忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。133話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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133話 来襲、小さな妖精!

 

 

 薄暗い、とある小さな会議室。

 

 

 そこに怪しげな人影が二つ……。

 

 いや、三つ。

 

 

 二つの人影とは別に、小さな人影がもう一つ。

 それは三十センチほどの大きさで、トンボのような四枚の羽根も見える。

 

 その小さな人影を中心に、丸いテーブルに二つの人影が向かい合って座っていた。

 

 そう、ラミリスと、従者二人。

 ベレッタとトレイニ―である。

 

 小さい人影にどこからかスポットライトのような光が差し、それを明るく照らす。

 

 ドンッ! と勢いよく、目の前に置かれた小さな机を叩くラミリス。

 

 アイタァーッ……。

 

 力一杯に机を叩いた為か、その手を痛そうにさすりながら――

 

「いい? このままじゃ駄目だと思うワケ! ツキハとコハクも引越しをした。よって、アタシ達も引っ越すべきなのよさ!!」

 

 と、腹心達を前に心情をぶちまける。 

 

 すると、そんなラミリスを(いと)おしそうに見詰めながら、トレイニーが口を開いた。

 

「流石はラミリス様。素晴らしいお考えかと!」

「だよね! だよね! そう思うよね、トレイニーちゃんも!」

 

 満足そうに(うなづ)くラミリスは、トレイニーとニッコリ笑い合う。

 

 そんな二人を(いさ)めるのは仮面の下で、やれやれといった顔をしたベレッタであった。

 

「お待ち下さい。その考えが素晴らしいかどうかは置いておくとして、一体何処(どこ)に引っ越すつもりなのでしょう? 出来れば、その理由もお聞かせ願いますか?」

 

 言いながらベレッタは、何故いつも自分がこんな役回り何だろうと、思い悩むところがあった。

 

 トレイニーという同僚は、細やかで気配りも出来、仕事もそつなくこなす女性である。

 精霊達の受けも良く、ラミリスの迷宮を一手に管理している。

 

 それを統合的に見てトレイニーは、ラミリスやベレッタにとって有用な人材である事は疑いようもない。

 

 だがしかし、一つだけ問題があった。

 

 トレイニーは(あるじ)であるラミリスに対して、底抜けに甘い――

 いや、超が頭に二つ付くらい甘いのだ。

 

 ラミリスの言葉は全肯定であり、疑いすら抱かない。

 だからこそ、困った事になる前に、誰かがストップをかけなければならないのである。

 

(やれやれ。こんな役目を負いたくて、ワレはラミリス様に従っている訳ではないのだがな……フッ、フフッ)

 

 と、元悪魔族(デーモン)であるベレッタは自嘲気味に笑いを浮かべる

 

 しかし、ラミリスが大好きなベレッタとしては、事あるごとに振り回されるのは別に苦ではない。

 だが、同じ立場の同僚が諫めもせず甘やかすだけというのは、少し納得がいかないと思うのも事実。

 

 そう、残念な事に、この世の仕組みとして、真面目な者ほど損をするように出来ている。

 ある意味、理不尽そのものである。

 

 これ以上は不味い――そうブレーキを踏んだ者が、トバッチリを受け、尻拭いをする羽目になるのだ。

 

 だがしかし、ベレッタの知る者で、異質な主従関係を築いている者達がいた。

 

 番外魔王二人と、その眷属達である。

 

 ある時、とある場所(・・・・・)へラミリスと一緒に出向いた事があった。

 そこで番外魔王の眷属の一人と話す機会があり、ベレッタはある事を尋ねてみた。

 

 それは、主が暴走したり、間違っていたら諫めるか、と。

 

 返って来た返答は――

 

『諫める? ああ、無理ニャ無理ニャ。アチシらの主は理不尽の権化みたいな御方ニャ! 諫めたらダメニャよ? 遠慮なしに文句を言い(まく)って、さっさと逃げるに限るニャ! ニャハハハハハッ』

『暴走をしたら止める? ああ、ダメニャダメニャ。うちの暴走王ツキハ様は、一緒に暴走して遊んだほうが、(こうむ)る被害が少なくて済むのニャ。ニャッハッハッハッ』

 

 この返答にベレッタが、え? 文句を言う? 一緒に暴走する? 何それ? 状態になったのは言うまでもなかった。

 

 元悪魔族であるベレッタには到底理解が出来ない事であり、配下が主に対して文句をぶつけるなど言語道断な話なのだから。

 

 だけども、ここ最近では、大変ではあるがこれもいいのではないかと、思うようになっていたのだ。

 

 それ故に、こういったジレンマに(おちい)る事にもなったのだが……。

 

 だから今では、番外魔王の二人は自分達も自由にやるから、眷属達にも、お前らも一緒に自由を楽しめ! ではないかと、解釈していた。

 

 そう考えると、今の自分の置かれた立場も、それに近いのではと考えるようになっていたのである。

 

 黒の眷属であるベレッタ。

 

 あの風変わりなディアブロの眷属なのだから、そういう変化を起こしても、何ら不思議ではないかも知れない。

 

 そんな訳で今日もベレッタは、いつものように損な役目を引き受けるのであった……。

 

「よくぞ聞いてくれたわ! ベレッタちゃん、ここって退屈じゃん? 遊ぶものもないし、楽しみといったらゴーレム作る事くらいじゃん。人も滅多に来ないしね? でもでも、あそこには色々あったワケ。だからね、アタシ達もあそこにお邪魔しょう、って話なのよさ! ってかさ、ツキハとコハクだけあそこに住み着いてるのは卑怯よね? 理不尽よね? だってだって、羨ましいじゃん!!」

 

 最後には、本音が駄々洩れのラミリス。

 

(やはり、本音はそこですか……)

 

 仮面の下で、やや疲れたように溜息をつくベレッタ。

 

 トレイニーは、「そうですとも、ラミリス様。ツキハ様とコハク様は卑怯です!」と、ラミリスに力強く賛同していた。

 

 もしここにツキハがいたら、『いやアンタ、事情知っててそれ言う?』と、盛大に突っ込まれる事は間違いないだろう。

 

 そんな二人を見ながらベレッタは、このまま引越しをしても、追い返されるのは間違いないと考えていた。

 

 番外魔王の二人は、ツキハ様がヴェルドラ様との決闘に負けて、勝者ヴェルドラ様の言葉に従っただけなのにと、今更ながら頭を抱える。

 

 とりあえず、仕方なしにベレッタは意見を述べる

 

「ですがラミリス様、それはリムル様に断られていましたよね? ()ず最初は、ツキハ様達の所に行ってお願いをしてみてはどうですか?」

 

 そう、あの時に一度、やんわりと断られていたのだ。

 だからこそ、何か問題があれば、不興(ふきょう)を買う恐れがあった。

 

 ラミリスは自覚していないようだが、ベレッタにしてみればそれが一番大問題なのだ。

 

「ベレッタ、難しく考え過ぎですわよ。リム様はお優しい御方。こんなに愛らしいラミリス様の願いを、無下に断ったりはなさいません。ツキハ様も勝手気ままな自由人なれど、お優し、ちょっぴり甘い御方です」

 

 楽天的な言葉をにこやかに言うトレイニー。

 

 ベレッタは、ラミリス様に関係しなかったら有能なのにと、最近あったある事を思い出す。

 

 それは……。

 

 ツキハが野暮(やぼ)用で、ラミリスの迷宮に来ていた時の事である。

 

 ラミリスを盛大に甘やかすトレイニーを見て――

 

『ねえベレッタ。トレイニーってさ、ポンコツ化がもの凄い勢いで進行してない?』

 

 と、ジト目で呟いた一言。

 

 だからこそベレッタは何も考えていない二人に代わって、何か良い案はないものかと考えるのだ。

 

 なんだかんだ言ってベレッタも、リムルの(そば)に引越ししたいと思っているのだから。

 

(だからワレは、このような馬鹿馬鹿しくて呆れ返るほどの状況なのに、楽しいと考えてしまうのだろうな……)

 

 そんなベレッタの、仮面の奥底に隠された素顔は、どこか楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 ブルムンド王国から戻って来たリムル。

 

 『空間支配』による移動なので、一度言った事のある場所ならば、一瞬で移動可能なのである。

 

 ところが、ツキハとコハクが『時空間操作』で使用する『空間転移』はリムルが使う『空間移動』とは、若干違う。

 

 この二人の場合、空間座標が特定出来れば、どこへでも一瞬で移動可能である。

 例えば、遠く離れた場所にいる敵の気配を察知、そして空間座標を割り出せば一瞬でその敵の所へ移動可能なのだ。勿論、一度言った場所は、空間座標を記憶しているので、いつでも転移可能。

 

 簡単に言えば、『万能感知』で索敵範囲を広げ、行きたい場所の空間座標が割り出せれば、行った事のない場所へも転移可能なのである。

 

 

 そんなリムルの下にランガから『思念伝達』が届く。

 

『我が主よ、ゴブキュウと職人達が西門に集合致しました。しかし、少し困った事が――』

 

 そこでランガが口ごもってしまう。 

 

「何かあったのか?」

 

 そう問うリムルにランガは、言いにくそうに言葉を濁すだけだった。

 

 リムルは『万能感知』で、西門の外で誰かが、ゴブキュウと言い争いをしているのを感知していて、その原因となる者の正体にも気付いていた。

 

 リムルは少し不安になりながらも、西門に向かう事にする。

 

 西門に着くとリムルは、少し離れた所に隠れてこっそりと、言い争いを聞く。

 

「だから~、この場所はアタシ達が占拠したって言ってるじゃん!」

 

(おいおい……)

 

 何やら、とんでない事を言い出すラミリス。

 

「いやいや、そうは言われましても、俺達にはそれを認める事は出来ねーって。直ぐにリムル様に聞いてみますんで、勝手な真似をせずに待っていて欲しいんですがね」

「ヤダッ!! だって、アタシ達、前の迷宮を放棄してこっちに来てるんだよ!? アンタ、行き場をなくした可哀想なアタシ達を、まさか追い出そうってワケ? それに、ツキハがいつでも遊びにおいでと言ったもん! 好きな時に来て良いよって、言ったワケ!!」

 

(え? ツキハが来て良いと言った? いくらアイツが超自由人でも、流石にそれはないだろう。言っても、ルヴナン支店がある敷地のほうじゃないか? うん、多分そうだろうな)

 

 何言っても(らち)が明かない事に、ついツキハの名前を出したラミリス。

 そしてリムルは、ラミリスがツキハを()しに使おうと画策しているのを看破する。

 

 ここで何故、コハクの名前だけ出さなかった理由は、ツキハと違って下手に巻き込むと、それはもう、大変事になるからである。

 

 なので、巻き込むリスクが幾分かましなツキハを、咄嗟(とっさ)に選んだのである。

 

「ですから、そう言われましても……。ともかく、この地は魔王となられたリムル様が、正式に支配を認められた領地でして。()ずはリムル様に許可を頂いてからでないと。それにツキハ様が遊びに来て良いと言われたのは、ルヴナン支店がある敷地ではないですかい?――」

「チッ、そこに気付くなんて、やるわねアンタ。それに、泣き落としも通じないようね。こうなったら武力行使も辞さないわ。アンタね、そんな細かい事言ってると、ウチのベレッタが黙ってないヴァ……!?」

 

 リムルはこのまま見ていても仕方ないので、気配を消して出ようとした時―― 

 

「あら、何やってんの、アンタ?」

「げっ! ニャんでラミリス様がいるニャ!?」

 

 ラミリスに声を掛けた人物は、大きな(かご)を背負い、その籠には赤くて丸い実が山盛り入っていて、もう一人の方も同じく大きな籠を背負い、中には山盛りの赤い実が入っていた。

 

 それを見たリムルは、もうしばらく様子を見ようと息を(ひそ)める。

 

「や、やっほー! 元気だったツキハ。あら、サンコちゃんもいたのね」

 

 そう、ジュラの大森林に、ある植物の実を採取に行っていたツキハとサンコが帰って来て、偶然にラミリスと西門で鉢合わせしたのであった。

 

 そんなラミリスを見てサンコは、首を動かしながら周りをキョロキョロと見回し……。

 

 西門を出た先に、小さい小屋と、〝ある者〟達がサンコの目に飛び込んで来た。

 

 そして、状況を把握した途端――トバッチリ回避能力発動! とばかりにツキハに告げる。

 

「つ、ツキハ様。アチシは一足先に戻って、籠に入れた実を洗って陰干ししてくるニャよ。ツキハ様の籠も渡すニャ。アチシが持っていくニャよ」

「ん? ああ、じゃあ頼むよ」

 

 すると、何かを察したのかランガが、サンコに話しかけて来た。

 

「サンコ殿。我も手伝いましょうか?」

「ニャ? いいのかニャ?」

「任されよ!」

「じゃあ、遠慮なく頼むニャ」

 

 ツキハは背負った籠を下ろしてサンコに渡す。

 サンコはその籠を、両手でガシッと頭の上に抱え上げて「ラミリス様、またニャ!」と、言い残し、ランガの背に(またが)ると、二人してルヴナン支店敷地へと戻って行った。

 

 ラミリスが呑気に「またねー」と手を振っていると、ツキハがジト目でラミリスに再度尋ねて来る。

 

「でさ、アンタ。こんな所で何してんの?」

「え? あ、これ? うん、そう! アンタの所に遊びに来たワケ!」

「じゃあ、ルヴナン支店の方に来ればいいじゃん。何でここなの?」

「あ、えと、えとね、そう! アンタ、遊びに来て良いと言ったくせに、ルヴナン支店の敷地全体に結界が張ってあって入れなかったのよさ!」

「えーと……あ、そうだった。ごめんごめん、アンタ達の妖気(オーラ)を登録するのを忘れてたわ。てへっ」

「はあ!? てへっじゃ、ないわよ! アンタの所に移住しようとしたのに、入れなかったら仕方なしにここにしたワケ。どうしてくれるのよさ!」

「え? ……移住? 何で? 住んでた迷宮はどうしたのよ?」

「ほ、放棄して来たのよさ」

「ええ、放棄? まさかアンタ、全機能停止して廃棄したの? 実質、亜空間に放流したのと同じじゃん」

「そう、もう帰れない、ワケ?」

 

 ツキハの言葉に、他人事のようにコテリと首を(かし)げ言うラミリス。

 

「いくらあたしでも、空間座標も割り出せない空間じゃ、もう探しようないぞ?」

「仕方ないじゃん! どうしてもここに来たかったんだから、ゴニョゴニョ」

 

 そして、ツキハから何でそんな事したんだと突っ込まれ、バツの悪そうに口ごもるラミリス。

 

(なるほどなぁ。最初はツキハ達の所に行くつもりが、結界のせいで入れなくてこの西門に来て、ゴブキュウ達と言い争いになった、と。それにしても、放棄? 廃棄? 亜空間に放流? 意味わからんな)

 

 二人の会話を聞いて、そんな事を考えるリムル。 

 

 そこへ。

 

「ラミリス様! 新しい木材を用意致しましたわ!」

 

 陽気な声でトレイニーが木材を抱え、ラミリスの所にやってきた。

 

 そして、ベレッタも木材を抱えて同じくやって来たのである。

 

「やっぱりいたか、アンタらも」

 

 ツキハがやや呆れ顔で言うのと同時に、もう一つの声がする。

 

「何をしているんですか、トレイニーさん……」

 

 気配を消すのを()めてリムルが、西門の陰から出て来て言う。

 

「あら、ら、やほー!? リムルそこにいたの?」 

 

 リムルと目線を会わせないように(そら)らしつつ、挨拶をするラミリス。

 

「さっきからそこにいたじゃん。もしかして盗み聞き? ククッ」

「ちげーよ! ってか、お前わかってたのか?」

「うん。西門に来る前にアンタの気配を察知したからね。その後直ぐに気配を消したろ?」

「あ、うん。相変わらずその辺は、お前とコハクには(かな)わないよなぁ」

「まあ、積み重ねた経験が違うしね。それでも、かなり出来るようになったじゃん。上出来だよ、リムル」

「そうか? ありがとな。でだ――」

 

 気配を表してこっちまで来たリムルにツキハが話しかけて、リムルとツキハは軽い会話を交わし、それが終わるとトレイニーに視線を移すリムルであった。

 

 リムルを見て、明らかに挙動不審になるトレイニー。

 

「あ、えと、これはこれはリムル様、ご機嫌麗しく――」

「どういう事ですかね、トレイニーさん?」

「こ、これはですね、違うのです。ラミリス様は何も悪くはなくて、その、あれです。最初はツキハ様の所へお邪魔しようとしたのですが、結界に阻まれて入れなくてですね、()む無くこちらへとぉ……」

 

(うーむ。いつ見てもキリッとした人だったのに、ラミリスに仕えるようになってから全然駄目じゃないか、この人。ツキハが言ってたように、急速にポンコツ化が進んでるよな、確実に。やはりツキハのところもそうだけど、従者は主に影響を受けてしまうのだろうか……? となると、この状況を説明出来そうな者は――)

 

 と、リムルは自分の目の前に(ひざまず)くベレッタに目を落とす。

 

「説明しろ、ベレッタ」

「あ、やはりワレですか……」

 

 リムルに(うなが)され、ベレッタは諦めたように事の顛末(てんまつ)を話し始めた。 

 

 

 事の発端は、ラミリスからの発言からだったと言う。

 

「え!? ちょ、裏切ったわね。ベレッタぁーーーー!!」

 

 ラミリスが(わめ)きながらベレッタのところに行こうとすると、ツキハがガシッとラミリスを左手で掴み、捕獲した。

 

「ちょ! ツキハ、離せ! なにするだぁーー!!」

 

 とりあえずそんなラミリスを放置して、リムルは話の続きを聞く。

 

 ベレッタ(いわ)く、どうしてもリムル達の街に引越ししたいとラミリスが言ったので、最初はツキハ達の所にしましょうとベレッタが進言して、ルヴナン支店へと出向いたが、敷地内に結界が張られていて入れなかったので、西門前に来てこうなったと説明し、それを全面的に肯定していたのがトレイニーだとも、付け加える。

 

 リムルがチラリとトレイニーの方を見ると、トレイニーは気まずそうに視線を彷徨(さまよ)わせていた。

 

 リムルはベレッタの話の中から、トレイニーがラミリスに激甘だと聞かされる。

 しかし、既にツキハからも聞かされていたので、そこはすんなり納得をした。

 

 そんな二人にベレッタが逆らえるハズもなく、不本意ながら強引に押し切られる形で、今回の強行劇に到ったのだと。

 

「そして実際、ラミリス様の(おっしゃ)る通り、今までの迷宮の入り口は封印してからコチラへやって来たのです」

「そういうワケ! だからさリムルぅ、アタシはここを追い出されると行く当てがなくなるのよぉ! ね、そうよね? ツキハ」

 

 (あわ)れっぽい声でラミリスが、ツキハに掴まれたまま同意を求め言う。

 

 どう考えても自業自得だよなとリムルは思いつつ、ツキハに尋ねてみた。

 

「なあツキハ。本当なのか?」

「うん。ラミリスの迷宮は亜空間内に作ってるから、そこを封印したら、二度とその迷宮には戻れないね。探そうにも空間座標が特定できないから、永久に帰還は無理」

「そっか。そりゃ、大変だわな」

 

 リムルはツキハの返答を聞いて、どこか他人事のように言うも、一応の納得をする。

 

 そんな(かたわ)ら……。

 

「お可哀想なラミリス様――」

 

 などと言って、涙を拭く仕草を見せる。

 

(いや、そこの妖精を甘やかさないで欲しい)

 

 思わず心の内で、トレイニーに突っ込みを入れるリムル。

 

 そして――

 

「だがまあ、事情はわかった。別にゴブキュウが揉めていたんじゃなく、原因はラミリス達だった、と。ゴブキュウ、大変だったな」

「いやいや、俺達はいいんですが、門番さん達の方が迷惑を……」

 

 ゴブキュウの視線の先には、眠りこける人鬼族(ホブゴブリン)の門番達。

 サンコが見た〝とある者〟達とは、この門番であったのだ。

 

「――おい」

「い、いやあ、ちょっとエキサイトしちゃって……」

 

 そう言いながら、掴まれたツキハの手の中に、ごそごそと身を沈め顔を隠すラミリス。

 

「ラミリス様は悪くはないのです! そこの門番がラミリス様に(ひど)い事を言うので、ちょっと眠ってもらっただけですわ」

 

 そこへ、ラミリスを(かば)うようにトレイニーが口を挟んで来る。

 

(はあぁ、本当にこの人は何をやっているのやら……)

 

 流石のリムルも、ジト目で呆れ顔になる。

 

 とりあえずリムルは、この丸太小屋を建てた理由をベレッタに聞く。

 

 ベレッタが言うには、その小屋は新しく迷宮への入口を作る為だと説明する。

 

「なるほどな。それで、ここに小屋を建てようとしたら門番に止められたと。それが邪魔だったから、トレイニーさんに命じて眠らせていたのに、やって来たゴブキュウ達に見つかって、そこにツキハとサンコが森から帰って来たと、いう事かな?」

「えっと……あれね、いや、そうじゃなくて……と、言うか、ない……と、思うような、思わないような感じ……かな?」

「つまり、正解って事だよな。お前なあ?」

「あは、あははは、あはっ……」

 

 打つ手が無くなったラミリスは、笑って誤魔化す。

 

(ほんと、何やったのか、わかってるのかねぇ。はあぁ……)

 

 そんなラミリスを見てリムルは、笑える状況ではない事をどうやって言い聞かせようかと溜息を吐く。

 

 ここは、他の魔王達も認めるリムルの支配領域であり、ラミリスのやっている事は領域侵犯であり、下手をすると戦争になっても仕方のない案件なのだ。

 

 だからツキハは、自分達の所なら何時(いつ)でも遊びに来てもいいよと言ったのも、頷ける。

 そんなリムルの思いを知ってか知らずしてか、ラミリスはまだ諦めてなく、どうにかここに居座れないかと、頭をフル回転させていた。

 

(どうしよ? どうやったら、リムルを説得出来るの……? もう頼れる者は……頼る? ……違う……!? そう、ツキハがいつも使う手があるじゃないのよさ! 巻き込めばいいのよ、目の前にいる、ツキハを!!)

 

 何やら不穏な事を考えていたラミリスの目が、キラーンと輝きを見せた。

 

 そして、ツキハに掴まれたままとんでもない事を、言い放つ!

 

 

「ねえ、ツキハ」

「なに、ラミリス?」

「アンタの所のメンテナンス、そろそろだったわよね?」

「ふあっ!?」

「「ら、ラミリス様!?」」

 

 ラミリスが言った言葉にツキハが一瞬固まり、変な声を出してしまう。

 見事に決まったラミリスの、不意打ちの言葉である。

 

 そして、明らかに動揺する、ベレッタとトレイニー。

 

「この間来て言ってたじゃん、そろそろだって。そうだ! 〝アソコ〟も、ここに移転する?」

 

 そう言うと、ニヤリと笑いツキハを見るラミリス。

 

「メンテナンス? 移転? 言ってることわかんない。大人しくしようね、バカ妖精」

「バカですってーー! ちょ、やめ、ムグッ、ムグググー」

 

 表情は一切崩さず、棒読みに近い言葉で言うツキハ。

 

 だがしかし、尻尾だけは、激しく左右にブンブンと揺り動き、ラミリスの口を右人差し指で(ふさ)ぐ。

 

「ツキハ」

「なに?」

「メンテナンスって何だ? 移転って何?」

「え? 知らない。気にしないでいいよ。ラミリスの戯言(たわごと)だから」

 

 そう言うも、ツキハの尻尾はブンブンと、左右に揺れていた。

 

(うむ。尻尾が激しく振られている。間違いなく何か隠しているな。猫は犬と違って、イライラしたり、怒って機嫌が悪い時、そして、何かやっちまった時には尻尾でパシンパシンと床を叩いたり横に振ったりするからな。多分、それと一緒だわ、アレ。もしかすると、拠点を持たないアイツらの秘密に迫れるかもな。いい機会だ、ここは何んとか聞き出したいな。今後の協力関係を、より強固なものに出来るかも知れないしな)

 

 尻尾は語る。

 

 リムルに、とある事が露呈してしまったツキハ。

 

「なあ、ツキハ。お前らさ、もしかしてだけど、秘密裏に領地を持っていたりするのか?」

「……」

 

 リムルにそう問われても、無言を貫き通すツキハ。

 何時(いつ)しか振られていた尻尾も、動きを止めていた。

 

 ツキハは無言のまま、急いで『思考加速』付きの『思念伝達』をコハクに飛ばす。

 

『コハク、今いい?』

『いきなりどないしはったんや、ツキハ』

『最初に言っとく、ごめん』

『なんやねん……あんさんがそう()う時は、何か思い切りやらかしたんどすな?』

『あたしじゃない。ラミリスが、ね……隠し領地バラしやがったのよ!』

『はあっ!? 誰にやねん!?』

『リムル』

『ほっ……なんや、リムルどすか。それで、どうしてそうなったんや?』

『どうしてと言うか、ラミリスがあたしを巻き込んだ』

『巻き込んだ?』

『えとね、事の発端は――』

 

 そう言ってツキハはコハクに、事の顛末を全て話した。

 

『さよかぁ。そら、あんさんにも少し落ち度がありますえ。そして、うちにもやな。すっかり忘れてたわ、結界を通り抜ける為の妖気(オーラ)登録を。う~ん……仕方ありまへんな。もう、リムルに教える他ありゃしまへんやろ。今からそっちいくさかい、『思念伝達』切るで』

『うん、わかった。待ってる』

 

 コハクはそう言うと『思念伝達』を切り、即ツキハ達の所へ『空間転移』する。

 

 リムルは無言のままのツキハの表情を見て、よっぽど知られたくなかったのかなと、これ以上聞くのは野暮かなと思い始めた時。 

 

「やれやれ、バレてしもうたんか。えらい難儀(なんぎ)な事やでぇ」

 

 パッと魔素粒子を散らしながらコハクが、『空間転移』でツキハ達の所へやって来た。

 

「え? バレた? やっぱりそうなの?」

 

 リムルがやっぱりという声を上げると――

 

 コハクが、自分を中心に幻想領域を展開して、完全にその場を通常空間から遮断した。

 

 

 そして、コハクがいつになく真剣な顔付で、リムルに言う。

 

 

「今から()うことは、極限られた一部の者しか知らへん。ルヴナンの根源に関わる事やねん」

「ルヴナンの?」

「せや。ギィやミリムですらも、実態を把握出来ていまへん。うちらが千年以上も隠し続けている、ルヴナンの秘密なんや」

「それって、ルヴナンの本拠地なのか?――」

「へえ、あんさんの言う通りやで」

 

 コハクはリムルの言葉を肯定すると、はあっと短く一つ息を吐き、ツキハを見る。

 それからゆっくりと、ラミリスに視線を移す。

 

 ツキハはコハクに向かって軽く頷き、いつの間にかツキハの左手から解放されたラミリスは――

 

 ツキハの頭の上で、「ごめんコハク! つい、つい、アタシがやっちまっただぁーーッ!」と、全力で土下座していた。

 

 トレイニーは終始オロオロして、ベレッタは諦めの境地で土下座するラミリスを眺め、頭を抱えていた。

 

 

 ここに、隠されたルヴナンの本拠地の存在が、リムルに知れた。

 

 

 そして……。

 

 

 コハクがその事について、話し出していく。

 

 

 





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