忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせ致しました。121話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。





121話 あたしはあたし、アンタはアンタ

 

 宴会場内が賑やかな雰囲気に包まれる中、リムルの構想の話は続いていた。

 

 

「で、話を戻して。情報伝達なんだけど――」

 

 今の通信網である連絡用の通信水晶球では、魔法使いにしか使用できない。

 この事により、戦争の際はこの連絡用水晶球を持つ魔法使いを始末すれば、相手方の連絡手段を絶ち、戦況を混乱させる事が出来るのだ。

 実際リムル達はクレイマンとの戦争時に、この手段を使っている。

 

 だから妨害の心配もなく、誰にでも使用できる通信システムの考案。

 これは難航するかとも思われたが、意外にもなんとかなりそうなんだと、リムルは言った。

 

 そこで着目したのが、『粘糸鋼』と、〝魔鉱〟だったんだと。

 

 『粘糸鋼』とは――リムルが初めてヴェルドラと出会った〝封印の洞窟〟に生息していた大きな蜘蛛の魔物を捕食して会得したスキルであり、それを人型の時は手から射出したり出来るのだ。

 

 先ずソウエイと、この『粘糸鋼』を使い、糸電話みたいに出来るか試したが、リムルの『粘糸鋼』の思念伝達率が思いの(ほか)凄まじかったのだ。

 

 これには魔素が絡んでいるので、かなりクリアな意思疎通が可能だった。

 そして、〝魔鉱〟にも、ふんだんに魔素が含まれている。

 

 そこでリムルは、この〝魔鉱〟にも『粘糸鋼』と同等の性質があるのではないかと考え、実験してみたところ。

 

 結果は、予想通りの大当たりであったのだ。

 

 そして、これを利用する事にして、〝魔鉱〟を直径一センチほどの線状に加工して〝魔鋼糸〟を作り、それを『影移動』で利用する空間を通して各国を結ぶ。

 これだけでは意味を成さないので、現在ベスタ―が開発中の魔導装置を取り付ける事によって、思念波を音と映像に変換する事が可能となると、説明する。

 

 何より、この〝魔鉱〟を加工した〝魔鋼糸〟は、リムルがいた世界の光ファイバーを遥かに凌駕する情報伝達量と速度を有していたのだ。

 

 この装置は魔力が無い者でも利用できるので、装置の完成と同時に設置したいと言う。

 それまでに材料となる〝魔鉱〟を用意し、下準備も済ませるとも言った。

 

 魔物の多い国だからこその利点、倉庫に保管した鉄鉱石が時間経過で〝魔鉱石〟に変化する。

 更にルヴナンの敷地の地下にも大倉庫を作り、鉄鉱石を保管していると。

 そう、魔国に現存する豊富な魔素により、通常の倍の速さで〝魔鉱石〟に変化していくのだ。

 

 そして出来上がった〝魔鋼糸〟を、『影移動』の能力者が温泉引く配管と同様に、今度は配線していくのだと。

 

 余裕が出来たら各都市間ではなく、村々をも結ぶ、一大魔導ネットワークシステムの構築を計画中だともリムルが説明をする。

 

 後は、受信機の開発を待つばかりであった。

 

(くっくっくっ。やはり、情報社会に生きて来た者からしたら、情報の伝わる速度は重視するんだよ)

 

「どうだ、完成すると凄く便利になりそうだろ?」

 

 リムルは自分が考案した魔導ネットワークシステムを、自慢げにヒナタに話す。

 

 魔導通信網が完成したら、次は娯楽の配信、そして、文化の育成である。

 夢は広がり、リムルの胸の中を、これから始まっていくワクワクが満たしていく。

 

 それを叶える為にも、安全で快適な暮らしを提供できるようにしたいと、考えるリムル。

 

 いつしか宴会場は、静まり返っていた。

 

 リムルの発言に聞き入り、驚き固まっていた聖騎士達。

 それとは対照的に、リムルの配下達は熱を帯びたかのように目を輝かせていた。

 

 で、ヴェルドラとツキハ、コハクにサンコはというと。 

 相変わらず、すき焼きの肉を奪い合いながら食べているヴェルドラとツキハ。

 サンコはベニマル達と楽しくすき焼きをつつき合っていた。

 コハクは、自分で確保した霜降り肉を食べながら、味わうように冷えたビールを飲んでいた。

 

 それを見ながらリムルはふと、妙な考えに(おちい)る。

 

(そういえば、アイツら。俺のいた世界の技術の話を聞かせても驚きはするが、感覚的にどこかそれを前から知っているような感じがあるような気がするんだよなぁ……。気のせいかもしれないけど、何か腑に落ちない感覚が消えない……。もしかして、アイツらの仲間に俺と同じ世界の『転移者』でもいるのか? ま、さかねえ……)

 

 何となく気になったツキハとコハクの事を考えるリムル。

 

 そんなリムルに、ヒナタが呆れたように呟いた。

 

「あのね……。普通、そういうのは、国家機密扱いの情報になるのだけど? 特に魔導通信関係なんて、おいそれと他国の人間に話す内容じゃないわよ。まあ、いいのだけど……」

 

(ほああっ!? しまった――ッ! 俺、やっちまったか?)

 

 リムル、ヒナタに指摘されて初めて、国家機密を隠すこともせず、ぺらぺらと喋ってる事に気付き、内心頭を抱える。

 

(確かに、ちょっと調子に乗り過ぎたかも……。うん、酒に酔ってるせいだし、仕方ないよね?)

 

 そうリムルが思った瞬間、智慧之王(ラファエル)が早合点してしまう。

 

《告。『状態異常無効』を再起動します。尚、この『耐性』への干渉は、当分の期間受け付けられません》

『ちょ、待って! なんですとぉーーーッ!?』

 

 リムルが嘆き叫ぶも、後の祭りである。

 

 リムルの意志とは無関係に、勝手に酒のアルコール(どく)が無効化されていった。

 

『だから、酒は毒じゃないんだって!』

《……》

 

 という、リムルのツッコミは、無情なる能力(スキル)には通用しなかったのである。

 

(あーあ……。昨日も散々酔っぱらって、酷い二日酔いだったし、な。ってかさ、ほぼ『状態異常無効』を切ってるツキハにコハクは、あんなに飲んで、何で二日酔いにならねえんだよ!?)

《解。個体名:ツキハに、個体名:コハクは、人間の頃に忍びの里では酒豪と呼ばれていたと話していた事を記録しています。恐らくその頃の記憶が魂に刻まれていると推測します》

『あぁ、そうなのね。それで、素でも酒に対する『耐性』が強いと。冷静な解答ありがとうございます先生』

《……》

『だから何でそこで、ダンマリになるんだよ? まあ、いいや。今回は自業自得という事で、納得するかねえ。それに、酒で失敗なんて誰でも一度は経験あるんだし……』

 

 そう思いながらリムルは、チラリとヒナタの方を見る。

 

 と、そこへ。

 

「まあまあ、いいじゃないですかヒナタ様! それだけ俺達を信用してくれてるって、事なんですから! っと、それよりもですね、この肉、要らないのなら貰いますね!」

 

(おい。昨日はサンコのとこでやらかして、今度はこっちに来たのかよ、フリッツ……)

 

 リムルは同じく酔っ払いのやらかしを、今見る事になる。

 サンコの方を見ると、ベニマルの横で自分用に確保した大皿に盛られた霜降り肉を鍋に次々と入れ食べていた。

 

 流石に学習したのか、サンコのところには行かずに、今回は何故かヒナタの方に流れて来たフリッツ。

 

 しかし、リムルの視線の先でヒナタの皿から、電光石火の速さで極上肉を掠め取ったのだ

 神をも恐れぬその所業、まさに酔っ払っているからこそ出来る行為。

 

 そして、肉がフリッツの口に入った瞬間――

 

 ヒナタのこめかみに、青筋がくっきりと浮かんだ。

 

「フリッツ……昨日はサンコ殿のところでやらかして、今日は私のところって……貴方、死にたいのかしら?」

「え、あ、あれ? ヒナタ様、目がマジに……」

 

 ヒナタの怒気に、一瞬で酔いが醒めたフリッツが、慌てて立ち上がって逃げようとした。

 

 だがしかし、ヒナタからは逃げらない。

 

 フッとヒナタの手が残像でブレたかと思うと、手刀でフリッツの顎を刈る。

 「ほあっ」と短く声を上げ、フリッツは脳震盪を起こしてその場に崩れ落ちる事となってしまった。

 

「アホニャ。獲物の横取りは死あるのみニャ。ニャハハハハ」

 

 サンコが倒れたフリッツを見て笑い、それにつられて皆が一斉に笑い出す。

 

(これを教訓として、酒はほどほどに楽しむとしよう。酒は飲んでも飲まれるな、か。ハハッ、ハァ~)

 

 倒れて目を回すフリッツを見て、乾いた笑いを内で漏らすリムルであった。

 

 二日目の宴は、双方は既に打ち解けているので、時間が経つにつれ、魔物と聖騎士達が入り混じり合うように座り、一緒にすき焼きをつつく姿があちこちで見られていた。

 

 

「あ、おいヴェルドラ! それあたしが育ててる肉なんだけど!?」

「ん? いやこれは我が育ててた肉だぞ?」

「違う! いい? ここからここが、あたしの領地だってーの!」

「違うのだぞ。ここからここが、我の領地だぞツキハ」

「はああ? 何言ってんのよ、ここからここがあたしの領地だよ!」

「いや、そこは、我の領地なのだぞツキハよ?」

 

 相も変わらず、肉の争奪戦を繰り広げている、ヴェルドラとツキハ。

 二人して箸を使い、お互いがすき焼きの肉を入れる自分の場所を主張していた。

 

 それを見ていたヒナタが、リムルにそれとなく訊ねてくる。

 

「ねえ、ちょっと聞くけど。あの二人って、本当にどういう関係なの?」

「え? ああ、ヴェルドラとツキハの事か?」

「ええ、そうよ。何でこの世界最強の竜種が、あんなに女性の魔人と仲良くしてるのかしら。何か、特別な関係とかなの?」

「うーん。五千年前にアイツらと出会ってから、ずっと面倒見て来たらしいよヴェルドラのヤツ。まあ、面倒というか、一緒に遊んで来た(アバレテキタ)という方が正解かもな。ハハッ」

「そうなの。五千年前か……。ねえ、もしかしてだけど。番外魔王の二人も、貴方と同じ〝転生者〟だったりするのかしら?」

「え?」

 

 何気ないヒナタの一言に、聖騎士達がの目が一斉に、ツキハとコハクの方に向けられる。

 リムルは不意打ちを喰らったかのように気の抜けた声を出し、ルミナスの目が不気味に光る。

 

 と、同時に――

 

 ヒナタの声を聞いたヴェルドラが。

 

「ん? そうだぞ、ツキハとコハクも、リムルと同じ転生者なのだ。よくわかったな、お(ぬし)。クワーハハハハハハッ」

 

 ズゴンッ!! と、重く響く音が宴会場内に響き渡る。

 

「「「「「えっ?……」」」」」

 

 その激しい衝撃音を聴いた聖騎士達の目が、一斉に点になる。

 

「あ、アンタはあ――ッ! 何でそう無自覚に人の正体をバラすんかなあーー!!」

「ぐおぉおおお……な、何を、する、ツキハよ。い、痛いのだが?」

 

 ヴェルドラに思い切りゲンコツを落としたツキハが、怒り言い放つ。

 更にコハクまでが半目になりながら、ヴェルドラに呆れたように言う。

 

「ヴェルドラはん。あんさん〝魔王達の宴〟でもルミナスの正体バラして、えらい場を騒がしてはったのに、懲りんどすなぁ。うちが昔から()うてますやろ? 空気を読む時は、ちゃんと読みなはれと。最強の竜種たるあんさんが、アホを晒してどないしますのや? ええか? そろそろ、無自覚に思った事を()うのはやめなはれ。子供やおへんのに、まったく昔からなんぎなお人や、あんさんは」

「いや、コハク。そんな事を言っても、ツキハも度々やらかすではないか!? あの時トドメを刺したのはツキハとミリムなのだぞ? 何故に我が怒られるのだ!? ってか、アダダダダ! ツキハ、(こぶし)で頭を挟んでグリグリするのはヤメぬか!」

「うっさいわ! この事はルミナスには絶対にバラすつもりは、なかったのにーー!」

 

 コハクがヴェルドラの前に来て説教を始め、ツキハは両(こぶし)でヴェルドラのこめかみをグリグリしながら文句を吐いていた。

 

 ツキハとコハクに説教される、そんな最強の竜種であるヴェルドラを見ながら聖騎士達は、今聞いた事実に何を言っていいのかわからず、言葉を失うばかりであった。

 

 そして、ルミナスがツキハとコハクに向かってこちらに来いと、無言で手をクイックイッと動かし振る。

 

 ヴェルドラの頭から拳を離したツキハが黙ったままルミナスの前に来て、ドカッと腰を荒々しく下ろし、コハクもツキハの横に座る。

 

 そして。

 

「どういう事じゃ? 申せ」

 

 静かにルミナスが、ツキハとコハクに問う。

 

「はあ~……。いいけど、その前に――」

「うむ」

 

 仕方なそうにツキハが言うと、それにルミナスが――

 

「よいか。今から聞くことは他言無用じゃ。もし、一言でも漏らせば、(わらわ)が直々に手を下す事となる。良いな!」

「「「「「ハッ!」」」」」

 

 ルミナスがそう言うと、ルイ、ヒナタ、聖騎士達が一斉に頭を下げる。

 

「では、申せ」

「いちいち上から言うなし。そう、ヴェルドラが言った通り、あたしとコハクは元は人間で、この世界に魔物として転生した、転生者だよ」

「やっぱり。それで、いつの時代から来たの?」

 

 ヒナタの予想が確信に変わった事で、疑問をツキハにぶつけてくる。

 

「戦国時代で、織田信長が天下を取らんとした時代の忍びだったんだよ、あたしとコハクは」

「忍び……。だからあの半丈の小袖に、半股引きを穿いていたのね。これで納得が言ったわ。でも、五千年もこの世界で生きてるなんて、死んだ時代と、転生した時代が合わないのは何故? 死んで転生したきっかけは何なの?」

 

 ヒナタが更に疑問をぶつけてくる。

 

「ああ、それね。あたしとコハクはさ、織田軍撤退戦の時に、ポカをやらかして死んだんだよ」

「撤退戦?……織田信長が撤退した(いくさ)……金ケ崎の撤退戦かしら?」

「へえ、良く知ってるねヒナタ。そうだよ、その時死んでさ、何故かあたしとコハクの魂は、五千年も前のこの世界に飛ばされて、魔物として転生したんだ、何で五千年も前に飛ばされたのかは、未だにわかんないのだけどね」

「有り得ぬ。魂が五千年も時を(さかのぼ)るなど、そんな事は絶対に不可能じゃ……」

 

 ルミナスが呟くように言い、ルイやヒナタ以下聖騎士達もその事実に驚き、言葉を失う。

 

「で、じゃ。この事は、誰が知っておるのじゃ?」

「え? ああ、あたしとコハクの事知ってるのは、ギィとミリムにラミリスにリムルとその配下達だけだよ。今は、アンタとその配下が加わったけど(後、エル姐さんも知ってるんだけど、これはまだ秘密だね)」

「そうか。前世の記憶を持った〝転生者〟が、三人もこの世界にいるとは……しかも、魔物とはな。何じゃろうな、この奇妙な巡り合わせは……」

 

 ルミナスは自分の持てる知識内でこのような事は一切経験が無かったので、推測すらも出来ずに首を傾げる。

 

「それで、貴女達の時代って忍術みたいなものはあったの?」

 

 ヒナタが次の質問をして来た時――

 

 コハクが座ったまま一瞬で印を七つ切る。

 

「一切の空間を遮断しなはれ。幻遁・仮想円花(かそうえんか)

 

 かそうえんか

(かそうえんか)

 

 ふわりと言霊(ことだま)が宙に走り、畳の下から具現化した半透明の大きな花弁がリムル達を包み込むと、パアァッと霧散する。

 

 コハクがルミナスとヒナタ、リムルだけを自分達と一緒に『空間遮断』結界で包み込んだのだ。

 

 これでコハク達の話は、外部には聞こえなくなった。

 更に結界の外にいる者達には、コハク達の姿は単なる談笑をしている姿にしか見えず、その喋っている言葉は魔法で暗号変換され他愛もない話にしか聞こえない、凄まじく高度な欺瞞(ぎまん)結界だったのである。

 

「フンッ。相変わらず厄介な結界を張るもんじゃのう」

 

 どこか忌々し気に言うルミナス。

 コハクはそれを意に介さず、先程の質問に答える。

 

「うちらがいた日本はな、魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)し、それらを払う術式や、人殺せるほどの忍術があったんや。うちらが使う呪符忍術も、その一つをこの世界に適合させる為、最適解したものなんやで――」

「え!? ち、ちょっと待って。それって、私とリムルがいた日本とは全く違う、別の世界の日本ということなの?」

「せやねえ。うちらの呪符忍術があんさんらの世界に伝わっていない事からすれば、そうなりますやろな」

「そんなことって、有り得るの……?」

 

 そう聞いたヒナタはそこで黙り込み、考え込んでしまう。

 

 そこへ、リムルがそれについての考察を述べて来る。

 

「まあ、ヒナタの驚きもわかるよ。実際俺も、最初聞いた時は驚いたしな……。まあ考えられるのは、多元宇宙、俺達がいた世界から分岐した、別の時間軸の並行世界。別次元にある独自に発展した世界、などなど……。色々考察はしてみたんだが、どれも当てはまるというか、どれも不正解と思えるという、曖昧な答えしか出てこないんだよ。それで、俺の推測で一番近いんじゃないかなというのは、多元宇宙論かなとは思うんだけど――」

「多元宇宙論と、思う?」

「そう。俺達の側からは観測出来ない別の宇宙。というか、もしくは別次元世界があって、そこで独自に発展した世界から、何らかの時空干渉が生じて、こちらの世界に飛ばされて来た、っていうのが俺の考えなんだけど。これは、俺達の日本と似た文化があるという矛盾から、説明出来ないんだよ」

「なら、並行世界の方が説明つくのではなくて?」

「確かにそうなんだけど……。うーん、やっぱり判断材料が足りないわ。まあ、今のところは、似た世界からの〝転生者〟と、いう事でしか説明出来ないかもな」

「そうね……」

 

 リムルとヒナタはとりあえず、答えの出ないこの事についてはこれ以上考えてもしょうがないと、考察を()める。

 

 その間ツキハは、あまりにも話が難しくなったので話には一切参加せず、リムルの鍋から肉だけを取って、黙々と食べていた。

 コハクはというと、「一体お前達は、本当は何者なんじゃ?」とルミナスに質問され続けていて、半ギレ状態で「そんなん、うちが聞きたいくらいやわ!」と、言い合いに発展していた。

 

(流石に、この話は聖騎士達には聞かせられないわなぁ……。ナイス判断だよコハク。でもまあ、これ以上の詮索は必要ないし、追求するのは失礼だよな……) 

 

 自分とは異なる日本からの転生者ツキハとコハク、リムルはそんな二人の事がどこか気になりながらも、必要以上の詮索は()めようと考える。

 

 

 ツキハとコハク……元、戦国時代の忍び。

 

 ツキハの持つ、権能『猫騙し』。

 世界すらも騙し、あらゆる情報を隠蔽し偽装する、奇怪な力。

 

 種族:真幻魔、これも本当の種族名なのか? 

 何故、五千年も時を(さかのぼ)りこの世界に転生したのか?

 

 その疑問は尽きない。

 

 だが、ツキハとコハクはそれを今まで気にした事はなかった。

 

 しかし、魔国連邦(テンペスト)に移住して来てから、二人を取り巻く環境はゆっくりと、確実に変化を始めてゆく。

 

 ツキハとコハクが夢に見た、スーキヌムとセレーネという人物(・・)? は、何者なのか?

 

 権能『猫騙し』――もしかすると、ツキハとコハクすらも騙しているのかも知れない。

 

 何の為に? 

 

 それがわかる日が来るのか、来ないのか……?

 

 それはまだわからない。

 

 役立たたずの番外権能:〝法則??〟用途不明。

 

 これが目覚めた時――

 二人の、真の秘密が解き明かされるのだろうか?

 

 そんなリムル達が思った疑問も、宴会場内の喧騒に呑み込まれ、やがて闇の奥深くに隠れてしまう。

 

 まるでこの世界とは違う、異質な力がそうしたかのように……。

 

 

 こうして、二日目の宴も深夜遅くまで繰り広げられた。

 

 魔国連邦(テンペスト)とルベリオスの和解と、国交樹立。

 リムルの野望がまた一つ歩を進めて、変革の歯車をゆっくりと回していく。

 

 

 

 ◆◆◆

  

 

 宴も終わり、自宅に戻ったツキハとコハクは囲炉裏に火をつけて、お互いに向き合うようにツキハは胡坐(あぐら)座りで、コハクは左手を床に付き両足を右横に投げ出した形で座る。

 

 パチッパチッと、乾いた音を立て火の粉を散らし燃える(まき)

 

 明かりを消した部屋の中、囲炉裏の火にほんのり照らされるツキハとコハク。

 その瞳には、ゆらゆらと揺れる火が映り込んでいた。

 

「なあ、ツキハ」

「なに、コハク」

「うちらって、ほんまは何もんなんやろか?」

「なにもんって、元戦国時代の忍びで、アンタのポカで死んでしまって、この世界に魔物として転生した者じゃん」

「それは、そうなんやけど……」

「何? ヒナタとリムルの言ってた事を気にしてんの? そんな根拠もない事を考えてもしょうがないよ? 〝あたしはあたし、アンタはアンタ〟。何が変わるわけでもなし、それだけだよ」

「せやけど……」

「だから気にすんなって。たまにアンタ、異様に細かい事を気にするよね?」

「何()うてますねん。あんさんが、余りにも能天気過ぎますんやで?」

 

 二人はそう言うと顔を見合わせ、ツキハはフッと笑みを口端に浮かべるも、コハクはどこか心配そうな表情を浮かべる。

 

 そんなコハクを見たツキハが、穏やかな顔付でコハクに話す。

 

「あたしはさ、コハクがいて、ヴェルドラがいて、あの(眷属)達がいて、エル姐さん達がいて、ルヴナンの皆がいるこの世界が好きだよ。今は、リムル達も入るかな。自由な生活と強さへの飽くなき探求(・・)、これが出来る今の世界が本当に好きだよ、あたしは……」

「うちもや、ツキハ……」

 

 ツキハがそう言って火箸(ひばし)で薪をつつくと、カラッと音を立てながら組まれ積んだ薪が崩れ、火の粉を散らす。

 

 コハクはツキハの右横に来て、右腕にしなだれかかり、自分の尻尾をツキハの尻尾にそっと、絡めていく。

 

「うちな……あんさんがいなくなったら、と、たまに考えて……(こわ)なるねん。あんさんのいない世界は、うちにとって地獄以外の何物でもないんや。そんなん、うちは耐えらへん……」

「地獄、か。あたしらが死んだとして、地獄があるなら、間違いなくあたしらは地獄行き確定だよね。でも大丈夫、コハク一人だけを地獄に行かせたりしないから。行くなら、あたしも一緒だ」

「ほんま? ほんまにうちを、一人にしたりせえへん?」

「しない。それにヴェルドラと離れるのも、絶対に嫌だし。あんたと同様に、失いたくない男だから……」

「へぇ……わかってますえ。あんさんが本当に惚れた男どすもの。だからうちも、ヴェルドラはんだけは認めてるんやで……」

 

 コハクは力なく猫耳を伏せたまま、強くツキハの右腕を抱きしめていった。

 家の外では、先程から吹く風が小さな唸りを上げていて、二人の耳にその風の音を届け、時折薪の弾ける音がそれと混じり合い、どことなく心地良い響きへと変わる。

 

「でもコハク、アンタがこんな事言うなんて珍しいね。酒飲み過ぎたの?」

「……わからへん。なんやそんな気が、急にしたねん」

「そっか。やっぱ飲み過ぎだ、バーカ」

「飲み過ぎちゃうねん。でもな、でもな、何でかこの嫌な感じを抑える事ができひんねん」

「なーに言ってんだか。怒ったらあたしより容赦のないコハクなのにな。たまーに、変な心配性になるアンタを久しぶりに見たよ。クククッ」

「ツキハが好きやから、こんなになるんや。もう、いけず言わんといて……」

 

 ツキハは、しなだれかかったコハクをそのままに、揺れ動く囲炉裏の火を静かに眺めていた。

 

 そして、自分の頭をコテリと傾け、コハクの頭に重ねるように置く。

 囲炉裏の暖かな火が、ほんわりと浮かぶ二人の影を作る。

 

 吹きすさぶ風が、家の戸をカタカタと鳴らし揺らす。

 

 冬の訪れを予感させるような冷え切った空気の中、燃える薪がパキッと弾け火の粉が無数の蛍のように宙に舞い踊り、囲炉裏の火が照らす影と混じり合う。

 

 

 





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