サウナに加え、男湯、女湯、ついでに混浴風呂まで完備している豪華さ。これこそ、温泉街にある様々な風呂の種類! ゆっくり疲れを取ってくれればいいと、思うよ)

 

 リムルは聖騎士達の反応を見て、内心ほくそ笑む。

 

「後は着替えか……彼等の服は戦闘で汚れたり破れたりしてるから、ここは我が国の宣伝の為に役立ってもらおう。そうだな、新規開発した麻製の甚平(じんべい)に、浴衣もいいな――」

 

 リムルがぶつぶつと独り()ちていると、そこへ――

 

「お任せ下さい。シュナ様が既に、手配して下さっています」

 

 と、ゴブリナのハルナがそう言って、ニッコリと笑った。

 

 それにリムルが、にこやかに(うなづ)くと。

 

「それじゃあ皆さんも、我が国自慢の風呂を楽しんで下さい。源泉から引いた温泉になっているので、疲れも取れますよ。ついでに美肌効果もバッチリです」

 

 ちゃっかりと温泉風呂の宣伝をするリムル。

 

 美肌効果と聞いて、女性の聖騎士達が目を輝かせていた。

 

 更に、ルミナスも食い付いてくる。

 

「ほう、風呂とな? それに、美肌効果とは興味深い。(わらわ)が利用する個室は、この国で最上の風呂を用意しておるのじゃろうな?」

 

(ん? 個室……? ああ!)

 

 個室と聞いて、リムルは思い至った。

 

 技術大国のドワーフ王国でも、蒸し風呂がメインだったのを思い出したのだ。

 

 大勢で利用する風呂などなかった事を。

 

 イングラシア王国には大衆浴場があったけども、ブルムンド王国にはなかった。

 

 何故ならこの世界には、庶民などが日頃から活用している生活魔法の浄化があったのだ。

 

 このお陰で水浴びなどしなくても清潔だったし、冒険や旅などでもこれで身体を清潔に保てたのである。

 

 そして、どこの街にもちょっとした小銭で、浄化してくれる者がいた。

 

 だからこの世界では、お湯を沸かして入る風呂は一般的ではなかったのだ。

 

 〝異世界人〟が多く住む大国の上流層のみが、贅沢品として所持出来る程度なのである。

 

 故に、魔国では各家に個人用の風呂はあれど、王侯貴族やルミナスみたいな魔王用の風呂はないのであった。

 

(うぅ……思い切り勘違いしてるよな? ルミナスを民家の風呂などに案内したら、どんな怒りを買うかわからないな。とりあえず豪華な個人用の風呂なら、ツキハとコハクの家にこちらの世界の(ひのき)で作った風呂があるけど、ツキハが絶対に嫌がるから無理だろう。まあ、しゃーない)

 

 リムルはルミナスの誤解を解くべく口を開く。

 

「いや、皆で入る風呂なんだよ。男と女は流石に別だけどね。もしも希望するなら混浴場もあるから、そっちを利用する気があるなら止めはしないけど……?」

 

 ルミナスの勘違いを是正するべくリムルがそう答えると、それに別の者達が反応した。

 

「――ッ!?」

「何ですと!?」

「ほほう……」

 

 アルノー以下聖騎士の男達が、目をキラリと輝かせリムルを見る。

 

 かたや女性の聖騎士達が男達に、冷ややかな目線を浴びせていた。

 

(ふっふふ。なるほどなるほど、この世界の男達も興味深々でなにより。これぞ、健全な〝おのこ()〟よ)

 

「うむ。興味があるなら、そっちに――」

 

 と言いかけたリムルだったが、ヒナタの冷たい視線に気付き押し黙る。

 

(あ、はい。駄目ですよね、勿論)

 

 

「ルミナス様、女風呂に向かいましょう。私も温泉は久しぶりなので、楽しみです」

「ほう? ヒナタがそう言うのなら、(わらわ)にも異存はない」

 

 ヒナタの呼びかけにアッサリと答えるルミナス。

 

(うむー。わかってはいたけど、仕方ない。せっかくヒナタやルミナスと一緒にお風呂大作戦がぁ――って、待てよ?)

 

 そこでリムルは、まだ諦めるには早いと考え直す。

 

 無念そうにしているアルノー達を尻目に、リムルは、ある事を思い付く。

 

(ヒナタ達を混浴に誘うのは、無理があった。だがしかし、俺だけならば……)

 

 自分一人でヒナタ達を女湯に案内する作戦に切り替えるリムルであった。

 

 

「それじゃあ、女風呂に案内するよ」

 

 そう言って、さり気なく歩き出すリムル。

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。 

 ヒナタが待ったをかけたのだ。

 

「ちょっと待ちなさい。何で貴方が、普通に私達を案内しようとしてるのかしら?」

「何でって、そりゃあ案内は必要だろう?」

 

 ここで慌てないリムル。

 

 さも当然であるように、ヒナタに答える。

 

「だって君達、道を知らないじゃん。それにさ、各種効能別に浴槽も分かれているし、サウナだって完備してるんだぞ。やはりここは、きちんと使い方を説明した方がいいと思うんだよ」

 

 更にリムルは、三獣士の二人も風呂に興味を持ってくれて、前にも案内したのだと力説する。

 

 だから――

 

「って事なんだよ。俺がちゃんと案内して、その素晴らしさを宣伝しようかなってね」

「リムル様、それならば私が!」

 

 リムルの言葉にシオンが張り切って声を上げる。

 

 だがしかし、リムルはその声を断固として拒否せねばなるまいと、やんわりとお断りを入れる。

 

「いや、シオンだけでは頼りないしな」

「そんな!?」

「まあまあ遠慮しないでいいよ。せっかくだから、俺も一緒に入ろうと思ってるしね」

 

 と、極自然に言葉を重ねて来るリムル。

 

 その後ろでは、コハクが小さな声で「役得どすな。ふふ」と呟き、リムルはコハクの方を見て、にこやかに『思念伝達』で、『コハクさん、余計な事は言わないでね』と念を押す。

 

(良し完璧だ! これで俺が女湯に入っても、違和感はないな。ふっふっふ)

 

 完璧な策だと思ったリムルだったが、そこへ――

 

「だから、ちょっと待って。貴方、元は男だったのよね? 何を当たり前のような顔をして、一緒に入ろうとしてるのかしら?」

 

(ふあっ。見破られた!?)

 

 リムルは汗をかかないはずなのに、背中に冷たい感触を感じた。

 

 ヒナタの指摘に、ルミナスも「ほう?」と言い、目を細めリムルを見る。

 

(ヤバイ! 俺ピーンチ!)

 

 そこに、焦るリムルに救いの声が!

 

「良いではないですか! リムル様はリムル様です」

「まあ、ええやないか。おぼこい娘じゃあるまいに。リムルの性別は中性なんやで? 見られてもかまへんやろ、なあシオン。ふふっ」

「はい、おっしゃる通りです!」

 

 リムルの援護に回ったのは頼りにならないと思っていたシオンと、意外にもコハクだった。

 

 ただコハクの場合は、面白がっているといった方が正解ではある。

 

(いいぞ、頑張れシオン! コハクさんも、もっと言ってやって!)

 

 内心で二人を応援するリムル。

 

 しかしリムルの応援も虚しく、シオンはシオンであり、コハクはコハクであった。

 

「ねえ貴女でも、お風呂の案内は出来るのでしょう? それか、番外魔王コハク、貴女でもいいのだけれど?」

「当然です!」

「はあ? 何でうちがそんな面倒な事、やらなあきまへんのや。そんなんシオンに頼みなはれ」

 

(おいシオン! ちょっとコハクさーん!? そこで飽きないで、もう少し頑張って!)

 

 内心で叫んでしまうリムル。

 

 コハクは右手をヒラヒラさせて、面倒そうにそっぽを向く。

 

 それを見てヒナタは――

 

「では、私は貴女にお願いしたいのだけど?」

「えと、ですが……」

 

 勢い込んで返事はしたものの、どこかバツの悪そうに目を泳がせるシオン。

 そこへヒナタが畳み掛けて来る

 

「この機会に、貴女が本当に頼りになるのだと、貴女の主に実力を示すべきではないかしら?」

「なるほど!」

 

 シオン陥落(かんらく)

 

 そこに、三獣士のアルビスとスフィアがシオンに自分達も手伝うからと助け船を出し、シオンの決意も固まってしまう。

 

「リムル様。ここはこの私にお任せを!」

「ああ、うん……。頑張ってねシオン」

 

(あーあ。せっかく、ヒナタの美しい裸体を鑑賞出来るかと期待したのにぃー。コハクさん、光の速さで飽きるの()めて下さい。ちくしょうー)

 

 ここにリムルの、〝ムフフ! 皆でお風呂に入ろう大作戦〟が、完全に終わりを告げる。

 

 泣く泣くシオンに全てを任せ、リムルはベニマル達に振り返った。

 

 ここまで、ツキハが大人しい事に気付かないリムルであった。

 

 

「チッ、仕方ない。久々に男湯に入るわ」

 

 切り替えの早いリムルだった。

 

「それじゃあ、俺が背中を流しましょうか? 山奥の秘湯に勝る湯で汗を流せば、疲れも吹き飛ぶというものです」

「でしたら自分が――」

 

 と、男達が次々とリムルの背中を流すと言い出して来ていた。

 

 皆で作った温泉は、ベニマル達にも好評なのであったのだ。

 

「じゃあ、あたしは久しぶりにヴェルドラの背中を流してあげるよ。竜の姿の時はよく山奥のでっかい温泉で背中を流して上げてたもんね」

「クアハハハ! そうか、久しぶりに我の背中を流してくれるのか? ツキハよ」

「うん。ヴェルドラの人型形態とお風呂は初めてだから、楽しみだよ!」

 

 いつの間にかこちら来ていたツキハがヴェルドラの横で、楽しそうに言っていた。

 

 ツキハの、〝ヴェルドラと一緒にお風呂大作戦〟発動。

 

 

(え? コイツ、いつの間にこっちに来ていたんだ? あれか? あの〝隠形術〟を使ったな。本当に便利だなアレ。今度、俺も教えてもらおうかな……)

 

 と、そう考えるリムルであったのだ。

 

 そして、皆を引き連れて先頭を歩くリムル。

 

 ツキハは当たり前の顔をしてヴェルドラの横を一緒に歩いていた。

 目指すは、混浴場である。

 ヴェルドラと二人で仲良くお風呂するつもりなのは、明白であった。

 

 男湯に向かって歩くリムル達は、男湯と混浴の暖簾(のれん)が見える所まで来ると。

 

 するとそこで、シュナと出くわしたリムル達一行(いっこう)

 

 ツキハが一瞬で気配を偽り隠し、更に『空間迷彩』で姿を消した。

 これで今、誰にもツキハを認識する事が出来なくなった。

 

 そして――

 

「着替えを用意したのですが、ところでリムル様。何故、殿方の皆様と御一緒しているのでしょう?」

 

 優しくにこやかに問われたが、目だけは笑ってはいなかったシュナ。

 

「え? ああ、久しぶりにベニマル達と風呂に入ろうと思ってな」

 

 シュナの問いに疑問を抱きつつ、答えるリムル。

 

 するとシュナは、とても可愛らしくニッコリと微笑む。

 

(あ、あれ? これって……滅茶苦茶怒ってるっぽい?)

 

「どういう事ですか?」

 

 そう言いながら視線を一巡させるシュナ。

 

 そして、ヴェルドラの所で一瞬視線を止めるも、ベニマルとソウエイに視線を固定してピタリと止める。

 

「唐突で申し訳ありませんが、リムル様には少し用事が御座いますので、皆様とは御一緒出来ません。それと、お兄様にソウエイ。後で、お話があります。よろしいですね?」

「え、あ、いや――」

「……」

 

 ベニマルとソウエイは、シュナのにこやかに発する圧力の前に沈黙する。

 

 リムルは離れにある自分の家の風呂に入るようシュナに促され、素直にそれに従う。

 

(解せぬ。何がシュナの気に障ったのやら……。あ!? そういや、ツキハのヤツがいねえ! アイツ、『空間迷彩』とかいうので隠れやがったなあ! ズルイ、ズルイぞツキハ――ッ!) 

 

 リムルの心の叫びが虚しく内で木霊(こだま)する。

 

 シュナに連行されていくリムル。

 

 そんな時、シュナが何かを思い出したようにポンと手を打ち、スタスタとヴェルドラの近くまで歩いていくと、何もない空間に右手を置く。

 

「ふえ!?」

 

 いきなりツキハの声が響き、シュナが手を置いた空間がポワワンと波打つ。

 

「ツキハ様、どこに行かれるのですか?」

 

 リムルに言ったと同じように、にこやかに微笑みながら言うシュナ。

 

 シュナが手を置いた空間からツキハの左肩が現れ、スーッと全体を現わしていき、『空間迷彩』を解除するツキハ。

 

「ど、どこって、お風呂よ?」

「そちらには、男湯と混浴しかありませんよ?」

「う、うん、知ってる。だ、だからね、ヴェルドラの背中を流そうと、こ、こ、混浴に行くんだけど?」

 

 シュナの問いにしどろもどろになるツキハ。

 

(何であたしが『空間迷彩』をかけてるのを見破れたんだよ!? あ……そう言えば、ロロロオがクレイマンの居城に行く時、シュナに存在を感付かれたと、言っていた気が……。アカン、これ逆らったら駄目なヤツだ。マジでシュナって、〝おっかあ(母さん)〟の転生した姿じゃないだろうな? う、うぅ……顔は笑ってるけど、目が笑ってねえー! 〝おっかあ〟そっくりじゃねえかその怒り方。怖えよ、それ()めて!)

 

 人であり忍びだった頃のツキハの唯一無二の天敵、〝おっかあ(母さん)〟。

 

 説教を喰らいまくった記憶が鮮明に甦り、尻尾の毛を盛大にボワリと逆立てるツキハであった。

 

「ツキハ様。年頃の女の子が殿方と一緒にお風呂など、はしたないですよ」

「え、いや、年頃って――」

「何か?」

「あ、えと、何でもないです(アンタ、いつもリムルとお風呂してるよね? シオン達も一緒に)」

「では、女湯の方へ行きましょうね」

「はい(わからん。シュナの殿方基準って、どの辺りなんだ……? スライム形態なら、いいのか?)」

 

 ツキハ、轟沈。

 

 ヴェルドラはすぐさま危険を察知して、これには口を挟んで来なかった。

 

 何とかしろと、口だけを動かして自分を見るツキハを、同じく口だけ動かして(無理。今回は諦めるのだ)と、無声で告げるヴェルドラであった。

 

 

 ここにツキハの、〝ヴェルドラと一緒にお風呂大作戦〟は、失敗に終わる。

 

 

 リムルは自分の家の風呂に、ツキハは女湯へと連行されて行き、残された男達は男湯へと入っていった。

 

 

 魔国連邦(テンペスト)の秘密兵器、シュナ。

 

 魔王リムルも、番外魔王ツキハも逆らえない。

 

 怒らせると、本当に怖ーい、シュナなのであった。

 

 

 

 自分の家の風呂で寛ぐリムルは、スライム形態でプカプカと湯船に浮かび、湯気で曇った天井を見詰め、ぼんやりとさっきまでの事を考えていた。

 

 

 

 しかし、シュナはよくツキハを見つけれたよなぁ。

 

 まあ、抜け駆けを防いでくれた事は見事だったわ。

 

 流石に、俺だけ駄目は許容出来ないしな!

 

 でも、何でツキハのヤツは、シュナの言う事だけは素直に聞くんだろう?

 

 何か、過去にトラウマでもあるのかねえ……。

 

 まあ、どうでもいいか。

 

 やっぱり、ツキハを抑えれるシュナは流石だ。

 

 しかしあれだ。シュナを怒らせるのは絶対に駄目だよなぁ。

 

 あのツキハが迫力に負けて黙るんだから。

 

 まあ、俺も気を付けないとな……。

 

 

 しみじみと先程までの出来事を思い返すリムル。

 

 

 湯気で天井に出来た水滴が一滴(ひとしずく)ピチャリと、リムルの頭に落ちて来る。

 

 

 

 





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