忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。132話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
  特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。

 ※作中に出て来るカタバミとは、実から種を弾き散らす植物で、そこから技名を付けています。







132話 リアナ・アルクセール

 

 

 <元素魔法>:火属性最強魔法の一つ、火炎大魔球(ファイアボール)

 

 その凄まじき熱量を帯びた三十もの火球がナナミコへと向けて、一斉に撃ち出された。

 

 大気を裂き、ゴオォーッという唸りを上げ迫る火炎大魔球。

 

「フッ。その、迷いのない行動、称賛に値します。しかし――」

 

 そう言うとナナミコは、瞬時に印を七つ切る。

 

「忍魔術。火遁・炎魔奏手(えんまそうしゅ)

 

 言霊(ことだま)が宙を走る。

 ほのおのながれをあやつりして

 (炎の流れを操りし手)

 

 次の瞬間、三十もの火炎大魔球がナナミコを中心に合わさり、大爆発を起こす。

 

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 爆炎が巻き起こり、凄まじい炎と熱風がナナミコを覆い尽くす。

 直系十メートルはあろう爆炎球は、渦を巻きながら中にいるナナミコを焼き付く尽くしていく。

 

 ナナミコの左斜め後ろ約二十メートルにいるリアナのフードが熱風に(あお)られパタパタと(なび)くが、その膨大な熱は不可視の壁に遮られ、一切届いていなかった。

 

 リアナの頭上には一枚の防御結界符が、クルクルと回りながら浮いていたのだ。

 

 ヤザム達も個々に〈保護障壁(プロテクション)〉を張って、その熱に耐えていた。

 

(フッ。燃え尽きたか? しょせんは一匹の魔物風情(ふぜい)、造作もない)

 

 唸り上げ渦巻く火球を見ながらヤザムは、勝利を確信する。

 

 が、しかし――

 

 その火球が突然不安定に形を崩し、波打ち始めた。

 

「なにッ!?」

 

 それを見たヤザムが、驚きの声を上げる。

 

 暴れるように波打つ火球が、一気に中心に向かって収束されていく。

 

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 そして、バッと横に閃光が走り抜けると、一瞬で火球が掻き消され、そこには――

 

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 左手を前に出し、後ろに向けた右手指に呪符を挟んだ鋭い目付きのナナミコがいた。

 

 

「ば、馬鹿な!? 火炎系魔法の中でも最強魔法に当たる、火炎大魔球三十発の直撃であるぞ!」

 

 信じられないといった声を上げ、歯ぎしりをするヤザム。

 

「いえいえ、結構な威力でしたよ。でも、忍魔術である火遁・炎魔奏手(えんまそうしゅ)は、魔法で作られた火を制御する術。大抵の火属性魔法は、掻き消すも、吸収するも、返すのも自由自在なのですよ、ヤザム。こういう風に、ね」

 

 そう言うと、ナナミコが左手指をパチンと鳴らす。

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 すると、ヤザム達のいる頭上に、先程と変わらぬ大火球がいきなり出現した。

 

「回避――ッ!!」

 

 ヤザムが回避行動を取りながら、叫び声を上げる。

 

 バッと蜘蛛の子を散らすようにヤザム達は、素早くその場から散った。 

 

 同時に大爆発を起こす大火球。

 

 ドゴオンッと重い音が大気を震わし、その衝撃波はロロロオの張った結界を僅かに揺らした。

 

『ねぇナナミコ、大森林で火遊びをしたら、リムル様に怒られるわよぉ』

 

 ロロロオが『思念伝達』で茶々を入れると、『わかってるわよ』とナナミコが返す。

 

 ヤザム達は敢えて火属性の魔法を使ったのは、森に飛び火しても、もしもの時はそれに乗じて逃げる気でいた。ある意味無謀ではあるが、番外魔王の眷属と聞いた事での判断であったかも知れない。

 

 かたやナナミコは、飛び火してもロロロオの結界内なので、問題なしと判断したのだ。

 

 騒然とする雇われ兵の男達。

 何人か爆発に巻き込まれ火傷を負うも、腰のポーチから回復薬(ポーション)を取り出して一気に飲み干し、傷を癒す。

 

 このままパニック状態で一気に勝負が付くかと思われたが、そうではなかった。

 動揺はしたものの、(つちか)われた魔物との戦いの経験がヤザムに冷静さを取り戻させ、激を飛ばし、皆を鼓舞する。

 

「怯むでない、皆の者! 相手は、Aランク魔物一体。数で押せば、必ず勝てる! 刻印魔法付与ブロードソードは捨てよ。慣れた武器で迎え撃つ、陣形を組め!」

 

 ヤザムの言葉に皆が魔法付与ブロードソードを捨て、いつもの使い慣れた武器を構える。

 

「ふーん。あっさりとあの剣を捨てるんだ。良い判断だよ、使い慣れた武器ほど信頼出来るものはないからね」

 

 感心したように呟くナナミコ。

 そして、右手指に挟んだ呪符を宙に撒く。

 

 数十枚の呪符がナナミコを覆うように散らばると、フッと消えてしまった。

 

「対魔物陣形を取る。前衛と後衛に分かれ、残りは後方から援護せよ!」 

 

 手早くヤザムが、雇われ兵に指示を出していく。

 皆事前に打ち合わせをしていたかのように、前衛十人、後衛十人、後方支援組十人と別れて行った。

 

 ヤザムが前衛に入り、もう一人のAランク戦士が後衛に入り、弓を持ったAランクの元冒険者が後方支援に回る。

 

「かかれ――ッ!」 

「「「「「ウオォーーッ!」」」」」

 

 ヤザムの掛け声と共に、前衛の十人が雄叫びを上げ突撃する。

 

 ナナミコは右逆手に刃渡り二十センチはある苦無を持ち、それを迎え撃つ。

 

 後方からAランクの弓使いが〝気闘法〟で矢尻(やじり)に気を纏わせ、貫通力を高めた矢を放つ。

 

 ヒュウーッと風切り音を上げながら矢が、ナナミコの顔面を射抜く様に飛んでくる。

 それを少し首を傾けて避けると、巨漢の男が後ろから戦斧を降り下ろしてきた。

 

 ナナミコはそのまま股関節を起点にその場で左に腰と上半身を回し、紙一重で戦斧を(かわ)す。

 そして更に、左側から槍の連続突きが放たれた。

 

 スッスッと後ろに下がりながら右に左に身体を躱し、左脇腹を槍が通過した瞬間、左手で槍の()を掴み、手前に引き寄せながら苦無の刃を柄に()って走らせる。

 

 バッと血飛沫(ちしぶき)を上げ、槍を持つ男の右親指が斬り飛ばされた。

 

「アガッ!」

 

 男が怯んだ瞬間――

 そのまま懐に飛び込んだナナミコは、槍の男の首筋を苦無で横に()ぐ。

 

「まずは一人」

 

 首から噴水のように血を噴き上げ倒れる男を見もせず、冷徹に呟くナナミコ。

 

「うおぉ――ッ!」

 

 ナナミコの正面からロングソードが左から右に振り抜かれる。

 

 ガキンッ! それを苦無で受けたと同時にハンドアクスが、ナナミコの正面右側から腹部を狙い真横に振り抜かれていった。

 

 ガギンッ! 左手の平でそのハンドアクスを防御する。

 

 ナナミコの手の平の前には、防御呪符が一枚具現化していた。

 先程消えたと思った呪符は、ナナミコの周りに不可視の状態で漂っていたのだ。

 

「二刀流ですか?」 

 

 タンと後ろに飛び、間合いを空けたナナミコが二刀流の男に、事無げに言い放つ。

 

 右手にロングソード、左手にハンドアクスを持った男は――

 ヤザムであった。

 

「チッ。防御結界を施した呪符か。厄介なものよ」

 

 忌々し気に吐き捨てるヤザム。

 

 既に死んでいる槍使いの男を一瞥(いちべつ)すると、残りの者に後ろに下がるように指示し、自分も後方に下がる。

 

 そして、ロングソードの切っ先をナナミコに向け。

 

「撃てえーー!」

 

 遠距離攻撃の指示を出す。

 

 後方支援組の弓を使う者三人と、魔法攻撃をする者六人の一斉攻撃。

 

 矢筒から矢継ぎ早に矢を取り出し連射する、弓使い達。

 

「「「水氷大魔槍(アイシクルランス)」」」

「「「風切大魔斬(ウインドカッター)」」」

 

 氷の槍が降り注ぎ、大気を裂きながら風の刃が四方から襲い来る。

 

 ガキキキキュンッ! 十数本の矢が正面から来るも、防御呪符が瞬時に現れて矢を防ぐ。 

 

 すると、二本の矢が軌道を変え、ナナミコの背後に回り込むように狙うも、やはりそれも背後に現れた防御呪符に(さえぎ)られた。

 

 そして、ナナミコを囲むように放たれた魔法攻撃も、全てこの防御呪符によって防がれてしまう。

 自分達の攻撃が意味を成さない事に、雇われ兵達に動揺が走り始める。 

 

「おい、これ全然効いてねえぞ……」

「番外魔王の眷属とか……無理だろ、これ?」

「ルヴナンの傭兵猫……コイツらには絶対手を出しちゃなんねえと、俺の爺さんが言っていた」

「何で、この一斉攻撃を(しの)げるんだ、おかしいだろうがよッ!?」

 

 攻撃を続けながら悲痛な言葉を(つら)ねる男達。 

 

 そこへ、一喝する声。

 

「怯むではない! いくら防御が厚くとも、魔素量(エネルギー)には限りがある。しょせんはAランクの魔物一匹。攻撃の手を緩めず削り切れば、我等の勝利ぞっ! この戦いを生き延びれば、更なる報酬を約束しよう!!」

 

 元騎士団隊長ならではの口上に、動揺していた雇われ兵達の精神が鼓舞されていく。

 ヤザムの持つ『能力(スキル)』、戦意を高める〝士気向上〟によるものだった。

 

 男達が口々に、ヤザム殿が言うのならば勝てると、言いながら戦意を高めていった。

 

 

「やれやれ、己の力量すらも測れませんか……」

 

 それを見ていたナナミコが、めんどくさそうに小さく吐き捨てる。

 

「いくぞ!」 

 

 ヤザムの号令と共に、前衛が再び攻撃を仕掛けた。

 戦斧が大地を抉り、槍とブロードソードがあらぬ方向から襲い来る。

 その猛攻の後に、ハンドアクスとロングソードを持ったヤザムが、鬼神の如く両武器を振るう。

 

 激しく響き渡る金属音と、人の怒号。

 

 そして、また一人倒れると。

 

「前衛下がれ! 後衛、前へッ!」

 

 直ぐに後衛と切り替わる前衛。

 

 暫く後衛が攻撃を仕掛けつつ、その合間を縫って、攻撃魔法と弓から()ち出された矢がナナミコを襲う。

 

 全方位に張り巡らされた防御呪符が、遠距離攻撃を防ぎながらパッと魔素粒子を巻き散らしながら霧散していく。

 

 徐々に防戦一方に追いやられるナナミコ。 

 

 それを確信したヤザム達は、皆が口々に、いける、いける、と言い出し、攻撃の手を強めていく。

 

 何度目かの前衛の攻撃。

 

 ヤザムのロングソードを躱し、横から来た別の男のブロードソード攻撃を苦無で受けた瞬間――

 

 地面すれすれに戦斧が横薙ぎに払われた。

 

「あら?」

 

 印を超高速で五つ切り、ナナミコがそう声を出した同時に右足首が斬り飛ばされてしまう。

 

 血の尾を引き、クルクルと宙に舞う右足首。

 

「勝機ッ!!」

 

 そう叫んだヤザムが、ナナミコの腹部を目掛け凄まじい速さの前蹴りを叩き込む。

 そして間髪入れずに、ハンドアクスをナナミコに向かって投げ放つ。

 

 ウッと声を出しナナミコは後ろに吹き飛び、カツンと音がして額にハンドアクスの刃が深く食い込み、地面で何度かバウンドして転げ、仰向けで倒れ伏す。

 

「死ぬがいいッ!」

 

 そこへ、両手にロングソードを掴んだヤザムがジャンプして、倒れたナナミコに覆い被さるように右胸辺りにロングソードを突き立てた。

 

「ガハッ」

 

 口から血を吐き、上から睨むヤザムを見上げるナナミコ。

 

「フッフッフッ。ここがお前ら魔物の魔核があるところ。お前は強い。だがしかし、我等人類はお前達みたいな化け物と長きを戦い、(あらが)う術も身に着けたのだ。愚かなる化け物よ、人類を舐めるでないわ!」

 

 ヤザムはそう叫ぶと、突き立てたロングソードの刃を、グリッと回す。

 

 魔核が砕かれ、カッと見開いたナナミコの瞳から急速に光が失われていった。

 

 完全に死んだのを確認するとヤザムは、ロングソードをナナミコの胸から引き抜き、天に向けてロングソードの切っ先を掲げ、勝利を宣言した。

 

「「「「「ウオォオ――ッ!」」」」」

 

 その場にいる全員が雄叫びを上げる。

 

 そしてヤザムは、一人残ったリアナに視線を移し、降伏をするよう告げる。

 

「リアナ殿。護衛の魔物は死にましたぞ。ここは大人しく、我等に従ってもらおう」

 

 低く威圧的な声で言うも、リアナはそれが何か? という顔で、口に手を当て小さな欠伸(あくび)を返す。

 

「もう一度言いますぞ。大人しく――」

「嫌ですよ。めんどくさい」

「は、はあっ!?」

 

 ヤザムは降伏勧告をしたにも関わらず、めんどくさいと返され、意味がわからないといった声を出した。

 

「ヤザム殿。腕を射抜きます」

 

 Aランク弓使いの男が脅しの為に矢を()ると言い、ヤザムはそれを()むをえまいといった顔で了承する。

 

 弓使いの男が弓に矢をつがえて、狙いを定めて(つる)を引き絞る。

 

 リアナの頭上に浮かんでいた防御呪符は、既に効力を失い霧散していた。

 

 ザザーッと風が遺跡群の中を通り抜けていき、雪雲の切れ間から日が差し込んで、リアナを照らし出す。

 

 カシュッ。矢がリアナの右腕目掛け、()ちだされた。

 

 風切り音を立て迫る矢。

 

 だがしかし、腕に当たる寸前で矢がいきなり見えない何かにぶつかったかのような動きを見せ、ビイィーンッと跳ねるように動き止まり、リアナのフードが風に吹かれて後ろに飛ばされた。

 

「な、何だと!?」

 

 その光景に驚愕の声を漏らすヤザム。

 

 空色の羽織みたいなモノを白色に近いローブの上から着た、顔は大人びた可愛さを持ち、長いフワッとした金髪の女性。額には、アクセサリーを兼ねた、小さく細長い菱形の魔力増幅の宝石が張り付けられていた。

 

 その女性が柔らかい笑みを浮かべて、()られた矢を差し出した右手だけで止めていたのだ。

 止められた矢がカランと乾いた音を立て、地面に落ち転がる。

 

「「「「「……」」」」」

 

 一瞬、何が起きたか理解出来ずに、言葉を失うヤザム達。

 だが、更に次の光景を見て驚愕する。

 

 リアナが両耳に手を当て、ポワッと淡い光が輝くと、先の尖った耳が現れたのだ。

 

「な、え、人間ではない? エルフ!?」 

 

 ヤザムが信じられないといった声で、リアナを見た。

 

 リアナは(そば)にある、冬の間だけ咲く白い花の雪見草を一つ摘むと、顔に近づけて、その(ほの)かに漂う甘い蜜の香りを楽しむ。

 

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「き、貴様! 何者だ!?」

 

 ロングソードの切っ先をリアナに向け、叫ぶヤザム。

 

「何者? 見ての通り耳長族(エルフ)ですけど、それが何か?」

 

 どこかキョトンとした顏で返すリアナ。 

 

 その態度にイラついたのか、ヤザムが更に声を荒げる。

 

「違う! 私が言っている事はそんな事ではない! ただの耳長族(エルフ)(ごと)きに、Aランクの者が()った矢を片手で止めれるハズはない。おかしいであろうが!?」

 

 一気に(まく)し立てたヤザムは興奮のせいか、肩で息をしていた。

 

「ああ、さっきのですか?」

 

 どこか合点がいったようにポンと手を打つリアナ。

 

 そして、何か考えるように口に手を当てて「う~ん、どうしましょう?」と、他人事のように呟く。

 

 するとそこへ。

 

『大丈夫よ、リアナ隊長。結界の外からは何も見えないし、何も聞こえないわよぉ。ウフフ』

 

 と、ロロロオの『思念伝達』が送られて来た。

 

「なら、いいわね」

 

 そう小さく言い、リアナはゆっくりと歩き、ナナミコが倒れているところまで来る。

 

「しっかりとお聞きなさい、愚か者共。私は魔導王朝サリオン出身の、リアナ・アルクセール。元メイガスの魔導士であり、今は、ガットエランテの七代目隊長、リアナ・アルクセールです。この事を聞いたからには、生きて帰れると、思わないで下さいね。フフッ」

 

 凛とするも可愛く通る声で、薄い笑みを(たた)え告げるリアナ。

 

 リアナはユニークスキル『圧壊セシ者(グラビトン)』を持つ、メイガスでも希少な存在であり、レアな重力系スキルを持つ者であった。

 このユニークスキルの権能の一つ、〝慣性制御〟で矢の運動エネルギーをゼロにして止めていたのだ。

 

 元々はエラルドの直属の部下でもあり、その能力から皇帝エルメシアが引き抜いて、自分のお抱えの諜報部隊に配属させていたのだ。

 

 そして、百三十年前に六代目のガットエランテ隊長が引退した時に、エルメシアから外部諜報の一環として七代目ガットエランテ隊長を命じられたのだ。

 

 最初はめんどくさがっていたが、ここ数十年はこの自由な放浪生活が気に入ってしまい、楽しんでいる模様であった。

 

 (よわい)二百六十三のエルフである。

 

 

 サリオン、魔導王朝サリオンの最強戦力であるメイガスの名を聞いた雇われ兵達に、言い様のない不安が襲う。

 

 ガットエランテ、傭兵商会ルヴナン、サリオン、メイガスと、まるで繋がりのない関係がこうも出て来ると、もはや理解も及ばないこの状態に動揺を通り越して、半パニック状態になる。

 

 一人ヤザムだけは、思考をフル回転させ現状を必死に分析する。

 

(ガットエランテは傭兵商会ルヴナンと繋がっていた……。そして、あのリアナ・アルクセールは、魔導王朝サリオンのエルフであり、元メイガス。何だこの関係は……あの番外魔王と魔導王朝サリオンがグルだとでも言うの、か……? いやいやいや、事が大き過ぎてどう判断していいのやら、見当も付かぬ……。だがしかし、この情報はバンズ侯爵様まで、何としても持ち帰らなければならん。(いささ)か残念ではあるが、雇われ共を囮にしてこの場を脱出せねばな)

 

 何とか結論をだしたヤザムは、自分が逃げる算段を取り始める。

 

 先ず、パニック状態の雇われ兵達を〝士気向上〟で落ち着かせ、リアナを確保するように告げ、自分は後方に下がろうとすると――

 

「ナナミコ。いつまで死んだふりをしてるのかしら? お仕事よ」

 

 右足の靴のつま先で、地面をトントンと軽く叩く。

 

 するとナナミコの倒れている身体が、魔粒子を立ち昇らせ掻き消えてしまう。

 

「「「「「ハッ!?」」」」」

 

 今日何度目の驚愕の声であろうか、ヤザム達がその光景に目を剥く。

 

 そこへ――

 げんとんかわりみのじゅつ うつろねこ

 (幻遁(げんとん)・変わり身の術 〝(うつ)ろ猫〟)

 

 何もない空間に言霊(ことだま)が浮かび上がり、ヤザム達の耳に術名が告げられる。

 

「か、変わり身の、術?」

 

 幻術とは違う術名に、雇われ兵の一人が呆けたように言葉を吐く。

 

「高度な幻術の(たぐい)か……魔物にしては見事と、言っておこう」

 

 今だ気配すら感じないナナミコを探すように、視線を周囲に回すヤザム。

 

「ありがとう、と言っておきましょうか、ヤザム」

 

 ヤザムが声のした方向に視線を向けると、いつの間にかリアナを庇うように立つナナミコがいた。

 

「いつの間に、いや、何時(いつ)からそこにいたのだ!?」

 

 視線を一度リアナに向けた時はいなかった。

 だが、声が聞こえた時に視線をリアナに戻した時には、既にいたナナミコ。

 

「気配と姿を消す『能力(スキル)』を、持っているのか?」 

 

 どうにも納得がいかないヤザムは、ナナミコに問う。

 

「はぁー、面倒な。気配を消すではなく、周囲の気配と同化し、偽り隠すのですよ」

「気配を偽るだ、と?」

「そう。そして、姿はこのように、『空間迷彩』発動」

 

 言いながらナナミコの姿が空間に溶け込むように透けていき、やがて完全に消えてしまう。

 

「「「「「どこだ!?」」」」」

 

 雇われ兵達が首をキョロキョロと回し、ナナミコの姿を捜す。

 

 カサッ。Aランク弓使いが草の(こす)れる音の方に身体を向け、弓を構えると――

 

 キラリと光る剣閃が、弓使いの男の首を横に走る。

 

「え?」

 

 言葉を発したAランク弓使いの男の視界がぐるりと回り、トサッと地面に首が落ちた。

 まだ意識の有る男の視界には自分の足元が横に映っていて、何故そんな事になったのか分からずに、静かに命の火が消え失せた。

 

 男の無くなった首の切り口から、シューッと音を響かせ血を噴き上げ、ぐらりと大地に倒れ伏す。

 

「うわあぁ――ッ!!」

 

 後方支援にいた一人の男が叫び声を上げ、半狂乱で遺跡の入り口に向けて猛ダッシュする。

 入り口の門跡に辿り着いたその男は、後ろを振り返りもせずそこを通り過ぎる、が……。

 

 門跡から先に出たはずなのに、何故かまた遺跡に向かって走っていた男。

 「え、え!?」と、困惑の言葉を言いながら、一心不乱に走るが、門跡から出る、遺跡に向かってしまうを繰り返し、「うへっ、うはっ、あきゃきゃきゃっ」と、変な笑い声を漏らしながら、半狂乱状態で走り回る。

 

 ロロロオの結界内の境界線は空間が隔離され、入り口と出口の空間座標が無限ループに設定されていて、元いた場所に戻って来てしまうのだ。

 

「あ、そうそう、言い忘れていましたけど。この周辺は結界で空間ごと隔離してあるので、私達を殺さない限り、出る事は(かな)いませんから。()しからず」

「私、達だと? も、もしや……まだ、仲間がいるの、か?」

 

 ナナミコが私達と言った時、ヤザムの額に嫌な汗が流れ落ち、ナナミコとリアナ以外にまだ仲間が潜んでいるのかと、絶望にも似た感情で心の内が満たされていく。

 

 それでもエルフの奴隷達に視線を向け、生きた盾にしようと考えるも――

 

「ロロロオ、お願い出来る?」

 

 ナナミコがロロロオの名を呼ぶと、エルフの奴隷の監視をしていた若い男の後ろに、音も無くロロロオがその姿を現した。

 

 長い白髪を右手で一本引き抜くと、それを口に(くわ)えて横にゆっくりと引き抜く。

 すると、ロロロオの魔気を込められた髪の毛が、硬質化し、極細の針と化す。

 

 若い男がロロロオの気配に気付くが、既に、手遅れであった。

 

「残念だわ、可愛い顔をしているのに。ごめんなさいね、これもお仕事なの」

「え? は? あ、あ、あがっ、がっ、がががが……あがっ」

 

 ロロロオは若い男の右耳から硬質化した髪の毛の針を刺し、スーッと横に動かし、髪の毛の針は反対側の左耳から針の先を出し、そのまま途中まで伸びて動きを止める。

 そして、パリッと音が鳴り、瞬間的に電撃で若い男の脳を焼いた。

 

 若い男は身体をガクガクと痙攣させ、口から泡を吹きながらその場に崩れ落ちた。

 それを見たエルフの娘達は口をパクパクとさせ、手を口に当てて首を横に激しく振りながら恐怖の目でロロロオを見る。

 

「あらあら、ちょっと待って頂戴ね」

 

 そう言うと、エルフの娘達一人一人のチョーカーに右人差し指を軽く当てていくと、喉元にある青く丸い小さな宝石が砕け、娘達の首から外れパサリと地面に落ちた。

 

 一瞬何が起きたか分からずにエルフの娘達は、喉元を触りさすり、もう一度しっかりロロロオを見る。

 やがて、目から大粒の涙が溢れ出し……。

 

「「「「「う、うっ、ウワッウワアアアア―ッ」」」」」

 

 娘達はロロロオにしがみ付きながら大声を出し、泣いた。

 

「まあまあ、余程怖かったのね、って、当たり前よね。もう大丈夫よ。でも、もう少しだけ待ってくれるかしら? 私から離れちゃ駄目だからね」

 

 しがみ付き泣くエルフの娘達の背中をポンポンと優しく叩きながら、自分ごとエルフの娘達を防御結界で包んでいき、「ナナミコ。いいわよ」と呼び掛ける。

 

 呆然とそれを眺めていたヤザム達は、白髪ロン毛、優男風の番外魔王眷属の出現に、完全に戦意を失ってしまう。

 

 雇われ兵達の武器を持つ手はカタカタと震え、一歩も動けずにいた。

 全員の脳裏に浮かぶのは、死神が運んでくる〝死〟という、たった一文字だけ。

 

「さて、貴方達。殺しに来たのですから、勿論、殺される覚悟はありますよ、ね?」

 

 ナナミコが淡々と吐き出した言葉、それは言い様のない恐ろしくも冷たく、今まで感じた事のない殺意。

 

(ど、どうする? どうやって、奴らを、殺せばいいのだ……)

 

 万策尽きたヤザムは、それでもまだ、ここから逃げる術を必死に探っていた。

 

「人類が、長き年月を掛けて魔物と戦って来たと、言いましたね、ヤザム」

「え? あ、はい?」

 

 ナナミコに剣を突き立てた時に、自分が吐いた言葉に対して問われ、何と答えていいかわからず、答えに詰まるヤザム。

 

 それでもナナミコは構わずに話を続けていく。

 

「でも、貴方の戦闘経験は、たった二、三十年くらいでしょ? 私達の(あるじ)、ツキハ様とコハク様、それに眷属である私達は、千年以上も人類と戦って来たのですよ? 赤子にも満たない戦闘経験しかない身で、それを語るのは滑稽です。せめて、聖騎士団長ヒナタ・サカグチくらいの強さを手に入れてからそれを語りなさい。年数を語らずとも、強い人間はいるのです。まあ、いいでしょう、本気で相手をして差し上げます。その身に着けた魔国製のレザーアーマーが、私の攻撃に耐えれるか、祈ることですね」

 

 そう宣言したナナミコの身体がゆらりと揺れると、ふわりと巻き上げた砂塵を残し姿を消した。

 

「く、クソォーー! 皆の者、散らばれ、散らばるのだ! 数の上では我等が上。連携してあの化け物を殺すのだ――ッ!!」

 

 ヤザムは声の限り叫び、雇われ兵達の士気を鼓舞していく。

 一度失った戦意はさほど復活はしないも、皆の死にたくはないという思いが、無理やり身体を突き動かす。

 

 しかし――

 

「遅い」

 

 後方支援をする男達の目の前に、片膝を付いたナナミコが突然現れた。

 両手指の間には三本づつの飛び苦無(くない)が握られていて、一度両腕を胸の前で交差させ、勢い良く左右に振り抜く。

 

 ヒイィーンッ。低く何かが振動するような唸りを上げ、飛び苦無があらぬ曲線を描き、後方支援にいる六人の男達の胸を貫いていった。

 

「「「「「ぐわぁっー」」」」」

 

 一斉に上がる断末魔の叫び声。

 

 身に着けたレザーアーマーの刻印式防御魔法陣が浮かび、飛び苦無を防御したが、飛び苦無はあっさりとその防御魔法陣を貫通し、六人の男達の胸に背中まで貫通する拳大の穴を空けていた。

 更に続けて二本投げ、二人の男の額を貫き、後頭部を吹き飛ばしながら後方に飛び苦無が抜けていく。

 

 魔国製のレザーアーマーの防御が意味を成していない、この現実にヤザム達は、ただそれを見ているだけしか出来なかった。

 

 ナナミコは、飛び苦無の刃部分を超高速で振動させ、投げていたのだ。

 

「防御貫通術式付与、〝飛び苦無・ハチドリ〟」

 

 冷酷に、殺意の笑みを口元に(たた)え、技名を告げるナナミコ。

 

 そして――

 

「『猫騙し』の貸与(たいよ)を解除。全能力、解放」

 

 全ての制限を取り払われたナナミコの魔素量(エネルギー)が、急激に増大する。

 

 ドンッという破裂音と共に、ナナミコの足元から荒れ狂う魔素粒子が立ち昇り、ナナミコの髪と小袖の(たもと)(すそ)がパタパタと、暴れ揺れる。

 

「は、は、っ、はぁ……」

 

 『能力(スキル)』、〝解析鑑定〟持ちの一人の男が、ナナミコの本当の力を見て、(ほう)けたような声を漏らし、そのまま、ショック死した。

 

 その力は、この場にいる全員が束になっても、(あらが)える力では、なかったのだ。

 

 そこでヤザム達の何かが切れ、折れた。

 

「うわああぁーー!」

「もういやだあああああああー」

「助けて、助けて、助けて、誰か俺を、助けて……」

「うあっ、うあっ、うあっ、あっああああああああああ―ッ!」

 

 ある者は有らぬ事を叫びナナミコに向かって行き、ある者は頭を抱えてその場に(うずくま)り、またある者はその場で意味も無く剣を振り回す。

 

 ナナミコは大剣を振り回し突撃して来た、後衛にいたAランクの男の攻撃を(かわ)し、左横腹をトンと弾むように右拳で打ち、技名を告げる。

 

「天牙影千流、柔術。殺打穿弾(さつだせんだん)珂堕喰(かたばみ)

 

 バゴンッ! けたたましい破裂音を響かせレザーアーマーが弾け飛び、男の左脇腹がベコリとへこみ、口から大量の血を吐き出しながら前のめりに倒れ、絶命する。

 

 ナナミコは、拳で相手の横腹を弾むように打ち、体内に打振を送り込み、その振動波が体内で渦を巻き、内臓をグチャグチャに掻きまわし、死に至らしめたのだ。

 

 そこからは、一片の慈悲もなく打振を叩き込まれ、一人、また一人と倒れて行った。

 

 頭が破裂して死んだ者、背中の部分だけ破裂したように大穴を空け死んでいる者、身体中の穴という穴から血を流しながらのた打ち回り死んでいった者達。

 

 ヤザム以外の最後の一人に打振を打ち込み殴殺したナナミコが、ポゥーッと金色に輝く猫目でコテリと首を(かし)げ、ヤザムを見る。

 

 大地に転がる二十九人の、見るも無残な(しかばね)

 

「私とした事が、ヤツの力を……見誤った、か……」

 

 ヤザムは天を仰ぎ見て、後悔の念に沈みゆく。

 

 しかし、ただでは死ぬまいと、キッと顔を戻し、両手に持ったロングソードを構えると、ナナミコではなく、リアナに向かって突進していった。

 

「せめて、お前だけは道連れにしてくれようぞ!」

 

 ウオォーーという掛け声と共に剣を振り上げて、リアナまで後数メートルとのところで、いきなりドンッという轟音が鳴り響き、ヤザムの突進が止まった。

 

「な、に? ウガッガガガガ」

 

 ヤザムは、上から見えない力で押さえつけられたかのように低く腰を沈め踏ん張る。

 そして、ヤザムを中心に半径三メートル、深さ五センチ程の浅いクレーターが形成されていた。

 

 重力系攻撃技、〝圧殺〟。

 

「こ、この、あ、じん、めがぁーーーーッ!」

 

 全身の筋力を『能力(スキル)』で強化しながら一歩を踏み出そうとすると、リアナがヤザムに向けた右人差し指をクイッとい上から下に動かす。

 

 ドンッ! またも重々しい音が響き、ヤザムがたまらず片膝をつく。

 ロングソードは既に手から(こぼ)れ落ちて、地面にめり込んでいた。

 

 先程より一回り大きいクレーターが、初めのクレーターの外側に出来ていた。

 

「ねえ、ヤザム殿。私達の同胞でもあるエルフを奴隷にするなど、許される事ではないわよ」

「じ、人類、に、比べ、たら、貴様らエ、ルフなどぁおおおおおー」

「はあっ、めんどくさい。何でこう人間がこの世界で一番だという、狂想に走るのかしらね。魔物も人間も、この世界では等しくただの生物だと言うのに、ね」

 

 そう言いリアナはまた、クイッと人差し指を動かす。

 

「おがぁああああ」

 

 また、ドンッという重低音が鳴り響き、とうとうヤザムは地面に大の字で押さえつけられてしまう。

 三つ目のクレーターが形成される。

 

「い、い、いつ、か、我等、じ、じん、るいが、おまえ、たち、ま、もの、を、ほろぼ、し、て、オガッ!――」 

 

 ドンッ! 四つ目の重低音が響き、ヤザムの身体が完全に地面にめり込んでしまった。

 

「かな、らず、や、じ――」

 

 それでも首が横に向いたまま何かを言おうとすると、リアナが人差し指をクイッと動かした。

 

「さようなら、ヤザム殿」

 

 ドドンッ! 五つ目の重低音が轟くと、グシャッという何かが潰れる音がして、ヤザムの身体が不可視の重力に()し潰された。

 

 〝五重圧殺(ファイブフォールド・プレッシャー)〟。

 リアナが持つ、必殺スキルの一つである。

 

 重なる五重のクレーターが形成され、その中心には潰れ肉塊となった、憐れなヤザムの成れの果てがあった。

 

 

 リアナの隣まで来たナナミコがリアナに声をかけてくる。

 

「リアナ隊長、キレてます?」

「キレてませんよ」

「エルフの娘達が奴隷にされていたから、キレましたよね?」

「キレてませんよ」

「えーっと、私の獲物なのに、躊躇なく潰しましたよね? プチッと」

「キレてませんよ」

「だって――」

「キレてませんよ」

 

 ナナミコがキレてますよねと尋ねるも、終始笑顔で否定するリアナ。

 これ以上突っ込むと、いらぬトバッチリが来そうなので、早々と逃げるナナミコ。 

 

「……はい。そういう事にしておきます」

 

 プイと横を向き、呟くように言う。

 

「それでは、戻りましょうか」

 

 そう言いリアナはエルフの娘達のところまで行き、一人一人に声を掛けて回る。

 

 ナナミコは、刻印魔法付与のブロードソードを集め回り、壊れたレザーアーマーも回収して、幌馬車に積んでいく。

 

 ロロロオは黒炎で三十人の死体を骨も残さず焼き、周辺に散らばっている血痕や血溜まりなどを蒸発させる。後は、風遁で風を巻き起こし、灰を空間収納式皮袋に全て集め入れ、ヤザム達の痕跡を跡形もなく消去した。

 

 エルフの娘達は、元々ジュラの大森林に住む耳長族(エルフ)であり、三年前に森に侵入して来た奴隷商人達に拉致され、とある貴族に売られていたが、その貴族が不慮の事故で亡くなってからは、〝奴隷商会(オルトロス)〟で管理されていたと言う。

 

 その〝奴隷商会(オルトロス)〟も、最近潰されたと言い、そこの幹部が自分達を連れ出して逃げて、逃走資金確保の為にバンズ侯爵に売られたと、説明する。

 

「そう、オルトロスがねぇ。誰が仕組んだやら、フフッ。では、途中ブルムンド王国へ寄るけども、魔国連邦(テンペスト)が私達の目的地だから、一緒に連れていってあげるわ。だから、心配しないでね」

「「「「「はい、ありがとうございます!」」」」」

 

 三年ぶりに念願の故郷に帰れると聞いて、エルフの娘達は肩を抱き合って喜んだ。

 

 雪雲の隙間から差し込んでいた日の光も、いつしか雪雲に遮られ、辺りに薄暗いモノを落としていた。

 

 ロロロオは「この事を、コハク様に報告してくるわ」と言い残し、連れて来た眷属達と一緒に『空間転移』で魔国へと帰還した。

 

 幌馬車にエルフの娘達を乗せ、ベゼット達と合流したリアナとナナミコ。

 自分達が乗る馬車のキャビンにエルフの娘達を招き入れ、暖を取らせ、暖かいスープとパンを出し、ゆっくり休むようにと言い、ナナミコだけ御者席へと戻って行く。

 

「ハイッ」 

 

 ナナミコの掛け声と共に、手綱のパシンという乾いた音が大気に響き渡り馬達が軽く(いなな)き、キャラバンの馬車の列が動き出す。

 

 ぽつぽつと降り出した雪の中、ガラガラと車輪の音を鳴らし走る馬車の一団。

 

 そのリズミカルな音の中、キャビンにいるエルフの娘達はホワリとした微睡(まどろみ)に襲われ、リアナに(うなが)されて、ナナミコのベッドに二人、リアナのベッドに三人が寝て、深い眠りにつく。

 

 今だけは、地獄のような三年の日々を、忘れるかのように……。

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 次のお話は……とうとう、あの小さな御方が魔国へと押し掛けて来ます。

 それでは、次回の更新もよろしくお願いします!


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