忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。118話です

 ツキハ

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 コハク

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118話 会談!? ツキハはいつもの如く逃亡。

 

 

 翌日の朝。

 

 

 うっ うぅぅ 頭が痛い です

 

《解。当然です。無理に『耐性』を弱めた反動が出ているのです》

 

 

(うっ……冷静なツッコミ、ありがとうございます。それにしても智慧之王(ラファエル)の声が、何となく怒った感じに聞こえ、る? いや、気のせいに違いない。自分の能力(スキル)から怒られるなんて、そんな話がある訳ないだろうがあ!)

 

 と、いう事で気を引締め直すリムル。

 

 今日は重要な会談の日。

 

 今後の魔国連邦(テンペスト)と神聖法皇国ルベリオスとの関係をどうするのか、それを相談の上で国家間の取り決めを行うのだ 

 

 

 リムルは猛烈な二日酔いに耐えながら、今日の会談の支度を始めていた。

 スライム形態から人型へと形態変化し、服を着ていく。

 

 

(うぅー……。とりあえず、ツキハとコハクもルミナスとは無関係ではないし、こちら側のオブバーザーとして会談の出席をコハクに頼んだんだけど、上手くツキハも連れて来てくれるかなぁ……)

 

 そんな事を考えていると、シュナが「おはようございます」と、リムルの自室に入って来た。

 

 そして――

 

「リムル様。残念ながらツキハ様は既に、お出かけをなさっていました」

「え? 早っ! 何なんだアイツの勘の良さは、ミリム並かよ!」

 

 朝早くにツキハの会談出席拒否を阻止する為シュナがツキハを迎えに行っていたのだが、時すでに遅し状態であった。

 

(この為にコハクにだけ『思念伝達』でこっそり頼んだんだけど。どこで気付きやがったんだよ、ツキハのヤツは!) 

 

「宴会が終わってから一度自宅には戻ったらしいのですが、明け方には姿を消していたようです。あ、それとコハク様は時間が来たら会議室に向かうとの事です」

「そうか。ご苦労だったなシュナ」

「いえ、まさか何も聞かされていないのに、今日の事を察知するなんて、ツキハ様らしいです。フフッ」

「そうだな、ハハッ。それじゃあ、行こうかシュナ」

「はい、リムル様」

 

 シュナの笑顔に癒されながらリムルは、会議室へと向かう。

 

 

 魔国連邦(テンペスト)側の出荷者は、リムルとシュナ、シオン、そしてリグルドとベニマル。

 後は、司法、立法、行政を司る長官である、ルグルド、レグルド、ログルドの三名の長老達である。

 

 そして、コハクにヴェルドラもいる。

 そのヴェルドラは、漫画を手に持って聞く気などなさそうで、コハクに何やら突っ込まれていた

 

 対する神聖法皇国ルベリオス側の参加者は、ルミナスとルイ、そしてヒナタと隊長格の五名。

 

 この五名が、リムル達に向かって軽く自己紹介をする。

 

 先ず、〝光〟の貴公子と呼ばれる、副団長のレナード。

 

 ヒナタに次ぐ最強の騎士と呼ばれる、〝空〟のアルノー。

 それから、〝地〟のバッカス、〝水〟のリティス、〝風〟のフリッツと続いた。

 

 これで参加者が揃ったので、お互いに向かい合うように座り、会談が始まった。

 

 

 先ずはお互いのすり合わせから始まり、それを見ながら双方の状況の流れを確認していく。

 

 互いの言い分は想定通り。

 

 リムル達からすれば言うまでもなく、ファルムス王国の侵攻から全てが始まった。

 リムルは、一貫して立場が変わることなく、相手の出方によりこちらも対応を変えるというスタンスを取る。

 

 聖教会側としては、ファルムス王国の要請以前に問題が発生していたとヒナタが言う。

 

 つまりは、魔物の国の存在を認める事がルミナス教の教えに反する事となり、それは、信者からの不信を招きかねない重要な案件であったのだ、と。

 

 更に、これを放置すれば、信者の離反を招き、西方聖教会の勢力が衰える原因になりかねないとも、付け加えた。

 

 だからこそ、魔物の国を滅ぼしてしまう必要があったのだと。

 

 そう、リムル達を討つ為の大義名分が何よりも必要だったのだ――

 と、ヒナタはそう言った。

 

「そんな状況の中で、ファルムス王国に滞在していたレイヒム大司教から申し出があったのよ。それを聞いてニコラウスが許可を出したという訳。私としても異論はなかったし、それに、何よりも貴方の事が許せないと思っていたのよね――」

 

 と、ここまでがヒナタの言い分だった。

 

 ファルムス王国が自国の利益を守るべく欲を出した事を利用して、リムル達を滅ぼすつもりだったと、それと同時に、復讐も果たすつもりであった事をヒナタは明かす。

 

「それは、シズさんの件か?」

「ええ、その通りよ。でも、今考えれば、私も利用されていたみたいだけどね。裏で動いていたのが何者なのかわからないけど、東の商人が絡んでいたのは間違いないわね」

「商人、ねぇ。やはりか。魔王クレイマンのところにも出入りの商人がいたらしい。俺の配下になったゲルド達、豚頭族(オーク)の軍勢も武装していたからな。それで、どこかの国と繋がりがあると思っていたんだよ。で、その取引相手が、東の商人だったという訳だ」

 

 ヒナタの言葉にリムルが頷き、言葉を重ねる。

 

 リムルはシュナに調べさせていたクレイマンの帳簿には、膨大な量の商品をやり取りした記録が残されていた。

 

 それらの品々は帝国製の物が大半で、元はドワーフ王国で制作されたものだった。

 これには、ドワーフ王国と帝国の間に正式な取引があるので、不審な点は何もない。

 

 シュナが細部まで丁寧に調べたが、取引先の名前は一切出てこなかった。

 

 このクレイマンのやり方は恐ろしく用意周到で、証拠を何一つ残さぬよう徹底したやり方だった。

 もちろん、中庸道化連に関する事も何一つ見つける事は出来なかった。

 

 ただ、この膨大な商品の取引に幾つかの食料なども含まれていて、シュナの調査によると自国生産出来ないものは他国からの輸入に頼っていたと判明したのだ。

 

 この大量の食料品の輸入は、調度品などと違って転送出来ない。

 ならばと、隣国である東の帝国からの輸入しか考えられないと。

 

 そんな訳で、繋がっていたのは東の商人だとリムルも疑っていたのだ。

 

「そう。私は彼等から、貴方がシズさんを殺したと聞かされたわ。そして丁度、イングラシア王国に滞在していると。だからあの時、貴方を始末しようと動いたのよ」

「確かにな。あれは最悪のタイミングだった。今思い出しても腹が立つ――」

 

 リムルがそう言った時、ヒナタが僅かに身震いをする。

 ヒナタだけではなく、アルノー達聖騎士も身を縮めていた。

 

「威圧するのは()めよ。未熟者め、怒りで『魔王覇気』が漏れておるぞ」

「何してはるんやリムル。こういう時こそ感情を制御せな、アカンで」

 

(おっと、いかんいかん。二人に指摘されて気付いたが、ちょっと妖気(オーラ)が漏れていたようだな。最近は完璧に制御出来るようになっていたんだけど、怒ったりとか感情が乱れると駄目みたいだなぁ)

 

 リムルは慌てて謝罪して、話を続けていく。

 

「まあ実際、その東の商人とやらが黒幕で間違いないだろう。それで、名前はわかるのか?」

「ダームと名乗っていたわね。でも十中八九、偽名でしょうね」

「偽名か、そうだろうな」

 

 だがリムルは、名前事態さほど重要視はしていなかった。

 何よりも、東の商人が黒幕だという事が重要だったのだ。

 

「魔王クレイマンと東の商人とは、繋がりが間違いなくあった。そして、ファルムス王国の国王をけしかけたのも、恐らくだがそいつらだろうよ」

「それは間違いないわね。レイヒムからの事情聴取で、その点はハッキリしているわ」

 

 リムルはそれに一つ頷き、考えを纏めるように言う。

 

「魔王クレイマンが、裏でファルムス王国を操っていたのは間違いない。だが、協力関係にあったという訳ではなく、むしろこれは相乗りしたという印象だな」

「それを仲介したのが、東の商人達という事ですか」

 

 リムルの言葉に納得したようにベニマルが言った。

 

 そしてヒナタも――

 

「私もまた、その作戦に利用されたのね」

 

 と呟き、剣呑(けんのん)な気配を漂わせる。

 

 ここで、皆の目がコハクに向けられた。

 

 魔王クレイマンが暗躍していた時に、そのクレイマンの依頼でコハクとツキハは動いていたからだ。

 その向けられた視線を気にもせず、いつもとは違う真面目な顔付で話すコハク。

 

「リムルにはもう説明したけどな、今一度うちらが何の依頼で動いていたかを、話しますえ」

 

 コハクは会議室にいる一同を見渡すと、淡々と話し始める。

 

「クレイマンの依頼は、ここ、魔国の調査依頼だったんや。リムルの配下の能力や全体の戦力に、作られる武装とかのな。あと、ここの腕利き武器職人の拉致やな」

「コハク。貴様等は、かなり前からクレイマンとの取引をしておったな。その延長線上にあるのが今回の事なのか?」

 

 ここでルミナスがコハクに問いかけて来る。

 

「違いますな。うちらはもう百年以上も前からクレイマンと様々な取引をしてますけども、そう頻繫にはなかったんどすえ。主にうちらの持つ情報の買取をしてたんや、クレイマンは」

「ふむ。その情報とやらは、裏、それももっとも深い闇の情報じゃろう? 貴様等は、この世界でもっとも深い闇の中を(うごめ)き彷徨い歩く猫じゃからのう」

「人を蟲みたいに言わんときや、ルミナス。まあ、そのクレイマンすらも届かない闇の情報を売ってたんやけどな。もっともクレイマンがこの魔国にちょっかいを出そうって気になったんは、リムルが豚頭帝(オークロード)を倒したからやねん」

「ああ、それはミュウラン殿から聞いている」

「さよか。で、クレイマンはお遊びの邪魔をしたあんさんに目を付けた訳やねん。そこら辺りでうちらに依頼が来たんや。後は、酒の席でも話した通りやけど。ヒナタ以外の聖騎士達は初めてやな、これを聞くのは?」

 

 コハクが聖騎士達を見ると、五人は静かに頷いた。

 

「それでや、クレイマン最後の依頼が、この魔国を攻め滅ぼせやねん」

 

 これを聞いたアルノー達聖騎士は、一瞬驚くも、直ぐに平静を取り戻す。

 ベニマル達はこれを知っていたし見ていたのだから、とりたて騒ぐ様子もなかった。

 

「それで、あの邪竜と邪猫の一騎打ちという事じゃな」

「せやねん。ところでな、邪を付けんでくれはるか? ルミナス」

「フンッ」

 

 コハクがにこやかに邪を付けるなと言うと、ルミナスはそれに軽く鼻を鳴らし返す。

 

「ま、よろしおす。それで負けたうちらは、ヴェルドラはんの要望でこの魔国に住み着いた訳やで。リムルと交わした傭兵契約は、魔国連邦(テンペスト)の危機に、うちらの全戦力を貸し出すという事と、後は、情報の売買と、この国の製品を優先的に買い取り出来るというだけやねん」

「今一度聞く、コハク。本当にそれだけなのだろうな?」

「ほんまや。リムルも()うた通り、過度の肩入れはしまへんし、契約以外はうちらの好きにさせてもろうてますえ」

「その通りだ、ルミナス。コハク達を取り込んだ訳ではない。あくまでも、傭兵契約を結んだだけだ。そこは、昨日話した事に噓はないよ」

「そうか」

 

 訝し気にコハクに聞いたルミナスは、コハクの返答にリムルもそうだと断言したの聞き、一言だけ発して、その件は終えた。

 

 ルミナスの危惧。

 

 それは、ヴェルドラとツキハ、コハクが一緒の国に住んでいるのが問題だったのだ。

 この三名が同じ場所にいる、これだけで厄介では済まされない事が起きる可能性が大だからである。

 

 とりあえず、番外魔王の戦力を取り込んだわけではないと納得をしたルミナスは話を本題に戻し、リムルに問いかける。

 

「ところでだ、誰が絵を描いたかわかってはおるのか?」

「そうだな、全ての事柄に東の商人が絡んでいる事からも、利害関係がたまたま一致しただけではないように思う。クレイマンは、真なる魔王へと覚醒しようとした。ファルムス王国は、領土的野心からこの国を奪おうとしていた。そして、それを裏から操っていた〝あの方〟とやらがいる――」

「〝あの方〟か。クレイマンが口にしておったヤツじゃな」

 

 そう言いながらルミナスは、リムルと頷き合う。

 

「何の話なの?」

 

 ベニマル達は事情を知っているが、ヒナタ達には初耳だった。

 

 そう尋ねられリムルは、その事についてヒナタ達に軽く説明をする。

 

「実はさ、魔王クレイマンは何者かの意志で動いていたみたいなんだ」

「小者のクレイマンにしては天晴な事に、最後までその正体を口にはぜなんだがな」

「そう……」

「もしかするとさ、その正体は〝七曜〟達だったり、して?」

 

 リムルの頭の中に天啓ののように閃いた、〝あの方〟の正体。

 適当に口にしただけのリムルだったが、意外にも真実味があるように思えていた。

 

 すると。

 

「何じゃと? 貴様、(わらわ)に内緒で〝七曜〟達が動いていたと申すのか?」

 

 ルミナスが不機嫌そうにリムルを見る。

 自らの手で粛清したとはいえ、自分の配下達だった者が疑われては面白くなかったルミナスであった。

 

 そこへ――

 

「なるほど。その可能性は否定出来ないね」

 

 何と、ルミナスの腹心であるルイがリムルの意見に同意したのだ。

 

「ルイ、貴様までもそんな戯言(たわごと)を――」

 

 ルミナスの威圧は、リムルからルイへと移った。

 

 だがしかし、ルイは臆する事もなく、自分の意見を堂々とルミナスに述べる。

 

「ルミナス様、お聞き下さい。あの者達は、ルミナス様の寵愛を欲しておりました。それもそのハズ、御自覚はおありでしょう?」

「何の話じゃ?」

「寵愛――つまり、愛の接吻(ラブエナジー)です」

 

 そう言われたルミナスは、ようやくそれに気付く。

 

「……」

「ルミナス様がその儀式を、前回行ったのは、もう百年以上も前の事です。最初は週に一度の儀式だったのに、いつしか段々とその間隔が延びていったのです。もしかして、お気付きでは、ありませんでしたか?」

 

 ルイからの指摘に苦々しい表情を取るルミナス。

 

「なるほどな。確かに我等は不老不死故に忘れがちになるが、あの者共は元は人間だったな。(わらわ)生気(エナジー)を与えてやらねば、死ぬ事はないにしても老いてしまうのが必然か」

「その通りです。ですのであの者達は、ルミナス様がこれ以上〝お気に入り〟を作らないよう必死だったのです――」

 

 そうルイは説明し、もう一度ルミナスの歓心買おうと色々と策を講じたのだろうと言う。

 そして、〝日曜師グラン〟ならばクレイマン如きに遅れは取らないだろうから、クレイマンを籠絡していたかもとも、言った。

 

 そこでルイの説明は終わった。

 

 リムルの思い付きの発言だったが、意外にも道筋が通ってしまう。

 

(うーん、これは当たりか? 自分の溢れる知性が怖い)

 

《……》

 

智慧之王(ラファエル)先生が何か言いた気そうだけど、気のせいだね。ん? コハクが今俺を見て、一瞬だけ口元が小さく笑った……? いや、これも気のせいか)

 

 そんな事を考えるリムルであった。

 

「まさかそんな理由で私を邪魔に思っていたのかしら、七曜達は」

 

 それを聞いたヒナタが呆れ顏で言い放った。

 

「そうだね。クレイマンを覚醒させて、君と戦わせるつもりだったのだろう。少なくとも、彼等では君には勝てなかったからね。手段を選ばなかった可能性は高いと思うがね」

「ではあの時も、私を排除しようとしてリムルとぶつけたと? ルミナス教の教義も守れるし、一石二鳥という思惑もあったと考えられる訳ね」

 

 ルイの推論をヒナタが引き継ぐように言う。

 

 その時、リムルが気になった事を口にする。

 

「その〝七曜〟が裏にいたというのは、間違いないのか?」

 

 リムルの質問に、ヒナタの隣に座っていたレナードが答える。

 

「はい、それは間違いありません。あの商人共を我等に紹介したのが、その〝七曜の老師〟達なのです」

 

(と、なると。益々〝七曜〟が疑わしいのかぁ。元は英雄達というのもあって、疑いを持たなかった……。そして、皆が踊らされる原因になった、と。しかも、間違いなく俺にヒナタを殺させようとしていたし……でって、あれ?)

 

 リムルが何かを思い出したように声を出す。

 

「なあ、〝七曜〟っていう位だから、七人いるんだよな? 後もう一人残っていないか?」

 

 そう考えて少し慌てるリムルに、ヒナタが冷たく笑って答えた。

 

「フフッ、その心配はないわ。本国に残っていたニコラウスから連絡があって、最後の一人も始末したそうよ。貴方からの伝言が記録された水晶球に、改竄の痕跡を見つけたそうよ。それを証拠に、断罪を行ったみたいね」

 

 薄く笑いを浮かべながら言うヒナタ。

 

(あぁー、それ。(はた)から見てると怖いから、とても。美人が悪巧みしてるようにしか見えねえし。あれがヒナタが誤解される理由の一つだよなぁ、と。これは置いといて、だ)

 

「ちょっと待てよ。その最後の一人は誰だったんだ?」

 

 リムルはどこか嫌な予感に襲われて、恐る恐る問うてみた。

 

(まさかとは思うけど、クレイマンより強い〝日曜師〟グランじゃないよね? それを倒したニコラウスって、油断出来ない男になるんですけど……)

 

「〝七曜〟の筆頭、〝日曜師〟グランだったらしいわ。あの男が自分で動くことは滅多にないから、多分間違いないでしょうね」

「ほう? あのグランベルを倒すか。ニコラウス、確かお主に惚れ込んでいるという枢機卿じゃったな。で、どんな手を使ったのじゃ?」

「余り褒められた手ではないでしょうけど、霊子崩壊(ディスインテグレーション)を事前に仕込んでおいて、その不意の一撃で以って、仕留めたそうです」

「なるほどのう……。そのような罠に(はま)るとは、グランベルも老いたものよ……」

 

 ルミナスが嘆く様に呟くが、リムルにとってはそれどころではなかった。

 

 リムルの願い虚しく、危険な男が一人追加となってしまったのだ。

 不意とかどうこうではなく、霊子崩壊(ディスインテグレーション)を使いこなすという事が問題だった。

 

 大半の者には、危険極まりない魔法なのだ。

 

 以前、霊子崩壊(ディスインテグレーション)についてコハクとツキハと話していた時に、コハクが「霊子崩壊(ディスインテグレーション)はな、原理さえ知っていれば、なんも怖くはないんえ」と軽く言い放ち。

 ツキハに至っては、「んなもん、術式ごとぶった斬ってチョンチョンパッで、終わりじゃん」と、笑いながら言い。

 

 それにリムルが、「そんな事出来るのはお前等だけだからな。いいか? 笑いながら簡単に言うのはお前等だけだから!」と、大事な事は二度言いますとばかりに言ったのは記憶に新しいところである。

 

(ほんと、誰もがアイツら並みに簡単に対処出来れば、苦労はしないんだけどね。ニコラウス枢機卿、その名前は覚えておくとしよう)

 

 リムルはやれやれと心の内で独り()ちる。 

 

 

「ところでルミナス様、そのグランベルというのは、〝日曜師〟グランなのですか?」

 

 何やらグランの事が気になったのか、ヒナタがルミナスに質問をした。

 

「そうじゃ。アヤツの本名はグランベルと言った。昔は〝光〟の勇者だった男でな、(わらわ)とも戦った事があるのよ」

 

 そんな会話をするルミナスとヒナタを見ていたリムルは……。

 

(んん? ルミナスの口調って、たまにあどけない感じになるんだな。コハクと話してた時も、そうだった感じがあったような気がする。無理に偉そうな感じにしているように思うけど、気のせいだろうか? どことなく漂う大物感に誤魔化されているような、もしかして、コハクとツキハはそれに気付いていた……?)

 

 そんな事を考えた瞬間、リムルはルミナスにギロリと(にら)まれた。

 

(うん、そうだ。やはり気のせいに違いない!)

 

 と、リムルはこの疑惑をそっと胸の内に仕舞った。

 

「そうですか……。まさか、いや……」

 

 ヒナタが何か言いたそうだったが、確信が得られずに、それを口にする事はしなかった。

 

「そうじゃのう。〝勇者を名乗るには因果が巡る〟故に、あの者も心の奥底では、(わらわ)を恨んでおったのやも知れぬな」

 

 ルミナスの言葉を聞いて、リムルはなるほどと思った。

 

 ミリムが魔国滞在中にリムルに言っていた、『勇者と魔王には因果が巡るのだ』という言葉。

 

(〝勇者と魔王には因果は巡る〟か。ツキハも、ヴェルドラを封印した勇者を倒す為に探していると言っていた。ツキハは魔王ではないが、魔王そのものだしな。グランベルも、魔王ルミナスに敗れ恭順したけど、本心は複雑な思いがあったのかも知れない。数多(あまた)の英雄を育てたという伝説上の存在になってまでも、その因果からは逃げられなかったのだろう。まあ、今となっては憶測でしかないけどな、グランベルの事は……)

 

 そう考えたリムルだった。

 

「けど、これで一安心だな。魔王クレイマン、ファルムス王国、七曜の老師達、俺達にチョッカイを出していたヤツ等は、滅んだ訳だし」

 

 そう結論を下したリムルに、ベニマルを筆頭に配下の者皆が頷いた。

 

「これで一件落着となりそうですな」

 

 リグルドが嬉しそうに笑う。

 

 そうして、空気が緩んだ気配を感じたリムルが笑いながら言う。

 

「いや、本当だよ。厄介な敵が多かったけど、これで問題は片付いたも同然だな。でもなぁ、ほんと裏で暗躍されると面倒極まりないよな。コソコソ動き回っている商人に気付かなかったら、ユウキが黒幕なんじゃないかと、疑うところだったよ」

 

 実際リムルにとって、ユウキはとても疑わしかった。

 

 イングラシア王国に滞在している事を知っている人間で、ヒナタと繋がりがある人物となると、一番疑わしいのがユウキであったのだ。

 

 そんなリムルを見ていたコハクは――

 

(ほんま、天然は怖いどすなぁ。知らんうちに本質を言い当ててるやないどすか。まあ、確信には至ってはいないと、いったところやな。同郷のよしみで確信には至らず……甘いどすなぁ。でも、それがあんさんの良いところでもあるんやけども、命取りにもなるんやで。元は、同じ平和な日本の人間でも、こうも違うと、ほんま面白いどすなぁ。飽きんお人やで、リムルは。フフッ、フフフフ)

 

 黒幕の正体を知っているコハクは、これからリムルがどう真実に近づき、そしてそれを知った時、どんな答えを出すのか? それが楽しみで心の内で笑みを漏らしてしまう。

 

 

「ユウキが黒幕、ね。絶対に違うとは、言い切れないかもね」

 

 リムルが七曜の老師達が黒幕で、東の商人を利用したのだと安心したところに、ヒナタが不穏な事を言い出してしまう。 

 

「おいおい、同郷を疑うのか?」

「あら? 私はあらゆる可能性を考慮した事を言っただけよ。それに、黒幕が滅んだとするのは、早計だと思う。だって、ロイを倒した相手の目的も不明だし、肝心の東の商人達は、西側諸国に根を張っているのだしね」

 

 そう言われたリムルは、冷水を浴びせられた気分になった。

 

 安心するには、まだ、早過ぎたのだ。

 

「そうか、そうだったな。まだ全てが終わった訳じゃなかったな。楽観視は、駄目だ。いかんいかん」

 

 リムルは緩みかけた気持ちを引き締め直す。

 

「そうですね。皆にも通達しておきましょう」

 

 ベニマルもそう頷き、対面では聖騎士達も納得の表情を見せる。

 

(うーん。やっぱりコハクは、何か知ってそうな気もするが……) 

 

 そう思ったリムルは、思い切ってコハクに聞いてみた。

 

「なあコハク。お前さ、黒幕について何か情報を持ってはいないか?」

 

 いきなりそう切り出したリムルの問いに、皆がコハクを見る。

 

「せやねぇ……。思い当たるところなぁ、あんさんが()うた、自由組合総帥の神楽坂勇樹(ユウキ・カグラザカ)くらいしか思い当たらんで?」

「そうか。他に心当たりはないのか?」

「あらへん。そこまで()うなら、イングラシア王国にでも行って調べてきますえ。どや?」

「いや、そこまではしなくてもいいよ。お前がそう言うのなら、そうなんだろう。いきなり聞いて悪かったなコハク」

「かまへんでリムル。フフッ」

 

 リムルは深くは聞きもせず、コハクの言った事を信じた。

 

 しかし、コハクは嘘は言ってはいなかった。

 

 心当たりはユウキしかいないと言ったのである。

 これは暗に、あんさんの言う通りユウキが黒幕なんやでと、教えたも同然なのだが、流石にそれは誰も気付きはしなかった。

 

「まあ、ヒナタの言うように、黒幕が残っている可能性も高い。〝七曜〟が黒幕かも知れないと言ったのは俺だけど、あくまでも思い付きで言っただけだしな。コハクもそこまでは情報を掴んではいなかった。決定的な証拠が出た訳でもないし。決め付けは良くなかった。この件に関しては、要注意という事でいこう」

 

《……》

 

(そうだな、思い込みは禁物だ。今回の推論はかなり自信があったけど、智慧之王(ラファエル)先生が同意してくれなかった。でも、否定の言葉もなかったからその可能性もあるかも知れないけども、確信が持てないといったところだろう。それでも俺としては、智慧之王(ラファエル)先生を信じるだけだ)

 

 そしてリムルは、これで良しとしようと思ったのであった

 

 聖騎士達もリムルの言葉に、納得を示していた。

 

 

 これで重要な会談は終わり、後は両国の関係を取り決める事を残すのみとなる。

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

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