忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。129話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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129話 〝アイツの財布に底はないのか?〟

 

 

 打ち合わせも無事終わり、リムルが去った後の館。

 

 

 ミョルマイルは、館に住む家人や使用人などを呼び集めた。

 

「ミョルマイル様、リムル様はどのような御用件だったんで?」

 

 ミョルマイルの専属護衛である、元Cランクの冒険者のビッドが問うて来た。

 

「ビッドよ、これから忙しくなるぞ」

「そうですか、また無理難題を言われたのですかい? あの方の発想はいつもユニークですが、それに振り回されるコッチの身にもなって欲しいものですぜ」

 

 ビッドは笑いながら言うが、本心ではなかった。

  

 そう、ビットもまたリムルに命を救われた一人だったのだ。

 イングラシア王国へミョルマイルが行く時に、道中の護衛として雇っていたのがビッドだった。

 

 そしてリムルに、あのスカイドラゴンの電撃から守ってもらっていた。

 ミョルマイルが回復薬を配る中、同じようにビッドも怪我をした者達に配っていた最中の事だったのだ。そして、この働きによってミョルマイルの専属護衛として雇われたのであった。

 

 そんな経緯がありビッドもまた、魔王であるリムルを心酔する一人なのである。

 

 この話を聞いた執事がミョルマイルに問うてきて、ミョルマイルは簡潔にそれを説明する。

 

 魔国連邦(テンペスト)での開国祭において、重要な仕事を任されたので魔国連邦(テンペスト)へ移住すると。

 

「ワシはリムル様に仕えると決めた。今回頼まれた大仕事を、何としても成功させてな!」

 

 この決意を込めた言葉に、家人達がどよめいた。

 

 ブルムンド王国に戻るつもりはない――

 

 その覚悟を悟った家人達は顔を見合わせて戸惑う中、ビッドはミョルマイルに何としても連れて行ってくれと懇願し、ミョルマイルは「あそこじゃ、お前程度では護衛にもならんわい。だがまあ、ワシの手伝いをするなら連れて行ってもいいわい」と、ビッドの願いを受け入れたのであった。

 

 それからミョルマイルは――

 

「お前達はどうする? 何なら、この屋敷は好きにしても構わんぞ?」

 

 と、そう家人一同に問うも。

 

「「「「「お供、させて下さい!」」」」」

 

 家人一同は笑顔で、そう答えた。

 

「さて。では皆も、すぐに準備に入れ」

 

 そう言ってミョルマイルは、早速身支度の準備に入る。

 そうと決めたら、やる事は山のようにあるのだ。

 

 ミョルマイルはこの国の公認資格を有していて、更に自由組合にも所属している。

 なので、この国を出るも、他の国に行くのも自由なのだ。

 

 そこで後顧(こうこ)(うれ)いをなくす為に、自分に付いて来ると申し出た家人の一人、番頭のバッハに目を向ける。

 

 そこで、番頭バッハに、「もう、この店をお前に任しても良かろう」と、言ったミョルマイル。

 突然言われた番頭バッハであるが、ミョルマイルはそんなバッハに、付いて来てくれるのは嬉しいが、生活基盤もまだ出来てもいないところで、お前に苦労はかけたくないと言って、優しく(さと)したのだ。

 

 だがしかし、これは建前であった。

 

 本音は、この館と店を手放すと、せっかくここで築いた地盤を失う事になるからだ。

 番頭バッハ、ミョルマイルの親戚筋の息子で、店で修行をさせて欲しいと預けられていたのである。

 

 それに、中々目端の利く男で、ミョルマイルは目を掛けて可愛がってはいた。

 

 仕事ぶりは申し分なし、任せるに値する人物と判断したミョルマイル。

 

 しかし、まだ若いバッハはどうしてもミョルマイルと共に行きたくて、食い下がるが……。

 

 その気持ちの底をミョルマイルに、見抜かれていた。

 

 商売の師でもあるミョルマイルにもっと認められたくて、中々独り立ちをしようとしなかったのだ。

 そんなバッハが可愛いとは思うものの、それでは絶対に駄目だと考えていたミョルマイル。

 

 これではいつまで立っても一人前にはなれぬ、そして今が心を鬼にして突き放す良いタイミングであった。

 

「バッハよ、ワシはお前の親ではない。この店を任せるとは言ったが、やるとは言っておらんぞ。いいか、ワシがここを去っても、決してこの店を傾けるような真似はするではないぞ? そして、この店をワシから買い上げて見せよ!」

 

 ミョルマイルは慈愛の笑みを浮かべ、バッハの肩に手を置いた。 

 

 一見、面倒見の良い叔父に見えるが、そこは商人ミョルマイル。

 証文はキッチリと取って、代金は回収するという目論見である。

 

 これはこれ、それはそれ、商人ミョルマイルはそんな甘い男ではなかったのだ。

 

 しかし……。

 

(もっとも、こんな店の代金を支払えるぬようなら、コイツに大成する器量がなかったという事よ)

 

 と、厳しい師の側面を覗かせるミョルマイルなのであった。

 

「有難う御座います、有難う御座います……。きっと、きっと立派になって、ミョルマイル様から受けた御恩に報いたいと思います!」

 

 下を向いたまま歓喜の嗚咽を漏らす、番頭バッハ。

 

 それを頷きながら見るミョルマイルは、もう一度バンバンと力強くバッハの肩を叩き――

 

 「頑張るのだぞ!」

 

 と、声を投げかける。

 

 

 それからミョルマイルは滞りなく手続きを済ませると、連れて行く者と残す者の選別をし、番頭バッハに最後の忠告を告げる。

 

「万が一、困った事があったならば、相談に乗ってやる。だがお前達ならば、何の問題もなくやっていけると信じておる。だがな、もしもだ、身の危険を感じたり、厄介な事に巻き込まれたならば、ある店に行き、この呪符を使え」

 

 そう言うとミョルマイルは、一枚の呪符を、番頭バッハに差し出した。

 

「こ、これは? ある、店とは?」

 

 差し出された呪符を手に取り、(いぶか)しげにミョルマイルに問うバッハ。

 

「よいか、今から聞く事は、決して他言してはならぬぞ。よいな?」

 

 滅多に見せない怖い顔をしたミョルマイルに、バッハは無言で何度も頷く。

 

「その呪符はな、ある特定の者しか持てぬシロモノよ。裏社会では、その呪符を持つ者には、容易に手が出せぬと聞いた」

「う、裏社会、ですか?」

 

 バッハは、いきなり裏社会と聞かされて、ゴクリと乾いた唾を飲み込む。

 

「その呪符はリムル様から預かり、またリムル様が傭兵契約した者から預かったモノ」

「ま、まさかまさか、よ、よう、傭兵商会ルヴナン……」

「そうだ。もし、お前達に身の危険が(せま)ったなら、迷わずその呪符を持って、下町酒場にある〝チュール亭〟に行くのだぞ」

「は、はい。わかりました……」

 

 バッハはいつの間にかギュッと握りしめていた手を開き、握りしめクシャクシャになった呪符を見つめた。

 

 するとクシャクシャになった呪符がカサカサと音を立て、元通りの綺麗な一枚の呪符に戻ると、ポゥッとある映像を呪符の上に浮かべ映した。

 

 その浮かんだモノは――

 

 傭兵商会ルヴナンの紋章。

 

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「ヒッ……」

 

 思わず、小さく悲鳴にも似た小さな声を漏らすバッハ。

 ルヴナン真の紋章の存在を知らぬバッハでも、魔猫をあしらった紋章を持つものは、この世界に一つしか存座しないのは、知っている。

 

「バッハよ、そう言う事だ。良いな、それを肌身離さず、いつも持っておるのだぞ。いいな?」

「は、はい、み、ミョルマイル様――!?」

 

 どうにか返事をしたバッハの頭の中に、囁きかける優し気な声がふわりと響いた。

 

『大丈夫ですよ。その呪符を持つ限り、私達が、貴方達を守りましょう』 

「え? は? 女の、人……?」

 

 気配もなく頭の中に響いた声に、驚き周りをキョロキョロ見回すも、そこには自分とミョルマイル以外誰もいなかった。

 

 その『思念伝達』の送り主はモモコであり、呪符の持ち主の確認に来ていたのだ。

 

 そして、ほどなく落ち着きを取り戻したバッハに、ミョルマイルが告げる。

 

「ではな、バッハ。それと、わかっておるだろうが――」

「はい、御安心下さい。この地でミョルマイル様が築き上げた販路、それはキッチリと管理致します。御用の際は優先させますので」

「うむ。その時は頼むぞ!」

 

 念の為に、何かあった場合に商品を優先して回してもらう事を約束したミョルマイル。

 

 こうして、身辺整理を終えたミョルマイルは、付き従う者を引き連れて、一路、魔国連邦(テンペスト)へと旅立ったのである。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 少し時間戻し、ミョルマイルの館を出たばかりのリムル。

 

 

(フゥ……何とか引き受けてくれて、良かった。勧誘にも好感触だったし、これは期待大だな)

 

 ミョルマイルが魔国への勧誘を受けてくれた事に、安堵の溜息を一つ付くリムルであった。

 

 魔国連邦(テンペスト)の魔物には、金勘定に()けた者がいなかった。

 

 現在はシュナが帳簿を付けているのだが、これから先は同じようにはいかないだろう。

 村レベルならまだしも、国家レベルともなると、いくらシュナでもお手上げである。

 

 管理部門のリリナや、ドワーフ王国の元大臣ベスタ―が協力してくれてはいるが、それでも人材不足は(いな)めなかった。

 

 そこでシュナが一度リムルに、ルヴナンに協力を依頼してはと進言して、すぐにコハクに相談したリムル。

 

 傭兵商会ルヴナン、ここの経理部門はシュナの進言通りに、かなりの資金が動いていたのだ。

 その一端を見た時リムルは驚き、何故ここまでの資金管理が出来るのかと尋ねるも、コハクは笑うだけで、教えてはくれなかった。

 

 ルヴナンの経営管理の最適化が行われたのは、千年以上も前。

 その最適化を促したのは誰であろう――エル姐さんこと、皇帝エルメシアであったのだ。

 

 ツキハとコハクと傭兵契約を交わした時に、ルヴナンの資産管理が割とドンブリ勘定なのを見て、コハクに助言した事から始まり、現在に至る。

 

 それで、とりあえずの協力を約束したコハクだったのだが、そこでリムルに『もういっそ、本格的に金勘定に(ひい)でた者を雇いなはれ』と、言ったのであった。

 

『ええか、リムル。雇うなら、裏も表も知ってる商人を雇うんやで。人間の商人で、一番信用の置ける者がいるんやないか? うちからは、本格的な人材は出せん。流石にお家事情を知ってる者を、ホイホイとは貸し出せまへん。暫くは、うちが手伝ってやるけども、早急に探したら、ええんと違いますか?』

 

 と、言われたリムルは、パッとミョルマイルの事が頭の中に浮かび、祭りの企画を頼むのと魔国への勧誘をする為にここへ来たのだった。

 

 既にルヴナンでは、ミョルマイルの事はとっくに調査済で、リムルがミョルマイルと出会う前からブルムンド王国内での取引に、度々(たびたび)利用されていたのはミョルマイル自身も知らない。

 

 人間の仲介人を介して組織名を伏せ偽り、幾つものダミー商会を通してミョルマイルと幾度か取引をしていたのだ。

 

 そんなリムルも、コハクに言われる前からそんな事を検討はしていたので、コハクの言葉が後押しになり、決断したのだろう。

 

 

(ホント、ミョルマイル君なら融通も利くし、財務責任者になってくれたら、俺のお小遣いも増やしてくれるというもの。お小遣い……ツキハとコハクくらいとは言わないけど、せめてもう少し多めに欲しいんだよねぇ……)

 

 実際、ここ最近の国庫は潤っていた。

 

 ただリムルとしては、配下に給料を払っていないのに、自分だけお金を持ち出すのは気が引けるというか、良心が(とが)めるといったような感じになっていたのだ。

 

 全てはリムル様のものです――なんて、皆が言うもので、余計に手を出しにくくなったというのもあった。

 

(まあ、お金は国の発展に使うべきだとは思う。だけど、お小遣いは必要なんだ。おれはあまり興味はないけど、ゴブタとかを夜のお店に連れて行ってやらないといけないしね。ヴェルドラも一緒に行きたがって(うるさ)かったけど、今はツキハの(おご)りで、毎晩ツキハと一緒に遊びに行ってるみたいなんだよなぁ。しかし、どうやってヴェルドラの素性を誤魔化してるんだ? 解せぬ……。それにしても、〝アイツの財布に底はないのか?〟と、俺は問いたいね! ああいう店は基本、お金がかかるんだけども、その潤沢なお小遣いがガチで羨ましいぞ!)

 

 リムル、心の内で本音言いまくりである。

 

(そもそも、その金額も国庫の額からすれば知れてるんだけど、俺の小遣いから逆算するば、あっという間に使い切ってしまう料金設定なんだよな。それに、いつもは()ぐにお金を用意してくれるシュナも、行き先を聞いた途端に財布を仕舞ってしまうし……。流石にその雰囲気で、国庫は俺の金じゃなかったのかよと、聞ける訳ないじゃん! でも、今度からミョルマイル君と組んで、大手を振って金をちょろまかせそうだよな。何しろ、俺はツキハと違って、偽造予算申請書など作らなくていいのだから! ウハッ、ウハハッ、ワハハハハ)

 

 これからのお小遣い事情に、歓喜の声を内で上げるリムル。

 そう上手くいくのか? いかないのか? は、神のみぞ知ると、言ったところであるかも知れない。

 

 リムルは歩きながら、これからのお小遣い事情に小さく笑いを漏らし、今度は武闘大会に使用する会場の事を考える。

 

 ゲルドは現在、獣王国の都市再建で忙しく、カイジンもミルドもそっちの応援に出向いている。

 だが魔国を含め、これだけの工事を連続して行っているお陰か、急速に人材が育ちつつあった。

 

 ゴブキュウという名の、ミルドの弟子の職人がいた。

 今は頭領(とうりょう)として、街の建築に携わっていた。

 

 そう、記憶の新しいところでは、ルヴナン支店と温泉大浴場にツキハとコハクの家などを建築したのも、このゴブキュウ率いる職人達である。

 

 現在進行形で、時折半壊、もしくは全壊するツキハの工房を修理、立て直しに来るのも最早、当たり前のようになっていた。

 

 ゴブキュウならば、様式美溢れる円形闘技場を建ててくれるだろうと考えていた。

 

 普通ならば、何年もかかるだろう工事も、魔物の力ならばかなり短縮出来る。

 祭りが開催されるまで、五ヶ月と少々。

 

 普通に考えれば全く時間が足りない、そこでリムルは、今回は舞台せ完成すればいいだろうとした。

 

 そして設計は――

 

《解。主様(マスター)の記憶領域からの情報、ローマ時代の遺跡建造物(コロッセオ)を検索しました。それを元に図面を作成……成功しました》

 

(おお。流石智慧之王(ラファエル)先生、仕事がお早い。紙はまだあるし、俺のイメージもササッと付け足してと。普通はこの設計段階でも数ヶ月はかかるんだよなあ。現地測量に強度計算を含め、この作業だけで年単位の日数がかかる事もザラだったもんな。それもパソコンで何日も掛けて作成するような図面が、手書きであっという間に……。ホントこれ、反則級というか理不尽の為せる(ワザ)というか、あれだよね)

 

 そんな事を考えながらリムルは、この先はゴブキュウと相談だなと思い、ランガを呼び出す。

 

「ランガ、いるか?」

「ここに、我が主よ!」

 

 ランガが、リムルの影から頭をニュッと出して答える。

 

 ファルムス王国の攻略も落ち着いたので、ディアブロ以外は戻って来ていたのだ。

 

 リムルはたった今書き上げたばかりの闘技場の設計図面を、ランガに手渡した。

 

「これを街にいるゴブキュウって職人に渡してくれ。でだ、手が空いたら西門に集合と伝えてくれないか?」

「承知しました。ですが、リムル様は戻られぬのですか?」

「ああ。せっかくだし、フューズに会ってから帰るよ」

「それならば、護衛が必要なのでは?」

「いや、大丈夫だ。この土地に明るいモモコが護衛してくれるし、お前には早くこの設計図をゴブキュウに渡して来てもらいたいんだよ」

 

 そう言われて少し不安そうに尻尾を垂れるランガ。

 

 だがリムルは、そんなランガを(さと)すように告げる。

 

「大丈夫だってランガ。少し話したら直ぐ戻るつもりだし、何より、適材適所だ」

「適材適所、ですか?」

「うむ。ランガは俺の書いたこの闘技場設計図面を、早急にゴブキュウに渡すという、使命だ。そして、ルヴナンの眷属は、この土地を熟知しているし、何かあっても素早い対応が出来る。だから、適材適所なんだよ。頼んだぜ、ランガ」

「なんと! 承知!」

 

 リムルの言葉に納得をしたランガは、再び影に潜って行った。

 

(今も油断しないで『絶対防御』を発動させているんだけど、これを破るような攻撃が来たらどこにいても安全ではないし、護衛もろともなんて事もあるからな……)

 

 影に潜ったランガを見送りながらリムルは、ポソリと心中を吐露する。

 

 

 そしてその足でリムルは、自由組合ブルムンド支部へと向かうのだった。

 

 

 





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