忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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お待たせしました。126話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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126話 転 機

 

 

 ミョルマイルとカザック子爵の商談中に、いきなり扉を入って来る者がいた。

 

 薄っすらと青みがかった長い銀髪をふわりと揺らし、目は金眼で美しい少年? いや少女か? 

 

 

「誰だ貴様、大事な商談に割り込むなど、無礼であろう!!」

 

 凄まじい怒号で(まく)し立てる、カザック子爵。

 

 カザック子爵の声など彼方に追いやりながら、ミョルマイルは侵入者の正体に気付く。

 

 

 それは、紛れもしない魔王リムルであった。

 魔物の国の盟主とは知っていたが、まさかあれから魔王にまでなるとは思いもしなかったミョルマイル。

 

 ファルムス王国軍の侵攻前に、他の商人共々リムルに命を救われた事は記憶に新しい。

 

 そのリムルも、今では八星魔王(オクタグラム)一柱(ヒトリ)

 

 それなのに、魔王リムルはミョルマイルを気に入っていて、最近はかなり親しくなっていたのだ。

 今では色々と二人して、金儲けに(いそ)しんでいたりもする。

 

 最初に任された回復薬の販路は、利益が定期的に出るようになっていた。 

 そのタイミングで、ラーメンとギョウザという異世界の食べ物の開発と販売を依頼されていたのだ。

 

 それは既に店や一部の食堂などで提供され、良い具合に好評を得ていた。

 

 それ以降、ハンバーガーやらホットドッグなどを試食させられ、それをチェーン店として展開するという計画を持ち掛けられていたのだ。

 

 後、魔王リムルから、ある人物と一度会って話をしてもらいたいとも言われていた。

 自分の計画とは別個に、とある個人が別食品でのチェーン店化を目論んでいる、と。

 

 ミョルマイルとしても、責任を持って計画を引き受け、とある人物と会う約束も魔王リムルと交わしていた。

 

 なので現在は、店員を確保して教育を行い、その間に店舗を見繕って内装を整えたりと、何かと忙しく準備中であり、これが一段落したらとある人物と会うと報告をしようと矢先だったのだが……。

 

 リムルの方がかなり忙しく、ここ一月ほど連絡が取れずにいたのだ。

 

「え? リムルの旦那じゃないですか!? 今は正念場だから、残念だけど遊んでる場合じゃないとか言ってませんでしたか?」

 

 流石に驚いたのかミョルマイルは、思わず問いかけてしまう。

 

 何しろ、つい最近まで聖騎士団と揉めていたハズだったからだ。

 

 

 それなのに、その当事者が今何で? 

 

 ――そんな考えが脳裏を駆け巡り、ミョルマイルは今まで対応していたカザック子爵の事など、明後日の方向に蹴り飛ばしていた。

 

 そんなミョルマイルの耳に、「お、お待ちください! 旦那様は今、お客様と商談中でして!」と、慌てて止めに入る使用人の声が聞こえて来た。

 

 まあ、あれだと、ミョルマイルは思う。

 

 この美貌に見慣れぬ者は、しばし見惚れてしまうのは必然。

 

 大失態である。

 

 が、ある意味、仕方のない事だと。

 

 ミョルマイルでさえも、気を張っていなければ見惚れてしまうのだから。

 

 会話をしている時や悪巧みをしている顔なら気にはならない。

 しかし、リムルが普通にしている時は、別人のように可憐(カレン)なのである。

 

 リムルを止められなかった使用人を、責める気にはなれないミョルマイルであった。

 

 

「ぬう。リムルの旦那、だと?」

 

 そうカザック子爵に問われたミョルマイルだったが、それを聞き流してしまう。

 

 しかし、リムルの方はそれに気付き、少し気まずそうな顔をする。

 

「あ、悪い。お客さんがいたんだね。じゃあ、お前の館に寄って待ってるから、また後でな!」

 

 驚いていたミョルマイルは、リムルの声で我に返った。 

 

 そこへ――

 

「貴様、無礼であろうが!!」

 

 と、あろうことか魔王に向かって、そう叫んでしまうカザック子爵がいた。

 

 そんなカザック子爵を見てミョルマイルは、何だか可哀想な生物に見えて来た

 

(もしもリムルの旦那が暢気(のんき)な性格をしていなければ……今頃コイツの命は、当に無くなっているだろうな……)

 

 ミョルマイルは、深くそう思ったのだ。

 

 〝無知は罪なり〟とは、この事。

 

 教えた方が良いのだろうかと、真剣に悩むミョルマイル。

 

 だが、そんなミョルマイルの気持ちも知らず、無謀にもカザック子爵は声を荒げていく。

 

「おい、小僧。いや、小娘か? もしかして貴様は、そこのミョルマイルの情婦なのか? 勝手に中まで入って来て盗み聞きをした上に商談を邪魔をするなどと、この責任をどう取るつもりなのだ?」

 

 いきなりそんな事を言い始めるカザック子爵。 

 

 それを聞いたミョルマイルは、流石にオイオイと思い内心呆れ返る。

 

(コヤツ!? リムルの旦那に対して何ちゅう事を――)

 

 どこかイヤらしくも気色の悪い目付きでリムルを舐め回すように見るカザック子爵を見て、ミョルマイルは生きた心地がしなかった。

 

「そいつはどうも、失礼しました。いやー、誰にも止められなったもので、本当、スイマセン」

 

 と、リムルは調子良く謝罪を入れる。

 

 それを見たカザック子爵は、更に許しもせずに追い打ちをかけてくる。

 

「ほう、貴様の貌はまあまあだな。礼儀は大切なもの故、何ならこの吾輩が面倒を見てやってもいいぞ? どうだ? ん……なッ!?」

 

 そう下卑(げび)た声でリムルに言うと、いきなり首周りを手で触り、何かに刺されたような感触に襲われたカザック子爵。

 

「つッ、んん!? ッつ、んんん……?」

 

 しきりに首周りを手で触り、カザック子爵はキョロキョロと目を動かしながら首を左右に回す。

 

 ミョルマイルはカザック子爵が何をしてるかわからず、呆気にとられた顔で見ていた。

 

 そして、リムルは……。

 

 見た。

 

 

 カザック子爵が何かに刺されたような顔をした時に、一瞬だけ小さく空間が揺らいだのを。

 

(あ、これ、眷属か?)

《是。個体名:カザックの後ろに番外魔王の眷属が一人、『空間迷彩』で隠れ潜んでいます》

 

 リムルの疑問にすかさず智慧之王(ラファエル)が答える。

 

 今回リムルはお忍びでミョルマイルの所に来ていた。

 

 しかし、ツキハだけはこの事を事前にリムルから聞かされていたのだ。

 

 何故ならば、ツキハがよくサンコと悪巧みをして金儲けをしていたのをシオンから聞かされていて、一度ツキハに、内密でどんな小遣い稼ぎをしているのかと、聞いたのが始まりである。

 

 それからはツキハが使う幾つかの闇ルートを教えてもらったり、逆にリムルがミョルマイルと組んで、ある商売を目論んでいると話したりしていた。

 

 こうして今回はお忍びながらも、ツキハがブルムンド王国で諜報活動をしている眷属の一人を、こっそり護衛に付けてくれていたのだ。

 

 リムルは大丈夫だからと最初は断ったのだが、『いつ何があるかわからないから、用心に越した事はないよ』とツキハが言い、リムルがそれならばと受けた形だったのだ

 

 配下達には内緒の、〝小遣い稼ぎ〟。

 

 ツキハやコハクもルヴナンとは別個の稼ぎを持っていて、そこらの情報異交換を秘密裏にリムルはしていたのだ。

 

 こっそり動く時の護衛にはぴったりの、ルヴナンの護衛である。

 

 この眷属が糸のように細く伸ばした爪で、カザック子爵の首元をチクリチクリと刺していたのだ。

 

 そしてリムルは、その感じた気配の下に『思考加速』付きの『思念伝達』を送った。

 

『えっと、ツキハにいわれてきた護衛かな?』

『!? はい、リムル様。モモコ()と申します。以後、お見知りおきを頂ければと』

『うん。モモコという事は、百番目の眷属だね?』

『はい、その通りで御座います。(あるじ)から、ここ、ブルムンド王国での諜報活動を任されています』

 

 眷属にしては言葉遣いが丁寧な事に、少し驚きを覚えるリムル。

 大体の眷属は敬語を使えど、割とざっくばらんな感じが印象にあった。

 

 しかし、このモモコに関してはどこか真面目な印象が(うかが)えたのだ。

 

(へえー。かなり言葉遣いが丁寧な眷属だなぁ。モモコ、女性の眷属か。声からして、二十代前半くらいだろうか? って、千年以上は生きてるんだったな)

 

 そして、そんな事を考えてるリムルにモモコからある提案が為される。

 

『リムル様、一つ宜しいでしょうか?』

『ん? いいぞ』

『この、無礼な男。お許しを頂ければ、今晩にでも、この男に関わる者全てを始末致しますが?――』

『え?』

 

 始末と聞き、思わず素に返るリムル。

 

『一切の痕跡も残さず始末出来ますので、如何(いかが)致しますか?』

『えと、何だ(いきなり始末とか、お前らやっぱ怖えよ! )――』

 

 他の眷属とは違って真面目な眷属かなと思ったリムルの考えは、呆気(あっけ)なく吹き飛んだのであった。

 

『リムル様?』

『いや、あんなヤツ一人、お前らの手を(わずら)わせるほどじゃないよ。好きにさせておくさ』

『了解しました。では、引き続き護衛を続けさて頂きます』

『あ、そうだモモコ。ちょっと聞いていいか?』

『はい、何なりと。お答え出来る範囲でならば』

『あのカザックとかいうヤツの事、どこまで調べが付いてるんだ?――』

『全てです』

『へ?』

 

 モモコの即答に、またも素で声を上げるリムル。

 

『全て?』

『はい。個人の性癖から趣味まで、家族構成に親族。交友関係、裏社会の者との繋がりに、汚職の数々に、敵対関係者全てです』

『ほおぉ』

『後、裏社会の者との繋がりと申しましても、私から言わせてもらえれば、精々チンピラに相当する者しか扱えません。それぐらいの小物貴族です、この男は。もしも気がお変わりになるのならば、コハク様の許しを得て、ロモコ班に声をかけますけど?』

『いや大丈夫。それより、このカザックという男の調査資料を俺に見せてもらえるか?』

『はい。では、直ぐにルヴナン支店の者に言って用意させましょう。送り先は執務室で宜しいでしょうか?』

『いや、俺が支店に直接取りに行くよ』

『了解しました。そのように伝えておきます。では、これにて』

 

 淡々と告げてモモコは、再び気配を偽りながら自己の存在を隠していった。

 

(ロモコ班か……。ツキハから聞いたけど、コハク直属の六百から七百番までの暗殺部隊。コハクが一から暗殺術の全てを叩き込んだ、暗殺忍魔猫達、かぁ。ソウエイもアイツ等だけは、他の眷属とは違う怖さがあると言ってたもんな。本当に一切の痕跡も残さずに暗殺をしたとも聞いたし。おっかねえよな、マジで。味方になってくれて良かったわ、本当に……)

 

 リムルは思う。

 

 自分の進化に伴い、配下達も強さを手に入れた。

 

 だがしかし、その強さを更に生かすには、これからの戦闘経験が必要になる。

 この経験の差がこれからの戦いを左右すると、リムルは感じていた。

 

 どんなに進化して強さを手に入れても、同じ強さを持つものと相対したならば、経験の差で敗れるかもしれない。

 

 経験の差を覆すには、それをも凌駕する圧倒的な力しかない。

 

 そして、それを出来るのは……最強の竜種に迫る領域に足を踏み入れた者しか出来ないだろう。

 

 これから先の戦い、自分に更なる進化があるのか? このまま自分の力が通用するのか?

 

 それは、リムルにも、誰にもわからない……。

 

 

 そんな事を考えつつ、リムルは『思考加速』と『思念伝達』を終える。

 体感時間にして一・三秒の会話であった。

 

 そして、カザック子爵の言い様に流石のミョルマイルも、呆れを通り越して怒りを覚える。

 自分が侮辱されたならまだしも、大恩あるリムルの事を情婦呼ばわりしたのは許せない。

 

(何でワシ、こんな小者に舐められとるんだろう……?)

 

 そう考え、何だかバカバカしくなるミョルマイル。

 カザック子爵の言動は、既にミョルマイルの許容を出来るラインを超えていた。

 

 確かに貴族相手に揉め事を起こすと、不敬罪で色々と面倒な事になる。

 だからと言って、何でも言いなりになる必要などはない。

 

 面倒だからこそ下手に出ていただけの事。

 

 敵対するなら受けて立とうと、覚悟を決めるミョルマイルであった。

 

「おいカザック、ワシの恩人に無礼を働いているのは貴様の方よ。フンッ、たかが子爵の分際で、このワシを怒らせるつもりか?」

「な、な、何ィ!?」

「もういい、帰れ。貴様との取引はこれまでにさせてもらおう。今後一切、ワシに頼るではないわ!」

「き、貴様! たかが商人の分際で貴族に逆らうなど、狂ったかミョルマイル!!? んッ? あつッ!? んん? む、虫か?」

 

 ミョルマイルの言葉に激怒して叫ぶカザック子爵が、またも首元にチクリとした感覚を覚え、怪訝(けげん)な顔をして首元を触る。

 

(プッ、クッ……やめろモモコぉー! 今それは、笑いを堪えるのに必死になるじゃねーか!)

 

 誰がやったか知ってるリムルは、内で必死に笑いを(こら)えていた。

 

 ミョルマイルの方は、何やっとるんじゃコイツは? といった顔でカザック子爵を見ていた。

 

「フンッ! とにかくだ。外交問題に発展しそうな犯罪組織と手を組むようなヤツは、厄介者以外の何物でもないわ! そんな疫病神には、お引き取り願いましょうか」

「お、おのれぇーミョルマイル! 貴様、これまで目を掛けてやった恩を忘れおって……。必ずや後悔させてやるからな!」

 

 ミョルマイルの一喝に、捨て台詞を残してその場を去っていったカザック子爵。

 

「やれやれ、小者の癖に偉そうにしおって」

「ちょ、おい、ミョルマイル君? 流石に怒らせたみたいだけど、大丈夫なの?」

 

 内心大丈夫なのはわかっていたリムル。 

 カザック子爵が去っていった後を、モモコが付いていったのを智慧之王(ラファエル)が微かに感知したからである。

 

 それでも怒りに燃えるミョルマイルを気遣い、声をかけたリムルなのだった。

 

(ああ、やはりこの人は大物だ……。魔王になったと聞いた時も思ったが、この人は本当に変わらんわい……)

 

 そう思うとミョルマイルは、肩の力が抜けたのだった。

 

 

 その後、ミョルマイルは別室で待つ面会人を全て断り追い出してしまう。

 

 商機には乗り遅れてはならない波があり、今がその時であった。

 

 本当に大切な事とは何なのか? ミョルマイルはそれを間違うような愚か者ではない。

 

 魔王であるリムルがお忍びで自分を尋ねて来たのである。

 今までとは何か違う雰囲気を感じ取った、ミョルマイル。

 

 どこか、ワクワクする気持ちで一杯になるミョルマイルの心。

 

 善は急げとばかりに全ての案件を部下に押し付け、込み上げる喜びを押し隠す。

 

 

 そしてこの日――

 

 ミョルマイルのいつもの日常は終わりを告げ、新たな転機が訪れる。

 

 

 





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