忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
リムルは自由組合ブルムンド支部に向かう中、ランガに闘技場設計図面をゴブキュウに渡す
誰が来るかは不明だが、警備部門で単独行動出来る者は少ない。
新米は論外なので、少なくとも班長クラスが来ると思える。
警備部門では、それぞれ各部署で五名一組のチームで警備を担当している。
そして班長であるチームリーダは、冒険者で言えばBランクに相当するので、護衛を任せるには十分な能力を持っていた。
(俺が町にいる間は、ミョルマイルの気配がある居場所は把握しているから、何かあったら直ぐにわかる。という事で、護衛が来る前にフューズに会っておくか)
そんな事を考えながら、自由組合ブルムンド支部の建物がある所に着くと、リムルは扉を開けて中に入った。
入った瞬間、誰だ? という視線がリムルに集まる。
以前来た時は仮面を付けていたが今は付けていないので、どこの新参者か? といった風に見られたのだろう。
しかし、それを気にもせず受付に向かうリムル。
「ちわっす。リムルって言うんだけど、
リムルはイングラシア王国に行く為にここ自由組合ブルムンド支部で、冒険者の身分を獲得していたのだ。
身元不明では国での活動は制限され、街に入る事すらも出来ない場合があるので、冒険者として自由組合に登録をしたのであった。
普通、魔物除けの結界が各国にはあるのだが、以前は抗魔の仮面で
だがしかし、今は
因みに、番外魔王ツキハの『猫騙し』は、これに加えて、認識阻害、虚偽記憶効果などを組み合わせており、同じ顔でも、同一人物とは認識出来ないようにしているのだ。
ツキハとコハクも冒険者の身分証を持ってるらしく、ランクはCだと聞かされていて、名前は偽名という事だけリムルは教えてもらっていた。
リムルは、コッソリ『胃袋』から取り出したカード型の身分証を、受付嬢に提示した。
受付の女性はリムルの名前を覚えていた。
「あ、リムルさんですね! 何て綺麗な素顔を、って、失礼しました。これはこれは、お久しぶりです! お元気でしたか?」
「ん? ああ、元気元気、それはもう無駄に元気! お姉さんも元気そうで何よりだね」
「はい! 私は元気です。それよりもリムルさん、本部の試験にも合格されて、その上B⁺になったそうですね。凄いです!」
「あ、そうだったね。本当はAランクになっておきたかったんだけど、ちょっと色々と忙しくなってね(本当は面倒になっただけなんだよね)」
そう、冒険者のランクがB以上になると、権限が増える代わりにそれに伴い義務も増える。
B⁺でも割と面倒になって来たので、これ以上は必要になってからでいいとリムルは思ったのだ。
ランクが上がると、国に危機が生じた際は無条件で駆り出されてしまう。
これが一番のネックであり、とりあえず今のランクで不自由はしないというのも理由だったのである。
しかし、ランクが上がると、各国の出入りに融通が利くようにはなるし、各支部での寝泊まりと食事が無料になる利点もあるのだ。
リムルとしてみれば、色々
「ところでリムルさん、魔王と同じ名前で困っていませんか?
そう受付のお姉さんから問われたリムル。
(わ、忘れてた――ッ! 俺って魔王になったけど、そのまんまの名前で公表しちゃってるよ……。これ、ヤバくね?
そんな事を考えつつリムルは、とりあえず、どうしても冒険者として活動する必要がある時は、
「ありがとう。いい話を聴けたよ。もしもの時はお願いします。それで、取次は出来そう?」
「あ、はい。その時は是非! それでは、直ぐに案内しますね!」
受付のお姉さんと少し長めの話を済ませたリムルは、フューズのいる部屋へと案内されて行った。
お姉さんが扉をノックしてリムルが来た事を告げると、カチャリと扉を開け、リムルをフューズの部屋へ入るよう促す。
リムルが部屋に入って来ると、それを目にしたフューズが頭を抱える仕草を取った。
それを見てもリムルは、お構いなくフューズに挨拶をしていく。
「いよーっす! 遊びに来たよん。どうしたの、何かあった? 難しい顔してるじゃん」
「いやあ、ついさっきまで平和だったんだが、突然魔王が現れましてねぇ……」
「え? マジで? ヤバイじゃん。ちょっとのんびりし過ぎだろ!?」
「いやいやいや、その魔王は目の前にいるんですがね。はあぁ……さて、どうしたもんでしょうかねぇ……」
「あら、そうなの? それなら、お茶とか出し方がいいんじゃんない? ケーキとかあったら、その魔王も喜ぶと思うけど?」
「あのですね、ケーキって何ですか! あんな贅沢な食べ物が、そうホイホイと手に入る訳がないでしょう!? 全く、何で魔王になったリムル殿が、自由気ままに出歩いているんですかね? 番外魔王じゃあるまいし――」
「え? アイツ等来たの?」
「来てませんよ! 来たらそれこそ、国中がパニックになってます!」
「確かに、そりゃそうだ」
「本当に、貴方は――」
フューズはブツブツと文句を言いながらもお茶の用意をして、出来たお茶をリムルに差し出した。
リムルは礼を言い、そのお茶を受け取り、一口飲んだ。
そして、フューズから切り出し、お互い真面目な話に移る。
「リムル殿、今回は済まなかった。こちらもあらゆる手を使って西方聖教会へ働きかけたんだが、上手くいかず、結局は聖騎士団が動くはめになっちまって……」
「いやあ、それは仕方なかったと思うよ。どうも、〝七曜の老師〟とかいう奴等が黒幕だったぽいしねぇ」
「なっ!?」
元英雄である〝七曜の老師〟が黒幕だと聞かされ、一瞬絶句したフューズだった。
「だからさ、どれだけ俺達が無害だと訴えても、聞く耳持たなかっただろうね」
「〝七曜の老師〟達が……あの、人類の守り手にして、偉大なる英雄だった方々が……」
「そうらしいな。あの戦いの時、ヒナタも撃たれてさ、まあ色々あって無事だったんだけど、誤解は解けた感じかな。でも、残念ながら犠牲者は一人いるんだ。隊長格のギャルドって人が、未だ行方不明なんだそうだ。こんな事はあまり言いたくはないんだけど、暗殺に詳しい知人が言うには、恐らく既に殺されていて、遺体も何も残らず消されているだろうと言っていたよ」
「そうですか……。〝火〟のギャルド、シズさんほどじゃないけど、炎の精霊魔法と組み合わせた槍さばきを得意とする、聖騎士団の隊長であり〝十大聖人〟の一人だった男です……」
リムルの言葉に、フューズは残念そうに呟いた。
それからリムルは、手短に今までの出来事をフューズに伝えた。
魔王が八名になった事。
その名称が、〝
そしてヒナタとの
ここで、ルミナスに関しては誤魔化し、それについては一切話さなかった。
「まさか、裏で〝七曜〟達が暗躍していたとは……」
「結果的にはそうなったけどね。ヒナタが言っていたんだけど、神ルミナスに対する信仰心は本物だと言っていたよ」
「魔物に比べて、人類は弱い。それ故、神の力に
「フューズもそうなのか?」
「ハハッ、俺は違いますよ。自分の力が尽きた時、それが最後だと覚悟して生きています。奇跡を願いますが、会ったこともない神には祈りません」
リムルの問いに、キッパリとそう返すフューズ。
(なるほど、フューズは無神論者か。そう言えば、この世界では超常の力を持つ魔物が土地神として敬われていたんだっけ。それはあくまでも、会った事があるから頼るんだろうな。神といえば、ツキハとコハクも言っていたな。『信じられるのは、己の力のみ』と。まあ、アノ二人が日々〝技量を磨く〟のは、いつか、もしかして現れるかも知れない、強大な敵を倒す為だと聞いた時は、びっくりしたけどな。まあその理由が、自分達の自由を脅かす存在だろうから、だからな。ククッ。理由はどうあれ、人も魔物も考えは千差万別。文化、考えの違いを乗り越えて理解し合うのは、ホント、難しいよなぁ……)
ふとリムルはそんな事を思い、考え込んでしまう。
腕を組んでウーンと
そこで、自分がつい考え込んでいたのに気付いたリムルは、御代わりのお茶の礼を言い、話を続ける。
「そうだな、この世界での暮らしはある意味過酷だし、神に祈りたくなる気持ちは理解出来るよ。でも、実際は、なるようにしかならない、といったところだろね。神ルミナスは置いとくとして、今回の件で西方聖教会とも和解出来たんだし、それで良しとするさ」
「そうですな。俺としても、肩の荷が下りた気分ですよ」
そう言うとフューズは、リムルに笑い見せた。
フューズとしては、リムルとの約束で西方聖教会に働きかけると言っていたのに、成果が出なかったことに対して気に病んでいたのだ。
しかし、リムルの言葉によって、フューズは安堵の息を取り戻したのである。
それから暫く世間話を交えながら事の経緯の話も終わり、おもむろにリムルは立ち上がった。
そこで、何かふと思い出す。
「それじゃあそろそろ行くけど、これを渡しておくよ」
リムルは懐から封筒を取り出し、それをフューズに手渡した。
それは、
「これは?」
「今度さ、俺の魔王就任のお披露目がてら、俺達の街を大々的に宣伝しようと思っているんだ。開国際と銘打って、ドンちゃん騒ぎをしようと考えている。近隣諸国の王侯貴族にも招待状を出しているから、是非とも、フューズも参加してくれよ」
「はあっ!? ちょっと待って下さいよ、リムル殿。俺なんかが参加しても――」
「別にいいじゃないか。ブルムンド王への招待状もあるから、それも届けておいてくれよ」
「それならば直接、ああ、それは難しいか……」
「だな、流石にね。ドワーフ王とエラルド公爵には直接届けさせたけど、他の国々とは面識がないからね。魔物が直接出向くと騒ぎになるだろうしな。だから、各国の
リムルは笑って言うと。
「いやいや、ここに魔王が来た時点で十分にヤバイですよ」
と、フューズがそれに苦笑いで返す。
「そうだ、ユウキにもこの招待状を渡してくれるかな? 立場的に忙しいと思うから、無理はしなくていいよと伝えておいてくれると助かる」
「確かに、その二通は俺が預かりました。王にも
「あははは、悪いね。では、お願いします」
「了解ですよ、リムル殿。あ、すみませんが、そのですね、一つ宜しいですか?」
「ん? 何だ?」
リムルからの二通の招待状を預かったフューズが、どことなく言い出しにくそうな感じでリムルに話す。
「実はですね。ベルヤード男爵の知人の奥方なんですが、難病というか、原因不明の病にかかってるんです――」
「原因不明の、病だと?」
「ええ。数年前から突然目が見えなくなりまして、ポーションも回復魔法も効かないのです。そこで、魔王であるリムル殿なら、何か原因がわかるのではないかと、思いまして……」
「なるほど。ポーションも回復魔法も効かないねぇ……。そうだなぁ、診てみないと何とも言えないけど、俺がその奥方の所に直接出向くのは不味いだろうから、俺の国に来てもらう事は出来るか?」
「恐らく問題ないかと」
「じゃあ、先方にそう伝えておいてよ。こっちも忙しくなるから、なるべく早くに来てもらえるといいかな」
「わかりました。そのようにベルヤード男爵に、至急伝えておきます」
「うん。じゃあ、そういう事で頼むよ」
フューズからの頼みも快く引き受けてリムルは、フューズにいる部屋を後にした。
そして、リムルを敬うようにて
「この俺ゴブエモン、リムル陛下の招集に応じ、急ぎ馳せ参じました!」
ゴブエモンと名乗る男。
リムルが名付けた
百人長とは、部隊長をも任せられる意味でもあるが、隊員がいなくても与えられるので、本当に百名の部下がいる訳ではない。
当然隊長の方が格上となるのだが、五名から十名の部下を従える班長よりは実力は上だと言えた。
「あれ? お前、百人長になっていなかったか? ゴブタが
「へい。実は俺、誰の下にも就きたくないんでさあ。それで当面は、一人で活動してみようかと。自分の直属の部下を集めて、自分だけの部隊を作りたいと思っておりやす。ルヴナンという良いお手本があるので、それを参考にしてみようかと」
(ほほう。中々に気骨のあるヤツだねえ。まあ、ゴブタの下に就きたくないからと、あの大人気部隊である
ゴブエモンの意気込みに、頼もしさを感じるリムルであった。
「そうか、まあ頑張れよ。ミョルマイル君は、俺が頼りにする人物なんだ。なるべくでいいから、気付かれないように、キッチリと守ってやってくれ。それに、彼の人心掌握術は結構良いお手本になるよ。ルヴナンを参考にするなら尚更だ。損得勘定で人を動かしているけど、決してそれだけじゃないんだ。護衛しつつ、しっかり勉強したらいいよ」
「ハッ! リムル陛下のお言葉を胸に、お役目を務める所存です!」
リムルの言葉に力強く答えるゴブエモン。
その目には、熱い決意が込められていた。
(このやる気が、変方向にいかなければいいんだけど。ベニマルの判断では、ゴブエモンは己の能力に頼り過ぎていて、部下や仲間を軽く見る性質があると言ってた。一見、ルヴナンの眷属達もそういう風に見えるけど、実際はそうではないともベニマルが言っていたからなぁ。まあこれで、部下を気にかけるようになってくれれば、部隊を任せるのもアリだな。これを機に、是非とも成長して欲しいものだよ)
そんなゴブエモンにリムルは、にこやかに言葉を告げる。
「お前がこの任務を全うして、何かを学び取れたなら、その時は俺に報告に来い。褒美として、俺が使っている
そう、リムル専用の刀が完成したと、先日クロベエから連絡があった。
間に合わせで使用していた現在の打刀ともお別れであるが、ここでリムルは今使っている打刀を褒美にやると言ったのだ。
「本当ですか!?」
目を丸くして驚き興奮するゴブエモン。
「ああ、お前の腕なら、これを扱えるだろう。ただしだ、もっと精進して、俺を認めさせたらだぞ?」
「承知! この俺ゴブエモン。リムル陛下のご期待に応えて見せましょう!!」
そう言い残したゴブエモンは、ミョルマイルの護衛へと向かって行った。
ゴブエモンが去った後リムルは、ゴブエモンはゴブエモンなりのやり方で、自分の期待に応えてくれればいいなと、思った。
これでリムルが知る、主要人物達への招待状は配り終えた。
残るは、はリグルド達が近隣諸国周辺に配るだけ。
後は、開催日までに間に合うように、準備を整えるだけ。
そして、盛大な祭りとなるように……。
自由組合ブルムンド支部を出て、何となく歩いていると、ポワッと額に冷たい物が当たる感触に、上を向いたリムル。
自由組合ブルムンド支部に入るまでは天気の良かった空に、いつしか低く垂れこめる雲が広がっていた。
(雪、か? 今年初めの初雪かぁ)
空を見上げるリムルの目に、白いふわりとした雪が広がりながら、ポツリポツリと落ちる光景が映し出される。
(本格的な冬の訪れかぁ。魔物になってからは、体感温度が変わっているから、何かと季節の変わり目を忘れがちになるな……)
雪がちらつく空を見上げて、しみじみとそんな事を思うリムルであった。
暫く立ち止まり、手の平に落ちる雪を眺めていたリムルは、「よし」と、小さく呟くと再び歩き出す。
(さて、後は冬が終わり雪解けを待って、祭りの開催だ。俺も、頑張らないとな……)
リムルは祭りへの期待で胸を高鳴らせつつ、人気のない路地に入り、誰もいないのを確認すると、『空間移動』で
この作品を読んで頂きありがとうございます!
次回の更新もよろしくお願いします!