忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。119話です

 ツキハ

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 コハク

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119話 うちらは危険な魔物であり、そうあらなアカンねん

 

 

 重要な会談も、互いの状況認識をすり合わせたところでほぼ重要な話も終えた。

 

 後に残るのは、今後どのような付き合い方をするか、である。

 

 

 丁度その時、シュナがコーヒーとお茶菓子を運んできた。

 今日のメニューは、ポテトフライとバタークッキーである。

 

 リムル達は当たり前のように、聖騎士達は戸惑いながら、早速それに手を出した。

 

「お、オヤツか? 我は大盛で頼む」

 

 会話に一切参加せず漫画を読んでいたヴェルドラが、素早く声を上げる。

 こういう時にツキハがいないのは幸いしたのか、終始ヴェルドラは大人しく漫画を読んでいたのだ。

 

「はい、心得ておりますよ」

 

 と、シュナの対応もいつもオヤツの時間になると、決まってヴェルドラとツキハが〝大盛〟でと頼むものだから慣れたものである。

 

「あら、これも美味しいわね」

 

 ヒナタがバタークッキーに手を出したのを見て、聖騎士達も迷いを捨て、各々ポテトフライやバタークッキーに手を伸ばしていく。

 

 こうしてこの場は、ひと時の(くつろ)ぎの時間となった。

 

 

 

 オヤツを食べ終えたリムルが一息を吐いた。

 

「さてと、それでは今後の関係だが――」

「その前に、ハッキリさせておきたい事があるの」

 

 リムルの言葉を遮るように、ヒナタが発言して来た。

 

「今回の件、私達の謝罪を受け入れてもらえたのよね?」

「ああ。我が国としては今後良好な関係を築きたいと思っているし、これ以上問題にするつもりはないよ。後、傭兵商会ルヴナンに関しては、あくまで傭兵契約を結んだだけで、人類と敵対するつもりはないからな」

「ええ。それは承知しているわ」

「なら、そういうことだ」

 

 ヒナタの問いにリムルはそう答える。

 

 これはリムルだけの意見ではなく、ベニマル以下幹部達と相談して決めた事でもあった。

 誤解も解けたし、これ以上の争いも必要もない、だから手打ちでいいだろうと。

 

 そう判断してのリムルの返答だったのだが、それでは納得をしない者がいた。

 

 ルミナスである。

 

「それでは駄目じゃ。(わらわ)は借りを作るのが嫌いなのじゃ。今回は明らかにこちらに責がある。よって、何らかの形で賠償を行おう。手打ちはその後じゃ」

 

 ルミナスはそう言って、嫌そうにヴェルドラを睨み、ちらりとコハクをも軽く睨む。

 要するに、ヴェルドラとコハク、ここにいないツキハにどういう形であれ負い目を作りたくはないのだろう。

 

「ルミナス様もこう(おっしゃ)っているし、私としても迷惑をかけたままというのは心苦しいわ。出来る限りの誠意を見せたいわね」

 

 ルミナスの言葉に追従するように、ヒナタもそう申し出る。

 

 

(うーん、賠償ねえ……。そうは言っても、金銭とかの解決は俺達の意図するものではないしなぁ。それなら、ルミナス達が、というよりも、神聖法皇国ルベリオスが俺達の存在を認めてくれるなら……。その上で、敵対はしないと宣言さえしてくれるなら、言う事はないな)

 

 

「そうだな。だったらさ、俺達の国を正式に承認して、国交を結んでくれないか? ルヴナンとの契約があるから難しいかもしれないが」

 

 リムルがそう申し出ると、ルミナスは軽い調子で頷いた。

 

「構わぬ。馴れ合うつもりはないし、いずれはそこのトカゲと、今日はいないネコを成敗するつもりじゃがな。ルヴナンに関しては、小国などや中堅どころの国などが傭兵契約してるところもあるから、今更じゃ。〝触れざる者〟認定を解くつもりもないし、問題はないじゃろう。忌々しいが、ヤツ等は必要悪でもあるしな」

 

(ルミナスの怒りの大半はヴェルドラとツキハに向かっているようなので、最悪はこの二人を犠牲に差し出すとしよう。しかしコハクのヤツ、どうやってルミナスの怒りを逸らしたんだろう? 解せぬ……。まあ、いいか。それで暫くの間平穏が訪れるのであれば、俺としては迷う選択はないのだ)

 

「ちょっと待て、リムルよ。お前今、かなり酷い事を考えておらぬか?」

「気のせいだよヴェルドラ君。君がツキハ君と一緒に、ちゃんと大人しくお利口さんにしていたら、何も心配する事ないのだからね」

「まてまて、お前が〝君〟を付ける時は、大概悪辣な事を考えておるではないか!」

 

(チッ、ツキハの影響か? ヴェルドラも鋭くなったものだ。だが、甘ーい)

 

「まあまあ。俺のバタークッキーもやるからさ、ツキハにもちゃんと言い聞かせて、ルミナスと仲良くしろよ」

「何? そういう事ならば、善処しようではないか。ツキハにも我がちゃんと言い聞かせてやろう。まあ、我が本気を出せば、ルミナスを認めさせる事など簡単な話よ! クアーーーッハッハッハッ!」

 

(ほらね? ヴェルドラはある意味単純なのだ。今ここにツキハがいないのは、僥倖(ぎょうこう)だったのかもしれない。アイツがいたら、確実にルミナスと言い合いに発展していただろうしな)

 

「調子に乗るでないわ! じゃが、(しば)しの間は休戦と洒落込もう。今後百年、国交を結ぶのも良かろうな。それを(わらわ)からの、()びの証とするが良い」

 

 そう言ってルミナスは、驚く程簡単に休戦を受諾したのである。

 

「え、いいの?」

 

 思わず声に出して驚くリムル。

 

 ベニマル以下、リグルドを含む長老達も、ルミナスの決定に驚いていた。

 

 コハクだけただ一人、ルミナスがこう言うのを予想していたのか、平然とコーヒーのお代わりをシュナに頼んでいた。

 

 ヒナタ達も同様に、この展開は予想していなかった模様。

 

「相互不干渉ならばともかく、国交樹立を認めるのですか?」

 

 ヒナタがルミナスに問う

 

「くどい。これは(わらわ)の決定である!」

 

 そう言うだけ言うと、後は任せたとばかりにバタークッキーのお代わりに手を伸ばす。

 

 ヒナタは困ったと言いた気な表情を浮かべるも、ルミナスの決定に逆らうつもりはなかった。

 

「こうなっては、従うしかないだろうねえ」

 

 と、ルイの言葉にヒナタは頷き、どう話を纏めるか思案を始める。

 

 だが、話の展開の早さに付いて来られないものも当然いた。

 

「国交ですか、そ、それはしかし――」

 

 と、レナードが慌てたように口にする。 

 

 その問題を指摘すべきか迷ったレナードは、チラリと視線をヒナタに向けると、そこへ。

 

「いいんじゃないの? リムル殿達が真に邪悪な者だったならば、既に俺達はこの世にはいないのだから。番外魔王の眷属も、伝承で言われるように兇悪ではなかったし」

「そうだな。リムル殿達は信用出来る。番外魔王達に関しても、ルミナス様の態度を見れば心配する事もあるまい。魔物という偏見は捨てるべきだ」

「私も賛成です。ソウエイ様は、とても紳士的でした」

 

 フリッツが軽く言うと、アルノーとリティスが賛同を示す。

 寡黙そうなバッカスも、それに同意するように頷いている。

 

 仲間達のそんな声を聞いても、レナードは慎重な態度を崩さなかった。

 

「しかし、問題があります。我等の教義をどう扱うのか。それ次第では、西方聖教会そのものが矢面に立たされてしまいます。流石にそれは許容出来ません」

 

(教義――魔物の生存を認めないとうアレか。確かにそりゃそうだな。俺達の生存を認めれば、今までの教えは何だったんだという話になる、と。せっかく問題が片付きそうだったのに、事はそう簡単に運ばないよなぁ……)

 

 リムルがそんな事を考えていると、当のルミナス本人がとんでもない事を言い出す。

 

「くだらぬ。その教義は(わらわ)の定めたものではないし、別段それが守られていなかったからと言って、(わらわ)への裏切りだとも感じぬわ。そもそも、それは迷える民への指針として、当時の指導者達が頭を悩ませて考えた教えでしかないのじゃ」

「せやねぇ。仮にも魔物である魔王が、自己否定するような教義を作るハズも広めるハズもありまへんからな。それこそ、くだらぬ、どすな」

 

 ルミナスの爆弾発言にコハクがトドメを刺す。

 

 この発言に聖騎士達だけではなく、ヒナタにも初耳だったらしく。

 

 「え!? 初耳なんですけど……」

 

 と、驚きを声にして呟いていた。

 

 そこへルイが、この教義の原典は自由に閲覧できるが、その元となった原稿は既に紛失してしまったと言い、あの原稿を見ていれば、そもそもの教義の成り立ちが理解出来ただろうねと言う。

 

 

 ルイ(いわ)く。

 

 この教義とは、ルミナスを信仰する民を守る為のものだと説明する。

 

 ルミナスやルイのような上位者はともかく、下位の吸血鬼族(ヴァンパイア)は人の生き血を(かて)としている。

 

 それも特に、幸福感溢れる人間の生き血は、格段に味がいいと言う。

 

 だがその当時は、魔物の猛威が荒れ狂う世界で、人々は生きるので必死だった。

 それでは当然質の悪い生き血しか得られず、吸血鬼族(ヴァンパイア)にとっても死活問題となっていたという。

 

 そこでルミナスは引っ越しを契機に、人類を保護する方針を打ち立てたと言った。

 

(その引っ越しの原因を作ったのは……。ヴェルドラさんと、その愉快な仲間達のツキハさんとコハクさんだと聞いたけど、その話を詳しく聞くのは絶対に藪蛇になりそうだよね……)

 

 要するに、ルベリオスの民は神ルミナスを信仰し聖騎士達に守られている。

 更に魔王の脅威を演出して、それから守られる事で安堵し、それが強烈なスパイスとして自身の幸福感をより深く嚙みしめ、極上の生き血へとなるのだ。

 

「ルベリオスの民は、神の名の下に守られているのだよ」 

 

 と、ルイは説明を締めくくった。

 

(ふーむ。例えは悪いが保護という名の〝食糧確保〟か。生き血を吸うといっても、本人が気付かないくらいの少量で済むと言ってたな。吸血鬼族(ヴァンパイア)の数に比して民の数が圧倒的に多いのだから、それも納得のいく話ではある。献血を行った代償として、脅威から守られ安隠とした生活を送れる、と。実に平和的な等価交換だよなあ)

 

 リムルはルイの説明を聞きながら、そんな事を考えていた。

 

 そこへヒナタが――

 

「つまり聖典――ルミナス教の教義には、魔物から無用の被害を出さないように書き加えられた条項が多いという事なのね?」

「そうだね、その通りだよヒナタ」

(わらわ)にとって重要なのは、信仰心そのもの。お主達は、(わらわ)を信じる事で<神聖魔法>の行使をしておるじゃろう? それこそが契約であり、絶対的な法則となるのじゃ。民を守るというのは(わらわ)の眷属が履行すべき義務であり、(わらわ)にとってはどうでも良い事なのじゃ」

 

 結論としてルミナスは。

 

 魔物の生存を認めないという教義は、人心を掌握する為の方便に過ぎないと言い切った。

 なれば、その教義を必ずしも遵守する必要はない。

 無理に協議を歪めれば信徒達の間で混乱が生じるが、そこまでする必要はないのだ。

 要は、リムル達を認める理由があれば、それだけで民は納得をするのだから。

 

 リムルはこれでやっと解決かと思ったが、レナードだけは一人難しい顔を崩さなかった。

 

「我等の教義が、神であらせられるルミナス様の意によるものではないと、理解は出来ました。しかし現実問題として、我等は今までその教義に従って生きてきたのです。今更それを簡単に捨てるとなると、やはり問題が生じてしまうかと……」

 

 そう、今ままでの方針を完全に無視するとなると、教団の信者や今ある組織からの反発が大きいのは確実。

 

 ルミナスが人の前に出たとしても、神その人と信じてもらえる保証がないかも知れない。

 だがしかし、それ以前にルミナスは、そんな事は絶対にしないとわかっている。

 

 となれば、教義を絶対視する者との意見の対立で内部分裂をする可能性が高まる。

 

 

(アレか。コハクが酔いに任せて西方聖教会を崩壊させるのは簡単だと言っていた事と、同じ事が起きるのか……)

 

 この事は、コハクが西方聖教会を崩壊させる手口として、似たような事を酒の席で口にしたのをリムルは覚えていた。

 

 コハクはこれを、更に巧妙な策で出来ると豪語していたのは記憶に新しいところ。

 

 教団の崩壊をレナードは深刻に心配し頭を悩ませていたからこそ、ルミナスの言葉であっても素直に頷けなかったのだ。

 

 そんなレナードに対し、ヒナタが(おごそ)かに口を開いた。

 

「それでも、やるしかないのよ。問題が沈静化するまで沈黙を守るつもりだったけど、貴方達が百名も動いてしまっては、各国に筒抜けになってしまったでしょうから。それに、〝三武仙〟の敗北も記者達に目撃されてしまったのでしょう?」

 

 そう言って、レナードからリムルに視線を移すヒナタ。

 

 ヒナタの言う通りリムルは、ディアブロから〝三武仙〟のサーレを倒したと聞かされていた。

 もう一人いたそうだったが、その者はさっさと逃亡したと報告を受けていた。

 

 記者団はそれを一部始終目撃した訳で、ヒナタ達の人類の守護者という地位は、失墜しかねない状況にあったのだ。

 

 そして最悪な事に、聖騎士が敗北をしたと噂が広まれば、不要な混乱が起きるのは必至だった。

 噂が噂を呼び、やがて、教団という外堀を信徒の疑惑が埋め尽くして、不信感という囲いで教団の退路を断つ。

 

 守るべき外堀の埋没――

 

 崩壊の始まりである。

 

 

 リムルはディアブロの報告から、記者団への圧力も可能だと告げられていたのだが。

 

 しかしリムルは――

 

(ああもう、面倒だ)

 

 と思い、口を開く。

 

「それならさ。俺とヒナタが相打ちだった事にしたらいいじゃん。そして、〝七曜〟達の悪巧みに気付いて、俺達と休戦協定を結んだと。俺の正体がスライムだというのは広まっているけど、〝異世界人〟の転生者だって情報も付け加えれば、ある程度は納得をしてもらえるんじゃないか?」

「それは私達にとってありがたい申し出ね。でも、貴方はそれもいいの? 魔王が私と相打ちとか、威厳的に問題があるんじゃないかしら?」

 

(うん、威厳なんてものは俺にはない。何かさ、最近はシュナに怒られてばっかりだし。ツキハとサンコの悪巧みには毎度手を焼かされているし。困ったらリグルドに丸投げして、俺がやっているのはゴブタと一緒に遊びに行くくらいだもの……。だから、相打ちの一度や二度などで、俺の評判に影響は何もないんだよなあ)

 

「問題ないだろ。別に負けた事にしてくれても構わないよ」

 

 勝敗などどうでもいいとリムルが言ったら、その事はヒナタ達にとって驚きの発言だった

 

「あのねえ、今ままで人間に倒された魔王なんて、本当に数少ない事例しか確認されてないのよ? それを簡単に負けたなんて言ったら、それこそパワーバランスが崩壊して大変な事になるわよ」

「そ、その通りですよ! 貴方はまだ、魔王に成りたてなんです。そんな状況で他の勢力に舐められでもしたら、それこそこの地に要らぬ介入を許す事になりますよ!」

 

 ヒナタがリムルに苦言を呈し、レナードもまたそれに続き言い募った。

 

(俺を心配しての言葉だろうけど、でもなあ……)

 

 リムルはヒナタとレナードの言葉をありがたいと感じつつ、ベニマルに視線を向ける。

 

「ベニマル、この地に介入しそうな勢力って、何処か心当たりがあるか?」

「ありません。仮にそんな愚か者がいたならば、俺がひねり潰して見せますよ。それに、傭兵契約を結んだ傭兵商会ルヴナンがこの地にいるのですよ。ならば、今この地はルヴナンの縄張りでもあるのです。そこに手を出したならば、どうなるか? その恐ろしさは、聖騎士の皆さんの方が良くご存じのハズでしょう?」

 

 そうにこやかに言いながらベニマルは、ヒナタやレナード達をゆっくりと見渡した。 

 

「確かにな。(わらわ)でも策なしにアヤツ等の全勢力と事を構えようとは思わん。実態の見えぬ勢力程厄介なものは、ないからのう。リムルよ、お主もこれを見越してのアヤツ等との契約じゃったのだな」

 

 ベニマルの言葉にルミナスが、しみじみとそう言い放つ。

 

(まあねえ。打てる手は幾らでも討つのが定石なんだよ。もう、慢心はしないと、誓ったからね)

 

 ルミナスの言葉に、心の内でフフンと鼻を鳴らすリムルであった。

 

 

 西側諸国に関しては、ディアブロが上手くやっていた。

 記者団を救った事で、かなり強引に計画を推し進めていたのだ。

 

 リムルが受けた報告では、ヨウムが新王として樹立されるのも時間の問題との事だった。

 

 そして、ファルムス王国周辺の小国も、それを後押ししてくれていると。

 この事に関しては、ルヴナンが傭兵契約している小国などが含まれていたのだ。

 

 大国ファルムス王国からのちょっかいを国境沿いで食い止めていた、ルヴナンの傭兵達。

 

 自国の兵を温存しながら、少ない傭兵戦力で大国のちょっかいを防げる。

 大国ファルムス王国といえども、番外魔王率いる傭兵商会ルヴナンとの全面戦争は出来ぬ相談なのだから。

 

 そのファルムス王国に新王が誕生する、それも英雄ヨウムときたら、周辺小国も諸手を上げて歓迎である。

 

 しかも、英雄ヨウムの人となりを表した情報を、契約している小国に流していたのは傭兵商会ルヴナンなのだ。

 

 

 となると、一国でリムル達と事を構えるだけの戦力を有するのは、今となってはイングラシア王国だけになる。

 

 ルミナスが百年の猶予をくれた今、西側諸国を攻略したも同然であった。

 

 

 そして、魔王達も同様。

 

 クレイマンを倒して見せた事で、それなりのパフォーマンスにはなっている。

 リムルが無事ならば、負けたと噂を流しても、それを信じる魔王はいないだろう。

 

 逆に罠だと、疑ってかかるかも知れない。

 

 何よりも、最古の魔王ギィが手を焼くツキハとコハクが魔国連邦(テンペスト)に住み着いたのだから、魔王達もおいそれとは手を出せなくなったのも事実。

 

 だから、リムルにとって勝ち負けなど些細な事であったのだ。

 

「凄い自信ね。それならば、私としても異論はないわ。その申し出をありがたく利用させてもらいます」

「この際だし、この国の住人が〝悪しき者〟ではないと発表しちまいましょう!」

「そうだな。実際、元が子鬼族(ゴブリン)豚頭族(オーク)だったなんて信じられないくらい、気のいいヤツらばかりだしな」

「亜人が魔物か否か、それは今までも議論に上がっていましたわ。ですが、それは偏見からくる差別であると思いますし、今後それを、今一度議論すべきですね」

「そうだな。人と敵対する亜人の存在が厄介だが、ドワーフなどは紛れもなく人類の一員であろう。もしも彼等まで魔物だなどと言い出せば、精霊すらも魔物と区分しなければならなくなる」

 

 大鬼族(オーが)蜥蜴人族(リザードマン)などは、本来亜人という扱いになる。

 だがこれは、人類に敵対していたから、魔物として扱われていたのだ。

 

 そして、その上位種族である妖鬼(オニ)龍人族(ドラゴニュート)などは、区分としては魔物ではなく土地神である。

 

 実は簡単な事で、人類に敵対しているか否かで、その基準を決めていたのだ。

 なので、教義の解釈として、魔物を全て敵と定める事に無理があるのも事実だった。

 

 レナード達がヒナタに、「番外魔王の眷属達も、人類に害がないと発表すべきではないか」といった時、コハクがそれに待ったをかける。

 

「それはアカン」

 

 コハクが静かに口を開く。

 

「どうしてかしら?」

 

 ヒナタがコハクにそう問うと。

 

「うちらの実質は、悪やねん。人類の味方でもあらへん。リムルが人類と共存を目指すのはええ事や。でもな、うちらは人類と敵対もせえへんけど、馴れ合いもせえへんねん。あくまでも人類は、うちらの商売相手だと、いう事やねん」

「ええ、それは酒の席でも聞いたからわかっているわ。でも、コハク達にとって、これはいい契機になるのではなくて?」

 

 何故こんな良い話を拒否するのかヒナタはわからなくて、コハクに問い返すも――

 

「せやねえ。先ずリムルのところの魔物は、人を殺してないねん。リムルの教えを守り、人と仲ようしようとした結果があれやったけど、それでも暴走もせずに人類に牙を剝かなかった。だから、アンタらの言うように悪しき者ではないし、本当にええ子達ばかりどす」

 

 ここでコハクは一度言葉を区切り、穏やかな目でヒナタとレナード達を見る。

 

 そして――

 

「でもな、うちらの(眷属)達はな、ぎょうさん人も魔物も殺して来てるんやで。うちとツキハもそうや。面白半分で人を殺した事は一度もあらへん。せやけど、うちらに牙を剥いた者には、人も魔物も容赦しないんや。徹底的に、潰す。そうやってうちらは、五千年生きて来たねん」

 

 そう言ってコハクは、ふと窓の外の流れる雲に目をやる。

 

 コハクの話にヒナタもレナード達も黙って聞き、一言も言葉を発さなかった。

 ヒナタ達を前にして取り繕う事は一切せずに、淡々と自分達のやって来た事を話すコハクに、リムル達も口を挟むことはしなかった。

 

「うちとツキハが小国二つを滅ぼしたのは、あんさんらも知ってる史実や。国を滅ぼしたいう事はな、そこに住む、人間全てを滅ぼしたという事やで。男も女も、老人も子供も赤子も皆もろともにな。そんなうちらが、あんさんらの好意を受ける訳にはあかんねん。それに、この業は未来永劫うちとツキハが背負っていかなアカン。この覚悟でうちらは、小国二つを滅ぼしたんや。本質は、人類に仇名(あだな)す魔物なんやで、うちらは」

「ねえ、コハク。一つ聞いていいかしら?」

「なんえ?」

「その滅ぼした小国は、貴女達に何をしたの?」

「一つ目は、魔物であるうちとツキハを純粋に殺す為に、国の全兵力を差し向けようとして来たから、こっちからその国に乗り込んで、一夜で国を灰にしてやったねん。二つ目は、支配の術式でうちを隷属させようとした小国の王がいたんや。それでツキハが激怒してな、眷属を皆引き連れて、その国を灰燼に帰したんや。なーんも、残らんかった。うちも、広域殲滅魔法でその王が住む城ごと街を吹き飛ばしてやったんやで。こうせな、うちらを舐めてかかる愚か者が、また出てきはるからな。うちらが魔王と同等の力を持つ魔物やと、こんな簡単な事もわからん人間もいてるんや。だから、うちらは〝危険な魔物であり、そうあらなアカンねん〟、ヒナタ」

 

 コハクは一瞬フッと(うれ)いた目をしてそう言うと、いつもの調子に戻る。

 

 レナード達も真剣な表情でコハクの話を聞いていたが、返す言葉が見つからなかった。

 ヒナタだけは黙って聞いていて、下を向いて何か小さく呟き、またコハクに視線を戻していた。

 

「それにな。凶悪なうちらをリムルが抑えている、この事実が魔国連邦(テンペスト)の強みになるんやで。そう見せるように情報操作はしてるさかい。フフッ」

「そう。そこまでやるなんて、流石は情報操作と収集に()け、太古から闇に潜む者と言われてるだけあるわね」

「へぇ、おおきに。まあ、うちらは今まで通りでええんやで。その分、ベニマル達の事を危険な魔物ではないと宣伝しておくれやす。まあ、うちの(眷属)達とは仲ようしてもかまわへんけども、油断するとあきまへんで? えらい目に合うさかいな。フフフッ」

「そうね、気を付けておくわ。フフッ」

 

 コハクの言葉にヒナタは少しだけ口元を緩め、笑みを漏らす。

 

 こうして、番外魔王とその眷属達の扱いは現状維持に落ち着いた、表向きは。

 

 

 ここでコハクの話が終わったのを確認したリムルが、再び口を開いた。

 

「でだ、さっきの話に戻るんだけど。俺達はドワーフ王国とも友好を結んでいる。だからさ、ガゼル王も巻き込んで、百年の友誼(ゆうぎ)を結べばいいんじゃないか? 俺達が人を襲わないという保証があれば、少しは信用してもらえるだろう?」

 

 リムルがそう言うと、ヒナタが考えを纏め終えたのか、静かに頷く。

 

「ええ、そうね。信用さえあれば、少しは説得をしやすいわね。それに、この際だから色々と、〝七曜〟達に毒された者達と、西方聖教会各支部に蔓延(はびこ)る汚職を行った者達の粛清も行うとしましょう」

 

 そう言ったヒナタの前には、いつの間にか紙の束が置かれていた。

 

 その紙束に付いてリムルがヒナタに尋ねると。

 

「なあ、その紙束は何なんだ?」

「え、これ? 西方聖教会各支部における、重要職に付いている者達の汚職に付いて記載されている物よ」

「え? あぁー、もしかしてそれ、ルヴナンから買った情報なのか?」

「その通りよ。ほんと……どうやってここまで詳細に〝七曜〟に毒された者達以外の汚職を掴んだのか、流石に空恐ろしく感じるわね」

「ああ、全くだな」

 

  そう二人で頷き合ってる中リムルは……。

 

(西方聖教会も一枚岩ではなかったか。まあ、そうだろうな、あそこまで規模が拡大すれば、そういう(やから)が出て来るのも無理はないか。どうやらヒナタが冷たく告げたもので、反対意見は出なかったな。この機会を利用して、〝七曜〟に全ての罪をなすり付けてしまつもりだね。汚いと思うが、それはルベリオス側の話だし、俺達が口を挟む問題ではない。後は、ヒナタ達に任せておくさ)

 

 それから両者で、細々とした点の話し合いを行った。

 

 今後の交流として、アルノーとバッカスが魔国に滞在する事になる。

 

 準備があるので二人は一度本国に戻り、文官も連れてくるとの事。

 その間に、リムルは彼等を受け入れる教会を建設すると約束をした。

 

 そうなれば、魔国でもルミナス教徒が出歩く姿が見られる事になるのだろう。

 

 リムルは、宗教の自由を認める事に不安を覚えるも、『思念伝達』でコハクが、『うちらが目を光らせておくから、大丈夫や』と言ってきて、リムルもそれに安堵し、それなら何とかなるだろうと、一抹の不安を払拭する。

 

(まあ、あれだ、ぶっちゃけ魔物は神を信じてはいない。だいたいこの世界には、万人が認める同一の神が存在しないからな。元の世界の常識は当てはまらないだろう。宗教はあるんだけど、それは土着神への敬意に近いんだよな。本当の意味で、祈れば助けてくれる、そういう存在を信仰しているんだから。あれよ、竜を祀る民に敬われている、ミリムなんかがいい例だね)

 

 これから正式に始まる人間達との交流にリムルは、期待と不安に挟まれながらも、前向きに行けばいいさと、笑い考える。

 

(ルミナス教……そうした宗教の中では最大の派閥というだけのもの。ルミナスの手足として聖騎士達が弱者救済を行う。そうして、信者を獲得している。この国にも弱者救済組織としての西方聖教会支部が出来ると考えればいいだろう。もしもの時はないと思うが、困った時はお互い様だ。何らかの脅威が生まれれば、聖騎士達と共闘出来る訳だし、こちらとしても断る理由がないな。当然監視は行うけど、あくまでも裏からの監視だ、コハク達のな。俺の国のソウエイ達は動かさない、この監視についてだけは。そうして、ある程度の自由は認めよう。これからの為にもな)

 

 

 こうして、これらの件は、一応の落としどころを見出(みいだ)したのであった。

 

 

 





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