忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
※作中で使用している特殊フォントは、〝キャベツの中から出てきた青虫〟様が 作成された特殊フォントを使用しています。
ミリムが獣王国に攻め入る当日。
その戦いは苛烈を極め、獣王国に凄まじい被害をもたらしていく。
獣王国近辺に潜伏しているツキハとコハクの眷属達は、その有様を見て口々に文句を言い始めていた。
『ロモコ、これはヤバいんじゃないの?』
『うん、そうなんだけど……コハク様から退避の命令は出てないし……どうしよう?』
『おい! あんたリーダーだろうがあ! 早く退避を許可しろや!』
『いや、それやったら、私がコハク様から、おしかりを受けるし……』
『はあ!? そんなの、リーダーの仕事でしょうがー』
『だ、だから。そ、そんなの、私の一存じゃ決められないし……』
『あたしらの為に、貴女が代表で、主に怒られるのがリーダーの仕事なんだよ?』
『え? えぇぇ……そんなの……嫌だし……無いし……』
『四の五の言ってんじゃねえーー! あのバカげた攻撃の余波が、その内ここに来るぞ! ってかもう来てんじゃねえかあーー うにゃあああああ――』
ドドドン! 大地を揺るがす轟音が大気を斬り裂き。
ロモコ達の近くで、カリオンの放った魔力弾の一つ、流れ魔力弾が大地に着弾、爆発する。
爆発に巻き込まれ、吹き飛ぶ百匹の眷属達。
『『『『『はにゃああああああああ!』』』』』
『『『『『ぎにゃぁあああああああ!』』』』』
『ロモコてめえーー! あの頭のイカレた戦いを間近でみるとか、バカか、あんたはあぁー』
『ひいぃーーーー! もう、誰かお助けーーーー! あ? コハク様。ミリム様が、現在カリオン様を圧倒していますですーー』
『『『『『こっちが助けて欲しいにゃ!! おいー! なに実況してるんにゃー』』』』』
流れ魔力弾が爆発するたび、吹き飛ぶ百匹の〝忍魔猫〟。
綺麗な放物線を描きながら百匹が吹き飛ぶ様は、中々にシュールな光景であった。
そんな中ロモコは、吹き飛びながらミリムとカリオンの戦いを実況しており。
コハクから『ロモコ、あんた命おしゅうないんか?』と呆れ声で言われる。
どこか抜けてる〝忍魔猫〟ロモコ、実力はあるのだが優柔不断な一面を持つ、困った〝忍魔猫〟でもあったのだ。
『えーとですね。ミリム様が、漆黒の鎧を纏ったのですけどもぉ……どうしましょ? 退避をしても、よろしいのでしょうか?』
『アホか! あんたらはよ逃げなはれ! いそぎや!』
『はいですー! 全員この場から緊急退避ですーー!』
『『『『『早よ言えにゃぁあああああああ!』』』』』
退避と聞いた瞬間、百匹の〝忍魔猫〟達が、必死の形相で駆けていく。
駆ける、ひたすら駆ける、〝忍魔猫〟の集団、それはもう、死に物狂いの全力疾走!
ドッパーーン! 百匹が一斉に音速を突破し、その巨大な衝撃波は辺りの樹々を薙ぎ倒し岩を砕き、大地に強大な一筋の渦を巻く土煙に覆われた線を作る。
その直後、ミリムから究極にして最強の魔法。
「
が、放たれた。
それは星が煌めくが如く、淡く美しい輝き。
その輝く光は、ミリムの眼下に広がる街並みを、音も無く消滅させていく。
自然と調和した素朴な石作りの街並みが、綺麗さっぱり消え去っていた。
かろうじてミリムの
カリオンの頭の中に、コハクが言った言葉が思い浮かび上がる。
(『黒い鎧を着たら、気を付けるんどすえ』……ははっ。コハクの奴、これと戦ったことがあるのか? ヤバいな、あれは……次元が違い過ぎる)
今のカリオンはコハクの言った言葉に、素直に頷けていた。
「だが、アイツ……なにか……ひょっとして――」
「ひょっとして、何かしら? 教えてくれるかしら?」
カリオンの首筋に、きらりと光る短刀の刃が、押し付けられていた。
カリオンの背後に音も無く忍び寄った者。
それは。
天空の絶対的支配者――魔王、〝
ミリムの圧倒的な
その強大な
「はっ、フレイ……お前もかよ!?」
「あら、私がなんなのかしら? ゆっくりと、聞かせて欲しいわね」
フレイの短刀を持った手が動き、カリオンの意識は完全に途切れる。
その光景を三獣士のアルビス、スフィア、フォビオ達は見ていた。
もちろん、必死に逃げたロモコ達も見ていて、コハクに報告をしていた。
『コハク様、これが事の顛末です』
『そうどすか……フレイがねぇ……』
『それでー、今先程、三獣士アルビス殿の指示で、戦士団と住民達がテンペストへ向けて避難を始めましたですー』
『なら、ロモコ。あんたらは避難が遅れている住民を探し出し、保護。クレイマンの部隊を見かけたら、
『了解ですー。皆さん、待望の暗殺タイムですよ~! 獣王国の住民を保護しながらの暗殺ですが、私達なら造作もないはずですよね? いきましょうー!』
『『『『『にゃい!』』』』』
コハクの
〝空間迷彩〟発動。
一斉に姿を消していく〝忍魔猫〟達。
音も無く駆け出し、その場には湧き立つ砂塵の煙だけが残っていた。
ミリムが獣王国を攻めた日から、三日経った昼下がりの午後のイングラシア王国。
折しもリムルが、テンペストへ帰る日が来ていた。
召喚された子供達がいる学校の先生をしていて、受け持ったクラスの子供達と別れをしている最中であった。
その様子をイチオが、ツキハに報告をしていた。
『ツキハ様、スライムの魔物リムルが、テンペストの帰路に着くようです』
『お! いつ、テンペストへ帰るんだ?』
『今子供達と別れを済ませている所です。それと、少し嫌な気配が……するのですが』
『ん? どんな気配だ?』
『巧妙に隠された気配……これは……にゃ!?』
『どした? イチオ』
『このとてつもなく嫌な気配、奴です! 聖騎士団、団長ヒナタです!』
『奴か!? イチオ、そこから動くなよ……結界は張られているか?』
『いえ……まだ張られてないようです』
『よし……これは――リムルを狙ってるくさいな。いいか、絶対にヒナタには気取られるなよ。確実に、殺されるぞ』
『了解しました。奴の恐ろしさは、理解しております』
『引き続き、監視続行だけど。ヤバい時は、即逃げるんだよ。いいね』
『はい、ツキハ様』
『念話』を終えたツキハは、宿屋の三階部屋の窓から外を眺め、思案に耽る。
(聖騎士団、団長自らリムルの暗殺に、動くか……何故だ……。あの少年が何か、吹き込みやがったか? このタイミングでテンペストに、あの召喚者のガキどもが入国したし。うーん、タイミングが良すぎるな……少年――自由組合・ギルドマスター、ユウキ・カグラザカ。ヒナタと同じ世界からの召喚者。あたしが居た日ノ本の住人みたいだけど、かなり時代が進んだ世界。あいつらの盗聴した話を纏めると、およそあたしがいた頃より、六百年先の日ノ本の人間なんだよねぇ)
ツキハは収集したユウキの他愛も無い会話情報から、自分のいた戦国時代より時代が進んだ日ノ本の人間だと判断し、窓の縁に体を預けたまま腕を組み、空を見上げ思案を続けていく。
(まあ、そのあたしは、五千年も遡ったこの世界に転生したんだけどもねぇ。しかしあの少年、平和な日ノ本にいたと言っていたな。ヒナタもそうだけど、少年――ユウキ・カグラザカ、あいつは、戦国時代にいた人間みたいに、みえるわ。ふっ……少年の企み――意外に、まだ見えないんだよねぇ。コハクは、「油断ならんえ」と言ってたしね。ユウキとクレイマンとの繋がり、レオンに復讐する機会を狙っている中庸道化連の連中、それに魔国の盟主、リムル・テンペスト……。それに、そろそろ――
窓から入る風がツキハの髪を、優しく揺らしていく。
思いに耽る顔からキッとした顔付に戻り、これから起こる事への顛末を見届ける為に、宿を出る。
テンペストの上層部。
現在、数日前からテンペスト近づく謎の武装集団の件でソウエイ以下、情報部の者達は全員出張っており、迫りくる不穏な空気の中。
残った上層部の面々は、ピリピリとした空気を纏い、慌ただしくなっていた。
そんな中大通りから裏路地へ入った所で、三人の男女が言い争う声がする。
「ミュウラン。お前、何をする気だ? さっきよ、俺に不自然な連絡が来たんだよ。『魔王ミリムが、攻めて来た』ってな。何を馬鹿なと思った所に、お前の不自然な様子が、気になったもんだからよ。こんな所で、何をするつもりなんだ?」
「ふふっ……普段は鈍いのに、こんな時だけ勘が鋭いなんて、ズルいわね」
「誤魔化すのはやめにしようぜ。お前、魔人だろ?」
「ええ、そうよ――」
「だったら、今すぐ!――」
「もう、遅いの……全てが動き始めているわ。グルーシス、私は貴方の事好きよ――友達としてだけど、ね。でも、邪魔するなら……貴方でも殺すわよ」
ミュウランは殺気の籠った目でグルーシスを見つめ、人化を解いた。
パアァっと淡い光がミュウランを包み、やがて光が収まると。
魔人の姿のミュウランがいた。
ミュウランは、建物の屋根上から気配を殺し自分を見ている視線に気付く。
気付くが、ミュウランの見上げた視線の先には、虚空の青空が広がっていただけであった。
フッと微かな笑みをその視線の先に見せ、すぐにグルーシスへ視線を戻す。
「そうか……そう言えば、魔王クレイマンは、配下を使い捨てにする事で、有名だったな。お前、もしかして――」
「黙りなさい、グルーシス! それ以上言うと、本当に殺すわよ!」
「やっぱりか。お前が死を覚悟してまで――」
そこへ、一人の男の言葉わって入って来る。
「――よう、その話し詳しく聞かせろよ」
完璧な〝隠形法〟で気配を絶ち、木陰から出て来たのは、ヨウムだった。
「ヨウム……」
ヨウムにだけは自分の姿を知られたくは、無かった……だが、そんな思いとは裏腹に。
ミュウランは何故か、安堵していた。
「ミュウラン、守ってやる。俺を信じろ!」
「守る? 馬鹿なの? 私より弱い貴方が、魔人の私をどう守るって言うのよ!?」
「魔人? 人間? そんなの知らねえな。俺はお前に惚れたんだ。それ以外に、何の理由がいるってんだ! そんな事全てひっくるめて、お前が好きだ! 俺の全てなんだよ!!」
「――何を馬鹿なことを。それは、全て貴方を騙す為に作り上げた、虚像なの! 幻想なのよ!」
「だから、なんだ? 安心しろ、俺は生きてる限り未来永劫、騙されてやる自信があるぞ。ミュウラン」
「…………!?」
ヨウムのあまりにも堂々とした言葉にミュウランは、心の底から(馬鹿だわ、コイツ……)と思い、絶句する他なかった。
それを〝空間迷彩〟で姿を隠し、屋根の上から気配を偽り隠し見ているコハクがいた。
(ほんま、男の子、女の子おすなぁ。ミュウラン、押し寄せる時代の変革の嵐を――どう泳ぎきるんや? 死を覚悟しただけでは波に吞まれますえ。波に引きずり込まれて、亡者となるか……あるいは……)
ミュウラン達を見るコハクの丸い瞳がフーッと縦に細長くなり、目が仄かに金色の輝きを帯びる。
「フフッ 本当に馬鹿な男。貴方を利用する為に、近づいただけなのに。あまりにも間抜けすぎて、溜息しか出ないわよ(ヨウム……貴方はこの命と引き換えに、私が守るわ。ごめんなさい) もう、茶番は終わりにしましょう」
冷たく言い放つ言葉と同時に、ミュウランの頬を……一筋の涙が零れ落ちる。
不意に流れ落ちた涙に、何故? と思うも。
もう思う暇も、迷ってる暇は無い。
だから、頬を伝う涙は気のせいだと……。
(コハク様……私……〝魂の売り時〟を、間違えてしまいました。だから――今……)
「おい、馬鹿野郎! お前、本当に――」
「どういう事だ、グルーシス!」
ミュウランは両手を大きく開き、上に掲げると。
美しい声が辺りに響き渡る。
歌うように呪文を綴り上げていく。
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宙に浮かんだ呪文が、世界の法則を書き換えていく。
発動された広域魔法妨害領域。
もうヨウムとグルーシスには、止める手段はなく……止めるとすれば。
それは――ミュウランを殺すしか無かった。
「ミュウランやめろ! ミュウラン、やめろぉー ミュウランーー!!」
ヨウムの悲痛な声はもう、届かなかった。
ミュウランは詠唱を続ける。
――命を懸けて、愛しい男を守る為に。
(そうどすか……ミュウラン、あんさんの覚悟……みせてもらいましたえ)
コハクは、ポソリ呟き……ツキハの待つ場所へと向かう為、その場を後にした。
テンペストはミュウランの広域魔法妨害領域により、一切の魔法通信や移動が遮断された。
魔法の発動と同時に、それらは襲い来る。
ミュウランの魔法が発動する前、 ベニマルの元へ獣王国三獣士の一人――〝
それは、魔王ミリムにより獣王国は壊滅、現在避難民と共にテンペストへ向かっている、と。
「……嘘だろ。何が、起こっているんだ!」
ベニマルは驚愕の声を上げ、すぐさま幹部達を緊急召集する。
緊急を要する為、作戦会議はすっとばし、速やかに緊急体制へと移行するようにと、各所へ伝達するようベニマルは指示した。
そして……。
商人一行に偽装した強行部隊が、来た。
更にツキハとコハクの元へ、イチオから『念話』が入る。
『ツキハ様、コハク様。スライムの魔物リムルが、ヒナタと戦闘に入りました』
『そうか。双方に気取られる事なく、役目を果たせ』
『了解しました、ツキハ様』
『イチオ。全眷属に、伝えなはれ。我が〝傭兵商会・ルヴナン〟は、現時点からこの
『!? 魔国テンペストと、敵対するのですか?』
『……追って連絡するよって。眷属達には戦闘態勢を取り待機しなはれと、伝えや。ええな? あっ、せや、六百番から七百番までは、今別任務や。あの子らには伝えなくて、ええで』
『了解であります。コハク様、では、これにて』
イチオの『念話』が終わり、ツキハは大通りに面した一際高い建物の屋根の上に佇む。
ツキハの表情からは、いつもの
その隣へ、静かにコハクが来て並び立つ。
これから起こる事を見届ける為。
魔国テンペストと、敵対するか否か。
世界の変革の始まりが――。
全てを巻き込み。
今。
幕を開ける。
これから起こる二人の〝異世界珍道中〟はどこに、向かうのか?。
それは悲劇か? 喜劇か? はたまた……惨劇か?。
しかし。
変革の嵐は、否応が無しに二人を呑み込もうと――口を開け。
待ち構える。
十三話を読んで頂きありがとうございます!
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