忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。134話です


 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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134話 猫の隠れ家・シャルフューズ

 

 

 ラミリスのやらかしによって、リムルに隠し領地の存在がバレてしまった。

 

 そして、急遽やって来たコハク。

 

 幻想領域でリムル達がいる通常空間から切り離し、今から話す事を誰にも聞かれないようにする。

 その際、ゴブキュウ達と、今だに眠りこけている門番達だけを通常空間へ残す。

 

『ゴブキュウ。わかってるやろ? さっきの事は一切忘れなはれ』

『了解です。俺は、俺達は何も聞いてません』

『さよか。ええ子や』

 

 通常空間へ残してきたゴブキュウにコハクが、『思念伝達』で他言無用と釘を刺して来て、それを聞いたゴブキュウの部下達も、静かに(うなづ)いていた。

 

 『思念伝達』を終えたコハクは、ツキハの上で土下座したまま固まっているラミリスに、冷ややかな笑みで語りかける。

 

「ほな、ラミリス。あんさん、何でバラしたんや?。千年以上も口にしないという約束を守って来たやおまへんか。何で今更、約束を破ったんや? 訳を正直に言いなはれ」

 

 ニッコリと言うコハクの顔は笑っていても、目が完全に笑ってはいなかった。

 

「え、えと、えとね、あの、ここにね、住み着きたいなぁーなんてね? ね? でねでね、みんなで一緒にここに来ようとしたワケ、よ。 でね、追い出されたら行くところがないワケ。だから、ね、つい、つい、出来心でやってしまいましたと、いうワケ?」

 

 ツキハみたく小首を(かし)げ、言い訳を連ねるラミリス。

 そして、テヘッと、自分の頭をコツンとする仕草を取ると――

 

「ぁ゛あ゛?」

 

 地獄の釜の蓋が開き、そこから唸り響くような声をコハクが出す。

 

「ごめんなさいー! オラが悪かっただあーーッ!」

 

 もはやどのこの人だ? というようにひたすら謝り倒すラミリス。

 

(おぅっ。コハクさん、めっちゃ怒ってるじゃねーかぁ……絶対に怒らせたらアカン奴だわ、コレ。ん? ツキハの耳と尻尾が……) 

 

 そう思いながらツキハを見るリムル。

 そのツキハは、猫耳が完全に後ろに()り伏せていて、尻尾の毛はボワリと逆立ち膨らんでいた。

 

 コハクの怒りの矛先が自分に向かわないように、ひたすら直立不動で動かず声も出さずにいたツキハである。

 

 平謝りするラミリスを見詰めているコハクが、はあああっと溜息を一つ吐くと、表情を緩めて口を開く。

 

「まあ、よろしおす。()うたもんは、仕方ありまへん。で、リムル」

「お、おう?」

 

 いきなり自分に話しかけられて、ドキッとするリムル。

 

「お察しの通り、ラミリスに迷宮を一つ作ってもらってな、そこをうちらの本拠地にしてるんどす。ちっこい悪戯好きの妖精やけどな――」

「ちっこい言うな!」

「黙りなはれ」

「はい、失言でありました!」

 

 コハクがラミリスの事をちっこいと言うと、ラミリスがそれに文句を言うや、コハクがドス黒い笑みで返すと、ツキハの頭の上で飛び上がって正座をするラミリス。

 

「こう見えてもラミリスは、迷宮を作るに事に関しては凄まじいほどの力を発揮するんどすえ」

「ほうぅ。凄まじいほどのねぇ。一体、どのくらいのものなんだ?」

「簡単に言うとな、万単位の人や魔物が住める広さの迷宮を創造出来るんやで。それも、反則級を通り越して、迷宮内では冗談みたいな事が出来る魔王なんや」

「へえぇ。そりゃ凄いな」

「でしょでしょ! アタシは――」

「黙りや」

「はい! 黙るであります!」

 

 コハクがラミリスの持つ力は凄いと言うと、またもや調子に乗ってはしゃぐラミリスに、コハクが一喝する。

 

「せやねぇ……百聞は一見に如かずや。今から、うちらの領地を見に行きまへんかリムル?」

「え!? いいのか?」

「かましまへん。バレてもうたんやから、今更や。ラミリス、そこの小屋を一時的にうちらの領地の入り口に繋げる事は出来るどすか?」

「え? 出来るわよ、任せて! でも、急な接続だから場所は指定出来ないわよ?」

「かましまへん。ほな、幻想領域を解除するさかい、()ぐにやってくれはりますか?」

「がってんでぃ!」

 

 幻想領域が解除された途端、トレイニーとベレッタを伴って丸太小屋に急ぐラミリス。

 ツキハがそんなラミリスを見て、ほんとお調子者なんだからと、苦笑いをする。

 

 そしてコハクが、ラミリスの案件をとりあえず――

 

「なあ、リムル。ラミリスの事は、うちらの領地を見て判断してもええんやないか?」

「ああ、そうだな。俺も色々考えてた事あるし、いい機会だからそうするよ」

 

 と、そう言い。リムルもコハクの言葉に賛同した。

 

 そうしてるうちにラミリスが、入り口の設定を終え、コハクの所に飛んでくる。

 

「終わったわよコハク。いつでも行けるのよさ!」

「おおきに、ラミリス。ほな、行きましょかぁ」

 

 小屋の入り口がコハクとツキハの隠し領地に繋がり、ラミリスが先にその入り口を(くぐ)り、コハク達がそれに続く。

 

 リムルが小屋の入り口を潜った瞬間、景色が一変した

 

「え?……どこだここ、は……?」

 

 リムルの目に映し出された光景は――

 

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 なだらかな平原に奥に見えるは小高い丘。

 

 晴天の空には、分厚い雲が広がりつつあった。

 

 そして、コハクがリムルに向き直り、微笑み言う。

 

「おこしやす、うちらの隠し領地シャルフューズへ。歓迎するで、リムル」

「シャルフューズ?」

「せやで。ウフフ」

 

 領地名がコハクから告げられ、思わずリムルが呟くと。

 

《告。主様(マスター)の元いた世界の言葉で、シャは猫を意味し、ルフューズは隠れ家を意味します》

 

 智慧の王(ラファエル)から、シャルフューズという言葉の意味が告げられる。

 

(シャは猫、隠れ家がルフューズ……。なるほど、フランス語か。〝猫の隠れ家〟ねえ、ククッ、正に言葉通りだな)

 

「ねえコハク。ここって演習場よね?」

「せやね。ちょうどルヴナン本拠地がある裏手の演習場や」

 

 ラミリスが今いる場所をコハクに尋ねて来る。

 

 コハクはそれに答えると、あの丘を越えた所にルヴナン本拠地があると言い、そこに向かって歩き出す。

 リムルもコハクの後に続き、ツキハとラミリス達も歩を進めていく。

 

 暫く歩くと小高い丘に着き、その下にはかなり大きな村があり、あちこちに広い広場になった訓練場が設けられていた。

 

 そして、その村の中に一際大きい三階建ての屋敷がリムルの目に入る。

 

「あの屋敷って――」

「そう、あれがルヴナンの本拠地であり、あの屋敷が本店だよ」

「この本拠地はどれくらいの人口なんだ?」

「今は、うーん……五千人くらいかな、人と魔物を合わせて」

「ほう。それは全部傭兵なのか?」

「そだよ。この本拠地には傭兵と、ルヴナンの仕事に準ずる者しかいないよ。とはいっても、大半の者は傭兵の依頼で出払っているけどね」

「なるほど……」

「ククッ。意外に少なくてビックリした?」

「あ、いや、そうじゃないよ。この世界での数は、イコール、絶対的な力にはならないからな」

「じゃあさ、一人で二万の軍勢を滅ぼしたリムルは、これを見て、何を思った?」

「そうだな……」

 

 ツキハがリムルの問いに答えながら、リムルを下から覗き込むように問い返す。

 

 そう問われたリムルは、ルヴナン本拠地を見渡し、ほんの少しだけ思案に(ふけ)る。

 

 そして、おもむろに口を開く。

 

「お前達がその数を良しとしてるならば、俺としては、ハッキリ言って脅威に感じるな。恐らく、天牙影千流の技を叩き込まれているはずだし、傭兵と言っても忍びの傭兵だろう? ユニークスキルや、能力(スキル)を持った者が大半だろうな。千人の眷属を合わせれば、大国とも平気で喧嘩が出来る。そういう戦力と見た。一応、ツキハとコハクは、頭数には入れていない」

「へぇー、ちょっと見ただけでよく分析したね。うん、大まかなところは当たりだよ」

「あたしらが鍛えた忍びもいるし、元からの騎士や戦士もいる。そして、法術師(ソーサラー)に魔導士もね。その者達を合わせて、ルヴナンの傭兵なんだよ」

「魔人に人に獣人や亜人、異なる種族の集まりか。俺の目指すモノと同じ事してたのか?」

「いや、それは違うよ。あたしとコハクは、力があれば種族は問わないんだ。その結果がこれ、かな」

「うーん。そっちの方かぁ……」

「ちょっと残念だった? ククッ」

 

 リムルが自分と同じ考えを持つのかと問うも、ツキハはそれを違うと言い、リムルが少し残念そうにしたものだからクスリと笑い、言葉を返した。

 

「いや、うん、そこはさ、お前達と俺の目指すモノは違うと知ってるけども、でもな、少し同じかなと思っただけだよ」

 

 リムルもツキハに笑みを浮かべ返す。

 

 広い訓練場の一つを横切ると、そこから訓練に励む者達の声が響いて来た。

 

 やぁあああ!

 

 せいやぁああ!

 

 たぁあああっ!

 

 かなりの人数の声がリムルの耳に飛び込んで来る。

 

(ん? この掛け声って……子供、か?)

 

 リムルは、そう思って声のする方へと視線を移すと、そこには男の子と女の子、合わせて五十人が、一心不乱に木刀を振っていた。

 

(……六歳から十二、三歳くらいの男の子と女の子かな? それにあの木刀って……。あ! 小太刀の木刀じゃないか。なるほど、小太刀術の訓練なのか。となると、忍びの子供達という事かぁ。人間の子供に、獣人の子供いるな、あの三本角の女の子は魔人かな? ここに住んでる子供達何だろうか?)

 

 子供達の着ている装束は、半丈藍色の小袖にハーフスパッツに似たハーフパンツ。

 (すね)には白地の脚絆を巻き、足も白地の足袋を履き、魔獣の皮で作った足首をホールドする紐が付いた草鞋(わらじ)タイプのモノを履いていた。

 

 これはルヴナンが魔国連邦(テンペスト)に発注して、シュナの監修の元作られた装束なのだ。

 今までは、半パンに木綿のシャツに皮の胸当てを付けた訓練着だったものを、リムルとの契約の際に訓練着を一新したのである。

 

「良し。小太刀術、基本一の型から三の型までを繰り返し、百本。始めな!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 訓練教官の指示の声が飛び、子供達が一斉に返事をすると、腰後ろに差した小太刀の木刀を逆手で抜き放ち、横薙ぎから逆袈裟斬りと、次々と型を変え木刀を振っていく。

 

 訓練教官は、眷属が交代で子供達の訓練に当たっていた。

 今日の教官は、トウコ(十番)である。

 

 訓練場の横を通り抜けていくコハクとツキハに、軽く礼をするトウコ。

 更に、リムルに向かって深く腰を折った礼をする。

 

 やぁあああっ!

 

 子供達の掛け声が周辺に轟き、皆がひゅひゅんと右手の中で木刀を回すと、後ろ越しに木刀を差して、一斉にリムルに向いて(ひざまず)き――

 

「「「「「魔王リムル様。ようこそ、シャルフューズへ!」」」」」

 

 と、歓迎の声を上げた。

 

 それにリムルは、右手を挙げて答える。

 

 そして、リムルが訓練場を通り過ぎると、またトウコの声が響き、子供達の掛け声が村に木霊(こだま)する。

 

 

「へえー。よく訓練されているな。俺達がここに来たのを気付いていたのか?」

「せやで。あの子らは優秀やでぇ。まあ、うちの子らは皆優秀なんやけどな。妖気(オーラ)や気配を察知するのはお手のもんやで、うちの子らは。ウフフ」

「そうなんだ。何か秘訣があるのか、それ?」

「小さい頃から仕込むんや。人の気配、魔物の妖気、自然界に漂う生物の気配、それを遊びを通して教えていくんやで」

「なるほどなぁ。珍しく情報料って言わないんだな。ウククッ」

「何()うてますねん。教え方がわからへんと、教える事は出来まへんのやで? せやね、代金くれはるんなら、特別に教えてもええで? ウフッ」

「ハハハッ。そうだな、考えておくよ」

「へぇ。そん時はお代金弾んでおくれやす。フフッ」

 

 リムルとコハクはにこやかに談笑しつつ、本店屋敷前を通り過ぎていく。

 

 そこでリムルが本店には寄らないのかと尋ねると、コハクが「今は必要最低限しか人がおらへんさかい、このまま町まで案内するで」と、言う。

 

 ここ、ルヴナン本拠地から暫く歩いた先に町があるとコハクが言い、ツキハが「さっさと『空間転移』で行く?」とリムルに聞くも、リムルは「いや、ここの景色が見たいから歩きでいいよ」と、返す

 

 ルヴナン本拠地から離れると、リムルの視界に広大な畑が見えて来た。

 

 先ず、左に見えるのは、あまり背の高くない木の列の畑だった。

 リムルがコハクにそれを尋ねると、「オリーブの木や」と、返された。

 

(どれどれ、『解析鑑定』で見て見るか……なんと! このオリーブを使ったオイルって、シュナが欲しがっていたオイルじゃん)

 

 それに驚いたリムルが、もしかして出荷もしてるのかと問うと、ガットエランテで各国に卸していると言われた。

 

「へえー。このオリーブオイルってさ、ある一種類だけシュナが中々手に入らないと、ぼやいていたんだよなぁ。まさかお前達の所で栽培していたなんてな。ほんと、驚きだよ」

「フフッ。うちの所のオリーブオイルは、他所(よそ)さんとは品質が違うんやで。この迷宮の領地は、肥沃な土地の中にあるんどすえ。右を見て見なはれ」

「右?」

 

 リムルが右方向に視線を移すと、一定間隔で長さ二百五十センチほどの支柱が列をなし、その支柱に(つる)が巻き付き、緑色したブドウの(ふさ)のようで小さく種のような実がたわわに実っていた。

 

 その実を積み、籠に入れていく人や魔物達。

 

 そう、この畑は胡椒(こしょう)畑であり、他にも黒胡椒から、クミン、コリアンダー、カルダモン、シナモン、レッドペッパー、ターメリックなどのスパイス系が栽培されていた。

 

 リムルのいた世界の香辛料が、この世界にも存在していたのだ。

 

 存在とは言っても、それは酷似した実などであった。

 胡椒などの植物はこの世界にもあり、約二千年前に『転移者』の異世界人がこの胡椒に良く似た植物を発見して、当時は塩だけが唯一の味付け調味料だったのが、胡椒の実の発見により、胡椒が栽培されるようになって、調味料が塩と胡椒になった経緯がある。

 

 ただし、胡椒だけは生産量がそんなには多くなく、庶民にとっては割高なものであり、気軽に買えるものではなかったのも事実。

 

 そんな胡椒も近年は各地で生産量が増えたのか、ようやく庶民の手にも届くようになり、飯屋や屋台の肉料理にも使われ始めていた。

 

 この世界での胡椒(コショウ)は、土地を選ぶ栽培の難しい植物で、適度に魔素を含んだ肥沃(ひよく)な土地でしか育たなかったのだ。

  

 それからオリーブオイルは、約六千年前からこの世界で食用油として栽培されていた。

 元々この世界にあったオリーブの木に酷似した木であり、異世界人がこれを食用油として使い始めたのか? この世界の人々が見つけたのか? それは定かではない。 

 

 それで、塩、コショウ、オリーブオイル、この三つが長らくこの世界での代表的な調味料だったのだが、リムルが転生して来て以来、ワサビ、醬油、味噌など、異世界の調味料が再現開発されていったのは、記憶に新しいところ。

 

 そして、過去にマヨネーズなども再現されたが、このマヨネーズが今までこの世界では普及していなかったのは、何故か?

 

 それは、ケガモ(鶏鴨)の卵の毒抜きが面倒だからといった理由であった。

 代替えする卵も確保が難しく、それが普及しなかった真相である。

 

 だがしかし、シュナが能力(スキル)によって簡単に毒抜きをする方法を発見して以来、今現在ではマヨネーズもブルムンド王国などから、徐々に広まりつつあったのだ。

 

 能力(スキル)持ちは人や魔物問わず存在する。

 しかし、ここまで創作に特化した能力(スキル)を持つ者など今ままでいなかった。

 如何にリムル系譜の配下達が、イレギュラー的な力を持つか伺えるところである。

 

 そして、クミン、コリアンダー、カルダモン、シナモン、レッドペッパー、ターメリックなどの実は、ジュラの大森林の奥地のみ生息していた植物や木であったのだ。

 

 それを十年前に、ルヴナン在住の『転移者』が、あるモノを食べたい一心から様々な地域を調査して見つけ出したのが、このスパイスの実や木だった。

 

 リムルが『解析鑑定』で畑の作物を見て、感嘆の声を上げる。

 

「おい、これ……。各種スパイス系の作物じゃないか!? 何でここで栽培してるんだよ!」

 

 リムルが唯一再現したくて出来なかったモノ――

 

 それは、カレーである。

 

 思わず叫んだリムルに、コハクが答える。

 

「フフッ。あんさんの思った事は――カレーの事やおまへんか?」

「そう、それ! この世界では、カレーを作るスパイス系の実が見つからなかったんだよ。代用出来る実もなかったしな。ってか、どこで見つけたんだよ、その植物は!?」

「どこって、ジュラの大森林の奥地やねんけど――」

「え!? ジュラの大森林の奥地だ、と?」

「そうやで」

「じゃあ、今もその奥地に行けば、その実は手に入るんだな?」

「あ、それは無理やで」

「はい? 何で?」

「リムル。そこの群生地なんだけど、十年前にこの迷宮に転移させたのよ」

「はああ? お前、区画ごと転移とか出来るの?」

「出来るわよ。でもね、無差別にそれをやったら、地上の土地が大変な事になるからやらないけど?」

 

 コハクが答える中、ラミリスが割り込んで来て、その後の説明を続けた。

 

「でもさ、この広大な土地をどうやって創ったんだ?」 

「広大と言っても、リムルの使う長さの単位で言えば、半径七キロメートルの小さい領地だよ。まあでも、この迷宮領地の維持には、コハクとツキハの魔素量(エネルギー)を供給してもらってるんだけどね。流石のアタシも、離れた所の迷宮の維持は無理なワケ」

「なるほどねえ。それにしても七キロかぁ……結構広いな。これ、天候とかどうしてるんだ?」

「外とリンクさせてあるから雨も降るし、季節もあるわよ。昼と夜もあるしね。逆に、暖かい季節だけとかも、自由に出来るよ!」

「ほおぉ~。本当に何でもアリだな。そうだ、生き物とかも移せるのか? 例えば人とか?」

「うーんとね、生きている人は無理かな。迷宮内に移す前に、〝本人の許可〟をもらわないと駄目だね。意志とかない物体とかなら、許可なく何でも移せちゃうよ!」

「それは凄いな、マジで」

「でしょでしょ!」

 

 ラミリスの説明を聞きながらリムルは、ある事を考え始め、一人ブツブツと独り()ちていく。 

 

(――開国祭……季節ごとのイベント……いつも同じだと、飽きられてしまうのは確実だ。

 

 なら、どうする……?

 

 武闘大会……毎日行うのではなく、季節ごとのイベントとして、年四回のシーズン制にした方がいいだろうな。

 

 後は、コハクのギャンブル場が、どれだけ貴族や富豪達を引き入れられるかだ。

 ルーレットに、トランプを使ったポーカーやブラックジャックなどは俺が提供できるし、コハクは丁半賭博を入れると言っていたな。

 丁半かぁ、あれシンプルだけど、結構ハマる貴族いたりしてな。クククッ

 

 となると、オフシーズン中に呼び込む客層は庶民、そして冒険者達……。

 テンペストは流通の要になる予定の街だ。

 商人達は必ず訪れるだろうし、護衛の冒険者達もやって来るだろう。

 

 ならば、そうした冒険者達にこの街を拠点としてもらうのも良いだろうな。

 

 冒険者の仕事は護衛に探索、様々だが、その中に魔物の討伐がある。

 

 俺の国に迷宮を創って、魔物を解き放てば……。

 

 そうだよな、これなら毎日そこそこの人数を呼び寄せられるのではないだろうか?

 

 迷宮と言えば、地下迷宮(ダンジョン)だよな。

 

 そこの攻略を呼びかければ、探索を目的とした冒険者もいつくようになるかも知れない。

 これを目玉にすれば……いやいや、これがあまりにも稼ぎが良いと表の魔物の討伐を受ける冒険者が減る可能性も出て来るな。

 

 うーん……。

 

 そうだ、あくまでも表の仕事の為の資金と装備を整える為の娯楽施設とすれば……。

 初心冒険者の訓練用とか、色々流用は出来るんじゃないかな。

 

 良し、もう少し考えが(まと)まったらラミリスに相談してみるか――)

 

 ここでふと我に返り、ラミリスを見ると。

 

「あ、あのう? アタシ達の処遇は、どうなるのでありましょうか?」

 

 考え込むリムルを見て、どこか不安気な表情でリムルに(うかが)うような言葉使いで言ってきたラミリス。

 

「敬語とか無理しなくていいよ。というか、それ、敬語にも丁寧語にもなってないし。でも、悪いようにはしないからさ、少し待ってくれるか?」

「え? わかった、待つわ!」

 

 リムルの言葉を聞いたラミリスは、一目散にトレイニーとベレッタの所までパタパタと飛んで行き、何か嬉しそうに話し始めた。

 

 そんな感じで町の入り口まで着き、コハク達は町のメイン通りに向けて進んでいった。

 

 道行く人や魔人、獣人に亜人達が立ち止まり、丁寧な挨拶をしていく。

 領民達が(あるじ)の帰還を喜び、魔王リムルと魔王ラミリスの来訪を歓迎する。

 

 通常ならば、一国を治める魔王の来訪なのだから、跪いて歓迎をするのが礼儀なのだが、リムルがお忍びで来てるから略式で良いよと言ったので、コハクが『思念伝達』で全領民に、道すがらキチンと挨拶をしなはれと通達をしたのでこういう形になったのだ。

 

  道を走り遊ぶ子供達も慌てて立ち止まり、ぺこりと頭を下げる。

 

 そんな領地民達にリムルは、笑顔で軽く手を振り答えていく。

 

 そして、露店が並ぶ通りに来た時に、リムルの鼻が懐かしいあるモノの匂いに気付いた。

 

「これって……」

 

 キョロキョロと視線を動かしながら、ある露店に目が止まり、そこに駆け寄るリムル。

 そこで目にしたものは、大きな木の皿に並べ置かれた、油で()げた丸いパンだった。

 

「これ、カレーパンじゃねえかぁーー!」

 

 魂の叫びとも取れるリムルの叫び声。

 

 その露店の主の年配の男性が一瞬驚き身構えるも、ツキハがリムルの後ろで大丈夫と『思念伝達』を送り、落ち着きを取り戻す露店の主。

 

「魔王リムル様ですね。よろしかったら、お一ついかがでしょう?」

「え!? いいの?」

「はい。少々お待ちください」

 

 露店の主がそう言うと、パン粉をまぶし丸い生地の中にカレーが入ったモノを熱した油の鍋に、そっと入れる。

 

 ジュワァアアッと弾けた音を立てながら泡立て、油の中で踊るカレーパン。

 

 ほどなくしてパチッパチッという音に変わり、カレーパンがこんがり濃いきつね色に変わる。

 

 それを確認した店主が、すかさずトングで挟み取る。

 カレーパンを潰さないように挟んだまま軽く振って油を切り、バンブーの皮で包みリムルに渡す。

 

「お待たせしました、魔王リムル様。どうぞ召し上がって下さい」

「お、ありがとう。遠慮なく頂くよ」

 

 店主から受け取ったカレーパンからは、まだ温かい湯気が上がり、つんとスパイスの効いた香りがリムルの鼻を突く。

 

 そして、おもむろにリムルはカレーパンに(かじ)り付いた。

 

 サクッ。

 

(な! 外はカリカリ、中のパンはふわっとするもほど良い厚みのあるこの感じ……ぬあっ! このトロッとした、いやいや、ドロリとした……うーん、その中間みたいな? 絶妙なトロリ具合で噛り付いた部分からはみ出るようではみ出ない、そして! ほど良い辛さのカレーと、小さく潰された具材とのバランス具合……。めちゃうめえぇーー!)

 

 あっという間にカレーパンを食べたリムルは、コハクに向いて口を開いた。 

 

「コハク。何でこのカレーパンがお前の領地で売ってるんだ?」

「これどすか?」

「そう。俺の再現したい料理の一つでもあったんだけどさ、食材が見つからずに諦めてたんだよ。そうしたら、ここでカレーの材料が見つかった訳なんだけど、どうやって見つけたんだ? それにお前ら、どうしてカレーがあるのを教えてくれなかったんだよ……」

 

 少し不満そうにコハクに尋ねるリムルに、コハクはクスリと笑い答える。

 

「まあ、そう不満そうに()ねんでもええやないか。フフフ」

「いや、拗ねてねえし」

「このカレーの材料になる植物とか木はな、うちらじゃなくて、〝教授〟が見つけたんや」

「え? 〝教授〟? 誰なの、その人」

「ルヴナンの事務顧問であり、子供達に読み書きと算術を教えたりもする先生なんどす」

「先生!? おっと、とりあえず先生は置いといて。その〝教授〟について教えてくれないか?」

「ええで。〝教授〟はな、『転移者』やねん。十二年前にな、カナート山脈の(ふもと)辺りでボヘーッと突っ立ってたらしいんや。それをうちの眷属がたまたま見つけたんどす」

「突っ立ってた、と? そりゃまた、凄い偶然というか奇跡だな、それ。ハハッ」

「せやねぇ。ちょうどあそこら辺の村の警備を請け負ってた期間中やったから、ほんま、奇跡やねぇ。フフフッ」

「しかし、お前の所にも『転移者』がいたとはねぇ。ま、保護をするにしても、ここほど安全なところはないかもな」

「保護やないで。協力者やねん、リムル」

「ほう、協力者だと?」

「そうやねん。〝教授〟は、最低限の異世界の知識を教えてくれる。うちらは、〝教授〟の身の安全を保証して、衣食住と、この地での自由を提供する。そんな具合どすな」

「最低限の異世界の知識?」

「せやで。あんさんみたいに、惜しみなく異世界の技術を使ってはいまへんのやで。フフッ」

「え? あ、まあ、その、なんだ。それに関しては、やっちまったと、反省はしているぞ?」

 

 リムルは、コハクに〝教授〟について話を聞く中で、異世界の技術を広めている事に関して、コハクから突っ込まれて、バツの悪そうに苦笑いを浮かべ言う。

 

 それを見たコハクはクスリと笑い、リムルに〝教授〟に会ってみるかと、聞く。

 

「え!? 会わせてくれるのか?」

「へぇ。〝教授〟もな、自分がいた日本からの『転生者』と、話がしてみたいと()うてはったんどすえ」

「なに!? 日本人なのか?」

「せやで。ほな、行きましょかぁ」

 

 コハクがそう言うと、皆がコハクの後について歩き出す。

 

 すれ違う人や魔物達が笑顔でリムルやラミリスに挨拶をしていった。

 

(へぇー。ここの領民達も、楽しそうに暮らしているんだな。作り笑顔ではなく、本当に生活から来るモノなんだろううな。子供達も元気に遊んでるのは、ほんと、微笑ましいよな。でも……)

 

 歩きながらリムルは、ふと、ある疑問に突き当たる。

 

(ルヴナン本拠地で訓練していた子供達は、この町から志願した子供達なのだろう、か?)

 

 そんな事を思いながら歩いていると、〝教授〟のいる建物が見えて来た。

 

 

 そこへ、一台の馬車がもの凄い速さでリムル達に向けて迫って来る。

 

(何だ、あの馬車は?)

 

 リムルがそう思った同時に、ツキハとコハクの近くで馬車が急停止した。

 

 馬車を引いていた二頭の馬が前足を上げてけたたましく(いなな)き、馬車についてる豪華な客室から、貴族が着る定番の服を着た恰幅(かっぷく)の良い一人の男が飛び出て来た。

 

 

 

 

 





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