忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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お待たせしました。123話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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123話 女帝 エルメシア(前編

 

 

 本格的な冬の到来に向けてリムル達は、冬の準備と開国祭の準備に追われていた。

 

 雪が降り積もる前に、全ての行事を終わらせたい。 

 急ピッチで進む迎賓館の整備に、各種会場の建設。

 

 秋深まり、涼しさから夜は肌寒い風が吹く今日この頃。

 

 魔国連邦(テンペスト)は、賑わいと忙しさを増してゆく。

 

 

 そして――

 

 リムルは執務室で、書類整理に追われていた。

 次から次へと舞い込む、承認待ちの書類。

 

 リムルは、智慧之王(ラファエル)の力を借りながら、テキパキと仕事を進めていった。

 

「ん~。これは、ツキハとコハクにも、意見を聞いた方がいいかなぁ……」

 

 開国祭における、周辺警備の書類に目を止めたリムルが小さく呟く。

 

 そこへシュナが。

 

「リムル様。お二人は、今朝早くから出かけていますよ」

「え? そうなんだ。いつ帰って来るか聞いてる?」

「はい。数日は帰らないと(おっしゃ)っていました」

「そうか。ならこれは、後回しだな」

 

 そう言うとリムルは椅子の上で、うーんと一度伸びをして、深く椅子にもたれかかる。

 

(どこ行ったんだろう? アノ二人……)

 

 何となく二人の行き先を、ボンヤリと考えるリムルであった。

 

 

 して、二人の向かった先とは――

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 ――魔導王朝サリオン、皇帝の居城。

 

 そこは、美しく見事な庭園が広がり、野生で希少な生き物が自然のままに生息している。

 更に、希少種に相当する野生の魔猫もこの庭園に多数生息していた。

 

 その庭園を維持するのは、皇帝の私財。

 つまりは、皇帝のポケットマネーである。

 

 皇帝は数多の権益を所有していて、それらは莫大な利益を生み出していた。

 

 そしてその中には、傭兵商会ルヴナンと関わるモノも存在している。

 特にルヴナンの表部門、商いを行う部門はツキハとコハクにエルメシアと、三人共同出資で動かしているのだ。

 

 代表的な部門が行商隊ガットエランテであり、ここのオーナーは表向きはとある富豪になっているが、実質的なオーナーは皇帝エルメシアである。幾つものダミー商会を通じ、ガットエランテの実態には辿り着けないように偽装しており、いまだにガットエランテの内情はどこにも掴まれてはいない。

 

 こうして、それらのほんの一部が支払われるお金だけで、この広大な庭園は維持されている。

 

 そして、この広大な庭園と居城を維持するお金には、一切の税金が使用されてはいなかった。

 

 これこそが、ここ魔導王朝サリオンの頂点に立つ皇帝の、想像を絶する財力を証明しているのだ。

 

 その庭園にて、四人の人物が寛いでいた。

 

 一人はエラルド公爵。

 冒険者エレンの父親にしてこの国の重鎮であり、魔導王朝サリオンで三本の指に入る実力者。

 

 二人目は番外魔王ツキハ。

 相変わらずめんどくさそうな顔で、エルメシアの右側の席で椅子にもたれ掛かっている。

 

 三人目は番外魔王コハク。

 こちらも相も変わらず、すました顔でエルメシアの左側に座っている。

 

 そしてエラルドの対面に座る人物こそ――

 

 皇帝エルメシア・エルリュ・サリオン、その人である。

 

 

 公式発表では、性別不明という事になっている。

 女性のような美しい容貌の皇帝とされているが、何の事はなく実際に女性である。

 

 だがしかし、年齢は不詳。

 

 耳長族(エルフ)の中でも純潔の血が色濃く表れ、年を取らない。

 歴史の生き証人でもあり、そんな皇帝に対して年齢を問う事は禁忌(タブー)とされている。

 

 その見た目は高貴で若々しさも失われてはいない。 

 (むし)ろ、その小柄な体格から、少女と間違われるほどである。

 

 切れ目の眼差しに翡翠(ひすい)の瞳に、みずみずしいその素肌。

 その肌は、新雪のように真っ白である。

 

 長く伸ばされた銀髪がサラサラと流れ、その薄紅色の頬にかかっていた。

 銀髪の間からは、特徴的な先端の尖った長耳が覗く。

 

 真なるエルフ――風精人(ハイエルフ)と呼ばれる至高の存在であった。

 

 見慣れていても、その美しさに一瞬見蕩(みと)れそうになるエラルド公爵であったが、妻と娘の怒りが恐ろしいのと、エルメシアの両隣にいるツキハとコハクの口元が薄く笑いを浮かべているのに気付き、正気に戻るのも早い。

 

 そして、一つ咳払いをして、皇帝に向き直るエラルド。

 

 格調高い木製の椅子に、姿勢正しく座る皇帝エルメシア。

 そこは皇帝、隣でだらけたように座るツキハとは大違いである。

 

 また、公の場以外でのこのような態度が許されるのが、ツキハとコハクに許された特権でもあったのだ。もっとも、公の場に二人が出るなど、皇帝エルメシアと個人契約を締結してから千七百年あまり、一度たりともない。

 

 そんな皇帝エルメシアに向かって、エラルドは口を開く。

 

「陛下、この度、先だって報告致しました魔物国より、私めに招待状が届きまして御座います」

 

 エラルド公爵は懐から手紙を取り出すと、皇帝エルメシアにそっと差し出した。

 

 魔法による細工も(トラップ)も無し、安全なのは確認済み。

 内容も把握しているが、エラルド公爵は先に口には出さない

 

 自分が確かめる前に物事を言われるのを嫌う、皇帝の気質を熟知しているからである。

 

 だが、不安もあるのも事実。

 

(まさか本当に、あの者が魔王として認められるとは思わなかったぞ。確かに、コハク殿とツキハ殿が間違いなく魔王として認められるよと、申したが……。だがまあ、それはいいとして……。自分のお披露目に、私を呼びつけるというのはどうなのだ? あれか? またツキハ殿の〝悪さ(イタズラ)〟なのか?)

 

 ツキハに、エレンの事で度々弄られるエラルド公爵。

 そうした経緯から要らぬ深読みをして、勝手に疑念を抱くはめになるのである。

 

 だが実際、今皇帝に手渡した手紙はエラルド公爵に宛てられた物であり、本来ならば皇帝に見せる必要などない。

 

 しかし手紙には、『参加されるなら人数を明記の上、返信にてお知らせ下さいますようにお願いします』と、書かれていたのだ。

 

 この、参加人数を知らせろというのは、誰を誘っても良いと勝手に解釈するエラルド公爵。

 

 ならば、と。

 

 誰を誘うべきなのか?

 

 この点が問題であった。

 

 当然護衛は連れて行く、現在魔国連邦(テンペスト)に住んでいるツキハとコハクに護衛を依頼してもいいが、それは魔導王朝サリオンと番外魔王との関係を他国に勘繰られる事になるので出来ない。

 そもそも、皇帝エルメシアの個人契約で動く二人なので、エラルド公爵には依頼をする事すら出来ない。依頼をしたければ、一旦皇帝エルメシアにお伺いを立て、許可をもらわなければならないのだ。

 何故なら、皇帝エルメシアと交わした契約の中に、魔導王朝サリオン内で、皇帝エルメシア以外との契約も依頼を受けるのも禁ズと、記されているからだ。

 

 そう、魔導王朝サリオンで番外魔王の二人と傭兵商会ルヴナンに依頼を出せるのは、皇帝エルメシアだけなのである。

 

 そこでエラルドは、自分のみ参加という手を考えるが、立場上それも出来ない。

 前回魔国連邦(テンペスト)に行った話を聞いた貴族の中にも、次は是非とも行ってみたいと言い出した者が続出したからだ。

 

 新たなる取引相手国となった魔国連邦(テンペスト)

 魔導王朝サリオンの上級貴族の間では、ルヴナンからもたらされた情報がエラルド公爵から逐一報告されていたので、前回会議に出席したエラルド公爵の報告と相まって、絶賛話題沸騰中であったのだ。

 

 そしそれは、貴族だけに(とど)まらない。

 

 魔王リムルとの会談の結果を報告した際、皇帝から冷たい視線で嫌味を言われたエラルド公爵。

 

『――ほーん。自分だけでそんな面白そうな所に出向いたの? そんな面白い生き物(スライム)がいるのなら、この目で見たかったわ。私はね、ツキハちゃんとコハクちゃんの報告だけで我慢してたのに……。誕生したばかりの魔王に立ち会うなんて、長く生きてる私でさえ経験した事もないのよね。ツキハちゃんとコハクちゃん達は、ちゃっかりあの国に住み着いてるし。で、貴方も自分だけで行ってしまうし……。ねえ、抜け駆けって知ってる? あの()達はしょうがないとしても、身内からこんな扱いをされるなんて、私は何て可哀想(かわいそう)な皇帝なのでしょう――』

 

 と、ネチネチと文句が続いたのだ……。

 

 エラルド公爵にしてみれば娘を救うという名目で魔国連邦(テンペスト)を訪れた訳だが、いくら人造人間(ホムンクルス)に憑依してるとはいえ、そこで何が起きるかわからない。

 

 だからそんな危険な場所に、皇帝エルメシアを誘う事など出来るハズもなかった。

 

 しかし、皇帝エルメシアにとってそんな事はどうでもいい事である。

 そして、エラルド公爵をえらい勢いで叱責したのだった。

 

『――本当に、羨まし……じゃない、けしからん話ではないかしら? あの()達は密かに楽し……ではなくて、探っていたからいいとして、いえ、良くはないのだけど。そこでどのような愉悦を……じゃなくて、どのような危険があるかもわからないのに、勝手な行動をして。言語道断よ!!』

 

 ――といった感じに、本音を駄々漏らしながら、もの凄く()ねられたのだ。

 

 そう、叱責というよりは愚痴である。

 

 臣下の前では冷徹な無表情で、冷酷非情な皇帝と思われている皇帝エルメシア。

 

 そんな皇帝エルメシアがこのような姿を見せるのは、私生活でも付き合いのあるエラルド公爵と、番外魔王ツキハとコハクに、もう一人のみなのである。

 

 だから余計に、エラルドの負担が大きいのであろう。

 

 猫被り過ぎだろうが! ――と、その最たる者、番外魔王の二人と重ね、いつも内心で突っ込んでいるエラルドであった。

 

 今も皇帝が拗ねたせいで、魔国連邦(テンペスト)と技術提携をするという計画の予算が凍結されてしまい、計画の進捗(しんちょく)が滞っている。

 

 エラルドとしては、早く機嫌を直してもらい、計画を進めたいところであった。

 一度、ツキハとコハクに、エルメシアに口添えをしてもらえないかと頼み込んのだが……。

 

 ツキハ(いわ)く。

 

 「ああなったエル姐さんは、梃子(てこ)でも動かないから、自然と機嫌が直るまで待たないと無理よ」と言い。

 

 コハクに至っては。

 

 「むりおす、うちらも散々愚痴られたんやで。矢面に立つのがあんさんの仕事やおまへんか? あきらめなはれ」と、突っぱねられたのであった。

 

 であれば、もしも今回、皇帝にこの案件を知らせずに自分だけ参加をした場合、ツキハとコハクの報告によってエルメシアに光の速さでバレてしまい、間違いなく逆鱗に触れる事になるだろう。

 

 お披露目とされているが、祭りも同時に開催されるらしく、余興も様々なモノが準備されているとの事。

 

 これはツキハとコハクの報告によって、詳しい事はまだ不明だが、かなり面白い趣向が用意されると聞かされ、退屈を持て余している皇帝エルメシアにとって、そんな楽しそうな催しを見逃すハズがなかった。

 

 今回は、ツキハとコハクもエラルドも、揃って叱責される――

 ではなく、皇帝エルメシアの盛大な愚痴を聞かされる場と言っても過言ではなかったのだ。

 

 散々愚痴られたツキハとコハクは既にその対象ではなくなったが、エラルドはその対象になったしまったという事が正解なのである。

 

 ある意味、やはり自由人シルビア・エル・リュの娘と、言ったところかも知れない。

 

 だから、エラルドは包み隠さずに手紙の内容を見せる事にしたのだ。

 隠しようにも、魔国連邦(テンペスト)にツキハとコハクが住んでいて、魔王リムルと傭兵契約も締結してる故に、それも無理なのだから。

 

 

 そんな事をエラルドが考えていると、手紙を読み終えたエルメシアが顔を上げた。

 

 エラルドが慌てて姿勢を正すと、エルメシアが口を開く。

 

「それで、どうするつもりなのかしら?」

「どう、と仰いますと?」

 

 咄嗟にエラルドは誤魔化しつつ答える。

 

 言いたい事はわかっている。

 だがしかし、それを先に口に出す事は出来ない。

 

 皇帝たるエルメシアが参加となれば、国を挙げての行事となる。

 そんな大事になるとわかっていても、エラルドが口を挟む事は出来ない。

 

 あくまでも皇帝自らの意志で、話を進めてもらわなければならい、というのがエラルドの本心なのである。

 

「ふーん、誤魔化すんだ? 時にエラルド、吉田氏の店から取り寄せているお菓子(スイーツ)だけど、最近急激にその品質が向上したのだけど。その原因を御存じ?」

 

 突然話題を切り替えるように、エルメシアがエラルドに問いかける。

 

 しかしエラルドは意味がわからず、返答に困ってしまう。

 

「策士と名高い貴方も庶民の市場には疎いのかしら? 少しはツキハちゃんやコハクちゃんみたいに、あらゆる分野の市場も把握しては? 期待外れね」

「申し訳御座いません、陛下。吉田氏というのは、イングラシア王国に店を構える陛下お気に入りの菓子職人でしたか。〝異世界人〟という事で保護されている人物ですな」

「何だ、知ってるじゃんエラルド公。クヒヒ」

「なっ!?(グヌヌヌ、あの悪さ顔。ツキハ殿、貴女に言われる筋合いはないですぞぉー!)」

 

 いきなりツキハが横から口を挟み、それにエラルドが一瞬ムッとした顔付でツキハを見るも、咳払いを一つして話を続ける。

 

「コホン。失礼致しました、陛下。しかし、その吉田氏の店から菓子を取り寄せておるという話も初耳なのですが、それとリムル殿からの招待状と、どのような関係が?」

 

 わからない事は素直に聞くに限るとは、この事。

 

 身内以外の者がこのような対応を取れば失職は免れないが、エラルドにそれは当てはまらない。

 皇帝の素顔を知る気軽さで、エラルドはエルメシアに聞き返す。

 

「何だ、本当に知らないんだ。エリューンちゃんが数年前にお土産として買って来てくれたんだけど。あ、そうそう、その前に何度かツキハちゃんとコハクちゃんが買って来てもくれたわねえ。貴方は貰わなかったの?」

「何ですとーーッ!?」

 

 思わず叫び、ツキハとコハクの方も見るエラルド。

 

 娘のエレンが自分にお土産をくれなかった事に、思った以上にダメージを受けたのだ。

 ついでに、番外魔王の秘密を知る一人なのに、やはり自分にだけお土産が来なかった事にも追加ダメージを受けたエラルドであったのだ。

 

 恨めしそうにツキハに視線を向けると。

 

「女の子同士の事なんだから、仕方ないじゃん。クヒヒヒ」

「お……(フヌーーー。アンタが女の子などと、どの口が言うかあーーーッ!)」

 

 お、オババと喉まで出かかったのを必死に吞み込み、ケラケラと笑うツキハを軽く睨むエラルド。

 そんなエラルドをコハクが「あんさん。今、何を()おうとしましたんや?」と、目が笑っていない笑顔で静かに問う。

 

「え? いや、何でもありませんぞコハク殿」

 

 と、慌てて言い(つくろ)うエラルド。

 

 同時にエルメシアの鋭い視線に気付き、目を泳がせるエラルドであった。

 

 そんなエラルドを見て留飲(りゅういん)を下げたのか、エルメシアが満足そうに笑い言う。

 

「貴方のそんな顔が見れたから、良しとしましょう。では、教えてあげる。吉田氏は、とある人物から材料を仕入れるようになったのよ。そのお陰で商品の種類も大幅に増えて、その品質も向上したみたい。そして何よりも、資金援助と引き換えに商品を融通してくれるようになったのよ」

 

 そう言って、エルメシアは詳しく説明を始めた。

 

 〝異世界人〟、吉田薫(カオル・ヨシダ)

 イングラシア王国の王都で、喫茶店と称する甘味処を経営する人物。

 

 無能力者という事になっているが、真偽のほどはわからない、が。

 一度コハクが『解析鑑定』で吉田氏を見ているが、その時も何の能力(スキル)も持たない普通人とエルメシアに報告している。

 

 ただし、彼のお菓子(スイーツ)作る技術は超一流で、自由組合総帥(グランドマスター)も懇意にしてるらしく、あの聖人ヒナタもお忍びで出入りしていると、ルヴナンから報告が上がっている。

 

 ともあれ、中々に繫盛している模様。

 

 エラルドもそこまでは把握していたが、エルメシアの説明にはまだ続きがあった。

 

「私はね、吉田氏を勧誘した事があったの。ツキハちゃんとコハクちゃんにエリューンちゃんのお土産は、それはそれは美味しいケーキだったのよ。だから、この国の専属になってもらおうと考えたの。でもね、断られた。どれだけお金を積んでも、コハクちゃんに人に化けてもらって色仕掛けで勧誘しても、吉田氏はこの国に来てはくれなかった。あ、そうそう、ツキハちゃんにはこういうのは無理だから、頼んでないわよ――」

「大金積まれてもやんねーよ。アホか、エル姐は」

「ええ、だからコハクちゃんに頼んだのよ」

 

 エルメシアの言葉に即反応したツキハが、文句を吐き捨てるように言う。

 それを見たエルメシアは、クスクスと笑う。

 

 エルメシアが言うには、吉田という人物は金では動かぬ男で、コハクの色仕掛けには反応があったが。

 

「どうやら好みではなかったかも、ねえ。やっぱり、ケモミミ少女でいけば良かったかしら」

 

 と、付け加えた。

 

 それを聞いたコハクは、「もう、何()うてますねん」と、苦笑いを見せる。

 

(え? ケモ、ミミ? 何ですかそれ?)

 

 聞きなれない言葉に、エラルドは内心困惑する。

 

 最近ツキハがヴェルドラのところから借りてきた漫画をエルメシアに貸していて、その漫画の内容から得た知識を、思わず口にしたエルメシアであった。

 

 そう、エルメシアは絶賛漫画にドハマリ中だったのだ。

 寝る前の密かな読書、それがリムル特製の漫画である。

 

 で、そんな事もあり、仕方なく、数量限定のお土産を買ってこさせるだけで、我慢していたのだという。

 その発言にツキハが、「パシリもいい加減にしてほしいわ」と、更に文句をたれる。

 

 するとそれにエルメシアが、「あらあ、ツキハちゃんの分も、私が出してるわよねえ?」と、にこやかに言い放ち。

 

「う……。はい、ゴチになっております」 

 

 と、すかさず降参態勢を取る。

 

(一体内をやってるんですか、陛下――ッ! それとツキハ殿とコハク殿も、変な事を陛下に吹き込んでは、ないでしょうねえ!?)

 

 エラルドは、またもや内心で激しくて突っ込みを入れた。 

 

 だがしかし、エルメシアの話はまだ終わらない。

 更なる爆弾発言を落として来る。

 

「話を戻すけども。ここ最近、その吉田氏が店を閉めると言い出したらしいのよ。支店を出すつもりなのか引っ越すつもりなのか、調査報告待ちなのだけど……それでも、お休みの間にスイーツが食べられないのは大問題と思わなくて?」

「思いませんが、何か?」

「ほーん。貴方、そんな事を言う訳? エリューンちゃんはあそこのスイーツが大好物だから、あれを簡単に手に入れられるのなら、ちょくちょく帰って来てくれると思うのだけど?」

「な、何ですって!?」

「実際、定期的なお茶会には、ちゃんと参加してくれているもの」

「はあ!?……」

 

 衝撃の事実、ここに有り。

 

 ここ数年、娘が本国に寄り付きもしないと思っていたエラルドにとって、エルメシアの告白はとんでもない破壊力を秘めたものだった。

 

 そして、そこへトドメの一撃が見舞われる。

 

「エリューンちゃんがどこにいても、主要国家の近くや大きな村の近くなどに、コハクちゃん特製の『転移門(ゲート)』が隠してあるから、いつでも帰って来られるのよう」

「はあわッ!?……」

 

 これにはエラルドもたまらず、変な声を出してしまう。

 

 護衛に付けた二人が当てにならないのは仕方ないとしても、陰から見張らせていた者からも報告は受けていなかった。

 

 更に言えば、陰の影から見張っている者、ツキハとコハクの眷属もいたが、ここからはエリューンの身に危険が及ばない限り、報告は一切上がってこない。

 ただし、皇帝エルメシアには逐一報告が成されている。

 何故なら、エルメシアが個人的に依頼した影の護衛だからだ。

 

(アイツら、後でシメよう。眷属は、下手をすると返り討ちに()いかねないな……)

 

 とりあえず、自分の付けた見張りだけシメようと思ったエラルドであった。

 

 だが今はそんな事は置いといて、エルメシアの話を聞く方が最重要事項なのだ。

 

「由々しき事態ではありませんか!」

「でしょう? でも私は、金と権力に物を言わせてというか、大金をルヴナンに積んで、かなり有力な情報、いえ、確実な情報を掴んだのよ」

「聞きましょう」

「何とビックリ、その引っ越し先と目されるのが、貴方が出向いた魔国連邦(テンペスト)なのよね。貴方、あそこの国まで行って何をしていたの?」

 

 そう言われたエラルドは、ふと思い当たる事があった。

 

(あそこで出された料理の数々は、素晴らしいものであった。デザートの一品を見て、エレンちゃんが感激していた……。あの時は確か、『流石はシュナちゃんねぇ、あの新作レシピまで完璧に再現しているわよぉ!』と、はしゃいでいたのだったか……)

 

「ああっ! そういう意味だったのですか!?」

 

 ようやく察したエラルドが、思わず叫ぶ。

 

 それにエルメシアは、溜息を一つ吐く。

 

「貴方ねえ、本当に切れ者なの?」

 

 そう言われると、自信がなくなるエラルド。

 

「面目御座いません……」

 

 そして、素直に謝罪を入れるのであった。

 

 

 皇帝が不機嫌だった理由――

 

 それは、エラルドが甘味を独占しようとしていると、勘ぐったからである。

 

 だがいくらエラルドでも、娘の為にそこまではしない。

 

「どうだか。貴方は親バカだからねえ……」

「せやねえ。どうしようもない親バカどすなぁ」

「だよねぇ。超が付く、親バカだものねぇ」

 

 三人から盛大にダメ出しをされるエラルド。

 

 こうして、エラルドが何も知らなかった事で、エルメシアからの疑いは晴れた。

 

 だがその代わり、肝心な事を知らないと、三人から馬鹿にされてしまう。

 

 

 疑いも晴れ、エラルドは思考を切り替えて、一番肝心な話に戻っていく。

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 次回、〝女帝エルメシア(後編〟を、よろしくお願いします!





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