忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
カリオンの獣王国にミリムが来るまで、後五日。
深夜のクレイマンの居城。
執務室には明かりが灯り、中には一人の魔人の男と、二人の猫種亜人がいた
「これが、依頼された情報だよ」
ツキハがクレイマンの執務机にゴルフボール大の記録水晶球を、二つコトリと置く。
「おお、ご苦労様です。流石は仕事が早いですね」
「なあ、なんか色々動いているんだけど。あたしらを、保険に使うつもりなのか?」
ツキハの目がスーッと鋭くなり、しなやかな尻尾をゆらりと揺らし、
それにクレイマンは、平静を装い返す。
「まさか、貴女達を保険になんてしませんよ」
「そうどすかぁー なんや
「それは、ご勘弁を。ククッ」
「何がおかしいんどすか?」
「いえ、〝番外魔王〟の貴女達を、どうこうするなど――リスクが高過ぎて、出来ませんでした、が」
「「でした?」」
クレイマンの言葉に、訝し気に返したツキハとコハク。
すると、執務机のベルをチリンと慣らし、クレイマンはほくそ笑んだ。
ドアを開けて入って来たのは、ミリムとフレイだった。
いつものはしゃぐミリムはそこに居なくて、ただ無機質な表情で立つ、ミリムがいた。
それを見たツキハとコハクは『思考加速』一万倍で、お互いに言葉を交わす。
『あれさ、やっぱり〝支配の宝珠〟だよね?』
『せやな、うちらに使った物より、倍の魔力が込められてますな。それで、獣王国に宣戦布告どすか』
『あぁ~ やっぱりあれかー〝絶対的な力〟ってか? でも、あんな何するかわからんミリムを支配って――大火傷じゃすまないよ?。なんか、めんどくさい事になりそうな予感。もう、手を引く? ってか、あれで支配? 無理だろ……逆に大惨事になりかねないぞ? 巻き添えは嫌だからね』
『せやなぁ……。でもな、クレイマンが大人しく依頼をキャンセルさせるとは、思わへんどすえ?』
『確かに。うーん……じゃあ、もうしばらく遊びに乗っかってみる?』
『せやね。ここまで来たら、最後まで見とうはありますなぁ』
『それじゃ、このまま遊びに乗っかっておこうか』
『そうしますか~。とりあえず、うちらの思惑を悟らせんように。あんさん、適当にキレなはれ。うちが、止めるよって』
『あいよ。適当にどっかで、キレるね。あと、よろしく~』
『へぇ、きばりやす。ふふふ』
『思念伝達』での会話を終えた二人は、そのままクレイマンの言葉を待つ。
「見なさい。ツキハ、コハク。ミリムはもう、私の思う通りの人形です、よ。くふふふふふ」
「へえー それで、どうしたいのさ?」
「どうもしませんよ。〝番外魔王〟、そして傭兵商会・ルヴナンのボスの御二人。なに、最後まで依頼を果たしてもらいたいだけです。最後に追加した、依頼の事ですよ。魔国の戦力の殲滅と技術者の確保ですかねぇ。くふふ」
「確保ねぇ。殲滅だけじゃなかったか? クレイマン」
「黙りなさい、ツキハ。それも、しっかり依頼料に含まれていますよ」
「あ゛あ? てめえ、あんまいちびってると、斬るぞ!」
「ツキハ! やめなはれ」
ツキハが時雨の鯉口を切り、抜こうとしたら――コハクが一際高い声で止める。
「依頼に、私情はあきまへん! まだ、依頼の途中なんえ。キャンセルはされてまへんのや。依頼料を貰ってる限りには……依頼完遂が、うちらの流儀や――忘れたんか? ツキハ」
「あ、あぁ。わかったよ」
コハクの言葉にツキハは、三分の一程抜きかけた刃を鞘に納めながら、最後に柄頭を右手の平で軽く押し。
チンッ 軽やかな金属音が鳴り、刃が鞘に完全に収まった。
更にパシリと
「ククッ。コハク、やはり貴女は聡明な方だ。よく、わかってらっしゃる。貴女が、傭兵商会・ルヴナンの頭脳だとは、分かっていますよ。ミリム相手に事を起こしたくは、ないでしょう? 依頼は、最後までしっかり、と。お願いしますよ。くっははははは」
「へぇ。受けた以上は、しっかりやらさせてもらいますえ。ところで、フレイ」
「何かしら? コハク」
「あんさんが、クレイマンのお遊びに付きあわはるなんて、珍しいどすなぁ」
「私は――」
「何、只の協力者ですよ。只の、ね」
「ええ、そうね……」
コハクの問いにフレイが答えかけた時に、クレイマンが横入りしてフレイの言葉を遮る。
「そうどすかぁ~。なら、うちらはこれで失礼しますえ」
「魔国への攻撃時期は、おって連絡しますよ。それまでは、くれぐれも――手出しはなりませんよ?」
「わかってますで。ほな、あんじょう、きばりやす」
コハクはツキハに「いくで」と言い、執務室から出る時にクレイマンからの視線を遮るように、フレイの前を横切り歩いていく。
すれ違い様にフレイの表情を読み取ったコハクは――。
口端を上げ、フッと笑みを浮かべ通り過ぎた。
「ククッ、ウククク、ハハハハハッ。見なさいフレイ。あの〝番外魔王〟ですら、私の意のままに動かせますよ。ミリムを連れ帰って、面倒を見ておきなさい。いいですね?」
「あら、私は協力者ではなかったかしら?」
「馬鹿めっ! この計画を立てたのは、私なのだよ! 君は既に私に手駒なのだよ。なんなら、ミリムと戦ってみるかね? それとも、あなたの領地で『
「はぁ……わかったわ」
「それでいい。私を裏切ったら――わかってますね? 行きなさい、おって連絡を入れるまで、大人しくミリムの面倒をみておくのですよ! ハハハッ、ワハハハハ」
こうしてフレイは、まんまとクレイマンの策謀に掛かり、手駒とされたのだ。
クレイマンの高笑いが深夜の執務室に、響き渡っていた。
魔国に帰って来た次の日の朝。
散歩がてら二人は、歩きながら『思念伝達』で話していた。
『四日後がミリムの奴の、獣王国殴り込みの日だね。でもさ、クレイマンの奴。ミリムの、獣王国への宣戦布告の件、知らないみたいだったよね?』
『せやな~、けったいな話しどすけど……。でもな、あれは想定内じゃないやろか? それより、クレイマンの奴の魂胆は見えましたわ。魔王への進化おすな』
『だよね~。でさ、
『決まってますえ。ファルムス王国の軍勢どすな』
『あれかぁ。でもさ、万が一あそこで魂が足りなかったら、獣王国住民の魂も狙うよね? ミリムが宣戦布告したの知らないみたいだから。知ったら、漁夫の利狙いにいくかもよ?』
『せやな……ちょっと嫌がらせしましょかぁ。そうどすなぁ……眷属の六百番台から、七百番台までを獣王国周辺に潜伏させましょ。いざという時に、逃げ遅れた住民の避難と、クレイマンの手下の邪魔をしたりましょかぁ』
『じゃあ、百匹全部に完全隠密で『猫騙し』掛けとくね』
『まかせますえ。聞こえますかいな、
コハクは会話途中で、眷属に『念話』を繋げる。
『はい、コハク様。聞こえております』
『仕事や。今からすぐに
『はいー すぐに向かいますですー』
『着いたら、別命あるまで待機や。わかったおすな?』
『了解しましたですー』
眷属に命令を終えると、ちょうど魔国の中心街の、中央広場まで来た。
ホブゴブリンの子供達が、噴水の周りで遊んでいるのを何とは無く眺めるツキハとコハク。
『ほんと、ここは平和だねぇ』
『……それも、もうしばらくで、終わりますえ』
『
『仕方ありまへんな。流石にここで、うちらが手を出したら、クレイマンが感付きますえ』
『いや、別に可哀そうとか、そんな感情はないんよ。たださぁ、同じ死ぬなら一方的に殺されるよりかさ、戦って死ぬ方がいいよねぇと、思っただけ』
『はあっ……大昔でも、思い出しましたんか?』
『いや、うん……忍びの頃の自分を、ちょっとね』
『あんさんは、
『誰かさんの、ポカでね? くくく』
『今更、いらわんといて。ほんま、いけずやわぁ。あら? あらあら、子供は元気おすなぁ。ふふっ』
駆けまわるホブゴブリンの子供たちが、コハクにぶつかりそうになるのを、コハクはふわりと避け。
普段あまり見せない穏やかな微笑みを、子供達に向ける。
『まあ、ここの魔物もただの魔物やおまへん。案外向こうが、えらい目に合うかも知れまへんで?』
『そうかもね。どの道、被害は出るだろうけどね』
『でもな、依頼は依頼おす。それを曲げたら、うちらはもう――〝傭兵忍び〟は名乗られへんえ』
『うん、ごめん。ここがさ、あんまりにも居心地がよくてさ、ちょっとね』
『あのミリムが、居着いてましたんえ? しょうがありまへんわ』
『あたしは見届けるよ、ここに残る。ここを攻めるにしても、見ておかなきゃいけない――気がするんだ』
『好きにしなはれ。ツキハがおる所が、うちの居場所や。あんさんがいくところなら、そこが地獄でも――うちはついて行きますえ』
そう言ったコハクの顔は、長年の相棒に信頼を寄せる顔と、永遠の想い魔のツキハに見せる女の顔であった。
『思念伝達』での会話を終え、二人は酒場街の方へと消えてゆく。
夜の酒場で美味い酒を飲み、美味い料理を食べた二人は、宿屋に帰って寛ぎ。
おもむろにコハクが、右手人差し指に嵌めてる〝
『カリオン、いてるか?』
『……お! 秘匿会話通信でどうしたんだ? コハク』
『一つだけ、内緒の依頼の押し売りどす。いりまへんか?』
『なんだ、それは?』
カリオンの問いにコハクは、もしミリムの攻撃で獣王国が多大な被害を受けた時に、逃げ遅れた住民の避難と保護を申し出た。
それにカリオンは「助かる! その依頼買った!」と即断即決で依頼を買った。
『で、保護した住人は、どこに避難させましょか?』
『そうだな……テンペストへ避難させてもらえるか?』
『テンペストおすか……』
『ん? なんか問題でもあるのか?』
『いや、なんでもあらへん。わかりましたえ。状況を見ながら、テンペストへ送り届けましょ』
『すまねえな、コハク』
『ただの気まぐれや、気にせんといておくれやす』
『なら、気まぐれついでに――お前らの、今の依頼主を教えてはくれないか?』
『そらあきまへん。依頼主がどんなスカタンだろうと、明かすことはできまへんで。せやなぁ……うちな――小さい時は〝お人形さん遊び〟が、好きおしたんえ。ふっふふふ』
『ははっ! お前それ……うわはっはははははは。そうか、ありがとよ』
『はい? うちは、小さい時の事を、話しただけや。なんも、問題あらへんえ?』
『そうだな、くくっ。で、依頼料はいくらだ?』
『金貨五百でいいおすえ』
『わかった。事が収まってからの支払いで、構わないか?』
『かましまへん。ほな、ミリムとの戦い、おきばりやす』
『ああ、じゃあな』
カリオンとの魔法通信を切ると、ツキハがにやにやしながらコハクを見ていた。
「ねえ、この嫌がらせは、結構えげつなくない? うくく」
「嫌がらせ? 違いますえ。臨時のお仕事や、なんも問題あらへん」
「あっちは誤魔化し聞くけど。こっちは、あれが付いてるからねぇ」
こっちと言いながらツキハは、上を指差す。
天井ではなく、ツキハは空の事を差していた。
それは、ファルムス王国の本隊を上空から監視する者――。
クレイマンの忠実なる配下、
サンコからの報告で、上空からずっと付かず離れずでファルムス王国の本隊を偵察しているクレイマンの配下がいると、報告を受けていたのである。
『ニャー ニコお姉』
『なぁに~ サンコちゃ~ん』
『ツキハ様とコハク様は この戦争に加担するのかニャ?』
『う~ん わかんなーい それより~ お姉ちゃん 暇だなぁ~』
『ニャ!! だめニャよ!!!! お遊びは、ぜっーーたいに、だめニャよ!!』
『でもぉ~ あの〝死んでん騎士団〟はぁ~ 死んでんだから、もう一回殺してもいいわよねぇ~』
『ハニャアーー!? ニコお姉! それは〝神殿騎士団〟ニャよ! いきなりなに言うニャ! 死んでんじゃないニャ! 神・殿・ニャよ! 神・殿・騎・士・団ニャ! 頼むから、脳みそをそこらに捨てるのはヤメてくれニャよ!』
『サンコちゃんは、おバカなのかなぁ? 脳みそはぁ、捨てれないんだぞ?』
『はわ!? 馬鹿に馬鹿言われるのは、心外ニャよ! いくらニコお姉でも、ぶっ殺すニャよ!?』
『わぁーい サンコちゃんが、怒ったぁ~。今からぁ、そっちいくから~ 待ってなさいなぁ~』
『来いにゃ! ひき肉にしてや――』
『あんたたち!! いい加減にしなさぁーーーーい!!』
『『ニギャッ!? お、お、お、お母様!!』』
懲りずにまた任務中に、遊びを始めようとする二匹に、母猫イチコから
『勘弁ニャよ、おかあさまーー』
『ごめんなさいなの~ もうしないの~ サンコちゃんが悪いのよぉ~』
『ちがうニャ! ニコお姉が、遊びたがってたのニャ!』
『はあぁー……貴女達。この任務が終わったら、覚悟しなさいな。きっちりわたくしが、貴女達を一週間ほど、〝眠らせて〟あげます!』
『いやニャあああああああああ! 〝復活に一週間〟は暇なのニャあああああああ』
『やめてぇえええええええええ。それだけは、いやなのよぉおおおおおおおお!』
『いいですか? 逃げたら、きっちり一年は〝眠らせて〟あげるから、ね!』
『『いやぁあああああああ!!』』
この姉妹〝忍魔猫〟にも、天敵はいた。
母は強し。
『思念伝達』で騒ぎ立てるニコとサンコ。
『『ツキハ様、お母様、ごめんなさぁーーーーーーい!!』』
十二話を読んで頂き、ありがとうございます!
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