忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
ツキハ
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コハク
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傭兵商会ルヴナン・真の紋章
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※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。
特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。
楽しい宴が終わった翌日。
帰り際にヒナタが、思い出したようにある事をリムルに忠告をする。
「昨日の技術発展の話だけど、あまり派手にし過ぎると天使に攻撃されるわよ」
昨夜の宴会の席ではそんな話をする雰囲気では無かった。
しかし、今後の付き合い方の為、ヒナタはこの事を話しておこうと考えたのだ。
エラルドやガゼル、そしてツキハとコハクから聞いていた天の軍勢。
ヒナタ
その天使は、一体一体がB⁺ランク相当だと言う。
それが、百万体もの軍勢で攻めて来る、と。
天使の中には隊長クラスや指揮官クラスもいて、指揮系統も組織立っているとの事。
更に将軍クラスも存在するらしく、長い歴史を紐解くと、魔王と戦う姿も確認されていたと。
その戦闘能力は未知数だが、魔王に匹敵するするというのなら、かなり強いのだろうとリムルは聞きながら思う。
天使は、魔物や文明の発達した都市を攻撃目標とする、とヒナタは言った。
西方聖教会としても、天使は人間の味方ではないと、見なしているとも話す。
そして、ルミナスも。
「
と、ルミナスはウンザリした顔で言う。
聖騎士達は、ルミナスの正体を秘密にすると誓ったので、とりあえずは融通が利きそうだなとリムルは思った。
「天使に関しては、俺も話を聞いて知っていた。もし、ヤツ等がこちらに手を出すというのなら、全力で迎撃するよ」
(まあ遠慮する気などサラサラないけどな。天使の軍勢の目的が何であれ、どう行動しようと勝手だが。それを俺達に向けて来たなら、相手になってやるさ。ツキハとコハクじゃないが、俺達に牙を剥くのならば……徹底的に――潰す)
「フフッ。貴方ならそう言うと思っていたわ。その時は、私達と共闘する事になるかもね」
「
そう言い残し、ルミナス達は神聖法皇国ルベリオスに帰還していった。
相互理解を深める意味でも、有意義な時間を過ごせたといえよう。
そして、この後――
突如として神聖法皇国ルベリオスは、今まで黙認していただけのドワーフ王国の存在を、友に成り得る人類として認めると発表した。
それに続き魔物の国である、ジュラ・テンペスト連邦国との国交を樹立すると宣言。
これは、期限を定めてのものではあったが、
亜人だけではなく魔物もまでも、人類の一員として認められた瞬間であったのだ。
――これにより、リムルが望んだ人と魔の新たなる関係が模索されていく事となる。
◆◆◆◆◆◆
情報とは、隠していても伝わるもの。
そう、その情報を闇の底から覗き、操る者の手によって。
ジュラの大森林周辺諸国の首脳部の耳に、それは噂という形でいち早く届けられる。
――聖人ヒナタが魔王リムルに敗北した、と。
それは、幾つかのルートに分かれ、注意深く慎重に、大本まで辿られる事がないように。
まことしやかに
いくら秘密裏に侵攻したとはいえ、人の目を全て誤魔化すのは不可能。
今や西側諸国では注目の的である
各方面から
と同時に、
野良魔猫やペットして飼われる魔猫達である。
今や
そして、今回聖騎士団が動いたことは公然の秘密となっており、その噂の信憑性を高める事に一役買っていたのだ。
その情報の受け取り方は、千差万別。
魔王リムルに恐怖する者。
聖人ヒナタが不甲斐ないと憤る者。
傭兵商会ルヴナンが絡んでいると、見えぬ脅威に怯える者。
それよりも、自国の安全の為にどう動くべきか、慎重に考える者。
だがしかし、伝わった噂とは別に、正式なルートからも情報が届く。
聖人ヒナタと魔王リムルが戦い――引き分けたと。
その結果、神聖法皇国ルベリオスとジュラ・テンペスト連邦国が休戦協定を結んだという事と、不可侵条約が締結されたという事実。
そうした情報が錯綜する中、更に各国を悩ませる問題が持ち上がったのだ。
噂の中心である魔王リムルから、招待状が届いたのである。
西方聖教会の発表を鵜吞みにする国家などない。
今までの常識が覆され、それに伴って世界が変わろうとしている――
それが、各国首脳部の共通認識となった。
詳しい内容までは伝わってはこない。
だが、聖騎士に犠牲者が出た様子はなかった。
そう、犠牲者は皆無との情報は正確に伝わっていたのだ。
その事実こそが、各国の首脳部を決断させる決め手となった。
様々な思惑を抱えつつ、西側諸国は〝激動の時代〟へと突入する事となる。
◆◆◆
ドワーフ王国、武装国家ドワルゴン。
国家の重鎮、各部門の大臣が集結し重要会議を行っていた。
「やりおったか、アヤツめ――」
重々しい声が会議室に響く。
その声の主は、ドワーフ王国の英雄王、ガゼル・ドワルゴである。
ここ数日、暗部の動きが慌ただしい事この上なかった。
ひっきりなしにもたらせられる情報、それらの解析に情報部は徹夜続きであった。
そして、とあるところから出てくる情報の精細さと膨大な情報量に手を取られていたのだ。
暗部でさえ掴み切れない情報となれば、出所は一つ――
ルヴナンからの情報である。
ドワーフ王国も例外なく、もっとも深き闇の情報などはルヴナンから買っていた。
それは先々代から続く情報の取引であった。
記憶に新しい魔王クレイマンとの決戦。
そして、西方聖教会の聖騎士団との闘い。
暗部も、情報部も、ガゼル王以下の重鎮達も、睡眠不足気味で鬼気迫る状況の真っ只中である。
「ふ、ふふふ。信じられんが、信じる他あるまい。お前の弟弟子が、聖人に勝利したか……。それにしても、あの
「不敬だぞ、バーン。ここは私室ではなく、公の場である会議室だ。公私を
バーンはドルフの注意に肩を
そして直ぐに、大臣達の視線に気付き、咳払いを一つする。
「あまり責めてやるな、ドルフよ。余とて驚いておるのだ、バーンも笑わずにはやっておれんだろうさ。そして、あの二人の思惑など、余であっても理解不能であるな」
ガゼル王がそう取り成した事で、バーンの失言は黙認された。
バーンの失言よりも、もたらせられた報告に皆が驚いていたのだ。
皆の手元にある資料には、今回の一件の顛末が記されていた。
内容は、全てが驚くべきものであった。
人類最強と称される聖騎士団百余名が、魔物の国へと強襲を仕掛けたと。
ガゼル自慢のアンリエッタ率いる暗部でさえも、その動きを掴んだのはつい先日の事だが、戦闘が勃発して初めて気付けたと言う方が、正しいかも知れない。
だが、暗部が気付けたという事は、各国の諜報部にも情報が筒抜けになったのだと判断した。
何故なら、
しかし、
となれば、魔王リムルは当然スパイ達にも気付いていて、敢えて宣伝の為にその者らを放置しているとみた。
(ふむ。恐らく、ルヴナンの暗部である裏部隊が動いておるのであろうな。決して実態を見せぬ、裏部隊。恐ろしいものよ……)
実際には、
が、各国の暗部すら鼻で笑う程の暗部、裏部隊を抱える傭兵商会ルヴナン、その恐ろしさを知るガゼル王はそう読んでいた。しかし、
「王よ、実際にこの目で確認したのですが――」
そう言って、アンリエッタが詳細な報告を奏上する。
聖騎士達と魔王リムル配下との戦闘。
番外魔王ツキハと聖人ヒナタの短い戦闘。
番外魔王眷属である、狂乱猫ニコの出現。
アンリエッタは、この伝承でしか知らない〝狂乱猫ニコ〟を見た時に、姿も気配もない何者かに耳元でこう囁かれたと、言った。
「気配も妖気も何も感じないのに、いきなり耳元でこう言われたのです。『見るのは自由。されど手出しは無用。要らぬ気を起こせば、死出の旅路へと御案内しましょう』と」
その時の事を思い出したのか、熟練の暗部であるアンリエッタの表情が僅かに強張っていた。
「その者は間違いなく、番外魔王の眷属であろうな。その戦場に番外魔王の二人がいたのだ。潜む配下は一桁番号か、噂に聞くルヴナン裏部隊かも知れぬな。となれば、戦場に潜む諜報員は全て、把握されていたと見るべきであろう。〝狂乱猫ニコ〟……表に顔を出すとはな(何を考えておるのだ、あの二人は)」
アンリエッタの報告を聞きながらガゼル王は、少し考え込むように
ガゼルからルヴナンの裏部隊と言う言葉が出て、バーン以下大臣達の顔に緊張が走る。
それだけ傭兵商会ルヴナンの裏部隊の噂は、恐怖と不気味さに満ちていたのだ。
そして、アンリエッタの報告は続く。
最終的に魔王リムルと聖人ヒナタとの一騎打ちになったと。
しかし、その一騎打ちの途中から、戦場全域の魔素が乱れ、魔法での観測を妨害されたとアンリエッタは言った。
「――監視の途中から強大な
「監視魔法を妨害するほどの、魔素嵐が起きた……? まさか、番外魔王の二人のどちらかが、本気になったとかではないかえ?」
「ジェーン様、あの魔素嵐は、嵐というよりも相反するエネルギーのぶつかり合いによる、干渉波の影響かと思われます。それに、番外魔王は動いてはいませんでした。というより、片方の番外魔王は、素性の知れぬ剣士とどこかへ行かれましたので」
「ふむ、番外魔王がその場にいてそれとはねえ。何にせよ、二人の決着をその目で確認した訳ではないのだね?」
「はい」
「だったら、あのヒナタが敗北したと何故言い切れるんだい?」
「それは、状況証拠としか言えません。ですが、今まで魔物を認めなかった西方聖教会がその教義を覆し、我等ドワーフとも正式に窓口を開くと打診して来ております。それに、一番不可解なのは、三度も番外魔王討伐を差し向けた西方聖教会が、あの場に番外魔王二人とその眷属達がいたにも関わらず、以前として〝触れざる者〟認定のままだという事です。また、ルベリオス本国の動きも、
「むう……確かにねえ。あの頭の固い人間至上主義者共が、手の平を返したのだとしたら……。第三次番外魔王討伐。その討伐隊に聖人ヒナタが出陣していて、その討伐隊を半壊させられたと、裏ではまことしやかに噂されているからねえ。なら、そうせざる得ない理由があった、と考えるべきだろうね。だとしたら、ガゼル王――魔王リムルは、貴方様よりも強くなった可能性が高まったさね」
そう、苦々しく口にするジェーン。
認めたくはないが、聖人ヒナタと剣聖ガゼルの力は互角。
ヒナタが敗北したというのなら、それはつまり、魔王リムルが英雄王ガゼルよりも強くなったという事である。
「馬鹿な!」
「そんな事が有り得る訳がなかろう!」
「ジェーン殿、ガゼル王を侮辱なさるか!?」
大臣達が口々に叫ぶも、ジェーンは意に介さない。
それが事実なのだから仕方なし、とジェーンはそう考える。
そして、その考えにガゼル王も同意する。
「たった数か月で、そこまで成長するものかよ?」
そこへバーンが
(それはもう、成長とは言わぬわ!)
と、ガゼルが心の本音を内で漏らす。
リムルが魔王となり、会った時に感じた雰囲気は不気味であった。
その雰囲気は、見知った不気味さであった。
初めて番外魔王ツキハとコハクに会った時に感じたものと良く似ていた。
凄まじい力を感じるとかそんなものは一切感じさせない……寧ろ、凪のように穏やかで、空恐ろしい何か。
他者の思考すら見通すガゼルの力――ユニークスキル『
それはつまり、リムルが自身の力を完全に制御しているという事だった、あの番外魔王の二人のように。
「さもありなん。魔王に進化した事で、その力は余に並ぶものとなったのだ。アヤツがヒナタに勝ったとしても不思議ではあるまい。それに……」
(天牙影千流、番外魔王ツキハが使う剣術。もしあれの一端でも伝授されていたら……。我が師も、あの剣術は朧流と一線を画す、修羅の剣と申しておったな。番外魔王ツキハが余に一度だけ見せてくれたあの太刀筋は、とてもではないが真似は、出来ぬ……)
最後のところは言わず黙したまま、一度目を伏せ、軽く息を吐くガゼル。
本当のところはわからない、だがしかし、生き残っただけでも称賛に値する。
そう考えてのガゼルの発言であった。
だがしかし、大臣達は納得がいかないのか、ガゼル王に言い募る。
「し、しかしですな! 英雄たる陛下に、生まれて数年にも満たない魔物が並ぶなど……」
「左様ですとも。あの五千年も生きておる、古き番外魔王ツキハに番外魔王コハクならいざ知らず。これは、何かの間違いなのでは?」
「それに、もしも本当なのだとすれば、魔王リムルは余りにも危険過ぎるのではありませぬか?」
と、そんな内容を口々に訴える大臣達。
ガゼルは大臣達の声に、内心で溜息を付く。
リムルが脅威というが、ならばその
もう、こんな事を言っても切りが無い状態なのだと、ガゼル王は考えていた。
暗部の調査報告には――
リムル配下の幹部達が、〝十大聖人〟と戦闘に到ったと、記されていた。
そして、リムルの配下は誰一人として、負けてはいなかった、と。
中には、一人で聖騎士数名を圧倒する者がいたという、驚くべき報告もあった。
そしてその配下の一人が、〝狂乱猫ニコ〟と、親し気であったと。
更に、〝凶暴猫サンコ〟も現れたと記されているのを見て、ガゼル王は内心頭を抱える。
(〝凶暴猫サンコ〟まで姿を現すとは、な。それにしても、あの者共も強さを増したか。こうなっては、我等の総力を上げても勝利は難しいであろう。それに、それだけではない。あの傭兵商会ルヴナンがバックに付いたのだからな――)
危険だと騒ぐ大臣達に、それに反対する大臣達の言葉が飛び交う。
(ここまでの脅威となる前に、滅ぼした方が良かったの、か……。違うな)
だが、ガゼルは、否とその考えを否定した。
魔王リムルは、理性ある魔物。
何よりも、人間国家との友好を望んでいる。
その証拠に魔王リムル町を作り、街へと発展させ、人を助け、国と国を繋ごうとしている。
もしも魔王リムルが人の心を理解せぬ魔物だったならば、既に人類は未曽有の危機に晒されているだろう。
(そんな心配は不要、だな。あの気まぐれ番外魔王ツキハとコハクが経緯はどうあれ、闇から這い出て来て
ガゼルはそう確信する。
だからガゼルは、大臣達の心配を笑い飛ばすのだ。
「フッフッフッ、心配するでないわ! あのリムルは余の弟弟子であるぞ。それに、だ。他国に先んじて
王者としての覇気を込め、大臣達を威圧するガゼル。
それだけで大臣達は冷静さを取り戻していく。
「さ、左様ですな。確かにそう考えれば、ここであの国との交易を捨てるのは愚策――」
「うむ。あの国から仕入れる品々は、魅力的なものばかり。ただの回復薬にしても、今ではあの国に生産拠点を移してしまっておる」
「技術交流もそうですが、相手を信用せねば成り立ちませぬ。傭兵商会ルヴナンの裏情報。いくら我等の暗部が優秀でも限界があります。もし、その貴重な裏情報を売ってもらえなくなれば、他国の諜報部に後れを取る事は必至。本当に我等は、何を慌てておったのやら……」
「確かにそうですな。そんな心配など、今更でしたか」
大臣達は顔を見合わせ、気恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべ、それを見たガゼルもニヤリと笑う。
公明正大を旨とするドワーフ王国においては、相手が魔王であろうが差別する理由にはならないのだ。
だから、傭兵商会ルヴナンとの情報の取引は、先代王から、現ガゼル王に引き継がれている。
それを皆が思い出したようで、満足そうに頷くガゼルであった。
魔王リムルは、確かに驚異的な力を得た。
だがそれは、五千年前から生きている番外魔王の二人にも言えるのだ。
驚異的といえば、この番外魔王の二人の方が遥かに危険なのだ。
しかし、今までのリムルの生き様を見れば、信用の置ける人物であるのは疑いようがないのだから。
そんなリムルと、現在進行形でとても友好的な関係を築いている。
ならば、それを維持するのが当然であった。
それに何よりも、リムルは元〝異世界人〟だと言った。
彼の知る、向こうの世界の知識と技術は、ドワーフ王国に多大な利益をもたらす。
リムルの出鱈目な
贅沢をしたいという我侭が原動力となって、様々な開発を力任せに行っているのが興味深いとガゼルは思う。
また、そんなリムルを慕う配下達は、どんな無茶な命令であろうと笑顔で実行する。
その証拠に、
山や谷を抜け、誰もが安全に、快適に通れる道。
そして、その街道をも凌ぐものが密かに計画され、工事が始まったばかりでもあった。
財力や労働力の関係で他の〝異世界人〟達が断念したであろう事柄も、リムルにとって問題にはならない。それを強引に推し進めるだけの地力が、リムルにはあるのだから。
(アヤツの真の恐ろしさは、その天才的な人たらしの才能であろうな。どのような問題があっても、『何とかして頑張ってね!』という、無責任ともとれる言葉があれば、配下達は頑張るのだからな……。羨ましいものよ。もしかすると、俺もまたアヤツに
だが、それでいいと、ガゼルは思った。
リムルが理想とする世界を目指したならば、果たして世界全体が変わるのか? それとも魔王リムルが手を差し伸べた世界だけが変わるのか? ガゼルとしてはそこに非常に興味が湧く。
そして、それを見たいと願う。
だが確実に、〝天魔大戦〟が起きるだろう。
リムルをそれを知っているので、恐らく迎え撃つつもりなのは明白。
だから、傭兵商会ルヴナンをも、契約と称して味方に引きずり込んだのだろうと、ガゼルは考える。
今や
そこに、傭兵商会ルヴナンと番外魔王の二人。
天の軍勢を相手に勝利する可能性は極めて高い。
何故なら、番外魔王の二人と傭兵商会ルヴナンは幾度もの〝天魔大戦〟を生き延びて来たのだから。
ならばガゼルとしては、それを応援するのみ
「あの魔王リムルと余は、血の繋がりこそないが兄弟である。アヤツが人の心を失わぬ限り、可能な限りの協力をしようではないか。そして、先代王は言った。傭兵商会ルヴナンとの繋がりと信用は、決して手放してはならぬ、と。新たな時代、文明開化を歓迎しよう。異論のある者は、申し出るがいい」
ドワーフ王ガゼル・ドワルゴの重々しい声が、会議室を満たし圧迫する。
それは英雄王の決断であり、宣言なのだ。
「俺は支持するぜ、ガゼル王。アンタが俺達の大将なんだからな! ハァハッハッハッ」
軍部最高司令官であるバーンが笑い言う。
「我が王よ。私は貴方様の影、御心に従うまで」
「好きにおし。わたしゃ老い先短い命だがね、その最後を愉快に暮らせるなら、どこまででもガゼル王に付いていくさ。それに、あの
先代の王の時代から生きる老婆ジェーンだが、まだまだ元気そのものである。
そして、天翔騎士団団長のドルフも、やれやれと溜息を一つ付いて口を開く。
「皆様がそう仰るならば、自分としては尻拭いする他ありませんな。暴走を止める者も必要でしょう?」
毎回毎回巡る、それがドルフの役回りなのだ。
こうして、英雄達の言葉にて方針は決まった。
大臣達もこの決定に大手を振って指示をする。
その理由は一つ。
技術大国に住まう者として、文明開化という王の言葉に心躍るものを感じていたのだ。
細々とした研究を続けても、これ以上の発展は望めない。
しかし、かの魔王は、堂々と何者をも恐れずに研究を推進している。
これは、元同僚であったベスタ―侯爵からの報告でも明らかであり、その自由な立場を羨む者がいたのも事実であった。
だからこその、大臣達の支持でもあったのだ。
そして、ついでのように神聖法皇国ルベリオスからの申し出を受ける事も決まり、会議は終わりを迎えた。
今後、
ひと段落をつき、一人の大臣が挙手をする。
「陛下、宜しいですか?」
席を立とうとしていたガゼルだったが、呼び止められて席に座り直すと、目線で促し、その報告を聞く。
「実はですな陛下、リグルド殿から招待状が来ておるのです。何でも、リムル殿が魔王就任のお披露目を行うとかで……是非、御参加下さいとの事で――」
「魔王就任のお披露目だと? 一体、アヤツは何を考えているのだ?」
報告を聞いたガゼルは、リムルの意図が読めずに思わず聞き返すも、当然、問われた大臣に答えられるものではない。
戸惑う大臣の代わりに他の大臣達が騒ぎ始め、様々な憶測が飛び交う中、ガゼルは暫し熟考する。
(フフフ、アヤツめ。何を考えておるのか知らぬが、大人しくする事を知らぬヤツだ……)
良くも悪くも、リムルは面白い。
西側諸国に受け入れられようと努力はしてはいるのだが、何を考えているのか予想が全く出来ない。
これだから、リムルは面白いのだ。
ガゼルは、腹の底から込み上げて来る笑いの衝動を抑えるのに苦労する。
大臣達の前で威厳を保つのも一苦労なのであった。
(おのれ……余を苦しめるこのような罠を仕掛けるとは……侮れぬ!)
そんな理不尽な怒りの感情で、笑いの衝動を相殺するガゼル王、だが――
そこにトドメを刺さんとするような密書がアンリエッタから届けられる。
「ガゼル王。つい先ほど配下の者から、このような密書が届きました」
アンリエッタがガゼル王に手渡したのは、一枚の呪符だった。
それは、コハク特製の記録呪符だった。
ガゼルは密書と聞いて、それがどこから来たのか直ぐに察し、その呪符の中央に自分の人差し指を当てると。
その場にいる者達も、その密書が何処の者から来たのか理解した。
そして、ガゼルにだけ見える、ある紋章が浮かび上がる。
(これは……ルヴナン、真の紋章であるか。ならば、最重要機密がこれに記録されているのだな)
そう心の内で呟くと次にまた、ガゼルだけに見え、解読出来る
ひさしぶりやな このじょうほうは ちと たかいで そのまま きろくをみたなら けいやくはせいりつや いらへんなら そのまま えんといいなはれ もえて きえますさかい ほなな
(久しぶりやな この情報は ちと 高いで そのまま記録を見たなら 契約は成立や いらへんなら そのまま
(記録だと? 余程重要な情報なのだろう。見よう)
そう思った瞬間、ガゼルの頭の中に、思念記憶映像が流れ込んで来た。
その記憶映像とは――
聖人ヒナタと、聖騎士達がリムルやその配下達と、楽し気に宴会をしている映像だった。
(これは……フフッフフフフ。このような事をしておったのか、リムル)
頭の中に映し出された思念記憶映像は、国家で言えば最重要機密に匹敵するモノだった。
これを見たガゼルは、更に込み上げる笑いの衝動を気合で抑える為に、薄っすらと額に青筋を浮かべる。
(ぐぬぬ……やりおったな、あの性悪猫め……)
この思念記憶映像には、ルミナスとルイだけ映っていなかった。
コハクが、呪符に思念記憶映像を転写する時に編集して、削除したのである。
だが、この思念記憶映像だけでも、西側諸国に売りつければ、莫大な値が付くのは間違いない程のモノ。
それを、ガゼル本人だけに送り付けて来た真意をガゼルは読み解く、が――
(余裕など見せていたら、他の国に搔っ攫われると、言わんばかりのモノであるな。フッフッフッ)
――コハクにとって、魔導王朝サリオン以外にお金の支払いが確かで高額な取引にも動じないところに売り付けただけなのだが、勝手に解釈されるのも計算の内なのだ。
コハクの高笑いが聞こえて来そうである。
そして、そんなガゼルに大臣が――
「どうなされますか? リグルド殿からは『ガゼル陛下の参列は難しいでしょうが、もしも祭りに参加して下されるのなら、最高の席を用意してお待ち申し上げます』と、申しつかっておりますが? 因みに、各国の首脳部にも打診したらしく、席の数には限りがあるそうです。また『当日は混み合う事が予想されるので、返事はお早めにお願いしたい』と、念入りに申しておりました」
黙り込み額に青筋を浮かべるガゼルに対し、恐る恐るリグルドからの伝言を奏上する。
丁寧に伝えられているが、大国の王に対する物言いではない。
大臣はそう感じた為、額に薄っすらと青筋を浮かべるガゼルが怒ったのではと、心配したのだ。
しかし、ガゼルはそんな事くらいでは怒らない。
内心、笑いの衝動を抑えるのに、険しい表情を浮かべていたので、それはそれで仕方ないと苦笑いしつつ、ガゼルはその勘違いを正す事にする。
「お披露目には出席しよう。そして、見学にも参加する事とする」
簡潔に告げるも、他の大臣から苦情が出る。
「陛下! いくらリムル殿が陛下と親しいとは言いましても、この申し出はどうかと思いますぞ――」
と、一人の大臣が苦情を告げると、次々に他の大臣達も苦言を
だがガゼルは、そんな大臣達の意見を聞き流す。
ガゼルは魔王となったリムルと会った時の事をゆっくりと大事達に話だし、あの
そして、軍事大国となった
そして、「あの国の宿はとても素晴らしいものであったし、来客数を把握しようと考えるのは、それだけ丁寧に持て成そうと考えておるからではないか、と余は思うのだがな」と、ガゼルは告げる、と。
それにバーンも、魔王リムルの風格は凄まじいものだったと、ガゼルの意見に同意し。
自分も、国とは関係なしにその祭りに参加すると、ここで明かす。
ベスタ―に頼んで、自分だけでも招待状を用意させるつもりなのだ。
ガゼルは自分が参加する事を、大臣達が反対するのはわかり切っていた。
そこへ、バーンがすかさず自分は絶対に行く宣言をしたものだから、ガゼルは上手い具合に自らも参加するべく、大臣達を言いくるめようと考える。
抜け駆けは許さない、ガゼルもここでは一歩も退かない。
「余も王としてだけではなく、兄弟子として、アヤツが他国の者共に舐められぬように指導してやらねばならぬしな。それに、番外魔王達がどのように
ガゼルがそう言うと、大臣達の中にもガゼルの真意に気付き始める者が出て来る。
「そ、そうでしたな! 魔王リムルと一番懇意にしておるのが我等だと、他国に誇示しておく必要がりますな」
「うむ。聞けばあのサリオンの連中も、魔王となられたリムル殿に
「ここで更に、傭兵商会ルヴナンとの繋がりを強化するのも、考えた方が宜しいかと。そして今一度、ガゼル陛下と親しい姿を見せておくのも、他国に対する牽制となりましょうぞ」
しめしめとガゼルは人知れず、ほくそ笑んだ。
そこでガゼルが少し口出しして、話を纏めようとした時――
「そんな事はどうでも宜しい。反対して、またも陛下に抜け出されては困る。そうなるくらいならばいっそ、国を挙げて参加する方が安全じゃわい。それに、陛下の表の護衛とは別に、裏の護衛を秘密裏にルヴナンに依頼すればよかろう。あの国にルヴナン支店があるのだ、好都合ではないか」
滅多に口を挟まぬ元老院の長老が、意見を言い合っていた大臣達を一喝した。
以前、魔国に行く為に影武者に任せて抜け出した事を、その長老は根に持っていたようである。
この長老の一言で、ガゼル達の参加が決定し、
(やれやれだな。だがこれで、俺も祭りとやらに参加出来そうだ。フッフッフッ、あの思念記憶映像にあった、醸造酒とやらが飲めるな)
思っていたのとは違う纏まり方をしたが、ガゼルの気持は既に、あのコハクが寄越した記憶映像に映っていた酒に心を魅かれていた。
酒好きのドワーフにとって、
正式な決定事項となった結果。
ならば自分も参加したいと願うもので溢れ、場が騒然となった。
何よりも、ドワーフ王国とは違う発展をする
そして――
参加希望者が殺到し、ガゼルは誰を選び連れて行くかで、頭を悩ませる事になるのであった。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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