忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
穏やかな日差しが差す庭園。
小鳥達が
木々がそれに答え、ほんの少し枝葉を揺らし答える。
そんな中……。
思考を切り替えたエラルドが、話を続けていた。
「して、陛下。話を戻しますが、リムル殿への返答は如何致しますか?」
エラルドがそう問いかけると、エルメシアはニンマリと笑みを浮かべる。
「そうねえ……」
何やら勿体ぶりな様子を見せながら、中々答えようとしないエルメシア。
エラルドは
ようやく直った機嫌を、再び損ねる愚は犯せないのだ。
何より、皇帝が外遊するとなれば、国を挙げての行事となる。
もしこれがエラルドの発案であった場合、反対意見が出る事は必至。
邪魔しようとする者も現れて、とても厄介な事になるのだ。
ここ、魔導王朝サリオンは、魔導帝たる皇帝エルメシアが興した国。
その支配下にある十三の王家に君主達がいて、全員が皇帝エルメシアに忠誠を誓っている。
基本的に、各王家は領地の自治を認められていて、皇家はそれら十三家から納められる税収で賄われていた。
そして、十三家は軍事力を一切持たず、皇家に全ての武力が集中している。
皇帝とは軍部の最高指導者であり、各国の調停を司る者なのだ。
エラルドの実家もその一つであり、実母であるエリス・グリムワルトが十三王家筆頭の地位を守っていた。
この母エリスは、皇帝エルメシアの祖母であり、エラルドが頭の上がらないもう一人の人物である。
余談ではあるが、エラルドの兄にしてエルメシアの父は、魔物と戦って戦死している。
これは魔導王朝サリオン開国以前の話であり、エラルドが生まれる前の、それこそ
そう、姪であるエルメシアも、エラルドよりも遥かに長く生きているのである。
皇帝エルメシアに頭が上がらないのは、仕方のない話なのだ。
さて、そんな十三王家なのだが……。
これが、中々の
先ず、役職にも就かず自領に引きこもる王。
立場を利用して、好き放題に国政に
皇帝エルメシアが行政に口を出さないのを良い事に、自国の権勢を増そうと考える者等々。
エラルドは公爵として、そうした者達への監視も役目としているのだ。
そして、その役目を影から支援するのが、ルヴナンの眷属で忍びの〝忍魔猫〟である。
この、魔導王朝サリオンの上級貴族や十三王家の飼い猫である魔猫が、〝忍魔猫〟である眷属と定期的に接触をして情報のやり取りをしているのである。
魔猫が見て聞いた事の記憶、これを『思念伝達』の応用で、記憶映像として引き出し、情報源としているのだ。
これが、どんなに恐ろしい事か理解しているエルメシア。
個人契約を締結した理由の一つがこれである。
その傭兵商会ルヴナンの脅威を使いこなしてこそ、喉元に突き付ける不可視の短剣と化すのである。
それは、誰もが内に隠す〝秘密の情報〟という、〝実態のない猛毒の短剣〟なのだ。
そして、この裏の情報を使う術を熟知しているのが皇帝エルメシアなのである。
それでもエラルドは、今回の件だけは慎重にならざるを得ない。
単なる
ないと言い切れないが、皇帝を亡き者にしようと考える不届き者が現れないとも限らない。
しかし、それは実質不可能でもある。
エラルドはそんな暗殺に対して、二重三重に対策を施している。
仮に、その対策をすり抜けて皇帝エルメシアの前に辿り着いたとしても、その瞬間にエルメシアはコハクの呪符によって〝幻想領域〟に隔離されてしまい、『時空間操作』もしくは『空間操作』の
但しこの呪符術は、今いる魔王を想定したコハクの特製呪符術式なので、実質〝
だがエラルドは慢心はしない、どこかで安心すればそれが隙となり、
だから、万全の状態で挑むべきだと考える。
そんなエラルドを見て、エルメシアが口を開く。
「心配し過ぎよ、エラルドちゃん」
「へ、陛下!?」
「小僧共が何を考えようが、
ここで、エルメシアの雰囲気が一気に変わった。
支配者としての、それ。
ただの一度も反乱を許した事のない、絶対君主としての
そして、両隣に座るツキハとコハクの雰囲気も一変していた。
微かに漏れ出す、魔王覇気。
長き時を生きるエルメシアからすれば、海千山千の王達やエラルドすらも、生意気な子供にしか見えないのだろう。
そんなエルメシアも、普段はツキハとコハクにもちゃん付で呼ぶも、裏では子供扱いはしていない。
二人の持つ、濃厚で深い闇を見た一人なのだから。
〝異世界人〟の忍びという傭兵であり、この世界に魔物として転生したツキハとコハクを、絶対に怒らせてはいけない魔人だと、理解しているエルメシア。
二人が覚醒する前ならば、シルビアと二人で挑めばツキハとコハクを抑える事が出来る程には、シルビアとエルメシアの方が力は上だった。
だが、三百年前に覚醒してからは二人の力が凄まじく上がってしまい、今では足止めすらも厳しい状態にまで、力の差が広がってしまっていた。
だがしかし、エルメシアはそんな事は微塵も気にしない。
二人と契約を交わして以来、千七百年余り。
エルメシアはその中で、番外魔王という二人の本性も見てきた。
二人は基本、〝悪〟である。
本来ならば、皇帝エルメシアが関わって良い相手ではない。
それでも、〝悪は悪を知る〟というエルメシアの考えで、二人の事をお抱えの諜報機関を使い調査した。
そして、〝悪〟でありながらも、他の悪党とは違う何かを感じたエルメシアは、ツキハとコハクに会い、個人的に契約を結んだのだ。
必ず、表があり、裏が存在する。
だからこそ、裏で暗躍する外部の強力な存在が欲しかったのだ。
お抱えの諜報機関をも凌駕する存在――それが傭兵商会ルヴナン。
これは、エルメシアの賭けでもあった。
もし、想像以上の〝悪〟であるならば、自らが手を下す覚悟があった。
最初の数百年は、お互いにギリギリの駆け引きを行ってきた。
一度は、契約がご破算になるピンチもあったが、そこはエルメシアの
そうしてエルメシアは、段々とツキハとコハクの本性に近づいていったのだ。
どこか他の魔王達や魔物とは違う思考を持つと感じ始め、ひょんな事から二人が〝転生者〟だと気付いたエルメシアであった。
そして、ある時二人にその事を尋ねてみたら、意外にもあっさりそうだと答えたツキハとコハク。
この時、何故二人があっさりエルメシアにこの事を明かしたのかは定かではない。
それからは、お互いに距離が近づくも、やはりどこか油断のならない二人だと、認識したエルメシアである。
しかし、契約を重んじるところなどは
そう、二人にとって傭兵契約とは、自らの存在を示す大事なモノの一つではないかと、エルメシアは思った。
それからは、エルメシアも自分の素を敢えて二人に見せ、信用を深めていったのだ。
だからこそ、今ではお互いに遠慮のない態度が出来るのである。
但し、二人の〝悪〟の部分が強烈に突出した時は、エルメシアが全てをかけて止める覚悟で、ツキハとコハクと関係を持っているのだ。
それだけルヴナンの持つ諜報力が凄まじかったのである。
そしてエラルドは、そんな三人を前にして緊張し、ゴクリと
血の繋がりがあるからこそ気安く話せるが、本来であれば
エラルド自身も英雄ではあるが、エルメシアは〝格〟が違う。
同じく番外魔王の二人も魔王は名乗らないが、実質覚醒した〝真なる魔王〟である。
緊張するなというのは、無理な相談なのであった。
「あの魔王リムル、油断出来ない相手よ」
「――と、言いますと?」
皇帝エルメシアの、魔王リムルに対する予測。
魔王リムルの強さは言うまでもなく、配下の魔物達を意のままに動かす統率力。
ツキハとコハクの眷属達を意のままに動かす姿を見てるから、これと照らし合わせても侮れない。
そしてその戦略、周辺諸国と協力関係を築こうとするなど、ルヴナンの報告から見ても、今までの魔王にはいないタイプなのは間違いなかった。
だが、皇帝エルメシアがそんな当たり前の指摘をするハズもなく、エラルドはエルメシアの言葉の意味を探るべく脳内で思考を巡らせる。
「フフ、あのリムルという魔王は、ここサリオンとの街道整備を簡単に引き受けたのでしょう?」
「はい。今後の利用に当たっての通行税等の権利は要求されましたけど、工事そのものは全て負担すると請け負ってくれました――」
「そこよ。その権利、それこそが莫大な富を生む。エラルドちゃん、私とツキハちゃんとコハクちゃんを見ればわかるでしょう?」
普段通りの気安い態度に戻ったエルメシアにそう言われ、エラルドは少し考え込むと直ぐにそれに思い当たった。
「それは、〝利権〟の事ですな?」
エラルドも、リムルの狙いが当然利権であると気付いていた。
だからこそ慎重に判断し、交渉権を認めさせ勝ち取っている。
しかしエルメシアは、そんなエラルドを鼻で笑う。
「貴方もまだまだねえ。私達のような長命種はね、長期計画で利権を得る事を前提に計画を立てるものなの。ツキハちゃんとコハクちゃんとの契約を見れば一目瞭然だし、それは理解してるわよね?」
「勿論です。これから先、魔王リムルが築いた街道を利用する為の通行料、自分達で街道を建設する費用、それらを天秤に掛けて判断しております」
エラルドも、そんなエルメシアに堂々と答える。
事実、魔物の多いジュラの大森林を開拓し道を通すとなると、莫大な予算と人員に年月が必要になる。
特に、ジュラの大森林の境界にはクシャ山脈があり、その頂には武闘派で知られる
それらを
大国であるサリオンの国力を以ってすれば、この工事も不可能ではない。
だがしかし、それらに費やした資金の回収が出来るとは到底思えなかった。
だからこそ魔王リムルの申し出は、エラルドにとっては願った叶ったりの好条件に見えたのだ。
「甘いわねえ。コハクちゃんもそう思うわよね?」
「せやねえ。相手が今まで通りの魔王なら、それもありやけど。確かに甘いどすなぁ」
エラルドの考えはエルメシアに一蹴され、更にエルメシアが問いかけたコハクにも一蹴される。
「確かに、あの大森林を開拓するのは困難な事業となるでしょう。なら、何故今まで行わなかったのか? 簡単な事、それをする利がなかったからよ」
そう言って、エルメシアは教え導くように説明をコハクを交えて始めていく。
ツキハは隣で話に飽きたのか、
エラルドの言う通り、今までならば資金の回収は不可能であり、困難も多く、道を通す意味はなかった。
だが今は、状況が変わったのだ。
今まで街道の最終目的地は、遥か遠い都のドワーフ王国だった。
しかし現在は、ジュラの大森林に出現した新国家――ジュラ・テンペスト連邦国までで済む。
街道を作る目的、言わずもがなそれは交易である。
ドワーフ達と技術交流をする事で、より大きな技術発展が期待出来るというもの。
しかし現実的には、様々な障害を排してまで行う利がなかったのだ。
魔導王朝サリオンの秘匿された技術に、『魔導科学』というものがある。
この独自に発展した魔導技術により、国単体として何ら困る事はなかった。
だから、街道工事を行わなかった理由でもある。
ところが今、
「いい? 魔王クレイマンの一件以来、南の広大な魔王領は、〝
「――はい、わかっております」
そう答えたエラルドにも、エルメシアの言いたい事はわかる。
だがそれでも、自分の取った対応に間違いがあったとは思えなかった。
状況とは、不変ではない、その時々に応じて変化していく。
今まではその価値が無かったが、現在あの地には果てしない価値が生じてしまっている。
異なる勢力圏の要衝に位置する
その文化が交わる中心地となるのは、もはや誰の目に見ても明らか。
これから、凄まじい発展を見せるのは間違いないだろう。
それこそが魔王リムルの狙いであり、エラルドもそれに気付いたからこそ、今後の国交を確たるものにしようと考えたのだ。
「武力すらも必要となる開発事業行うくらいならば、通行料を支払うだけで利を得る方が良いと、私は判断致しました」
そう、エラルドは自分の判断はどこも間違ってはいないと、だから自信を持ってそうエルメシアに答える。
しかし、エルメシアはエラルドの返答を聞いても笑みを崩しはしない。
「確かに、間違ってはいないわね。損はしていないし、普通なら上出来の成果だわ。コハクちゃん、元〝異世界人〟で転生者の貴女の意見はどうかしら?」
ここでエルメシアは、異世界の転生者であるコハクに意見を求める。
「せやねぇ。エラルド公の対応は、エル姐さんが
「但し、とは……?」
コハクもエラルドの対応を間違いではないと言うも、その先があるような言葉にエラルドが思わず問い返す。
「それが普通の魔王の話やったら、どすな。先ず、先に
「――ッ!?」
ここまで言って軽く笑うコハクを見て、エラルドは何かに気付く。
「そう、魔王相手に永続的効果を発揮する条約を結ぶなら、もっと考えないとだめよぉ。だから、七十五点」
「うッ……」
「コハクちゃんの言った意味に、気付いたようね。工事には私達も協力すべきだったわね。戦闘は向こうに任せて、こちらで作業人員を選抜して、工事を請け負う団体を派遣すべきだったわ。要は、少しでも協力をしたという実績があれば、通行税に付いても交渉がもっと楽になったでしょうね」
「ッ!」
「もっと言えば、サリオン近くの街道工事は、こちらからも戦力と作業人員を出して、三分の一区間だけでも合同工事にすれば、街道の利権の一部をこちらが得る事が出来たでしょう。これは、コハクちゃんに聞いたら、そう答えたのだけど。相変わらず腹黒いわよねぇ、コハクちゃん」
「ツ!!」
今後永久的に、街道の権利は魔王リムルのものとなる。
最初に協力をしなかった以上、これを覆すのは難しいだろう。
相手は魔王であり、武力に訴えるのは愚策としか言いようがないからだ。
これは、目先の利益だけを追ったエラルドの失策といえよう。
「だから貴方は頭が固いというのよ、エラルド。状況は変わる、それに気付いたまではいいけれど、先入観に囚われたままでは駄目ね」
こう言われたらエラルドとしても、エルメシアの言葉に納得をする他ない。
大森林の工事は危険であるという思い込み。
しかしそれを考慮しなければ、そこまで予算が跳ね上がる事はない。
そしてまた、こちらから人員を手配すれば、技術交流を行い相手から知識を吸収出来たであろう。
(――クッ、私とした事が……。そこまで読み通せなかった……同じ〝異世界人〟の転生者であるコハク殿とツキハ殿が、近くにいたのに……)
脳裏に、魔王リムルのほくそ笑む顔が見えるようだった。
エラルドは悔しがるも、後の祭りである。
するとそこへ――
「まあ、それをすぐにとは無理おすやろ。エル姐さんみたいに自由
「コハクちゃん。私はそこまで奔放じゃないわよ。フフッ」
「そら失礼しましたどすな。フフッ」
コハクの言葉にエラルドは少し気を取り直し、ほんわりと笑みを浮かべコハクに言い返すエルメシアを見た。
そして、今一度気を引き締め、エラルドは二人をしっかりとした眼で見ながら、これからはもっと大局的に物事を見ようと思った。
「スイーツの店の件もそうだけど、街道の利権に付いてもそう。魔王リムルは、コハクちゃんとツキハちゃんとは別の意味で、人間社会を熟知している。元〝異世界人〟だったというのは、二人の証言から疑いの余地もないわ。その知識と経験を最大限に利用出来る力と権力を得ている。魔王というのを差し引いても、とんでもない存在よね。英雄
皇帝エルメシアの選択は為された。
エラルドとしても文句も否もないのだ、が……。
ただ一つ、気がかりな点があった。
「陛下、それについては納得です。他の者共にも口を挟ませぬように致しましょう。ですが、彼の国が安全であるという保障がありません。ルヴナンの報告にて詳細は掴んでおりますが、それでもです。参加するに当たって人選ですが――」
魔王リムルと聖騎士団との争いの詳細は、ルヴナンから既に報告書を受け取り把握済み。
魔王リムルの圧勝にてその戦いは終わり、ファルムス王国軍の侵攻時と違ってそれほど犠牲者は出ていないのも確認済みである。
圧倒的な存在と自信を感じさせるその対応だが、それと相反するように魔王リムルが甘いという風評も流れている。
内情を知る者からすれば手出しをする気も失せる内容なのだが、知恵の回らぬ
特に、番外魔王ツキハと番外魔王コハクには、そういった者達を引き寄せる何かがあるのではないかと、エラルドは常々感じていた。
そして、そうした強者が黙っているとは思えず、彼の国にはますます争いが増えるのではないかという危惧があったのだ。
(魔王リムルがどうこうなるとも思えぬが……ツキハ殿とコハク殿には、戦いを招き寄せる何かがあるようにも思えてならぬ……。治安が悪化する可能性は高い。私達ならばともかく、そんな場所に陛下をお連れするのは……)
というのが、エラルドの本心であった。
だがしかし、皇帝決断した以上、エラルドも覚悟を決めなければいけない。
苦労を背負いこむのはいつもの事、ならば万全の態勢で臨まなければならないと。
「皇帝所属の調停者達を動かしましょう。
事もなげにエルメシアが告げるが、エラルドは冷や汗が出る思いであった。
調停者の資格を有する、皇帝の全権代理人。
古き血に先祖返りした者のみで構成された、魔導王朝サリオンの最高戦力。
因みに、エラルドもその一人である。
他国に厳に秘している存在、
それを出し惜しみもせず動かせと、皇帝は命じた。
更に、影の護衛に番外魔王の二人を付けると告げ、ルヴナンへの直接取り引きも許可された。
この事を、エラルドは重く受け止めた。
ルヴナンへの直接取引が出来るのは願ったり叶ったりでもある。
だが、その掛かる費用の値段交渉の難しさは、エルメシアとコハクのやり取りを幾度も見てきたエラルドにとって、少し荷が重いと感じさせる程であった。
しかし、皇帝エルメシアに伺いを立てなくていいとなれば、エラルドが望む情報を迅速に得る事が出来る。そう考えると、これからの魔導王朝サリオンの未来に、暗雲が立ち込めぬように打てる手が増える事にもなると、俄然やる気を奮い起こしていくエラルドであった。
「――承知、致しました。ではそのように手配致します。それと、番外魔王の御二方、この場で失礼致します。陛下の護衛を、影から宜しくお願い致しますぞ」
「へえ、承りましたえ。エラルド公爵」
「皇帝の影からの護衛、しかと引き受けた」
椅子から立ち上がったエラルド公爵は、ツキハとコハクに深々と礼をする。
それを受け、眠そうな表情を消したツキハと、スッとお役目の顔になったコハクも椅子から立ち上がり、エラルド公爵に向かって礼を返す。
そうしてエラルドは、その場を後にした。
去り際に聞こえて来る三人の楽し気な話し声。
――ねえ ツキハちゃん 魔王リムルから何か権利を買う予定なのでしょう?
うん この間話した あれとかこれとか を 買おうかなーと
そう それ私も一枚噛んでいいかしら?
いいよ~ でも コハクも 何か買うとか言ってたよね?
ふふ まだ 秘密や
あらあら 私にも 秘密なのかしらぁ?
その時が来たら 一枚噛ませてやるよって 待っときなはれ
フフッ 楽しみにしてるわよぉ
エル姐さんも お披露目に出席した時に 何か買ったらええんやない?
そうねえ 考えておきましょう――
何やら聞こえて来る、怪しい話。
(以前から思っていたが……もしかして、絶対に混ぜてはいけない三人なのでは、ないだろうか? はあぁーッ……)
嫌な予感に襲われながらもエラルドは、内心深く溜息を付くのであった。
皇帝の外遊が決定し、次の日――その事が大々的に国内で報じられた。
エラルド公爵の、眠れぬ日々の始まりである……。
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